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出だしのベタなはじまり方におっ、ついにダニー・ボイルもセル・アウトしたかと思ったが、だんだんとトランスな感じになっていく展開はさすがである。しかし、新作『トランス』は難しい映画である。
難しいと言っても難解とかじゃなく、おもしろいような、おもしろくないような、どっちなのだろうと判定するのが難しいという意味である。
『トランス』はダニー・ボイルのデビュー作『シャロウ・グレイブ』と同じく、利己主義者がどんどんと泥沼にハマっていく小洒落たサスペンスなのだが、どうも『シャロウ・グレイブ』のようにシャープでない。『ビーチ』が『トレインスポッティング』のようにシャープじゃなかったように。
催眠療法というネタを持ってきたところが、物語からシンプルさを奪ってしまったと思う。いや、催眠療法があるから物語にトランス感を生んで、ドラッギーな部分が不安感からくる気持ちよさを生むのだが、無理があると思う。
催眠で人間をコントロールできないというのは、僕でも知っている一般常識なので。
でも、世の中変わっているかもしれないですよね。主人公が催眠治療を受ける治療院はアメリカの高級な精神科医の病院みたいで、僕が知っている頃の催眠治療って、中華街の片隅にあるようなうさん臭いところでしたから。
『トランス』を観て、僕もいまから催眠術の資格とって金持ちになろうかと思った。
犯罪者も変わっていている。金持ちそうだった。
ダニー・ボイルの映画はそうやって時代の変化をちゃんと描いていると思う。
日本の変化は全然気づいてないけどね。『トランス』のオチのひとつが日本ではまだ全然だめなことをダニー・ボイルは知らない。日本で観た人はオチを説明されるまでクエスチョン状態だと思う。
そのオチが『クライング・ゲーム』と同じで笑った。やっぱダニー・ボイル、イギリスの先輩監督、ニール・ジョーダンに影響受けているのかと思った。
『クライング・ゲーム』の方は笑いとばすことじゃなく、深刻な問題ですけど。『トランス』は、えっ、そんな細かいことヨーロッパはまだ気にしているの、と思った。
すいません、観てないと人には何の話かわからないですよね。でも、観たらこのネタは絶対大爆笑すると思う。
難しいという意味はこういうことなのだ。恋人と観に行ったら、「いろいろ考えさせられるよね。」とオシャレにしゃべることもできそうな映画なのだが、友だちと見に行ったら、「なんかむちゃくちゃ過ぎない」とバカにして終わるような映画、一人で見に行ったら、友だちにどう説明したらいいのか悩む映画。
ダニー・ボイルらしい映画だけど、もうちょっとシンプルにした方がよくなかったかいと思った。
文:久保憲司