「Lea Lea」と一致するもの

Laurel Halo - ele-king

 もし「近年のエレクトロニック・ミュージックの担い手たちのなかで、OPNやアルカと肩を並べるくらいのタレントは誰か」と問われたなら、僕は迷わずローレル・ヘイローの名を挙げる。『Quarantine』『Chance Of Rain』『In Situ』と、作品ごとにスタイルを変えながらしかしつねに唯一無二のサウンドを響かせてきた彼女が、この初夏にニュー・アルバム『Dust』をリリースする。いま彼女が鳴らそうとしているのはいったいどんなサウンドなのか? 彼女は今年の1月に初音ミクにインスパイアされたプロジェクトの新曲も発表しているが、来るべき新作にはそれと関連した要素も含まれているのだろうか? いろいろと疑問は尽きないけれど、クラインラファウンダも参加していると聞いては、期待しないでいるほうが難しい。『Dust』は6月23日に〈ハイパーダブ〉よりリリース。

 ところで、「宅録女子」という言葉、いい加減なんとかならんのだろうか……

宅録女子から唯一無二の気鋭音楽家へ
〈Hyperdub〉に復帰し完成させた待望の新作『Dust』のリリースを発表!
ジュリア・ホルターやイーライ・ケスラーなど注目の才能が多数参加した注目作から
新曲“Jelly”のミュージック・ビデオを公開!

いきなり英『WIRE』誌のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得し、主要メディアが絶賛したデビュー・アルバム『Quarantine』やエクスペリメンタル・テクノ作『Chance of Rain』などのアルバムを通し、高度なスキルと独創性を兼ね備えたポスト・インターネット世代の代表的アーティストとして注目を集めるローレル・ヘイローが、2015年に〈Honest Jon’s〉からリリースされたアルバム『In Situ』を経て、再び〈Hyperdub〉に復帰! 会田誠の『切腹女子高生』をアートワークに使用したことも話題となった『Quarantine』以来となるヴォーカル作『Dust』を完成させた。

今回の発表と同時に、昨年〈Warp〉からデビューを果たしたLafawndahとサウス・ロンドンのシンガー兼プロデューサー、Kleinがヴォーカル参加した新曲“Jelly”を公開した。

Laurel Halo - Jelly (Hyperdub 2017)
https://youtu.be/IrjeMN_U1hw

本作の作曲作業は、実験的な科学技術を使った作品、電子音楽やパフォーミング・アーツの発表/研究/作品制作のほか、ワークショップやトークなどをおこなう施設として設立されたメディア&パフォーミング・アーツ・センター(Experimental Media and Performing Arts Center)、通称EMPACでおこなわれている。そこで様々な機材へアクセスを得たローレル・ヘイローは、制作初期段階をひとりでの作業に費やし、終盤では前述のLafawndahと、ニューヨークを拠点にパーカッショニスト兼画家としても知られるEli Keszlerを招き、セッションを重ね、2年間の制作期間を経て完成させた。

より洗練されたソング・ライティングとカットアップ手法、即興を取り入れた電子音が特徴的な本作には、そのほか、Julia Holterや$hit and $hineのCraig Clouse、Zsのメンバーであるサックス奏者、Sam Hillmerのソロ名義Diamond Terrifierなどが参加し、そのハイセンスな人選にも要注目。

参加アーティスト:
Klein
Lafawndah
Michael Salu
Eli Keszler
Craig Clouse ($hit and $hine)
Julia Holter
Max D
Michael Beharie
Diamond Terrifier

ローレル・ヘイローの最新アルバム『Dust』は、6月23日(金)に世界同時リリース! 国内盤にはボーナストラックが追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。iTunesでアルバムを予約すると、公開された“Jelly”がいちはやくダウンロードできる。

label: HYPERDUB / BEAT RECORDS
artist: LAUREL HALO
title: DUST
release date: 2017/06/23 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-551 定価 ¥2,200(+税)
ボーナストラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入

iTunes: https://apple.co/2pVIFwG

[TRACKLISTING]
01. Sun to Solar
02. Jelly
03. Koinos
04. Arschkriecher
05. Moontalk
06. Nicht Ohne Risiko
07. Who Won?
08. Like an L
09. Syzygy
10. Do U Ever Happen
11. Buh-bye
+ Bonus Tracks for Japan

Jeff Parker - ele-king

 去る4月に最新ソロ作『The New Breed』の日本盤がリリースされたジャズ・ギタリスト、ジェフ・パーカー。彼はトータスのメンバーとして有名ですが、ソロとしても魅力的な活動を継続しています。その彼の来日公演が来週から始まります。スコット・アメンドラ・バンドやトータスのステージも含めると、なんと14公演もプレイする予定です。詳細を以下にまとめましたので、ぜひチェックしてください!



■SCOTT AMENDOLA BAND featuring
 NELS CLINE, JEFF PARKER, JENNY SCHEINMAN & CHRIS LIGHTCAP

会場:COTTON CLUB
日程:2017年5月11日(木)~5月13日(土)
時刻:
●5.11 (thu) & 5.12 (fri)
[1st. show] open 5:00pm / start 6:30pm
[2nd. show] open 8:00pm / start 9:00pm
●5.13 (sat)
[1st. show] open 4:00pm / start 5:00pm
[2nd. show] open 6:30pm / start 8:00pm
出演:Scott Amendola (ds), Nels Cline (g), Jeff Parker (g), Jenny Scheinman (vln), Chris Lightcap (b)

* ウィルコのネルス・クラインとともにスコット・アメンドラ・バンドの公演に出演。

https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/scott-amendola/


■Jeff Parker『The New Breed』発売記念ミニ・ライヴ、トーク&サイン会

会場:タワーレコード 渋谷店 6F
日時:2017年5月14日(日) 16:00 start
出演:Jeff Parker (Jeff Parker & The New Breed, TORTOISE), 柳樂光隆 (Jazz The New Chapter) ※インタヴュアー

* 〈HEADZ〉主催のインストア・イベントに出演。今回の来日公演のなかでは唯一のソロ・ライヴ。

https://towershibuya.jp/2017/05/01/95261


■TORTOISE

会場:Billboard LIVE TOKYO
日程:2017年5月15日(月) & 2017年5月17日(水)
時刻:[1st] 開場 17:30 開演 19:00 / [2nd] 開場 20:45 開演 21:30

会場:Billboard LIVE OSAKA
日程:2017年5月19日(金)
時刻:[1st] 開場 17:30 開演 18:30 / [2nd] 開場 20:30 開演 21:30

* ビルボードライブ東京およびビルボードライブ大阪にてトータスの単独公演が開催。

PC: www.billboard-live.com
Mobile: www.billboard-live.com/m/


■GREENROOM FESTIVAL ‘17

会場:横浜赤レンガ地区野外特設会場
日程:2017年5月21日(日)

* GREENROOM FESTIVAL ‘17の2日目、〈GOOD WAVE〉ステージにトータスとして出演。

https://greenroom.jp

【リリース情報】

アーティスト: Jeff Parker / ジェフ・パーカー
タイトル: The New Breed / ザ・ニュー・ブリード
レーベル: International Anthem Recording Company / HEADZ
品番: IARCJ009 / HEADZ 218
発売日: 2017.4.12
価格: 2,000円+税
日本盤ライナーノーツ: 柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
※日本盤のみのボーナス・トラック Makaya McCraven Remix 収録

[Tracklist]
01. Executive Life
02. Para Ha Tay
03. Here Comes Ezra
04. Visions
05. Jrifted
06. How Fun It Is To Year Whip
07. Get Dressed
08. Cliche
09. Logan Hardware Remix (produced by Makaya McCraven)

https://www.faderbyheadz.com/release/headz218.html


【関連盤ご紹介】

アーティスト: Jamire Williams / ジャマイア・ウィリアムス
タイトル: Effectual / エフェクチュアル
レーベル: Leaving Records / Pヴァイン
品番: PCD-24617
発売日: 2017.4.19
価格: 2,400円+税
解説: 柳楽光隆(Jazz The New Chapter)
※日本盤限定ボーナス・トラック2曲収録

[Tracklist]
01. Who Will Stand?
02. The Fire Next Time
03. Selectric
04. Truth Remains Constant
05. Dos Au Soleil
06. Chase The Ghost
07. Wash Me Over (Pollock's Pulse)
08. In Retrospect
09. Futurism
10. [ Selah ]
11. Children Of The Supernatural
12. Illuminations
13. The Art Of Losing Yourself
14. Collaborate With God
15. Collaborate With God (Drums and Strings Mix)
16. Triumphant's Return

* ジェフ・パーカー『The New Breed』にも参加するドラマー、ジャマイア・ウィリアムスによるデビュー・アルバム。

https://p-vine.jp/music/pcd-24617

Patten - ele-king

 昨年放ったサード・アルバム『Ψ』で新機軸を打ち出したパテンが、ICAロンドンでの公演にあわせて、新たなEPのリリースを発表しました。現在、収録曲の“Amulet”が先行公開されています。はたしてこのEPは『Ψ』のアウトテイク集なのか、それとも次のアルバムへの重要な布石なのか? 公開された“Amulet”は無料でダウンロードすることが可能となっていますので、それを聴きながらあれこれ想像しちゃいましょう。ダウンロードはこちらから。

patten

〈Warp〉所属の新鋭プロデューサー・デュオ、パテンが
4曲収録の最新EP「Requiem」のリリースを発表
新曲“Amulet”を無料DLで配信!

〈Warp〉の実験性と音楽性の高さを継承する新鋭プロデューサー・デュオ、パテンが、新曲4曲を収録した最新EP「Requiem」のリリースを発表! 新曲“Amulet”を公開! 公式サイトでは無料DLも可能。

patten - Amulet
https://youtu.be/zK_1y36jjCg

公式サイトで「Amulet」を無料DL配信中
https://patttten.com/

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: patten
title: Requiem
release date: 2017/05/12 FRI ON SALE

iTunes Store: https://itunes.apple.com/jp/album/id1231337426

Lapalux - ele-king

 いま破竹の勢いで快進撃を続けているフライング・ロータスのレーベル〈Brainfeeder〉から、新たなアナウンスがありました。なんとラパラックスのニュー・アルバムがリリースされるとのことです。ラパラックスといえば、個人的にはいまでもEP「When You're Gone」のあのなんとも言えない猥雑なサウンドが思い出されますが、その後のアルバム『Nostalchic』『Lustmore』を経て彼は、まさに「フライング・ロータス以降」を代表するトラックメイカーにまで成長しました。そんな彼がいまいったいどんなサウンドを響かせるのか。楽しみですね。リリースは6月30日とのことで、この日の星の動きにも注目です。


今年も絶好調の〈Brainfeeder〉からフライロー直系の
人気ビート・メーカー、ラパラックス
待望の最新作『Ruinism』を引っさげ帰還!
新曲“Rotted Arp”とアルバム・プレヴュー・ミックスを公開!

昨年はファンクの神様、ジョージ・クリントンのレーベル参加の噂も大きな話題となり、サンダーキャット『Drunk』のスマッシュヒットで今年も大きな話題を振りまいているフライング・ロータス主宰レーベル〈Brainfeeder〉から、UKエセックス出身でフライング・ロータス直系のビート・メーカーとして、リリースを重ねるごとに人気、実力ともに存在感を際立たせているラパラックスことスチュアート・ハワードが、待望の3rdアルバム『Ruinism』のリリースを発表! 先行トラック“Rotted Arp”とアルバム・プレヴュー・ミックスが公開された。

Lapalux - 'Rotted Arp (feat. Louisahhh)’
https://youtu.be/NBJTywsyiO4

Lapalux - ‘Ruinism' - (Album Preview Mix)
https://youtu.be/fqzRsuiaYuo

覚醒と睡眠の間で意識が停滞することを意味する「ヒプナゴギア」という概念がヒントとなって前作『Lustmore』に続く今作では、その探求をさらに進め、生と死の狭間という、より陰鬱な中間地帯へと踏み込んでいる。有限と無限が入り交じるその場所で、ラパラックスのサウンドはこれまでにないほどの自由を手に入れた。

『Ruinism』のインスピレーションの大部分は、イースト・ロンドン墓地で上演されたパフォーマンス・アート作品「Depart」のためにラパラックスが書いたミュージカル曲から生まれている。

『Ruinism』というのは、混ざり合った音の要素とインスピレーションが互いに影響し合ってこのアルバムができ上がったことを表すために僕が造った言葉なんだ。例えばシンセサイザーとドラム音をレコーディングしたら、サンプリングし直して、ピッチを変えて、ねじって混ぜて、サウンドを『破壊(Ruin)』する。それから残骸を救い出して、形のあるものを作るんだ。- Lapalux

崩壊と再生は、この世界そのものを表している。不確かで、流動的で、つねに摩耗しているのに、それでも人間はそこに残されたものを救いだしている。残骸から可能性を見つけ出し、混沌の中に希望と秩序を探し求めて、どうにか反対側に抜け出そうとする。ラパラックスが荒涼とした原始芸術と美の再開拓によって『Ruinism』で再現してみせたのは、まさにそれなのだ。

ラパラックス待望の3rdアルバム『Ruinism』は6月30日(金)世界同時リリース! iTunesでアルバムを予約すると、公開された“Rotted Arp”がいちはやくダウンロードできる。


label: BRAINFEEDER / BEAT RECORDS
artist: LAPALUX
title: Ruinism

release date: 2017.06.30 FRI ON SALE

iTunes: https://apple.co/2pF9k1v

Bibio - ele-king

 ナイス・タイミングですね。5月27日・28日に開催されるTAICOCLUBへの出演が決まっているビビオが、急遽新たなEPをリリースします。昨年の『A Mineral Love』はソウルやファンクからの影響を独自に取り入れた素敵なアルバムでしたが、今度はなんとハウスです。なんでも彼は、いまのような音楽スタイルになる以前はハウス・トラックを作っていたんだそうで。きっとビビオの新たな一面が見られるEPに仕上がっていることでしょう。リリースは5月5日。なお、国内流通盤は100枚限定だそうですよ。

B I B I O
TAICOCLUB’17 出演も話題!
来日に先駆け、BIBIOが最新EP『Beyond Serious』を来週緊急リリース!
全世界1000枚、国内流通100枚限定の12”は即完必至!

人気の野外音楽フェスティバル「TAICOCLUB」への出演も発表され、初披露となるLIVEパフォーマンス決定のニュースも話題のBIBIOが、過去最高傑作の呼び声高いアルバム『A Mineral Love』、アルバムに参加したオリヴィエ・セイント・ルイスとのコラボレート作品『The Serious EP』に続く新作EP『Beyond Serious』を来週5月5日(金)にリリースすることが決定! 発表に合わせ、リード曲“Beyond My Eyes”が公開! 本EPは、全世界1000枚、国内流通100枚限定の12”ヴァイナルとデジタル配信でリリースされる。

Bibio - Beyond My Eyes
https://vimeo.com/214653200/9e4d745ed1

本作では、BIBIOことスティーヴン・ウィルキンソンが10代に熱中したという90年代中期から後期のフレンチ・ハウスにインスパイアされた楽曲を4曲収録。キャリアの原点でもあるBIBIOスタイルのハウス・トラックにオリヴィエ・セイント・ルイスの歌声がフィーチャーされている。

僕が最初にサンプラーを買ったのは1998年なんだ。とてもローファイなやつで、機能やサンプリングの可能な時間もかなり限定されていた。そのサンプラーを使って初期に作ったのは、僕が大好きだった90年代半ばから後半にかけてのフレンチ・ハウスにインスパイアされた、荒削りなハウス・トラックだったんだ。実際のところ、BIBIOとしていま知られているような様々なスタイルの音楽を作る以前は、ハウス・ミュージックを作ってたんだよ。

そこから18年が経って、Rolandのドラムマシーン、TR-808を手に入れたんだ。その808で2016年にたくさんのリズム・トラックを作って、リング・モジュレーターを使ったサウンドで実験を繰り返した。それから808以外の楽器を一切使わずに4つのトラックを作ったんだ。それらを携帯に入れて、家で聴き込んだ。そのままでも楽しめたけど、そこから何かへと発展できる確信を持ったんだ。808を買ったことで、ハウス・ミュージックを作りたいって願いが強くなったんだよ。その後、それらのドラム・パターンをベースにさらに発展させることにした。僕のハウス好きだった一面を知ってる親友は、ハウス・トラックだけでEPか何かをリリースすべきだって言ってくれてたし、それはつねに僕がやりたかったことだった。

だからスタジオに戻って、808だけで作った4つのリズム・トラックにシンセサイザーを加えることにした。その後ヴォーカル・サンプルを加えたいって段階になって、どんなアカペラが使えるかを考えてるとき(スタジオの中には使いたいサンプルがないということもあって)、オリヴィエ・セイント・ルイスが「Why So Serious?」用の送ってくれたヴォーカル・トラックやその他の素材があったのを思い出したんだ。リミックスEPを作ることには興味がなくて、オリヴィエのヴォーカルの生素材から、オリジナルのメロディーを使って、まったく新しい楽曲を作ることが今作のコンセプトで、挑戦だった。
- Bibio

Labels: Warp Records
artist: BIBIO
title: Beyond Serious

release date: 2017/05/05 FRI ON SALE

iTunes Store: https://apple.co/2oI8FYm

01. This Ain’t ‘bout The Feelings
02. Beyond My Eyes
03. Turn It All Down
04. Fix This Thang

Run The Jewels - ele-king

エル・Pは「黒さ」という価値観に従属しないところが際立っていたというか、音もサンプリングの仕方が独特でプログレを彷彿とさせるサウンドが生まれたり、トレント・レズナーやマーズ・ヴォルタとも共演したりとロック寄りでもある。 (吉田)

黒いグルーヴじゃなくて、インダストリアルとして表出したのが、エル・Pとカンパニー・フロウの特異性だったんですよね。(二木)


Run The Jewels
Run The Jewels 3

Run The Jewels Inc. / Traffic

Hip Hop

Amazon Tower HMV iTunes

前作がさまざまなメディアで年間ベストに選ばれたヒップホップ・デュオ、ラン・ザ・ジュエルズ。かれらがついに3枚めのアルバムを発表しました。ポリティカルなメッセージを発する一方で、じつはダーティなリリックも満載、そのうえトラックはかなりいびつ。にもかかわらずチャートで1位を獲っちゃうこのふたり組は、いったい何者なんでしょう? いったいRTJの何がそんなにすごいのか? このデュオのことをよく知る吉田雅史と二木信のふたりに、熱く熱く語っていただきました……そう、あまりに熱すぎて長大な対談に仕上がってしまいましたので、前後編に分けてお届けします。まずは前編をご堪能あれ。

二木信(以下、二木):小林くん(編集部)からのメールの中で、「カンパニー・フロウやエル・P、〈ディフィニティヴ・ジャックス〉、ラン・ザ・ジュエルズは欧米の音楽メディアやUSのヘッズには高く評価されているけど、日本ではそこまで評価されていない。その理由とは何か」という問いがありましたよね。でも実は日本のコアなヒップホップ・リスナー、特にヘッズと言われる人たちの間ではカンパニー・フロウとか〈デフ・ジャックス〉、〈ローカス・レコーズ〉って確固たる人気があると思うんですよ。そもそもがインディペンデントでアンダーグラウンドな音楽だから、例えばいまでいえばケンドリック・ラマーとかと比較するとそこまで人気がないように見えるんですけど、日本のアンダーグラウンドのリスナー、ヘッズの間ではカンパニー・フロウ、〈デフ・ジャックス〉、〈ローカス〉の影響はいまだに根強いと思いますね。おそらく小林くんが言いたかったのは、エル・Pのリリシズムや言語表現の文脈が日本の中で理解されて伝わっていないんじゃないのか、ということじゃないですか。そこは僕も非常に興味深い点で、今日は吉田さんにもいろいろ教えてもらいたいなと(笑)。まず、エル・Pのリリシズムは英語がネイティヴの人が聴いたり、読んでも難解な側面があると思います。わかりやすいストーリーテリングではないし、それこそフィリップ・K・ディックとか、トマス・ピンチョン、テリー・ギリアムからの影響を公言するようなラッパーですし、サイエンス・フィクション色が強く、ディストピアめいた世界を描いていたりもする。だからまず、英語がネイティヴではない人間にとってはリリックの難解さは大前提としてありますよね。

吉田雅史(以下、吉田):そうですね。だから先ほど指摘のあったように日本でも受け入れられていたというのは、実はリリック面の特異性が評価されたというより、サウンド面も革新的だったからそこだけでも十分に評価されたということですよね。だけど実際アメリカではサウンド以上に評価されているのは、さっき仰っていたみたいにやっぱりリリックであり、ボキャブラリーであるわけで。カンパニー・フロウの曲で最初に注目を浴びて日本にも入ってきた12インチが「Eight Steps To Perfection」で、そのエル・Pのヴァースは、1979年のSF映画『ブラックホール』に登場する「マクシミリアン」というロボットを冒頭から引用しながら「俺をマクシミリアンと呼んでくれ/狂ったロボットだ/宇宙空間の端っこを彷徨いながら/ブラックホールに飲み込まれるまで/弾丸をばら撒くようにラップする」というラインで始まるんですね。この曲がリリースされた1996年の状況としては、まず数年前の1993年にウータン・クランのファースト・アルバムがリリースされて、ある種サブカル的なものを取り入れたと。

二木:カンフーとかね。

吉田:そうですね。ウータンはそのことによって、新しいボキャブラリーを持った奴らが出てきたというふうに思われたところがあった。エル・Pはその前例を経た上で、サイファイ的なボキャブラリーや世界観を取り入れる形で、ヒップホップにサブカルを持ち込んだということですね。たとえばギャングスタとかストリートといったそれまでの価値観とは全然違う抽象的かつサブカルを引用したスキルフルなラップで、しかもあのサウンドという。

二木:ドロドロ・サウンド。

吉田:そうそう。で、当時のニューヨークで現場を見ていた人間から話を聞くと、本当にカンパニー・フロウ以前と以後で世界が変わったような感じで、ものすごく衝撃的だったと。何を言っているかよく分からない抽象的で難解なライムだけど、やたら攻撃的で、しかもフィリップ・K・ディックの世界を参照するようなSFフレイヴァーも入ったリリックをスピットする白人ラッパーが現れた衝撃ですよね。ブラック・ミュージックの系譜でSF的と言うと、連想されるのはいわゆるアフロ・フューチャリズム的な想像力や、サミュエル・R・ディレイニーのような作家だったりすると思うんです。一方でエル・Pは「黒さ」という価値観に従属しないところが際立っていたというか、音もサンプリングの仕方が独特でプログレを彷彿とさせるサウンドが生まれたり、トレント・レズナーやマーズ・ヴォルタとも共演したりとロック寄りでもある。RTJ(ラン・ザ・ジュエルズ)の音もブラック・ミュージックというよりもダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックの系譜ですよね。日本でもヒップホップと言ったときに、非ブラック・ミュージック的なダンサブルなサウンドにラップが組み合わさるものは珍しいと思うんです。共演もしているダニー・ブラウンの異質さなんかもそういう意味では近いのかもしれないですけど(笑)、だからRTJも、いわゆるヒップホップ・ファンというより、ダンス・ミュージックの系譜としてマニアックな層に聴かれることが多いのかなという気もします。

RTJはポリティカルだから知的と捉えられる向きがあって、もちろんそれは間違いじゃないんですけど、エル・Pの知性に関していえば、言葉にしても音にしても文脈を理解した上で意味をいかに組み替えていくかという発想力にあると思う。(二木)

二木:だから、カンパニー・フロウが『Funcrusher』(1996年)や『Funcrusher Plus』(1997年)をリリースして登場したとき、日本のコアなヒップホップ・リスナーに大きな戸惑いを与えつつ、そのいびつなサウンドがかなり求心力を持ちましたね。というのも、当時はパフ・ダディによるヒップホップのビッグ・ビジネス化や、ティンバランドのいわゆるチキチキ・ビートが席巻しはじめた時代で、そういう流れやサウンドに乗れないヘッズたちが彼らに可能性を感じてのめり込んでいったのはあると思う。ただ、いまあらためて『Funcrusher』や『Funcrusher Plus』を聴き直して印象的だったのは、エル・Pのビートはサンプリング・ヒップホップに忠実だったんだなということでしたね。

吉田:そうですよね、あくまでもブレイクビーツの打ち換えとネタのオーソドックスなスタイルで。時代背景的にもニューヨークではサンプリング・ベースのビートが主流で、まだシンセ・サウンドを足すようなケースはあまり見られなかった時期ですしね。

二木:例えばDJプレミアのフリップへのリスペクトを感じるし、その手法をいかに自分なりに解釈して表現するかという挑戦をしているように思いましたね。それが結果として、黒いグルーヴじゃなくて、インダストリアルとして表出したのが、エル・Pとカンパニー・フロウの特異性だったんですよね。エル・Pはブルックリン生まれですが、彼はセント・アンズ・スクール(Saint Ann's School)という芸術系のプライヴェート・スクールに通っていた経験があるんですよね。バスキアとか、ビースティ・ボーイズのマイク・D とかも通っていた学校らしいんです。元々そういった芸術志向があって、ヒップホップというアートフォームの中で言葉と音でどこまで、何を表現できるかを模索していたように思いますね。

吉田:そうですね。カンパニー・フロウの2枚目の『Little Johnny From The Hospitul: Breaks & Instrumentals Vol.1』はインスト・アルバムじゃないですか。エル・Pは元々少年時代にラップをしたかったからビートメイクを始めたと言っていますが、インスト・アルバムをリリースするくらいにビート・メイカーとしての自意識もかなり強いわけですよね。先ほども言ったようにサンプリング・ビートの時代だった当時、カンパニー・フロウの頃はエンソニックのEPS16+というサンプラーをメインに、サンプリングのアートを追求していた。当時、例えばDJプレミアとか、ATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト)とかがやろうとしていたことって、複数のレコードからネタを持ってきて、それらを重ねてもキーやリズムがうまくあってハーモニーやグルーヴが生まれるという、どちらかと言うと調和に重きが置かれていたわけですよね。この曲のこの部分と、また別の曲のこの部分がこんなにうまく融合するぞ、みたいなことじゃないですか。

二木:まさにトライブの『The Low End Theory』(1991年)ですよね。

吉田:そうそう。ATCQの最初の3枚は、それを体現してますよね。

二木:あの作品のエンジニアであるボブ・パワーは「ヒップホップ版の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』だ」とも言っていますね。

吉田:そうですよね。エル・Pはそれに対してある種逆をやろうとしたというか。いびつさの美学とも言うべき、調和の対極を目指したところがあったと思うんです。昔ミスター・レンやビッグ・ジャスがインタヴューで言っていたのは、デモ段階ではクソみたいなビートらしくて(笑)。聴けたもんじゃないみたいな。それが最終的に仕上げる段階で素晴らしいものに生まれ変わるらしいんですよね。要するにデモの段階での制作プロセスは、ゴミクズを集めて何か造形できないか、みたいなことを彼はやっているイメージですよね。だからサンプリング・ネタも明らかにグルーヴがあって音楽的な旋律を成しているようなものではないという。本人もいわゆるネタの掘り師というわけではないと言っていますが、どこにでもある価値のないレコードのネタを生まれ変わらせる錬金術に長けているというか。“Population Control”とか“The Fire In Which You Burn”のように、旋律のないノイズっぽいネタに、ドラムの打ち方も変則的でヨレたビートというか、クオンタイズせずにグリッドに合ってないんだけど、それを当時積極的にやっていたのはRZAとかエル・Pくらいでしたよね。

二木:たしかに。

吉田:それをどこまでずらしたらイケるかとか、ハットを打たないで変則的にやってみるとか、エル・Pはビートメイクは「実験」だし、1曲完成までに5回も6回もやり直すと言っていますが、カンパニー・フロウの初期の方が、権威のない素材からいびつなビートを造形するという、直接的にアートっぽい作り方をしている気はしますよね。

二木:聴いている側に驚きを与えようというか、そういう意図はかなりあったと思う。エル・Pのインタヴューで「El-P’s 10 Favorite Sample Flips」って記事があって。読まれました?

吉田:はいはい、ありましたね。

二木:これがすごく面白くて、その『エゴトリップランド』の記事を『探究HIP HOP』というブログをやっているGen(ocide)AKtion(@Genaktion)さんが日本語に訳していて。この記事を訳していることが本当に素晴らしいんですけど。この中でエル・PはDJプレミアが手がけたジェル・ザ・ダマジャの“Come Clean”や、ラン・DMCの“Peter Piper”とか、エド・OG・アンド・ダ・ブルドッグスの“I Got To Have It”とか、マーリー・マールがアン・ヴォーグの“Hold On”をサンプリングしたLL・クール・Jの“The Boomin' System”とかを挙げて、サンプリングの真髄について熱く語っていくんです。Gen(ocide)AKtionさんの訳をそのまま引用させてもらうと、エル・Pはサンプリングに関してこんなことを言っているんです。「サンプリングというモノの大きな役割は、人々の予想を裏切る所にあるんじゃないかと思うんだ。知的に物事を変化させるって事さ。使うべきだとは思えないモノを使用し、いざそのサンプルを使った時に皆が他の曲を加えたがる場合は、敢えてそのやり方に背く事でね」。まさに「ゴミクズ」を集めて新たなものを生み出すサンプリングの発想ですよね。“Peter Piper”はボブ・ジェームスの“Take Me to the Mardi Gras”をサンプリングしているんですけど、ここでエル・Pはリック・ルーヴィンが“Peter Piper”を作った偉業を知るためには“Take Me to the Mardi Gras”の一部のブレイク以外がどれだけダサいかを知らなければいけないとも語っているんですよ。RTJはポリティカルだから知的と捉えられる向きがあって、もちろんそれは間違いじゃないんですけど、エル・Pの知性に関していえば、言葉にしても音にしても文脈を理解した上で意味をいかに組み替えていくかという発想力にあると思うんです。吉田さんが磯部(涼)さんと大和田(俊之)さんと作った本(『ラップは何を映しているのか――「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」まで』)の中でエル・Pについて語っていましたけど、彼はフリー・スタイルで出てきたリリックを並べ替えたりしてヴァースを作ったりもするそうですよね。

吉田:そうそう。あれもカット・アップの手法ですよね。

二木:そう、彼はカット・アップの手法にすごく忠実にやっているというのがすごく面白いところで。

吉田:だからそういう意味ではウィリアム・バロウズなんかも好きかもしれない(笑)。

二木:そうですよね。

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キラー・マイクとエル・Pのコンビは、ポリティカル・ラップとコンシャス・ラップみたいな捉え方もできると思うし、具象と抽象とも言えるし、だからこそ対照的なふたりのコンビネーションというのが光っている。 (吉田)

吉田:好きそうだなあ(笑)。で、いま仰ったようにポリティカル対コンシャスということについても話したいんですけど、直接的に政治的なメッセージをラップするポリティカル・ラップに対して、コンシャス・ラップの中には寓話的な語りで現代社会の有り様を考えさせるようなスタイルがあると思っているんですが、エル・Pにも後者の寓話タイプの特性があると思うんですよね。1曲丸ごと物語調という曲はあまりないけれど、マイク・ラッドの“Bladerunners”で「俺は見たんだ/奴隷船がオリオン座の沿岸で火を吹く姿を」とか“Krazy Kings Too”で「錬金術/アートでお前の苦痛を癒せ/そのやり方を学ぶことだ」とか、ヴァースの最後のラインでストーリーをまとめる力も光っていて。彼はいわゆるコンシャス・ラッパーには分類されないけれど、SFマナーのディストピア的な世界観がインストールされているから、それらを描くことで逆にいまの世界の問題に光を当てている。それは近未来の人間社会を映すタイプのコンシャスなSFの書き方そのものでもあると思うんですが。でも彼自身『Fantastic Damage』をリリースしたときに自分はSFのつもりでは書いていない、現実を書いているだけだと言ってもいるんですけどね。9.11以降の世界では、現実が十分に終末論的だと。だからキラー・マイクとエル・Pのコンビは、ポリティカル・ラップとコンシャス・ラップみたいな捉え方もできると思うし、具象と抽象とも言えるし、だからこそ対照的なふたりのコンビネーションというのが光っている。まあ、僕はどうしてもエル・Pの話の方に力が入ってしまうところがありますが……(笑)。

二木:やっぱりエル・Pのほうが好きですか?

吉田:いや、実際持っている資質が違うので簡単に比べられないと思うんですけどね。やはりカンパニー・フロウの衝撃が大きい世代なので。一方のキラー・マイクは最早ブラック・コミュニティのご意見番のような感じになっていますよね。

二木:いまやそうですよね。

吉田:で、バーニー・サンダース支援についても、ラッパーであそこまで堂々と長々と本人とも対談していて、しかもコメントもすごく的を射ている。コミュニティからの信頼感もすごくある。で、なんでそういうふうに信頼される存在になったのかというと、エル・Pもインタヴューで言っているんですけど、ふたりは一見ポリティカルなメッセージを発信したり、シリアスな曲もあるんだけれど、一方で下品なジョークやFワードも連発するという(笑)。要するに二面性があるわけです。

二木:いや、これねえ、ライムは本当にダーティ(笑)! キラー・マイクは床屋でバーニー・サンダースにインタヴューしていましたよね。バーニー・サンダースが大統領候補として民主党から出馬しているときに黒人からの支持があまりないとも言われていて、キラー・マイクは床屋と言えばブラック・ピープルが集う場所だからと、そういう設定もすごく考えて、床屋でバーニー・サンダースにインタヴューするということをやったと思うんです。で、キラー・マイクってある種原則的な左派なんですよ。というのも、彼はあるインタヴューでプロレタリアートという単語を使っていました。いわゆるコンシャス・ラッパーと言われる人でもなかなかプロレタリアートという言葉までは使わないと思うんですよ。そういうのもあって明確な理念や理想があって活動しているアクティヴィストだと思いました。彼の話を聞いていると、自由や平等、社会的な公平性の重要さを真摯に説いたり、例えば家を出て玄関の前に穴が開いていたらちゃんと行政に言おうとか、コミュニティに根差した模範的なアクティヴィスト然としているんですよ。なのに、それとは対照的にリリックのほうはびっくりするくらいダーティで(笑)。もちろんドラッグやマリファナのライムも多い。

吉田:そう(笑)。一方のエル・Pもサイファイ好きでサブカル・ラップみたいなものを代表していて、それでナードだったり文学的だったりするのかというと、そんなことはなくて結局マッチョなんですよね。要するにボースティングするとかヒップホップ的であることは全く捨てずにそれをやっているから、そこが文系みたいな感じでもないじゃないですか。

二木:ないですね。

吉田:で、キラー・マイクも、俺はパブリック・エネミーが好きだけどトゥー・ライヴ・クルーも好きだし、ふだん奥さんとストリップ・バーに行ったりしてるし、そういうダーティな自分とポリティカルな自分と両方あるから、その両方を見せないとある意味信頼も勝ちえられないと思っていると。だから俺は全部見せるんだと言っていて。それでエル・Pはすごくシニカルな人でもあるけれど、「そんな正しいことばかりできるわけじゃないんだから、俺はバカなことや間違ったことも言うし、そういうところを持っているのが人間だろ」とふたりとも別々のインタヴューで言っていて。だから、彼らはポリティカルなメッセージを発信していると見られているけれど、実際にリリックを見ていくと「アレェ?」みたいな(笑)。


ラン・ザ・ジュエルズの場合は、今回のアルバムでダンス・ミュージックに振り切りながら、時代性もありポリティカル/コンシャスなメッセージを今までよりも大幅に投入しているのが面白いと思うんですよね。両方とも減らすんじゃなくて、両方とも増しているという。 (吉田)

二木:今回のアルバムの“Hey Kids”という曲でキラー・マイクが「馬鹿げたライムの野蛮なラップ」と言っていて、これは自分がやっている表現についての説明的なリリックですね。エル・Pも同じ曲で「1/2パウンドのウィードを吸って逃げるのさ」とかライムしているんですが、そうかと思ったら後半のヴァースで「ラン・ザ・ジュエルズがブレグジットの息の根を止めるんだ」というフレーズが飛び出してくる。そういうリリックが混在していますよね。エル・Pが全面的にプロデュースしてキラー・マイクの出世作になった2012年の『R.A.P. Music』に“Big Beast”って曲があるじゃないですか。このPVがだいぶスプラッターですよね(笑)。露悪趣味ともとられかねない。けれども、これはただの露悪趣味ではないと思います。ラン・ザ・ジュエルズがBBCのチャンネル4って番組でインタヴューを受けている動画がYouTubeに上がっているんですが、キラー・マイクは「グラヴィティ(重力)から解放されるために音楽をやっている」というようなことを語るんです。おそらくここで言うグラヴィティってシリアスネスってことだと思うんですけど、これはさっき吉田さんが仰った「ストリップ小屋に行くことも大事なんだ」って話と同じことだと思うんですね。また面白いのが、そのインタヴューでエル・Pがなんだか退屈そうにしているんですよ(笑)。

吉田:ははは(笑)。

二木:その対比がまた良くて(笑)。キラー・マイクが「異なる人種が仲良くして友達になることが、いまのトランプが大統領になった世界に対する対抗策だ」というようなことを真摯に語る一方で、エル・Pのほうはニヒルな笑いを見せたりして、ちょっと達観した主張を語るんです。僕の印象ですけど、エル・Pはどちらかと言えば、皮肉屋でペシミスティックな性格なんじゃないかなと。そういうエル・Pのパーソナリティとディストピアめいたリリシズムは無縁ではないように思います。


吉田:後はユーモアに溢れているというか、さっきの言葉遣いやライミングの仕方もそうだし、たとえばYouTubeに上がっている「NPR Music Tiny Desk Concert」なんかのライヴ映像も、とにかくヒップホップのMCであることを楽しんでいる感じですよね。カンパニー・フロウの時代は、エル・Pもステージ上ではアングラのアイコンとばかりにシリアスに振る舞っていた印象でしたが。それから昨今のポリティカル・ラップの文脈で考えると、ラン・ザ・ジュエルズの、特に今回のアルバムの場合はダンス・ミュージックの上にポリティカルなメッセージというのがポンポンと出てきて、特に後半にかけてシリアスな曲が何曲かあるけど、ビートのグルーヴは最後までキープされてリスナーを引っ張っていきますよね。昔ECDがライヴで反原発の曲なんかをやるときに、クラブに踊りにきたり、現実逃避しにきたりしているお客さんに向かって、そういう現実的で政治的な曲をやることに躊躇もあるってことを言っていたんですよ。ラップに限らず多くのリスナーを相手取る音楽にはそういう側面があって、どうしてもポリティカルなメッセージを発信するときに「僕はそういうのはトゥー・マッチです」というお客さんもいるわけじゃないですか。さらにBLMや大統領選の影響もあって、最近は政治的なメッセージをはっきり持つラップと、そういったものは食傷気味で、ポストテクスト・ラップとも言われるような、サウンドやフレーズ重視のラップに向かう傾向も見えたりすると。つまり意味と無意味、あるいは記号の対立みたいなことにある種なっていますよね。ラップ・ミュージックは、メッセージなんて要らない、ただラップ・ミュージックで踊りたいという欲望に応える。でも、ダンス・ミュージックだからこそ、普通に語られたらトゥー・マッチに思ってしまうメッセージも乗っけられるという側面もあって。ラン・ザ・ジュエルズの場合は、今回のアルバムでダンス・ミュージックに振り切りながら、時代性もありポリティカル/コンシャスなメッセージを今までよりも大幅に投入しているのが面白いと思うんですよね。両方とも減らすんじゃなくて、両方とも増しているという。

※ 後編に続く。

Ikonika - ele-king

 いや、まず名前がステキなんですよ、アイコニカ。響きが最高に心地よい。アイコニカ。シンプルだし、日本語とも妙にマッチしているし、何度も呟きたくなる名前です。アイコニカことサラ・アブデル=ハミドは〈ハイパーダブ〉に所属するプロデューサーで、ダブステップ~それ以降のサウンドを果敢に追求し続けているチャレンジャーです。その名前の由来については『Contact, Love, Want, Have』のレヴューを参照していただくとして、彼女が6月2日に新作をリリースします。ゲストにも興味深い名前が並んでいます。楽しみです。因習打破! 因習打破!

I K O N I K A

UKクラブ・カルチャーの真価を体現し続ける
型破りの天才女性プロデューサー、アイコニカ
待望の最新アルバム『Distractions』のリリースを発表!

コード9率いる〈Hyperdub〉の中核メンバーであり、UKクラブ・カルチャーの真価を体現し続ける才媛、アイコニカが4年ぶり3作目となる最新アルバム『Distractions』のリリースを発表! 先行シングル「Manual Decapitation」を公開!

Ikonika - Manual Decapitation
https://soundcloud.com/hyperdub/manual-decapitation?in=ikonika/sets/distractions-2017

2013年の前作『Aerotropolis』発表以降、ドーン・リチャードからチャーチズまで幾多の傑作リミックスを手掛け、世界中をDJツアーで回りながら制作されたという本作は、UKガラージ~ファンキーやハウスから彼女のヒップホップ~R&Bの骨格や構造美に対するフォーカスへとシフトした作品に仕上がっている。サイボトロンがグライムをカマしたかのようなミニマル・エレクトロが炸裂する先行シングル“Manual Decapitation”、アンドレア・ギャラクシーとの〈Night Slugs〉~〈Fade To Mind〉直系R&B“Noblest”やダブステップにヒップ・ハウスのドラムを配合したスロウジャム“Sacrifice”では爆発的な盛り上がりを見せるグライム新世代を担うMCジャムズを迎えるなどこれまで以上にコラボレーションにも意欲的なトラックが顔を揃えている。〈Night Slugs〉の新鋭スウェインJとの官能的なウェイトレスR&Bに同僚ジェシー・ランザのヴォーカルが悶えるエモーショナルな終曲“Hazefield”で幕を降ろすまで、金属のクランク・サウンドと鎮静ファンクのハイテクでミニマルなブレンドが絶妙すぎる2017年にしか生まれえないUKクラブ・カルチャーの真価を体現する傑作!

label: HYPERDUB
artist: IKONIKA ― アイコニカ
title: Distractions ― ディストラクションズ

release date: 2017.06.02 FRI ON SALE

輸入盤CD: HDBCD035 定価: OPEN
輸入盤2LP+DLコード: HDBLP035 定価: OPEN

[ご予約はこちら]
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002160
iTunes Store: https://apple.co/2oQGj1x

[TRACKLISTING]
01. Girlfriend
02. Noblest ft Andrea Galaxy
03. Manual Decapitation
04. Lear
05. BGM
06. 435
07. Do I Watch It Like A Cricket Match?
08. Sacrifice ft Jammz
09. Love Games
10. Lossy
11. Not Actual Gameplay
12. Not
13. Hazefield ft Sweyn J & Jessy Lanza

高木壮太(CAT BOYS) - ele-king

ジャズファンクの森の奥で

昨年リリースしたセカンドアルバムのカセットバージョンが3/24にリリースされました。
CDより荒く太く仕上げたので同タイトルでも違った響きで聴こえます。
また、使用次第でテープが伸びたりかすれたりするので
日々味と表情が変わる漬け物的に長く楽しんで頂けたら。

今年もレコードストアデイに合わせて7インチがリリースされます。
こちらもよろしくです。

CAT BOYS new7inch
"LOVE SOMEBODY" Release 04/22

5月31日DOMMUNEにCAT BOYSで出演が決まりました。
詳細等まだ未定ですが随時ツイッター等でインフォします。
チェックよろしくです。
「デリケートゾーン」名義でDJもやってます。
オファーお待ちしてます!

more info---
CAT BOYS SOUNDCLOUD https://soundcloud.com/cat-boys
高木壮太Twitter https://twitter.com/TakagiSota?lang=ja
DOMMUNE https://www.dommune.com/

Shobaleader One - ele-king

イーディ・ボードマン (まくし立てる。)それであいつが言うじゃない、あんたがフェイスフル通りでいい人といっしょのとこ見たわよ、あの鉄道の油差しがベッド行き帽なんかかぶっちゃってさ、って。へえ、そう、って言ってやった。よけいなお世話だよ、って。 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』丸谷才一/永川玲二/高松雄一訳

 誰かと一緒に食べるごはんはおいしい。はい。たぶんその俗説は正しいのだろう。でも、なぜあなたはひとりで食べるときよりも誰かと食べるときの方が「おいしい」と感じるのだろうか。それは単純な話で、ひとりで食べているときは料理の味に集中することができるけれど、誰かと一緒に食べているときはその相手へと意識が向かってしまい、料理に集中することができなくなってしまうからだ。あなたが誰かと食事をともにするとき、食材の良し悪しや調味料の匙加減は後景へと退き、塩分や糖分が織り成す絶妙なタペストリーの解像度は著しく低下してしまうのである。それゆえどんなにマズいメシであろうとも、それを誰かと談笑しながら口に運べば、それなりにおいしさを感じることができる。誰かという夾雑物が、あなたの味覚を曖昧にする。だからもしあなたがおいしさを追い求めるのであれば、できるだけ細部には注意を払わないようにして、料理それ自体から遠ざかればいい。

 はい。これはそのまま音楽に関しても言うことができる。たったひとりで遮音室にこもって音源に耳を傾けるよりも、誰かと一緒に「この曲いいねえ」などと雑談しながら享受した方が、音の解像度は下がる。その「誰か」は「何か」でもいい。それはその曲のMVでもいいし、その曲が生み出された背景でもいいし、その曲を作った音楽家の思想でもいいし、あるいはその曲が演奏される会場の熱気でもいい。音以外の要素が多ければ多いほど、あなたは音楽をエンジョイすることができる。あなたは純粋に音のみを聴くことなんてできない。あなたが音に耳を傾けようとするとき、さまざまな異物が邪魔をしにやってくる。アーティストの名前。写真。MV。アートワーク。クレジット。機材。譜面。歌詞の意味。コンセプト。アティテュード。バックグラウンド。ちょっとしたエピソードや制作秘話。歴史的あるいは社会的な文脈。ライヴ会場の構造や設備。これまで蓄えてきたあなた自身の知識やものの見方。音楽は、音以外のさまざまな夾雑物によって成り立っている。そう考えると、音楽とはできるだけ音そのものから遠ざかろうとする運動なのかもしれない。
 はい。そういった夾雑物を提供し、リスナーひとりひとりに名前や物語や文脈やイメージを用意する役割の一端を担っているのが音楽メディアである。さまざまな記事やインタヴューによって、音は何らかの文脈のなかに幽閉され、アーティストには何らかのイメージが付与される。そのイメージはリスナーごとに異なっているため、リスナーの数だけイメージが存在することになる。アイドルなんかはそれらをすべて引き受けようとするわけだけれど、そうすることが本業ではない音楽家にとって、そんなふうに無数に増殖していくイメージの存在が悩みの種となることはよくあることだろう。
 はい。ではアーティストの側に、そのようなイメージの氾濫と戦う術はあるのだろうか? ひとつに、無視するという方法がある。でもそれはよほどタフな精神を持った者でなければ実践するのが難しい手段だろう。あるいは、リスナーを撹乱するという方法もある。エイフェックスなんかはその代表例だ。そして彼と同郷のスクエアプッシャーもまた、撹乱する者のひとりである。彼は名を引き受けることの、文脈を引き受けることの、イメージを引き受けることの葛藤を、素直に音の周囲に撒き散らす。

 はい。スクエアプッシャーがバンドを結成するのは今回が初めてではない。彼はすでに7年前にショバリーダー・ワン(以下、SLO)というプロジェクトを実現している。2010年にリリースされた『d'Demonstrator』は、それまでひとりでエレクトロニック・ミュージックを生産しすでに大きな名声を獲得してきた男が、わざわざ覆面を被ってバンドを結成し、そのバンドという形態が頻繁に採用されるロックというジャンルの手法を導入した、非常にコンセプチュアルなアルバムだった。たしかに、ロックほど物語やイメージが先行しているジャンルもないだろう。スクエアプッシャーはそれを逆手に取ろうとしたのかもしれない。彼は夾雑物を排除しようと考えたのだろうか? 真意はわからない。でもその後SLOというプロジェクトが継続されることはなかったので、おそらく彼は失敗したのだろう。以降、ロボットに曲を演奏させたり独自のソフトウェアを開発したりしていたスクエアプッシャーだが、何を思ったのか、7年というときを経ていま、彼はふたたびイメージとの戦争を開始することにしたようだ。周到なことに今度は、音楽メディアの十八番であるインタヴューまで用意して。

 はい。本作『Elektrac』がリリースされる前に3度、SLOは『ele-king』編集部宛てにインタヴューを送りつけてきている。これがなかなかやっかいな代物で、斜め読みするかぎりではまったくもって何を言っているのかわからない奇想天外な内容なのだけれど、注意深く読めば、場を引っ掻き回すストロボ・ナザード(キーボード)とアルグ・ニューション(ギター)、比較的まじめに質問に答えるスクエアプッシャー(ベース)とカンパニー・レイザー(ドラム)、という対照が浮かび上がるような構成になっている。そして後者のふたりはどうやら、音にまとわりつく夾雑物に不満を抱いているようなのである。
 はい。「俺の意に反し、俺が神秘主義的な芸術音楽家として扱われている」(第1インタヴュー)「俺が神秘的な芸術音楽家として扱われていた」(第3インタヴュー)というスクエアプッシャーの発言や、「俺たちは名前の持つ力を妨害したいんだよ」(第1インタヴュー)「俺たちは名前の持つ影響力を削ぎ落としたいんだよ」(第3インタヴュー)というカンパニー・レイザーの発言は、まさしくアーティストにつきまとうイメージや名の問題に関するものだろう。『エレクトラック』とは何かというインタヴュワーの質問に対し、それは「エレクトリック・トラック」のことだと答え、それを「良心」と呼んでくれと嘆願するカンパニー・レイザー(第1インタヴュー)は、名ではなく音に注目してほしいと言っているかのようだ。彼はまたこうも歎いている。「音楽業界がこれまで築いてきたのは、常軌を逸した物語を求め、それを聞いたら真偽にかかわらず議論を終わらせるっていう土壌だろ」(第2インタヴュー)。この発言からは、ロック・バンドによく見られる友情や仲違いの物語、あるいはそれに付随するゴシップの類を思い浮かべることができる。音楽はイメージや物語によって支配されている。そしてそれらの夾雑物は、リスナーのベッドルームにだけでなくライヴ会場にまで影響を及ぼしている。「ステージ上にいる者と観客がアイコンタクトを取るのは危険だったんだ。ステージ/シーリング・システムの迫真性によって、そこに両者が通じ合える階段が設けられるとしたら、それは危険な前提に繋がる可能性がある。つまり、紛い物や錯覚としての連帯感だ」(第1インタヴュー)とスクエアプッシャーは主張する。たしかに、ライヴの狂熱は思考を停止させ、できるだけあなたを音から遠ざけようとする(ところでライヴって、第三帝国の演説とよく似てはいないだろうか)。だから、連帯感なんてくそくらえ。スクエアプッシャーはそう叫びたいのかもしれない。

 はい。こんなふうに、一見支離滅裂なかれらの発言も、その断片から何らかの主張や思想を抽出することは可能だ。かれらの発言のひとつひとつには、おそらくちゃんと意味がある。とはいえ全体としてはやはり、この3本のインタヴューそれ自体は著しく整合性を欠いていると言わざるをえないだろう。だからあなたは、かれらの発言ひとつひとつの意味よりもむしろ、その全体の混乱状態にこそ注目しなければならない。インタヴュイーたちは取材自体を茶化し、インタヴュワーを煙に巻き、互いに喧嘩を始め、同じような台詞を反復する。挙句の果てにインタヴュワーはゲロを吐く。それは、あたかもインタヴューという形式それ自体を諷刺しているかのようだ。たしかにインタヴューには、リスナーをある方向へと誘導し音の捉え方を固定する機能がある。アーティストの発言を読んだあなたは意識的にせよ無意識的にせよ、その路線に乗っかりながらあるいはそれに反発しながら、作品を享受することになる。インタヴューという形式それ自体が、ひとつのイメージ製造機であり物語製造機なのだ。SLOの面々は、そのことを批判しているのかもしれない。であるならば、インタヴューという体制は完全に駆逐されてしかるべきものなのだろう(ところでインタヴューって、神の言葉を伝達する預言によく似てはいないだろうか)。

 はい。しかしあなたには、また別の見方も許されている。SLOの面々が繰り広げる混沌としたインタヴューは、あなたが知っている他の何かと類似していはいないだろうか。インタヴュイーたちは取材を茶化し、インタヴュワーを煙に巻き、互いに喧嘩を始め、同じような台詞を反復する。最終的にインタヴュワーはシャツを脱いで、ゲロを吐く。これはまるでひとつの劇ではないか。あの奇想天外な3本のインタヴューは、俳優たちの台詞を記した脚本なのではないか。ここであなたは思い出すだろう。この不思議なインタヴューのなかでスクエアプッシャーが、「電車の軌道整備士」について言及していたことを。そしてそのすぐ横にさりげなく、だがきわめて重要な註が付せられていたことを。そこにはジェイムズ・ジョイスの名が、そして『ユリシーズ』の名が書き込まれていたはずだ。
 はい。「電車の軌道整備士」が登場するのは『ユリシーズ』の第15挿話「キルケ」のなかである。この挿話は主人公ブルームをはじめとする登場人物たちの台詞とト書きによって構成された、戯曲の形式で書かれている。この挿話で登場人物たちは頻繁に幻覚に襲われ、どこまでが現実でどこからが幻想なのか区別のつかない奇想天外な出来事が繰り広げられるのだけれど、ここであなたは思い出すだろう。SLOに質問を投げかけるインタヴュワーの名がスティーヴンであったことを。そしてスティーヴンとは、『ユリシーズ』のもうひとりの主人公の名であったことを。スクエアプッシャーが件の謎めいたインタヴューの着想を、この「キルケ」から拝借していることはほぼ間違いない。あの一見支離滅裂な3本のインタヴューは、『ユリシーズ』第15挿話のパロディだったのである。
 はい。ジョイスの『ユリシーズ』は駄洒落やパスティーシュなどを駆使して文体に技巧を凝らすことで、小説の持つ物語性に反旗を翻した文学作品であった。つまりそれは、物語という夾雑物から文そのものを奪還する試みであったと言うことができる。その点に気づいていたからこそスクエアプッシャーは、いざSLOを再始動するにあたり自らの名が登場する『ユリシーズ』を利用することを思いついたのだろう。たしかに、物語の筋書きに基いて小説を評価することは、歌詞の内容やアーティストの発言で曲を判断することと似ている。彼は『ユリシーズ』に範を取り、インタヴューそれ自体を戯曲化することで、音楽における音以外のさまざまな要素、リスナーひとりひとりが抱くイメージや、ひいてはメディアによるその荷担を諷刺しているのである。

 はい。となれば、本作『Elektrac』がライヴ・レコーディングによって構成されていることも、その演目がかつてのスクエアプッシャーの名曲ばかりを並べた「グレイテスト・ヒッツ」の様相を呈していることも、そしてかれらの奏でるサウンドがフュージョンやロックの趣を漂わせていることも、かれらなりの戦略であると考えることができる。おそらくこのアルバムを聴いたときに真っ先に出てくるのが、「バカテクやべえ」という感想だろう。実際、バカテクである。あまりに複雑で実演など不可能にも思われるスクエアプッシャーの楽曲群を、SLOの面々はさらりと、いともたやすく演奏してみせる(特にドラムがやばい)。『Elektrac』に収められた曲たちは、見事にスクエアプッシャーの名曲たちを再現している。そういう驚きはたしかにある。でも、そんなふうにあなたを驚歎させることがこのアルバムの狙いだったのだろうか。なぜスクエアプッシャーはわざわざ自らと並び立つような卓越したプレイヤーを集め、自身の楽曲をカヴァーすることにしたのだろうか。
 はい。あなたは知っている。テクニックの高さが必ずしも楽曲の良さと等号で結ばれるわけではないことを。あなたは知っている。音楽にはテクニックよりも大切なものがあるということを。それゆえあなたは意識的にテクニックを軽視する。そうでなければ、たとえばパンクのアティテュードやニューウェイヴの発想力を擁護できなくなるから。でも他方であなたは知っている。テクニックが高いに越したことはないということも。もしかしたらSLOの面々は一周回って、そのようなテクニック軽視の傾向に抗い、改めて技巧に対して関心を向けさせようとしているのかもしれない。

 はい。けれども『ユリシーズ』のことを思い出したあなたはもう勘づいている。かれらの本当の狙いは、もっと別のところにあるはずだと。なぜならあなたは「バカテクやべえ」と感想を述べるために、トラックに集中せざるをえないから。かれらの超絶技巧を聴き取るためにあなたは、しっかりと音源に耳を傾ける。そうすると、細部が耳のなかへと滑り込んでくる。そうしてあなたはかつてのスクエアプッシャーの録音物を思い浮かべ、レコード棚から旧譜を引っ張り出し、どこがどう異なっているのかを検証し始める。あなたは『Elektrac』を聴き込めば聴き込むほど、次々と小さな違和を発見していく。アレンジが違う。雰囲気が違う。テクスチャーが違う。「ごめんね 去年の人と また比べている」。もしあなたが山口百恵なら、間違いなくそう呟いていただろう。
 はい。もっともわかりやすいのが“Anstromm Feck 4”である。これは2002年のアルバム『Do You Know Squarepusher』に収録されていた曲だが、ありがたいことにその日本盤には、2001年にフジロックフェスティバルで録音されたライヴ音源がボーナス・ディスクとして付属していた。その2枚のディスクに収められた“Anstromm-Feck 4”のスタジオ録音ヴァージョンとライヴ録音ヴァージョンは、特にその後半部において両者の違いが顕著となるが、曲としてはほぼ同じ構成をとっている。しかし『Elektrac』に収録されている“Anstromm Feck 4”は、そのいずれとも大きく異なっているのである。これはもはや別の曲と言ってもいいくらいだ。タイトルからハイフンが欠落しているのは、おそらくその差違を暗示しているのだろう。
 はい。こうしてあなたは気がつく。『Elektrac』に収められた曲たちが、かつてのスクエアプッシャーの名曲たちをまったく再現していないことに。そしてあなたは悟る。かれらが覆面を被ってバカテクを披露するのは、まさにそこで鳴っている音そのものに注意を向けさせるためなのだと。
 はい。SLOが『Elektrac』をライヴ音源で構成したのは、まずはかれらのテクニックに注目してもらうためである。そしてSLOが新曲を用意せず『Elektrac』を既存の楽曲で構成したのは、今回の録音物とかつての録音物とを聴き比べてもらうためである。そして、どんな超絶技巧をもってしても、同じ音を再現することなどけっしてできないということに気づいてもらうためである。『ユリシーズ』がホメロスの『オデュッセイア』を下敷きにし、それとの照応を目指しながら、しかしそれとはまったく異なる作品として出来したように、『Elektrac』もまたかつてのスクエアプッシャーの楽曲群を下敷きにしながら、それとはまったく別の作品であろうと奮闘する。

 はい。このライヴ録音盤グレイテスト・ヒッツ集に込められているのは、夾雑物ではなく音そのものを聴いてほしいというSLOの願いなのだ。だから、「音楽を破壊するんだよ! 音楽を破壊(笑)!」(第1・第3インタヴュー)というストロボ・ナザードの発言は冗談でも世迷言でもなく、どこまでもパフォーマティヴな宣言なのである。アーティストの名前。写真。MV。アートワーク。クレジット。機材。譜面。歌詞の意味。コンセプト。アティテュード。バックグラウンド。ちょっとしたエピソードや制作秘話。歴史的あるいは社会的な文脈。ライヴ会場の構造や設備。これまで蓄えてきたあなた自身の知識やものの見方。それらを粉砕すること。すなわち、まさに音楽を破壊することこそがこのアルバムの希望なのである。

 はい。でもあなたは知っている。かれらの願いが叶えられることはけっしてないということを。あなたは知っている。かれらの試みが頓挫するだろうということを。なぜなら、あなたはどうあがいても夾雑物を排除することなどできないからだ。だって、あなたは、紛れもなく、生きている。生きている限りあなたは、音にのみ集中することなどできない。それは、どれほど策を練り、訓練を重ね、全力で挑み、ひとつずつ夾雑物を排除していったとしても、最終的には、あなた自身が夾雑物として残り続けるからだ。あなたは純粋に音のみを聴くことなんてできない。音楽は、音そのものから遠ざかり続ける。
 はい。スクエアプッシャーはこれからも音楽を作り続けるだろう。彼とその仲間たちはこれからもライヴを続けるだろう。何度失敗してもかれらは、ふたたびSLOを結成して帰ってくるだろう。『Elektrac』は、音楽を破壊することなどけっしてできないとわかっていながら、それでもなお音楽を破壊することを目指さざるをえないひとりのアーティストが、同じ志を持った仲間たちと繰り広げる、努力と絆と敗北の物語なのである。

 今年の頭に発売された『文藝』春季号では、昨年亡くなった翻訳家・柳瀬尚紀の追悼特集が組まれている。そこには、昨年末に刊行された『ユリシーズ1-12』(河出書房新社)には収録されていない、『ユリシーズ』第15挿話冒頭部の翻訳が掲載されている。その遺稿は、大枠だけを眺めるならば、丸谷才一たちの訳とそれほど違っていないように見える。けれどしっかり細部へと目を向ければ、既存の丸谷たちの訳とは大きく異なっていることに気がつくだろう。はい。翻訳は、そのひとつひとつに固有の特異性を持っている。

エディ・ボードマン (とがり口で)そしたらあいつが言ったんだ、貞操街(フェイスフル・プレイス)で色男と歩いてるの見たわよ、下っ端の鉄道勤めがにやけた帽子かぶってただとさ。そうかいって言ってやった。あんたに言われる筋合いはないねってさ。 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』柳瀬尚紀訳

いまモリッシーを聴くということ - ele-king

英紙から“国宝級”とまで呼ばれるロックスター、
その素晴らしい矛盾をいま聴くこと──

人気コラムニストがディスクガイド形式で描く、かつてないザ・スミス/モリッシー論。
ブレグジット後の「いま」だからこそ響く、もうひとつのUKポップ・カルチャーと地べたの社会学。

「これはアンオフィシャルなブレグジットのテーマだ」
「クソ左翼のバカな見解にすぎない」
 このふたつのコメントは、この歌詞がいかに正反対の解釈で読まれることが可能かということを端的に示している。左と右、上と下、グローバリズムとナショナリズム。いろんな軸が交錯し、いったい誰がどっち側の人間なのやら、従来の政治理念の枠では語りづらくなってきた英国のカオスを、モリッシーは12年前にすでに予告していた。 (本文より)


ザ・スミス時代からソロ活動まですべてのアルバムを追いながら、30年以上にもわたるその歩みを振り返る。
UKでもっとも重要なロック・ミュージシャンと言っても過言ではない、モリッシーの痛切なメッセージが“いま”さらにまた私たちの耳に突き刺さる──

人気沸騰中のコラムニスト、ブレイディみかこ待望の書き下ろし新刊!

目次

  なぜいまモリッシーを聴くのか

section 1: The Smiths
  The Smiths(1984)
  Hatful of Hollow(1984)
  Meat Is Murder(1985)
  The Queen Is Dead(1986)
  Strangeways, Here We Come(1987)
section 2: 1988~1997
  Viva Hate(1988)
  Bona Drag(1990)
  Kill Uncle(1991)
  Your Arsenal(1992)
  Vauxhall and I(1994)
  Southpaw Grammar(1995)
  Maladjusted(1997)
section 3: 2004~
  You Are the Quarry(2004)
  Ringleader of the Tormentors(2006)
  Years of Refusal(2009)
  World Peace Is None of Your Business(2014)

  あとがきにかえて
  参考文献

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