Home > Reviews > Album Reviews > Lapalux- Nostalchic
音や声の構成の多様性に耳を奪われる。
国分純平のライナーノーツによれば、ラパラックス(スチュワート・ハワード)はカセット・テープとともに育ってきた。「いつだってカセットの音が好き」な人らしい。このアルバムもカセット・テープの早回し音のイントロではじまり、早回しではないがテープのアウトロで終わる。
カセット・テープといえば、近年はダンス・ミュージックやヒップホップのミックス・テープの文脈で語られることが多い。しかしこのアルバムの音楽は「まずビートありき」ではない。
制作テクノロジーをヒップホップ、ハウス、その他のダンス・ミュージックと共有しており、音楽的にそういう要素も使われていないわけではないが、ビート以上に音や(歌)声が思いがけないタイミングや色彩で入ってくるのがおもしろい。
全体の見取図が先にあるのか、手作業を積み上げてこういう音楽になってくるのか、いずれにせよ凝った編曲は、クラブ/ダンス・カルチャー以前の音楽とのつながりを強く感じさせる。
アルバム・タイトルはノスタルジー+シックの意味。意識して音楽と向き合いはじめたのが世紀の変わり目のころという今年25歳のアーティストのノスタルジーが、いくつもの時代にまたがっているところが、重層的な情報の中で生きざるをえない今の音楽らしさだろう。
女性の歌声や男性のファルセットがフィーチャーされているが、いずれもさまざまな形に加工されている。カセット・ダビングをくりかえして劣化したような、深夜のラジオから遠い国の電波に乗って聞こえてくるような声や音が、人間関係が間接化されていくことへのおそれと同時に安堵をも感じさせる。
せつないアルバムだ。
北中正和