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ジャースキン・フェンドリックスはなんと興味深い人なのだろう。格闘ゲームの『鉄拳』とおにぎりを愛し、怪談をテーマにした曲を作った男。ケンブリッジ大学出身で、そこで出会ったであろうデスクラッシュの ティエナン・バンクスと一緒に何年もふたりでバレンタイン・アルバムを作るような人間。そしてふたりしてフェイマスというカニエ・ウエストの曲から取られた世界一検索しにくい名前のバンドに参加する。フェイマスはブラック・カントリー・ニュー・ロードの1stアルバムのアート・ディレクションを担当したバート・プライスの舞台の劇伴を担当したが、この音楽を作った男こそジャースキン・フェンドリックスである。そして彼はまたバート・プライスが作ったブラック・カントリー・ニュー・ロードの “Track X” のビデオのなかでブラック・ミディとともに名前を出され唄われるのだ。
こうやってつらつらと経歴を書いているだけでも面白いのだけれど、なんと今度は映画のサウンドトラックを担当したのだという。本人のインスタグラムでこの発表を見たときは本当にびっくりした。まさかそこに繋がるのかと。担当する作品はヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』。インタヴューによると、2020年に〈UNTITLED (RECS)〉からリリースされたジャースキンの1stアルバム『Winterreise』をランティモスが気に入り21年の初めにメールで連絡してきたとのこと(ランティモスにとってもこれが初めての映画オリジナルの音楽だ)。とても驚いたし、おじけづいたとジャースキンは言うが、しかし『Winterreise』に収録された曲と映画のトレイラーでメイン・テーマ的に使われていた “I just hope She's Alright” を聞くと彼の音楽を求めた監督の意図がなんとなくわかるような気がしてくる。ジャースキン・フェンドリックスの音楽は美しくまっすぐに線が引かれた土台の上に、奇妙でユーモラスな違う場所からやってきた線を絡めるような作風で、まさにこの映画に通じるものがあるのだ。ピアノに大仰なエレクトロニクスを合わせた『Winterreise』に対してこのアルバムではオーケストラを使ってそれが表現されている。美しい旋律に不穏と恐れ、好奇心を刺激するような刺激と優しさが加えられ、いつだってふたつ以上の感情を誘発させる、ジャースキンの音楽はそこがなんとも魅力的だ。
『哀れなるものたち』は自殺した女性のお腹のなかにいた胎児の脳を死亡した母の体に移植して生き返らせるというグロテスクでいびつな設定を持ったいじらしく哀れにゆがんだ物語であり、異なったルールのなかで生きる主人公ベラの成長や変化を通しこの映画は語られる。周りの登場人物たちがベラのなかに自身の価値観や欲求を投影し心を悩まし、またそれを通し当たり前のように受け入れている社会のシステムを再び考えさせるような物語のなかでジャースキンの音楽は確かな存在感を発揮する。特に映画の冒頭においてそれは顕著で、セリフに頼ることなく演者の動きと音楽が一体となり状況と感情を描くようにしてシーンが次々に切り替えられていく。音楽を撮影の現場でも流したいという監督の意図のもと、ほとんどのシーンの前後で実際にスピーカーから曲を流し撮影に臨んだというエピソードが指し示すように、この映画においての音楽は背景美術とともにその場になくてはならないものだったのだろう。
そして同時にそれは映像のためだけの音楽ではないということも示している。撮影された映像にあわせ後から音楽をつけたものではなく、空間を作るものとしての音楽がある、だからこそこのアルバムだけでも十分に成立するのだ(実際に自分はこのアルバムを繰り返し聞いて、映画を見る前にすでにお気に入りのアルバムになっていた)。そういう意味でこれは『哀れなるものたち』の脚本にインスピレーションを受けたジャースキン・フェンドリックスのアルバムであるとも言えるのかもしれない。映画のもつテーマを反映させるために生の楽器の音を加工し、あるいは反対に電子楽器の音にフィルターをかけ奇妙な響きを持つサウンドを作り出そうとした、機械的に風が送りこまれるパイプオルガンやアコーディオンのような管楽器を、フルートやトランペットのような人が息を吹き込む楽器のように音を曲げ音程を上下させることで奇妙で不気味な感じを表現したかったとジャースキンは語るが、彼のその実験は “Bella”、“Bella and Max”、“Bella and Duncan”、“Duncan and Martha” など人の名前が冠された曲で結実する。
ランティモスにならい映画の原作となったアラスター・グレイの小説を読みながらアルバムの音楽を流したりもしたのだが、ジャースキン・フェンドリックスのこのサウンドトラックは風景やムードではなく、人を描いたものであるように自分には感じられた。そこにいる人間や、そこからいなくなった人間の存在を描き出す、何かが入り込める隙間がある音楽は、幾重にも重なった思惑交じりの視線から人間の像を浮かび上がらせる小説の雰囲気にもよくあっているようにも思えた。いずれにしてもジャースキンは人間の感情をとても大事にしている人なのだろう。寂しさと暖かさが同居する音楽にユーモアが加えられ、哀しみとおかしみの境界線を揺れ動くかのように、人の気配が積み重ねられていく。使われている楽器は違うが、1stアルバムに通じるエッセンスを持った、これは紛れもなくジャースキン・フェンドリックスの音楽だ。
90年代黄金期のNYヒップホップを代表するプロデューサー、DJプレミア。ギャング・スターはじめ数多の名曲を送りだしてきた彼の、30年以上におよぶ軌跡をたどった本が刊行される──のだけれど、驚くなかれ、なんとプレミアが手がけた楽曲のすべてをレヴューするという前代未聞の内容に仕上がっている。編者はインディペンデント・マガジンの『DAWN』で、タイトルは『DJプレミア完全版』。河出書房新社より1月26日ころに発売される。これはもっておきたい1冊でしょう。
ヒップホップに革命をもたらしたプロデューサー
DJプレミアが手掛けた楽曲を完全網羅した、世界初のプリモ本!
▼内容紹介
幅広い音楽の知識に支えられ、サンプリングやスクラッチを駆使して数々の名曲を生み出した偉大な才能の30年以上に渡る活動の軌跡を辿った決定版。DJプレミアが手掛けた膨大な楽曲のすべてをレビューするという荒業に挑んだ、前代未聞にして世界初のディスクガイド。
▼DJプレミアとは?
1989年、DJプレミアはラッパーのグールーと共にギャング・スターとしてデビューし、ヒップホップ・プロデューサーとして数々の名曲を生み出してきた。1990年代、ヒップホップの黄金期(ゴールデン・エラ)と呼ばれた時代の名盤にはことごとく彼の手によるものだ。そのプロデュース・ワークはビギー、ナズ、ジェイ・Zといったヒップホップ界のレジェンドたちに留まらず、ディアンジェロ、ジャネット・ジャクソン、クリスティアーナ・アギレラ、アンダーソン・パークなど非常に幅広く、またメジャーからアンダーグラウンドにまで広がっている。彼の名声は90年代のヒップホップの黄金期から30年を経た現在でもシーンに轟き続けており、名実ともにヒップホップ・シーンを代表するプロデューサーとして活躍を続けている。
▼本書の特徴
・国内外のヒップホップを論じる第一線の書き手が集結!
豪華な執筆陣によって、シーンの変遷に沿いながらDJプレミアの軌跡を詳しく解説。DJプレミアの作品リスト&ガイドとして、すべてのヒップホップ・ファンにとってマストな一冊に仕上がっている。
【執筆者/アボかど、池城美菜子、荏開津広、奥田翔、キム・ボンヒョン、小林雅明、斎井直史、高久大輝、高橋圭太、つやちゃん、二宮慶介、橋本修、二木信、宮崎敬太、吉田大、吉田雅史、渡辺志保、DOMO + PoLoGod.、IT'S MY THING、MINORI、Mix Tape Troopers、Renya John Abe、VINYL DEALER BEAT BANDIT】
・充実したコラムで多角的に迫る!
サウンドエンジニアとして第一線で活躍するillicit tsuboiと、ラッパー/ビートメイカーとして活躍するOMSBがDJプレミアの魅力をディープに語り合う特別対談、DJプレミア本人とも交流の深いDJ KAORIへの特別インタビューのほか、“チョップ&フリップ”や“スクラッチ”の解説、DJプレミアの機材史、ミックステープ・カタログなど、多角的にDJプレミアの魅力に迫っている。
・インディペンデント・マガジン「DAWN」によるエディット
2019年11月に創刊されストリート・シーンで絶大な支持を集めるインディペンデント・マガジン「DAWN」が本書を編集。他では読むことのできないドープな一冊に仕上がっている。
▼目次
DJプレミアとは
■プリモワーク1989-1993
ギャング・スターの軌跡
DJプレミアという「ルーツ」
■プリモワーク1994-1996
チョップ&フリップの革新性とその構造
■プリモワーク1997-1999
DJプレミアの機材の歴史
■プリモワーク2000-2004
特別インタビュー DJ KAORI
■プリモワーク2005-2009
特別対談 illicit tsuboi × OMSB
■プリモワーク2010-2014
DJプレミアとスクラッチ
■プリモワーク2015-2019
DJプレミア名言集
■プリモワーク2002-2023
DJプレミアとSNSマーケティング
DJプレミアとミックステープ
執筆者プロフィール/執筆者が選ぶプリモワーク・ベスト3

DAWN 編
DJプレミア完全版
河出書房新社
A5判/249ページ
978-4-309-25737-2
予価2,695円(本体2,450円)
2024.01.26発売予定
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309257372/
80年代後半から90年代前半にかけ、ボアダムズや思い出波止場などで日本のオルタナティヴを切り拓いてきたギタリスト、山本精一。彼が「うた」にフォーカスした羅針盤のファースト・アルバム『らご』(97)がリイシューされる。なんと、初のアナログLP化だ。同時に、セカンド・アルバム『せいか』(98)も復刻される。
羅針盤といえばかつては、LABCRY(昨年なんと18年ぶりに復活!)、渚にてと共に「関西三大歌モノ・バンド」として絶大な支持を誇ったプロジェクトだ。山本精一のキャリアのなかでもっとも慈愛に満ちたバンドであり、日本のインディー・ポップ史にアコースティックな香りを添えた伝説的な存在。2005年にバンドは解散したものの、その後の山本精一&PLAYGROUNDをはじめとした「うた」を主としたプロジェクトに、その精神性はたしかに継承されている。
今回のリイシューは前述の通り『らご』『せいか』という初期作2枚になるが、「うた」路線の真骨頂である名盤『ソングライン』やミニマルなポスト・ロック的アプローチに接近していった後期の作品のヴァイナル化にも期待したい。歌心のある日本のアコースティックな音楽は、近年マヒトゥ・ザ・ピーポーやLampを筆頭に国外でも絶大な評価を獲得しつつある。アコースティックかつ音響的なサウンドの復権を夢見るばかりだ。デジタルな環境でのリスニングが一般化したいまこそ、ぜひレコードの柔らかな音像をゆっくり堪能してはいかがだろうか? とにかく、必携です。
まさに感動的な「うた」がここにある。普遍的なポップ・ミュージックの必要な要素がすべて織り込まれている永遠の名盤の呼び声高い羅針盤のアルバムが遂に初アナログLP化!!
97年にギューン・カセットからリリースされたアルバムを、スリーヴ・アートを変更し、同年、ワーナーから再発売されたファースト待望の初アナログ化!
冒頭の「永遠〈えいえん〉のうた」から、山本精一がこれまでに見せてきた表現とは遠く離れたポップ・ソングが並ぶ。
耳への心地よさと皮一枚下にはヒリヒリとした緊張感が漲っている。むしろ、その人懐こさゆえに、聴き手の弛緩した意識の奥深くに忍び込むような、そんな歌たち。
プロコル・ハルムの名盤『ソルティ・ドッグ』収録曲「巡礼者の道」のカヴァー、「HOWLING SUN」も収録。思えば"うたもの"という不思議な新造語も、山本精一が歌いはじめたことに対応して急設されたものだったと思い知らされる。

アーティスト:羅針盤
タイトル:らご
品番:PLP-8098
発売日:2024年6月19日
定価:¥4,387(税抜価格¥3,980)
レーベル:P-VINE REORDS
山本精一が歌うバンド、としての機能から更に深化した2枚目待望のアナログ化。話し言葉のように作為のない歌声が、歌そのものに同化。ポップ・ソングをある種の擬態とするなら、このアルバムは完璧にその役割を果たしている。目を凝らしても輪郭を捉えることなど出来ない。
かといって曖昧とは無縁。ビーチ・ボーイズへの偏愛を感じさせる「せいか」から、ネオ・アコと呼んでは失礼なフォーク・ソング「アコースティック」、ニューウェイヴな「クールダウン」とまるで山本精一のリスナーとしての遍歴を追っているようでもあり。10分近くの大曲「カラーズ」にはドラマもなく、クライマックスも訪れない。が、一度この歌に囚われたら最後、永久に頭の中で鳴り続ける。

アーティスト:羅針盤
タイトル:せいか
品番:PLP-8099
発売日:2024年6月19日
定価:¥4,387(税抜価格¥3,980)
レーベル:P-VINE REORDS
ひとつには2016年に亡くなったデヴィッド(・ボウイ)へのトリビュートという意味がある。ぼくなりのリスペクトをデヴィッドに示したかったんだ。
ザイン・グリフのニュー・アルバムが完成した。前作『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』から1年という短いインターバルで登場した本作は、1980年代と現代が交差する複層的な構造を持った異色作となっている。
前作『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』も、1980年代に完成間近にもかかわらず日の目を見なかった作品をザインが一から作り直したという1980年代と2020年代が折り重なる作品だった。『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』の経緯とザイン・グリフの経歴については昨年の記事を参照してほしい。
この『ダブル・ライフ』もまた、1980年代の縁がきっかけで誕生したアルバムだ。
ザイン・グリフもその中心にいた1980年代初頭のニュー・ロマンティックス/フューチュアリストの代表的なユニットが、スティーヴ・ストレンジ、ラスティ・イーガン、ミッジ・ユーロらによるヴィサージだった。
ザインはスティーヴ・ストレンジと同じ事務所に在籍していたこともあり、ヴィサージ周辺とは親密だった。
1980年代以降も断続的に続いていたヴィサージは2015年のスティーヴ・ストレンジの死とともに活動を停止したが、2020年にラスティ・イーガンはスティーヴ・ストレンジに替わるヴォーカリストとしてザイン・グリフを迎えてヴィサージの復活を計画した。
まずヨーロッパのフェスでライヴをおこない、新しいスタジオ・アルバムも制作する。ヴィサージの1980年の大ヒット曲 “フェイド・トゥ・グレイ” の共同作曲者であるクリス・ペインも新しいヴィサージの一員で、ザインとクリスはヴィサージのための曲作りに取りかかった。@>
「そう、あれがすべてのはじまりだった。まずはヴォーカリストとして参加してほしいとアプローチされたんだけど、その後曲も書いてくれという話になって、クリスと一緒に曲を書いたんだ。だから当初はヴィサージのためという意識があって、この曲をミッジ・ユーロやスティーヴ・ストレンジだったらどういうふうに歌うだろうかということも考えながら作っていたんだ」
メンバーと仲がよかった上にヴィサージの音楽も気に入っていたため新しいヴィサージへの参加はうれしかったという。
「彼らの曲ではとくに “マインド・オブ・ア・トイ” が好きだった。メロディもリズムも最高だし、ミッジがあの曲を書いたときの思考プロセスも素晴らしい」
しかし世界を襲ったコロナ禍によりニュージーランドに住むザインはヨーロッパへの渡航の手段がなくなり、新しいヴィサージのプロジェクトはフェード・アウトすることになってしまった。
「ヴィサージへの参加がお蔵入りになってしまった後もクリスとは曲を書き続けた。それがいま『ダブル・ライフ』になったというわけだ。ずっとクリスとの共同プロジェクトという認識だったけど、最終的にクリスが “これは君のプロジェクトだ” と言ってくれた。でも彼はこのアルバムのものすごく強力な部分を占めているよ。クリスがいなかったらこのアルバムはあり得ない」
プロデューサーはこれまで多くの大物を手掛けてきたヒラリー・ベルコヴィッチ。
「当初、クリスと一緒にこのアルバムのための曲を作っていて、途中でクリスがプロデュースをヒラリーに頼むのはどうかと提案してくれたんだ。彼がいままで手がけてきたのはスティーヴィー・ワンダーやチャカ・カーン、ジャスティン・ティンバーレイク、マドンナ、ボビー・コールドウェルといった偉大なアーティストで、そんな彼がぼくのアルバムに興味を持ってくれるか半信半疑だった。でも、クリスはロスアンジェルスを拠点としているヒラリーとは映画音楽の仕事を通して面識があって、とにかくいまできているものを送ってみようと。するとすぐに “ぼくもぜひこのプロジェクトに参加したいけどいいかい? すばらしい内容だ” と返信があったんだ」
このアルバムのための新曲は、ひとつのつながりを持つ連作小説や映画のようだ。
「最初にクリスと “トリップ、スタンブル・アンド・フォール” を作ったときに、短編映画みたいな世界だなと話して、それにつながる世界を持った “メリー・ゴー・ラウンド” や “ウォーキング・イン・ザ・レイン” に続いていった。それでアルバムの方向性が定まったんだ。曲調はちがっていても一貫したストーリー・ラインがあり、どの曲も映画のスコアのようなドラマテックな展開があると思う」
ユキヒロとリューイチ、そしてYMOへの敬意をこめてレコーディングした。いろいろありがとう、という気持ちの表れとしてね。もちろん、なかでもユキヒロは特別だ。
前作の『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』も架空の映画のサウンドトラックという設定の作品だったが、今回は実際に映画音楽も手掛けているクリス・ペインとヒラリー・ベルコヴィッチが加わって、よりその傾向が高まった。
「そうだね。『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』では音楽的にたくさんのことを学んで、それが今回生かされていると思う。実際、このアルバムの制作と『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイ』は一時期同時進行でもあったし。今回、ヒラリーが短編映画の音楽的なイメージのコンセプトを手助けしてくれた。ヴィジュアルのコンセプトもよくメールで送ってくれたよ」
この新作アルバム『ダブル・ライフ』は1980年代の楽曲のカヴァー(+セルフ・カヴァー)と2020年代の新曲がバランスよく並んでいる。ふたつの時代が交叉したようなタイトルもそこから来ている。
「そう、新旧のブレンドだね。バランスから来ているんだ。現在、過去、それから未来のね。ふたつの人生……昔の人生と、新しい人生」
新曲と並ぶカヴァー作品のうち、最初に登場するのがデヴィッド・ボウイの “ブルー・ジーン” (1984)。1979年に共演したことのあるボウイをこのアルバムでカヴァーしようと思った理由と、その選曲が “ブルー・ジーン” という1984年の曲になった理由を訊いた。
「ひとつには2016年に亡くなったデヴィッドへのトリビュートという意味がある。ぼくなりのリスペクトをデヴィッドに示したかったんだ。もともとはこのアルバムをプロデュースしたヒラリー・ベルコヴィッチが候補曲として “ブルー・ジーン” を送ってきてくれた。すぐにこの曲をカヴァーしようと決めたよ。ぼくにとってはこの曲がデヴィッドを体現しているんだ。なによりロック感がすばらしいし、明るくポップだ。ファンタスティックなエネルギーに満ちてもいる。デヴィッドの最高曲のひとつだとぼくは思っているんだ。結果としてすごくいい出来栄えになったと思う。どこかの時点でぜひシングルとして出したいね」
さらにセルフ・カヴァーで1982年のアルバム『フィギュアーズ』に収録されていた “フラワーズ”。
「もともとはヒラリー・ベルコヴィッチのアイデアだった。彼はむかしからこの曲が大好きだったそうで、今回一緒にやることになって、ぼくにこの曲のことをリマインドしようとしたんだね(笑)。彼が独自のアレンジで再構築して、自分で仮歌まで入れてぼくのところに送ってきたんだよ!(笑) 最初はずいぶん妙に聴こえたけれど、聴き込むうちに次第に気に入ってきて、あらためて彼とふたりで作業を続けて完成させた」
この曲の1982年のオリジナル・ヴァージョンはケイト・ブッシュとのデュエットとなっていた。ケイト・ブッシュとザインはボウイもかつて学んだパントマイマーのリンゼイ・ケンプの劇団で同期であり、その縁でのデュエットだったが、今回、オリジナルのトラックからケイト・ブッシュのヴォーカルを抽出し、ザインが新しく吹き込んだヴォーカルとの再デュエットという形になっている。1980年代と2020年代の両者の共演ということになる。まさに “ダブル・ライフ” だ。
そしてゲイリー・ニューマンの大ヒット曲 “カーズ” (1979)のカヴァー。このアルバムのコラボレーターであるクリス・ペインはかつてゲイリー・ニューマンのバンドのキーボディストでもあった。聴きどころはなんといっても、時間をトリップしたかのようなクリス・ペインによるシンセサイザーの音色作りだろう。1979年のオリジナルのままのアープ・オデッセイのサウンドが2020年代のザインのヴォーカルと融合することで、ここでもふたつの時代の生がクロスしている。
1980年代と2020年代のふたつの人生。
「40年前にはいまこんな人生を送っているなんて想像したこともなかったよ」
成功の道半ばでさまざまなトラブルでロンドンを離れ、故郷のニュージーランドに戻らざるをえなかったザインは、しかし2000年代にミュージシャン〜アーティストとして復活したいまとロンドン在住の当時とはしっかりとした連続性があると感じてもいる。
「とくに音楽的には当時ととても馴染みがある。今回使った80年代当時のヴィンテージ・シンセサイザーやサウンドスケープがこのアルバムを作る上でとてもしっくりきたんだ。あの頃やっていたことと似ているからね。そう、ニュー・ロマンティックス的な」
この『ダブル・ライフ』はまさにニュー・ロマンティックスのムーヴメントと地続きになったアルバムだという思いもある。
「いまぼくやクリス、そしてラスティ・イーガンらがやっている音楽はニュー・ロマンティックスの部類に入ると思う。ニュー・ニュー・ロマンティックと言えるかな(笑)。実際、この40年間、つねにニュー・ロマンティックス的な音楽が消えたことはないし、こういうサウンドが大好きという若い人が増えているんだ」
21世紀に入ってのネット上のアーカイヴの充実でかつてのニュー・ロマンティックスの音楽が若者たちに再発見されているという実感があるという。
「すごいことだよ。YouTubeでぼくの『灰とダイヤモンド』(79年のデビュー・アルバム)を見つけた人たちが、それをきっかけに検索して、さらにあの時代の音楽に惚れ込んでくれているんだ」
もちろん、いま60代となったザインの生活は当時とは一変している。
「ぼく自身のライフスタイルはまったく違う。ロンドンにはたまに行っているけど住んでいないしね。ロンドンに住んでいた頃のぼくは、若くて野心に溢れていた。と、同時につねに不安に苛まれてもいた。成功しなかったらどうしようとね。いまも野心がないわけじゃないけど、若い頃みたいに何でも手に入れたいという感じではないんだ。もっとリラックスして、不安のない人生を送っているよ。むかしは想像できなかったような」
もし、いまの彼が野心に溢れていた若きザインに会ったら、どんなアドバイスをするだろうか?
「若かりし頃のぼくか。……もっとがんばれとハッパをかけるだろうな。それと身の回りのスタッフやチームはかけがえのないものだ、大事にしろと言い聞かせるだろうね。そして、もし夢を持っているなら、その夢の人生を生きるために実現の可能性を想像しようよと」
そして、もうひとつ大事なアドバイスもある。
「CD時代になってもアナログ・レコードは手放さないほうがいいというのは言っておきたい。ぼくはニュージーランドを離れるとき、ロンドンを離れるとき、それぞれレコードを手放して、同じものを三度買い直すことになったからね(笑)」
また、この40年間でもっとも印象深い音楽的な出来事は、やはりDTMやネットの発達によるファイル交換での音楽制作の実現だという。
「そう、ぼくにとっていちばん大きかったのはプロダクション、レコーディングのクリエイションの方法。むかしは人間がスタジオで一緒に作業していたのに、ベッドルームでProToolsなどのプログラムを使って曲を作れるようになった。そうすることによって、人間的な要素が欠けるようになってしまった。だから今回、ぼくとクリスはDTMを使いながらも、なるべく人間的な要素を取り入れているんだ。本物のドラムスを使うし、ヴォーカルも生声だ。ギターもキーボードも本物」
アルバム『ダブル・ライフ』は基本的にすべてリモートで制作されている。ニュージーランド在住のザインとコラボレーターのクリス・ペイン(フランス在住)、プロデューサーのヒラリー・ベルコヴィッチ(アメリカ在住)、そしてイギリスやバルバドスに住む複数のミュージシャンたちは誰とも顔を合わせずに個々にレコーディングの作業を行なった。全員がひとつのスタジオに集まり、何週間も顔を突き合わせてアルバムを作っていたあの頃とは大きくちがう。
もしこのアルバムが昔のように全員でどこかに集まってレコーディングされていたら同じアルバムでもムードは大きく変わったのだろうか?
「あまりにすばらしい質問で答えられないよ!(笑) 本当にいい質問だ。みんながひとつの部屋に集まって、しゃべりながら曲をプレイしていたらどうなるかって? ぼくには答えがわからない。今回、ぼくたちはリモートですばらしいアルバムを作ることができたけど、そうだね、いつかはまたみんなで一か所に集まってアルバム作りをすることができればいいね」
自分史上最高傑作だと思っているよ。ぼく自身のあらゆる面を網羅していると思う。
そしてこの『ダブル・ライフ』には3曲のボーナス・トラックが付け加えられている。
ひとつは1982年の高橋幸宏のアルバム『What Me Worry?』にザインが提供した “ディス・ストレンジ・オブセッション” のセルフ・カヴァー。もちろん、昨年1月に逝去した高橋幸宏への追悼の思いをこめたものだ。
「訃報を聞いたときから、彼と仕事したときのことをひたすら思い出していたよ。あれは素晴らしい経験だったなと振り返った。そして、何かをお返ししたいと思った。それで “ディス・ストレンジ・オブセッション” をアルバムでセルフ・カヴァーしようと決めたんだ。とにかくなにかをやらずにはいられなかった」
さらに3月には坂本龍一も亡くなった。
「そう。それもショックだった。彼にはYMOのロンドン公演のときに一度会ったきりだったけれど、音楽はずっと聴いていた。今回カヴァーした “以心電信” も発表された当時に聴いて、それ以来ずっとお気に入りの1曲だった。そこで今回、ユキヒロとリューイチへの追悼を込めてこの曲をカヴァーしようと、友人に英訳を頼んで歌ってみたんだ。この曲はユキヒロとリューイチ、そしてYMOへの敬意をこめてレコーディングした。いろいろありがとう、という気持ちの表れとしてね。もちろん、なかでもユキヒロは特別だ。1982年にお互いのアルバムに参加して、当時彼が借りていたロンドンのフラットでディナーをご馳走してもらったことも覚えている。ずっと一緒に過ごしてお互いをよく知るようになったんだ」
もう1曲2ヴァージョンのボーナス・トラックである “トリップ、スタンブル・アンド・フォール” のリミックスを手掛けたのはヘヴン17のマーティン・ウェア。ザインと同時期にデビューし、現在も精力的な活動を続けているいわば同窓生とのコラボレートだ。
「もともとは『ザ・ヘルデン・プロジェクト//スパイズ』を発表したときにマーティンが彼のラジオ番組でインタヴューしてくれたんだ。インタヴューが終わった後もずっと話していて、彼に “他に何かやっているの?” と訊かれてクリス・ペインと一緒に仕事をしていて、実は “トリップ、スタンブル・アンド・フォール” という曲を作ったばかりだと話したら、“わたしにそのリミックスをさせてくれるかい?” と申し出てくれたんだ。それでファイルをマーティンに送ってリミックスを作ってくれんだけど、インストゥルメンタル・ヴァージョンまで一緒に送られてきた(笑)。ありがたいから両方入れることにした」
この『ダブル・ライフ』はおそらくザイン・グリフの作品のなかで、もっともエネルギッシュであると同時に深い思索を伴い、なおかつポップなものとなった。本人としても大きな手応えを感じている。
「もちろん、自分史上最高傑作だと思っているよ。ぼく自身のあらゆる面を網羅していると思う。『ダブル・ライフ』の醸し出す雰囲気は、聴いたオーディエンスがそれぞれまったく違うストーリーを自分自身のものとして脳裏でヴィジュアル的に思い描かせると思う。それこそがこのアルバムの醍醐味だと思うね。音楽的であると同時にヴィジュアル的でもあるんだ」
この自信作とともに、今年は精力的にライヴ活動をおこなう予定だ。
「まず7月19日に、ここニュージーランドのオークランドでショウがブッキングされている。この『ダブル・ライフ』と『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』の曲を中心にシアトリカルなのライヴになると思う。その中にはがユキヒロと一緒にやった “ディス・ストレンジ・オブセッション” や “使いすてハート” も含めて、ぼくの代表作を網羅したものにするつもりだよ。日本にもぜひ行きたいと思っている。日本のみなさん、今年はぜひ会いましょう!」
ザイン・グリフ オリジナル・アルバム・ディスコグラフィー

『灰とダイアモンド(Ashes and Diamonds)』1980年

『フィギュアーズ(Figures)』1982年

『Child Who Want the Moon』2011年(日本未発売)

『ザ・ヴィジター(The Visitor)』2013年

『ムード・スウィングス(Mood Swings)』2016年

『ザ・ヘルデン・プロジェクト // スパイズ』2022年

『ダブル・ライフ』2024年
DJ/オーガナイザーのSoya Ito (dj woahhaus)が主催するパーティーシリーズ〈Mana〉が、ベルリンを拠点とする電子音楽家・bod[包家巷] を迎え、渋谷WWWにて1月27日に開催される。
中国にルーツを持ち、アメリカで育ったのちベルリンに移動したbod[包家巷]は、出自に基づくオリエンタルな美学をノイジーに昇華させたサウンドスケープが魅力のアーティスト。グライム~ダブステップ以降の脱構築的なベース・ミュージックを通過したアンビエントの発信者としても知られ、ヤング・リーンやドレイン・ギャングなど2010年代以降の新たなクラウド・ラップを牽引するストックホルムのレーベル〈YEAR0001〉などからのリリースと謎めいたスタイルがカルト的な支持を集めている。
そんなbod[包家巷]の初来日ツアーの東京編をサポートするのは、ドイツ・ベルリンへの長期留学を経て東京へ帰還した新鋭・Soya Ito。昨年夏にはベルリンでも開催された新世代ユースの実験的パーティー〈Mana〉にて孤高の電子音楽家を迎える。
bod[包家巷]に加えベルリンからレーベル〈Transatlantic〉を主催するDJ・official freestyler、日本に出自を持ち現在はドイツを拠点とするYUI、ルーマニアのA/Vアーティスト・carmen、リベリアの美術家・naptalimを招聘。ローカルアクトにはange、E.O.U、荒井優作、saifa 砕破、dj woahhaus、illequal、itachi、munéoと次世代のエッジーな電子音楽家がラインナップされている。メイン・ステージのWWWを耽美的かつ実験的なリスニングの場とし、サブ・フロアのWWWβをオルタナティヴな2020年代型レイヴ/クラブ志向の場として切り分けていることも特徴的だ。
音楽だけでなくステージングにも注力し、ハイブリッドなクラブ体験を提供する姿勢はまさしくパンデミック以降の潮流だろう。主役のbod[包家巷]はもちろん、2024年のいま東京のアンダーグラウンドなクラブ・シーンで起きているムーヴメントを肌で感じる機会にもなる一夜をぜひ体験してほしい。
〈Mana〉
2024/01/27 SAT 23:30 at WWW & WWWβ
U23 / Early Bird(早割) ¥2,300 | ADV(前売り) ¥2,800
(Over 20 only・Photo ID required)
Ticket: https://t.livepocket.jp/e/arx8e
[WWW]
ange
bod[包家巷][DE]
E.O.U
naptalim[LR]
Yusaku Arai
saifa 砕破
Staging: yoh murata
[WWWβ]
dj woahhaus
illequal
itachi
munéo
official freestyler[DE]
Prius Missile
YUI អ”[RO]
Staging: condo
Lounge Exhibiton: naptalim [LR], 素手喧嘩 sudegenka
Flyer : Shine of Ugly Jewel
〈Mana〉
