「IR」と一致するもの

これまでいろんな活動をしてきた「VINYL GOES AROUND」ですが、昨年はレコードプレス工場を立ち上げ、そして年末にはレコード専用アプリもローンチしました。アプリはまだベータ版ではあるものの、すでにたくさんの方に使っていただいており、大変感謝しております。

さて、前回のコラムでも紹介しましたが、「どんなアプリなの?」という方のために、もう一度少し説明を。ざっくり言うと、“レコード版のInstagramとメルカリが合体したようなアプリ”です。
Instagramのように、自分のレコードジャケットの画像をきれいに並べて、コレクションを管理したり、ほかのユーザーと共有したり、交流したりできます。さらに、アプリ内でレコードの売買もできるようになる予定(こちらはまもなく公開予定!)です。
この、自分の持っているレコード・ジャケットをずらっと並べていく機能を、私たちは「ギャラリー」と呼んでいます。ただ並べているだけでも、けっこう楽しいツールです。自分のコレクションを眺めて優越感に浸りながら、酒が呑めるこの感じ。これにはレコード好きのロマンが反映されているなと自負しております。
そんな中で、この「ギャラリー」機能をとても活用してくれているユーザーさんを、こちらでピックアップしてインタビューさせていただくことにしました。
その第1弾として今回お話を伺ったのが、現在の投稿数トップ5に入っているであろう「Kamiroquai」さん。なんとその投稿数、1500枚超え!?私たち自身もコツコツ投稿していますが、1500枚という数字はなかなか到達できないボリューム。それをあっさりやってのけたKamiroquaiこと、神谷国俊さんに個別でコンタクトを取り、インタビューをお願いしたところ、なんと二つ返事で快諾してくれました。
岐阜にお住まいとのことで、今回はZoomでお話を聞かせていただきました。

VINYLVERSEチーム(以下、V):神谷さん、本日はお時間いただきありがとうございます。

神谷: こちらこそ、よろしくお願いします。

V:少しずつユーザー様が増えてきた中で、頻繁にお使いいただいているユーザー様の生のお声を聞いて、サービス改善に生かしたいなということと、私たちが考えた以上に様々なレコードコレクターの方が集まってくださっていて、そのコア・ユーザーの一人でもある神谷さんに、VINYLVERSEの使い方やレコードライフについて色々とお話を伺いたくて、お時間をいただきました。実はこのインタビュー企画、第1回目なんですよ。

神谷: そうなんですか。それは光栄です。

V:まず、VINYLVERSEを知ったきっかけを教えていただけますか?


神谷: えっと、Wooden GlassのPHYGITAL VINYLを購入した時に案内のフライヤーが入っていて、それでアクセスしてみたのが最初です。

V:ありがとうございます。その時にアプリの存在を知っていただいたんですね。

神谷: 登録してみたら面白そうだったので、ちょっとずつレコードをアップし始めた感じです。新譜を買ったり、中古のレコ屋で何か買ったらアップしてます。でもまだ全部はアップできてないので、まぁ、ちょっとずつアップしてますね。

V:そもそもレコードを集め始めたのはいつ頃からなんですか?

神谷: 高校の頃ですね。僕、1974年生まれなんですが、当時レコードって安くて。本屋の隅に段ボールで500円くらいで売っていて。お小遣いも限られてるし、いろんな音楽をたくさん聴きたかったので、自然とレコードに手が伸びたって感じです。

V:最初に買ったレコードって覚えてます?

神谷: たぶん、ディープ・パープルの『マシン・ヘッド』か『BURN』ですね。どちらも500円とかでした。

V:なるほど。結構長い年月レコードコレクションされてると思うんですけど、大体何年間ぐらいコレクションされているんですか?

神谷: 高校1年か2年の時に買ったので、かれこれ35年ぐらいですかね。

V:すごいですね。

神谷: いやいや、まあ、その頃はまだそんなにバンバン買ってなかったので。で、大学に入ったらフリーソウルのブームとかレアグルーヴの流れがあって、そういうものに影響を受けて、中古のレコード屋さんに行くような感じでした。まぁでもその頃もすでに高値がついてるレコードもたくさんありましたね。

V:岐阜にお住まいとのことですが、レコード屋さんってけっこうあったのですか?

神谷: 当時は5〜6軒くらいはあったかな。小さな個人店がほとんどでしたけど、今はもう1店舗くらいじゃないかな。名古屋まで足を運ぶことも多かったですね。バナナレコードの隣でバイトしてたんで、休憩時間によく覗いてました(笑)。店長さんはロック好きなんですけど、セレクトは幅広かったですね。僕は今はブラックミュージックやシティポップが好きなんで、今でもよく掘ります。

V:今はお店よりもオンラインで購入する方が多いという感じですか?

神谷: そうですね、オンラインが7割、リアル店舗3割って感じですかね。

V:なるほど。参考になります。ありがとうございます。ところで、アプリの使い方についてお伺いしたいのですが、今はどんなふうに使っていただいていますか?

神谷: 新譜や中古盤を買ったらアップしています。全コレクションはまだアップしきれていないですけど、時間を見つけて登録していますね。

V:今後、アプリにあったらうれしい機能はありますか?

神谷: 並び替え機能、特にアーティスト名順がほしいですね。あと、他のユーザーさんとの交流がもっとできたらいいなと思います。コメント機能とか。

V:ちょうど今後のアップデートで、レコード投稿へのコメント機能が入る予定なんです。1対1のダイレクトメッセージではないですが、他のユーザーとオープンなやり取りができるようになります。

神谷: それは面白そうですね。ちょっとした交流ができるだけでも、使い方が広がると思います。

V:ご家庭をお持ちとのことですが、レコード収集についてご家族から、レコードばかり買っていて怒られたりとかしないんですか?(笑)

神谷: めちゃくちゃ言われます(笑)。子どもは15歳と9歳なんですが、「またレコード届いてる」って言われますね。

V:それでも買い続けている原動力はどこにあるんですか?

神谷: 音楽が本当に好きなんですよね。あと、広告の仕事をしていたのでジャケットのデザインも好きで。CDのサイズじゃなくて、レコードの大きさで見るアートはやっぱり魅力です。サブスクも使いますけど、流し聴きになりがちで。レコードの「手間」がかかる感じがいいんですよ。

V:思い入れのある1枚ってありますか?

神谷: BUDDHA BRANDの『人間発電所』ですかね。日本語ラップの印象を変えた1枚でした。あとは、ナイキのCMで使われた、Dev Large、Zeebra、Twigyの『PLAYER'S DELIGHT』も。若野桂さんのジャケットで、それがきっかけで彼の作品も集めてました。

V:逆に「今欲しいけど持っていない」レコードは?

神谷: (ジャケットを手に取りながら)今ちょうど手元にあるんですけど、井上順の『プレイボーイ講座12章』っていうレコードで、語りと音楽が融合した企画盤ですごく昭和な雰囲気があって好きなんですよ。演奏もちゃんとしていて、ピチカート・ファイブの小西さんが関わっていて。
で、その元ネタがあって。円楽師匠の『プレイボーイ講座12章』っていうレコードなんですけど、これがめちゃくちゃ欲しいんです。昔から探していますが、これは本当にレアで見つからない。

V:これは珍しそうですね。知りませんでしたが前田憲男がやっているんですね。良さそうですね。

神谷: CDは出ているんですけどアナログの再発がないので。是非、Pヴァインさんでやってください(笑)

V:そうですね、ちょっと調べてみますね。ところでPHYGITAL VINYLについてはどう感じましたか?

神谷: ワクワクしました。特典で送ってもらった10インチもとても嬉しかったし、毎回あれは大変かもしれないけど、特典は楽しみですね。

V:特典として、例えば「制作中の別テイクを所有者にだけ配信」とか、「ライブ会場での限定アイテム」とかはどうでしょう?

神谷: 面白いと思います。あと以前、NasとMF Doomのアナログで「2枚そろえると完成する」みたいなパッケージがあったんです。そういうコレクション性もアリだなと。

V:今、1500枚ぐらいギャラリーにレコードをアップしていただいてますが、何かこだわりのポイントってありますか?

神谷: もう全然なくて、目に映って「あ、これあげてないな」ってのをあげてる感じですね。後から見返して、自分で「こんなにレコード持ってるんだな」って再認識するのはとても楽しいです。

V:今レコードがすごく高いじゃないですか。それについてどう思いますか? 不満とか、色々あるとは思うんですけど。

神谷: まあ、そもそも世の中の物価が上がってるから仕方がないかなとは思うんですけど、最近は無駄な買い物をしないように、「10年後に果たしてこれをまだ聴いてるかな」って常に自分に問いかけて選ぶようにしています。最近はあんまりたくさん買えないので、今、売れているからっていうだけのものにあまり飛びつかずに、本当に自分が聴くのかどうかってところで吟味しています。でも、もうちょっと安いと嬉しいですね。たまに新品で8000円のLPとかありますよね。5000円ぐらいまでだとありがたいなと思うんですけど。

V:神谷さんにとって、ズバリ、レコードの魅力は何でしょう?

神谷: ジャケットですかね。やっぱり“物”として見えることですね。あとはやっぱり封を開ける時のワクワク感。中学校時代、CDを買ってきた時にビニールを開けるのがすごくワクワクしてたんですよ。今はあの頃みたいなワクワク感はなくなってしまいましたけど、それは年を取ったのもあるかもしれない。でも、当時は限られたお小遣いの中で1ヶ月に1枚買うのが限度だったので、その1枚を悩んで悩んで買って、開ける時の喜びって、サブスクでは味わえないと思うんです。そういう意味では、開ける時にワクワクするし、盤をプレイヤーに載せる時も“儀式”みたいなもんじゃないですか?レコードって。

V:ふるまいが一つの作法みたいな部分はありますよね。

神谷: それがやっぱり魅力かな。「めんどくさい」って思っちゃうと、もうダメなんでしょうけど、でも見ても楽しめる。音楽が“見ても楽しめる”って、サブスクにはないですよね。針を落とすと、盤の溝に沿って進んでいくのが見られる。それってすごいなって思います。本当に、盤に刻まれた溝を針がなぞるだけで音が出るって、すごい発明だなと思います。

V:見て、触って、楽しめるっていうのはやっぱり大事な気がしますよね。

神谷: うん。そうですね。そこから生まれてくる音って、感動が違う気がしますね。

V:最後に、今レコードブームが来ていて、若い人がレコードを初めて買うということが増えていますが、何か若いコレクターにメッセージがあったら、ぜひ。

神谷: やっぱり、結婚して子どもが生まれると、レコードを買うのをやめてしまう方って多いですよね。でも、1ヶ月に2〜3枚でもいいので、買い続けてもらって、お子さんと一緒に親子でレコードを楽しんでほしいです。子どもは意外とレコードを楽しむので。

V:いいお話です。本当にそうですね。

神谷: やっぱり実際に触って、音がリンクするって、子どもにとってはすごく面白いんでしょうね。自分が触った手で、音が止まったり再生したりするって、こういうメディアはなかなかない。サブスクも僕は使いますけど、両方うまく使っていけたらいいなと思いますね。

神谷さんとの対談は、レコードに対する深い愛情とそして生活に根付いた音楽との向き合い方が伝わってくる貴重なお話しでした。PHYGITAL VINYLの企画を含め、私たちVINYLVERSEチームがレコードカルチャーを次のステージに進めていく上で、まさに理想のユーザー像を体現されているお一人だと感じました。

次回のアップデートやリリースにも、ぜひご期待ください。

神谷さん、本当にありがとうございました!

VINYLVERSE アプリ

7g classic’s - ele-king

 山梨と長野の高原地帯から、またしても透明感があって、しかも洒脱なポップスの詰め物が届いた。7g classic’s(ななぐらむくらしっくす)は、八ヶ岳南麓に暮らすナナマリ、長野市で暮らすgee2wo(RCサクセションの第二期におけるキーボード)のふたりからなるユニットで、2022年に『くろすけ』でアルバム・デビュー。ボサノヴァを吸収したナナマリのギターと歌、gee2woによるメロウなピアノ演奏による7g classic’sは、音楽リスニングを生活になかに取り入れている大人たちのあいだで評判を呼んで、2023年にリリースされたセカンド・アルバム『みそしる』によって、さらにその評判は広がったようだ。いま、この穏やかな音楽は多くの人たちに必要とされているのだろう。
 そんなわけで、早くもサード・アルバム『タイムマシン』が登場した。ブラジル、ジャズ、ポップス、ファンク、そしてダブまで……さまざまな音楽を咀嚼しながら、かんぜんに独自な空間を創出している。表題曲“タイムマシン”をはじめ、“Dub & Peace”や“The Treasures”、アンビエント・ボサ“Moon”、ジャジーな“長い夢”、ブルージーな“My Birthday”など創意工夫ある曲が7g classic’sの新境地を見せている。。
 聴いてみよう。この暑い夏の夜を涼しくしてくれること請け合いです。

〈アーティストからのコメント〉
 いろんなジャンルの良いとこ取りといったコンビニ弁当のような楽曲作品は世の中に腐るほどあります。我々の楽曲制作は多種多様なジャンルに存在する独自の論理に基づいた制作方法です。
あふれる情報やAi などにより人間に備わっていた第六感はほぼ消滅し、五感も退化を始めています。特に聴覚にそれを感じます。インターネット上の情報なんて殆ど嘘ばかり、どんどん思考停止が進行しています。これは現代人への警告です。情報に惑わされず純粋に音楽を聴けているか、はなはだ疑問を感じます。
 当たり前の事ですが演奏時間が1時間の楽曲を聴くのに最低でも1時間、何度も聴くのならそれ以上の時間が必要です。そういう大切な時間は自分自身で作り出すものです。それはお金で買えない貴重な財産です。時短なんて貧しい考え方です。我々の作り出す音楽は、決して通勤通学時や、スポーツ、ダンス、などのB.G.M.ではありません。できれば1人で心を落ちつかせてお聴きください。
 ってこと〜!

7g classic's
3rd アルバム『タイムマシン』CD版

2025年6月4日発売
販売元 Forest Group
FOGP-0003 定価¥3000(税込)
購入は通販サイト各種またはライヴ会場にて
Amazon購入サイト
https://www.amazon.co.jp/dp/B0F4R6VVPP

『タイムマシン』試聴動画

【サブスク配信情報】
7g classic's
3rdミニアルバム『プチタイムマシン』配信版
2025年6月28日配信開始
https://big-up.style/mA2U2Mtwhr

【ライヴ情報】
7g classic's Tour 2025
6/27(金)Apple Jump(東京)
6/28(土)カフェシングス(東京)
7/4(金)Booze Shelter(長野)
7/6(日)月下草舎(山梨)
7/13(日)open house(名古屋)
7/14(月)もっきりや(金沢)

詳細は7g classic’sウェブサイトで
https://nanamari.com/7g

【プロフィール】
ナナマリ (Vocal, Guitar, Composer etc.)
高校生の時にギターと出会い、ロックやポップスバンドを組んで音楽活動をスタート。独学で音楽理論を学び、TV番組や舞台、メジャーアーティストなどへの楽曲提供を行う。2004年に八ヶ岳へ移住後は、ブラジル音楽に傾倒し、ギター弾き語りスタイルでのライヴ活動を開始。2008年1st Album「雨粒」をはじめ、カヴァー作品を含む計5枚のCDをリリース。

gee2wo (Piano, Keyboard, Composer etc.)
1980年代ロックバンドRCサクセションのメンバー(キーボード担当)として活躍。RC退団後は世界(主に中東)を旅し、のちに自然豊かな信州に移住。ジャズ、ブラジル、ロック、レゲエなど様々なジャンルの音楽を追求し、新たなスタイルの確立を目指す。2020年長野市内に念願のプライベートスタジオが完成し、制作に没頭する日々を送る。

Nazar - ele-king

 ナザールはこの7年間で、もっとも躍動的な新世代ブラック・エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーのひとりとなった。彼は、インダストリアル・ノイズとアフリカン・ビートの神学とが直感的に衝突することに熱烈な愛を抱いている——それは、論理、政治、宗教、そしてアフリカ大陸の歴史の深層に根を持つものだ。ナザールの音楽的探求は、1980年代にアンゴラで生まれた大衆ダンス音楽クドゥーロの土壌から芽吹いている。アンゴラ発のクドゥーロはこの数十年のあいだ、地元アンゴラの無数のプロデューサーたち、あるいは欧州へと渡った移民、またはナザールやDJナルシソのような第一世代の息子や娘たちによって、鮮やかに再構築され、変容を遂げてきた。
 ナザールの眼を通して見れば、彼のクドゥーロは混成的なものだ。それは独自の領域にあり、伝統的なプロデューサーならば恐れて足を踏み入れぬような新たな環境のなかを、彼は自由に歩んでいる。「Enclave」EPと初のフルアルバム『Guerrilla』は、ヨーロッパ各地のダンス・ミュージック・プロデューサーのなかにおいて、彼独自の声を確固たるものとして示した。彼のアイデンティティにおいて決定的だったのは、アンゴラの戦争、そしてその戦争における家族の関与と、それに対する音楽を通じた内省だった。彼のデビュー作では、そのテーマ性と鋭利なビートが健康的に融合していた。

 あれから5年が過ぎ、ナザールは『Demilitarize』で再び姿を現した。これは明らかに、彼の出世作『Guerrilla』への「呼応」であり、前作同様にタイトルは声明である。ただし今回は、目の前の風景を予見するのではなく、むしろ内なる精神の解放を指し示している。ナザール自身もこれはより「個人的な」アルバムだと述べており、サウンドスケープはまさにそれを裏づけている。

 『Guerrilla』をパンデミック初期に発表し、続いてCOVIDの合併症により1年近く死の淵を彷徨うような病に苦しんだナザールは、すべてを経て自ずと別の視座に至った。オープニング・トラック“Core”は、彼の新たな美学への温かく誘うような導入部である。かつてのような耳を刺す粗さは影を潜め、厚みのある音像はなおも跳ねるが、より空気のように、スピーカー越しに漂い出る異質さが、アルバムの最後まで全曲を貫いている。『Demilitarize』は、非常に統一感のある、一貫したアルバムである。
 大きく異なるのは、ナザールが「個人的な」方向へと向かうなかで、アルバムの大半において自ら歌うという選択をした点だ。この選択こそが、『Demilitarize』の印象を大きく変えている。とりわけ印象的なのは、その歌声のほとんどが意味を捉えがたく、にもかかわらず前面に出て美しいアレンジを背景へと押しやることで、音像が平坦に感じられる点だ。楽曲の構造は主にヴォーカルを支えるものとなり、ビート・アルバムとは異なる時間感覚——より速く過ぎていくような印象——をもたらす。全体の尺が短く感じられるのはそのためだろう。

 これは、現在の「男性の感情の脆さを表現する」ソーシャルな波に対する、ひとつの参与とも読める。ビートは引っかかり、途切れ、また唐突に現れては消える——まるで時間自体が不安定になっているかのように。だからこれは、ダンス・レコードではない(踊りたくなる瞬間はあるとしても)。これはヘッドフォンで聴く音楽であり、よりポップへの希求に傾いた作品だ。歌詞はしばしば時間を攪乱する——旋律だけではなしえない方法で。歌詞、あるいは歌声の感触は、時間そのものを変容させる。このアルバムがインストゥルメンタルのみで構成されていたならば、印象はまったく異なっていたに違いない。
 そして、それが聴き手の求めるものであるならば、この作品はすばらしいだろう。ただし全体の尺は36分30秒。この簡潔さは、音のなかを浮遊したり、潜り込んだりする快楽に逆らう——というのも、身体がようやくその中に安住しかけた頃には、すでに音は過ぎ去っているからだ。『Demilitarize』は繰り返し聴くに値する作品だが、同時に、より大きな作品へと至るための「通過点」としてのアルバムでもあるのではないかと私は考えてしまう。デジタル的な音響の美しさは豊潤だが、2曲目以降、アルバムの流れは容赦なく突き進み、ほとんど呼吸の余地を与えない。36分30秒の終盤、9曲目“Heal”においてようやく、それまでの圧力から抜け出すように音楽は水面へと浮上する。海の底から現れるクジラのように——ここでようやく、楽器そのものが主導権を握る。アルバムのラストは、音楽のなかでの苛立ちと不確かさに対する、意図された吐息のようだ。

 けれど、私はまだ問いを抱えている。というのも、5年ものあいだ大きなリリースがなく、ようやく届けられた作品がEP程度の分量であることが、やはり気になるのだ。そんなふうに思いを巡らせていたら、ふと1920年へと思いが跳んだ。
 『春の祭典』が初演された年だ。あの伝説的な上演——新しい音響に対して聴衆が激しく反発したあの出来事。ストラヴィンスキーがこの全楽曲を書き上げるのにかかったのは、わずか1年半である。コンピュータなどなかった時代、すべての楽器パートの譜面を手書きしなければならなかった。しかも、まったく未知の楽曲の力学を、オーケストラに教え込まねばならなかった。そして、その演奏時間は33分だった。


Nazar has become one of the best producers of kinetic new black electronic music in the last 7 years. Fervently in love with intuitive clashes of industrial noises and African beat theology rooted deeply in the core of the continent`s history, logic, politics, and religion, Nazar grows his musical explorations from the soil of Kuduro, an Angolan popular dance music that began in the 1980`s. The music of Kuduro from the country of Angola has been over the last couple of decades vibrantly recalibrated and mutated by the numerous local Angolan producers and those who immigrated to Europe or were first generation sons and daughters such Nazar or Dj Narciso. Through Nazar`s eyes, his Kuduro is a hybridity, in its own realm, surrounded by new environments that free him to walk down new roads traditional producers would fear. The “Enclave” ep and his first full album “GUERRILLA” firmly established his voice among other producers of dance music across Europe. Key to his identity at this time, was the back drop of the war in Angola, his family`s participation in it, and reflections on it through his music. The subject and constant sharp beat merged healthily together with his debut.
5 years have passed and Nazar has re-emerged with Demilitarize. An obvious “response” to the “call” of his breakthrough album Guerrilla, the title is again a statement like his last but this time pointing toward the release of the inner psyche rather than forecasting the landscape before the eye. He has stated that this is more of a personal album and the soundscape of the release proves that true.
Nazar, having released Guerrilla directly at the start of the pandemic, having survived an almost year long near death sickness due to COVID complications, came out of all that naturally out with a different perspective. “Core”, the first track, is an inviting warm introduction to his new aesthetic. Previous abrasion lacking, soundscapes are still thick bouncing but more ethereal through your speakers emitting an otherness that connects all the tracks til the very end. Demilitarize is a very united consistent album.

What is different is that in turning toward the “personal” Nazar made the choice to sing throughout the majority of the album. This choice makes Demilitarize feel different. Namely cause most of the vocals are mostly unintelligible, the vocals take centerstage and end up pushing the beautiful arrangements to the background, and feel monotone. The music mainly supports the vocals and time itself feels different, faster than a beat album. It feels remarkably shorter. This is a push toward inclusion in the current social wave of expressing male vulnerability while beats jerk and stop, jerk and stop. Sometimes disappearing totally before they mysteriously reappear.
So to be clear, this isn`t a dance record (though you may be inclined to do so at times), it`s a headphone listen. And a lean toward more pop yearnings. Lyrics often disrupt time in ways pure melodies cannot. Lyrics or the feel of lyrical vocals changes time. This album would be viewed vastly differently if only instrumental.
And all this is good if that is what you are looking for. But the whole album is 36:30 minutes. The brevity works against the beauty of the floating and diving that you do when surfing on all the sounds cause they are over before you can relax within them. Demilitarize is worthy definitely of many listens but I also wonder if it is a stepping stone album, an album that is needed for an artist to reach an even greater work. The digital sonic beauty is luscious but from the 2nd track, the flow of the album plows right ahead not allowing for much breathing room. The tail end of the 36:30 feels more like a whale arising to the air. This emerging from the depths of the ocean in the 9th track “Heal” lets the instrumentation take charge. The end of the album a purposeful exhale for the frustration and uncertainty in the midst of the music.
But I still have questions. Because fives years of no major releases is a long time to only get a ep`s worth of music. Because in wondering many things, I have to ponder back to 1920 when

“The Rite of Spring” was performed. A quite legendary performance. Fierce discontent by the audience from the new sonorities. It`s a fact that it only took Stravinsky a year and a half to write all the music for the composition. There were no computers so all the sheet music for each instrument had to be painstakingly written to perform. And the orchestra had to be taught the dynamics of the unknown composition. And it was also 33:00 minutes.

interview with Rafael Toral - ele-king

 Bandcampに掲載されたラファエル・トラルのプロフィールによると、彼はそのキャリアを通して、‶サウンドのなかの音楽と、音楽を超越したサウンドのあいだを行ったり来たりしている〟という。このポルトガル出身の音楽家は、実験音楽の世界でもう30年以上も極めて重要な存在であり続けているが、目下のところ、昨年のアルバム『Spectral Evolution』をきっかけに再評価の波に乗っている。このアルバムは、トラルの尽きることのない探求心の溢れる実践のさまざまな要素——初期の『Wave Field』(1995)などで聴かれた液化したようなギターの音色や、2004年から2017年に取り組んだ「Space Program」時代に収集した、規則にしばられない自由なDIYの電子楽器の数々など――が融合された、記念碑的な作品なのだ。なかでも、鍵となる構成要素は、伝統的なジャズのハーモニーで、“アイ・ガット・リズム”や“A列車で行こう”の即座に認識可能な(ただし、氷河の形成のごとくゆっくりとした)コード進行が、アルバムに意外な情感の重みを与えている。
『Spectral Evolution』は、3年がかりの骨の折れる緻密な制作プロセスの結果であり、その間トラルは作品の56ものヴァージョンを制作した。アドヴァイスを求めて友人のジム・オルークに聴かせると、感銘を受けたオルークは、長年休止状態にしていた自身のレーベル〈Moikai〉を再始動させ、アルバムを発売するために動き出したのだった。
 2008年以来となる日本ツアーでオルークと石橋英子と共演する前に、トラルはEメールでのやりとりを通じて、音楽家としてのジャズとの関わり、ますます醜くなっていく世界のなかでの美の重要性、そして、『Spectral Evolution』をライヴで演奏した際に経験した‶愛のフィードバック〟について語ってくれた。
 この会話は明確さの保持と長さを考慮して編集されている。

ますます醜くなっている世界において、私たちは美しいもの、広い意味での美しさ、単に綺麗というだけではなく高潔さをそなえたもの、たとえば、誠実さなどから手を離すべきではないんだ。

『Spectral Evolution』についての昨年のトーン・グロウとのインタヴューで、あなたは「このレコードを作るために多くのことを学んで研究し、開拓する必要があった」と語っていました。これについて、もう少し教えていただけますか?

ラファエル・トラル(Rafael Toral、以下RT):まず、このアルバムにはたくさんのジャズ・コードが含まれているんだけど、それらを繋ぎ合わせるためには、自分が何をやっているのかを明確に知らなければならなかった。ひとつの音符が本来あるべき所からずれるだけで、和音が違う色調に変化する仕組みを理解する必要があったんだ。私にはその準備ができていなかったから、正しい形に仕上げるために説得力を持たせて、最終的に美しく仕上げるまでに相当な努力を要した。その過程でジム・オルークに助言を求めたら、彼がリリースを決断してくれたという経緯がある。

あなたとジムとの関係について教えてください。ふだんから、制作途中の作品を共有することはあるのでしょうか? それとも、今回だけが特別だった?

RT:ジムとは1995年頃からの大の仲良しで、最初に出会ったのはシカゴでだった。彼は常に忙し過ぎるぐらいだったから、私のことで煩わせようなんて思ったことはなかったんだ。でも、今回だけは違った。アルバムでやろうとしたことが自分の能力を超えてしまい、私はアレンジやハーモニーのことで苦慮していた。だから背に腹は代えられないと思った。ジムが私よりも音楽の多くの分野で知識が豊富だと知っていたから、友人として音を聴いてほしいと頼んだんだ。

ご自分の能力の限界を突破するのは、あなたの仕事では日常的なことのように思うのですが、このような挑戦を続けるための意欲はどこから得ているのでしょう?

RT:私はただ、自分がすべきことを理解しようと思っているだけかな。自分の力をどこに注ぐべきなのか、やりたいことの中核はどこにあるのか、その時の前向きな動きとは何か、何が言われているのか、そしてそれが私の名を冠してやる価値のあることなのかどうか。多くの場合、それは私が土台から築き上げなければならないもので、約束とヴィジョンを伴うものでもある。私はたとえそれで自分を追い込むことになっても、実行するしか選択肢がないことが多いんだ。もっと言えば、私たちはまだ進化が終わっていないことを忘れがちだけど、人間には進化する義務があると思っているんだよ。

あなたの仕事において、美の役割があるとすれば、それは何ですか?

RT:(考えながら)うーん、役割ではないかもしれないけれど……私は一方では、20世紀の文化に浸って育ってきた。つまり、大雑把にいえば、キュビズムからパンク、セリエリズムからグリッチまで、構造の解体や脱構築、破壊することで忙しかった。私が若い頃には、美しいものを真っ当な芸術として見なすべきではないとする風潮があったんだ。これは当然、ものすごく粗雑な一般論だけど、私はそういった束縛から自分を解放して、美を現代の芸術には不可欠な要素として受け入れる必要があると思った。これは延々と議論することができる話で、要約するのは難しい。もう一方で、美というのは、単なる文化的で美学的な話でもなくて、個人の好みを超えたところにあるものだ。好みと、私たちが目で見て、耳で聴くことへの生物学的、そして神経学的反応には、多くの重複する部分がある。例をあげると、完全5度の響きを美しく感じるのは、実は単純な数学的な比率の3対2の隔たりに基づく音程で、自然な振動現象だ。その振動が人の身体の細胞を共鳴させ、背筋が寒くなるぐらい良い音だと感じると、もう何が起きているのかわからなくなる。美とはそれほど深いところにまで届くんだ。最後にもうひとつ、ますます醜くなっている世界において、私たちは美しいもの、広い意味での美しさ、単に綺麗というだけではなく高潔さをそなえたもの、たとえば、誠実さなどから手を離すべきではないんだ。

ピタゴラスは正しかったというわけですね! この科学的な側面について、深く掘り下げたことはありますか?

RT:私は科学にはあまり入こんでいないかな。科学は文明の柱のひとつではあるけれど、測定できないものや、説明できないことを欠いている側面もある。むしろ私は、頭でそういったことを‶知る〟ことを避けている。私は直感で自分の動きを確認するようにしているんだけど、それは直感が脳よりも身体に根差した知識からくることが多いからだ。そして、何よりもその辺はリスナーが音楽を自分なりに取り込むことができるように、オープンにしておきたい思いがある。

あなたが言及された‶高潔さ〟という資質は、優れた芸術と凡庸な芸術を差別化する要素のひとつでもある気がします。美しさについての考えを再考することになった特定のきっかけはあったのですか?

RT:今日、醜さが飛躍的に増加していることや、文明の衰退……なんかであることはたしかだね。不思議なことに、美を守り続けるのは、生存戦略となりつつあり、精神の健全さを保つための意識的な努力にほかならない。それは、広義に理解された美しさのことだ。たとえば、嘘を広めるよりも、事実を認識する方が美しい。あるいは、対立する世界を結んで、対話を促すような美しさ。それが『Spectral Evolution』の核心なんだ。

『Spectral Evolution』に収録された最終ヴァージョンを制作するのに、それだけの労力がかかっていることを踏まえると、それをライヴで演奏したときの感覚はどのようなものだったのでしょうか?

RT:コンサートは、アルバムから構造的な恩恵を受けているので、非常に隙の無い構成になっていて、ライヴで聴く音の響きは、まるで物理的にサウンドフィールド(音場)に没入しているような感覚になる。ハーモニーの情感的な側面と、振動の物理的な体験が結びつけられているんだ。オーディエンスにとっては、とても強烈な体験になっているようで、たまに「泣きそうになった」と打ち明けてくれる人もいる。私にとって、リスナーを音に引き込むことが重要で、それによって愛のフィードバックが生まれるんだよ。

‶愛のフィードバック〟とは、素晴らしい表現ですね! これはあなたとオーディエンスの関係性についての多くを物語っていると思います。

RT:一部のコンサートでは、その感覚が非常にクリアに感じられるんだ。このアルバムとすべての音は愛を込めて制作され、オーディエンスもまた、愛を込めた聴き方で受け入れてくれ、彼らの積極的な関与と、感情の質がステージに送り返されてくるんだよ。

私は常にオーディエンスを敬愛してきたし、彼らの人生で活用できる何かを提供できることにすごく感謝している。何かを捧げて、それが良い受け取り方をされると、それ自体が自分にまた贈り物として戻ってくるんだ。私はいつも、彼らが自宅を出てチケットを購入し、私が演奏するどんな音をも聴くために時間を費やしてくれることを思うと、それに値するものを提供しなければいけないと、心に誓っている。

あなたのキャリアを通じて、オーディエンスとの関係性は、どのように発展してきたのでしょうか?

RT:私は常にオーディエンスを敬愛してきたし、彼らの人生で活用できる何かを提供できることにすごく感謝している。何かを捧げて、それが良い受け取り方をされると、それ自体が自分にまた贈り物として戻ってくるんだ。私はいつも、彼らが自宅を出てチケットを購入し、私が演奏するどんな音をも聴くために時間を費やしてくれることを思うと、それに値するものを提供しなければいけないと、心に誓っている。

『Spectrum Evolution』をライヴで演奏す際に経験されたという激しい感情的な反応は、
新しいことなのでしょうか? 過去の他のプロジェクトからも同じような反応を引き出したことはありますか?

RT:これは新しい体験なんだ。過去にやってきたことよりもずっと情感のこもった作品だし、ライヴではそれを激しい形で表現しているから。

アーティストのなかには、‶感情的(ルビ:エモーショナル)〟な音楽を、あなたが先ほど美しさについて述べたような、疑いの目で見る人もいると思います。あなたもおっしゃったように、これはあなたにとって新しい領域だと思いますが、どうやってここに辿り着いたのでしょう?

RT:はっきりとした感情を扱うのは、私にとっては新しいことだけど、決して意図的なものではなかった。私としては、感情をオープンにしながらも、抽象性を保つことで、リスナーが自分自身の感情を投影できるようにしたいと考えているんだ。これらのハーモニーには感情が組み込まれていて、そこから逃れることはできないと思う。でも、実は、私はそのサウンド自体により興味があるんだけど。

『Spectral Evolution』のライヴは、パフォーマンスごとにどれほど違うものなのでしょうか?

RT:ライヴ版は、拡張されていて、一部の移行部はよりゆったりとしたテンポで演奏している。当初、このアルバムは、ライヴ演奏をする前提で作ったものではなかった。だから、可能な限りライヴでは多くのギター・パートを実際に演奏し、そのいくつかでは即興している。それでも、全体的にはすごく一貫性を保っているよ。細部のヴァリエーションはあるけどね。会場の響きとPAの設定が決定的な影響を与えるから、毎回良い音にするために、何時間もサウンドチェックに費やしている。

あなたのサウンドチェックにはどういったことが含まれますか? その一連の流れを効率化するためのメソッドをお持ちですか? それとも毎回が新しい挑戦のようなものなのでしょうか?

RT:その両方だね! 良い会場で良いPAシステムがあれば作業は楽になることもあるけど、普通は、課題が見つかるものだ。もちろん順序立ったやり方をしていて、強烈でありながらも人びとを誘い込むような、サラウンドな、コクのある音を作るのを目標にしている。誰かを無理に押すようなサウンドではなく、引き込むような音。支配するのではなく、包み込むようなサウンドをね。会場ごとに全然違うから、綿密なチューニングが必要なんだ。

昨年末にあなたが『The Wire』誌で発表した「Wire Mix」を聴いていたのですが、あれはアルバムの素晴らしい補完物となっていますね。ケニー・バレルは本来、私の好みではないのですが、この文脈では完璧に理に適っています。興味本位でお聞きしますが、あなたと伝統的なジャズとの関係はどのようなものなのでしょうか?

RT:常に軌道上の衛星になったような感覚だね。ものすごく注目しているけど、自分は別の場所に立っているような。以前、フリージャズに影響を受けた私のエレクトロニクスのプロジェクト「Space Program」について、こう言及したことがある。‶音楽以外の、すべてがジャズだ〟と。それとはまったく異なる理由から、同じことが『Spectral Evolution』にも当てはまるんだ。ジャズにおける高い人間性には心からの敬意を抱いている。学ぶべきことも、感じるべきことも多い。(ジャズには)知性と心のための深い層が存在するんだ。

あなたのジャズへの理解と、先ほど挙げていただいたような特徴は、歳を重ねるごとに深まっていると思いますか?

RT:ああ、それは確かだね! 私が15歳だった頃、ジャズは理解できなかったし、興味も持てなかった。たまには良いと思えるものに出会うことはあったけれど、それを理解するための知識や経験がなくて、5年か10年経ってから、ようやくその真価を認められるようになった。それらの意味や価値は、それをどのように採り入れるかによって変化していく。例えば、初めてケニー・バレルを聴いたときには、彼がもっとも刺激的なジャズ・ギタリストだとは思えなかったけど(なんとも二〇世紀らしい考え方だね)、自分が演奏するようになってからは、彼をより尊敬するようになった。

あなたはジャズのギタリストとしての技術を持っていると思いますか?

RT:えーっ? いや、まったく! できるだけ学んで吸収したいと思ってやってはいるけど、それはジャズ・ギタリストを目指してやっていることではないし。私は実際の‶音楽〟ではなく、演奏される音に興味を持っているんだ。

「Space Program」時代には、完全にギターから離れていたのですか?

RT:15年間ギターに触っていなかったね。より多くを要求されるギター文化を受け入れるようになった今、まるで一から始めるような気持ちになる。学ぶべきこと、練習すべきことが多くてハードルも高いから、8歳ぐらいの子どもに戻ったような感じだ。困ったことに、自分はほとんどのギター特有の表現法に興味がないのに、それでも演奏はしたいから、どうやったらいいのかと考え中だ……。

あなたは最近、「Layers」という新作からの抜粋を発表しましたね。それについて何か教えていただけることはありますか?

RT:「Layers」は、持続音が蓄積されて、少しずつ互いを置き換えていくという作品で、調性音楽から無調に変化させながら演奏される。その後、とんでもなく複雑に変化し続けるハーモニクスを生み出す装置に通されるんだ。これは、完全にライヴで演奏するための新作だ。「Layers」は、創作過程としてのパフォーマンスを指向した、単一の作品であるのに対し、『Spectral Evolution』は、作曲における繋がりの広い領域を表している。「Layers」はすでに未来の一部であり、自分が愛することを実践している。未知と対峙するということを。


■ラファエル・トラル公演概要
Scaffold #1

2025.06.26
京都 Club METRO | OPEN 19:00 / START 20:00  
早割¥4,000 ドリンク代別途 [受付期間:5/19 17:00〜5/23 23:59迄]
前売¥5,000 ドリンク代別途
https://www.metro.ne.jp/schedule/250626/

2025.06.28
鳥取 jig theater | OPEN 18:00 / START 19:00  
前売 \ 5,500 (定員80名)
https://x.gd/WLRbt

2025.07.01
渋谷クラブクアトロ| OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥6,000 ドリンク代別途
https://www.club-quattro.com/shibuya/schedule/detail/?cd=017126
出演者: Rafael Toral / Jim O‘Rourke×石橋英子

お問い合わせ:
京都Club METRO: ticket@metro.ne.jp
鳥取jig theater:mail@jigtheater.com
渋谷クラブクアトロ:03-3477-8750

主催 (Organize):PARCO
制作(Produce):DOiT / CLUB QUATTRO
協力(Cooperation):Club METRO / jig theater

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interview with Rafael Toral

Written by James Hadfield

As Rafael Toral’s Bandcamp profile puts it, he’s spent his career “bouncing between the music within sounds and the sounds beyond music.” The Portuguese musician has been a vital presence in the world of experimental music for over three decades, but he’s currently enjoying a renaissance on the back of last year’s “Spectral Evolution.” A landmark work, the album unites different strands of Toral’s endlessly inquisitive practice: the liquefied guitar tones heard on early releases like “Wave Field” (1995); the menagerie of unruly DIY electronic instruments he assembled during his “Space Program” period, which ran from 2004-2017. The key ingredient is classic jazz harmony, including the instantly recognisable (if glacially slow) chord progressions of “I Got Rhythm” and “Take the ‘A’ Train,” which give the album a surprising emotional heft.
“Spectral Evolution” was the result of a painstaking three-year process, during which Toral produced 56 versions of the piece. When he turned to his friend Jim O’Rourke for advice, the latter was so taken by what he heard, he revived his long-dormant Moikai label in order to release it.
In an email exchange with Toral ahead of his first tour of Japan since 2008 – where he’ll be sharing a bill with O’Rourke and Eiko Ishibashi – the musician discussed his relationship with jazz, the importance of beauty in an increasingly ugly world, and the “feedback of love” he’s experienced while performing “Spectral Evolution” live. The conversation has been edited for clarity and length.

Speaking about “Spectral Evolution” in an interview with Tone Glow last year, you said you “had to learn and study and develop a lot in order to make this record.” Can you expand on this?

Well, the album has lots of jazz chords and to connect these chords together you need to know what you’re doing. I had to understand why and how a single note out of place steers a chord into a different colour. I wasn’t prepared for that, so a lot of work went into having it done correctly, then convincingly, then beautifully. As I was struggling with that, I asked Jim for advice, and that’s how he decided to release it.

Can you tell me about your relationship with Jim? Do you often share your works-in-progress with him, or was this a special case?

Jim and I have been great friends since 1995 or so; we first met in Chicago. He’s always been way too busy, so it doesn’t occur to me to distract him with stuff. But this case was different: I was struggling with the harmonies and arrangements, because the album was beyond my capacities and I knew I didn’t have a choice but to climb up to that bar. I knew Jim has much more knowledge in many fields of music than myself, so I asked him to listen, as a friend.

Reaching beyond your capacities seems to be a regular thing in your work. Where do you find the motivation to keep pushing yourself like this?

Well, I just try to make sense of what I am supposed to do: Where should my energy go, and where is the nexus of what I want to do; what is a positive move in its time, what is being said, and whether it should bear my name. Very often, it turns out to be something I must build from the ground up and it entails a promise, a vision. I don’t really have a choice but to fulfil it, even if that means I’ll be pushing myself. Besides, I guess it’s easy to forget we’re not done with evolution: I think we actually have the obligation to evolve.

What role does beauty have in your work?

[Thinking] Well, maybe not a role, but… on the one hand, I’ve grown up immersed in 20th century culture, which, broadly speaking, was mostly busy with dismantling/deconstructing/destroying structures, from cubism to punk, from serialism to glitch. When I was young, anything that was “beautiful” was not to be considered seriously as legitimate art. This is a very gross generalisation, of course. But I felt I needed to claim freedom from that and embrace beauty as something integral to today’s art. We could discuss this forever – I can’t really put it in a nutshell. On the other hand, beauty is not simply cultural/aesthetic; it goes beyond one’s likes and dislikes. There’s a lot of overlap between preferences and our biological and neurological response to what we see and hear. Like, a perfect fifth sounds great and is beautiful, but it’s an interval from a simple mathematical proportion, 3/2, and is a natural vibrating phenomena that has the cells in your body resonating, and who knows what else is happening, when a sound gives you chills down the spine because it’s so good – beauty does go that deep. And lastly, the world is getting so ugly that we better hold on to what is beautiful – in a broad sense, not just pretty, but anything that contains elevated qualities, like integrity, etc.

Pythagoras was right! Have you delved much into the science of this?

I haven’t gotten into the science much. Science is a pillar of civilisation but also lacks everything it can’t measure and explain. I also try to keep away from “knowing” that sort of thing with my head. I try to validate my movements with intuition, often from a kind of knowledge that pertains more to the body and not so much to the brain. And besides, I always prefer to leave that open, for the listener to have their own way to integrate the music.

I think the elevated qualities you’re talking about are also often what separates great art from the mediocre. Was there any particular impetus that made you reconsider your thoughts about beauty?

Definitely today’s exponential increase of ugliness, the decline of civilisation… holding on to beauty is strangely becoming a survival strategy, a conscious effort towards sanity. And yes, beauty understood broadly. Like, acknowledging facts is beautiful, as opposed to spreading lies. Or the beauty of bringing opposite worlds together and having them talk to each other: That’s what “Spectral Evolution” is all about.

Given how much work was involved in producing the final version of “Spectral Evolution” heard on the album, what’s it been like performing it live?

The concert benefits from the album’s structure, which makes it very solid, and the way it sounds live is like being physically immersed in a sound field. It connects the emotional aspects of harmony with the physical experience of vibration. It seems to be intense for the audience; sometimes people tell me they almost cried. For me, it’s important to draw listeners into the sound and that creates a feedback of love.

“Feedback of love” is a great image – I think it says a lot about the relationship you have with your audience.

In some concerts, it can be felt very clearly. These sounds and this whole album have been made with love and it’s been met with a loving way of listening by the audience, and that engagement, that quality of feeling, beams back to the stage.

How has your relationship with your audience developed over your career?

I’ve always respected the audience very much and I’m grateful for how I’m able to contribute something they use in their lives. When you give something and it’s well received, that receiving is in turn a gift back to you. I always commit myself to deliver something that justifies their getting out of their homes and buying a ticket and spending their time listening to whatever I play.

Are the intense emotional reactions you’ve encountered when performing “Spectral Evolution” something new, or have you elicited similar responses with other projects in the past?

This is new, as it’s much more emotional than anything I’ve done before, and it’s delivered with intensity.

I think there are artists who'd view "emotional" music with the same suspicion you talked about earlier, in relation to beauty. As you said, this is new territory for you, but how did you arrive here?

Dealing with clearer emotions is new to me and is unintentional. I like to keep emotions open and abstract so that the listener can project their own. These harmonies have emotions built-in and it’s almost impossible to escape them. I’m more interested in their sound, however.

How much does “Spectral Evolution” vary from one performance to the next?

The live version is expanded; some transitions take a more relaxed time. The album was not originally conceived to be played live, so I play as many live guitar parts as possible, and a few of those are improvised. But it’s very consistent: The variation is in the details. The room acoustics and the PA configuration have a decisive effect, and that’s why I spend hours of soundcheck making it sound good every time.

What does your soundcheck involve? Have you found any ways to streamline the process, or is it always a challenge?

Both! I mean, sometimes a fine PA in a good venue makes things easier, but it’s usually a challenge. I do have a sequenced method and the goal is to create a surround body of sound that is intense but invites people in. A sound that doesn’t push you, but pulls you instead. A sound that isn’t there to dominate, but to embrace you. Every room is different, so the tuning has to be very precise.

I was listening to the mix you did for The Wire at the end of last year, and it’s a fascinating complement to the album – Kenny Burrell isn't normally my thing, but he makes perfect sense in this context. Out of interest, what’s your relationship like with the jazz tradition?

It’s always been like a satellite in orbit. Totally focused in but standing elsewhere. Once I said about the Space Program (my previous free-jazz inspired project of electronics), “It’s all jazz, except the music.” For entirely different reasons, the same applies to “Spectral Evolution.” I have a lot of admiration for the heightened humanity of jazz. There’s a lot to learn and a lot to feel. Layers of depth for the mind and heart.

Do you think your appreciation of jazz, and the qualities you mentioned, has deepened as you get older?

Oh yes, indeed! When I was 15, jazz just didn’t make sense to me and I didn’t have any interest in it. Sometimes, I’d come across something that I could acknowledge was good but I didn’t have the references or experience to process it, eventually becoming able to appreciate it only 5 or 10 years later. The meanings and values change with respect to how you integrate them. For example, when I first heard Kenny Burrell, I thought he wasn’t the most exciting jazz guitarist (there goes the typical 20th-century thinking). But when I started playing, now I’ve come to respect him a lot more.

Do you have jazz chops as a guitarist?

Gosh, no! I do try to learn and absorb everything I can, but it’s definitely not towards becoming a jazz guitarist. I’m interested in the sound of the guitar as it’s played, more than the actual “music”.

Did you completely step away from the guitar during your Space Program period?

I didn’t touch a guitar for 15 years. As I’ve embraced a much more demanding guitar culture, I feel like starting from scratch. There’s so much to learn and practice, because the stakes are so much higher, so it’s almost like I’m 8 years old or so. To make it more difficult, I find myself uninterested in most guitar idioms, but I still want to play – so I’m figuring out what…

You recently released an extract of a new piece called “Layers.” What can you tell me about it?

“Layers” is an accumulation of sustained notes, gradually replacing themselves, played with varying degrees of tonal intention. Then it goes through some gear that brings out incredibly complex and shifting harmonics. It’s a new piece to be played fully live. “Layers” is just one specific thing, more simple and completely oriented to performance as a creative process, as opposed to “Spectral Evolution” which is a broad field of connections in composition. “Layers” is already part of the future and doing what I love: engaging with the unknown.

dazegxd - ele-king

 在日アメリカ人DJ・migeruが東京を拠点に展開するパーティ・シリーズ〈GOODNIGHT〉が、7月25日(金)にCIRCUS TOKYOにて40回目の開催を迎える。記念すべき本回のゲストには、先日Web ele-kingでも取り上げたハイパーポップ/デジコアの第一人者ジェーン・リムーヴァーのサポートDJとしてツアー全日程に帯同中のdazegxdを招聘。

 dazegxdは、ポスト・ハイパーポップの潮流をリードするアメリカのインディ・レーベル〈DeadAir〉とニューヨーク・ブルックリン拠点に活動するプロデューサー。自身の手がける作品群は、ゼロ年代のVGMやレイヴ・ミュージックに影響を受けたジャングルやドラムン・ベース、(2020年代以降のリヴァイヴァルの潮流を汲む)アトモスフェリックなブレイクコア、そしてガラージなどのベース・ミュージックだそうだ。「NYCガラージ」という、(UK的なそれではない)新たな流れもSwami Sound、gum.mp3といった面々とともに牽引中で、昨年には自身の主催するコレクティヴ〈eldia〉によるパーティの東京編を初開催するなど、日本のポップ・カルチャーへの愛も深い。

 また、本回をサポートするローカル・アクトには、先日〈POP YOURS〉にも出演した国産ハイパーポップの代表的存在であるlilbesh ramkoによるライヴ、discordsquad2k、666、wagahai is neko、Yurushite Nyan、GOODNIGHT CREWによるDJセットがラインナップされている。いずれもコロナ禍以降のクラブ・シーンに出現した、ジャンルレスでエッジの効いたプレイを得意とするプレイヤーたちだ。

 2020年代以降様変わりしたクラブ・シーンの世界的潮流と、日本のローカル・シーンでいま起きていることが交わる興味深い一夜と思われる。昨今の流れに馴染みの薄い人も、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

7/25 (Fri)
GOODNIGHT vol.40
at CIRCUS TOKYO
23:00 OPEN / 5:00 CLOSE
ADV: ¥2,500+1d / DOOR: ¥3,500+1d

Ticket: https://circus.zaiko.io/e/goodnight40

Special Guest
dazegxd (Brooklyn, NYC)

LIVE
lilbesh ramko

DJ
666 (yuki+maya)
discordsquad2k (fogsettings+ikill)
wagahai is neko
Yurushite Nyan
GOODNIGHT CREW (skydoki+NordOst+migeru)

VJ
emiku
suleiman.jp

 先月、NHKで放送された国内最大規模の音楽賞番組「MUSIC AWARDS JAPAN」は「透明性」をキーワードに掲げていた。同番組は放送後も「透明性」を軸に語られ、そうした議論をいくつか聞いていると、それまで音楽賞番組の代名詞だった「日本レコード大賞」はよっぽど「透明性」に欠け、「透明性」の重要性が説かれれば説かれるほど「日本レコード大賞」は金が飛び交う賞番組なのだなという印象が増していった。放送日が年末年始でなかったのは「日本レコード大賞」への配慮からだろうし、アイドル部門で最優秀アイドル賞を受賞したスノーマンが授賞式を欠席しても、旧ジャニーズ事務所が事務所ごと「日本レコード大賞」の不参加を決め込んだようなことは(まだ)起きていないと思わせる演出も随所に施されていた(「不透明」だったのはプレゼンターの人選ぐらい?)。ちなみに「MUSIC AWARDS JAPAN」は音制連や音事協など5つの音楽主要団体が選考の主体で、「日本レコード大賞」の主催は各新聞記者。

 山口百恵は一度も「レコード大賞」を受賞していない。AKB48がレコード大賞を取った日、小学生だった姪は「日本は終わった」とやさぐれていた。中森明菜が新人賞を取れなかったのは大手事務所が金をばらまいて阻止したからだということはよく知られている。家に送られてきた賄賂を送り返したと話す審査員にも僕は会ったことがある。このように「評価」のシステムが「不透明」なのは、何も音楽業界だけではなく、日本全体に浸透している権力のあり方と関係し、そうした構造を既得権として告発し、すべてに「透明性」を与え、「自由競争」を促そうというのが新自由主義である。「MUSIC AWARDS JAPAN」も「透明性」を謳い、評価の基準を明確にしてマーケットを正常化したいという志が動かしていたのだろう。そこにはいわゆる外国の目があり、外国のマーケットがあり、日本の音楽事務所がここ数年、アメリカの投資家に買いまくられていると思ったらやたらとJ-ポップがビルボードのチャートに入るようになったという現実もある。日本の音楽はユニークだ、日本の音楽は外国に通用する、日本の音楽を外国に売りたい、という欲望が「MUSIC AWARDS JAPAN」のそこかしこから吹き出し、日本の音楽が外国のマーケットに進出した象徴として “ライディーン” のリブートからスタートしたのも本音がよく出ていた。もちろん、高橋ユキヒロへの追悼はなかった。

「MUSIC AWARDS JAPAN」を観ていて僕には淀んだ気持ちはあってもブレイクスルーの感情は湧いてこなかった。「不透明」の代わりにあったのは「数」の論理である。最も多い投票数を集めて日本で一番優れているミュージシャンとされたのがミセス・グリーン・アップル。1年前に植民地主義を肯定する表現が問題視されたバンドで、彼らのような存在をいま日本の顔に選ぶなんて、投票した人の見識は大丈夫なんだろうかと思ってしまった(ちなみにレコード大賞と同じ結果)。音楽の優劣が「数」で決まる(とはいえ、投票数が公表されたわけでもない)。「数」というのはつまり数字で、これもまた別な意味で金である。「不透明」が汚れた金なら「数」が導くのはきれいな金ということか。日本社会の「不透明さ」は姪の心を打ち砕いてしまったけれど、どうやら僕の心を打ち砕くのは「数」である。暴力の質が変わっただけともいえる。開会宣言で細野晴臣が「ただ好きなことをやっていただけ」と、暗に自分は「数」とは無縁だと述べたことは結果的に番組への最大の抵抗になっていた。音楽には金よりもマジックを呼んでほしいと思う僕は「数」の論理から遠く離れた音楽を聴くことしかきっとこの先もできないだろう。そもそも正常化したマーケットのなかにだけ音楽があるわけではない。金でもなければ数でもなかった音楽家の名前を、ここで僕はどうしても思い浮かべてしまう。忌野清志郎さんである。忌野清志郎という音楽家の才能を評価する基準は、いま、日本社会のどこにも見当たらない。この先もないかもしれない。「低脳なヤマ師と 信念を金で売っちまう おエラ方が 動かしている世の中さ 良くなるわけがない あきれて物も言えない」(RCサクセション “あきれて物も言えない”)

 東芝EMI時代に知り合い、その後も彼が会社を変わるたびに何かと縁のあった高橋康浩が忌野清志郎についてまとめた著作『忌野清志郎さん』の構成を少しばかり手伝った(本日・発売)。高橋くんは昔から業界っぽく喋るのだけれど、業界っぽく聞こえたことがない。根が純真なので、スカしても様にならないし、何を話してもロックが好きだということしか伝わってこない。キング&プリンスの高橋海人があまりにも高橋くんに似ているので「もしかして子ども?」と訊いたら「みんなにそう言われる」と憮然としていた。高橋くんとは一時期、清志郎さんのプロモーションでTV局を巡ったことがある。『ねるとん紅鯨団』の収録では清志郎さんが例によって大遅刻で、ついさっきまで西田ひかるが座っていた椅子に異様な執着を示していた高橋くんもタイム・リミットが過ぎてからはスタッフに「もう来ます」「家を出ました」と平謝りで、西田ひかるの椅子どころではなくなっていた(浅草ROXでの公開収録なのでお客さんも待ち続けた)。しかも収録が始まると清志郎さんはVTRを見ながら「面白くない」「興味ない」を連発。途中で一回だけ「少し面白くなってきた」と発言し、最後は「やっぱりつまらなかった」と言って急に坂本冬美の “能登はいらんかいね” を歌い出した。とんねるずも「清志郎さんじゃ仕方がない」というジェスチャー。同番組のオン・エアを観たら「少し面白くなってきた」と “能登はいらんかいね” しか使われていず、清志郎さんはずっと番組を面白がっていたかのように編集されていた。まあ、そういうものかもしれないけれど、TVの編集って事実とは正反対の印象を与えられるんだなということを、その時は学ばせてもらった。

 高橋くんが清志郎さんのプロモーションに加わる以前、僕はレコード会社でも事務所の人間でもないのに、どういうわけか清志郎さんがTV局に行く時はいつもくっついていた。初めて行ったのは確か『オレたちひょうきん族』で、『RAZOR SHARP』のプロモーションのために “AROUND THE CORNER / 曲がり角のところで” を歌う場面もあったけれど、鹿の着ぐるみを着て、ただ突っ立っているだけだったりと、清志郎さんがやらされていることには「なんで?」と思うことが多かった。本人が楽しんでいるならいいかとは思うけれど、RCサクセションを続けるべきか、やめるべきか、曲がり角のところで考えていたり、河を渡ったり、考えが変わったり、夢は終わったし、二度ともどれはしないし、いったい ぜんたい ここはどこで、新しいアイディアを聞かせておくれと、ありったけの苦悩がぶちまけられた作品を世に伝えるにしてはどうもフォーマットが合っていないような気がした。『RAZOR SHARP』はロンドンでレコーディングしている時からプロモーション・ヴィデオの撮影や宣伝用の写真撮影、それとジャケットの撮影にも立ち会ったので、内容とリンクしていないと思うことは最初から少なくなかった。英語圏のクリエイターたちとはやはり意思疎通が難しく、ジャケット撮影から特急で3日後にあがったデザインのラフを見て清志郎さんはジャケットに入れる名前の表記も、たとえば「Johnny "Guitar" Watson」のように「KIYOSHIRO IMAWANO」の間に、あだ名のようにして "忌野清志郎”と入れて「KIYOSHIRO "忌野清志郎” IMAWANO」と読めるようにしてほしいと頼んでいたのだけれど、結局これは直らなかった。アイコン(というデザイン事務所)のデザイン・ワークも彼らが直前に手掛けたポール・ヤングの使い回しで、ギザギザのカットが半分に減ってるだけ。そもそもジャケット撮影も清志郎がどんなメイクをしているのか知らないために、メイクさんからどうメイクしていいのかわからないと言われ、清志郎さんも途中で宣伝部の近藤(雅信)さんに「写真は持ってこなかったのか」とやや怒り気味。いつもはファンキーな近藤さんもその時は真っ青になって「すいません」と頭を下げるだけだった。結果的にRCでやっていたメイクとは違う顔が出来上がり、むしろ良かったのではないかと僕などには思えたものの、スタジオの雰囲気は途中まで最悪。それを挽回するようなデイヴィス&スターによるユニークな撮影方法は前にどこかで書いたので省略するとして、後日、届いたポジを見て「どれも使えない」という声が出た時は僕まで切羽詰まってしまった。ディレクターの熊谷(陽)さんはアタッシェ・ケースに現金をぎっしりと詰め込んでスタンガンで武装しながらスタジオやデザイン事務所を飛び回り、なんというか、『RAZOR SHARP』のジャケットって、よくかたちになったなあといまだに感慨深い。

 ヴィデオの撮影でもメイクはネックになった。ヴィデオ・チームのメイクさんは魔法使いのような服を着た女性で、同じく参考になる写真はない。だんだんと出来上がっていく顔はデイヴィス&スターによるジャケット写真ともイメージが異なり、清志郎さんの顔は分を追うごとにチャイニーズ・マフィアのボスみたいになっていく。おそらく周囲にいたブロックヘッズの雰囲気に合わせたのだろう。そう思うと違和感はなくなる。メイクの女性にはうっすらとヒゲが生えていて、清志郎さんはそれをコソコソと面白がっていた(そんなことしてる場合じゃなかったのに)。ヴィデオを観てもわからないとは思うけれど、撮影場所はスタジオではなく、大きな図書館で、2階の本棚をすべて端に寄せ、クレーンを持ち込んでぐるんぐるんとカメラを移動せながら撮影していった。豪快だった。何度かリハがあり、清志郎さんのメイクが完成したところで、シェフがみんなのランチをつくり始めた。ところが、清志郎さんだけはメイクが崩れるという理由で食事禁止。これはさすがに段取りが悪い。なんともいえない空気のなか、僕もなぜか食事をもらえたので、申し訳なく思いながら食べた。おいしかった。

 こんなことを書いているといつまで経っても終わらない。清志郎さんと食べもののエピソードだけでもどこまででも筆が伸びてしまう。メイクの人が清志郎さんの髪をいじっている時に「昔はマッシュルーム・カットだったんですよね」と僕が訊くと「あれはイリヤ・クリヤキン・カットなんだ」と教えられ、日本に帰ってから調べてみると、ナポレオン・ソロの相棒のことだと判明したり(よほど人気があったみたいで、ジューシー・フルーツの奥野敦子がイリヤと名乗っていたのもこのキャラクターから。後に清志郎さんのラジオでクリーナーズ・フロム・ヴィーナス “Ilya Kuryakin Looked at Me” を探し出してオン・エアしたのは私です)。僕は『RAZOR SHARP』『MARVY』『COVERS』の宣伝を手伝い、高橋くんの著作はファンだった時代を助走部分として仕事的には『コブラの悩み』からタイマーズ、『Baby A Go Go』へと続いていく。高橋くんが路上ライヴを始めたあたりから宣伝の質は大きく変わる。メディアを集めるというよりはメディアが寄ってくるように仕向け、売るためにやるというよりは結果的に売れる方法を清志郎さんと高橋くんは探っていたのかもしれない。時代はそろそろミュージシャンや各ジャンルのクリエイターが自分のやったことをきちんと説明し、プレゼンテーション能力を上げ始めた時期である。ミュージシャンが好きに歌い、ライターが好きに書くことは許されなくなり、それが出来なければマーケットの外に出て行けといった雰囲気も強くなっていた。本書を読んでいると、プロモーションのシステムがだんだんと固まっていった時期に2人は逆らいたかったのかなとも思う。

 ソロになってからも高橋くんは断続的に清志郎さんと仕事を続け、亡くなった後もファー・イースト・プロモーション・マンであり続けている。清志郎さんからの信頼がハンパなかったことは行間をびしょびしょにするほど滲み出ていて、いつも清志郎さんのことを考えているからだろう、たまに会うと考えが深まっているのは驚かされる。RCの末期に「同じことの繰り返しから見えてくるものがある」と清志郎さんはアレンジを変えないで演奏するわけを話してくれたことがあった。同じ人がやったことを何度も考えることによって見えてくるものはあり、何度でも同じことを話すことにも意味はある。少なくとも僕も高橋くんも、あと野田くんも、清志郎さんのことを話すことには飽きたことがない。チャットGTPと話すよりも清志郎さんのことは高橋くんや野田くんと話す方が面白い。3人ともインターネットに書かれていないことをたくさん見聞きしているから。しかも感情の高ぶりを共有できるから。僕とか佐川秀文は当時、東芝EMIの近藤さんから主に発注をもらい、プロモーション用の冊子を編集したり、取材をして原稿を書くことが多かった。なので、宣伝部の人たちが現場で何をやっていたかは、実は本書を手伝うまで知らないことも多かった。タイマーズのライヴで、怒った客に胸ぐらをつかまれ、殴られる寸前だったなんて、そんなことがあったなんてまったく知らなかった。実は僕も大阪のライヴで、入り待ちのファンが多過ぎて楽屋入りできない清志郎さんの身代わりになったことがあった。背格好が同じなので、清志郎さんの服を着て近くを車で通り過ぎ、楽屋と反対方向にファンを惹きつけたはいいけれど、清志郎ではないとわかったファンに罵詈雑言を浴びせられた。なので、ファンに胸ぐらをつかまれる心境というのはわかる気がします。あれはたまりませんよね。ファンの熱意が高いことに問題があるわけではないので、この気持ちをどこに持って行けばわからないだけで。高橋康浩の『忌野清志郎さん』は高橋くんの胸ぐらをつかんだファンの人にはぜひ読んでもらいたい。その人の手に届くように、読んだ人はみんな、SNSで広めるよう努力してください。権力を持たない人たちが「数」の論理を持ち出すのはむしろいいことですから。なんて。

「俺は資本主義の豚で 無い物を売り歩く ああ この街で会えるなんて 不思議」(RCサクセション “不思議” )

world’s end girlfriend - ele-king

 去る6月13日、world’s end girlfriendの新曲 “Helix of frequency, Phenomenon of Love and Void (feat. Jessica)” がリリースされているのだが、なんとも興味深い試みが為されている。

https://virginbabylonrecords.bandcamp.com/track/helix-of-frequency-phenomenon-of-love-and-void

 作詞・作曲はworld’s end girlfriend。アートワークには山田優アントニの作品を使用。ヴォーカルにJessica、コーラスにMON/KU、ヴァイオリンにkumi takahara、チェロにSeigen Tokuzawaを迎えた同曲は、無料でダウンロードできるかわりに、聴き手はあるルールを遵守しなければならない。そのルールとは――
 曲を聴きながら以下のメッセージに目を通して、world’s end girlfriendがなにを思い今回のリリースを決断したのか、考えてみよう。

この楽曲は無料(または任意の価格)でダウンロードが可能ですが、
聴くものには以下のルールが課されます。

以下、ルール表記とコメント。
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この楽曲を聴かれる方は、以下のルールを遵守してください。
If you listen to this song, please follow the rules below.

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ルール:
The Rules:
*この楽曲は、無料または任意の価格を設定してダウンロードすることができます。
**This song can be downloaded for free or at an arbitrary price.

*この楽曲を聴いたその日から、「1年間、生きる」というルールがあなたに課されます。
(ルールを拒否し楽曲を聴かないという選択もできます)
**From the day you listen to this song, a rule is imposed upon you: "Live for one year."
(You may also choose to reject these rules and not listen to this song.)

*この楽曲は、個人間で自由に受け渡すことが可能です。
ただし、その場合も同じルールが受け取った方に課されます。
**This song can be freely transferred between individuals. However, the same rule will be imposed on the recipient in that case.

*YouTubeやSNSなど不特定多数が視聴できる場での楽曲の公開・配信は禁止とします。
**Public sharing or distribution of the song on platforms accessible to an unspecified number of people, such as YouTube or SNS, is prohibited.
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これは楽曲に約束が付随し、あなたが自分自身とそして私と約束(または優しい呪い)を交わすようなもので、あなたと楽曲との関係性はどうなるのかの実験です。
This is an experiment to see how your relationship with this song evolves, as it comes with a promise(or a gentle curse), like you are making a commitment to yourself and to me.

お楽しみください。
Please enjoy.

world’s end girlfriend

Tramhaus - ele-king

 近年はオランダからさまざまなインディ・バンドが登場してきている。昨秋デビュー・アルバム『The First Exit』を発表したばかりのロッテルダムのトラムハウス、彼らもまた注目しておきたい一組だ。
 そんな彼らの来日公演が、村田タケル氏の主催・企画により実現することになった。7月1日@福岡UTEROを皮切りに、7月3日@大阪SOCORE FACTORY、7月8日@⻘山月見ル君想フの3か所を巡回、福岡公演にはaldo van eyck、大阪公演にはRedhair Rosy、東京公演にはDYGLも出演。DJとして、村田タケル(東京・大阪)、ナカシマセイジ(大阪)、NOBODY Crewのashira、yabu(福岡)らが各公演に花を添える。
 以下、Casanova S.氏による来日直前インタヴューをお届けしよう。

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 いまオランダで何か面白いことが起こっている、ここ数年ずっとそれを感じていた。「俺たちよりペイヴメントに似ているバンドを発見したんだ!」ライヴを見てそう言ったスポーツ・チームが興奮し、彼ら自身のレーベルからリリースしたアムステルダムのパーソナル・トレーナーに、〈Heavenly〉から3枚のアルバムを出しているピップ・ブロム。もう少しアンダーグラウンドなバンドだとア・フンガスにリアル・ファーマーがいるし、今年出たグローバル・チャーミングの2ndアルバムも素晴らしかった。ロッテルダムにはネイバーズ・バーニング・ネイバーズが存在し、そして何よりどんなメディアのこれから来るバンド・リストと比べても勝るとも劣らないラインナップを誇るインディ・バンドのショーケース・フェス、Left of the Dialがある。

 だけどもUKやUSのレーベル経由でなければその外になかなか情報が届くことはない(歯がゆくもあるけれど、インターネット時代であろうとも伝わるルートやスペースというのは限られているのだ)。だからその良さや興奮はもっぱらライブを目撃した人の口コミで広がっていく。上記のパーソナル・トレーナーの話がその良い例だろう。

 そんな中、2年前の2023年の秋にロッテルダムのポスト・パンク・バンド・トラムハウスを見ることができたのは本当に幸運だった。サウスロンドンのシェイム、あるいは初期のフォンテインズD.C. の名前が頭に浮かぶような、 ルーカス・ヤンセン(Vo)ナジャ・ヴァン・オスナブリュッヘ(Gt) ジム・ルイテン(Dr)ミシャ・ザート (Gt)ジュリア・ヴローグ(Ba)からなる5人組トラムハウス。このバンドはステージの上で自身から発せられるエネルギーを形作り観客を巻き込むように広げていって、その姿がたまらなく魅力的に映ったのだ。

 この世界には素晴らしいバンドがたくさん存在する。心に同じ炎を抱く非なるもの、その熱を伝えるべくトラムハウスは世界を回る。UKツアーを終え、ヨーロッパ、アジア、そして再び日本へと。バンドは1stアルバム『The First Exit』を手にして2回目の来日公演を迎える。その直前、ヴォーカルのルーカス・ヤンセンにロッテルダムの音楽事情、そして現在のトラムハウスについて話を聞いた。(Casanova.S)


2023年に続き、再び日本でライブを見られることをとても嬉しく思います。前回の来日公演では、デビュー・アルバムがまだリリースされる前だったというのにも関わらず、大盛り上がりでライヴ・バンドとしてトラムハウスの力を感じました。あの時のショーで、特に印象に残っている瞬間はありますか?

ルーカス・ヤンセン(Lukas Jansen、以下LJ):また日本に戻って来られることを、僕たちも本当に嬉しく思っています。前回は人生で最高の時間を過ごしました!特に忘れられないのは、東京の下北沢Basement Barでの2回目のライブです。その1週間前に行った最初の日本公演では、正直、会場はあまり埋まっていませんでした。初めての来日公演だったので当然ですね。でも、君も観に来てくれた2回目のライブでは会場がパンパンになって、観客が本当に熱狂的で。あれには心底驚かされました。

前回の来日時には日本を観光する時間もあったそうですね。印象に残っている場所やエピソードがあれば教えてください。

LJ:少し時間があったので観光もできました。東京や大阪はもちろん、京都にも行って、とても素敵な体験ができました。でも一番印象に残っているのは、ある夜に東京でファミリーマートからファミリーマートへ、居酒屋からセブンイレブンへ、また居酒屋、そしてまたファミリーマートへ……と飲み歩いた夜ですね(笑)。それぞれの場所で一杯飲んで、ちょっとつまんで、気づけば朝方まで歩いていました。

トラムハウスのサウンドには、ソリッドで荒々しいポスト・ポンクだけではなく、ユーモアと遊び心のあるアレンジが随所に施されていて、そこがとても独自のものとして魅力的に感じられます。このサウンドはどのようにして生まれたのでしょう?音楽に限らず、影響を受けたものがあれば教えてください。

LJ:僕たちは全員が異なる音楽に親しんで育ったことが、君のいう「独自のもの」に繋がったのだと思います。たとえばバッド・ブレインズ、ターンスタイル、トラッシュ・トークのようなハードコアやパンクを聴いて育ったメンバーもいれば、スロウダイヴマイ・ブラッディ・ヴァレンタインといったシューゲイズに夢中だったメンバーもいますし、インディ系をたくさん聴いてきたメンバーもいます。ツアーで、1年のうち何ヶ月も何時間も一緒のバンで移動して、お互いに聴いている音楽をシェアする機会が多いので、自然と触れる機会の少なかった音楽ジャンルへの理解も深まっていきました。それが、新しい音楽の発見の仕方や、曲作りにも影響していると思います。僕たちの音楽を“遊び心がある”と表現してもらえたのは初めてですが、自分たちでも「それ、けっこう当たってるかも」って思いました(笑)。

今回はデビュー・アルバムがリリースされた後のライブとなります。既存の曲を収録せずに新曲のみの構成となったこの1stアルバムでは何を表現しようとしたのでしょうか?

LJ:僕たちはこれまでEPや7インチで多くの曲をリリースしてきました。それらの曲をフルアルバムに再録して欲しいという声もありましたが、ファンや自分たちにとってこのレコードは完全に新しい曲で構成するのがベストだと思ったのです。それで、リハーサルスタジオにこもって、2週間ほどでこのアルバムを書き上げました。このアルバムは、トラムハウスがバンドとしてどういう存在なのか、そして 「僕らの 」サウンドとは何なのかを最もよく表している作品だと思います。激しくて怒りに満ちた曲もあれば、スロウで内省的な曲もあります。一つの曲の中でも、重さと軽さの間を行き来するような構成になっています。

デビュー・アルバムをリリースした前と後で変わった点があるとすればそれはどのような部分でしょうか?

LJ:今こうしている間にも、私たちは新しいサウンドを書き、変化し続けています。そう、僕たちのバンドは常に変わり続けているんです。初期に作った曲を今でも演奏していますが、新しいセットリストに合うようにアレンジを変えたり、他の曲とのつなぎ方を工夫したりしていて、常に進化を続けているんです。

オランダの音楽シーンについて教えてください。UKやUS の影響を受けながらも国内の音楽の影響も混じって独自のものが出来上がる印象で、日本の音楽シーンにも通じている印象です。実際のところオランダやロッテルダムのバンドシーンに特徴的なことはあるでしょうか?

LJ:オランダの音楽シーンは、国と同じように小さく、つながりが強いです。ミュージシャンも、アーティストも、プロモーターも、だいたい知り合いです。その点がすごく好きですが、ときどき“新しさ”を求めたくなることもあります。UKやUSからの影響は避けられませんが、ヨーロッパ各地を回ってみて、僕らの国には素晴らしい音楽がたくさんあると実感しました。ただ、そうした音楽でも過小評価されていると感じることも多いことが残念ですね。

アムステルダムとロッテルダムは東京と大阪の関係に似ているという話を聞いたことがあります。あなたたちの視点からだと、それぞれどんな違いがあると思いますか?ロッテルダムがどんな街なのかも教えてください。

LJ:ロッテルダムはオランダ第二の都市で、首都であるアムステルダムは第一の都市です。それが「カリメロ・コンプレックス」って言われる要因になっていて、ロッテルダムの人たちは、自分たちの街に対して正当であれ不当であれ、すごく誇りを持っているんです。最近、妹と話していて「ロッテルダムって街としてはブサイクだよね」って言っていて、僕もその意見には一票を投じたいんだけど、そのブサイクさこそが、この街のユニークな魅力でもあるんです。ちょっと説明をさせてもらうと、ロッテルダムは第二次世界大戦で爆撃されて、以降「未来の都市」を目指して再建されたので、建築家たちが好き勝手にクレイジーなデザインの建物を志向するようになったんです。とはいえ、好き嫌いはあると思いますが、オランダの中でロッテルダムのような街は他にはありません。初めて来る人にとっては、賑やかでちょっと荒っぽくて、いろんなことが起きている街。でも、時々すごくきれいな瞬間もあります。「それを見つけるには相当掘らないとダメだけどね」と言う人もいると思いますが(笑)。ええ、妹は間違いなくそう言っていました(笑)。

そんなロッテルダムでは、世界中のインディ・バンドが集まるショーケースフェスティバル「Left of the Dial」も開催していますよね。以前UK・ノッティンガムのバンド、オタラにインタビューした時に「こんなに待遇が良かったことはなかったし、こんなに好きなバンドを見られるチャンスがあったこともなかった」 とこのフェスのことを話していたことが印象に残っているのですが、地元のあなたたちの目から見たこのフェスはどのようなものなのか教えてください。

LJ:Left of the Dialは、ここ最近のロッテルダムで起きた中でも最高の出来事です。とにかく最高の週末で、今年の開催も待ちきれません。実は今これを書いているときも、Left of the DialのTシャツを着ています(笑)。このフェスは本当に誠実で、主催者の思いがちゃんと伝わってくるんです。バンドにとっても本当に大きな支えになっていて、結成したばかりの頃でも出演させてもらえましたし、その後も大きなステージに呼んでもらいました。本当に大好きなフェスです。

オランダ国内外に関わらず、同世代で注目しているバンドがあれば教えてください。

LJ:ヨーロッパ圏でいうと、北マケドニアのルフトハンザや、フランスのサーヴォ。どちらも素晴らしいバンドで、人としてもすごく素敵です。

デビュー・アルバムのリリース後、UK、US、ヨーロッパと幅広い地域をツアーしてきました。それぞれの街の音楽文化や空気など、違いを感じた部分や、新たに意識した部分はありますか?

LJ:本当に、どこに行っても観客の反応が全然違って、それがツアーの醍醐味の一つです。毎回たくさんのことを学んでいます。同じヨーロッパ内でも文化や社交のスタンダードが大きく違っていて、それがすごく面白いんです。すぐに言葉にはしにくいですが、ツアーを終えるたびに、出会った人々から大きな刺激を受けています。

2023年の来日公演でもそうでしたが、トラムハウスはステージ上で生まれる熱を押し広げて会場全体に一体感を生み出すようなステージングが印象的でした。ライヴ・パフォーマンスをする上で意識しているところがありましたら教えてください。

LJ:“エネルギー”に集中するようにしていて、それを広げることができたらいいなと思っています。ただ、それもあえて意識してやっているわけではなく、楽しく演奏すること、自分たちの音楽をしっかり届けることを第一に考えています。あとは自然と出てくるものですね。

現在、2枚目のアルバム制作にも取り組まれているそうですね。新たなインスピレーションや方向性など、お話できることがあれば教えてください。

LJ:新しいインスピレーションもあって、前作とは少し違ったサウンドにもなると思います。今はまだすべてがデモ段階で、歌詞もほとんど書かれていませんし、曲もまだ下書きのような状態です。でも、確実に前に進んでいます。

今回の日本公演では、新曲を披露する予定はありますか?

LJ:それができたら本当に嬉しいんですが、残念ながら間に合わないかもしれません。でも、あと数週間あるので、1〜2曲仕上げて試せたらいいなと思っています。あくまで「かもしれない」ですけど(笑)。

ありがとうございます。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

LJ:前回の来日公演が終わってからずっと、「また日本に行きたいね」と話していました。それがまた実現して、めちゃくちゃワクワクしています。みなさんに会えるのを本当に楽しみにしています!

(質問:Casanova.S)

TRAMHAUS JAPAN TOUR 2025

7月1日(火)福岡 UTERO
with aldo van eyck | DJ ashira / yabu

7月3日(木)大阪 Socore Factory
with Redhair Rosy | DJ ナカシマセイジ / 村田タケル

7月8日(火)東京 月見ル君想フ
with DYGL | DJ 村田タケル

チケット情報
https://lit.link/tramhausJapantour2025

Mars89 - ele-king

 Mars89が主宰する〈Nocturnal Technology〉が初となるレーベル・ナイト「Nocturnal Technology presents NIGHT-001」を7月5日(土)に渋谷・WWWβにて開催。本年1月に同レーベルから発表された、Albino Soundとの「ボディーホラー」をテーマにしたアルバム『ORGANS』のリリース・ライヴを披露する。

 ワルシャワのレーベル〈Brutaż〉を主宰し自身も名店〈HARDWAX〉の運営に関わるDJ・RRRKRTAによるオール・ヴァイナル・セットを迎え、ローカル・アクトとしてハウスを主軸にレフトフィールドなアプローチを続ける音楽家Yoshinori Hayashi、大塚のアンダーグラウンドなヴェニュー〈地底〉を拠点に活躍する新鋭RE:COが出演。

 直訳すると「夜行性の技術」といった意味合いになるだろうか、〈Nocturnal Technology〉という名を体現した、夜を愛してやまないMars89の哲学を存分に体験できる一夜となることだろう。

Nocturnal Technology presents NIGHT-001

2025/07/05 SAT 23:00 at WWWβ
U23 ¥2,000 / ADV ¥2,500 / DOOR ¥3,000
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20250705wwwb

Albino Sound & Mars89 ORGANS Release LIVE
RRRKRTA [Brutaż / Warsaw]
RE:CO
Yoshinori Hayashi

Over 20 only・Photo ID required / 20歳未満入場不可・要顔写真付ID

*当日映像の撮影を予定しています。顔などが鮮明に映らないよう配慮しておりますが、あらかじめご了承ください。
*本プログラムはRRRKRTAの渡航費の一部としてポーランドのAdam Mickiewicz Instituteからサポートをサポートを受けています。

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 Mars89主宰のレーベルNocturnal Technologyが、そのアティチュードを体現する夜会を開催する。同レーベルからボディーホラーをテーマにしたアルバム『ORGANS』をリリースしたAlbino SoundとMars89が、初のセッションライヴパフォーマンスを披露する。そして、レフトフィールドなダンスミュージックをリリースし続けているワルシャワのレーベル「Brutaż」のボスであり、ベルリンの名門レコードストアHARD WAXの裏方も務めるRRRKRTAが大量のレコードと共に初来日を果たす。国内からは、同じくレフトフィールドなダンスミュージックを探求し、ノルウェーの〈SMALLTOWN SUPERSOUND〉からアルバムをリリース、レコード・フリーク達を唸らせてきたDJでもあるカルト電子作家Yoshinori Hayashiと、若手ながらもスキルフルにダブやテクノを横断、大塚地底のCALDERAよりRE:COが登場する。

 Nocturnal Technologyは、東京を拠点に活動するDJ/プロデューサーのMars89による、夜をテーマにしたエレクトロニック・サウンドのレーベルである。レーベル名の「Nocturnal Technology(夜行性の技術)」は、クラブカルチャーの技術が夜間に活気づくことを意味している。レーベルのロゴは、音を使って暗闇で行動する動物であるコウモリへのオマージュである。

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Scanner & Nurse with Wound - ele-king

 スキャナーとナース・ウィズ・ウーンドのコラボレーション・アルバム『Contrary Motion』がリリースされた。一見すると意外な組み合わせにも思えるが、サウンドは両者の音が見事に融合したダーク・アンビエントに仕上がっていた。電子音とノイズと具体音が幽玄な音空間の中で融解し交錯する音響には、聴き手を深く没入させる力がある。リリースは、ナース・ウィズ・ウーンドが作品を発表してきた自主レーベル〈United Dairies〉から。

 スキャナーは、ロビン・デイヴィッド・ランボーによる英国のサウンド・アート・プロジェクトである。彼は1993年、英国の実験音楽レーベル〈Ash International〉の初期にいくつかの作品を残し、その後はベルギーの実験音楽レーベル〈Sub Rosa〉などから、150〜160作とも言われる膨大な数のアルバムをリリースしている。環境音や電子音を組み合わせるという、今日のエクスペリメンタル・ミュージックの基本手法を、90年代初頭から実践してきたこの分野の巨匠である。個人的には、映画作家デレク・ジャーマンにオマージュを捧げ、ロビン・デイヴィッド・ランボー名義でリリースされた『The Garden Is Full of Metal』(1997)に強く惹かれたことをおぼえている。

 一方、ナース・ウィズ・ウーンドは、英国に拠点を置くノイズ・コラージュ集団である。彼らはノイズ/インダストリアル・ムーヴメントやポスト・パンクの文脈において論じられることもあるが、その創作活動の根幹には、ダダイスムおよびシュルレアリスムの思想と方法論を継承する姿勢が認められる。加えて、彼らは一貫してインディペンデントな制作体制を堅持しており、その点でも特異な存在である。現在のメンバーはスティーヴン・ステイプルトンとコリン・ポッター。とはいえ、彼らについて私などが語ることはできない。まずはなにより平山悠氏の著書『ナース・ウィズ・ウーンド評伝──パンク育ちのシュルレアリスト・ミュージック』を読んでいただきたい。この本には、彼らにとって大切なことがほぼすべて書かれているからだ。私が知っている範囲で彼らのアルバムで好きな作品はハードコアなドローン作品である『Soliloquy for Lilith』(1988)である。

 本作『Contrary Motion』は、ナース・ウィズ・ウーンドのスティーヴン・ステイプルトンとスキャナーのコラボレーション作品だ(もちろん初の共作である)。二人の、いかにも英国的なシュールリアリズム感覚とセンスが遺憾なく発揮されているアルバムだ。スキャナーの公式サイトには、本作の制作経緯が詳しく記されている(https://scannerdot.com/the-making-of-contrary-motion-with-nurse-with-wound/)。ロビンとスティーヴンは何年も前にドイツで出会い、以後、共にライブを行い、音楽・芸術・人生についてさまざまな対話を重ねてきたという。このプロジェクトの発端は数年前。スティーヴンがロビンに共作を提案したことから始まった。ちなみに印象的なアートワークは、スティーヴン・ステイプルトンの妻、サラ・ステイプルトンによるものである。

 使用されている音は、ライヴエレクトロニクス、電話音、加工された声、謎の電子機器、軋むギター、エコーする音など多岐にわたる。これらが緻密かつ大胆に交錯し、ダークなムードのアンビエントを構築していく。聴き手の聴覚をじわじわとハックするような魅力に満ちたアルバムだ(全6曲収録)。最初はこの二人の共演に意外性を感じたが、実際に音を聴くと、その相性の良さに驚かされる。どのトラックもノイズとノイズ、音と音が緻密にコラージュされ、現実と非現実の境界を彷徨うように展開する。

 本作はまずスティーヴンの方から、1時間におよぶベースとなる録音が共有された。そこにロビンが手を加え、アルバムの基本的な構造を作り上げ、録音全体をいくつかのセクションに分割していった。おそらくこの時点で、ロビン独自のエレクトロニック・アンビエントが加えられていったのだろう。そこに無数のノイズを重ねていく手腕には、ステイプルトンとの共同作業の強い印象が残る。実際、ロビンはステイプルトンのノイズに対し、自身の膨大なサウンド・アーカイヴを用いたと語っている。彼のオリジナルのモジュラー・シンセも使用され、アルバム全体の電子音を特徴づけている。

 アルバムは、メタリックな持続音が響く1曲目“Causticum”から幕を開ける。メタリックなドローンに加工された声によるナレーションや、どこか鳥の鳴き声のような音が重ねられていく。どこか不穏で冷たいサウンドが、アルバムの開幕にふさわしいムードを演出している。続く2曲目“Conium Maculatum”は、アンビエント/エレクトロニック色が強く、おそらくスキャナーの色合いが濃いトラック。だが、レイヤーの重ね方にはステイプルトンの手腕も感じられ、見事な融合を見せている。

 アルバム中盤の3曲目“Cocculus”では、ドローンを基調とした薄暗い音像の中にモールス信号のような音や微細なノイズが交錯する。使用されたシンセはEllitone Farm Detective Ultrarollzとのことだが、これが曲全体のざらついた質感を際立たせている。4曲目“Cicuta Virosa”は最も深い余韻を残す一曲だ。静謐さと微細なざわめきが、聴き手を不可視の空間へと導く。再び「声」が現れる5曲目“Tartaricum”は、シネマティックなムードが印象的だ。最終曲にして6曲目“Mezereum”では、霧のような持続音と夜の物音のようなノイズが交錯し、静寂の中に沈み込むような音世界が広がる。途中から加わる加工声は、人間と冥界を繋ぐ電波のようにも聴こえる。

 以上、全6曲。どの曲も、幽玄な電子音に、細やかな音=ノイズが大胆かつ緻密に交錯している。両者のファンであれば、各曲にちりばめられた音の断片から、それぞれの「音」への連想が働くかもしれない。しかし、この作品が優れている最大の理由は、単なる合作ではなく、現代のダーク・アンビエント・アルバムして確かな完成度を備えている点にある。現実の喧噪から距離を取りたいとき、深淵な音の迷宮に沈みたいとき、このシュールリアリズムとダダの精神を受けつぐダーク・アンビエント『Contrary Motion』を聴いてほしい。

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