Home > Reviews > shame- Food for Worms
そろそろ我々はシェイムへの認識をあらためるべきかもしれない。
サウス・ロンドンのインディ・コミュニティの魁としてシーンの先頭を突っ走り、道を切り開いてきたシェイム。彼らのパブリック・イメージといえば典型的なイギリスのエクストラな若者。2018年ごろ僕が見たライヴではチャーリー・スティーン(Vo.)は登場時から上裸で、唾を吐き、体に塗りつけ、ステージ上から観客を睨みつけ煽り、我々オーディエンスを極限まで興奮させた。ジョシュ・フィナティ(Ba.)はステージ中を走り回り、足を引っ掛けてひっくり返っていた。
しかしその荒唐無稽な10代の若者たちのアルバムもついに三作目になった。
1stアルバム『Songs of Praise』では満ち溢れるエネルギーを余すことなく落とし込み、2ndアルバム『Drunk Tank Pink』は感情的で張り詰めた危うさを感じる挑戦的なアルバムだった。三作目となる『Food for Worms』ではより彼らの成長を感じる。
歌詞やインタヴューを読むに、今作のテーマは恋愛や自己についてではなく仲間や友人関係についてだ。それは彼ら自身そう言ってるんだし間違いないんだろうが、僕にはチャーリー・スティーンが若さへ別れを告げているように聞こえる。
前作『Drunk Tank Pink』の転びそうなくらいな複雑さから一転、今作一曲目 “Fingers of Steel” は遠くで響き、静かに迫ってくるようなピアノから始まる。そこにはもう前作のような刺々しさや焦燥感のような若さの灰汁みたいな苦いところは感じられず、春の風に吹かれたような清々しさがある。“Yankees” では1stの “One Rizla” を思い起こすような少し歪んだベースと小気味いいギターのチョーキングが耳に心地良い。これからのシェイムのアンセムになるであろう “Adderall”。これに感動しないなら嘘だろう。緩急の付け方も気持ちいいしブレイクのシンプルだが繊細なドラムも素晴らしいし、やはりスティーンのシャウトは一級品。このアルバムの中でいちばんギターが泣ける音を出している。
全体としていままでのような体の中を駆け抜けるような疾走感はないが、腹の底から沸き返るようなエネルギーはいままで以上にこもっている。
シェイムといえば詩を叫び読み、煽るようなシンギング・スタイルがほとんどだったが、今作からスティーンが実際に歌い始めたのは大きな変化であると思う。陳腐なセリフだがシェイムは一皮むけたのがわかる。前作のように過度に複雑で内省的ではなく、自身の音楽に正直で前向きに、より自然にシェイムのバンド・サウンドを表現できるようになってきているのがわかる素晴らしいアルバムであると思う。
小山田米呂