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Shame

Indie RockPost-Punk

Shame

Songs Of Praise

Dead Oceans / ホステス

Tower HMV Amazon iTunes

大久保祐子   Feb 15,2018 UP

 ストリーミング・サービスが浸透する一方で、アナログ・レコードやカセットテープが復活の兆しを見せているという2018年のはじめに、よりによって現在もっとも古くさいものとして扱われているコンパクトディスクなんかを手に入れるために大型レコードショップに出向いた。仰々しいPOPが立ち並ぶ閑散とした店内を無駄にうろうろと彷徨うのは癖でもあるし、意地でもある。その音楽についてもっと知りたいと思うのは時代遅れなのだろうか。検索すれば出てくるような情報だけでは飽き足らず、作品の形や色や質感やデザインや歌詞やクレジットなどを見て確かめたい。貯まったポイントで千円分のお支払いができますよ、とレジで優しく言われて喜ぶ程度の庶民。カウンターに差し出すCDに記されたバンド名はシェイム(恥)。笑えない。

 青空の下ではにかみながら豚を抱いている1stアルバム『Songs Of Praise』のジャケットの写真、これが実はトリックで、油断しているとのっけから重たいビートが醸し出すただならぬ雰囲気に頭をはたかれるので要注意。映画『シング・ストリート』の脇役に出てきそうなほっぺたの赤い初々しい5人は、アイルランドではなくサウス・ロンドンのブリクストン出身で、まだ平均年齢20歳だという。叫び声に近いしゃがれた歌声、ひりひりとダーティーに鳴りまくる2本のギター、硬派なベースと暴力的なドラムが重なった、疾走感あふれる分厚いリズム。冒頭2曲の得体の知れないエネルギーが、ポストパンクの類にめっぽう弱い人びとの心を掴んで離さない。続くアルバムの中で一番キャッチーな“One Rizla”は一番古い曲で、なんと16歳の時に作ったというのだから、はじめからもう既に出来上がっている。アルバム全体を通して鬱屈とした怒りに満ちていて、今作には収録されていないが、2017年に発表された“Visa Vulture"という曲のアートワークなどには英国首相のテリーザ・メイが吸血鬼と化したイラストを使用していたり、EU離脱問題を抱えたイギリスの正しき若者といった感じ。

そして一番知りたかったデビュー・シングル“The Lick”のクセの強いポエトリー・リーディング部分の訳はこう記されている。

「それじゃ部屋の片隅に座ったらどうだい/自分の部屋の片隅に座ってMP3プレイヤーに次の名曲をダウンロードするんだ/NME誌が君に心からオススメしてくれるから」

「そいつを大音量で誇らしげにかけるんだ/輪になって座り、一気にサビの部分まで1分30秒まで飛ばす」

「それが俺達に必要なものなんだ/共感できるが、議論を呼んだりしないもの」

 攻撃的な音にシニカルな言葉。NME誌が喜んで満点をつけたというのも痛快な話。ポスト・パンクはいったい何度リヴァイヴァルすれば気が済むのか、と言いたくなる時もあるけれど、相変わらず音楽は世の中を教えてくれて、イギリスには行き場のない熱が渦を巻いているように見える。『Songs Of Praise』はアメリカのレーベル、〈デッド・オーシャンズ〉からリリースされ、プロデューサーにはMule Electronicよりフォート&ボディ名義や、〈R&S〉よりザ・チェイン名義で仲良くエレクトロニックな作品をリリースしているダン・フォート(〈R&S〉の元スタッフでジェイムス・ブレイクのマネージャー)とネイサン・ボディの2人を迎えて制作されていて、その雑多な繋がりは型にはまらず、何だか今風だなと感じる。元クラッシュのミック・ジョーンズが手掛けた1stアルバムをラフ・トレードからリリースしたザ・リバティーンズが出てきた頃とは確実に時代が変わっているようだ。最後に1曲だけスケールの違うメロディアスな曲で締めているあたり、もしかするとオアシスになれるんじゃないか? という未来も考えられたり。

 日本盤に収録された観客の歌声も混じった5曲のライヴ音源もいい。しかし便利なもので、文明を利用すれば家にいてもシェイムのライブ映像を簡単に見ることができてしまい、アグレッシヴに動き回るバンド演奏はもちろん、ヴォーカルのチャーリー・スティーンのパフォーマンスにすっかり釘付けになってしまった。上半身裸になってマイクのコードを首に巻きつけたり、ダイブをしたり、観客の顔面を舌でゆっくりと舐めたり(!)など怖いものなしのやりたい放題。感情をむき出しにした挑発的な態度にユーモアもちゃんと兼ね添えているところは間違いなく大物だと思う。デビュー前からグラストンベリー・フェスティヴァルに出演していたというのも納得の話。

 私は生まれたばかりの音楽の勢いにやられると、どうしてか受け取った熱をなるべく言葉にしたくなるのだけれど、手軽に音楽を聴き漁ることが可能ないま、ディスク・レヴューなどは無駄な行為なのかもしれないと戸惑うこともある。だけどこのシェイムの音楽が「最高」だとか「いいね」だとかいう簡素な感想でしか話されず、次の季節には新しい音楽に押されて消えていくのは納得できない。刺激的な音楽が変えていくのはUKのシーン以上に世界中の様々な人間のほんの少しの意識や行動や佇まいで、そうでなければパンク・ロックもストリーミングも何の意味もない。それともまさか「共感できるが、議論を呼んだりしないもの」に埋もれて死ぬつもりだろうか。

大久保祐子