「R」と一致するもの

寺尾紗穂 - ele-king

 春先に寺尾紗穂の新作が出たとき、子どもたちは学校にかよえなくなっていたが、世界はまだこのような世界ではなかった。ひと月たち緊急事態宣言が発出し通りは森閑としたが、雨がちな夏も終わるころには人気ももどり、人々はあらたな暮らしの基準に心身ともに調律をあわせたかにみえるものの、またぞろ次の波のしのびよる気配がたかまる冬のはじめ、寺尾紗穂からまたしてもアルバムリリースの報せがとどいたのは、音楽をとりまく環境も深刻な影響をこうむった2020年においてにわかには信じがたい。
 『北へ向かう』と『わたしの好きなわらべうた2』——前者は3年ぶりのオリジナル作で、後者は伝承歌、伝統歌を編んだ4年前の同名作の続編にあたる。性格も、おそらく彼女のディスコグラフィでの位置づけもちがうこの2作はしかし生まれ来る場所をともにしているかにもみえる。もっとも寺尾紗穂の音楽はすべてそのようなものかもしれない。古くてあたらしく、現代的な意匠にむきあうのになつかしい。『わらべうた2』はカヴァー集だが、アンソロジーでもある、レコードであるばかりかフィールドワークであり、そこでみいだしたものを音楽という時制におきなおす野心的なこころみでもある。そのような主体のあり方をさして寺尾紗穂は「ソングキャッチャー」と述べるのだが、「歌をつかまえるひと」というこの語に私は彼女の歌にたいする能動的な姿勢と、野っ原の避雷針のような受動態が二重写しになった姿をみる。米国のローマックス父子やハリー・スミス、本邦では小泉文夫など、かつての歌の保存と伝承はそれを採取し記録するものの探究心と使命感に負うところ大だった。その一方で歌の採取に熱心だった作曲家のバルトーク・ベラの作風がハンガリーの国民楽派を基礎づけたように歌という不定型の素材を記録することはネイションの輪郭を確定する補助線でもあった。私たちはしばしば、音楽に基層のようなものがあるとして、文化、風土、習慣、歴史などの複合要素からなるそれは民俗ないし民族なる概念とわかちがたい。やがて正統性に昇華するそのような考えは国とか社会とかいった極大の視点にたたずとも、私のふだん暮らす組織や共同体内でも抑圧的にふるまうこともある。そこに家父長制をみてとることについては議論の余地もあろうが、つたえることは右から左へ流れ作業するのともちがう、歴史が偽史の含意をはらみかねない今日、それ自体がきわめて問題提起的な行為である。民謡や伝統芸能はいうまでもない。
 童歌はどうか。寺尾紗穂が童歌に興味をもつきっかけは彼女の生活の変化に由来したのは『わらべうた1』のレヴューでものべた。童歌の定義は一概にはいえないが、子守唄、遊び歌、数え歌などをふくみ、調子よく歌詞は多義的でときに不条理である。“かごめかごめ” や “はないちもんめ” も童歌だといえばイメージを結びやすいかもしれない。そう書いたとたんノスタルジックになってしまうのは童歌もまた先にのべた音楽の基層に位置するからだろうか。とはいえ世間と暮らしの波間に漂うばかりの俗謡である童歌は基層としてはいささかおぼつかない。だれかの口の端にのぼらなければひとは忘れ歌は歌いつがれない。逆をいえば歌うかぎりにおいて童歌は歌い手の数だけ変奏し遍在する。2作目をむかえた〈わらべうた〉シリーズでの寺尾紗穂の歩みからはそのようなメッセージがききとれる。前作は長岡や小千谷の “風の三郎~風の神様” にはじまり徳之島の “ねんねぐゎせ” まで、全国津々浦々の全16曲をおさめていた。2作目も曲数は同じ、ソングブックとしてのフォーマットをそろえている。特定の地域にかたよらず、列島を巡礼するような選曲のかまえも前作をひきつぐが『わらべうた2』は前作以上に多様性に富んでいる。とはいえ一聴して耳を惹くのはアイヌの鬼遊び唄 “タント シリ ピルカ(今日はお天気)”、沖縄は読谷の “耳切り坊主”、奄美の笠利の “なくないよ” など。ことばの響きのちがいでほかからうかびあがる。寺尾は3月の『北へ向かう』でも “安里屋ユンタ” をとりあげるなど、南西諸島の唄も積極的にとりあげる歌い手である。『北へ向かう』の “安里屋ユンタ” はその前に置いた福島原産の “やくらい行き” との対で、寓話的な語りの空間を創出するだけでなく海と山の二項対立を止揚するヴィジョン、森の樹々のなかの道をとおり海にぬけるかのごとき石牟礼道子的なヴィジョンを構造的に暗示する役割も担っていた。寺尾紗穂のCDを聴くのはアルバムという形態でしかあらわせない構想に耳を澄ますことでもある。その点は『わらべうた2』でも変わらない。もっとも構想の力点の置き方を書物になぞらえるなら、フィクションとドキュメンタリーほどのちがいはあり、後者となる『わらべうた2』ではまずもっておのおのの唄の歌唱と解釈が前に出てくる。私は奄美の産なので地元の歌にかぎっても、ヴァナキュラーなニュアンスをつかまえる彼女の避雷針が前作以上にみがかれているのがわかる。歌でいうコブシや琵琶などの弦楽器のサワリなど、譜面に記さずとも曲の決め手になる唱法、奏法はいくつもある。これらを身につけるのが正統的な系譜にのるかそるかの分かれ目ともいえる。私は音楽の価値は歴史や体系内の位置によるとも思わないので、正統性にこだわらないが、かといって破壊的だけなのも古めかしい。その点で『わらべうた2』は童歌という伝統的な題材を選びていねいによりそいながら、実験的なサウンドを対象に対置させる点であり、そのかねあいが作品全体にゆたかな多様性をもたらしている。
 『わらべうた2』は歌島昌智が吹くスロバキアの管楽器フラヤの音が印象的な “山の婆 山の婆” で幕をあける。歌島は『1』の冒頭でもフラヤを奏していたから、寺尾のなかにはこの2作を対として提示する意図があるのだろう。ただし『2』の2曲目の兵庫県川西市の子守唄 “うちのこの子は” は前作の “あの山で光るものは” (東松山市)の静けさとは対照的なはずむようなリズムでアルバムのグルーヴの基準をしめすかのような仕上がりとなっている。この曲のリズムセクションをつとめるのはやはり前作にも名を連ねた伊賀航とあだち麗三郎、ふたりに寺尾をあわせた三人がその後冬にわかれてとして活動をはじめたのはみなさんよくごぞんじである。三者の息の合い方はすでにひとかどのものだが、本作ではそれぞれのカラーを活かしながら、楽曲には音をつめこみすぎないよう配慮もゆきわたっている。アルバムはピアノトリオと民俗楽器が交互に登場する構成をとっているが、空間をたっぷりとったことで、指板にあたる弦の振動や打楽器の音がたちあがるさいの空気の震え、先述のことばをくりかえすと音楽のサワリまで掬いとる葛西敏彦の録音は見事というほかない。
“やんやん山形の” と読谷の “耳切り坊主” には冬にわかれてのスペクトルの幅とでもいうべきものを記録している。民俗楽器では岐阜の根尾村の “鳥になりたや” でやぶくみこが手にするグンデル、つづく “なるかならんか” で歌島がとりだすバラフォン、ボウラン、ティンシャ、ゴングなどなど、響きとリズムをかねるものが多い。使用楽器やアレンジは曲によるのだろうが、童歌にむきあう寺尾と演奏者の自由連想的な姿勢はときの風化にさらされた唄を現代によみがえらせるだけでなく、現行のジャズやポップスに拮抗する力をあたえ和的な意匠にとどまらない広がりももたらしている。
 寺尾紗穂がそれらの楽曲をひとつずつ、慈しむようにつみあげる先に『わらべうた2』は全貌をあらわしていく。ことに石巻の “こけしぼっこ”、北巨摩郡の “えぐえぐ節” ときて笠利の “なくないよ” で幕を引く終盤は白眉である。このような構成もまた『1』の延長線上だが『2』は色彩感においてはいくらかひかえめ。そのぶんグルーヴは漬物石のごとく重みを増し唄からは滋味がにじみだす。めざとい読者には “えぐえぐ節” の「えぐえぐ」とはなんぞやと首を傾げられた方もおられようが、これはじゃがいもはえぐいという悪口に由来するのである──という説明もまたぞろ混乱のもとかもしれないので真相をつきつめたい御仁には本作を手にとられるのをおすすめする。さすれば列島にあまたある童歌が土地土地の風土と歴史が育む厚みを有することをかならずやおわかりいただけるであろう。『わたしの好きなわらべうた2』の掉尾をかざる笠利の “なくないよ” に耳を傾けながら私はそのように確信するのだが、時代背景から女性と子どもが歌い手であり聴き手である子守唄の労働歌の側面に思いをいたせば、ありし日の彼らのたくましさやつましさに尽きない、暮らすことの多層性がうかびあがる。“なくないよ” では等々力政彦のイギルの助演を得て、寺尾紗穂は行間からそのようなものをよびさましている。これほどおおどかで透徹した視線の歌い手はそうはいない、ソングキャッチャーの面目躍如たるものがある。

Jun Morita - ele-king

 電子音楽家の森田潤が元旦からなんと24時間耐久無料ライヴを敢行、その模様がストリーミングされる。森田は日本のポスト・パンクを代表するひとり、EP-4の佐藤薫のレーベル〈φonon(フォノン)〉の所属アーティストで、今月の18日には同レーベルからセカンド・ソロ・アルバム『Sonus Non Capax Infiniti』をリリースする。

 で、そのライヴとは、令和3年正月元旦の正午12時から翌2日の正午12時まで、24時間ノンストップのソロ・パフォーマンス《MORITA SYNTHESIS 24HRS──みなしごたちへのお年玉──》。プロデュースは演出家の芥正彦。演奏するヴェニューは、約半世紀前、あの阿部薫と芥正彦が名盤『彗星パルティータ』を制作した現場、劇団ホモフィクタスのスタジオ105。
 当日の視聴は無料です。モジュラーシンセによる独自の音世界を繰り広げる彼の、この並々ならぬ試みを見逃さないように。

アクセス:https://youtu.be/LP-szzgq28c
芥正彦:www.akutamasahiko.com
φonon:www.skatingpears.com
視聴:https://audiomack.com/sp4non

New Order - ele-king

 いまから20年後の未来では、音楽ファンはこう振り返るでしょう。「ああ、2020年の最悪な年にはニュー・オーダーが“ビー・ア・レベル(Be a Rebel)”を発表したっけ……」。ニュー・オーダーの5年ぶりの新曲、まあ、ずいぶん話題になりました。多くのリスナーのなかにNOには少なからず熱い思いがあるからでしょう。で、その熱い曲のミュージック・ヴィデオが公開されました。これもまた、シュールかつ暗示的な、なかなかの力作です。また、限定アナログ12インチが12月4日(金)に発売されます。こちらには、バーニーとステファンによりリミックス・ヴァージョンが収録されます。

[YouTube] https://youtu.be/JOoyPT6RoF4
[LISTEN & BUY] https://smarturl.it/nobar

■以下はレーベルからの資料より

 ミュージック・ヴィデオはスペインのNYSUが制作し、バンドは次のように述べている。

“マドリードのNYSUには、「レストレス」(最新アルバム『ミュージック・コンプリート』収録)のミュージック・ヴィデオを以前作ってもらったんだけど、彼らの映像に対するイマジネーションには僕らバンドも心底感銘を受けていたんだ。今回「Be a Rebel」で再び彼らとタッグを組んだんだけど、インスピレーションあふれる独特の美的感覚で独創的なヴィデオを作ってくれました”


 コロナ禍の影響により発売が延びていたアナログ12インチは、12月4日(金)に発売が決定した。この12インチには、オリジナルの他、バーナード・サムナー、スティーヴン・モリスのリミックスなど全4曲が収録されている。またバーナード・サムナーのリミックス「Be a Rebel (Bernard’ s Renegade Mix)」は、adidas Spezialとのコラボレーションで使用された曲のオリジナル・ヴァージョン。

[adidas Spezial CF/ YouTube]
https://bit.ly/3mvGsTg

 「タフな時代だからこそ、この曲をみんなに届けたかったんだ。ライヴはしばらくできないけれども、音楽は今なお私たちみんなで分かち合えるもの。楽しんでもらえると嬉しい……また会える日まで」──バーナード・サムナー

 本来この曲は、今年秋に予定されていた彼らのツアーに先駆けて発売される予定だったが、そのツアーは2021年に延期され、それでも困難な時にこの曲を発売することの意義をバンドが感じて発売に至った。また、今年3月に予定されていたジャパン・ツアーは、コロナ禍の影響により2022年1月に実施される。(https://www.creativeman.co.jp/event/neworder2020/)

「反逆者になろう 破壊者じゃなくて」と歌われるこの高揚感あふれる曲は、このタフな時代においてわれわれ自身を祝い、いま持っているものに感謝しようというメッセージが込められている。その歌詞の対訳は以下の通り。

■「ビー・ア・レベル」(Be a Rebel)歌詞対訳
https://trafficjpn.com/news/nobar/

■ジャパン・ツアー日程
大阪 2022年 1月24日(月) ZEPP OSAKA BAYSIDE
東京 2022年 1月26日(水) ZEPP HANEDA
東京 2022年 1月28日(金) ZEPP HANEDA
制作・招聘:クリエイティブマン 協力:Traffic
https://www.creativeman.co.jp/event/neworder2020/

■商品概要(アナログ12インチ)
NOBAR Insta Square 3.jpg
アーティスト: New Order
タイトル: Be a Rebel
発売日:2020年12月4日(金)

― Tracklist ―
A1. Be a Rebel
A2. Be a Rebel (Bernard’ s Renegade Mix)
B1. Be a Rebel (Stephen’ s T34 Mix)
B2. Be a Rebel (Bernard’ s Renegade Instrumental Mix)

[BUY] https://smarturl.it/nobar

■最新オリジナル・アルバム『ミュージック・コンプリート』(2015年)まとめ
https://bit.ly/1FHlnZJ

■ニュー・オーダー バイオグラフィ
https://trafficjpn.com/artists/new-order/

今里(STRUGGLE FOR PRIDE/LPS) - ele-king

敷居を高くしていないとご飯が食べられない人達のお茶碗を、
夜な夜な割っていく作業に従事しています。

1.META FLOWER /DOOM FRIENDS
誠実な人柄が全ての作品に現れていて、動向がとても気になる。LSBOYZのALBUMも最高でした。

2.JUMANJI/DAWN
くそみたいな気分で目が覚めた朝方でも、再生した瞬間にFRESHにしてくれる。

3.YOUNG GUV/RIPE 4 LUV
AOYAMA BOOK CENTERの店員さんが教えてくれた。どうもありがとうございます。

4.HATCHIE/KEEPSAKE
今は亡きBONJEUR RECORDS LUMINE新宿店の店員さんが教えてくれた。どうもありがとうございます。

5.ISAAC/RESUME
こういう気持ちにさせてくれる音楽が身近にあることに、心から感謝しています。

6.MULBE/FAST&SLOW
DO ORIGINOOを聴きながら豊洲を歩いていたら、一瞬どこに居るか解らなくなった。

7.SHOKO&THE AKILLA/SHOKO&THE AKILLA
武道館ライブ楽しみにしてます!

8.HIKARI SAKASHITA/IN CASUAL DAYS
誕生日を過剰にアピールしたら送ってくれた。どうもありがとう。

9.CAMPANELLA/AMULUE
今になって思うと待ち続けてた時間も楽しかったし、
聴いてすぐに報われた。

10.CENJU/CAKEZ
「もしもVINがいたらあんなもんじゃ済まなかった」って笑って帰宅して、
すぐに再生した。
発売には立ち会えなかったけど、当時の我々の空気が全て詰まってる。

Battles - ele-king

 先日強者ぞろいの面子が参加したリミックスEP(ブラック・ミディ、シェッド、デルロイ・エドワーズ、DJニガ・フォックス)をリリースしたばかりのバトルズが、最新作『Juice B Crypts』収録曲 “Sugar Foot” のMVを公開している。

 日本のお祭りがモチーフとなった同映像には、コロナ禍で動けない音楽関係者や祭事関係者を励ます意図が込められているそう。暗いニュースが続く毎日だけれど、明けない夜はない。このMVを観て元気を出していこう!
 ちなみに、『Mirrored』時代のTシャツが復刻されるとのことなので、下記をチェック。

Kruder & Dorfmeister - ele-king

 クルーダー&ドーフマイスターとはジョイントの高級ブランド名ではない、オーストリアはウィーンのふたり組、90年代の音楽におけるとっておきのカードだ。彼らがシーンに登場したのは1993年、マッシヴ・アタックの『ブルー・ラインズ』(ないしはニンジャ・チューンやモ・ワックス)へのリアクションだった。サイモン&ガーファンクルによる名作『ブックエンド』のジャケットのパロディ(だからふたりの名字を名乗ったのだが、実際リチャード・ドーフマイスターがアート・ガーファンクルに似ているので、パっと見た目は『ブックエンド』と間違えそうになる)を意匠にしたそのデビューEPのタイトルは、モーツァルトからシューベルトと歴史あるクラシック音楽の街に似つかわしいとは思えない「G-Stoned」。そう、ガンジャ・ストーンド。Gは、彼らが住んでいた通り名の頭文字でもあるのだが、しかしもっとも重要なのは、どこまでもメランコリックな『ブルー・ラインズ』に対して、「G-Stoned」はとにかく至福の一服だったということである。

 欧州において音楽教育がとくにしっかりしている言われているウィーンのふたりは、トリップホップと呼ばれるスタイルではさまざま音楽を混ぜ合わせることができるというその可能性を早くから理解していた。「G-Stoned」のわずか4曲には、従来のトリップホップの主要要素であるヒップホップ、ファンク、ソウル、ダブやハウスに加えて、映画音楽やラウンジ音楽、そしてジャズやブラジル音楽の美味しいところも加えてある。のちに本人たちは「1日中吸っているのに飽きたから音楽を作った」などとうそぶいているが、本当のことを言えば彼らは友人のレコード・コレクションをサンプリングしまくり、そして綿密な構成を練って職人的なミキシングを施して(クルーダーはすでにスタジオで働いていた)作品を完成させたのだった。それは、同じようにサンプルデリックな傑作であるDJシャドウの『エンドロデューシング』の暗さやDJクラッシュの「Kemuri」のストイシズムともまったく対照的なサウンドの、自称“オリジナル・ベッドルーム・ロッカーズ”による完璧なデビューEPだった。未聴の方は、ぜひ“Hign Noon”から聴いて欲しい。

 が、しかしK&Dは、その後ミックスCDを出してはいるが、コンビでのオリジナル作品発表はすぐに途絶えてしまい、90年代半ばからはそれぞれがそれぞれのプロジェクトで作品を制作する。リチャード・ドーフマイスターは、ルパート・フバーとのToscaを始動させると、「Favourite Chocolate」や「Chocolate Elvis」、あるいは『Opera』や『Suzuki』といったヒット作を出しつつ、ここ数年はそれほど話題にならなかったとはいえ現在にいたるまでコンスタントに活動を続けている。いっぽうのピーター・クルーダーは、90年代にピース・オーケストラという名義で素晴らしいアルバムを2枚リリースしている。
 ちなみに90年代のジャケット・デザインにおいて個人的にベストだと思っているのが、ピース・オーケストラのファースト・アルバムだ。世界で唯一、(肌色のジャケットに)絆創膏の貼られたレコード/CDであるそれは、ラディカルなユートピア思想がなかば感傷的に表現されているとしか思えないという、ぼくにとっては哲学的と言えるアートワークだった。こればかりはアナログ盤の見開きジャケットでたしかめないと、その衝撃はわからないんだけれど。

 いずれにしても、ダンス・ミュージックを愛するリスナーにとってK&Dは立派なリジェンドなのだが、なんと……、そう、「なんと!」、1993年のデビュー以来27年目にしてのファースト・アルバムが先日リリースされたのである。で、そのタイトルは『1995』、日本人の感覚で言えば意味深くも思えるが、これはチルアウト黄金時代の年を指しているそうで、アルバムに収められた14曲は当時彼らが録音したDATからの発掘をもとに手を加えられたものらしい。まあ、再結成して新たに録音した代物ではないようだ。とはいえ、27年目のファースト・アルバムであることに違いはない。

 ロバート・ジョンソンのレコード(おそらく78回転の10インチ盤)をサンプリングした“Johnson”からはじまる『1995』は、K&Dの魅力を、もうこれ上ないくらいに絞り出している。肩の力の抜けたレイジーなグルーヴの魅力──K&Dはいつだって安モノのせこい品をまわしたりしたりはしなかったが、ここでも極上のストーナービートと気の利いたサンプリング(ラロ・シフリンからアントニオ・カルロス・ジョビンなど)がエレガントなミキシングによって展開されている。たとえば“Swallowed The Moon”や“Dope”などは、これこそチルアウトって曲だし、“King Size”にいたっては……たしかにぶっといものを口にくわえてるときのメロウなウィーン流のダブかもしれない。
 意外なところでは、13分にもおよぶ“One Break”がある。寒い冬の夜明け前のようにダークな曲で、リズムはいつものヒップホップ・ビートからドラムンベースへと展開する。クローサーのアンビエント・トラック“Love Talk”も彼らの試行錯誤の記録だろう。いろいろとやっていたんだなと。懐かしくもあり、グローバル・コミュニケーションの『76:14』がそうであるように、いま聴くと新鮮でもある。ただひとつ言えるのは、『1995』は思いも寄らぬ贈り物だということ。いまはもう寒い冬だけれど、1995年のように、意味もなくただただ愛を感じながら寝そべってみるのもいいかも、と思ったりもする。ピース・オーケストラの見開きジャケットが描いたあの凄まじい、あの時代ならではの光景は、現代では到底あり得ないのだろうけれど。


R.I.P. ディエゴ・マラドーナ - ele-king

 公園に行くと子どもたちがボールで遊んでいる。それはおそらくどこの国にでもあるのだろう、平和な風景のひとつだ。たとえ運動が苦手な子でも、体育の授業で走ったり、鉄棒や跳び箱したりよりは球技のほうがまだ楽しいはずだ。緊急事態宣言が発令されてからの数週間、ぼくの近所の公園では、いつも以上に子どもも大人もサッカーや野球といった球技に興じていた。ま、状況が状況だっただけに決して褒められたことではなかったのだが、しかしやはりそこにはボールがあった。地面の上を、あるいは空中を、ボールが動いていた。

  2020年11月25日、ボールを扱うことの天才がこの世を去った。それはそれは、彼ほどの天才はいないんじゃないかと思えるほどの天才だった。残されている彼の映像のいちばん古いヤツ、ファンにはお馴染みのまだ10代前半の彼の映像を見ても、その天才ぶりはわかる。なんていうか、ボールのほうが彼と離れたがらない。そう見えてしまうリフティング。サッカーをはじめた誰もが憧れるアレだ。

 しかもだ。この天才は、ほとんどすべてのテクニックと、そしてゲームにおける狡猾さをアルゼンチンのスラム街仕込みのストリートワイズとして会得した。それは、親父さんが靴を買ってくれるまでの、素足で蹴っていた頃から蓄積された技術であり経験値であって、あの予測不能なフェイントは部活やクラブのコーチに学んだことではない。いまブエノスアイレスでは彼の棺を見送るために人びとが集まり、最終的には100万人以上が集まるのではないかと言われているが、それはわかる。彼を育てたのはアルゼンチンだった。彼はいつでも、彼の階級、出自、そしてアルゼンチンを誇りにしていたのだから。

 彼の死を悼んでマッシヴ・アタックやらリアム・ギャラガーやらが哀悼の声明を出しているのも、わかる。この天才は、サッカーというスポーツを芸術の領域にまで拡張させたのだった。大衆を魅了するずば抜けたテクニックとロマンティックなまでの勝負強さを持って大きな存在となった彼は、まあ政治的(反米主義)でもあったし、富の世界が嫌がるようなこと(たとえば選手における労働権の主張であるとか)でさえもバシバシ言う人だった。手短に言って、反抗者。いや、それ以上にハンパない成り上がりだったがゆえ、コカインををはじめとする幾多のスキャンダルに乗じて権力およびワイドショー的世間は何度も何度も彼をねじ伏せようと躍起になったものの、ディエゴ・マラドーナは一度としてへたこられなかった。全盛期と言われているナポリ時代、すでに痛めた身体をもって鎮痛剤なしでは眠れぬほどの夜を過ごしていたのに関わらず。
 彼はグローバルなスーパースターでもあったし、良いのか悪いのかわからないが、正論というものを越えることができた人だった。そこにはつねにボールがあったし、ボールは彼の味方だった。ブエノスアイレスに集まっている人たちと同じように昨日から涙が止まらない。さようなら天才。


Underground Resistance - ele-king

 ついに動き出した。
 アンダーグラウンド・レジスタンスが新たに12曲入りのCD『Assembly Unite Resist Change』をリリースする。“Message To The Majors” や “Riot”、『Revolution For Change』所収の “Code Of Honor” や X-101 の “Sonic Destroyer” といった初期のハードな曲、あるいは「Electronic Warfare」や「同 2.0」からのタフめな曲がセレクトされている点、あるいは「集結、連帯、抵抗、変革」なる直球のタイトル、赤と黒のアートワークなどから勝手に想像するに、これは2020年という状況に対するURからの応答であり、のろしのようなものではなかろうか。

 ちなみに、URのマッド・マイク&コーネリアス・ハリスの最新インタヴューが『別冊ele-king ブラック・パワーに捧ぐ』に掲載中ですので、未読の方はぜひチェックを。

Underground Resistance
Assembly Unite Resist Change

UR / Submerge
UR2018/D
27th Nov, 2020

01. Kill My Radio Station
02. Kut (Heavy Analog Deployment)
03. Message To The Majors
04. Riot
05. The Force
06. Sonic Destroyer
07. I AM UR
08. Silicon Saigon
09. Code Of Honor
10. Electronic Warfare
11. The Safety Is Off
12. Hold My Own

James Blake - ele-king

 この9月にフランク・オーシャンのカヴァー曲を発表、つい先月はEP「Before」をサプライズ・リリースし、きたる12月にはカヴァー曲集EP「Covers」の発売を控えるジェイムス・ブレイクが、新たな試みを明らかにしている。

 去る11月20日、アメリカのラジオ局 RADIO.COM に出演した彼は、「特定のジャンルに縛られたくないんだ」と語り、それを受け聞き手のブライス・シーガルが「そういえばディプロがアンビエント・アルバムを出しましたよね」と返すと、「や、じつは、じぶんにもその用意があってさ」「しかもアルバムでね!」と答えている。

 ストレスや不安に襲われているとき、ブライアン・イーノ坂本龍一の音楽だけが落ち着いた気分にさせてくれた──とブレイクは続ける。だから、じぶんでもそういう音楽をつくってみようと思い至ったんだそうな。ビートにうんざりしてしまい、ちょっとした “ビートの休日” が必要だった、と。

 とはいえアンビエントというのは──ブレイクによれば──繊細で、たんにドラムのビートを省くだけで完成させられるものではない。ゆえに不安だったのだろう、彼はつくりあげた音源をゴッドファーザーたるイーノ本人に送り、助言をもとめた。結果、肯定的な意見~建設的な批判を得ることができ、勇気づけられたという(ブレイクとイーノは2013年の『Overgrown』で共作済み)。

 ただし、いつリリースするかは未定とのこと。ポスト・ダブステップに出自を持つシンガーソングライターが奏でるアンビエント・ミュージックとは、いったいいかなるものに仕上がっているのか? 楽しみに待っていようではないか。

https://omny.fm/shows/radio-com-audio/james-blake-new-arrivals

Autechre - ele-king

 オウテカが、本当にオウテカらしくなったのは『LP5』(1998)からだろう。それ以前の4枚のアルバムには、シーンからの影響がある程度わかりやすく残されている。『インキュナブラ』(1993)にはエレクトロ/ヒップホップ、『アンバー』(1994)にはアンビエント、『トライ・レパテエ』(1995)と『キアスティック・スライド』(1997)にはインダストリアル……しかし『LP5』にはそうした既存の何かを引き合いに出すことが難しい、いま我々が知るところのオウテカがいる。
 ジャケットからしてそうだ。黒いケースにはタイトルの表記はなく、エンボスでautechreとあるのみ。白いステッカーにはこのアルバムにはタイトルがなく、便宜上『LP5』となっている旨が記されている。そこに記録されている音を聴く以外のほかはどうでも良いとでも言いたげなのだが、さらに続いてリリースされた「ep7」は『LP5』とほぼ同じ収録時間で曲数も同じ11曲、しかしそれでもこれは「ep」なのだ。Discogsでもそう区分けされている。が、じつは、LP/EPというカテゴライズ自体がもはや意味をなさないと。ゆえに近年のオウテカの膨大なライヴ音源リリースも、90年代末の時点でアルバム単位というものを相対化しているのだから、わからなくもない。フォーマットはどうでもいいから聴いてくれやである。

 メロディアスな『SIGN』に対してリズミックな『PLUS』。アンビエントな前者に対してビートがある後者。まったく正確な言い方ではないが、大雑把な印象ではそう言えるだろう。磨り潰されたノイズが脈打つ“DekDre Scap B”を序とする『PLUS』は、2曲目“7FM ic”でさっそく彼らの異次元ファンクをお披露目する。コラージュ音を派手に乱舞させながらリズミックに展開し、我々が認識する世界の外側へと連れ出すかのようだ。これはアルバムの目玉のひとつである。
 “marhide”ではいっきに音数を減らしながら、言うなれば、無機質なリズムに、気体となった音をかぶせている。そしてふたたびメタリックなファンク“ecol4”へと続くという具合だ。15分もあるトラックは、奇妙なメロディとアシッド・ハウス流のベースをともなって、半分過ぎにある長めのブレイクのあと折り返す。で、オプティミスティックでドリーミーな“lux 106 mod”を挟んで、もうひとつのクライマックス“X4”が待っている。ややAFXにも似たこの曲を聴いていると、自分が機械であることを忘れたドラムマシンが暴れまくっている光景を思い浮かべてしまうのだが、あなたはどうだろうか。
 オウテカのユーモアは“esle 0”の似非シンフォニーにも見て取れるが、トドメは“TM1 open”(オリジナル盤の最終曲)が引き受けている。高速で打ち鳴らすキックドラムの上を電子音が蝿のように旋回する様は、アフロにもアシッドにも聴こえる。曲は終わりに向けて静けさに包まれ、優雅な気配において締めるという案配だ。蜃気楼のようなボーナストラックの“p1p2”も、その最後の静けさを延長している。

 エレキング年末号では、驚くなかれ、オウテカの4万5千字インタヴューを掲載している。彼らは、『PLUS』が『SIGN』の残り物ではないことを強調していたが、それはわかる。茶目っ気は、たしかにこちらにある。『PLUS』は嬉しいアルバムなのだ。

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