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Home >  Reviews >  Album Reviews > Alva Noto & Ryuichi Sakamoto- Glass

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto

AmbientExperimentalSound Art

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto

Glass

Noton / インパートメント

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デンシノオト Mar 08,2018 UP

 アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)と坂本龍一によるコラボレーションの最新作である。リリースはカールステン・ニコライが運営する〈noton〉から。
 二人が手掛けた『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品)の映画音楽から、彼らの音楽/音響は、どのような「響き」へと至ったのか。もしくは何が継続しているのか。それを知る上で非常に興味深いアルバムであった。
 彼らは音の美や透明性、その自律性にはこだわりがあるが、しかし「音楽」を固定的な形式性としても考えていない。それゆえ「サウンド・アート」的な作品を、驚きに満ちた「音楽」として、まずもって捉えているのだ。音楽は自由であり、その美意識は結晶である。

 本作『グラス』はアメリカのモダニズム建築を追求した建築家フィリップ・ジョンソン(1906年7月8日~2005年1月25日)による20世紀の名建築「グラスハウス」での二人の演奏を記録したアルバムである。演奏は、2016年にジョンソンの生誕110周年、およびグラスハウスの一般公開10期目を記念して公開された草間弥生のインスタレーション《Dots Obsession - Alive, Seeking For Eternal Hope》展示時のオープニング・パーティで披露されたものだ(ちなみに客席にはビョークがいたらしい!)。本アルバムは36分59秒に渡ってこの日の音響音楽を収録している。

 「グラスハウス」はコネチカット州にある1949年に建てられた四方をガラスで囲まれたミニマムなデザインの個人邸宅で、ジョンソンのパートナーであったアート・コレクターであるデイヴィッド・ホイットニーと自身のために設計・建築されたもののひとつだ。
 坂本龍一とカールステン・ニコライは、この「グラスハウス」の特質を存分に利用した方法論で本作のサウンドを産みだした。コンタクト・マイクを「グラスハウス」のガラスに付けて坂本龍一はゴムのマレットでガラスの表面を擦る。いわば「グラスハウス」全体を楽器のように音に鳴らしている。「グラスハウス」という環境・建築・空間それ自体が音響発声装置なのだ。
 むろん、彼らのまわりにはラップトップ、シンセサイザー、ミキサー、シンギング・グラス・ボウル、クロテイルなどの多くの楽器(音響生成のためのモノたち)が置かれている。坂本はキーボードを鳴らしつつ、シンギング・グラス・ボウルを擦り、微かな音を発生している。カールステンはラップトップに向かうと同時にクロテイルを弓で演奏する。それら「モノ」たちが音を発する様は、美しく、儚い。当日の演奏の模様はインターネット上で映像作品としても発表されているが、それを観ると「演奏者二人も含めたインスタレーション」のように思えるし、音響彫刻のようにも見えてくるから不思議だ(演奏は100%即興だという)。

 坂本は、2017年にリリースした新作『async』において「非同期」というコンセプトを聴き手に提示し、それに伴うインスタレーションを「設置音楽」と名付けた。「音響」ではなく、「音楽」なのだ。となれば2016年に披露された本アルバムの演奏もまた「非同期」であり、一種の「設置音楽」ではないかと想像してしまう。
 本作においても重要な点は、サウンド・アート的であると同時に「音楽」である点に思えてならない(ノイズ/ミュージック)。音響は、かすかなノイズや具体音が鳴り響きつつも、それらは「音楽」として緩やかに、大きな流れの線を描く。演奏の後半においては「旋律の前兆」のような響きも鳴り響く。ここにおいてノイズとミュージックが、それぞれの領域に清冽な空気のようにミックスされていく。

 それらすべてを包括するかたちで「グラスハウス」という場所が機能しているように思えた。音楽と場所。音響と空間。現代のようにインターネット空間において無数の音楽に解き放たれている時代だからこそ、ある限定された場所/空間における音楽の重要性や影響もまた大きな意味を持ち始めているのではないか。むろん、それはどこでも良いというわけではなく、コンセプトへの共振が重要に思える。
 その意味で「グラスハウス」=フィリップ・ジョンソンの「新しいものへの進化」、「モダニズムの追求」、「普遍性との共生」のコンセプト(概念)への共振は重要ではないか。個と社会、モダンとポストモダン、人工と自然。その両方を考えるということ。
 なぜなら坂本龍一やカールステン・ニコライもまたそのような20世紀以降のモダニズムの問題を音楽やテクノロジーの側面から追求してきたアーティストだからだ。となれば彼らが「グラスハウス」という「場所」にインスピレーションを受けて、素晴らしい音響を生成し、新しく普遍的な「音楽」の演奏を行ったことは必然だったのかもしれない。
 本作はこの二人の「音楽家」としての本質を知る上でとても重要な記録録音/音響音楽ではなかろうか。耽美的で「美しい」音響であっても、湿ったナルシシズムとはいっさい無縁だ。まさにガラスのように「透明な音楽」である。

デンシノオト