「R」と一致するもの

interview with Moodoid - ele-king


Moodoid
シテ・シャンパーニュ

Because Music/ホステス

French Pop meets J-Pop

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 フランスはなんだかんだといかなる時代においても強力なポップスを生んでいる。とくにこの20年あまりは、エディット・ピアフやセルジュ・ゲンズブールの時代のような言葉への強いこだわりよりも、エレクトロニック・ミュージックとダンス・サウンドへの注力によって、国際舞台で活躍するアーティストを多数輩出していることはみなさんもよく知っての通りである。ダフト・パンク、エール、カシアス、ジャスティス、あるいはシャルロット・ゲンズブール……。それらは別次元からやって来た別次元のポップスのようにぼくたちの耳を楽しませる。ムードイドはひょっとしたらこの輝かしい流れに乗れるかもしれない。
 で、ムードイドという謎めいた名前の正体だが、パブロ・パドヴァーニなる青年が率いるプロジェクトのことである。ムードイドはすでに3年ほど前の2014年に最初のアルバムを出している。それはエールの美学を受け継ぐファンタジーで、しかめっ面をして聴くようなタイプの音楽ではない。そして新作『シテ・シャンパーニュ』においてムードイドは、まさに21世紀のフレンチ・ポップと呼びうる音楽を完成させている。その2枚目となるアルバムでパブロは、ゲンズブール流のポップスとエール流の音響をところどころつまみあげ、それぞれの良さを結合させると、アメリカや日本の音楽からの影響もうまい具合にミックスする。日本? 水曜日のカンパネラの新しいEP「ガラパゴス」には1曲ムードイドが共作というかたちで参加している。じっさいパブロ・パドヴァーニはかなりの量のJ-Popを聴いているようだし、『シテ・シャンパーニュ』はJ-Popに影響されたフレンチ・ポップというなんとも奇妙なハイドブリッド感を有している。
 取材がはじまる前に、ムードイドは日仏会館の中庭でたこ焼きを食していた。うん、とてもおいしかったという満足した顔で、彼は初夏の日差しが差し込む取材の部屋にやって来た。椅子に座って、そして以下のような興味深い話をしてくれた。

例えば、日本ってけっこうポルノっぽいものとか、ゲームだったりとかが日常のなかに溢れていて、そういう騒々しいもの、猥雑なものと、それから伝統的なものとか、禅の考えとか、風水的な考えとかが、本当に自然に共存していると思います。フランスでは考えられないです。

ムードイドのフランスっぽさは、ご自身、意識して出しているんですか?

パブロ・パドヴァーニ(Pablo Padovani以下、PP):じつはフランスでは、ムードイドの音楽はアングロサクソン、英語圏の音楽に近いと言われています。というのも、フランスの音楽、フレンチのシャンソンと言われるものに関しては、非常に歌詞が重要なんです。けれど僕にとって歌詞というか、声はインストゥルメンタルのひとつ、楽器のひとつとしか思っていないので、そういった意味では、もしかしたらフランス的というのが少ないかもしれないです。
でも、たしかに新しいアルバム『シテ・シャンパーニュ』ではもう少しヴォーカルを意識したりとか、ちょっとセルジュ・ゲンズブールぽく歌ってみるとか、ちょっと官能的な感じでウィスパーヴォイスを使ったりとか試みています。フランスにはジェーン・バーキンをはじめ、ウィスパーヴォイスを上手く使う歌手が多くいるので、そこはちょっと意識しました。

なるほど。あなたの初期の曲 “Je suis la Montagne(ジュ・セ・ラ・モンターネ)”がとても好きなんですが、これを聴いたときにはエールとゲンズブールを合体させてアップデートしたようなふうに感じました。

PP:たしかにエールはすごくインスピレーションのもとになっています。彼らが醸し出す雰囲気が大好きですね。その曲ではリヴァーブのなかにヴォーカルが埋もれているようなところがあると思いますが、これはケヴィン・パーカーの仕事です。彼はテーム・インパラとかMGMTとかの仕事をしていますが、そういったところが感じられるのではないかなと自分でも思っています。

さっきあなたがおっしゃったように、たしかにファースト・アルバムはUK、USのロックの影響を感じましたし、ムードイドをやる以前のメロディーズ・エコー・チャンバーの音楽なんかはすごいUKっぽいですよね。そういうあなたのこれまでのキャリアを考えると、今作『シテ・シャンパーニュ』はすごくフレンチ・ポップというものを感じました。

PP:いま「フレンチ・ポップ」と言ってくれたことは、すごく正しいと思います。というのも、ヴォーカルをもう少し意識したということもありますし、ポップというのは自分のなかですごく大きいからです。ただ、影響としてはフランスの音楽ではなく、じつは日本だったりアメリカだったりの80'sのものにすごく影響を受けて作ったアルバムなんです。
たとえば、アメリカのプリンスの影響を色濃く反映させた曲を作るのではなく……、そういう意味では、坂本龍一、YMO、『パシフィック』……松下誠、坂本慎太郎、コーネリアスとか、そういった日本の音楽が、今回のアルバムに関しては自分のインスピレーション音源でした。なので、そういった意味ではハイブリッドという言い方もできるのではないかと思います。

すごく高名なジャズのサックス奏者であるお父さんがいる音楽家庭で育ったと思いますが、ジャズではなくロックやポップスみたいな方へいったのは、お父さんに対する反発心みたいなものがあったからですか?

PP:反発と言えるかどうかはわからないです。とにかく、ポップ・カルチャーに自分は非常に影響を受けていると思います。もともとは映画の勉強をしていたので、ムードイドという名前が知られるようになったのは、自分が作ったMVからだと思っています。“ジュ・セ・ラ・モンターネ” もそうですし “De Folie Pure(ホーリー・ピュア)”という曲も自分でクリップを加工しています。そこが自分のもともとのルーツというか、音楽に関してもポップ・カルチャーの方から来たのではないかなと思っています。ただ、今回のアルバムに関しては、フランスの若いジャズ・アーティストを呼んで、「80年代的な感じで、ジャム・バンドみたいにして自由にやって下さい」と言って録音したので、ジャズの要素もこのアルバムには含まれているのではないかと思います。

国境を無くすということがこの時代のポップ・カルチャーのいちばん大きな部分だと思います。というのも新しいアーティストが受けている影響というのは、インターネットのおかげで、国境が非常に無くなってきている。例えば、J-POPがすごく好きなのですが、YouTubeが無ければ、こんなにたくさんのJ-POPを知ることができなかったと思います。

ポップ・カルチャーというものの可能性についてどう思いますか? 

PP:ポップ・カルチャーには非常に可能性を感じています。自分たちの世代はインターネットもありますし、新しいメディアの形も変わりつつある時代なのではないかと思います。そういったなかで、クリエイティヴィティというものにも新しいものが求められていて、新しいものが出てきている時代だと思うんです。音楽ひとつとっても、クリップも非常に大事ですし、ヴィジュアルも大事ですし。そういった意味で、音楽に対する新しいアプローチというものが求められる時代に生きていて、新しい音楽の歴史がはじまっているような気がします。ポップ・カルチャーはまだまだ新しい扉が開かれるのではないかと思っています。昨日、水曜日のカンパネラと一緒にクリップを録ったのですが、日本人の仕事を見ていると僕たちの20年は先を行っているように思いました。フランスではありえないような、新しいやり方、斬新なやり方がとられていて、まだまだこれから可能性があるんじゃないかなと思えたところでもあります。

ポップ・カルチャーが成しうる最良のことは何だと思いますか?

PP:国境を無くすということがこの時代のポップ・カルチャーのいちばん大きな部分だと思います。というのも新しいアーティストが受けている影響というのは、インターネットのおかげで、国境が非常に無くなってきている。例えば、J-POPがすごく好きなのですが、YouTubeが無ければ、こんなにたくさんのJ-POPを知ることができなかったと思います。そういう意味で、新しいものが生まれ、そしてそれがどんどん混ざっていき、ハイブリッドになっていくということが、ポップ・カルチャーが成しえるもっとも素晴らしいことのひとつだと思います。フランスのシーンをひとつとってもいろいろなスタイルを持ったアーティストそれぞれが自分のスタイルをすごく確立していて、それを前に出していくアーティストが増えているので、やはりポップ・カルチャーのハイブリッドさの成せる業だと思います。

ちなみに、あなたをポップ・カルチャーの世界に引き入れた張本人は誰ですか? 

PP:圧倒的にプリンスですね。

フェイヴァリット・アルバムは?

PP:フェイヴァリット・アルバムというよりも、まず『パープル・レイン』という映画を自分のなかのいちばんのお気に入りで挙げたいです。映画からサントラとしての『パープル・レイン』というのがあって、映画とサントラというひとつの世界観が作られたという意味で、自分がそんなものを作ることができたら良いなと思える憧れの見本みたいな存在です。

さっきからJ-POPの話が出ていて、実際に今回の “プラネット・トウキョウ”と7曲目の “チェンバー・ホテル” にすごくJ-POPを感じました。この2曲はJ-POPですよね(笑)?

PP:本当におっしゃる通りです(笑)。日本の80年代のポップ・ミュージックの作られ方というものにすごく憧れを抱いています。日本のアーティストはすごく技術が高いというのがいちばんに言えることです。日本の80年代の音楽は、スタジオ・ミュージシャン、スタジオでの作業というものが、非常に高みにあがった時代なのではないかと思います。例えば、シンセにしても、ローランドやヤマハ、コルグ、そのあたりが日本で非常に発展した時代だと思っていて、日本はラボそのものなのではないかと思えます。もっとも新しいマシンがあって、もっとも新しい音があって、それになおかつテクニックと音楽的要素がちゃんと重なっている。そういう意味で、このアルバムのコンセプトになっているのが、80年代の日本の音楽であると思います。

あなたは80年代のJ-POP、日本の音楽を聴いて何を想像しますか?

PP:80年代の日本の音楽から連想させるものは、大きな喜びとポジティヴさだと思っています。それは自分にとって音楽をやる上ですごく大切なエモーションでもあります。要するに、ナイーヴとも言えるような善良さというものが、音楽から滲み出てくるというのが非常に自分の心を打つんですね。あとはジャズの影響というものもベースやギターのプレイに感じられます。例えば、アメリカのスティーリー・ダンみたいな感じで、英語で歌を歌ってみたり。そういう日本のアーティストのアプローチがすごく自分にも通じるところがあると思っていて、同じようなことを自分もフランス語でやっていると思うんです。例えば、YMOはクラフトワークのオリエンタル版だと思っているのですが、クラフトワークと違ってそこにすごく温かいもの、何かもっと人間的なものを感じます。『増殖』はラジオ仕様になっていたりとか、ジョークをつねに言っていたりとか。あのアルバムでのアプローチというのはすごい大好きです。

『増殖』はのギャグは、日本語だからなかなか意味はわからないと思うのですけど?

PP:しかしあのアルバムのなかで、英語で会話をしているのに日本語で答えたりしている部分があると思うんですが、すごく自虐的でアイロニカルで面白いと思っています。足が短いとか、性器が小さいとか、そういう話をしていると思うんですけど、そういうところがじつはすごく好きで、自分のクリップでもアメリカ的なものをコピーしたというか、自分なりに解釈してやったというのがあるんですけど、そのなかでも、フランスパンを使ったり、チーズを使ったりして、他の文化に対するちょっとした勘違いというものってよくあると思うんですけど、そういった異文化へのファンタジー、ファンタジーというか、勘違いのなかで生まれてくる新しさみたいなものがすごく大好きです。

80年代の日本の音楽に関していうと、バブル経済真っ直なかの音楽だから日本人はものすごくそれに対するアンビヴァレンスというか、憧れを持っている世代もいるいっぽうで、ぼくなんかはモノによっては素直に向き合えないところがあるんですけどね。

PP:まずひとつ思うのが、国が悪いときにアーティストは良いものを生み出すのではないかと思うんですよね。クリエイティヴィティが刺激されているんじゃないかと思うんです。だからきっと日本の人にとってはYMOの見づらい部分というものが、僕たちの心を打つところでも実はあるんじゃないかなと思っています。これは自分の場合なのですが、東京に初めて来たときに、自分がまったく知らない本当に新しい世界に来たというふうに思いました。暮らし方からしてもそうですし、言語もそうですし、なにもかもが新しくて。そういった意味で、新世界を発見したみたいなところがすごく引き付けられる大きな部分だと思います。そのなかに少し入ってみて感じるのは、生活のなかにある相反する要素。例えば、日本ってけっこうポルノっぽいものとか、ゲームだったりとかが日常のなかに溢れていて、そういう騒々しいもの、猥雑なものと、それから伝統的なものとか、禅の考えとか、風水的な考えとかが、本当に自然に共存していると思います。フランスでは考えられないです。

たしかに。

PP:例えば、アルバムのなかで "レプティル(Reptil)” という曲があるんですけど、これはフランスで起きたテロを経て作った曲なんです。やっぱりフランスのアーティストでテロの影響が直接的でも間接的でもアルバムに現れているアーティストというのはすごく多くて、そういった意味で、国の状況というのが自分たちのクリエイティヴィティに与える影響はすごく大きいと思うし、テロに関して今後も自分たちの音楽のなかに何かしらの影響を及ぼすんじゃないかな。

なぜレプティル=爬虫類だったのですか?

PP:これはこのアルバムで最初に書いた曲で、テロがあったその夜に書きました。1時間くらいで書きあがったんですけど、そのときはすごく悲しい気持ちで書きました。爬虫類というのは、相手を食べてしまったり、自分の仲間すらも食べてしまうような種族なので自分にとってすごくアグレッシヴなものの象徴です。でも自分はそこからどうやって自由でいるかということを歌っています。
ただ、アルバムを作っていくにあたってムードイドの音楽というのは、もっと喜びに満ちていて、そして、いろいろなヴァラエティに富んだものであるべきだ、そして、希望が感じられるようなものであるべきだと思ってきたんです。結局そのあと、曲やアルバム自体が仕上がったときに、このアルバム全体を聴いてみると、もっとお祭り騒ぎ的なものとかも入っていると思っていて。そのお祭り騒ぎというのは結局あの夜テロリストによって、壊されたものだと思うんですけど、その壊されたもののなかから、どうやって生き延びて、自分たちの自由をキープしながら、どうやってお祭り騒ぎを続けていくのか、どうやって愛を重ねていくのか、というようなことを自分は最終的に歌っているんじゃないかなと思います。

ありがとうございました。

 取材の翌日、ぼくは代官山のクラブでの水曜日のカンパネラのライヴを見にいった。途中コムアイに呼ばれると、ギターを抱えたムードイドはステージに上がり、コラボレーション曲を披露した。それはなんとも微笑ましい一幕で、それはどう考えても、未来という方角に向かっているようだった。

8 イン・サークルズ - ele-king

 リンゴ・スター、チャーリー・ワッツ、ジョン・ボーナム、レヴォン・ヘルム…ロック・ドラマーのコピーから始まった僕のドラム遍歴は、早々と「なんか違う」というところに座礁してしまい、だったらレコードにでも浸ってぷかぷかしていればよかったものの、パーカッションに出会ってやっぱり藻掻くこととなった。レコードのなかのドラマーたちがジャズに影響受けているとか語っているし、部室がかなり自由に使えそうだったから大学のジャズ研に入ったものの、全然スイングしないことをジャズとJ-POPしか聴かない閉鎖的な輪になんて入れるものかなんて責任転嫁して、レコードを漁り倉庫で太鼓ばかり叩いていた所謂ジャズ落第生のまま卒業。それなのにその後も2,3年は寄生虫のように部室で練習する有様。だから、ローラン・ガルニエが自身のラジオで、先日発売したGONNO×MASUMURA『In Circles』を、「ジャズとテクノのハイブリッドだ」と紹介してくれたことは嬉し恥ずかし……。

 「なんか違う」というところをクリアしたかったのは、ロック・バンドに参加してアルバムを作りたかったからで、それは、どうしてもどうにかしないといけないこと、をクリアしないといけないという青春気分から出ないものからで、シェイカーを振ると点ではなくて「シュー」とずっと音が鳴っていることに気づいたときに“なるほど”と、どこかひらめきめいたものを感じたことと、はっぴいえんどに学んだ「オリジナリティを勝ち得るためのルーツからの発進」がリンクした時点で長い道のりは始まってしまい、その過程で時間的にも気分的にも青春なぞ当に過ぎてしまった。ドラムのルーツでありそうなパーカッションからドラムに孵化することができたときには、曲は誰かに任せて、唯一わだかまりなく自分たちのルーツと思えた日本語で歌ってもらえばいいと考えたわけである。だから、いま結果的にドラムと作詞をしているのは誰かに憧れたわけではない。そう理由付けてみたものの、どちらも続けることができたのは、単に肌に合うところがあったからで、出鱈目に練習しながらも、理解半分本を読み漁っていたのも、どこか血行のわるいところをほぐしてもらっているような気分に浸っていただけなのかもしれない。そして、出鱈目を矯正してくれた何人かのパーカッショニストらには感謝しかない。

 そんな遍歴のいつか、10年近くも以前に、前回も登場したAと部室でトニー・アレン研究会をしたことがあった。Aに聴かされたときとても衝撃で、止まらずに流れつづけること、多彩なフレーズのなかにシンプルなエンジンが見いだされ踊れること、そこから来るリズム的説得力、その上でドラムという楽器で喋ることができること、そもそもパーカッションではなくドラムという楽器、とそのとき欲しかったもののすべてがあった。8ビートに孵化する前にここを通らないわけにはいかないと感じた。早速ふたりでコピーがはじまった。はじめはこれ本当にひとりで叩いているのかと、全然にモノにならないは、そのうち頭がどこかわからなくなるほどだったが、まずはバスドラとスネアの関係だけ捉えよう、次にハイハットと左足、くっつけよう、すべての音が繋がっていて、よくできている! すぐにできていたらきっとワン・フレーズとしてしか残らなかったであろう。右手、左手、右足、左足に四人のドラマーがいると語るアレンの凄まじさの断片に少し触れた気がした。彼らはたしかに自在にアンサンブルしている。Aとリンクしたのは、トニー・アレンとスピリチュアル・ジャズで、ロイ・ブルックスの話で盛り上がり、スティーヴ・リードを教えてもらい、一緒にサン・ラ“ニュークリア・ワー"を聴いた。パーカッションは教えてもらうばかりだった。

 別冊ele-king『カマシ・ワシントン/UKジャズの逆襲』でも書かせていただいたが、トニーのドラミングのルーツはパーカッションではなくて、ジャズとりわけバップ・ドラミングだったようだ。子供の頃パーカッションに行かずドラムに行っただけでも驚きなのだが、トニーとジャズに夢中だったフェラ・クティが当時ナイジェリアで断トツに流行っていたハイライフを新しい形で発展させることによってアフロ・ビートを発明した。(余談ですが、それを聞いて、現在たまーに大分で活動する際は専らジャズなのですが、ヒーヒー言いながら真摯に取り組むようになりました……。)

 GONNO×MASUMURAでは、そんな遍歴の途中のことを前面に出させてもらっている。GONNOさんと出会ったきっかけは『ロンドEP』で、あの曲はブラジルっぽいリズムと言われることもあるが、スティックをブラシに持ち替え、右手をハットからスネアに移して、トニーに倣ったリズムを叩いているし、また、編成的にも参考として上がったキエラン・ヘブデン&スティーヴ・リードが、あのスティーヴ・リードだったこともあり、自然とそういう方向性になった。キエラン・ヘブデン&スティーヴ・リードを教えてくれたのは実はGONNO×MASUMURAの発起人でもある野田さんで、障子の目から覗かれているような気がしたものだが、ちょうどそのレコーディング中に教えてもらった最近のUKジャズに、僕はいま、一方的な視線を送っている。つづく

Eartheater - ele-king

ロボットに人種はない ──マッド・マイク
コンピュータは無垢である ──アレクサンドラ・ドリューチン


 これはまた奇妙で、並外れたエレクトロニック・ミュージックのアルバムだ。作者の名前はアースイーター。NY在住のアーティスト、アレクサンドラ・ドリューチンのソロ・プロジェクトで、本作『IRISIR』が3枚目のアルバムになる。彼女はまたグレッグ・フォックスとガーディアン・エイリアンなるプロジェクトで〈スリル・ジョッキー〉などのレーベルから4枚のアルバムを出している。

 ダンスするのと、ダンスさせられるのではまったく意味が違う行為だが、彼女の音楽はダンスするよう感覚を引き起こす。初期ダンス・カルチャーの本当の素晴らしさのひとつは、広告看板が目に飛び込んでくる現代と違って、資本主義的洗脳から完璧に解放されることだった。もっとも、かつてはマトモスのフロントアクトを務めたことがあるアースイーターの音楽は、いわゆるクラブ・ミュージック的なダンスではない。それは聴いたことがあるようでない、まったく新鮮な響きによって病んだ心をみずみずしく再起動させる。2曲目“Inclined”はぼくが今年聴いた音楽のなかで最高の1曲だ。

 ファッキンな水が私の生命
 私はグローブを脱うとする
 分離したレイヤーたちを引き剥がそう
 私は私の身体をカスタマイズする
 営利目的ではない身体に

 美しさと激しさがせめぎ合う。哀愁を帯びたヴァイオリンのループとフットワークを崩したかのようなリズム、そしてアレクサンドラ・ドリューチンの透明な歌声。ケイト・ブッシュは彼女の英雄だが、この音楽をIDM版ケイト・ブッシュと言いたくなるのを抑えなければならない。ムーア・マザーがフィーチャーされた“MMXXX”では、彼女は破壊的なノイズと帰属的なわめき声そしてラップで空間をねじ曲げてみせている。また、“Curtains”ではハーブの音にジェフ・ミルズ流のミニマルがコラージュされ、“C.L.I.T.”では破片となったベース・ミュージックが再構成されているかのようだ。多彩なレイヤーを複合させることの妙は、評価された過去の2枚のアルバムですでに証明済みだが、『IRISIRI』には明確な主題が浮かび上がってくる。テクノロジー、身体、そしてジェンダー。生命と科学。その複雑性。最後の曲、“OS In Vitro(生体外のOS)”では、彼女は自分の詩をコンピュータのtext to speechになんども読ませている。最初は低い声で、そして甲高い声で、そして女性の声でなんどもなんども。

 この身体はケミストリー……ミステリー
 これらの乳房は副作用
 あなたは彼女を算出(コンピュート)できない
 あなたは彼女を算出(コンピュート)できない

 アレクサンドラ・ドリューチンは、歴史的に意味づけされた女性性というアイデンティティの神話を語り直そうとしているように見える。女性なら誰もが見てきた悪夢を振り払うかのように、彼女は自分の身体をあり得ない角度にねじ曲げながら、新しい抵抗の音楽を作り上げている。きっとそうに違いない。

[2019年1月9日編集部追記]
私たち ele-king はアースイーターのこの『アイリシリ』を「2018年ベスト・アルバム30」の第1位に選出しました。それを機に、急遽歌詞・対訳付きの日本盤CDもリリースされることに。紙版『ele-king vol.23』(https://www.ele-king.net/books/006651/)には彼女のインタヴューが掲載されています。非常に興味深い内容ですので、ぜひご一読を!

ele-king vol.22 - ele-king

これは、「音楽が世界をどのように見ているか」という特集である。

特集1:加速するOPNとアヴァン・ポップの新局面

 昔の「良かった」時代への郷愁をぶっちぎり、ポップ・ミュージックは最先端に向かって疾駆する。坂本龍一のリミックス・アルバムへの参加、カンヌ映画祭でのサウンドトラック賞の受賞。着実にアップデイトしているOPNが満を持してポップ・アルバムを完成させた! 間違いなく2018年の話題作となるであろうこの新作を中心に、ポップ・ミュージックにおける先鋭性について特集します。いわゆるアヴァン・ポップと呼ばれる音楽──ポップとは保守的な音楽を意味するようになった現代だからこそ、ビートルズの「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」に端を発した、ポップとアヴァンギャルドの関係を特集します。
 巻頭のOPN ロング・インタヴューに加え、アヴァン・ポップの代名詞とも言えるステレオラブのレティシア・サディエール、知性派の代表としてドイツからはマウス・オン・マーズ、7月に驚異的な新作を控えるダーティ・プロジェクターズのインタヴューも掲載。さてと……OPNは21世紀のブライアン・イーノたりうるのか?

特集2:アフロフューチャリズム

 チーノ・アモービと彼のレーベル〈NON〉の登場は、長きブラック・ミュージック史における衝撃です。彼らの過激なテクノ・サウンドとその政治性は、知性で武装するアフロ・ディアスポラ・ミュージックの新たなはじまりと言えるでしょう。彼らは世界を変えようとしています。彼らの音楽の根底には、ポール・ギルロイの『ブラック・アトランティック』とデトロイトのドレクシアがあります。彼らのコンセプトにはアフロフューチャリズムが横たわっています。
 チーノ・アモービのインタヴュー、ドレクシア再考、ブラック・カルチャーにおける知性と抵抗の系譜、アヴァン・ポップとアフロフューチャリズムを繋ぐクラインのインタヴュー、そしてポール・ギルロイからコドウォ・エシュン、マーク・フィッシャーからニック・ランドまで、音楽に大きな影響を与えているイギリス現代思想の概観──希望なき時代を生きる希望の音楽の大特集です。

contents

巻頭写真:塩田正幸

特集1:加速するOPNとアヴァン・ポップの新局面

preface OPNに捧げる序文 (樋口恭介)
interview ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー (三田格/坂本麻里子)
column 私の好きなOPN(佐々木敦、坂本麻里子、河村祐介、八木皓平、松村正人、木津毅、デンシノオト、小林拓音、野田努)

アヴァン・ポップの新局面 [※ポップに実験が必要である理由]

interview レティシア・サディエール(ステレオラブ) (イアン・F・マーティン/五井健太郎)
interview ダーティ・プロジェクターズ (木津毅+小林拓音/坂本麻里子)
interview ヤン・セント・ヴァーナー(マウス・オン・マーズ) (三田格/坂本麻里子)
column ホルガー・シューカイ (松山晋也)
column ブライアン・イーノ (小林拓音)
column 坂本龍一 (細田成嗣)
column グレン・ブランカ (松村正人)
column アーサー・ラッセル (野田努)
column 「前衛」と「実験」の違いについて (松村正人)
avant-pop disc guide 40 (三田格、坂本麻里子、デンシノオト)

CUT UP informations & columns [※2018年の上半期の動向を総まとめ]

HOUSE(河村祐介)/TECHNO(行松陽介)/BASS MUSIC(飯島直樹)
/HIP HOP(三田格)/POPS(野田努)/FASHION(田口悟史)
/IT(森嶋良子)/FILM(木津毅)/FOOTBALL(野田努)

特集2:アフロフューチャリズム [※黒に閉じないことの意味]

column 周縁から到来する非直線系 (髙橋勇人)
interview チーノ・アモービ (髙橋勇人)
column ドレクシアの背後にあるモノ (野田努)
interview クライン (小林拓音/米澤慎太朗)
column 未来を求めて振り返る (山本昭宏)
interview 毛利嘉孝 (野田努+小林拓音)
afrofuturism disc guide 35 (野田努、小林拓音)

REGULARS [※連載!]

幸福の含有量 vol. 1 (五所純子)
乱暴詩集 第7回 (水越真紀)
東京のトップ・ボーイ 第1回 (米澤慎太朗)
音楽と政治 第10回 (磯部涼)

DJ Koze - ele-king

 ストリングスがうなり、フルートが戯れ、そこにシンプルなリズムが慎ましやかに寄り添う何やら壮大なオープニング“Club der Ewigkeiten”(“クラブ・永遠”)で荒野に夕日が沈むと、2曲め“Bonfire"で聞こえてくる聴き覚えのある声のサンプリングに思わず頬がほころぶ。それは、僕がその声の主=ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)のたんなるファンだから……というのはもちろんあるが、それだけではなく、そのハウス・トラックにまぶされた色彩感覚や柔らかな透明感の可憐さにときめくからだ。ヴァーノンがかつて孤独を滲ませた歌が、しかしここではメロウなソウルとなってベースのグルーヴと呼応する。3曲めはエディ・ファムラーのエフェクト・ヴォーカルが気だるく重ねられる“Moving in a Liquid”。リズムはシャッフルしている。続いてアトランタのアレステッド・ディベロップメントをフィーチャーして、90sヒップホップの空気をたっぷり持ちこんだファンキーな“Colors of Autumn”……ここでもリズムは横に揺れている。緩やかに。この曲が流れる頃には、僕は、それにきっとあなたも、すっかりこのアルバムに心を許している。これは目の前の風景の美しさに意識を奪われること、たったいま流れるグルーヴィーなサウンドに身を任せることに疑いのない人間が作ったダンス・ミュージックだと肌で感じるからだ。だからこそ、次のトラックはダンス音楽ですらなくてもいい。ビートレスのフォーク・ソング、よく歌うギターと鳥のさえずりに合わせてホセ・ゴンザレスが優しい声を聴かせる。「ハニー、ハニー」……。

 とにかくヴァラエティ豊かなトラックが78分ぎゅうぎゅうに詰めこまれている。DJコーツェのオリジナル・フルとしては5年ぶりとなる本作だが、このドイツのベテランは、当然その間にも数々のシングルやリミックス、ミックス・アルバム、それに数えきれないDJプレイを披露してきた。夜から夜へ、ときにはスタジオやベッドルームへ、それからまた夜へ。その日々がそのまま封じこめられているかのようだ。『ノック・ノック』の軸足にはしっかりとハウスがあるが、しかしもう片足は彼らしいロマンティックな感覚のもとで様々な土地の様々な時代を自由に行き来する。70年代風のソウル、ブレイクビーツ、アフロ・ポップ、フォーク、シンセ・ポップ、ディスコ、アンビエント。00年代は〈KOMPAKT〉のイメージが強いコーツェだが、自身のレーベル〈Pampa〉からのリリースとなった前作辺りからより幅広い音楽性を見せている。もともとヒップホップDJで様々なジャンルをミックスするのを得意としていたこともあるだろうが、それにしてもこの引き出しの多さには驚かされる。なかでもラムチョップのカート・ワグナーを招聘した“Muddy Funster”などは人選からして意外だが、陶酔感の強いアブストラクトなドリーム・ポップがそこでは展開される。かと思えばボーズ・オブ・カナダをよりチャイルディッシュにしたようなブレイクビーツ“ Baby (How Much I LFO You) ”や“Lord knows”もあるし、多くのひとがコーツェに期待するであろう激バウンシーなフィルタード・ハウスのシングル“Pick Up”もある。
 ゲストの多彩さ、音楽性の多様さは間違いなくこのアルバムの魅力だが、それはたとえば政治的な意味でマルチ・カルチュラルでなければならないといった大上段に構えたテーゼからではなく、いろいろな要素が入っていたほうが気持ちいいからという生理的欲求から来ているように感じられる。理屈抜きにダンスフロアにはいろんな種類のひとが踊っていたほうがいいし、いろんな音楽が鳴っていたほうがいいというような大らかさ。文字通りのDJミックス。
 だがバラバラになっていないのは、さっき書いたようなコーツェらしい色彩感覚によるところが大きいのだろう。ジャケットのように淡くサイケデリックな色合いで統合されていて、しかもそれは、よく聴けばごく細い筆で隅々まで丁寧に塗られている。『ノック・ノック』を、あるいはコーツェを聴いていて感じる胸の高鳴りは、昨日まで図画工作の時間で使っていた12色入りの絵の具の代わりに今日からこれを使っていいぞと48色入りを渡された子どもが抱くそれと似ている。それでいて実際出来上がった絵は、職人が手がけた確かなものなのだ。
 コーツェのトラックはよくカレイドスコーピック、つまり万華鏡的だと評される。その通りだと思う。幾何学的な美は様々に姿を変えていくが、それはつねに温かく優しい色を携えている。いずれにせよ『ノック・ノック』はよく出来たファンタジー世界で、そこに身体と意識を預ければ最高のトリップが約束されている。レイジーでカラフルな夏がもうすぐやって来る。

Autechre - ele-king

 レヴューは書きそびれてしまったけれど、昨年〈Skam〉から久しぶりにボラのアルバムがリリースされたのはじつに喜ばしい出来事だった。みんなが忘れた頃にぽろっと作品を送り出すマイペースなマンチェスターのレーベル、その主宰者がアンディ・マドックスである。彼はオウテカのふたりとともにゲスコムを構成する一員でもあるわけだが、今回フロントアクトを務める彼のステージもまた、この日の大きな楽しみのひとつだった。〈Skam〉からは最近、アフロドイチェなるニューカマーの興味深いデビュー作がリリースされているけれど、いまかのレーベルがどんなサウンドに関心を寄せているのか、少しでもそのヒントを摑みたかったのである。
 開始時刻の19時30分から少し遅れてフロアへ入場すると、ゆさゆさと身体を揺らしている多数のオーディエンスの姿が目に入る。マドックスのプレイはエクスペリメンタルでありながらも基本的には機能的で、全体的にはジャングルに寄った内容だった。これが最近の〈Skam〉のモードなのか彼自身のモードなのか、あるいは今日のための特別な仕様なのかはわからないけれど、これでもう〈Skam〉から実験的なジャングルの作品がリリースされても驚かない。心の準備は整った。

 そして20時30分。会場の照明がすべて落とされて暗闇が出現、オウテカのショウがスタートする。
 身体の芯までずっしり響く低音と、その合間を縫って忍び寄るメタリックないくつかの音塊。ひんやりとした空調の効果もあって、少しずつ鳥肌が立っていくのがわかる(まあこれはたんに僕が立っていた場所の問題かもしれないが)。おもむろに抽象度を高めていくビートレスな音響空間。そのあまりに曖昧模糊としたサウンドに歓喜したのか、あるいは逆にもっとダンサブルな音が欲しくて物足りなかったのか、10分を過ぎたあたりで誰かが雄叫びを上げる。音は絶えず変化を続け、アンビエントともサウンドアートとも形容しがたい独特の音響が会場を覆い尽していく。

 しばらくすると金属的なノイズが連射され、ふたたび喚声があがる。一瞬、ビートらしきものが形成される。またも喚声。オーディエンスの一部はやはりもっと具体的なものを求めていたのかもしれない。しかしその期待に抗うかのようにオウテカは、次々と深淵を覗き込むかのようなアブストラクトな音塊を放り込んでいく。何度も訪れる静寂な瞬間。そのたびに近くの人たちの会話や衣擦れの音が耳に入ってくる。フェティッシュとしてのそれではない、本来の意味でのノイズ。これもまた彼らの意図した効果なのだろうか。
 リズムのほうも相変わらず複雑で、強勢の位置は短いスパンでどんどん変更されていく。とはいえ小節らしきものを把握することも不可能ではないので、踊ろうと思えばぜんぜん踊れる音楽なのだけれど、ほとんどの人たちが棒立ちになっていたような気がする。退出していく者もちらほら。もちろん、暗闇のなかだからその正確な実態はわからない。

 フェティッシュとノイズとのあいだを綱渡りするかのように、どんどん変化を遂げていく音の数々。それにつられて頭のなかでは、いろんな問いがぐるぐると回転しはじめる。ベースとは何か。リズムとは何か。ドローンとは何か。アタックとは何か。反復とは何か。ノイズとは何か。ビートとは何か。ダンスとは何か。ライヴとは何か――。さまざまな思考が浮かび上がっては消えていく。これぞまさにブレインダンス。ここではたと、前座のアンディ・マドックスのプレイが伏線の役割を果たしていたことに思い至る。身体的な機能性との対比。
 そのことに気がついた途端、場面は急展開をみせた。1時間が経過した頃だろうか。とつぜんリズミカルな音塊が会場を襲う。巻き起こる喚声の嵐。真っ暗ではあるけれど、周囲のオーディエンスが一気に身体を揺らしはじめたのがわかる。リズミカル、とは言ってももちろんそれは4つ打ちなどではない。オウテカらしい変則的なビートとメロディらしきものの断片がいやおうなくこちらの身体を刺戟する。思考のあとに与えられる快楽。なんとも練り込まれた構成である。そのまま彼らはバシバシのサウンドを放出し続け、8年ぶりの来日公演を締めくくったのだった。

 オウテカはいまでもオウテカであることを、すなわち慣習への服従に抵抗することを諦めていない。およそ30年にわたってその姿勢を貫いているのはさすがである。――ぐだぐだと御託を並べて何が言いたいかって? 端的に言って、最高だよ。

Leslie Winer & Jay Glass Dubs - ele-king

 ユーチューブにアップされている「ポップ・ミュージックの歴史まとめ」みたいな動画を見ていると、題材によってはそれなりに同じような時間をかけて同じものを見ているはずなのに、こんなにも違って見えているのかということがわかって、なかなかに面白いし、音楽について誰かと話をすることの無力さを再確認させてくれる。ヒップホップでいえば、昨年は若い世代が盛んに2パックをディスったり、聴いたこともないという発言が相次いで揉めに揉めていたけれど、意外と多かったのが「知らない方がいいサウンドをつくれることもある」というヴェテランたちの意見で、歴史とクリエイティヴを秤にかければクリエイティヴに軍配があがり、退廃をよしとするのはなかなかに潔いなとも思わされた。あるいは、この数年、再発盤の主流となっているのがプライヴェート・プレスの発掘で、実はこんなサウンドがこんな時期につくられていたというスクープの効果みたいなことも「再発」の意味には多く含まれている。これは言ってみれば、歴史というのは世に出て多くの人の耳に届いたものを限定的に歴史扱いしているだけで、そのことと実際のクリエイティヴには確実なエンゲージメントは保障されていないということでもある。それこそ再発盤が1枚出るたびに歴史が書き換えられていくに等しい思いもあるし、ポップ・ミュージックの歴史というのは勝ったものの歴史でしかなく、それによって隠蔽されてきたものがあまりに多すぎるとも。なんというか、もう、ほんとにグラグラになっているんじゃないだろうか、歴史というものは。

 ギリシャを拠点とするジェイ・グラス・ダブスことディミトリ・パパドタスは事実とは異なるダブ・ミュージックの歴史的アプローチ、つまり「ダブ・ミュージックの偽史」をコンセプトに掲げ、これまでに7本のカセット・アルバムをリリースしてきたらしい(ちゃんとは聴いてない)。この人が昨年のコンピレイションや「ホドロフスキー・イン・デューン・イン・ダブ」などという空恐ろしいタイトルのシングルに続いてレズリー・ワイナーと組んで、なるほどダブの偽史をこれでもかと撒き散らした見本市のような6曲入りをリリース。レズリー・ワイナーというのがまたよくわからない人で、アメリカのファッション・モデルとしてヴァレンティノやディオールと仕事をしていた人らしく、ゴルチエをして「初のアンドロジーニアス・モデル」と言わしめた人だという。彼女がそして、ウイリアム・バローズやバスキアと知り合ったことでファッション業界から離れ、ミュージシャンへと転向してロンドンに移ってZTTからデビューした後、ジャー・ウォッブルとつくったアルバム『ウィッチ』(93)はトリップ・ホップの先駆として後々にも評価されるものになる(その後はレニゲイド・サウンドウェイヴを脱退したカール・ボニーと活動を続け、ボム・ザ・ベースのアルバムで歌ったりも)。つまり、ダブ・ミュージックの偽史を標榜するパパドタスにとっては彼女が格好のコラボレイターであったことは間違いなく、なるほどレイヴ・カルチャーの到来とともにどこかで迷子になったダブ・インダストリアルのその後をここでは発展させたということになるだろうか。

 アンビエント・ドローンあり、レイジーなボディ・ミュージックにウエイトレス紛いとスタイルは様々。ダブという手法はジャマイカを離れ、イギリスのニューウェイヴと交錯した時点で、偽史として構築するしかないものになっていたとも思えるけれど、それにしてもここで展開されている6曲は歴史の闇を回顧しているようなサウンドばかり。どこに位置付けられることもなく、これからも迷子のままでいることだろう。それともジェイ・グラス・ダブスにはダブステップを経た上でここにいるというムードもありありなので、ことと次第によっては自分のいる場所に歴史を引き寄せてしまうことも可能性としてはないとは言えない。まあ、ないと思うけど。ちなみにアルバム・タイトルの『YMFEES』は“Your Mom’s Favourite Eazy-E Song”の略だそうです。なんでイージー・E?

KAORU INOUE - ele-king

 2ヶ月前にインタヴューを掲載した井上薫、ポルトガルのレーベルからアナログ盤のみのリリースだった『エン・パス(Em Paz)』がボーナストラック2曲追加でCDとしてリリースされます。発売は6月20日。アートワークも一新して、ライナーノーツは井上薫が自ら書いています。まさにいま旬なニューエイジな1枚になっていますよ。

KAORU INOUE
Em Paz

Pヴァイン
発売日:6月20日
Amazon

Laibach - ele-king

 米朝、と言っても桂ではありません。昨夜の首脳会談、ふたりの満面の笑みからはきな臭い匂いが漂っています。いったい裏でどんな取引を交わしたのやら……。
 そんな米朝首脳会議を記念して、〈Mute〉所属のライバッハが朝鮮民謡のカヴァー曲を発表しています。7月14日からは、彼らが北朝鮮でライヴを催すまでを追ったドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』の公開も控えています。聴き手に考えることを促すスロヴェニアのバンド=ライバッハは、いまどんなふうにあの会談を捉えているのでしょうか。
 いやしかしきな臭い。じつにきな臭い……。

ライバッハ、歴史的な米朝首脳会談の開催を記念し、朝鮮民謡“アリラン”のカヴァー曲を発表。
ドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』は、7/14より公開。

ライバッハは、シンガポールでおこなわれた米朝首脳会談を記念して、朝鮮民謡“アリラン”のカヴァー曲を発表した。

https://youtu.be/w_PCdJ3Dn9E

ライバッハと北朝鮮の関係は、2015年8月15日の北朝鮮「祖国解放記念日」に、北朝鮮政府がライバッハを招待したことから始まる。1980年にスロベニア(旧ユーゴスラビア)で結成して以来35年、革新的な表現活動をおこなってきたインダストリアル・ロック・バンドが北朝鮮の大切な記念行事に招待されたことは、それも初めて招待した外国のミュージシャンが彼らだということは、世界中に衝撃をあたえた。

ライバッハによる“アリラン”のカヴァー曲は、朝鮮民謡“アリラン”と、北朝鮮で広く親しまれている“行こう白頭山へ”を融合させたもので、平壌クム・ソン音楽学校のコーラス隊が参加している。後に、彼らは南北統一を祈願して、韓国の全州でもコンサートをおこない、北朝鮮と韓国の両国で演奏した最初のバンドとなった。


©VFS FILMS / TRAAVIK.INFO 2016

またライバッハが北朝鮮で奇跡のコンサートをおこなうまでの悪戦苦闘の1週間を追ったドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』が、7月14日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開する運びとなっている。彼らが所属する〈MUTE〉レーベルの創始者ダニエル・ミラーも北朝鮮ツアーに同行し映画に出演している。

「ユーモラスで異形、示唆に富みながら時折現実を超えた社会主義の世界へどっぷりと入り込んでいく」 ――MOJO

映画公式HP:https://kitachousen-rock.espace-sarou.com/

いまから35年以上前、当時ユーゴスラビアの工業の町トルボヴリェで結成して以来、ライバッハはいまでも中央や東ヨーロッパ旧社会主義国出身としては、世界的に最も評価の高いバンドである。ユーゴスラビア建国の父チトーが亡くなったその年に結成され、ユーゴスラビアが自己崩壊へと舵を切るのとときを同じくしてその名を知られるようになる。ライバッハは聴くものを考えさせ、ダンスさせ、行動を呼びかける。

最新アルバム『Also Sprach Zarathustra』(2017年)

[Apple Music/ iTunes] https://apple.co/2ENp7CL
[Spotify] https://spoti.fi/2sVQtj1


www.laibach.org
www.mute.com

JAZZ & CITY #3 - ele-king

 シャバカ・ハッチングスにカマール・ウィリアムス。ジャズは燃え続ける。それは何度でも蘇る。ではそんな現在にあって、マイルスの死の直前に2本の音楽映画を撮ったスパイク・リーはどのように観直すことができるだろう? 6月29日、批評家・平井玄と、『残響のハーレム』で知られる人類学者・中村寛が新宿2丁目で語り合う。入場無料。ぜひ足をお運びください。

共和国 PRESENTS
editorial republica

ブルックリンから黒人映画を語る
まっとうに生きろ!と「もっともっと」のブルース

JAZZ & CITY #3
reverberation under gentrification

1968年から50年? それがどうした。
語られれば語られるほど、肝心なことが消されていく。

さて、南ロンドンから鳴り響くUKジャズを最近は聴いている。
そこにロリンズ風のモールス信号フレーズが聞こえる。
ロリンズから半世紀、カリブ海から大西洋を東に回り込んできた連中の若い音だ。
ジャズは生きている。死んでいるのは俺たちだ。

天国か地獄か、マイルスが召された1990年ごろ、なぜかスパイク・リーは2本の音楽映画を撮る。
投げ込まれたラジカセのヒップホップが暴動の引金を弾く『Do the Right Thing!』。
ジャズマンのファミリーロマンス、4ビートで奏でる義理人情物語『Mo' Better Blues』。
「ブラックの肝はこれだ!」とダメ黒人のリーは言うのである。

黒豹党から50年、Black Lives Matterの今、
肝心なことって、いったいなんだ?
マルコムXを射殺した犯人にでっち上げられた男を描く
『残響のハーレム』の著者・中村寛とガンガン語り合う夕べ。

2018/6/29 [FRI]
OPEN 19:00 START 19:30
入場無料(但し要ドリンクオーダー)投げ銭制

出演:
平井玄、中村寛

会場:
Café★Lavandería
〒160-0022
東京都新宿区新宿2-12-9
広洋舎ビル1F
TEL: 03-3341-4845
https://cafelavanderia.blogspot.com/

主催・問い合わせ:(株)共和国 editorial republica
naovalis@gmail.com
https://www.ed-republica.com/

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