ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. DJ Stingray 313 ──来日直前特別インタヴュー、エレクトロの醍醐味から現在制作中の新作まで
  2. Tadekui ──北海道出身の期待のバンド、タデクイのファースト・アルバムが全国流通開始&LPもリリース
  3. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  4. Beatrice M. - Sinking | ベアトリス・M
  5. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  6. Cornelius ——コーネリアス、ニュー・アルバム『REFRACTIONS』の詳細を発表
  7. AMBIENT KYOTO - TOKYO ——坂本龍一と高谷史郎による「async - immersion」がついに東京で開催
  8. Visible Cloaks - Paradessence | ヴィジブル・クロークス
  9. Cornelius ──コーネリアスがさらなる新曲“Twisting & Glistening”を公開
  10. Columns #16:ワールドカップ2026 ──時代は変わった(日本代表のことではない)
  11. Cornelius ——コーネリアスがアルバム『Refractions』のリリースと新曲“Aeons”の配信開始を発表
  12. 巻紗葉インタヴュー・マラソン ロールシャッハ・ノート #4 eastern youth 吉野寿 前編  | イースタン・ユース
  13. YHWH Nailgun - Magazine | ヤハウェ・ネイルガン
  14. interview with Loraine James ロレイン・ジェイムズの“ポップ”な冒険 | ——来日直前インタヴュー
  15. FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026 ──新たなフェスティヴァルが始動、ジョイ・オービソンやザ・セイバーズ・オブ・パラダイス、ノウワーらが出演
  16. Fumiya Tanaka ──Fumiya Tanaka主催パーティ〈CHAOS〉東京編、ゲストはStones TaroとLomax
  17. 巻紗葉インタヴュー・マラソン ロールシャッハ・ノート #5 eastern youth 吉野寿 後編  | イースタン・ユース
  18. 野田 努
  19. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  20. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか

Home >  Reviews >  Album Reviews > DJ Koze- Knock Knock

DJ Koze

House Techno

DJ Koze

Knock Knock

Pampa/OCTAVE

Amazon

木津 毅 Jun 15,2018 UP

 ストリングスがうなり、フルートが戯れ、そこにシンプルなリズムが慎ましやかに寄り添う何やら壮大なオープニング“Club der Ewigkeiten”(“クラブ・永遠”)で荒野に夕日が沈むと、2曲め“Bonfire"で聞こえてくる聴き覚えのある声のサンプリングに思わず頬がほころぶ。それは、僕がその声の主=ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)のたんなるファンだから……というのはもちろんあるが、それだけではなく、そのハウス・トラックにまぶされた色彩感覚や柔らかな透明感の可憐さにときめくからだ。ヴァーノンがかつて孤独を滲ませた歌が、しかしここではメロウなソウルとなってベースのグルーヴと呼応する。3曲めはエディ・ファムラーのエフェクト・ヴォーカルが気だるく重ねられる“Moving in a Liquid”。リズムはシャッフルしている。続いてアトランタのアレステッド・ディベロップメントをフィーチャーして、90sヒップホップの空気をたっぷり持ちこんだファンキーな“Colors of Autumn”……ここでもリズムは横に揺れている。緩やかに。この曲が流れる頃には、僕は、それにきっとあなたも、すっかりこのアルバムに心を許している。これは目の前の風景の美しさに意識を奪われること、たったいま流れるグルーヴィーなサウンドに身を任せることに疑いのない人間が作ったダンス・ミュージックだと肌で感じるからだ。だからこそ、次のトラックはダンス音楽ですらなくてもいい。ビートレスのフォーク・ソング、よく歌うギターと鳥のさえずりに合わせてホセ・ゴンザレスが優しい声を聴かせる。「ハニー、ハニー」……。

 とにかくヴァラエティ豊かなトラックが78分ぎゅうぎゅうに詰めこまれている。DJコーツェのオリジナル・フルとしては5年ぶりとなる本作だが、このドイツのベテランは、当然その間にも数々のシングルやリミックス、ミックス・アルバム、それに数えきれないDJプレイを披露してきた。夜から夜へ、ときにはスタジオやベッドルームへ、それからまた夜へ。その日々がそのまま封じこめられているかのようだ。『ノック・ノック』の軸足にはしっかりとハウスがあるが、しかしもう片足は彼らしいロマンティックな感覚のもとで様々な土地の様々な時代を自由に行き来する。70年代風のソウル、ブレイクビーツ、アフロ・ポップ、フォーク、シンセ・ポップ、ディスコ、アンビエント。00年代は〈KOMPAKT〉のイメージが強いコーツェだが、自身のレーベル〈Pampa〉からのリリースとなった前作辺りからより幅広い音楽性を見せている。もともとヒップホップDJで様々なジャンルをミックスするのを得意としていたこともあるだろうが、それにしてもこの引き出しの多さには驚かされる。なかでもラムチョップのカート・ワグナーを招聘した“Muddy Funster”などは人選からして意外だが、陶酔感の強いアブストラクトなドリーム・ポップがそこでは展開される。かと思えばボーズ・オブ・カナダをよりチャイルディッシュにしたようなブレイクビーツ“ Baby (How Much I LFO You) ”や“Lord knows”もあるし、多くのひとがコーツェに期待するであろう激バウンシーなフィルタード・ハウスのシングル“Pick Up”もある。
 ゲストの多彩さ、音楽性の多様さは間違いなくこのアルバムの魅力だが、それはたとえば政治的な意味でマルチ・カルチュラルでなければならないといった大上段に構えたテーゼからではなく、いろいろな要素が入っていたほうが気持ちいいからという生理的欲求から来ているように感じられる。理屈抜きにダンスフロアにはいろんな種類のひとが踊っていたほうがいいし、いろんな音楽が鳴っていたほうがいいというような大らかさ。文字通りのDJミックス。
 だがバラバラになっていないのは、さっき書いたようなコーツェらしい色彩感覚によるところが大きいのだろう。ジャケットのように淡くサイケデリックな色合いで統合されていて、しかもそれは、よく聴けばごく細い筆で隅々まで丁寧に塗られている。『ノック・ノック』を、あるいはコーツェを聴いていて感じる胸の高鳴りは、昨日まで図画工作の時間で使っていた12色入りの絵の具の代わりに今日からこれを使っていいぞと48色入りを渡された子どもが抱くそれと似ている。それでいて実際出来上がった絵は、職人が手がけた確かなものなのだ。
 コーツェのトラックはよくカレイドスコーピック、つまり万華鏡的だと評される。その通りだと思う。幾何学的な美は様々に姿を変えていくが、それはつねに温かく優しい色を携えている。いずれにせよ『ノック・ノック』はよく出来たファンタジー世界で、そこに身体と意識を預ければ最高のトリップが約束されている。レイジーでカラフルな夏がもうすぐやって来る。

木津 毅