
(1)空気頭登場 (取材:野田努)
![]() Airhead For Years R & S Records/ビート |
エアヘッド、空気頭、自らを藤枝静夫の代表作を名乗る23歳のロンドン子、ロブ・マックアンドリューズがジェイムス・ブレイクのバンドのギタリストとして、去る6月上旬、来日したので取材した。彼のデビュー・アルバム『フォー・イヤーズ』がリリースされる直前のことだった。
エアヘッドは、名前も良いが、音も良い。とくに10インチの「Wait」が僕は好きだ。ジェイムス・ブレイクの旧友だが、ビートの組み方が明らかにヒップホップ寄りで、ソウル・ヴォーカルのエディットも滑らかだ。センスが良いとしか言いようがない。
会ったのは、同じ日のジェイムス・ブレイクの取材の前の時間だった。渋谷でエアヘッドと話してから、青山でジェイムス・ブレイクを取材した。
僕がもっとも驚いたのは、ジェイムス・ブレイクの背の高さである。僕も180cmと高いほうだが、彼は190はあるぐらいに見える。学生時代はテニスをやっていたそうで、体格もがっちりしていて、どう見てもヒキコモリでもオタクでもないぞ、いかにも育ちが良さそうな、文武両道といった感じ。印象に残った言葉は、エアヘッドを指して、「あいつ、アホだろ」と呟いたブレイクの言葉。ふたりの友情、ふたりの深い関係性が読み取れやしないか。
とまれ。時間順に行きます。まずは、ロブ・マックアンドリューズ。エアヘッドのインタヴューから。6月5日、よく晴れた正午、渋谷のカフェ。柔和で、謙虚な青年だった。
18歳未満のときも、偽のIDカードを作って、僕はクラブに入り込もうとして......、昔からジェイムス・ブレイクやベンとは友だちだったんですけど、みんなで「クラブ行こうぜ~!」って、偽のIDを作って行ったのに入れてもらえなかったり(笑)。
■この後、ジェイムス・ブレイクと会うんですよ。
ロブ:ホント? アハハハハハ。
■うちは基本、オンライン・マガジンなんですが、実は紙でも出していて、ほら、2011年のベスト・ワンをジェイムス・ブレイクのアルバムにしたんですよ。
ロブ:イエイエ(笑)、いいね。
■じゃ、よろしくお願いします。ギターを弾きはじめたのは?
ロブ:11歳のときからです。いま23歳なので、もう12年ぐらい弾いています。
■2010年に〈ブレインマス〉からシングルを出していますが、打ち込みをやる以前、ギタリストとしてはどんな活動を?
ロブ:最初は物真似で、自分で曲も作ってましたね。11歳の頃はロックにハマって、エレクトリック・ギターを弾いてましたが、途中からアコースティック・ギターにハマってカントリーを弾きました。ミシシッピ・ジョン・ハートが大好きになって、ものすごく影響を受けました。15歳になってから打ち込みにハマって、電子音楽を作るようになりました。
■電子音楽を作るようになったきっかけは何だったんですか?
ロブ:友人の従兄弟が実験的な音楽を聴いていて、彼を介して知ったんです。それから、15歳のときにアンチコンのクラウデッド、オッド・ノッザムなんかにハマって、自分でも作りたいと思ったんです。自分が持っているパソコンで作れるんだってことも知って。
■ああ、なるほど、アンチコンかぁ。あなたの作品を聴いたとき、ビートメイカーだなと思ったんですよね。
ロブ:なははは、アリガト(笑)。
■去年、あなたのシングル「Wait」が都内のレコ屋に並んだときも、ヘッズが買ってましたよ。
ロブ:それはとても嬉しいですね。実はその曲は2009年に出来ていたんですね。でも、僕は、作るだけで出すことがうまくないんです(笑)。その曲はずっと放置されていたんですが、いまジェイムス・ブレイクのマネージャーをやっているダンが、「これは早く出したほうが良い」って、動いてくれたんです。彼はいま僕のマネージャーもやっています。
■当時のアンチコンはもっともイルなレーベルでしたが、クラウデッドみたいな不気味な音楽のどこに惚れたんですか?
ロブ:やっぱユニークで変わっていますから。クラウデッドのファースト・アルバムなんかはとくにそうだったと思います。1曲のなかに6つぐらいの違う要素があって、繋がらないものが繋がってしまうというか。あの頃のアンチコンやクラウデッドのサンプルは、古いレコードから取られていたので、オーガニックで、ナチュラルな響きがあったと思うんですね。そこが、僕のなかで、カントリー/ブルースから電子音楽への橋渡しになったんだと思います。
完全な電子音楽......というか、シンセの音を好きになるのは、アンチコンにハマってから数年後のことだったんです。やっぱ若い頃は、シンセの音に抵抗がありました。
■生まれと育ちは?
ロブ:ロンドン。
■ロンドンのクラブ・シーンとはどうやって繋がるんですか?
ロブ:クラブとはすごく強い結びつきがあります。18歳未満のときも、偽のIDカードを作って、僕はクラブに入り込もうとして......、昔からジェイムス・ブレイクやベンとは友だちだったんですけど、みんなで「クラブ行こうぜ~!」って、偽のIDを作って行ったのに入れてもらえなかったり(笑)。でも、18歳になって晴れてクラブに行けるようになりました。
僕は18歳からは、リーズという北部の街の大学に進学したので、その頃はロンドンにはいなかったんですけれど、その街にはウエスト・インディアン・コミュニティ・センターがあって、そこで初めてデジタル・ミスティックズやマーラやコーキのショーを見ました。初めてダブステップを聴いたのはそのときです。コミュニティ・センターのサウンドシステムも素晴らしくて、手作りで、ものすごい迫力のある音を出していました。だから、ロンドンのクラブと繋がっていたんではなく、ロンドンのクラブに影響を受けていたと言ったほうが正確ですね。ジェイムスと一緒に〈ヘッスル・オーディオ〉とか、マウント・キンビーとか追いかけて、あと〈プラスティック・ピープル〉にも遊びに行きましたね。いまではジェイムスたちと一緒に〈プラスティック・ピープル〉でイベントをやっているわけですから、面白いモノですね。
■ジェイムスとはいつから知り合い?
ロブ:中学校が一緒だったんですね。だから、12年ぐらいの付き合いになります。
■当時のふたりにとっての音楽的なヒーローは誰だったんですか?
ロブ:中学のときは別々の楽器やっていたから、お互い共通する音楽的ヒーローはいなかったと思います。ジェイムスはピアニストだったし、アート・テイタムとか好きだった。彼に直接訊いてみないとわからないけど。僕はロックが好きだったので、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェペリンがヒーローで、それからブルーズが大好きになった。僕とジェイムスの好みが一致するのはダブステップ以降です。17歳、18歳の頃で、ジェイムスはディアンジェロの『ヴードゥー』をよく聴いていましたよ。
■名盤ですね。
ロブ:本当にそうですね。
■偽のIDを作ってまでしてクラブに行きたかった理由は何なんですか?
ロブ:ロンドンのクラブがすごく盛り上がっていたんです。ジャングルがすごくて、ゴールディーやグルーヴライダーのようなDJがプレイしていました。僕やジェイムスはとにかくそのなかの一部になりたくて......。ロンドンには本当に素晴らしいサウンドシステムもあるし、良いDJがたくさんいる。クラブで遊びたいというよりも、音楽が聴きたいっていう感じでした。音楽のためにクラブに行ってました。
■がっつり踊るほうですか?
ロブ:アハハハ......、気分によります。自分のドリンクに何が入っていたかによりますね(笑)。お酒を飲んだくらいなら、まあ、静かに大人しく音楽を聴いていますが、何か別のときは騒ぐこともあります。でも、自分はあんまり踊りがうまくないので、踊らないようにしています(笑)。
■ハハハハ。
ロブ:ニューヨークのディープ・スペースというパーティで、フランソワ・ケヴォーキアンのDJを聴いたときは、ちょっとお酒を飲んだだけなのに、ものすごく踊りました(笑)。ジェイムスやベンや僕の彼女と一緒に行ったんですけど、結婚式で酔っぱらったおじさんみたいに、踊ってしまいました。
■フランソワの何が良かったんですか?
ロブ:まさに音楽が良かったんです。ディミトリ・フロム・パリもプレイしていました。彼のDJも良かったです。音楽の質とクラブの雰囲気がすごく良かったんです。オーディエンスも、ミーハーな感じではなく、音楽を聴きに来ている感じでした。通っぽい人たちばかりで、良い雰囲気でした。
[[SplitPage]]自分の名前がジェイムス・ブレイクみたいにキャッチーな名前だったら良かったんですけど......、まあ、何か名義が必要だなって考えていたときに、友だちが彼女に向かって「おまえはエアヘッドだ」って言ったことがあって、エアヘッドというのは、「何も考えていない」、「おばかさん」という意味なんですが、「あ、それもらった」と思って、使っています(笑)。
■あなたの世代から見て、ハウス・ミュージックはどこがいいんですか?
ロブ:ハウスはいままた人気が出てきているんです。プロデューサーも、ダブステップ風のトラックよりもハウスっぽいトラックを作っています。ハウスのキックやテンポが踊りやすいからだと思います。ダブステップではひとりで下を向いて踊っている感じが、ハウスだと上を見上げたり、お互い見つめ合ったり、DJを見たり......DJをやっているほうとしてはやり楽しいんです。ハウス・ミュージックは、20年、30年前からあるものなので、僕ら世代がその伝統に新しい解釈を加えることはとても良いことだと思います。僕自身も最近はオマー・Sやムーディーマン、セオ・パリッシュを聴いているので、個人的にもハウスの影響を受けています。
■僕は、1991年~1992年のロンドンのレイヴに何回か行って、当時のエネルギーを感じているのですが、あの時代のイギリスは失業者も多かったし、社会的に暗い時代が長く続いて、そうした背景がパーティへのエネルギーにもなっていたようなところがありましたが、現在のダンス・カルチャーにもそうした社会的な背景は関係していると思いますか?
ロブ:僕は、UKのクラブ・カルチャーにはドラッグ・カルチャーが関わっていると思います。91年のUKではエクスタシーが流行っていました。それがあの高まりに繋がったんだと思います。ダブステップにはウィードの影響があったんです。数年前まではクラブのなかで吸えたんですが、法律が変わっていまでは吸えなくなりました。それでダブステップは下火になって、ハウス・ミュージックに変わったんだと思います(笑)。僕は、いまのキッズがフラストレーションを爆発するためにダンスに向かっているとは思っていません。なんて言うか......、90年代とは違う気がします。たとえば、90年代にはフリー・パーティがありました。フライヤーもない、シークレットのパーティです。電話をして場所を訊いていくようなね。
■行ってました(笑)。
ロブ:羨ましいです。しかし、政府がバカな法律を作ってしまったお陰で、フリー・パーティが出来なくなりました。8人以上が集まってしまってはダメっていう法律です。
■その反対のデモにも行きました(笑)。
ロブ:ハハハハハ。とにかく、そういうレイヴができなくなってしまったことが僕は大きいと思います。昔といまはそこに大きく違います。
■ところで、エアヘッド(空気頭)という名義はどこに由来するんですか?
ロブ:自分の名前がジェイムス・ブレイクみたいにキャッチーな名前だったら良かったんですけど......、まあ、何か名義が必要だなって考えていたときに、友だちが彼女に向かって「おまえはエアヘッドだ」って言ったことがあって、エアヘッドというのは、「何も考えていない」、「おばかさん」という意味なんですが、「あ、それもらった」と思って、使っています(笑)。
![]() Airhead For Years R & S Records/ビート |
■ハハハハ。今回のデビュー・アルバム『フォー・イヤーズ』にはどのようなコンセプトがあるのでしょうか?
ロブ:過去4年間作ってきた音楽の集大成という意味です。ただひたすら、僕は音楽を作っていました。アンビエントにハマってアンビエントを作ったこともあります。なので、アンビエントも入っています。ダンス・ミュージックにハマったときはダンス・ミュージックを作りました。そうやって曲を作っていって、1枚のアルバム分できたということです。決まったコンセプトはないんです。
■そのアンビエントの曲は"Masami"ですよね。日本人の女の子の名前でしょう?
ロブ:そうかもしれませんね。僕は曲名を考えるのがものすごく下手です(笑)。この曲名は、たまたま友人の家に行ったときに開いてあった本のなかにあった名詞でした。
■マサミさんと付き合っていたわけじゃないんですね(笑)。
ロブ:違います(笑)。でも、そう答えたほうが面白かったですよね。
■ハハハハ。女性が歌っている曲が2曲ありますね。シンガーについて教えて下さい。
ロブ:ふたりともジェイムス・ブレイクを介して知り合いました。"Callow"で歌っているのは、キャサリンという人です。ジェイムスとは同じ大学でした。彼女は、ジェイムスが前回来日したときに一緒に行っています。
■あー、あのときの彼女でしたか。フロントアクトのギター持って歌っていた。
ロブ:そうです。"Autumn"で歌っているのはアンドレアという人で、彼女はメキシコでのショーのサポートをしてくれました。彼女はメキシコに住んでいるので、メールで曲のやりとりをしながら、彼女がロンドンに来たときにスタジオで録音しました。
■『フォー・イヤーズ』を出したことで、あなたの方向性にどのような変化があると思いますか? いままでのような、アンダーグラウンドなリリースも続けていきますか? よりポップな方向に行きますか?
ロブ:ポップ路線は考えていません。ダンス路線を考えています。最近はDJをやることが楽しいです。もっとたくさんDJをやりたいです。セットのなかに自分の曲を入れたいと思っています。ようやくダンス・ミュージックを作れるようになったので。
■わかりました。どうもありがとうございました。
ロブ:サンキュー。
[[SplitPage]]
(2)ジェイムス・ブレイク登場 (取材:木津毅/写真:Teppei Kishida)
![]() ![]() James Blake Overgrown ユニバーサル インターナショナル |
どうしてひとは、愛を歌わずにはいられないのだろう。
ジェイムス・ブレイクが"CMYK"から『ジェイムス・ブレイク』、そして『オーヴァーグロウン』へと至った道のりには、ひとりの表現者が愛を歌いはじめる、そのドキュメントを見る思いがする。『オーヴァーグロウン』はもちろん、ファースト以上に彼のトラックに対する感性が研ぎ澄まされたアルバムであり、ハウス、ダブステップ、ヒップホップの多彩なビートを使い分けながらより複雑な音の配合を施した作品である。しかし同時に、前作では多用されていた声にかけられたエフェクトが減り、より生に近い彼自身の声を......その歌を、エモーショナルに響かせることに腐心したレコードだ。それはなぜかと問われれば、僕にはどうしても、彼のなかに愛......それも、はじめて経験する愛が芽生えたことと深く関係しているように感じられる。複雑なトラックをよくコントロールしながら作ることに長けた彼が、愛を歌うことに対しては非常にプリミティヴな動機を抱いたのではないか。
先の来日公演では、相変わらず地を這うような重々しい迫力を持った低音と、さらに肉感的になった歌唱とのそのどちらもが、けっして彼から切り離せないものとしてそこに立ち現れていた。ジェイムス・ブレイクはいま、デジタル・ミスティックズやブリアルのダブステップにかつて抱いた憧れとジョニ・ミッチェルのような古典的なシンガーソングライターへの思慕とを、自らを媒介にすることによって結びつけようとしている。それは新しい時代の、様式に囚われない新しい形の愛の歌の可能性だ......それも、たしかに彼の感情を解放するものとしての、とてもピュアなラヴ・ソング。
思っていた以上に長身だったジェイムス・ブレイクは、幼なじみの名前を出した瞬間に顔が綻ぶような、素朴な青年であった。そんな彼がいま、真摯に自らの愛に向き合っている姿は、どうにも胸を打つものだ。
取材の時間が限られていたため、用意していた最後の質問を訊くことができなかった......「あなたにとっての理想のラヴ・ソングとは?」
だが、ジェイムス・ブレイクはきっと未来に、美しくそれを歌うことでその問いに答えてくれるだろう。
女性っていうのはユニークな視点を持って音楽に取り組んでいくってところがあると思うんだけど、ただ、いまの音楽業界では残念なことに女性アーティストは注目を浴びるためにどうしてもやらなきゃいけないことがあって......もちろん、そういうことを訊いてるんじゃないってわかってるんだけど(笑)。
野田:ちょうど1ヶ月ほど前にマーラの取材をしたんですけど、じつはあなたとすごく若いときから知り合いで、今度あなたがリミックスしてくれたシングルを出すって言ってましたよ。
ジェイムス:うん、そうなんだ。リミックスをやったんだけど、今後もっとちゃんとした形で何かいっしょに仕事をしたいなと思ってるんだ。じつはスタジオまで行ってちょっといろいろやってみたんだけど、まだ何も形にはなっていなくて。昔のダブ・レコードとかアウトキャストとかを聴いてたりしたんだけど。
そもそも、こういう音楽をやろうと思うきっかけを作ってくれたのがマーラなんだ。彼はナイスな上に謙虚で、人間としてもとても温かみのあるひとなんだ。またいっしょに仕事したいな、また会いたいなと思いながらも、僕が友だちとも会えないような忙しい状況だから、いつ実現するかわからないんだけど。
野田:そうなんだ。ちなみに、さっきまでエアヘッドにインタヴューしてたんですよ。
ジェイムス:ほんとに? 今日?
野田:ええ、すごくいい話をしてくれましたよ。
ジェイムス:ちゃんとたくさん話してた? 普段はシャイで、インタヴューなんかだとあんまり喋らないタイプなんだよ。
野田:ちゃんと話してましたよー! 中学校時代あなたと同じ学校で、彼がギターであなたがピアノだって聞かせてくれましたよ(笑)。
ジェイムス:あいつはアホなんだよ。
野田&木津:だはははは!
野田:17歳のときいっしょにクラブに行って、IDカード偽装して追い返された話とか(笑)。
ジェイムス:そういう話ならいくらでもあるよ(笑)。
[[SplitPage]]オートチューンやピッチ・シフトに関しては、メロディ的な要素として使う以外に求められるものはもはやないね。想像力をかき立てるものがそれ以上は何もないから、何か新しい要素が加わらない限りは自分としてはやり尽くしたかな、と。
■(笑)じゃあ、アルバムについて話を聞きたいんですけど。『オーヴァーグロウン』は前作よりもさらに、あなたのシンガーソングライターとしての側面が前に出た作品だと感じました。ただそれ以前に、いま思えばその布石のようにしてファイストやジョニ・ミッチェルのカヴァーを作品として発表されてますよね。そこでフィメール・シンガーのラヴ・ソングを選んでいたのはなぜなのでしょうか?
ジェイムス:女性っていうのはユニークな視点を持って音楽に取り組んでいくってところがあると思うんだけど、ただ、いまの音楽業界では残念なことに女性アーティストは注目を浴びるためにどうしてもやらなきゃいけないことがあって......もちろん、そういうことを訊いてるんじゃないってわかってるんだけど(笑)、いまちょっとふとそう思って。でも実際は、シンプルにポイントをついて曲を作るのが上手な女性ミュージシャンが多いと思うんだ。男性にはできないような──もしくは男性がそれをやるためには、意識的にある面を押さえつけないといけないようなところがあると思うんだけど、そうじゃない、女性のそういうユニークな視点が大好きなんだ。
たとえばジョニ・ミッチェルの曲なんかは本当に的確だし、ファイストのコード使いだってすごく的確だ。ポップなんだけど、他の曲ではできないような的確な音使いで、そこに「タ、タ、タ、ターン」と僕には思いつかないようなメロディが入ってきたりして、すごく上手くまとめてるんだよね。僕もジョニの"ア・ケース・オブ・ユー"なんかはライヴでやってるんだけど、ジョニのほうがもっと端的にピアノを弾いていて、僕はもうちょっとあれこれ装飾をつけつつ弾いてるんだ。とにかく、そういう視点が好きなのかな。女性のラヴ・ソングが好きっていうよりは、彼女たちのあの2曲が好きで、それがなぜかと言うと、こういうことなんだろうな、と。
■なるほど。こういう質問をしたのは、僕も多くのひとと同じように、シングルの"CMYK"をはじめて聴いたときにすごく衝撃を受けたんですよ。それで当時は、あなたがシンガーとしての側面にこれほどフォーカスすると思っていなくて。もともと「歌う」っていう行為自体、あなたにとって自然なことだったんでしょうか?
ジェイムス:うん、自然なことだったね。というのは、"CMYK"とかサンプリングを多用した曲は別として、僕は基本的に曲を作るときは歌からはじめることが多くて。そもそも、このアルバムは他のひとのサンプリングをしたくなかったところから始まってるんだよ。それだったら自分のものを作ろう、ということで。クリエイティヴな側面で言っても、他のひとのサンプリングよりも自分の歌のほうが自由を得られるというか。
あと、いまはサンプリングも多用されすぎていて、新しいことが逆になかなかできなくなってるんだ。僕にとってサンプリングの行為っていうのは、その瞬間を捉えるってことだから、自分が作りたいその瞬間のためのものとして使いたいんだよ。一般的なサンプリングのプロセスっていうのは、もう飽き飽きしちゃってて、何も楽しいと思えるところがないんだよね。アカイのサンプラーでもiPhoneでも、はっきり言ってサンプリングの技術っていうのは10年前とあんまり変わらなくて......速度がちょっと速くなったぐらいだね。だから、サンプリングを使って革新的なことはなかなかできなくなっている。自分が音楽をやっていて、他とは違う新しいことをやるってなると、自分のもので作っていく......それしかないんじゃないかな、と思っているよ。
■その、サンプリングに飽き飽きしているなかで、歌??演奏だけじゃなくて、自ら声を出して歌う、って方向に進んだのはどうしてなんでしょう?
ジェイムス:ファーストを作ったときはサンプリングにうんざりしていたわけじゃなくて、そのことにはっと気づいたのはここ最近のことなんだ。同じ作業を3年間もやってるじゃないかって。録音したものを断片的にカットしたりくっつけたりする作業がバカバカしくなっちゃって。ファースト・アルバムのころはまだその作業にワクワクしていたから、その興奮ぶりが伝わる内容にはなってると思うんだけど。わりとそのときの自分のブームっていうのがあるんだけど、すごく熱しやすく冷めやすいタイプで。
■ああ、そうなんですか。
ジェイムス:すぐ気が変わるところがあるんだよ。でもいまの自分としては、ヴォーカルをサンプリングして切り貼りした作業を考えただけで、窓から飛び降りたくなるよ。いまだったら、楽器がいろいろあるなかでロブとベンとのバンドで演奏して、その3人のシナジーみたいなものをレコーディングするほうが楽しいかな。
■あるいは、あなた自身の声にかけられたピッチ・エフェクトが減ったっていうのも??。
ジェイムス:うん、サンプリングと同じように、自分の声にエフェクトをかけるのも飽きてしまったんだ。世のなかっていうのはテクノロジーが好きで、たとえばiPhoneだってみんなが4Sにだんだん飽きはじめたころに5が出て、するとみんな、わっとそれに飛びつくよね。少ししか違いはないのに、それでも何百万人ってひとが興奮してそれを買ってる。新しいテクノロジーっていうのは新しい可能性を生み出すものだから、僕も「これからどういう音楽ができるんだろう」っていう想いから興奮して、やる気が出てくるところはたしかにある。新しい何かを使うってことは、暗闇のなか手探りで何かを作っていく興奮といっしょなんだ。
エフェクトに関しては、たとえばリヴァーブだったらまた別の効果があって、特定の空間的なサウンドを生み出すことができる。使い方によっては宇宙からのサウンドみたいにもできる。ただ、オートチューンやピッチ・シフトに関しては、メロディ的な要素として使う以外に求められるものはもはやないね。想像力をかき立てるものがそれ以上は何もないから、何か新しい要素が加わらない限りは自分としてはやり尽くしたかな、と。
■では、そうやってバンド・スタイルで、よりストレートにヴォーカルを取るっていう方向に移っていったことと、作品のテーマが「愛」に向かって行ったこととは何か関係はあるんでしょうか。アルバムのテーマは「愛」だとお聞きしていますが。
ジェイムス:まず、愛がテーマになっているという最大の理由は恋に落ちたからなんだ。誰かを愛していなければ、愛についてはなかなか語れないからね。それまでは愛というものは経験したことがなかった。ファースト・アルバムはその、愛のない自分の人生について嘆いていたアルバムだった。だからファーストはすごく悲しげだし、作ったときの自分もぜんぜんハッピーな状態ではなかったし。
今回のアルバムは......僕たちは遠距離恋愛なんだけど、彼女といっしょにいるときもふたりきりになれるような空間があんまりなかったんだ。だから、いろんなひとといっしょの空間に押し込められているっていう気持ちと、離れているときの心が引き裂かれるほどの寂しさ、その両極端の想いがこのアルバムには入っているんだよ。
■なるほど、すごくよくわかります。少ない言葉で歌うエモーショナルなラヴ・ソングが多かったので、ご自身の経験がダイレクトに反映されたのではないかと想像していました。ただ同時に、たとえばあなたが好きなジョニ・ミッチェルであるとか、クラシックなシンガーソングライターたちがやってきたように、「ジェイムス・ブレイクとしてのラヴ・ソング」というものに挑戦したかったところはありましたか?
ジェイムス:うん、それは絶対にそう。歌詞とか曲作りの面ではすごく簡単で、ぱっと思い浮かぶんだけど、そこから構成して曲として完成させていくプロセスのほうが難しい。というのは、やっぱりありきたりなラヴ・ソングにはしたくなかった。地雷がたくさん埋まってる原っぱみたいなものだよ(笑)。安易なトラップにはまらないようにして、オリジナルなものを作っていくのはすごく難しい。自分にとっては新しい試みだったから、いくつか地雷を踏んじゃったと思うんだけど。
■そんなことないですよ(笑)。すごくエモーショナルな美しいラヴ・ソング集だと思いました。
ジェイムス:ありがとう(笑)。


















