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SAINT PEPSI

Vaporwave

SAINT PEPSI

Hit Vibes

Keats//Collective

bandcamp

竹内正太郎   Jul 10,2013 UP

 ウィスパーズや、タツロー・ヤマシタが......、踊っている。いや、踊らされている。なにかの亡霊のような姿で。深夜3時に、YouTubeでディスコ・クラシックの巡回中にたまたま完成してしまった最高のプレイリスト――『HIT VIBES』は、その記憶の断片を大急ぎでかき集め、突貫工事で復元したミックステープのように聴こえる。
 妙なこもりというか、1枚の靄を隔てて聴いているような聴覚へのソフトな接触は、ゴーストリー・フュージョンとでも呼べばいいのだろうか。ウェルメイドな往年のディスコ、アーバン・クラシックをあえてローファイに、しかも音のタッチを均一化するかのごとく、ある種のスクラップ作業(のようなエディット)が延々と続いていく。
 これをリミックス集と呼ぶのは、ちょっと違うのだろう。ビート・プロダクションは差し替えられつつも、実質はサンプリングのピッチ操作とエフェクト程度の拙い二次創作のようにも聴こえる。アートとしてのサンプリングを盗窃と呼ぶなら、このコピペ感は間違いなくあのけったいな蒸気音楽、ヴェイパーウェイヴ以降のものだ。
 そう、この限りなく貧しい場所で、セイント・ペプシを名乗る人間はディスコによる甘い夜間遊泳と、すべての音源をクリエイティヴ・コモンズたらしめる、あのイリーガルな蒸気が描いた夢の続きを見ている。

 あなたは『Life of Leisure』という作品を覚えているだろうか。夜の23時に、ディスコをひとりで部屋聴きするということ。それがすなわち、チルウェイヴという概念だった。だが、いま思えば、ドリーミーなディスコをインターネットに流布することで世界への接続を望むとは、なんと素朴で純粋な夢だったことだろう。それは言わば、インターネット・インディにおける表の世界といったところだ。
 裏の世界に蔓延っていたのは、チルウェイヴにおける一部の成功者に対する逆恨みのような嫉妬である(少なくとも僕はそう推測している)。実際、この微小ジャンルにおける首謀者のひとり、通称ヴェクトロイド(LASERDISC VISIONS a.k.a MACINTOSH PLUS a.k.a情報デスクVIRTUAL a.k.a FUJI GRID TV a.k.a ESC不在a.k.a Sacred Tapestry a.k.a ......、『Tiny Mix Tapes』はそれを「偽造されたオンライン・コミュニティ」と呼んだ)は、元を辿れば一介のチルウェイヴァーだったことで知られている。
 そして、すでに削除されている某作に引用された「スーパー・チャンスが溢れてる(時代はスーパーだ!)」という、おそらくはその意味を理解しないままサンプリングされていた広告のコピーは、結果的にはチルウェイヴの成功者たちへのアイロニーにも聴こえたわけだが、現実はさらに皮肉めいていて、「誰でもミュージシャンになれる」というこの時代ならではの希望に対するアイロニーだったはずのこのトラッシーなサンプリング・ミュージックは、むしろ「本当に」誰しもをミュージシャンにしてしまったのだった(暇な人はどうぞ→http://bandcamp.com/tag/vaporwave)。

 こうなってくると、さすがにもう終わりだろう。いや......、間違いなくそれは終わった。iTunesに降り積もっていく一度聴くか聴かないか程度のフリーダウンロードを前にウンザリもする、そんな後遺症に悩まされているのは、きっと僕だけではあるまい。あとには、間延びした惰性だけが残る。それだけの話だ。
 だが、そんなヴェイパーウェイヴの最終章に彗星のようにキラッと現れたのが、このセイント・ペプシだった。コピペとしてのサンプリング、とりあえずのスクリュー、謎めいた日本への関心、それら「芸」として蒸着されたヴェイパー・マナーを踏襲しつつも、R&Bやソウル、シンセ・ファンク、そしてディスコと、2013年だけでも10近い矢継ぎ早なリリース群のなかに、おそらくはヴェイパーウェイヴからもっとも遠く離れた世界の、言わば魂の音楽が注入(ないし略奪)されている(彼はそれをVaporboogieと呼ぶ)。
 そしてなんと言ってもこれ、『Hit Vibes』は、インターネット世代による仮想のミラーボールとなった。ここに連れ出されているディスコとは、おそらくはチルウェイヴの原風景であり、仮想敵としてのミュージシャンシップ、その象徴でもあるのだろう。もし、最高のディスコ・バンドを自分の手で組めたら? もしくは、最高のアーバン・ポップの作家に自分の才能だけでなれたら? セイント・ペプシは、そのような夢をアイロニカルに叶えることによって、むしろその続きを永遠に見続けることを選んだのだろう。

 変な話、これを作ったのが神戸のDJニュータウンなんかだったら面白かったのに、とも思ってしまったが、ここに並べられたディスコはそれくらい、シニカルで、際どい場所に立ちながら、それでもなお(図々しくも)ポップを夢想している。そう、ゴミは、ゴミでなくなりつつある。が、その先に何が待っているのかを、僕たちはまだ知る由もない。
 ともかくこれは、すべての音楽をクリエイティヴ・コモンズ化しなければ本来は成立し得ない夢だ。だが、それは実際に鳴っている、このグレーな場所で。ダフト・パンクの新作『Random Access Memories』が、本当に夢を「実現してしまった」音楽だったとしたら、セイント・ペプシは悪い夢でも見ているのだろう。だが、、、夢は、実現するよりももう一度見る方がいい。『Hit Vibes』は、音楽とインターネットへの愛憎で引き裂かれた2013年におけるカルトだ。

竹内正太郎