![]() Cut Chemist Presents Funk Off - Vox populi! And Pacific 231 RUSH! PRODUCTION/AWDR/LR2 |
グランドマスター・フラッシュが〈サム・ビザール〉時代のキャバレ・ヴォルテールやクロックDVA、スーサイドの音源をスクラッチしている姿を想像しよう。ゴシ、ゴシ、ゴシ......ノイズ/インダストリアル・サウンドとヒップホップの接近、これはいま起きていること。ロンドンの〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉はアイク・ヤードの12インチをリリース、東京の〈ブラック・スモーカー〉はEP-4の12インチを出している。
さて、カット・ケミストといえばジュラシック5であり、そしてなんと言っても"レッスン6"で、言わば一時期代を築いたターンテーブリスト、1990年代半ばに、ヒップホップというジャンルにおいてDJというポジションの重要性をあらためて主張した、「リターン・オブ・DJ」のひとりである。1997年の『ディープ・コンセントレーション』というエポックメイキングなコンピレーションの1曲目が"レッスン6"だった。ゴシ、ゴシ、ゴシ、コスって、コスって、カットアップという、ヒップホップDJのもっともラジカルで、威勢良く、格好良いスタイルのDJだ。
DJシャドウのように、この手のDJは中古レコードを掘るところからはじめるのでレコード・コレクター(レアグルーヴ)道にも通じるわけだが、この度カット・ケミストが目をつけたのはファンクでもサイケでもない。ポストパンク、それもフランスの、ミュージック・コンクレートとUKインダストリアルの影響下で生まれたふたつのバンド、ヴォックス・ポプリ!、そしてパシフィック231、である。
「初期インダストリアルとポストパンクのカセットの中から、エレクトロ、パンク、インダストリアル、ミュージック・コンクレートの境界線を横断するユニークな音楽を僕は探求するようになった」とライナーノーツでカット・ケミストは書いている。「彼らはプレゼンテーションにも力を注ぎ、独自のアート、音楽、文学を組み合わせたカルチャーを生み出していた。僕にとって、ヒップホップのパラレル・ワールドを発見したかのような感覚だった。両方のカルチャーは同時代に誕生し、同じツールを利用し、同じDIY精神が貫かれていた。この先何年間も僕はこの世界に魅了され続けると確信していた」
カット・ケミストが企画した『ファンク・オフ』にはヴォックス・ポプリ!とパシフィック231の音源が20曲(+ボーナストラック3曲)収録されている。ヴォックス・ポプリ!の"ファンク・オフ"という曲は、どう考えても5年早いドレクシアで、もっとも注目度の高い"メガミックス"という曲はアフリカ・バンバータの不吉極まりないインダストリアル・ヴァージョンで、テープを使った逆回転/早回しというアナログな技もたまらない。レア度が高いだけのオタクっぽい選曲ではなく、しっかり「現在」、それもけっこう尖った「現在」にアクセスしているところはさすがカット・ケミスト。発掘された、古くて新しい音楽がここにある。
ヒップホップとミュージック・コンクレートが実は近い存在であり、同じアプローチで音を操作しているということを伝えようとしてるんだ。その類似性が僕の興味をそそった。実はこれまでの僕のすべての作品においてリール・トゥ・リール・テープを使ったことがあるんだ。
■『ファンク・オフ』にはびっくりしました。ポストパンク時代のフランスに、ヴォックス・ポプリ!とパシフィック231のような音があったなんてまったく知りませんでしたし、作品自体も古くなっていないどころか、むしろいま聴いて新鮮に思えます。最近は、ヨーロッパの若い世代のあいだでもインダストリアル・サウンドがリヴァイヴァルしていますが、すごく良いタイミングでのリリースだと思います。
カット・ケミスト(以下、C):実は、この音源は2007年から貯めてあったんだよ。数年前よりもこの手の音楽のマーケットが広がったから、リリースすることを待って良かったと思ってる。コールドウェイヴ、ミニマル・シンセ、ポストパンクなどがここ数年でリヴァイヴァルしたことは知ってるんだ。この音楽がいまでも評価されてるのは、制作メソッドと哲学がしっかりしてるからだと思う。ヴォックス・ポプリ!のアクセル・キルーは、1940年のフランスで生まれたミュージック・コンクレートのメソッドを取り入れていた。
■いまのところ反応はいかがですか?
C:こういう音楽は2007年からプレイしているし、僕のデビュー・ソロ・アルバムでサンプリングしている。みんなの反応はいつも良いよ。初めてこの音楽を聴いた人は、たいてい僕がプロデュースした音楽だと思うんだ。それは僕が作った"Storm"という曲が"Mega Mix"をサンプリングしてるからなんだ。この曲は注目されたから、ファンはこのサウンドが僕の一部だととらえてくれるみたい。
■あなたはいま、インダストリアル・サウンドがリヴァイヴァルしていることを知っていましたか?
C:ああ、このリヴァイヴァル・シーンが数年前から盛り上がりはじめたことは知ってたよ。
■あなたがポストパンクやインダストリアルにまで触手を伸ばしたことで、ジュラシック5時代のファンからのブーイングはありませんでしたか? ソウル/ファンクのリスナーは、やはりブラック・ミュージック特有のグルーヴが好きでしょうし、ポスト・パンクやインダストリアル系のアグレッシヴで、冷たく暗い響きを求めているようには思えませんが。
C:プレゼンテーションの方法がよければ、誰でもこの音楽は好きになると思う。ジュラシック5のファンはけっこう幅広い音楽を聴いているしね。それに、最近はトラップ・ミュージック、EDM、エレクトロが流行ってるし、この音楽のサウンドがそれに近いから理解されやすいと思うんだ。どの時代よりもいまがもっとも評価されやすいときだと思う。
■80年代半前半のヒップホップは、事実、ポストパンクと結びついていました。アフリカ・バンバータ&ソウルソニック・フォースを面白がったのは、ロンドンのパンクでしたからね。あなたは個人的に、パンク/ポストパンクに対してどのような思い入れがあるのでしょう?
C:このジャンルに魅力を感じたのは、サイケデリック・ロックとヒップホップの要素が完璧にブレンドされてたからなんだ。ドラムマシンとテープ・ディレイが多用されていて、これはヒップホップの制作ツールと同じだ。それにヒップホップ初期のレコードがプライヴェート・プレスだったのと同じように、このジャンルのレコードもプライヴェート・プレスの作品が多かった。このジャンルに惹かれた主な理由はそれだよ。
■レコード・コレクターの立場として、ポスト・パンク/ニューウェイヴに目を付けた理由は何でしょう?
C:ニューウェイヴに興味をもったのは、このタイプの音楽が誕生した僕のティーンエイジャー時代以前の時期を思い出させてくれたからだよ。どこか聞き覚えがあって安心できるサウンドだったからコレクションしたくなったんだ。
■作品のレア度という価値観とは別に、ヴォックス・ポプリ!とパシフィック231はいま聴いても音楽的にすごいインパクトがあります。アートして、ヴォックス・ポプリ!とパシフィック231の音楽からあなたはどのようなインスピレーションを受けましたか?
C:自分の音楽作りをする上で、もっとエレクトロニックなサウンドを取り入れて、オーガニックな楽器とは違う音色を使うインスピレーションをこの両方のグループから受けたよ。彼らの音楽を聴いてから、シンセの使い方を覚えたり、サンプリングとこのスタイルの音楽を組み合わせる方法を探ってるんだ。
[[SplitPage]]ヴァナルとテープは、20世紀においてもっとも好まれたフォーマットだった。ヴァイナルは音楽を保存する上でもっとも優れたフォーマットだけど、昔と違って音楽をシェアするもっとも簡単な方法ではなくなった。
![]() Cut Chemist Presents Funk Off - Vox populi! And Pacific 231 RUSH! PRODUCTION/AWDR/LR2 |
■ヴォックス・ポプリ!とパシフィック231以外にもレアなレコードをたくさん見つけていると思いますが、この先、何らかの形で発表する計画はありますか?
C:このジャンルの音楽はコレクションしはじめて何年も経ってるので、ヴォックス・ポプリ!とパシフィック231に似たグループはたくさん見つけてきたけど、彼らほどのレヴェルのグループはなかなか見つからない。そういう意味で、とてもユニークなコンピレーションに仕上がって嬉しい。
■日本のこの時代の音楽で探しているものはありますか?
C:こういうタイプの音楽は世界中で探してるよ。
■『ファンク・オフ』のブックレットでは、当時のジンのヴィジュアルも大々的にフィーチャーしていますが、すごく良いと思います。こうしたジンなんかも蒐集しているのでしょうか?
C:どの時代の音楽をコレクションしているときもそうなんだけど、カセットやLPに付録でついてくるアイテムが大好きなんだ。1988年に、8x10インチの写真入りのマスターズ・オブ・セレモニーのLPを入手してから、付録アイテム付きのレコードにハマってるんだ。
■『ファンク・オフ』のフロント・カヴァーにどのヴィジュアルを使うのかに、他にもいくつも候補があったことで、迷いはありせんでしたか?
C:たしかに選択肢はたくさんあったけど、このアートワークにコンピレーションのすべての音楽的要素が凝縮されてると思った。ダークでありながらもユーモア・センスが注入されていて、ちょっとバカカバカしくて、女性性と男性性の両方の要素も入っていた。基本的に、この音楽性がそのまま視覚的に表現されてると思ったんだ。�
■ヴォックス・ポプリ!はピエール・シェフェールのミュージック・コクレートからの影響もあるし、あなた自身ライナーで指摘しているように、ヒップホップはピエール・アンリから多大な影響を受けていますが、あなた個人、現代音楽(アヴァンギャルド)に対する興味はどの程度あるのでしょうか?
C:コンセプチュアルな意味で興味がある。僕はそういうアヴァンギャルド系のコレクターだったことはないけど、アヴァンギャルド系に影響されたふたつのジャンルにいまなら親しみがあるから、コレクションする可能性は高くなった。僕のコレクションのもっとも古いレコードは、50年代半ばから後半のものなんだ。それよりも古いレコードをまだ集めたことはない。
■ヴォックス・ポプリがテープでこすって(スクラッチのようなことをやって)ますが、ああしたプリミティヴなアナログ機材を使っての工夫は、現代のラップトップ音楽への批評としても見せることができるんじゃないでしょうか?
C:このコンピレーションを通して現代の音楽を批評してるわけじゃない。ヒップホップとミュージック・コンクレートが実は近い存在であり、同じアプローチで音を操作しているということを伝えようとしてるんだ。その類似性が僕の興味をそそった。実はこれまでの僕のすべての作品においてリール・トゥ・リール・テープを使ったことがある。最新のアルバムでは、ドラムをレコーディングするために24トラックのリール・テープを使用したばかりだよ。"Funk off megamix"でもその模様はチェックできるよ。
■レコード・コレクターとしてのあなたの哲学を教えていただけますか?
C:まずは第一に音楽を大切にすること。僕にとってメディアムは二の次なんだ。レコードコレクターのなかには、音楽そのもよりも物体としてのレコードを大切にしている人がいるけど、僕はそういう考え方ではないよ。
■コレクションに興味をなくして、売ってしまったことはありますか?
C:絶対にないね!
■レコードとは20世紀の産物であり、ノスタルジーだと思いますか?
C:それはあるね。どの世代にももっとも好まれたメディアムがあると思うんだ。ヴァナルとテープは、20世紀においてもっとも好まれたフォーマットだった。ヴァイナルは音楽を保存する上でもっとも優れたフォーマットだけど、昔と違って音楽をシェアするもっとも簡単な方法ではなくなった。
■最近アメリカのインディ・シーンではアナログ盤とカセットテープでのリリースが増えていますが、良い傾向だと思いますか?
C:ノベルティとアーカイバルの意味では良い傾向だと思う。テープは時間の経過と共に磁気を失ってしまうけど、ヴァイナルは大切に保管すればもっと寿命が長いんだ。ヴァイナルの需要が高ければ、音楽は商品としてもっと売れるので、それは良い傾向だよ。これからは、ファンが音楽に投資する気持ちがないといけないんだ。ヴァイナルはそれを実現させるための最善の方法だと思うんだ。
■今回の『ファンク・オフ』は、イタリアのコレクターを通じて知ったそうですが、このようなコレクターのネットワークとはいかなるものなのでしょうか?
C:こういうタイプの音楽のコレクターのネットワークはたしかにあるよ。そのイタリアのコレクターはニューウェイヴ系のコレクターではなかったけど、ユニークな作品だったからこのレコードを持っていた。彼はあらゆるジャンルのレコードを集めて売ってたんだ。彼はとくにプライヴェート・プレスのユニークなレコードを何でも集めてる。
■いま、コレクションは何枚ぐらいありますか? そして、どのように整理しているのでしょう? 日本にもコレクターは多くいますが、あなたがレコードの管理にもっとも気を遣うのはどんなところでしょう?
C:レコードの枚数は知らないけど、レーベルごとに整理している。レーベルで整理できないレコードは、世界のどの地域でリリースされたかというカテゴリーで整理するんだ。アーカイヴとして集めるレコードとは別に、頻繁に聴いたりプレイするレコードの保管には気を使ってるよ。
■最後に、今後のあなたの予定を教えてください。
C:このコンピレーションのリミックスをリリースしたいのと、このカタログを今後どのように利用できるかをさらに探っていきたいね。
ヴォックス・ポプリ! のアクセル・キルーの母親は、1958年から1962年にかけてピエール・シェフェールの元で働いていた。父親は映画業界で活動1952年に出版された『映画のシュルレアリスム』の著者でもある。ヴォックス・ポプリ! は、「民衆の声」という意味。



