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というかほぼシンセの話をします。
米国はアシュヴィル発、〈メイク・ノイズ(Make Noise)〉は現在のユーロラック・シンセサイザーのマーケットにおいて絶大なる支持を誇るガレージ・シンセ・メーカーである。〈ブックラ〉や〈サージ〉に代表される「西海岸シンセジス」に着想を得つつオリジナリティー溢れるサーキット・デザインを施されたモジュールは世界中のウィグラー(主にネコとシンセを愛するヲタ、僕やゲド・ゲングラスを含む)を魅了して止まない。
〈メイク・ノイズ・レコーズ(Make Noise Records)〉は同社代表であるサーキット・デザイナーのトニー・ローランド(Tony Roland)が提唱する夢見る機械、自社のシェアド・システム(Shared System)の無限大のポテンシャルを証明すべく立ち上げられた7インチ・レーベルである。条件は至ってシンプル、使用する機材はシェアド・システムのみ、多重録音はNG。
この業界の顔とも言える〈ワープ・レコーズ〉のサウンド・デザイナー、リチャード・ディヴァイン(Richard Devine)のマスター・オブ・ザ・ファーツ(屁の先生!)の俗称に恥じない(?)摩訶不思議なグリッチの応酬で幕を開け、先日のフジロックにて新編成でのご披露を果たした(見ていません......)NINでお馴染みのアレッサンドロ・コルティーニ(Alessandro Cortini)をリリース、こちらは〈インポータント〉からの目下最新作でも炸裂するヘヴィ・ブックラ・サウンド譲りのミニマルかつ重厚なトラックを収録。同社のケリー・ケルベル(Kelly Kelbel)によるハンドメイド・レタープレスによる美しいパッケージも相まってか、どちらも2週間で完売するというレーベルとしてはこの上ないスタートを切ったようだ。
第三弾となるロバート・AA・ローの本作品は〈タイプ(Type)〉からの2012年作品の延長線ともいえる、無音の間を以てしてシンプルなモジュレーション・サウンドを引き立てるミニマル・ディープ・シンセジスだ。だいたいにおいて彼の近年のソロ作品に通じる極限まで削ぎ落とされたオリエンタルかつエキゾチックな世界観はサイケデリック・ミニマル・ロッカー、オム(OM)とのコラボレーションを経て一層研ぎすまされてきたようだ。
そもそもゲド・ゲングラスを介してこのメイク・ノイズの連中と付き合うに至るワケで、彼もまたハードコア・メイクノイズ・ファンである。長年に渡りライフワークのごとく没頭してきたモジュラー・シンセジスもここにまた比類なき完成度を披露する。モーグ・イアーズと題されるからには存分にモーグをフィーチャーしているはずで、彼の愛機はMG-1とローグの二大お手軽モーグであったと記憶しているが、ここに収録されているサウンドがそうかは確証が持てない。このアルバムはゲドの近年の作品の多くで聴ける所謂"モジュラー"な無数のオシレーターによる過密なミックス、過激なモジュレーションを形作る複雑なパッチングはない。非常に繊細かつ丁寧に紡がれたシンプルな構成、スローかつ上品なモジュレーション、完全な調和を見せるグリッチがテープ・エコーとリヴァーヴに洗い流され、気づけば聴者は自身の雄大な心象風景を飛翔する。
マシュー・サリヴァンやショーン・マッカンとのご近所切磋琢磨がここにきて如実な好結果をもたらしたであることは明白であり、さらなる相乗効果で彼らが昇りつめるであろう輝きに思いを馳せ胸躍る。
倉本諒