「IR」と一致するもの

Drum-On Volume 2 - ele-king

本格的ドラムメディア、パワーアップして待望の第2号!

ドラマー&パーカッショニストをわくわくさせ、やる気にさせる新時代の本格派プレイヤー向け雑誌として大きな反響を呼んだ「Drum-On」の第2弾!

今回もあらゆる打楽器奏者が本当に欲しい情報満載でお届けします。

編著 小宮勝昭
ザ・ビートルズ、レッド・ツェッペリンを聴いて音楽に目覚めドラムを始める。大学卒業後つのだ☆ひろ氏に師事、独自のグルーヴ理論を学ぶ。元リズム&ドラム・マガジン編集長(2001年1月~2012年3月)という異色の経歴を持つドラマー/パーカッショニスト。ドラム・セットだけじゃなく、ジェンベなどの民族打楽器も駆使し、即興ジャズ~ロック~歌ものなど、さまざまなフィールドで活動中。並行して編集・執筆活動も行っている。

特集 ●ドラムの音色(ねいろ)
芳垣安洋、外山明、岡部洋一、アッシュ・ソーンという当代きっての名プレイヤーたちの絶品なる音色、その核心に迫るインタビュー&愛用楽器たちの実際の使用例写真満載の超大特集!!!
特別寄稿:三浦晃嗣「音のあとさき~僕の体験的音色考~」

“1つ打ち” のすべて
ドラミングの「はじまり」にして「究極」
「速く動かす」、「超スロー・テンポでも正確に叩く」など、すべての出発点である “1つ打ち” を徹底深掘り!
(染川良成[Drum Gym])

“音色” にこだわるドラマーへ
Ludwig Speed King Pedal
歴代の名器~最新 L203 の魅了を探る!
(藤掛正隆)

Nippon のドラムの匠:伊藤直樹/riddim

「ドラムと働く人」
植木寛郎さん(Drums Proshop GATEWAY)、上原貴生さん(MIKI DRUM CENTER)

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Black Country, New Road - ele-king

文:イアン・F・マーティン(訳:江口理恵)

 音楽をコミュニケーションの行為として考えるとき、私たちはそのプロセスの半分にしか思いを致していないことが多い。アーティストに伝えたいことがあり、それを音楽でリスナーに伝えると、その成功は受け手側にも共感を呼び覚ますことができるかどうかで測られる。しかし、コミュニケーションは双方向性のプロセスであり、録音というデッド(死んだ)な(ライヴとの対比として)メディアが、生きているリスナーと対話するには、それとは異なる難儀な類のコミュニケーションが必要になる。

 ブラック・カントリー、ニュー・ロードのコミュニケーションは、微細な観察からなる個々のディテールが、印象主義的な全体像を構成する、断片のコラージュで表現されている。これらの物語の断片を読み解くもっとも直観的な方法は、音楽の喜びのうねりや、押し寄せる嘆き、親密さに伴う押しつぶされるような痛み、喪失による靭帯の引き裂きにより、正確な意味が流れ去るような場面があっても、ときおり言葉に焦点を合わせて音色を追っていくことだ。また、細部を掘り下げることで、その他の物語が直線的ではなく、繰り返されるイメージを通して、聞きなれた言葉が馴染みのない方法で繰り返し使用され、再び現れた文字のシルエットなどが、まるで秘密の言語のようなヒントとして、かすかに浮かび上がってくる。

 2021年のバンドのデビュー盤『For the First Time』では、数年にわたり段階的に積み上げられてきたイメージやアイディアと、反復する音楽の主題や歌詞のアイディアが導入されては引き戻され、より大きなピースが傾き、互いにぶつかり合いながらも、一緒に織りあげられたものだ。それは、スリリングで多様性に満ちたリスニング体験をもたらし、高い完成度にもかかわらず、異なる条件の元で書かれた作品を見事なシミュレーションで一貫性を持たせた、寄せ集めのようなコレクションだった。これに続く新作では、ブラック・カントリー、ニュー・ロードがそのプロセスをより統制しやすくなっているのは必然であり、具体的な意味は不透明なままでも、表面下で煮えたぎるようなディテールは、より豊かで複雑に感じられる。

 具体的な解釈なしに自由に音楽が飛翔するなか、“Haldern” のような曲では、ときに感情を打ち砕くような音色を繰り出す。“For the First Time” をとても面白いものにしている繊細なユーモアは、いまは脱退してしまったヴォーカリスト、アイザック・ウッドの、もの悲しさや神話的なものと、陳腐で軽薄なものとを並走させながら、揺れ動く感情で、決して声のトーンを崩さないという驚くべき才覚によるもので、音楽のなかでも未だ重要な存在となっている。“Bread Song” では、「私のベッドでトーストを食べないで」という家庭内のリアリズムから、「この場所は誰のものでもない、パンくずのためのものでもない」という聖書のような語り口へと巧みに転換し、“The Place Where He Inserted the Blade” では、料理の比喩と思われるものを通してワイルドな感情の極限の狭間を揺れ動く。

 日常から形而上、時代劇からSF的な未来へと、時空を超えて飛び交う語り口は、我々をコミュニケーションの問題へと立ち返らせる。その非常な不透明さ、断片化、ほのめかされた相互関係は、リスナーが意味を選択して光を当て、自らの物語を書くことにより、聴くことをクリエイティヴなコラボレーションという行為に変えるのだ。ズームアウトして眺めてみれば、『Ants from Up There』には、ふたりの人間が、ある種の親密な関係を築こうと努力をするが、大きな痛みを与えあった後、引き裂かれて破壊的な傷が残るという喪失の物語がみつかるだろう。少しズームインしてみると、おそらくそこには、フィリップ・K・ディック風のポスト・モダニズムの、混乱した大人たちが、自分たちの肉体に不確かさを覚え、ライトセーバーや宇宙船、ウォーハンマー40,000といった子供時代のゲームなど、過去の残滓を使って自分たちや世界を理解しようと藻掻く物語も存在する。そこには、語り手のビリー・アイリッシュ(歌詞に何度も登場する)や、チャーリー・XCXのようなポップ・スターとフロイト的なパラソーシャル(パラセクシュアル?)な関係を築いたり、ポップ・ミュージックそのものが BC,NR の世界の混沌とした断片を繋ぎ合わせる共通の土台を形成したりしているという儚い物語も埋め込まれているのだ。繰り返し登場する超音速旅客機、コンコルドのイメージは繋がりの象徴なのだろうか? スピードと混乱の象徴? 恋人? 失われた未来? 他の何か、もしくは上記のすべてか?

 しまいには、バンドが書いた物語を聴いているのではなく、バンドが並べた断片と、それらが繋がるかもしれないという彼らが残した示唆をもとに、自分自身で描いた物語を聴いている気分になる。次に聴くときには、また異なる物語を書いているかもしれない。このアルバムの死んだプラスティックに綿密にマッピングされた分岐路の庭を消化する正味期限の限界があるだろうが、それまでは、『Ants from Up There』は、魅力的で、辛辣な面白さで、時に感情的に落ち着かない会話の相手になってくれることだろう。

Next > Casanova.S

written by Ian F. Martin

When we think about music as an act of communication, we’re often only thinking of only half the process. The artist has something to communicate, and through their music they transmit that to the listener, with success measured by their ability to summon up those same feelings at the receiver’s end. Communication is a two-way process though, and how a dead (as opposed to live) medium like a recording is able to create a dialogue with a living listener is a different and more difficult sort of communication.

Black Country, New Road communicate in collages of fragmentary images in which granularly observed individual details make up an impressionistic whole. The most instinctive way to navigate these pieces of story is to follow the tone, letting the words occasionally fall into focus even as the precise meaning swims away in the music’s swells of joy, washes of mourning, crushing pain of intimacy and tearing ligaments of loss. Dig into the details, though, and other stories glimmer into light in a less linear fashion, through recurring images, familiar words used repeatedly in unfamiliar ways, silhouettes of returning characters revealed, all through hints like a secret language.

On the band’s 2021 debut “For the First Time”, images and ideas that had been built up piecemeal over several years were woven together with recurring musical themes, lyrical ideas introduced and brought back, even as the larger pieces lurched apart and crashed against each other. It made for a thrilling and diverse listening experience, but as fully-formed as it felt, it was still a collection of pieces written under different conditions and then fashioned, albeit masterfully, into a simulation of coherence. With this follow-up, it’s inevitable that Black Country, New Road would be a bit more in control of the process, and the interconnected details simmering beneath the surface feel correspondingly richer and more intricate, even if specific meanings remain just as opaque.

Even as the music flits free of tangible interpretations, they sometimes hit emotionally devastating notes on songs like “Haldern”. The subtle sense of humour that made “For the First Time” so much fun is still a key presence in the music too though, with now-departed vocalist Isaac Wood having an incredible knack for juxtaposing the mournful and mythic with the banal and frivolous, without ever breaking the teetering-on-the-brink emotional tone of his voice. On “Bread Song” the narration flips tone dextrously from the domestic realism of “Don’t eat your toast in my bed” to the Biblical “This place is not for any man / Nor particles of bread”, while “The Place Where He Inserted the Blade” swings between wild emotional extremes all through what seems to be the metaphor of cooking.

The way the narration leaps from mundane to metaphysical, from historical drama to sci-fi future, blurring time and space, all brings us back to the question of communication. That very opaqueness, fragmentation and hinted interconnections makes the very act of listening an act of creative collaboration as the listener writes their own stories by selecting and highlighting meanings. Zoom out and there’s perhaps a story of loss in “Ants from Up There” — of two people who struggle to connect, cause each other tremendous pain even as they find their way into some sort of intimacy, and who leave a devastating wound when they tear apart. Zoom in a little and there’s perhaps also a Philip K. Dick-like postmodernist story of confused adults, uncertain in their own flesh, struggling to make sense of themselves and the world using the lingering ghosts of the past — the light sabers, starships and Warhammer 40,000 games of childhood. There’s a story nestled in there too of the narrator’s Freudian parasocial (parasexual?) relationship with pop stars in the form of Billie Eilish (who makes recurring appearances in the lyrics) and Charli XCX, as well as perhaps the fragile way pop music itself forms a common ground of connection between the chaotic fragments of BC,NR’s world. Is the recurring image of the Concorde supersonic airliner a symbol of connection? Of speed and confusion? A lover? A lost future? Something else or all of the above?

By the end, you are no longer listening to a story written by the band but to one you’ve written yourself out of the pieces they’ve laid out and suggestions they’ve left for how they might connect. And the next time you listen, you may have written a different story. There is probably a limit to how long you can do so before you’ve exhausted the garden of forking paths mapped out on the album’s dead plastic, but in the meantime “Ants from Up There” makes for a fascinating, wryly funny and often emotionally uncomfortable conversational partner.

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文:Casanova.S

僕には二度目の別離の夏を迎える余裕はない
この階段は、君の古い写真に繋がっているだけなんだ
“Concorde”

君は自分を必要とする世界を恐れているんだろう?
だから地元の人と仲良くすることはなかった
だけど君はそのツルでゆっくりと僕を縛り付け、どこにも行けなくした
“The Place Where He Inserted the Blade”

 2nd アルバムの発売直前にヴォーカル/ギターのアイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニューロードから脱退することが発表された。僕は彼の書く歌詞と少し硬い歌声が大好きだった。ナイーヴな自己憐憫を重ねるような歌詞、音として紡がれる言葉たち、ひとつの言葉が他の言葉と結びついてイメージを形作りそうして意味をなしていくアイザック・ウッドのスタイル。彼は 1st アルバムで「Black Country」という言葉を繰り返し用いて、ヴォーカルが起こした性的トラブルを告発されたことで解散することを余儀なくされたナーヴァス・コンディションズから続くブラック・カントリー・ニューロードの物語を描き出した。ケンブリッジの10代の新人バンドがデビューするという最初の記事が出たタイミングでの告発、一曲も残す事なくバンドは終わり、時間が過ぎて、残されたメンバーはそれぞれに失意を抱えながらもバンドを続けることを決意した。そうして隅っこでギターを弾いていたアイザック・ウッドの前にマイクが置かれ、本来それを担当するはずだった人間の代わりに彼が歌いはじめるようになった。「だからきっとある意味で/いつだって僕はゲストだった」 1st アルバム収録曲のヴァージョン違い、“Track X (The Guest)” に追加された「ゲスト」というこの言葉はウッドのソロ・プロジェクト ザ・ゲストにひっかけた言葉なのだろうが、ナーヴァス・コンディションズの解散後にはじめたこの活動がいまのアイザック・ウッドのスタイルを形作った。そこで彼は初めて詞を書き唄い、そうして自分自身をゲストと呼んだ。

 ウッドにとってナーヴァス・コンディションズとはどんな存在だったかのか? それは 1st アルバムを聞けばわかるのかもしれない。起きてしまったことに対する後悔と自己憐憫、少しの希望、アルバムの全ての曲は同じ方向に向かって流れ、それが「Black Country」という言葉によって繫がれる。「僕は何にも学んじゃいない/2018年に失った全てのことから/彼女はまだどこかで僕らを待っているって気がしてならないんだ/水を綺麗に保つために僕たちが作ったものの下に隠されて」。7インチのヴァージョンから変更された “Athens, France” のように象徴的な言葉を差し込み(2018年はナーヴァス・コンディションズが解散した年だ)、ウッドはアルバムの曲を連結し、全体で大きなイメージを作りあげた。ここで唄われる「彼女」とはナーヴァス・コンディションズのことを指していて「Black Country」という言葉も同じものを意味しているのではないか? アイザック・ウッドの歌詞はそうやって想像する余地を残していく。「向こうで Black Country が待っているんだ」。そう繰り返し唄われる “Science Fair”、「Black Country の地面から僕らが作りあげたもの」「穏やかに過ごすために僕たちが作り上げたもの」。“Opus” では比喩的にブラック・カントリー・ニューロードの結成の物語が綴られる(ブラック・カントリー・ニューロードはサウス・ロンドンシーンのパーティのはじまりに間に合わなかったバンドだ。本来ならばナーヴァス・コンディションズかここに参加しているはずだった)。1年前のリリース時のインタヴューでサックス奏者のルイス・エヴァンスが語っていたように 1st アルバムはある時期の彼らを切り取ったものだったのだろう。傷ついた仲間たちが再び集い、そうしてまた歩き出そうとする決意の物語、ウッドは自分たちのバンド名から後付けで言葉に意味を付与し、その最初の物語、失われてしまったナーヴァス・コンディションの未来の姿を終わらせようとした。余裕なんてどこにもなく、スリルと狂気と不安がそこに漂っているような、1st アルバムはそんなアルバムだった。

 この 2nd アルバムはどうだろう? 破裂してしまいそうだったヒリついた空気が消え去り、記憶を静かに呼び覚ますような、優しく慈しむような、ここではそんな音楽が奏でられている。1st アルバムとはもう別のバンドになってしまったと言ってもいいくらいに。あるいはゆっくりと時間をかけて自分の中に潜む感情を理解しようとしているかのような。最初のアルバムで感情の変化や亀裂を描いていたギターやサックスの音がこの 2nd アルバムでは感情を優しく導いていくようなものに変わり、舞台の上でセリフをまくし立てているようだったウッドのヴォーカルはメロディをゆっくりと口ずさむようになった。それは1年前にインタヴューで見せていたあの仲間同士のリラックスした雰囲気で、ポップ・ソングを愛する、もしかしたらこれがバンドの本来の姿だったのかもしれない。「ネクスト・アーケイド・ファイアになれたら……基本的にはそれがゴールさ」 冗談とも本気ともとれるようなジョークを飛ばすアイザック・ウッドの、おそらくはそれこそがサングラスをかけフォンジーに変身しステージ立つ必要のなかった世界のブラック・カントリー・ニューロードの姿だったのだろう。『Ants From Up There』にはそんなバンドの魅力が詰め込まれている。

 ウッドはこの 2nd アルバムでもイメージを結びつけるキーワードような言葉を用いてそれぞれの曲を繋ぎアルバム全体で一つのテーマを描き出そうとしている。「コンコルド」は曲のタイトルになっているし、「ビリー・アイリッシュ」も複数回出てくる。「クランプ」は彼らをつなぎ止める留め金で、それは “The Place Where He Inserted the Blade” において自らを縛り付けどこにも行けなくするツタや彼らを結ぶタグ、長い糸としても表現されている(おそらくそれは僕たちが絆と表現するものなのだろう)。曲をまたぎ何度も歌詞に登場する「コンコルド」という言葉はケンブリッジ郊外にあるダックスフォード航空博物館を訪れた共通の思い出が元になっているとドラムのチャーリー・ウェインが明かしているが、アルバム3曲目である “Concorde” においてのこの言葉はおそらくコンコルド効果を意味するものでもある。このまま引きずっていてもろくな事にはならないと理解していながらも、それでもこれまでにあった出来事をなかったことにはできない。思い出は美しく自らを縛り付ける。クリエイティヴ・ディレクター、バート・プライスが手がけた 1st アルバムのプロモーション(インターネット上のフリー素材を用いたスタイル)から、メンバー自身が子供の頃に書いた絵を使ったプロモーションに変化していることからも彼らがノスタルジックな思い出をこのアルバムのテーマにしていることがうかがえる。このアルバムは思い出を抱えそれに縛り付けられながらもそこから歩みを進めようとするアルバムなのだ。

 インタヴューの中で彼らは今作では歌詞だけではなくサウンド面でもリンクさせようと曲作りの段階で考えていたとも語っている。ルイス・エヴァンスは「今回は、曲を作っている時に他の曲のことを考えながら作った感じ。アルバムの曲順も曲作りの時点で考えながら曲を作っていったんだ」と語り、メイ・カーショウも「全てをリンクさせることを意識していた」と話す。その言葉通り、1分足らずの短いイントロから繫がれる “Chaos Space Marine” にはその後の曲を紹介するティーザーのようにアルバムの中の要素が断片的に織り込まれている。グランドピアノの音に明るく優しいサックス、何度もタメが入って展開し、メロディを唄うウッドの口からはコンコルド、ビリー・アイリッシュ、掘ってしまった穴と次々と後続の曲を示唆するような言葉が出てくる。パーソナルな領域にゆっくり踏み込むような “Bread Song” はチャーリー・ウェインのドラムによってエモーショナルさを一気に加速させ、その手法は “Haldern” や “Snow Globes” にも取り入れられている。それは匂いや色、言葉や音、一見関係がない事柄が他の何かを思い出すきっかけとなるような記憶の仕組みによく似ていて、楽曲に繋がりと広がりを生み出している。おおげさに言うとひとつの曲の中に実際には鳴っていない他の曲の音、あるいはイメージが埋め込まれているような感じだ。そうしてそれがオーバーラップしてくる。表面的な言葉や音は必ずしもそれ自体を意味しているわけではなく、その時々で違った意味が顔出す。僕はこれこそがブラック・カントリー・ニューロードの魅力なのだと思う。彼らは曲単位ではなく塊としてアルバムを意識している。もっといえばアルバムとアルバムとの関係性も意識しているのかもしれない。

 このアルバムはとても内向きなアルバムだ。ライヴで演奏するために作られた楽曲が収められた 1st アルバムと違い、ライヴのできない状況下で作られたこの 2nd アルバムの曲たちはアルバムに収録されるために作られた。最初にあったのは “Basketball Shoes” でこの曲を出発点にしてこのアルバムは作られたという。全てのテーマが “Basketball Shoes” の中にあり、逆に辿ってアルバムの最終曲であるこの曲にまた帰って来る。初期に「チャーリーXCXについて夢を見た」と唄われていた箇所が「コンコルドが僕の部屋の中を飛び回る/家の中をズタズタにして」と変更され、アルバムの中を飛び回る「コンコルド」のイメージを強化する(それはまたしても僕たちを縛り繫いでいく)。「僕がしてきたことの全てはドローンを作ることだった/僕らは残りを唄う」 曲の中でウッドがそう伝える通りに、このアルバムでは他のメンバーの声も聞こえてくる。“Chaos Space Marine” を彩るコーラスに “Good Will Hunting” で響く歌声、“The Place Where He Inserted the Blade”、そして “Basketball Shoes” の重なる声、それらがエモーショナルに心を震わせる。これも 1st アルバムでは見られなかった特徴だ。

 このアルバムのレコーディングはバラバラではなく一つの部屋で同時におこなうライヴ・レコーディングの手法がとられたようだ。ロンドンから離れ船でワイト島に渡り3週間滞在し、寝食を共にしてアイデアを出し合い意見を交わす。時にはフットボールに興じたり、みなで屋外レストランに出かけたり、地元のパヴを巡り映画を見たり。ルイス・エヴァンスは 1st アルバムのインタヴューで冗談まじりに「音楽より仲間の友情の方が大切さ」と語っていたがこのスタンスは2nd アルバムでより顕著に表れている。プロデューサーは立てたくなかったし、ロンドンでのレコーディングもしたくなかった、それは激動の時代を経てもう一度自分たちと向き合う為に必要なプロセスだったのだろうか? ロンドンから離れた場所、海を渡ったイタリアの観光地を思わせる非日常の世界、そのスタジオの中で彼らはお互いに向き合い、観客抜きの自分たちの為だけのライヴをおこなった。サウンド・エンジニアのセルジオ・マッショッコ(最終的には彼がプロダクションを担当することにもなった)とワイト島のレコーディングスタジオのエンジニアのデイヴィッド・グランショウのふたりの手を借りて、2nd アルバムはそうやってでき上がった。だからこのアルバムはより彼らの内面に迫ったものになっている。ある意味で彼らだけで完結している閉じた世界のアルバムなのだ。バンドが大きくなっていく過程において閉じた世界だけでは成立しなくなる、自分たちを取り巻く世界が目まぐるしく変わっていく、だからこそ彼らは原点に立ち返りそこから再び始めようとした。美しく慈しむようなこのアルバムのサウンドは、ノスタルジックであると同時に、「コンコルド」の思い出を糧に前へ進もうという意志と明るい希望が感じられる。あたかももう少し自分たちのバンドをやってみるよというメッセージが込められているかのように。

 アイザック・ウッドの脱退の発表からそこに新たな響きが付け加わってしまったのかもしれないが、それでもこの 2nd アルバムにはレコーディングされた当時の希望がそのまま封じ込められている。だから悲しくは響かない。1年後、3年後や5年後、これから先、きっと繰り返し聞くことになるアルバムには思い出が積み重ねられていく。音楽はそうやって時間を重ね、“Snow Globes” に出てくるキャラクター、ヘンリーがそうしたように記憶の壁にかけられるのだ。アルバムのアートワークに描かれている飛行機はどうしてコンコルドではないのだろう? 頭にそんな疑問が浮かぶが、でもそんなことは些細な問題なのかもしれない。アルバムを取りだしてジャケットを眺める。その飛行機の模型からコンコルドのことが思い出されて、針を落とす前にはもう頭の中に曲が流れ出している。このアルバムはやはり記憶と連想のアルバムなのだ。美しく感傷的で希望に溢れるブラック・カントリー・ニューロードのこの 2nd アルバムはきっと頭の中、記憶の部屋に残り続けることだろう。この先バンドがどんな風になっていくのかわからないが、でもいまはこの素晴らしいアルバムが作り上げられたことを嬉しく思う。

Jazzanova ×〈Strata〉 - ele-king

 いま、70年代ブラック・ジャズ再評価の波が来ている。〈Black Jazz〉や〈Tribe〉といったスピリチュアル・ジャズ・レーベル作品のリイシューにボックスセット……そして今度は〈Strata〉の番。1969年にデトロイトで設立された〈Strata〉(注意:ギル・スコット=ヘロンなどで有名なNYの〈Strata-East〉ではない)は、セオ・パリッシュやジャイルス・ピーターソンなどからも称賛されているジャズ・ファンク~ソウル・ジャズのレーベルだ。
 その〈Strata〉音源をジャザノヴァがカヴァー、再創造した1枚がリリースされる。題して『ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト』。4月20日発売。
 ジャザノヴァとは90年代末にベルリンで結成されたDJ/プロデューサー集団で、当時のクラブ・ジャズ~フューチャー・ジャズを代表するグループ。〈Strata〉の名曲たちがどのように生まれ変わるのか──これは楽しみ。

ジャザノヴァ/ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト

1960年代後半にケニー・コックスによりデトロイトで創立されたインディペンデント・ジャズ・レーベル、〈STRATA〉は1969年~1975年の僅か6年の活動だったにもかかわらず、近年セオ・パリッシュからジャイルス・ピーターソンを筆頭に多くの音楽ファンやレコード・ディガー達から賛美を浴び、伝説的なレーベルとして知られている。

Kon & Amir の片割れで、レコード・ディガー、DJとして有名な DJ Amir が立ち上げた〈180 Proof〉がケニー・コックスの妻、バーバラ・コックスの協力を得て〈STRATA〉の過去カタログを再発するプロジェクトがスタート、そして彼はベルリンでジャザノヴァと出会い、 〈STRATA〉のカタログを使ったアルバム・プロジェクトを発案、ジャザノヴァは同レーベルのカタログ中の傑作11曲を厳選して再構築を試みた。

〈Strata〉のコミュニティーとシンパシーを感じたジャザノヴァは、常に進化を続ける創造性豊かなユニットであり、1995年に志が同じのDJやプロデューサーらからなるオリジナル・ メンバー5名からスタート、彼等はバンド・プロジェクトへと発展しライヴ活動を開始、その流れの中でジャザノヴァとDJアミールが出会ったのは運命であり意気投合した彼等はこの世紀の大プロジェクトを完成へと導いた。

本作は単なるカヴァー・アルバムではなく、彼等が長年培ったDJとしてのリミックス感覚 と、ライヴ・バンドとしての感性を融合させ、現代に蘇らせる事に成功した。例えば、 Lyman Woodard Organization “Creative Musician” は新鮮なアフロビートのテンポのア レンジを盛り込み、同バンドの名曲 “Saturday Night Special” では新らしい解釈の現行ファンクを提案している。同時に元々モータウンのバック・バンドとして活躍したミュージシャンが多数在籍していた〈STRATA〉らしいジャズとソウル・ミュージックのハイブリッドなサウンドはジャザノヴァと出会う事によりモダンでエクレクティックなジャズ・サウンドへと昇華する事に成功した。

ジャザノヴァ ストラタ・レコード:ザ・サウンド・オブ・デトロイト
Jazzanova Strata Records - The Sound of Detroit

TRACKLIST
1. Introduction - Amir Abdullah aka DJ Amir
2. Lost My Love - Jazzanova feat. Sean Haefeli
3. Creative Musicians - Jazzanova feat. Sean Haefeli
4. Joy Road
5. Face at My Window - Jazzanova feat. Sean Haefeli
6. Root In 7-4 Plus - Jazzanova feat. Sean Haefeli
7. Inside Ourselves
8. Beyond The Dream - Jazzanova feat. Sean Haefeli
9. Saturday Night Special
10. Orotunds
11. Scorpio’s Child
12. Loser - Jazzanova feat. Sean Haefeli
13. Creative Musicians (Waajeed Remix) Bonus Track
14. Creative Musicians (Henrik Schwarz Remix) Bonus Track

BBE MUSIC / 180 PROOF / STRATA / OCTAVE-LAB OTLCD2600
税抜定価:¥2,300+税
2022年04月20日(水)
形態:CD

創造的再生が、時代とジャンルを超えた!
JAZZANOVA による STRARA RECORDS の再解釈は、極上の音楽体験を与えてくれる。
DJ感覚とバンド・サウンドとリスニング・ミュージックの理想的なハイブリッドが完成!!
沖野修也(Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextet)


"As a longtime Jazzanova head I expect nothing less than prime grade A quality musical excellence and this go round is absolutely no different. It comes with a lush maturity, evolved growth & envelope pushing all the while remaining true to their mission of making creative music from their hearts. Go Jazzanova!" - Ahmir 'Questlove’ Thompson
大昔からのジャザノヴァの大ファンとして、彼らからは超一流な品質の音楽の卓越性他ならない完成度を常に期待しており、この新作も全くいつも通り変わりはない、最高品質な作品に仕上がっている。本作にはまた彼らの豊富な成熟ぶり、進化した成長と限界に挑む姿勢が大いに盛り込まれながら、彼らの心の奥底から来ている音楽創造の姿勢に対する使命に忠実であり続けている姿を明確に表している。ジャザノヴァ、頑張れ!
-Ahmir 'Questlove' Thompson(THE ROOTS)

New Acao - ele-king

 日本の高度経済成長期おいて、行楽地として栄えた熱海。当時建てられたそのゴージャスな建造物のいくつかは、昭和の日本を駆り立てた豊かさという夢を反映している。そして、その夢が潰えた今日においては、失われた未来としての異光をはなっているのだった……。昨年11月に宿泊営業を終了した「ニューアカオ館」はその象徴的なホテルだが、歴史的と言えるその場で、PhewやWata Igarashiが出演するパーティが開かれることになった。ほかにUKからはBlack Merlin、Jane Fitzも出演。これはなかなかユニークなエクスペリエンスになりそう。
 お買い得な早割チケットあり。なお、「ニューアカオ館」と同敷地内にあるHOTEL ACAOは現在も営業中のため宿泊も可能。熱海は都内から好アクセスで、温泉もたくさんあるので、パーティ以外の楽しみも見逃せない。

rural presents New Acao
2022年7月16日(土)、17日(日)、18日(月・祝)

会 場:ACAO SPA & RESORT「ニューアカオ館」
出 演:Black Merlin, Jane Fitz, Phew, Wata Igarashi and more

料 金:早割 (Early Bird) 15,000円
4月6日18時 販売開始・限定100枚
前売(ADV) 18,000円

5月11日正午 販売開始
1日券 (Single day Ticket) 12,000円
5月11日正午 販売開始
U25 9,500円

5月11日正午 販売開始
静岡割 15,000円
5月11日正午 販売開始

宿泊(会場内)チケット
価格・数量未定
6月上旬

駐車場チケット
価格・数量未定
6月上旬

当日券 22,000円

オフィシャルサイト:
https://ruraljp.com/

Dopplereffekt - ele-king

 ドレクシアの片割れ=ジェラルド・ドナルドと、(結成当初はキム・カーリィ、現在は)ミカエラ・トゥ=ニャン・ バーテルから成るプロジェクト、ドップラーエフェクト。その新作が4月14日にベルリンの〈Leisure System〉からリリースされる(デジタル版。LPとCDは6月10日発売)。ドップラーエフェクト名義としては、2017年の『Cellular Automata』以来5年ぶりのアルバムとなる(EP「Athanatos」からは4年ぶり)。
 研ぎ澄まされたダークなサウンドはもちろん、彼らはしっかりコンセプトも練るタイプのアーティストだ(たとえば1999年、〈Gigolo〉から出た編集盤『Gesamtkunstwerk』は、社会主義の理想にオマージュを捧げたものだった)。今回のタイトルは「ニューロ(神経)テレパシー」とのことで、インフォメイションにも「機械と人間のインターフェイス」「神経学的現実」「物理的蓋然性」といった単語が並んでいる。はたしてそれはなにを暗示しているのか?
 現在 “Neuroplasticity” が先行公開中。しびれます。

artist: Dopplereffekt
title: Neurotelepathy
label: Leisure System
release: April 14th, 2022

tracklist:
01. Epigenetic Modulation
02. Neural Impulse Actuator - Mirror Neuron
03. Visual Cortex
04. Neuroplasticity
05. Cerebral data download 2100 A.D.
06. Cerebral to Cerebral Interface
07. Cerebral - AI entanglement
08. Optogenetics
09. Transcranial Magnetic Stimulation
10. EEG

Ryoji Ikeda - ele-king

 昨年の『music for installations vol.1』に続き、新たに池田亮司によるインスタレーション音楽集『vol.2』がリリースされることになった。本人の主宰する〈codex | edition〉から。16枚の作品写真をまとめたカードセット『fragments vol.1』も同時発売。いずれも999部限定とのこと。また、4月16日より開催される弘前れんが倉庫美術館での展示会場では、先行発売も予定されている。詳しくは下記をチェック。

Ryoji Ikeda
music for installations vol.2
fragments vol.1

池田亮司によるインスタレーション作品の音源集第2弾『music for installations vol.2』と、16枚の作品写真をまとめたカードセット『fragments vol.1』 をcodex | editionから同時リリース。
それぞれ限定999部、2022年3月31日(木)からプレオーダー開始。

音そして視覚的要素、物理や数学的なアプローチを用いて人間の知覚能力やテクノロジーの臨界点に挑むような作品を様々な形態で発表し続けているアーティスト/作曲家の池田亮司。『music for installations vol.1』『superposition』に続き、codex | edition から『music for installations vol.2』を2022年4月22日(金)に限定999部でリリースする。先のリリースと同じくCDとブックレットのセットで、ブックレットには収録曲の図版を数多く掲載。

同時に発売する『fragments vol.1』は、池田によって厳選された作品写真を収録した16枚のカードセット。こちらも限定999部で、特製のボックスに封入されている。
セットには世界各地の美術館での作品展示風景や、《test pattern [times square]》や《A [for 100 cars]》といった大規模プロジェクトのインスタレーションビュー
などが含まれている。

また、4月16日(土)から開催する弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市)での池田の大型個展に合わせ、同ミュージアムショップmuseum shop HIROSAKI MOCAにて、一般発売に先がけ展覧会のオープニング日より先行発売を行う。

music for installations vol.2 [cd+booklet](2022.4.22 リリース)
*8トラック収録(全71分)のCDと96ページのブックレットのセット 
*限定999部、エディションナンバー入りカード付き 
*デジタル音源も同日リリース

fragments vol.1 (2022.4.22 リリース)
*特製ボックスに16枚のカード(189 x 124 mm)を封入
*限定999部、エディションナンバー入りラベル付き

【プレオーダー】
3月31日(木) 18時(JST)よりcodex | editionのオンラインショップにてプレオーダー開始

【先行発売】
4月16日(土)より弘前れんが倉庫美術館のミュージアムショップ「museum shop HIROSAKI MOCA」にて先行発売実施

【展覧会情報】
2022年度 展覧会[春夏プログラム]「池田亮司」展
会期:2022年4月16日(土)-8月28日(日)
会場:弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市吉野町2番地1)
https://www.hirosaki-moca.jp

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music for installations vol.2
アーティスト Ryoji Ikeda
タイトル music for installations vol.2
レーベル codex | edition
品番 CD-004
税込価格 5,500円
発売日 2022年4月22日(金)
(デジタル音源も同日リリース予定)

トラックリスト
1. the planck universe [micro] (2015)
2. the planck universe [macro] (2015)
3. point of no return (2018)
4. data.anatomy (2012/2019)
5. supersymmetry [experience] (2014)
6. supersymmetry [experiment] (2014)
7. code-verse (2018)
8. data-verse (2019‒20)
合計収録時間:1:11:46

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fragments vol.1
アーティスト Ryoji Ikeda
タイトル fragments vol.1
レーベル codex | edition
品番 PC-001
税込価格 4,950円
発売日 2022年4月22日(金)

作品リスト
datamatics [prototype‒ver.2.0]
data.tron [8K enhanced version]
data.flux [12 XGA version]
test pattern [100m version]
test pattern [times square]
supersymmetry [experience]
supersymmetry [experiment]
the planck universe [micro]
the planck universe [macro]
the radar [rio de janeiro]
the radar [fondation vasarely]
the radar [shanghai]
A [continuum]
A [for 100 cars]
db

A/N - ele-king

 00年代から10年代にかけて、SND、そのメンバーだったマーク・フェルアルヴァ・ノトやバイトーンなどによるグリッチやビートが交錯するエクスペリメンタル・テクノイズ・トラックが数多く出現した。あれから10数年のときを経て、近年、そういったサウンドが蘇生しつつある兆候を感じるのだ(たとえばフエアコ・エスが今年にリリースした新作など。彼がアンビエント・サウンドから転換したことの重要性について考える)。00年代リヴァイヴァル? と結論づけることは早計だが(だが20年のときを経てリヴァイヴァルの兆候がどこのジャンルでもあるように思う)、大切なことはグリッチによるデジタル・サウンドの可能性はまだあるということではないかと思う。

 フランスのプロデューサー、アポロ・ノワールによるプロジェクト「A/N」もまたインダストリアルなサウンドとムード、そしてグリッチ・ノイズ、重厚なビートが交錯するテクノイズ・トラックの継承と発展を感じさせるものだった。
 ちなみにアポロ・ノワール名義でもアルバムをリリースしており、2017年に発表したアルバムが『A/N』というタイトルなのだ。アポロ・ノワール名義では比較的、ストレートなダンス・ミュージックが多いが、2021年の『Weapons』あたりからインダストリアルな激しさが全面化していて、A/N名義の前兆のようなサウンドを展開しているので要注目だ。
 そしてこの『Acie E R R』だがルーシーが主宰の10年代先端音楽を代表するレーベル〈Stroboscopic Artefacts〉の諸作品を思わせる高密度・高解像度のマシン・グリッチ・サウンドに仕上がっている。リリースはイタリアのレーベル〈OOH-sounds〉から。このレーベルは10年代中期ごろからリリースをはじめ、2019年頃から大量のエレクトロニックな音源をリリースし、昨年2021年にはスコット・ヤング『Post Peace』などを発表した。今年の4月には、クレア・ラウジーとのコラボレーション作品で知られるモア・イーズの新作『oneiric』がリリースされる。

 『Acie E R R』の全8曲にはグリッチやビートが絶妙なバランスで交錯していた。ビートのみならずアンビエントの要素もあり、最後まで飽きさせない構成となっている。
 1曲め “Mentir En Temps De Crise” は、シーケンシャルな電子音がループするアンビエント・トラック。2曲め “Avouer Condamner” では規則的に刻まれるハイハットの上に潰されたグリッチ・サウンドや透明な声のサンプルのようなシンセパッドが重なり、やがて規則的なビートが入ってくる。3曲め “Disparaître” はアンビエント的ともいえるシンセパッドに、いくつものグリッチ・ノイズが不規則にレイヤーされインダストリアルのムードを醸し出す。前曲の整然とした曲調と相反するようなデジタル・カオス・サウンドだ。続く4曲め “Chromé” ではサウンド・コラージュ的なビート、グリッチが交錯し、マーク・フェル的ともいえるデジタル・サウンドが展開される。曲終盤の透明な電子音によって展開されるアンビエント・パートではその混沌が浄化されるような気持ちよさが生まれていた。5曲め “Fer Forgé” でもそのような混沌と浄化が交互に表出するようなムードは続き、映画音楽的ともいえるシンセサイザーによるコードに、声のサンプルと微かなグリッチ・ノイズが交錯する。悲痛さと希望が入り混じるムードが堪らない。6曲め “Réalité Acier” では不規則に打たれていくノイズ/リズムが、不穏な印象のシンセサイザーの音とミックスされ、アルバムのなかでももっとも実験的な印象のトラックに仕上がっている。シンプルなビートが鳴っていた2曲め “Avouer Condamner” と比べてみると、まるでアルバムを通してサウンドが破壊されていく不思議な感覚を覚えた。7曲め “Noir Metal” では声のサンプルの用い方が、不規則なノイズと絶妙に絡み合っている。ときおり急にノイズがサウンド全体を覆うなど、世界の地盤が崩れ去っていくような不安な感覚を覚えたほど。そして不穏と不安に満ちたサウンドに、微かな光が差し込むアンビエンスを展開する “Déviation” でアルバムは幕を閉じる。
 通して聴くと2曲め “Avouer Condamner” で展開されたシンプルなビートが、次第に破壊され、新たな音=アンビエンスに生まれ変わる過程を聴いたような感覚を得ることができる。この瞬間に生成している音の変化をずっと追い続けていく感覚があるのだ。
 このレヴューの冒頭にも書いたようにマーク・フェルや〈Stroboscopic Artefacts〉が10年代に展開したエクスペリメンタル・テクノ・トラックの応用ともいうべきサウンドといえよう。ノイズとビートとアンビエンスが交錯するサウンドによるモダン・テクノ、エクスペリメンタル・テクノの秀作といえる。

シェイン 世界が愛する厄介者のうた - ele-king


© The Gift Film Limited 2020

 ここ数週間、ぼくはジャック・ケルアックについて思いをめぐらせている。去る3月12日が、ビートの王様の生誕100年だったのだ。それでぼくは、不安と期待をもってディーンとサルの物語、つまり『路上』として知られるその小説を40年振りに読んだ。
 じつは数年前から『路上』はいつか読み直そうかなと思っていた。トレイシー・ソーンの自伝『安アパートのディスコクィーン』を出したとき、同書のなかで若きソーンが、ビート世代の登場を宣言したその記念碑的な小説を自分のフェイヴァリットとして何度か挙げていることが気になっていたのだ。なんていうか、つまり、あれはもう女性の描き方に関しては目も当てられないというか……、いや、そうじゃなくてもモノシックでモノ静かで、ソツのない文章やリベラルな道徳心と自己宣伝のSNSで溢れたこの時代、カウンター・カルチャーというものは嘲笑や批判の対象であっても崇拝の的にはならないのが現実だったりする。だからなおのこと、ソーンが自伝のなかでその教典を強調していることが興味深いと思ったのだ。まあ、たしかにケルアックに代表される1950年代のビート・ジェネレーションはカウンター・カルチャーの発火点だった。なんにせよ、それが出発点だった。人生を冒険のように生きて、白人社会を嫌悪し、黒人を賞賛しジャズに熱狂する。それが60年代になるとヒッピーへと展開し、1970年代にはパンクになった。そう、そうなのだ。
 が、しかしそれにしても、このモノシックでモノ静かな時代に、飲んだくれて、ドラッグをやりまくって、おびえながら生きるのではなく生きていることに興奮しながら生きるということは、いったいナンなのか……、50年代のアメリカで萌芽したカウンター・カルチャーは現代ではもう無効なのか……、この大きな問題については6月末売りの紙エレキングにおいて、マシュー・チョジックさんと水越真紀さんの力を借りながら論じてみようと思っている(できるかな?)。
 そんなことを考えていた矢先に、ジュリアン・テンプル監督によるシェイン・マガウアンの評伝映画が日本でも公開されると知った。見るしかないだろう。テンプルは、『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』や『ビギナーズ』、あるいはジョー・ストラマーやグラストンベリー・フェスティヴァルの見事なドキュメンタリー映画で知られるベテランで、この筋では信用できる監督だ。
 
 で、シェイン・マガウアンなのだが、日本でもいまだ根強い人気を誇っているし、彼の若き姿はパンクのドキュメンタリー映画を見ている人にはお馴染みだろう。セックス・ピストルズやザ・クラッシュのライヴの最前列で異様にノリまくっているひとりの若者、見るからにやばそうなパンクス、それが後にザ・ポーグスのヴォーカリストとして世界中に知られることになるシェイン・マガウアンだ。また、シェインは手のつけられない大酒飲みとして、あるいは歯のない男としても知られている。もちろん、彼が作った曲でもっとも有名なのは、あの最高にアップリフティングな“フェアリー・テイル・オブ・ニューヨーク”だ。シェイン・マガウアンとは、クリスマスの夜のニューヨークで、酔っ払って牢屋に入れられた男の話——アイルランド人のカップルの夢と絶望——が歌われている、イギリスでもっとも人気のあるクリスマス・ソングの作者であり、歌手である。


© ANDREW CATLIN

 あの曲の舞台がニューヨークなのは意味がある。19世紀なかばのアイルランドにおける大飢饉によって、数百万人のアイルランド人が職を求めてアメリカに渡った。だからアメリカには本国アイルランドよりも多くのアイルランド人がいる。そうした無名のアイルランド人の、酔っ払うことでしか生きていけないような世知辛い人生を、あの曲は宇宙クラスのおおらかな愛をもって歌い上げている。多くの人たちから愛されて当然だ。

 アイルランドの民謡(フォーク)をパンクのフィルターを通して再現したザ・ポーグスは、素晴らしきアイリッシュ・ディアスポラである。シェインは、幼き日々に過ごしたアイルランド南部の田舎町ティペラリーでの記憶を決して忘れることはなかった。6歳から酒とタバコを続けながらも、だ。ウィスキーと川、動物たちとギネスビール、二日酔いの郵便配達員、子供の飲酒を咎めなかった家族や親戚、カトリック教会、パブと音楽、こうしたものすべてがシェインのなかではアイルランドの誇りだ。一家がロンドンの集合住宅に移住し、母はノイローゼになり、学校ではいじめにあい、マルクスの資本論を読んで無神論に衝撃を受けても、シェインのなかのカトリック的なもの、植民地主義への怒りと愛国心、IRAへのシンパシーが揺るぐことはなかった。


© The Gift Film Limited 2020

 学校は、校内でドラッグを売りさばいて14歳で退学となった。それから、肉体労働などをしながら酒とドラッグを体内に流し込んだ。精神病院に入れられもしたが、退院してから最初にライヴハウスで見たのが、そう、セックス・ピストルズだった。それを機にパンクの使徒となったシェインは、ギグというギグで暴れた。あるギグにおける流血っぷりがNMEの記事になったこともあったが、彼は同時にDIYの精神でファンジンを作ったりしているし、それから音楽もはじめる。

 ジュリアン・テンプルは映画の前半のアイルランド時代を詩情豊かに愛らしく描いている。そして、続くロンドン時代のパンクまでの時間を烈火のステージとして再現している。だが、周知のように、パンクの時代は数年で終わる。シェインは、その次にやってきたファッショナブルなシンセポップのシーンが気にくわなかった。そこには、田舎からやって来た薄汚い酔っ払いの居場所はなかった。しかし同じころ、音楽誌はワールド・ミュージックの紹介にも熱を上げていた。そこでシェインのなかにひとつのアイデアが生まれた。彼にとって身近なワールド・ミュージック、すなわちパブで演奏されているようなアイルランド民謡、これとパンクを合体させるという。

 映画のなかでは、最近の(本国での公開は2020年)シェインがたびたび登場する。車椅子生活を送っている彼は、椅子にもたれかかってジョニー・デップやボビー・ギレスピーを相手に話しているわけだが、その姿からは、長年のアルコールとドラッグ(LSDからヘロインまで)によるダメージを感じないわけにはいかない。廃人のように見えることもある。が、とはいえ、そこには緊張感があり、ときおり鋭い目つきをもって言葉を発するシェインからは、彼の反骨精神と屈強な生命力も感じる。
 ジュリアン・テンプルは、この映画のためにアイルランドの歴史をケルト神話から説明しているが、ザ・ポーグスの音楽を好きになるのにアイルランド人である必要がないように、映画を楽しむのにアイルランドの詳しい政治史を知っておく必要はないかもしれない。いや、IRAに関する知識はあったほうがいいだろう。ケン・ローチの素晴らしい『麦の穂をゆらす風』も見ておくに超したことはない。アイルランドは英国の帝国主義との闘いもあるが、その独立をめぐっての内戦という悲惨な歴史をも持っている。
 ただ、ぼくが映画を見ていて目頭が熱くなってしまったのは、アイルランド史でもなければシェインをなかば聖人化しかねないテンプルの演出によるものでもない。アイルランドの土着性を打ち出したザ・ポーグスの演奏は、たしかになんど聴いたって格好いい。だが、それ以上に、この映画においてはシェインの「人間臭さ」がぼくにはたまらなかった。
 パブで飲んだくれている人生――個人的には大好きな世界ではあるのだが――をロマンティックに語るのは、大人としてまあどうかと思う。二日酔いでまっすぐ歩けず、昼間っから公園のベンチでぶっ倒れているときなど、経験者にはわかる話だが、ほんとうに惨めなものだ。6歳から酒を飲み、どんなに身体が悪くなっても飲み続けているシェインのロックンロールな生き方をことさら賞揚したくもない。また、彼が表現するアイルランドは、それをステレオタイプ化しているかもしれないというリスクも感じなくもない……が、映画を見ている最中はそんなネガティヴな感情はまったく湧かなかった。130分はあっという間だ。惹きつけてやまないのは、音楽ドキュメンタリー映画としてのクオリティの高さだけではない。


© The Gift Film Limited 2020

 たびたび登場し、貴重な証言を話すシェインの妹がシェインの“魂(ソウル)”について語ったとき、ぼくはいろんなことが腑に落ちたような気がした。もしジュリアン・テンプルがシェイン・マガウアンの“魂”を描こうとしたなら、この映画は成功していると言える。たとえば、ザ・ポーグスの音楽は、パブで飲んだくれているうだつのあがらない連中を楽しませるために、はじまっている。なにしろ、その音楽のベースにあるのは民謡なのだ。民謡とは自分個人のためにある音楽ではない。みんなのためにある。内的なものではなく外的なもの、要するに社会的な音楽なのだ。街をほっつき歩いて、夜分ホームレスと一緒に酒を飲みながら連中から聞いた話が歌詞のヒントになっているとシェインが打ち明ける、象徴的なエピソードがある。シェインは、やがて成功し、ロックスターとして祭り上げられても自分を見失わなかったひとりだが、それというのも彼の魂が、そんな安っぽい賛辞など認めなかったのだろう。そんなことよりも彼のなかではパブで飲んでいるときのほうが幸せで、アイルランド人としての誇りのほうが重要なのだ。
 それにしてもシェインは、いくつもの美しい歌詞を書いたものだ。劇中には多くの曲が流れるが、あらためて彼の非凡さを思い知った。音楽ファンにとっては、最後のニック・ケイヴとのデュエットのシーンは最高のプレゼントだが、ジュリアン・テンプルはこの映画を通じて、それ以上にもっと大切ななにかを発しているように思えてならない。それは、アカウントを作って月々の購読料を払って誰かと対話するような世界では決して得られないもので、いま世界から失われようとしている古き良きもの、この日本でいままさにどんどん欠落しつつあるもの、つまりそれは「人間らしいかっこ悪さ」と呼ばれうるものかもしれない。だからスマートには生きられない諸君よ、最後に確実に言えることがある。この映画を見た誰もが、見る前の自分より元気になっていると。
 


© NATIONAL CONCERT HALL, DUBLIN

AMBIENT definitive 増補改訂版 - ele-king

こんな時はチルアウトするしかない

アンビエント・ミュージックを楽しむための必読書、
430枚以上追加、内容もアップデートして再登場!

執筆者:三田格、河村祐介、倉本諒、品川亮、CHEE SHIMIZU、デンシノオト、野田努、萩原健太、橋元優歩、松村正人、水越真紀

A5判/オールカラー/304頁

CONTENTS

改訂版序文 “みんな” のアンビエント・ミュージック

1章 SPACE AGE
2章 MEDITATION
3章 POST MODERN
4章 CHILL SCAPE
5章 DRONE / IMPROVISATION
6章 DIVERSITY

INDEX

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
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未来屋書店/アシーネ

春を彩るダンス・ミュージック7枚 - ele-king

 野球を観に行った。ひとごみが好きなタイプではないけど、ごった返しの状態になるのもひさびさだったので、なんというか戻ってきたな、と。来る4月もじょじょにフェス、イヴェント、あるいは単なる音楽好きが集まる会やらで予定が埋まりつつあることを思うと、いよいよ始まったと思わされる。でも、始まりあれば終わりあり。同時に渋谷のコンタクトは9月をもって閉店。私事で恐縮ですが僕は大学を卒業し、ここでも一区切りつきました。終わりは嫌だなあ。でも、パーティはみんな終わるとわかっているから、その瞬間をほんとうに楽しめるのだと、これは納得できるとてもいい言葉だね。始まりと終わりはセットでつながっていると思う。僕がいまでも忘れられないDJのいくつかも、終わった悲しさありつつ次への予感も匂わせてくれるようなプレイだ。一直線のときを過ごしたというより、ループしているような感覚。まるでJディラのドーナツみたいに。
 とまれ、ときにそうやって真面目に考えさせてくれるダンス・ミュージックはやはり最高、そして何も考えず音楽で気持ちよくなるのはそれ以上に最高。いまに感謝、おすすめの新譜(リイシュー含む)ダンス7枚です。


Two Shell – Home | Mainframe Audio

 トゥ・シェル自身が主催する〈Mainframe Audio〉はもともとヴァイナル・オンリーだったが、このたび人気の第2番「home / no reply」がデジタルにてリリース。正直、ここ最近ではもっとも繰り返し聴いているかもしれない。いまのモダンなベース・ミュージックのひとつの面白いかたちなのかなと。オリジナルはホワイト・ラベルの無骨な装いだったが、デジタル・リリースに合わせアートワークもポップでかわいらしく変化。彼らデュオは、UKの新世代のひとつと目される〈Livity Sound〉などからもリリース。この周辺はこれからさらに盛り上がりそう。

Burial + Four Tet – Nova/Moth | Text

 長らくヴァイナルでしか入手できなかった「Nova/Moth」がデジタルに登場。言わずもがな最高。デジタル・リリースまえ偶然ディスク・ユニオンで見つけたけど、その盤はマジック書き込み有りで4,000円を超えてたからね。いやあ、価格破壊です。気軽に聴けるようになりすごく嬉しい反面、血眼でレコードを探している人間からするとちょっと悲しいような気もする。まあ物理メディアは音が云々とそれらしい理由づけをして、デジタルもフィジカルも両方買うんですけど。

DJ Python - Club Sentimientos vol.2 | Incienso

 DJパイソンことブライアン・ピニェイロによる新作が、ニューヨークはアンソニー・ネイプルズの〈Incienso〉から届けられた。2020年の『Mas Amble』以来ということになる。あの催眠的で浮遊感のある、しかし明確にビートも感じられる──「ディープ・レゲトン」なる彼のシグネチャー・サウンドは相変わらず健在。僕は普段からレゲエないしダンスホールをたくさん聴く人間ではないので、専門的な切り口からこのEPについて語れないのは容赦してほしい。“Angel” の約11分に充満する音の空気、そこに波打つかのように持続するパッド、反射するように静かにきらめくシンセ……。重力から解放された気さえするが、同時に、意外なほどクラップを軸に据えたビートはかちかちと忙しない。ダンス・トラック的な趣もありながら、ぐっと深いところへも誘ってくれる。ずっと浸っていられるサウンド。

Disclosure & Zedd – You've Got To Let Go If You Want To Be Free | Apollo

 ライ(Raye)との新曲 “Waterfall” のほうが最近だが、こっちについて語りたい。ゼッドはEDM直撃世代の僕にとっては馴染み深いDJで、高校生のころ幕張メッセのライヴも観ている。この曲には、フォー・テットとスクリレックスが2021年にコラボしたとき(2019年にはロンドンでB2Bをしていたりもする)と似た感情を抱いた。少なくとも僕の感じた限りでは、あのフォー・テットが超メジャーのドル箱スターDJとコラボするなんて……といった論調があり、一部の音楽好きの心をささくれ立たせていた(ように見えた)。今回もそれと似たまさかのコラボ。ヴォーカルなど全体的にディスクロージャー風味が強いが、ところどころのビートの質感などゼッドを思い出す部分もある。

PinkPantheress – to hell with it (Remixes) | Parlophone

 去年にリリースされたミックステープのリミクシーズ。2021年のダンス系ニューカマーとして話題をかっさらったピンクパンサレスであるが、やはり面白い。2分にも満たない音楽にさらっと90年代におけるジャングルないしUKガラージがサンプリングされており、ざっくりと「Z世代による90年代レイヴの再解釈」と形容されている。それはピンクパンサレスだけでなく、ニーア・アーカイヴ、ピリ、ユネ・ピンクなどなど、いま同じ感覚を持ったアーティストはたくさんいる。手っ取り早くスポティファイの「planet rave」というプレイリストを聴いてみて。ここに新しい潮流が生まれつつある(のか?)。アンツ、LSDXOXO、フルームあたりがベスト・リミックスだと思う。

buen clima - Transferencia Electrónica | Peach Discs

 〈Peach Disc〉は個人的に追っているレーベルのひとつ。シャンティ・セレステによるこのロンドンのレーベルはアートワークなどが視覚的にポップでかわいらしく、それもレーベル・テーマが「フルーティ&セクシー」なのだからなるほどと言ったところか。ピーチやシエルといった女性DJを多くフックアップする一方、UKテクノ新世代と目されるコール・スーパーやホッジなど男性陣もリリース。ブエン・クリマはこのレーベルが2022年を迎えた初の作品。リズムが面白くそこに乗るウワモノもきわめて独特。チリの男性。

Rilla - Yugeki / 遊撃 EP | SVBKVLT

 遅ればせながら。福岡出身で京都在住のリラによる一撃。テクノ~ベース・ミュージック、トライバルなども消化した5曲入りEPからは、クールさと怖さのバランスに非常に優れたサウンドを感じた。これをガチのサウンド・システムの入った場所で聴いたら、間違いなく僕の身体は持っていかれる。上海の〈SVBKVLT〉から初の海外リリースとなるが、同じく京都在住のストーンズ・タローもUKの〈Shall Not Fade〉からリリースするなど、京都のシーンがかなり盛り上がってきているのを感じる。〈Set Fire To Me〉のトレイ(いまは東京)、CYKクルーのコツ(一時移住)など素晴らしいDJもたくさんいるしね。

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