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A/N

ElectronicaExperimental

A/N

ACIE E R R

OOH-sounds

デンシノオト Apr 01,2022 UP

 00年代から10年代にかけて、SND、そのメンバーだったマーク・フェル、アルヴァ・ノトやバイトーンなどによるグリッチやビートが交錯するエクスペリメンタル・テクノイズ・トラックが数多く出現した。あれから10数年のときを経て、近年、そういったサウンドが蘇生しつつある兆候を感じるのだ(たとえばフエアコ・エスが今年にリリースした新作など。彼がアンビエント・サウンドから転換したことの重要性について考える)。00年代リヴァイヴァル? と結論づけることは早計だが(だが20年のときを経てリヴァイヴァルの兆候がどこのジャンルでもあるように思う)、大切なことはグリッチによるデジタル・サウンドの可能性はまだあるということではないかと思う。

 フランスのプロデューサー、アポロ・ノワールによるプロジェクト「A/N」もまたインダストリアルなサウンドとムード、そしてグリッチ・ノイズ、重厚なビートが交錯するテクノイズ・トラックの継承と発展を感じさせるものだった。
 ちなみにアポロ・ノワール名義でもアルバムをリリースしており、2017年に発表したアルバムが『A/N』というタイトルなのだ。アポロ・ノワール名義では比較的、ストレートなダンス・ミュージックが多いが、2021年の『Weapons』あたりからインダストリアルな激しさが全面化していて、A/N名義の前兆のようなサウンドを展開しているので要注目だ。
 そしてこの『Acie E R R』だがルーシーが主宰の10年代先端音楽を代表するレーベル〈Stroboscopic Artefacts〉の諸作品を思わせる高密度・高解像度のマシン・グリッチ・サウンドに仕上がっている。リリースはイタリアのレーベル〈OOH-sounds〉から。このレーベルは10年代中期ごろからリリースをはじめ、2019年頃から大量のエレクトロニックな音源をリリースし、昨年2021年にはスコット・ヤング『Post Peace』などを発表した。今年の4月には、クレア・ラウジーとのコラボレーション作品で知られるモア・イーズの新作『oneiric』がリリースされる。

 『Acie E R R』の全8曲にはグリッチやビートが絶妙なバランスで交錯していた。ビートのみならずアンビエントの要素もあり、最後まで飽きさせない構成となっている。
 1曲め “Mentir En Temps De Crise” は、シーケンシャルな電子音がループするアンビエント・トラック。2曲め “Avouer Condamner” では規則的に刻まれるハイハットの上に潰されたグリッチ・サウンドや透明な声のサンプルのようなシンセパッドが重なり、やがて規則的なビートが入ってくる。3曲め “Disparaître” はアンビエント的ともいえるシンセパッドに、いくつものグリッチ・ノイズが不規則にレイヤーされインダストリアルのムードを醸し出す。前曲の整然とした曲調と相反するようなデジタル・カオス・サウンドだ。続く4曲め “Chromé” ではサウンド・コラージュ的なビート、グリッチが交錯し、マーク・フェル的ともいえるデジタル・サウンドが展開される。曲終盤の透明な電子音によって展開されるアンビエント・パートではその混沌が浄化されるような気持ちよさが生まれていた。5曲め “Fer Forgé” でもそのような混沌と浄化が交互に表出するようなムードは続き、映画音楽的ともいえるシンセサイザーによるコードに、声のサンプルと微かなグリッチ・ノイズが交錯する。悲痛さと希望が入り混じるムードが堪らない。6曲め “Réalité Acier” では不規則に打たれていくノイズ/リズムが、不穏な印象のシンセサイザーの音とミックスされ、アルバムのなかでももっとも実験的な印象のトラックに仕上がっている。シンプルなビートが鳴っていた2曲め “Avouer Condamner” と比べてみると、まるでアルバムを通してサウンドが破壊されていく不思議な感覚を覚えた。7曲め “Noir Metal” では声のサンプルの用い方が、不規則なノイズと絶妙に絡み合っている。ときおり急にノイズがサウンド全体を覆うなど、世界の地盤が崩れ去っていくような不安な感覚を覚えたほど。そして不穏と不安に満ちたサウンドに、微かな光が差し込むアンビエンスを展開する “Déviation” でアルバムは幕を閉じる。
 通して聴くと2曲め “Avouer Condamner” で展開されたシンプルなビートが、次第に破壊され、新たな音=アンビエンスに生まれ変わる過程を聴いたような感覚を得ることができる。この瞬間に生成している音の変化をずっと追い続けていく感覚があるのだ。
 このレヴューの冒頭にも書いたようにマーク・フェルや〈Stroboscopic Artefacts〉が10年代に展開したエクスペリメンタル・テクノ・トラックの応用ともいうべきサウンドといえよう。ノイズとビートとアンビエンスが交錯するサウンドによるモダン・テクノ、エクスペリメンタル・テクノの秀作といえる。

デンシノオト