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最後の嵐がこの地上から去って10年。奴隷船から落とされた母親たちの子孫、ドレクシア。この不気味な音楽はいまもなお、海底で鳴り響き、地上への抗戦を続けている。
オランダの〈Clone Classic Cuts〉からリリースされた、ドレクシアのベスト盤「ジャーニー・オブ・ザ・ディープ・シー・ドウェラー(深海居住人の旅)」シリーズ3部作が、去る1月に完結した。
第1弾『Journey Of The Deep Sea Dweller I』がリリースされたのが2011年、翌2012年に第2弾、そして2013年で第3弾。当初は、選ばれた曲が年代別に並び3枚に分けられるのかと勝手に思っていた。しかし、この3部作では、また新しいドレクシアのファンタジーを見せた。
第1弾『Journey Of The Deep Sea Dweller I』は、とにかく不吉だった。それはあまりにも、暗く、怒気に満ちた音の集合体だった。我々が抱いている「ドレクシア」のイメージに近い選曲となっている。不朽の名曲"Wave jumper"や"Aquarazorda"(1995「Aquatic Invasion」収録)、"Beyond theAbyss"(1993「DREXCIYA2:Babble Metropolis」収録)では乾ききった稲光に打たれた。歌モノ"Take your mind"(1994年「DREXCIYA4:The Unknown Aquazone-Doble Aquapak」)も選曲されているが、ポップとは真逆な音がそこにある。
第2弾『Journey Of The Deep Sea Dweller II 』には、デトロイト・サブマージの実店舗でしか購入できなかった、(オークションで数万円で取引されている)「SomeWhere in Detroi」から"Hi-tide"が収録されている。ほかに、低音を地の底から感じるような"Anti Vapour Waves"(1993「DREXCIYA3: Molecular Enhancement」)、ファンキーなトライバル"AquaJujidsu"(1994「DREXCIYA4:The Unknown Aquazone-Doble Aquapak」)、そして、コンピレーション・アルバム『True People:The Detroit Techno Album』でしか聴けなかった"DaveyJones Locker"も収録されている。
第3弾『Journey Of The Deep Sea Dweller III』は、1992~1997年の〈UR〉〈Submerge〉〈Shock wave Records〉からリリースしたものを中心に選曲されている。「DREXCIYA3: Molecular Enhancement」収録の、傑作"Intensified Magnetron"、殺伐としたベースの上に海面を漂うような女性ヴォーカルが入った"Flying Fish"、"The Countdown Has Begun"(「Aquatic Invasion」収録)は、気味の悪いボコーダーの声が不安を助長させる。"Vanpire Island"はいまにも暗闇のなかからベラ・ルゴシが不敵な笑みを浮かべて現れそうだ。未発表曲の"Unknown Journey IV"は駆け抜けるリズムにファンファーレのようなメロディが絡む。あたかも、希望に満ちた世界の幕開けのように。
ジェームス・スティンソンは、亡くなる前のインタヴューで、「たとえ自分が死んだとしても、俺が作ったたくさんの音楽は残るのさ。未発表曲もあるんだ!」と言っている。その通り、3部作のすべてに未発表曲が入っている。こうやって、リスペクトがある人たちの手によって新しいドレクシアを聴けることは、本当に素晴らしいことだ。
ドレクシアのテーマは海──水はもっともこの地球上でパワフルな物質だとドレクシアは語っている。さまざまな特性があり、どんな形にもなり、どんな質感にもなる。生物の源、人類を作り出すスープ──。
〈WARP〉からのエレクトロイド、〈Rephlex〉からのトランスリュージョン、そして〈WARP〉からのジ・アザー・ピープル・プレイス......などなど彼には他にもいろいろな名義での作品がある。デトロイトから届けられたこの音に身体ごと浸ると、暗闇を手探りで歩いるような、その先に未来があるような、そんな気持ちにさせられる。彼らの音がクラフトワークやサイボトロンによって形成されている──ということも強く感じられる。
昨年、ジェラルド・ドナルドはDJスティングレーと一緒にNRSB-11という名義でリリースをしている。1枚リリースしただけで、その後の動きは見えないが、この作品によって、また今後のデトロイト・エレクトロへの期待が高まってしまった。日本では(かなり)アンダーグラウンドな人気だけれど、ヨーロッパでは当時から広く評価されている。エイフェックスツインがドレクシアをリスペクトしているのは有名な話だが、最近で言えば、スリープアーカイブやマーティン、Fine 〈Kontra-Music〉もフェイヴァリットとしてドレクシアをあげている。アンディ・ストットの音の破片はドレクシアやセオパリッシュをも彷彿とさせ、ミニマルやダブステップなどの現在進行形の音にもドレクシアの成分がちりばめられている。
リアルタイムで、この音を聞くことができなかった世代には、これが感情のある音で紡がれた最高のメッセージだと思って、この機会に是非聞いてもらいたい。ドレクシアの音はDJユース向きじゃないとよく耳にするが、たしかにこれがかかった途端、フロアには黒い幕が落とされて、すべての幸せな空気を闇に変えてしまう。しかし、これがもっともリアルで、ハードなデトロイト・テクノなのだ。
オリジナル作品の強烈な個性がいまもなお語り継がれ、それぞれの思いが入り交じるような重圧のなかで、丁寧にリマスタリングをし、リリースしてくれたクローンにも心から感謝したい。
mei