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Album Reviews

Jack Peoples

Electro

Jack Peoples

Laptop Cafe

Clone Aqualung Series

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小林拓音   Sep 15,2017 UP
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 若者たちのあいだでニューエイジが流行しているという。たしかに昨年は大統領選挙や国民投票があったし、今年に入ってからもテロは起こり続け、列島のはるか上空では楽しそうにミサイルが飛び回っている。これは、つらい。このような情況にブリテン島の人びとも危惧の念を抱いたのか、先月、ブライアン・イーノら19人の有志たちが首相のテリーザ・メイに対し、合衆国に圧力をかけて朝鮮半島の緊張を解消するよう求める声明を発表している。曰く、キューバ危機以来最大の核戦争の脅威が引き起こされている。曰く、いま必要なのは軍事的な解決ではなく脱エスカレイション(de-escalation)である。相変わらず国際情勢は混迷を極めている。つらい。人びとが現実から逃避したくなるのもわかる。
 でもここで忘れてはならないのが、それはあくまで星の数ほどある「つらみ」のうちのひとつにすぎないということだ。国際問題とは言うなれば「大きなつらみ」である。当然ながらそうした「つらみ」とは異なる次元の「つらみ」も存在するわけで、オーウェン・ジョーンズはそういう「小さなつらみ」にこそ目を向けなければならない、と言っているのだと思う。たとえば、あまりに低い賃金で長時間労働を課された多くの人たち……アニメ業界の悲惨な話はよく耳に入ってくるけれど、それはおそらく氷山の一角にすぎないのだろう。とりわけ「クリエイティヴ系」と括られる職種は厄介で、「創造的な仕事だから」「意義のある仕事だから」という言葉が魔法のような効力を発揮する。いわゆる「やりがい搾取」というやつである。クリエイティヴな作業なのだから金を要求すべきではない――そんな雰囲気が漂っている職場も多いことだろう。それも、他人から言われている分にはまだよくて、労働者自身が「これはやりがいのある仕事だから(低賃金でいい、残業代も要らない、休日もなくていい)」と、自らを追い込んでいる敵たちの思想を見事に内面化してしまった暁には、もう取り返しのつかないところまで来ていると考えたほうがいい。電通の例を挙げるまでもなく、そりゃそんな毎日を過ごしていたら現実逃避のひとつやふたつ、したくもなろうというものだ。

 去る9月3日に没後15周年を迎えたジェイムズ・スティンソン。かつてドレクシアの一員として、大西洋に廃棄された奴隷の子孫という役を演じ、ハードなエレクトロを生み出すことで次々と「復讐」の物語を紡いでいった彼は、「大きなつらみ」に立ち向かう勇敢なる戦士だった、とひとまずは言うことができる。しかし他方で彼は、ジ・アザー・ピープル・プレイス(以下、TOPP)という名義のもと、「小さなつらみ」を見つめる作品も残している。2月にリイシューされた『Lifestyles Of The Laptop Café』は、日々の営みにおけるさまざまな感情に目を向けた、どこまでも愛おしいアルバムだった。
 このたび発掘されたスティンソンの未発表音源も、その路線に位置づけられるものである。これらの音源は2000年代初頭にTOPP名義でリリースされた2タイトルのすぐ後に発表される予定だったもので、どうやら『Lifestyles Of The Laptop Café』と同じセッションで録音されたものらしい。スティンソンの死により長いこと日の目を見ることのなかったそれらの音源をコンパイルしたミニ・アルバムが、本作『Laptop Cafe』である。ただし、今回の名義はTOPPではなくジャック・ピープルズとなっている。同じテーマの曲たちになぜべつの名義が与えられているのかは不明だが、TOPPもジャック・ピープルズも「ピープル」という部分は共通している。「people」とは要するに「人民」のことである。それはすなわち、「小さなつらみ」を抱えながら日々を生き抜いている者たちのことだ。
 TOPPのアルバムと同じように、1曲め“Song 06”の出だしから穏やかな陽光が差し込んでいる。子どもが無邪気に玩具で遊んでいるかのような2曲め“Song 02”や3曲め“Song 01”も微笑ましく、聴き手を優しく包み込んでひだまりのなかへと導いていく。収録された6曲のサウンドはいずれも粗く、それが意図されたものなのかどうかはわからないけれど、そのロウファイさがかえってジャック・ピープルズの音楽の持つ日常性を際立たせている。
 興味深いのは4曲めの“Song 04”だ。このアルバムのなかでもっとも力強いビートで始まるこのトラックは、間歇的に挿入される太いベースに支えられながら、調子っぱずれなスティールパンの調べを呼び込み、カリブの風を招き入れている。そこに微かなハープのような音まで紛れ込まされていて、これは当時のスティンソンにとって新機軸だったのではないだろうか。

 没後15周年だとかエレクトロ・ブームだとか、単にそれだけが理由じゃないんだと思う。今年に入ってからジェイムズ・スティンソン絡みのリリースが相次いでいるのは、一部の人たちのあいだにニューエイジ的なるものの氾濫に対する懸念があるからではないだろうか。もちろん、逃避することそれ自体は悪いことではない。資本主義社会のなかを生きるというのはただそれだけでじゅうぶんつらいことなのだから、逃避はむしろ生活を維持していくうえで必要なことである(再生産)。だがそこで、内面的かつ崇高な精神世界を志向するのか、それとも日々の「小さなつらみ」を静かに見つめ返すのか。両者のあいだには大きな違いが横たわっている。だからスティンソンのこの遺作は、「ピープル」であるところの僕たちに、ニューエイジに代わる新たな選択肢を与えてくれているのだと、そう思われてならない。

小林拓音