Home > Interviews > interview with Kyle Hall - デトロイト新時代
最初のEPが出た2007年から、あるいはそれ以前から、大きな注目を集めていたカイル・ホールの初来日がやっと実現する。16歳でオマー・Sのレーベル〈FXHE〉から(14歳のときに作った曲で)登場し、翌年には自身のレーベル〈Wild Oats〉を設立。昨年には満を持してファースト・アルバム『The Boat Party』をリリースして高い評価を得た。そのサウンドには、デトロイトという特殊な音楽文化を持つ街で育まれたタフさと、若さと、希望が詰まっている。
現在22歳の彼は、地元であるデトロイト市内を拠点に、世界を飛び回る人気DJとして、レーベル・オーナーとして、そしてプロデューサーとして、誰もが夢見るような生活を送っている……かのように見えるが、実はそれ故のストレスや悩みを抱えているようだ。
今回、「せっかくの初来日だから」とインタヴューを申し込んだところ、実はいちど断られた。ここ最近はほとんど取材を受けていないという。二度目の懇願によって渋々承諾してくれたものの、当初はあまり乗り気ではなかった。話しているうちに、その理由が明らかになり、最終的には期待していた以上に深い対話が出来たと思う。そして彼の、いい意味での真面目さと成熟さが表れていると思う。本邦初の、1万字を超えるロング・インタヴューをじっくりお楽しみ下さい。
■KYLE HALL Asia Tour
2014年7月11日(金)
22:00〜
@代官山AIR
料金:3500円(フライヤー持参)、3000円(AIRメンバーズ)、2500円(23歳以下)、2000円(23時まで)
出演:
【MAIN】Kyle Hall(Wild Oats/from Detroit)、DJ Nobu(FUTURE TERROR/Bitta)、sauce81 Live, You Forgot(Ugly.)
【LOUNGE】ya’man(THE OATH/Neon Lights)、Naoki Shinohara(Soul People)、Ryokei(How High?)、Hisacid(Tokyo Wasted)
【NoMad】O.O.C a.k.a Naoki Nishida(Jazzy Sport/O.O.C)、T.Seki(Sounds of Blackness)、Oibon(Champ)、mo2(smile village)、Masato Nakajima(Champ)
みんながオルタナティヴなサブカルチャーに属したがっていて、そのオピニオン・リーダー的なメディアの言いなりになっている。新しいサブカルチャーを創り出すために過去の歴史の解釈まで曲げられてしまっているようにさえ思う。インターネットは自分の意見を持っている人には素晴らしい道具だけど、ただのフォロワーには悪影響を及ぼすものだ。
■ 日本語でのインタヴューは初めてなので、まず基本的なことから聞かせて下さい。
カイル・ホール(KH):あまりに基本的過ぎることは聞かないで欲しいな。最近あまりインタヴューを受けないようにしているんだけど、それはもう何度も何度も同じことを言い続けている気がするからなんだ。正直、「僕の言うことよりも、僕の音楽を聴いて下さい」って思う(笑)。それ以上に、あまり言うことはないよ。〈Wild Oats〉というレーベルをやっているから、それをチェックして下さい、くらいかな(笑)。
■なるほど。わかりました。では、基本的な質問はやめましょう。私が聞いてみたいと思っていたことを、まず聞かせて下さい。音楽を作ることと、DJをすることは違う表現方法です。今回、あなたにとって初来日になりますから、日本のオーディエンスはあなたの作品は聴いているけど、DJプレイは聴いたことがないわけです。ですから、みんな「DJとしてのカイル・ホールはどうなのか?」ということに注目していると思います。ご自分ではどう思われますか? あなたにとって制作とDJの違いは? あなたの作品はDJとしてのあなたをも代弁していると思いますか?
KH:その答えは……ノーだね。僕の作る音楽は、そのときどきの自分を表現しているので、DJをしているときの自分とは必ずしも重ならない。DJをするときは、自分がかけたいと思うレコード、僕はアナログ・レコードをプレイするので、それをレコード・バッグに詰めるところからはじまっている。持っているレコードを全部詰められるわけではないので、そこには制限があって、そのときの自分の気分、どちらかというと自己満足のために選んだレコードを持っていく。自己満足というのは、自分だけを楽しませるという意味ではなくて、自分が思う、その状況に最適であろうと考えるレコードを選ぶということ。その判断には、僕が考えるそれぞれのオーディエンスの趣向や、期待を考慮する。
DJプレイというのは会話みたいなもので、まず僕がいくつか自分が聴きたいと思う曲をかけてみて、お客さんの反応を見る。そうすると、ダンスフロアにいる人たちの耳がどこにあるのか、ということが少しわかる。途中でフロアを離れる人もいれば、入って来る人もいるから、それを繰り返しながら状況を掴んでいく。でも、人はみんな違うし、土地によっても違いがあるから、なかなか難しい。人によって、そのパーティに期待してくるものも違う。特定のものを聴きたくて来る人もいれば、オープンに違ったものを受け入れる人もいる。そのDJの芸術性を評価しに来る人もいれば、DJが誰だかよく知らずにただ踊りに来ている人もいる。こういったいろんな人たちと自分の相互作用が、その夜のエネルギーとなるから、予想がつかないよね。
■ラインナップや、出演順によっても受け取り方が変わりますよね。
KH:そうそう。例えば、前のDJがものすごく速いテンポだとか、大音量とかでプレイしていたら、その後に出るDJの印象がまた変わる。DJにもいろいろいるしね。例えば、「俺はみんなと一緒にパーティしに来たんだ」と言うDJもいるけど、必ずしもお客さんが楽しむ音楽で自分が楽しめるわけではないから、妥協を強いられることもある。でも僕にとっては妥協をする方が難しいから、それならお客さんをそこまで盛り上げなくても、自分がかけたい音楽をかけようと思うこともある。
■DJはエンターテイナーというだけではないですもんね。
KH:そう! エンターテイナーとアーティストは違うと思う。そしてアーティストの方が、お客さんとの接点を見つけるのに時間と努力を要するよね。その接点がなかなか見つからないと、「僕が音楽スノッブ過ぎるのかな?」と自問することもあるけど、僕が本当にいいと思ってかけたものに反応してもらえることもある。逆に、自分はそんなに好きじゃないけど、きっとお客さんには受けるだろうと思ってかけたら、全然ダメだったり(笑)。本当に優れたアーティストは、お客さんを自分の世界に引き込んで、その良さを知ってもらうことが出来るんだろうけど。
■個人的には、DJ本人が本当に好きでかけたいものをかけることがもっとも重要だと思いますけどね。
KH:僕もとても重要だと思う。でも、誰もがそういう風にやっているわけじゃない。よく、「これは(フロアで)機能する」という曲をかける人がいる。それってただのツールということだよね。でも、そういったツールをかけることで、次にかける本当に思い入れのある曲を引き立たせるというテクニックもある。そういう風に、最適なコンテクスト(背景/文脈)を準備するということもDJの醍醐味だと思う。
■それを踏まえて聞きたいんですが、だとすると、あなたがまったく知らない場所、例えばまだ行ったことのない日本でプレイする際には、どのような準備をするんですか? すでにあなたはヨーロッパ各地でたくさんプレイしていますし、アメリカでもしていますよね。でも日本はそのどちらとも違います。
KH:そうだね、僕もそういう印象を持っているよ。ユニークな場所だってね。たしかに、ヨーロッパはどの国でやるにしてもだいたい状況を把握している。例えばロンドンは、ほぼ自分の好き勝手にやっても大丈夫なんだ(笑)。でもイタリアとか、その地域によっても、もう少しベーシックなところを押さえないといけないな、とか。
日本については、僕が知っている限りでは、かなりアーティスティックにやっても受け入れてもらえるところだと認識している。でも、RAのドキュメンタリー(Real Scenes: Tokyo)を観て、もしかしたらもっと制限されているのかな、とも思ったり。実はもっとニッチに細分化されていて、僕に期待されていることと僕が実際にやりたいことはかけ離れている可能性もあるのかな、とも思う。
取材:浅沼優子(2014年7月07日)