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Tanz Tanz Berlin

Tanz Tanz Berlin

#4:ステファン・ゴールドマンとの対話

文:浅沼優子 Oct 12,2011 UP

ドイツのハウス・レーベルが外国で評価されるようになったのなんて、本当に最近のことですからね。僕の初期のリリースがドイツのレーベルではなく、UKのレーベルだったという事実もそれを物語っています。〈Classic〉からリリースした東ドイツ人は僕が初めてだったはずですよ(笑)

■子供の頃、家ではどんな音楽が流れていたんですか?

ゴールドマン:家ではあまり音楽を聴いていませんでしたね。不思議に思うかもしれませんが、母が個人的に好きなものをときどきかけていたくらいで、父はあまり家で音楽を聴きませんでした。父がレコードをかけている姿はほとんど記憶にないです。それより楽譜を読んでいました。音を聴かなくても楽譜を読むことでその音楽が彼には聴こえていたんですよ。まるで新聞を読むように楽譜を読んでいた。変な感じでしょう? 僕にはできませんけどね、世のなかにはそういう人もいるんです(笑)。

■へぇー! では家に音楽が溢れていたというわけじゃないんですね?

ゴールドマン:違いましたね。よくリハーサルを見に行ったり、母に連れられてコンサートを見たりはしましたけど、家に音楽はそれほどありませんでした。

■音楽ファンにとっては、音楽家の親を持つことは憧れですけど(笑)、そういう音楽家系もあるんですねぇ。

ゴールドマン:親が酷い音楽を作っていたら、それはそれで悲劇じゃないですか(笑)?

■でもあなたのお父さんはそうじゃなかったでしょう?

ゴールドマン:それでも、父の音楽を評価するまでには時間がかかりましたよ。父が周囲に評価されているということは何となく感じていましたけど、子供の自分にはその良さがわかりませんでした。20歳を過ぎてからじゃないですかね、父の音楽そのものに興味を持てるようになったのは。

■そうなんですね。でも今年はお父さんの作品を〈Macro〉からもリリースされましたね。

ゴールドマン:はい。残念ながら本人は2009年に他界したんですが、もし生きていたら去年で70歳だったんです。そこで、『WIRE』誌との共同企画で『Late Works』というCDに商品化されていなかった彼の晩年の作品をまとめました。『WIRE』誌の購読者プレゼントとして無料で配布され、その後〈Macro〉からリリースして誰にでも買えるようにしたんです。そういうかたちで世に出せて良かったと思っています。普段なら彼の音楽に触れないような層の人たちにも聴いてもらえることが出来たと思うので。エレクトロニック・ミュージックのアーティストやDJなどからも、とても好意的なフィードバックをもらって嬉しかったですね。

■お父さんから、音楽的な影響は受けていると思いますか?

ゴールドマン:僕のハーモニーへのアプローチは受けていると思います。とくにハウス・ミュージックではハーモニーを軽視しているものが多いように感じます。コードの組み合わせが耐えられないものとか、よくありますよ(笑)。もし父が聴いたら同じことを言っただろうと思います。それに豊かで厚みのある音作りというクラシック音楽の録音の技巧なども、自分の曲を制作する際に参考にすることがあります。背景音のディテールに注意を払ったりとか。

■〈Macro〉は他の多くのダンス系レーベルと比べると、かなり実験的な音楽を紹介している印象がありますが、そこは意識していますか?

ゴールドマン:はい、そうですね。理由は、僕たち自身が飽きないようにしているからでしょう。レーベルによっては、レコードをDJのツールとして出しているところもありますが、僕たちはそれ以上のものと考えています。自分達のカタログの中に、それまでにない表現を加えたい。新しいことを色々試していることが、結果的に「実験的」になっているんでしょう。新しいものは実験してみないと分からないですからね。

■逆に、クラブ/ダンス・フロアも意識していますか?

ゴールドマン:ええ。僕もフィンもDJですから。それが基本にあることは変わりません。そのなかで、いままでにない新たな要素やヒネリを加えるようなものを意識しています。ですから、クラブが基盤となっていることはとても重要ですが、そのクラブ体験をこれまでにないようなものにしたいんです。いくら実験的になろうとも、頭の片隅では必ずクラブを意識していますね。

■また音楽的な実験だけでなく、今回のミックスCDのようにコンセプトやフォーマットも変わったことに挑戦していますよね?

ゴールドマン:そうですね。例えば『The Grand Hemiola』という作品では、2枚組の12インチのB面とD面を組み合わせてループを構築することができるようにしたものを出しました。片方が4/4拍子で、もう片方が3/4拍子なので、同時にプレイすることで異なるリズムのループを作れるようになっています。何か人がやっていないことを考え出すのは、僕の趣味みたいなものです(笑)。

■カセット・テープでリリースした作品もありましたよね?

ゴールドマン:これも同じような考えのものです。〈The Tapeworm〉というレーベルから出した『Haven't I Seen You Before』というテープで、片面に5曲、裏面に同じ5曲が逆の順番に入っています。ですから、曲を再生中にリバース・ボタンを押すと、同じ曲が延々とループできる仕組みです。同じレーベルでフェネス(Fennesz)のリミックスのテープも制作しました。これは彼が出した、サンプル集のテープを元に、僕がサンプルのリミックスをしたというものです。といっても、彼のサンプルをそれに合った自分のサンプルとひとつずつ差し替えていくという作業をしたものなので、実際にはフェネスのサンプルはいっさい含まれていません。まさに実験的なおかしな作品ですが、ダンス・トラックを作るのとは全く違う体験で。そうやって、「今度は何をやってやろうか」と考えるのは楽しいですよ。

■最後になってしまいましたが、一つ伺うのを忘れていたことがありました。あなたはベルリンで生まれ育ったんですか?

ゴールドマン:そうです。僕が子供の頃、両親はよくブルガリアのソフィアとベルリンを行き来していましたが、僕はずっと東ベルリンで生まれ育ってきて、ベルリンを長期間離れたことはないです。いまは西側に住んでいますけどね。

■では幼少の頃は、この街がエレクトロニック・ミュージックの首都になる日が来るとは想像していなかったでしょうね?

ゴールドマン:してませんでしたね。その兆候を感じたのは、やはり90年代に入って〈Tresor〉が出来た頃からです。その頃から、デトロイトのアーティストがたくさん来るようになったり、ベルリンから彼らのレコードが出たりしていましたから。でもドイツのアーティストの曲を、外国の人たちに聴いてもらえるようになるとは、だいぶ後になるまで想像できませんでした。ドイツのハウス・レーベルが外国で評価されるようになったのなんて、本当に最近のことですからね。僕の初期のリリースがドイツのレーベルではなく、UKのレーベルだったという事実もそれを物語っています。〈Classic〉からリリースした東ドイツ人は僕が初めてだったはずですよ(笑)。いまでは多くのUKのアーティストがベルリンのレーベルにデモを送るようになっていますけど!多くのUKレーベルがそのままベルリンに引っ越してきてしまうケースも多いですしね。

■そのような変化は好意的に見ていますか?

ゴールドマン:ええ、とてもいい変化だと思います。ただ、この状態がずっと続くわけではないこともわかっていますけど。ベルリンはかつて、とても不親切で排他的な街でした。90年代の後半くらいでも、例えばレコード屋に行っても本当に店員があり得ないくらい不親切で(笑)、疎外感を感じたものですが、いまでは全然変わりました。国際的でコスモポリタンな文化が流入してきたこと、さまざまな国や地域からやってきた人びとと触れ合うようになったことで、ベルリンはずっといい街になりましたよ。

■外からやってきた人間としては、そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。ありがとうございました。

(以上)

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Profile

浅沼優子浅沼優子/Yuko Asanuma
フリーランス音楽ライター/通訳/翻訳家。複数の雑誌、ウェブサイトに執筆している他、歌詞の対訳や書籍の翻訳や映像作品の字幕制作なども手がける。ポリシーは「徹底現場主義」。現場で鍛えた耳と足腰には自信アリ。ディープでグルーヴィーな音楽はだいたい好き。2009年8月に東京からベルリンに拠点を移し、アーティストのマネージメントやブッキングも行っている。

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