Home > Interviews > interview with Cornelius - いかにして革命的ポップ・レコードは生まれたか
サンプリング・コーラジュみたいなことをずいぶんやっているんですよね。海外盤を出すときに使用料は払いましたけど、いま同じことをやったら莫大な金額になってしまう。わりとざっくりしたサンプリングを使えた最後の時代の作品かもしれない。お金ない人がクリエイティヴなサンプリングを使って面白いことをやるっていうのはもう、90年代末からできなくなってしまいましたよね。
Cornelius / Fantasma [CD+DVD, Limited Edition, Original recording remastered] ワーナーミュージック・ジャパン |
■話変わるけど、『ファンタズマ』ってブラジル盤も出ているんだよね。
小山田:出ている。ブラジルの人いましたよ。担当の人が。その人はいまでも毎年クリスマスになるとミックスCDみたいなのを作って送ってくれる。
■素晴らしい人ですね。
小山田:ブラジルのディストリビューションやっている人ですね。
■ちなみに『ポイント』はメキシコ盤があるんだよね。
小山田:『センシュアス』もメキシコ盤があるんですよ。いまでもメキシコの人からメールが来ますよ。『センシュアス』はアメリカの契約が西海岸のレーベルだったこともあって、近いじゃないですか、メキシコと。フェスをやると、メキシコからもお客さんがたくさん来るんですよ。
■意外とラテン受けしているのかね。
小山田:彼らにとっても地球の裏側の音楽だから、よほど変な風に聴こえているかもね。こっちがブラジルのサイケを面白がっているように......。
■そうとうエキゾティックに聴こえるんだろうね。
小山田:カエターノ・ヴェローゾの息子のモレーノ、その人まわりにカシンって人がいて、アート・リンゼーなんかといっしょにやっている人なんですけど、後に仲良くなるんですけど、その人なんかは当時ブラジルで『ファンタズマ』をよく聴いていたって言ってましたね。
■実際、『ファンタズマ』にはブラジル音楽の要素もあるしね。
小山田:当時は、ムタンチスとか好きでしたね。
■なるほどね。
小山田:再評価されてたでしょ。
■そうだったね。カエターノ・ヴェローゾにもサイケな作品があるしね。
小山田:カエターノのサイケな作品もよく聴いてましたね。
■それで『ポイント』に"ブラジル"という曲が入るんだ。
小山田:いや、あれはたまたまです。
■さっきも言いましたが、『ポイント』以降は、どんどん抽象化の方向に進むでしょう。『センシュアス』になるとほとんどテクノというか、たとえば"Gum"みたいな曲と"Free Fall"を聴きくらべるとよくわかるというか、ホントに断片化されているなって思うんですけど。
小山田:でも、『センシュアス』に入っている"Music"なんかは普通に歌モノですよ。歌も好きなんで、そういうのもやりたいとは思っているんですけどね。
■『センシュアス』へと続く方向性の発端は『ファンタズマ』なわけですよね。
小山田:そうと言えばそうだけど、でも、作り方が違いますね。『ファンタズマ』のときはレイヤーを重ねていく感じの作り方だったけど......『ファンタズマ』はまだサンプリングしているし、サンプリング・コーラジュみたいなことをずいぶんやっているんですよね。海外盤を出すときに使用料は払いましたけど、いま同じことをやったら莫大な金額になってしまう。当時はDJシャドウみたいな人がいたけど、それより先はアクフェンみたいにもっともっと細かくサンプリングしていくか、あるいはもうサンプリングはしない方向性になっていくじゃないですか。だから、わりとざっくりしたサンプリングを使えた最後の時代の作品かもしれない。
■あのざっくりしたサンプリングの良さってあるからね。
小山田:その良さはあるけれど、いまはもう作れない。お金持ってる人が超大ネタ使ってやるっていうのはあるけど。そのまんま使って、歌入れてラップ入れてヒットさせるとか......。でも、お金ない人がクリエイティヴなサンプリングを使って面白いことをやるっていうのはもう、90年代末からできなくなってしまいましたよね。その代わりにティンバランドみたいな面白い打ち込みで作る人が出てくるんですけど。
■たしかにそうだったね。
小山田:それと......『ファンタズマ』の頃はまだ商業スタジオで録音していたんですよ。『ポイント』からは自分のスタジオで録音しているんですけど。
■外のスタジオを借りて『ファンタズマ』を作っていたというのもすごいね。
小山田:スタジオ代って高いじゃないですか。だから、たぶん『ファンタズマ』は2~3ヶ月で作っているんですよね。『ポイント』はもっと長くスタジオに居られたんだけど......。あの当時はまだ若かったし、毎日のように朝まで徹夜してましたね。『ポイント』からはもう、徹夜できなくなりましたけどね(笑)。
文:野田 努(2010年11月22日)