Home > Interviews > interview with Cornelius - いかにして革命的ポップ・レコードは生まれたか
Cornelius / Fantasma [CD+DVD, Limited Edition, Original recording remastered] ワーナーミュージック・ジャパン |
そこにはあらゆるモノが放り込まれている。消費社会におけるハイ・カルチャーとロウブロウの境界線は溶解して、貧民街のヒップホップと煌びやかなデパートの玩具コーナーは結ばれる。ブラック・サバスはクラウトロックといっしょにリオデジャネイロのボサノヴァへと直行して、エイフェックス・ツインは空飛ぶ円盤に乗ってジーザス&メリーチェインに会いに行く。冗談音楽と立体音響、パンクとサンシャイン・ポップス......これらアルバムに詰め込まれたおびただしい情報量、そして得も知れぬセンチメンタリズム(僕にはそれが消費文化を強いられた世代のある種のシニシズム、80年代を席捲したブランド文化と対をなしていた当時のアンダーグラウンド文化から来ていると考えている。詳しくは『EYESCREAM』に書いた)......。
まあ、とにかく、『ファンタズマ』は、海外のメディアから見れば日本のロック文化に決定的なアイデンティティを与えた作品となったわけだが、まずそれ以前の問題として、この音楽は僕たちの最高のサウンドトラックだったのである。それから13年後の今日も、この革命的なポップ・レコードの魅力は少しも衰えていない。未聴の若い人はこの機会に聴いてみて。
■『ファンタズマ』を再発することになった経緯から教えてください。"2010"という曲が入っていたり、収録曲の"New Music Machine"のなかで「2010年になんか全部ぶっ壊れた」と歌っていたりすることと関係あるんですか?
小山田:まあ、それにかけてというのと、あとは、大人の事情ですね。
■大人の事情?
小山田:ポリスターという会社から出ていたんですけど、権利をワーナーに買ってもらって、それで出そうと。
■パーセンテージとしてはどのくらいなんですか? 大人の事情と......(笑)。
小山田:まあ、タイミングかなと。いろんな偶然が重なって。
■ちなみに、なかなか新作ができないから......というところはないんですか?
小山田:それもあるのかなぁ(笑)。
■そこはあまり突っ込まないでおきましょう。
小山田:いえいえ(笑)。
■いろんな事情があるにせよ、さっき言ったように"2010"という曲が入っていたり、歌詞に「2010年」が出てきているんだよね。当時はどういうニュアンスで使ってたんですか?
小山田:ちょっと遠い未来という感覚で使っていたと思うんですよね。13年後のことだから実際は近未来なんだけど、やっぱり当時はまだ20世紀だったし、現実的にいま2010年になって感じるよりもずっと遠い感じでいたから。
■1997年だもんね。
小山田:20世紀ですよ。
■2001年でさえも、まだ遠い未来に思っていたからね。
小山田:僕ら世代は2001年とか1999年という数字に関する刷り込みがあるじゃないですか。
■たしかに。でも、「2010年になんか全部ぶっ壊れた」というのはどういう感覚で言っていたの?
小山田:予想できないくらい先のこと......、そんな感じですかね。
■まりん(砂原良徳)がリマスタリングすることになった経緯は?
小山田:せっかく出すんだし、もうちょっと聴きやすいものしたかった。それで、誰に頼もうかと思ったときに......。まあ、このアルバムを作っている頃に家が近所で、よく行き来をしてたんですよね。それでお互い作っているモノを聴かせ合っていたんですよね。だから当時の雰囲気を共有できる人だし、あとは彼が個人的にリマスターをやっていたんですよ、趣味で。
■趣味でやってたんだ?
小山田:それがすごくて、自分の昔出ているCDとか、90年代頭のCDとか、音質が悪いじゃないですか。音が悪かったり、レヴェルが低かったり、90年代後半や2000年代初頭のCDはレヴェルを突っ込み過ぎているとか。時代によって音質の違いみたいなのがあって、それをたぶん、自分の聴きやすいカタチにリマスターして、で、盤を作って、それでちゃんとプリントもして、ジャケットもちゃんとスキャンして作って、しかもヴィニール袋に入れて、で、エサ箱みたいな箱があって、そこに入ってて(笑)。
■ハハハハ。
小山田:「クラフトワーク」っていう柵があって(笑)。
■ハハハハ! すごいね。
小山田:これはもう、売れるでしょう! というレヴェルまで完全に個人でやっていて、そういうのを聴かせてもらったりしていて。で、何枚かCDをもらったんですけどね。そのなかにフリッパーズ・ギターのサードがあって、それを聴いたら、たしかにすごく音が良くなっていたんですよ。
■なるほどね。
小山田:彼ほどの適任者はいないと思って。
■さすがと言うしかないね。
小山田:そうですね。
■さすがまりん。そういう意味では最高のマスタリング・エンジニアがいたということだよね。
小山田:彼の本職はマスタリング・エンジニアではないけどね。まあ、マスタリングに関しては、解釈だなと。いまはそれがソフトウェアによって個人でできるんで。彼の解釈をいちばん信用していたというか。
■マスタリングという作業自体はちょっと前までは作り手側のものだったけど、これだけ「リマスタリング」という言葉が流通して、あるいは、たとえば70年代のロックのレコードがUK盤とUS盤と日本盤とでは音が違うんだってこともわかってくると、マスタリング技術自体が表現に近づいている感じもあるもんね。
小山田:あと97年は、パソコンとかiPodで聴かれることを想定してなかったし、リスニング環境が変わってきているというのがありますよね。
■でも、イヤフォンを入れていたじゃないですか。
小山田:13年という年月を感じたのは、オリジナル盤のパッケージを空けたら、そのイヤフォンについていたスポンジが完全に劣化していたんですよね。
ボロボロになっていたという(笑)。
■そうそう、僕が持っているのもそうなっていた(笑)。あの劣化すごいよね。
小山田:ああいうのから年月を感じましたね。
■小山田君の持っているのもそうだったんだね。
小山田:すべてそうなっていると思いますよ。
■それ聞いて安心した。自分の保存状態が悪いからそうなったのかと思ってた(笑)。
小山田:だから今回、タワーレコードとHMVで予約してくれた人に、特典でそのスポンジを付けたんだよね(笑)。
■それはいいね。ところで当時、あのイヤフォンを付けたのは?
小山田:オマケというよりもメッセージ、イヤフォンやヘッドフォンで聴いてもらいたいという。
文:野田 努(2010年11月22日)