Home > Interviews > interview with Eskmo - 幻想をもてあそぶグリッチ・ホップ
![]() Eskmo / Eskmo Ninja Tune / ビート |
■日常生活ではよく音楽を聴く方ですか?
エスクモ:iPodのような携帯プレイヤーで聴くことはほとんどないかな。例えば、いまみたいに日本に来ているときは、見るもの聞くものに驚くことがたくさんあり過ぎるしね。家ではよく聴いているけどね。
■最近は何をよく聴いていますか?
エスクモ:ミュー(Mew)やビーチ・ハウスをよく聴いている。ビーチ・ハウスはとくにシンパシーを感じるな。ナイス・ナイスみたいなバンドも好きだよ。
■この度〈ニンジャ・チューン〉からアルバムをリリースする運びとなりましたが、その前に今年は〈ワープ〉からのスプリットと、〈プラネット・ミュー〉からシングルをリリースしていますよね。
エスクモ:とても光栄だし、本当にラッキーだと思っている。〈ワープ〉から一緒にスプリットをリリースしたエプロムとは本当に仲が良くて、よく一緒にサイクリングをしているよ。僕はバイクには疎いけど、彼は本当にクレイジーなぐらい詳しいんだ(笑)。サンフランシスコのシーンは、ロサンゼルスより規模が小さいから、大体みんな知り合いなんだ。よくみんなで一緒に遊びに行くしね。
■動画サイトであなたのライヴ映像を観たのですが、ラップトップを操作しながらマイクを握って歌っていたのには驚きました。今日のライヴでもあなたの歌は披露されるでしょうか?
エスクモ:もちろんだよ! 最近は自分の歌声以外にも、その場でフィールド・レコーディングしたものをサンプリングしてループさせて使っていたりもするから、その辺も楽しみにしていてもらいたいね。きっと面白いライヴを見せれると思うよ。
![]() photo : Masanori Naruse |
その後のライヴでは、宣言通り自らの歌声を披露したり、フィールド・レコーディングやサンプリング&ループを駆使して、トリッキーなパフォーマンスを見せてくれた。彼のような「フライング・ロータス以降」のサイケデリックと「ハドソン・モホーク以降」のウォンキーの両方の影響下にあるモダンなグリッチ・ホップはいま、冒頭でも書いたように、突然変異を見せながら世界中のあちこちで増殖しつつある。舞台はUSとUKのみならず、フィンランドやスウェーデンの北欧のシーン(何と言ってもスクウィーの本場)、オランダ、あるいはスペインの〈ローファイ・ファンク〉とも共振しながら突き進んでいる。
以下、この秋以降にリリースされた、シーンを象徴する5枚セレクトした。これらの作品をきっかけ深くディグして頂ければ本望です。
UKでウォンキーの総本山と言えば、このラスティやハドソン・モホークらが所属するグラスゴウのアート・コレクティヴ〈ラッキー・ミー〉(http://www.thisisluckyme.com )だろう。この集団は、彼らのような新進気鋭のトラックメイカーをはじめ、アメリカン・メンのようなポスト・ロック・バンドから、グラフィック・デザイナーやフォトグラファーなどファイン・アートのクリエイターまで、多数のアーティストよって構成されている。ラスティとハドソン・モホークのふたりがすでに〈ワープ〉からデビューを果たし、〈ラッキー・ミー〉としても今年の6月にバルセロナで開催された〈ソナー〉にてショウケースをおこなっている。 |
〈ラッキー・ミー〉から1枚ご紹介。彼らは地元グラスゴーのシーンのみならず、ブルックリンのマシンドラムのような、北米の稀代なトラックメイカーまでもフックアップしている。マシーンドラムことトラヴィス・スチュアートは、これまでにもマイアミのエレクトロニック・ミュージック・レーベル〈メルク〉よりアルバムを数枚リリースしている。ヴォーカルのカットアップによってメロディアスなビートを作り上げる独特の手法から、グリッチ・ホップ黎明期の裏の顔として、プレフューズ73らと並べて評価されている。 〈ラッキー・ミー〉からのリリースとなったこのEPでは、心機一転、シルキーで煌びやかなエレクトロ・ファンクから、下世話なベースラインが耳を惹くバウンシーなフィジェット・ハウス、つんのめるほどアッパーなゲットー・ベースまで、新たな挑戦が数多く見られる。このEPの直後には、ニューヨークの〈ノームレックス〉からアルバム『ウォント・トゥ 1 2?』がリリースされている。こちらはヴォーカルを多数フィーチュアしたメロディアスなトラックが多く締めている。 |
グリッチ・ホップのイノヴェイター、デイダラスと〈ブレインフィーダー〉のティーブスによるスプリット10インチ。アイルランドのアンダーグラウンド・ヒップホップ・レーベル〈オール・シティ〉(オンラーのアルバム『ロング・ディスタンス』が最高)によるこのスプリット・シリーズでは、これまでにもデイム・ファンクやトキモンスタ、P.U.D.G.E.らが未発表の新曲を提供している。タイトルの通り〈ロウ・エンド・セオリー〉周辺の「いま」を切り取った最新のレポートとなっている。どちらもウエスト・コースト特有の煙っぽいサイケデリアが特徴的だが、よりアトモスフェリックでティーブスなそれは、まるで地下室の煙が天高く浄化されていくかのように、眩しいほどに乱反射を見せている。 |
ここ数年の〈ストーンズ・スロウ〉は、デイム・ファンクやメイヤ・ホーソンなど、70~80'sのスモーキーなソウル/ファンクをモダンに刷新するホットな新人たちを立て続けに送り続けてきたが、このエレクトロ・ブギーの王子ジェイムス・パンツもそのうちのひとり。このEPでは、エキゾチックな音色のホーンやマーチング・ドラムをサンプリングしたり、ガムランのビートを取り入れることで、無国籍ビートを生み出すことに成功している。他にもフットワークのような細かいハイハットのフレーズがあったり、キャスパやラスコなど〈サブ・ソルジャーズ〉周辺のトラックメイカーが得意とする、ウォブリーなベースラインが強烈なロッキン・バーストな曲があるが、彼はDJも相当狂っているようで、この支離滅裂なビートこそ持ち味と言える。 |
ブライトンの新興レーベル〈ドンキー・ピッチ〉によるスプリットEP。スラッガベッドはすでに今年の春に〈プラネット・ミュー〉からデビューを果たしている。そのロウビットの電子音でカラフルに彩られたコミカルなエレクトロ・ファンクは、〈ランプ〉周辺のロウビットなダブステップ/スクウィー好きのビート・ジャンキーを中心に評価が高かった。ゴースト・マットはこのEPで初めて知った存在だが、まるでメロウな歌モノR&Bをアイコニカがリエディットしたかのような、セクシャルでメロディアスな輝きがある。 |
文:加藤綾一(2010年12月15日)