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僕は曲を書くときはヒットソングを生み出すっていうより、その瞬間を音で生み出しているって思っている。
SBTRKT Wonder Where We Land Young Turks / ホステス |
■今回のアルバム『ワンダー・ウェアー・ウィ・ランド』を最初に聴いたときに、前作よりも生楽器の音が多く使われている印象を受けました。これらはご自身で演奏しているのですか?
S:今回のアルバムはたしかにあまりプログラミングの音っていうのはない作品になっているね。ドラムも生だし、いろんなサウンド・エフェクトもスタジオにある楽器から録った音が多い。その瞬間に誕生した、よりオーガニックな楽曲を作りたかったんだよね。べつにもともとめちゃくちゃアナログな作品を作ろうって決め込んでいたわけではない。プログラミングのサウンドがあったからこそ、いまの自分があるからね。でもやっぱりシンセとかで音を出す方が、コンピューターで音をプログラミングするよりもロマンを感じたんだ。だから以前の作品よりもサウンドとかテクスチャーがちがっている。
■前作にくらべてR&B色が強くなったのはなぜですか?
S:とくに意識はしてなかったなぁ。ただ、一つ意識的にやったのは、ハウスっぽい要素にならないようにはしたかなぁ。前作と比べたらテンポ感も変わったから、そこもそう感じる一つの要素かもしれないね。
■“ヴォイセズ・イン・マイ・ヘッド”はウォーペイントの演奏に合わせてエイサップ・ファーグがラップをするというユニークな構成でした。まるで自分自身のバンドを結成したようですね。今回、コラボレーションにもとても力を入れていますがなぜでしょうか?
S:そうだね。ここがいちばん難しい部分でもあるんだ。自分に合うコラボレーターを見つけるのは、そもそもそんなにも簡単なことではないからね。自分のヴィジョンを満たしてくれる人ってそんなにもすぐに見つかるものではないから。もちろん素晴らしいアーティストは溢れているし、光栄なことにいっしょにやりたいって言って来てくれる人もたくさんいるんだけど、自分のコンセプトに完全にマッチする人を見つけるとなると本当に難しい。“ワイルドファイヤー”が人気になった途端、有名無名に関わらず、50くらいのアーティストにコラボレーションを持ちかけられたんだよね。でも僕のスタンスとしては、オファーのあったヴォーカリストに合った曲を書くっていうスタンスではない。ローリーなんてアルバムができる数ヶ月前にようやく出会った逸材だし、タイミングもすごく重要だなぁって思う。自分を追い込んでプレッシャーを与えてしまうと、ぜんぜんいいものにならないしね。
だから、メジャー・レーベルのように期限が設けられて、決められた法則でヒットソングを書いて歌詞の方向性も決められて……っていうやり方は絶対に自分にはできない。僕は曲を書くときはヒットソングを生み出すっていうより、その瞬間を音で生み出しているって思っている。前作も今作も含め、自分のコラボレーションにはすごく満足が行っているし、いいコラボレーションができているって思っているよ。
■今作にもサンファが参加しライヴもいっしょにやっています。“イフ・イット・ハップンズ”はピアノと彼の歌のみの構成で、サンファの歌唱力に対する信頼感が感じられます。現在の彼をどう評価しますか?
S:サンファは音楽をいっしょに作っててすごく楽しい相手だよ! じつは今回、彼は演奏をまったくしなかったんだよね。ピアノも全部僕なんだ。でも彼とは本当に息が合っているから、僕が何か音を出せば彼がそれに歌を合わせるという作業が普通にできるんだよね。その逆もあったりするよ。彼にメロディ・アイディアが浮かんだら、僕もそのキーにあった演奏を考えてみたり。そういう自由度のある作業がいっしょにできる関係ってすごく貴重だと思ってるよ。何かのフォーマットや手法に沿ってやるわけではなく、セッションから音楽が作り上げられることに幸せを感じるんだ。
■“デイ1”や“デイ5”といった曲名やデザインに使われている世界地図から、テーマに「移動」や「旅」を感じました。そういったコンセプトが今作にはあるのでしょうか?
S:そうだね。少しあったかな。今回、僕にとって大切だったのが、自由に音楽が作れるフォーマットを作ることだった。ツアーとかでいろんな場所に回って世界を見る「旅」という意味ではなくて、いろんな国に自分がコラボレーションしたいアーティストがいたり、レコーディングしてみたいスタジオがあったり……、そういう意味での「旅」なんだ。それと、アルバムを作りはじめた島の影響は大きかったと思う。いつも生活している土地とはちがう不思議な環境に行くことで、なんか「場所」っていう感覚に特別な気持ちが芽生えた感じがした。
■ジャケットの動物があなたのマスクを被っている理由はなんですか?
S:そもそもSBTRKTのマスクの意味は、自分(人物)と音楽(音)をかけ離して考えたかったからなんだ。音楽っていうのを自分の日常生活と離して見てほしかった。でも今作は前作と比べたらもう少し日常的になってる気もするかなぁ。今回の動物は、メキシコの神秘的な動物の木造を見て、それに影響を受けて動物を使いたくなったんだ。その神秘にすごく魅了されたんだよね。そのメキシコの動物の木造たちは謎がいっぱいで、とても神秘的な感じで、そこに自分とのシナジーを感じたんだよね。そのアイコンに自分のアイデンティティを残したかったから、マスクを被せた。
■ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・コーエンが参加した“ニュー・ドロップ. ニューヨーク”は彼らしいユーモアがタイトルや歌にも表れた曲ですね。彼にはどういうリクエストをしたのでしょうか?
S:いっしょにスタジオに入ったのは一日だけだったんだけど、その中でいっしょにセッションを行った。そのときにエズラが昔ラップを書いてみたことがあるっていう話をしてくれて、その時にニューヨークがテーマになった歌詞のアイディアが思いついたみたいで、そのアイディアをシェアしてくれたんだ。それを元に僕も音楽のアイディアを出して、彼もメロディのアイディアを出して、すごく自然なプロセスを進めていたらああいう曲になったんだよね。
■今後、マスクを外すことはありますか?
S:外す必要性はないかな。だけどアートワークとかも含めて、アーティストとしての演出って音楽で変わるものだよね。そのときどきの音楽によってそういう部分も変化していくものだとも思っているよ。
取材:髙橋勇人(2014年9月24日)
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