Home > Interviews > interview with Sorry - UKインディ・バンドによる、実験と発明が詰まったポップ・アルバム
向かって左から二番目が今回質問に答えてくれたルイス・オブライエン。中央がヴォーカルのアーシャ・ローレンツ。
イラストはアーシャが描いているんだけど、僕たちはそれを「曲のロゴ」と呼んでいて。曲それぞれにキャラクターというかロゴがあるようにしているんだ。
■この2ndアルバムには収録されていませんが、タイトルとして名前が残った “Anywhere But Here” という曲があって、その曲がアルバムの出発点になったとお聞きしました。その曲はどのような曲なのでしょうか? 今後リリースされることはありますか?
LO:どこから聞いたんだい!?
■アーシャが話してくれたんですよ。
LO:そうだったんだ(笑)。けどこれはまだ秘密にしておきたいから、どこまで話せるのかわからないな。でもアーシャが話していたなら、まぁいいか。うん “Anywhere But Here” という曲を書いたんだけど、それがアルバムの焦点となったんだ。それでアルバムをレコーディングしているときに、アルバム名を『Anywhere But Here』にしようと決めたんだ。最終的にこの曲はアルバムにフィットしなかったから収録しなかったんだけど。でも名前だけは残ったんだ。他のアルバム名も考えたけどしっくりこなかったからこの名前のままにした。今後この曲をリリースしたいとは思っているけど、「アルバムのリード・トラック(タイトル・トラック)がアルバムに収録されていない」というのが結構気に入っているんだ。面白いんじゃないかって思って(笑)。
■1st アルバムにしてもミックステープにしてもソーリーは作品全体に一貫した雰囲気を持たせるということにこだわっているように思います。それは今回も同様だと感じたのですが音作りに関して、あるいは曲順など 2nd アルバムの制作で意識した点を教えてください。
LO:いままでは自然にそうなっていたんだと思う。でもさっき言ったみたいに今回のアルバムに関しては、ひとつの完全なものとして作り上げたかったんだ。アルバムの曲をレコーディングするとき、僕たちはバンドとして一緒にレコーディングしたんだ。曲の大部分を2週間という期間でレコーディングしたことで、すべての曲が同じソースからきているようなサウンドにすることができたんだと思う。エイドリアンとアリも、サウンドに一貫性を持たせるようにしてくれた。アルバムのソングライティングが完成した時点で一貫した雰囲気が感じられるっていうのは僕たちにとって大切なことなんだ。今作の全体的なサウンドについては、意識した部分もあるけれど、ギターの音だったり、僕たちのソングライティングのやり方もあって自然にそうなっているところもある。あまり考え過ぎると本質が失われてしまうと思うんだ。
■前作、『925』もそうでしたがソーリーはアルバムそれぞれの曲についてモチーフ的なイラストをつけていますよね? “Key To The City” の鹿だったり、“Willow Tree” の切られた木に寄りかかる人だったり、それがとても魅力的で。これは音楽だけではなく、ビデオやアートワークを含めヴィジュアルを通した表現としてアルバムをとらえているからなのでしょうか?
LO:アートが音楽と絡んでいるというのが好きなんだと思う。イラストはアーシャが描いているんだけど、僕たちはそれを「曲のロゴ」と呼んでいて。曲それぞれにキャラクターというかロゴがあるようにしているんだ。子どもの絵本とか、いろんなキャラクターがいるアニメみたいだろ? 曲を展開させるひとつの方法というのかな。こういうものがあると曲に独自の世界観を持たせることができると思うんだ。
僕たちは何らかの忘備録的存在になるということが好きなんだと思う。それがインターネット上の YouTube にミックステープをアップすることであれ、ヴァイナルをリリースすることであれ、僕たちの作ったモノが世に出ているということだから。
■アルバムのリリースの前に7インチを2枚リリースしましたよね? サブスク全盛時代のいまはアルバムの前にこの様な形でフィジカルのシングルをリリースするバンドも少なくなってきたように思うのですが、リリースのスタイルにこだわっているところはあるのでしょうか?
LO:僕たちは何らかの忘備録的存在になるということが好きなんだと思う。それがインターネット上の YouTube にミックステープをアップすることであれ、ヴァイナルをリリースすることであれ、僕たちの作ったモノが世に出ているということだから。みんなが集めることのできるいろいろなモノのなかに僕たちが作ったモノが加わった感じ。ヴァイナルについてはスタンプを集めるスタンプ帳みたいな感じがあるしね。イギリスでは子どもの頃みんなが夢中になるサッカー選手のカードを集めるゲームがあるんだ。カードを集めてカード帳に入れていく。いちばんの困難は母親にカードを買ってもらうことだったけどね(笑)。カード帳が1ページ埋まったときはすごく嬉しかったよ。ヴァイナルもそれに似たようなものだと思っていて、ヴァイナルを全部集めることができたら見栄え的にもクールだと思うんだよね。それに僕たちはアートワークを重要視しているから、ヴァイナルやヴィジュアル・ミックステープをコレクトするということは、僕たちの芸術性とマッチしていると思うんだ。だからいろいろなモノをリリースするということに関しては今後もどんどんやっていきたいって思ってる。
■フィジカルを手に入れなければ見られないイラストに YouTube で公開されるビデオと、このような部分はクラシックなサウンドにモダンなプロダクションを目指した 2nd アルバムのコンセプトと共通しているような感じがします。
LO:そうかもしれないね。曲のロゴを YouTube のビデオや他の箇所に登場させたら、面白いと思ったんだ。聞く側にとってはある種のゲームみたいな感じで「あ、曲のロゴ見つけた!」って思ってもらえたら楽しいと思って。
■アーシャもコンピレーション・アルバムに参加していましたが、メンバーのキャンベル・バウムが立ち上げた〈Broadside Hacks〉というトラディショナル・フォークのプロジェクトがありますよね? あるいはマルコの〈Slow Dance〉があったりと、ロンドンにはこうしたインディ・コミュニティが根付いているように思いますが、その点についてどのように感じていますか? クリエイティヴな活動が分野を超えて重なりあっているという点で特に〈Slow Dance〉とソーリーは近い部分があるのではないかと感じているのですが。
LO:(ロンドンのインディ・コミュニティは)とてもクリエイティヴなところだと思うよ。一緒に育った仲間の多くがクリエイティヴな活動をする人だったり、あるいはクリエイティヴな人だったっていうのはラッキーだったと思う。それが環境によるものなのかはわからないけれど、クールで面白いことをやっている人たちが周りにいるっていうのは恵まれていることだと思うんだ。僕たちは彼らからつねに刺激を受けているから。それは僕たちのためにもなっているし、僕たちも彼らにも刺激を与えているはずだって思っているし、互いに刺激しあっているんだと思う。ロンドンのような大都市で青春時代を過ごすのはキツいこともあるから、似たような考えや価値観を持つ人たちを求めるようになるんだと思うんだ。だからいまでは周りに才能を持つ仲間がたくさんいるということはとても恵まれていることだと感じているよ。
■ルイスにしてもアーシャにしてもソーリーとは別に現在も SoundCloud に個人名義の曲をアップし続けていますよね? ふたりにとって SoundCloud というのはどのような意味を持つプラットホームなのでしょうか?
LO:SoundCloud は僕たちにとってとても重要なプラットホームだよ。SoundCloud をはじめたとき、僕はギターを弾いていたんだけど、ギターに飽きていたというか、ギターに限界を感じはじめていた。その頃から僕とアーシャは、個別にだけど、パソコンを使って音楽を作るようになった。FL Studio というプログラムを僕がダウンロードしたんだ。FL Studio は音楽制作のプログラムだったんだけどビデオゲームみたいな感覚でやっていて。14歳くらいのときだったかな。凄く楽しくてふたりでいろんな音楽を作って SoundCloud にアップして、どっちが友だちからの「いいね!」をたくさん得られるか競い合っていた(笑)。それがはじまりだったね。さっきの話と同じで、インターネット上の隅っこに僕たちのスペース(=音楽)が存在している感じで、みんながそれを見つけることができるみたいなイメージだよ。アレックス・Gもそれと同じ感じで作品を公開している人で、YouTube をチェックすれば YouTube の「アルゴリズム・ホール」(*ブラック・ホールにかけている表現)に入り込んで、アレックス・Gの音楽を無限に発見することができる。ファンである僕にとっては、アレックスの奇妙で面白い世界に足を踏み入れる楽しさがあるし、SoundCloud もそれに似たような架空の世界を拡張できるもののように捉えているんだ。
■SoundCloud にアップされているルイスの曲は悲しげなメロディの曲が多く、しみじみと感じ入るようなその感覚が好きなのですが、ルイス個人としてはどのような音楽に影響を受けてきたのでしょうか? あるいはインスピレーションを受けた映像作品やカルチャーなどがありましたら教えてください。
LO:最近はレナード・コーエンをよく聴いているよ。ニーナ・シモンも大好き。あとはエリオット・スミスやソングス・オハイアなど。好きな映画もたくさんあるよ。かなり変わってるかもしれないけど、『地獄の黙示録(Apocalypse Now)』がすごく好きなんだ。僕はどういうわけか昔の映画が好きでね、強いカタルシスを感じるんだ。特にベトナム戦争を題材にした映画はすごく強烈だし、皮肉だけどクールだと思ってしまう。
■今後も以前リリースしたミックステープのような形で曲をリリースすることはありますか?
LO:じつは秘密のミックステープというものがあるんだよ。でも詳しくは教えられない。聞きたい人はそれをどうにかして見つけないといけないんだ。面白いだろう? 今後もミックステープはリリースすると思うけど、前回のは僕たちが昔に作った曲があってそれらをリリースしたかっただけのことなんだ。ヒップホップのミックステープという感じではなくて。昔はよく自分の好きな曲を何曲も入れたCDを作って友だちや好きな人にあげたりしていたよね? 僕たちのはそういう感じのミックステープに近いんだ。好きな曲を集めて好きな人たちにあげる。そういう形のミックステープは今後ももちろん作っていきたいよ!
■1st アルバムのリリース時はパンデミックでUSツアーが途中で中止になるなど満足にライヴができなかった状況でしたが、最近のライヴ活動はどのような感じでしょうか? 2nd アルバムの曲はもうライヴで演奏していますか?
LO:今年の夏は少し休みを取っていたからあまりライヴをやっていなかったけど、3月と4月にUSとUKをツアーしたんだ。2nd アルバムからの新曲もたくさん演奏して楽しかったんだけど、まだライヴで披露していない曲がたくさんあるから、今後アルバムの曲を多くの人に演奏して世に広めていくのが楽しみだよ。
■ありがとうございます。いつか日本でライヴが見られることを願っています。
LO:こちらこそありがとう! 僕たちも日本でライヴができる日を楽しみにしてるよ!
質問・序文:Casanova S.(2022年10月11日)
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