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AU-1023-1
VAMPI 276LP
2020年の『Black Nationalist Sonic Weaponry』で鮮烈なインパクトを与えたUSのプロデューサー、スピーカー・ミュージックことディフォレスト・ブラウン・ジュニア。その新作情報がアナウンスされている。「テクノを黒人に取り戻せ(Make Techno Black Again)」を掲げて活動している彼はライターでもあり、昨年初の著作『Assembling A Black Counter Culture』を刊行しているが、『Techxodus』と題されたスピーカー・ミュージック名義の新作はその本のエピローグであり、ドレクシア神話の延長でもあるという。アートワークを手がけるのはなんとアブカディム・ハック。ダブもフリー・ジャズも呑みこんだ新曲 “Jes Grew”(イシュメール・リードの代表作『マンボ・ジャンボ』に登場する「オーディオ・ウイルス」の名)が現在公開中だ。アルバム『Techxodus』はおなじみの〈Planet Mu〉から、9月8日にリリース。
PLP-7971
4月の来日公演からそろそろ3か月が経とうとしている。楽しいはずなのにそれだけではない、あのえもいわれぬフィーリングの正体はなんだったのだろう。徐々に記憶が薄れていくなか、彼ら初のライヴ盤『Live at Bush Hall』を何度も聴き返しながら、あの日の感慨の答えを探りつづけている。冒頭 “Up Song” で友だち同士であることを強調するバンド BCNR が、主要メンバーの脱退を経て送り出した音楽は、いったいなにを暗示していたのか──
昨年12月のパフォーマンスを収録したこのライヴ盤が現時点での彼らの完成型であることは、O-EAST でのアレンジやセットリストが本作とおおむねおなじだったことからもうかがえる(当日初公開された新曲を除く)。すでに持っている手札を放棄し、新たにライヴで練り上げていった楽曲を収める『Live at Bush Hall』は、けして穏やかではなかっただろうここ1年の彼らの、試行錯誤の結晶だ。
解散せずおなじグループ名を引き継いだのだから、当然これまでの BCNR を特徴づけていた要素もある程度は継承されている。通常の4ピース・バンドにはない多彩さをもたらすジョージア・エラリーのヴァイオリンに、ルイス・エヴァンズのフルート&サックス。“Turbines/Pigs” や “Dancers” の終盤で聴かれるミニマル風の短い反復。あるいは “Laughing Song” で顔をのぞかせるディストーション、もしくは静と動の対比。
全体としてはしかし、だいぶ作風が変わった。全曲ヴォーカル入りなのが大きい。“The Boy” や “I Won't Always Love You” のように、ほとんどの曲が親しみやすい主旋律を搭載しているのはかつてない変化だ。どこか不穏でダークな気配が漂っていた1枚目とも、彼らなりにクラシック音楽を消化した2枚目ともまるで異なる世界がここに展開されている。端的にいえば、かなりキャッチーになった。
もっとも多くマイクを握るのはタイラー・ハイド(ベース)。彼女がシンガーとしての技術をしっかり身につけていたことに驚く。その声の震わせ方に脱退したアイザック・ウッドの影をみとめてしまうのはさすがにうがちすぎかもしれないが、来日公演時みごと日本語でMCをこなしてみせたメイ・カーショウ(キーボード)も、男性で唯一ヴォーカルを務めるエヴァンズもやむをえず歌っている感は皆無で、あらためてメンバーたちの底知れぬマルチっぷりを確認させられる。BCNR はひとりひとりがフロントマンたりえる技術や才能を持った集団なのだ。
重要なのは、歌ごころ満載なはずの本作が、逆説的に、ヴォーカリストの地位を下げているところだろう。歌い手が男女3人に分散されたことは、バンドの声をひとりの人格に代表させないというアティテュードのあらわれにほかならない(O-EAST ではさらにエラリーがヴォーカルを務める新曲も披露されている)。かねてより彼らはだれかひとりのバンドではないことを主張してきたが、にもかかわらずウッドの脱退がニュースとして価値を持ったのは、歌詞を書きメインで歌う彼が中心として機能する(もしくはそう見える)側面が少なからずバンドに具わっていたからだ(でなければ大して話題になるはずがない)。今回のライヴ盤で BCNR は、ほんとうの意味で中心を持たないバンドになったのだと思う。同時期に浮上してきたスクイッドにもブラック・ミディにもない BCNR の魅力のひとつは、(ホモソーシャルではないという点もさることながら)このフロントマンの欠如にある。かつてイーノはオーケストラのピラミッド構造に社会の縮図を見出していたけれど(紙エレ19号)、それにならえば全員が同列で対等の BCNR はまさに民主主義の実践者だ。
最良の瞬間は冒頭 “Up Song” に含まれている。「BCNR は永遠の友だち」という彼らの本質を要約する声明が叫ばれた直後──。静かに、ドシラソとシラソミが異なる楽器で反復されていく。カーショウのキーボード、マークのギター、エヴァンズのサックスはおなじ8分音符を奏でているにもかかわらず、絶妙にズレつづけ、けっしてぴったり重なることはない。「私はバラバラになり/半分になってしまった」と、ハイドがことばを添える。すれ違い、断片化が表現された途端、しかし今度はキーボード、ギター、サックスがおなじ河口に流れこみ、みごとユニゾンを成立させるのだ。「断片化されていること」と「一緒であること」がともに、友情を宣言するこの1曲で表現されている。
多様性の時代、ぼくたちは互いに異なっていることを美化し、称揚する。分断の時代、ぼくたちは信じるにたる共通の物語が欠けていることを強調し、悲歎にくれる。それ自体は必要なプロセスなのかもしれない。でもさらに一歩進んで、「あのひとも “おなじ” なんじゃないか」と想像してみること。
BCNR はとくに社会的なメッセージを発するバンドというわけではないけれど、自分たちのことを描いたとも解釈できるメタ的なこの曲で、時代の大いなる転換期を生きるぼくたちに小さくはない示唆を与えてくれている。互いにばらばらであると同時におなじ人間でもあること。それが彼らのいう「友だち」なのかもしれない。
アルバムごとにそのサウンドの表情を変え、より表現力を豊かに、そして幅を広げてきているアンソニー・ネイプルスですが、新作『Orbs』では、前作『Chameleon』(2021年)の方向性も踏襲しつつ、アンビエント・テクノ〜ダウンテンポの傑作アルバムを仕上げてきました。
2010年代の幕開けとともにニューヨークのアンダーグラウンドではじまった彼のキャリアと言えば、そのDJプレイも含めてローファイなハウス・サウンドの要といった印象で、〈Mister Saturday Night〉〈The Trilogy Tapes〉、もしくは自身の〈Proibito〉でのそうしたハウス路線のシングル群で注目を集め、2018年にはフォー・テットの主宰レーベル〈TEXT〉からファースト・アルバム『Body Pill』をリリースし、その評価を確かなものにしたというのが初期のイメージです。
本作へと通じる転機と言えそうなのが、その後にフランスの〈Good Mornign Tapes〉と自身の〈ANS〉からリリースしたアルバム『Take Me With You』(2018年)。すでに『Body Pill』でも片鱗を見せていたアンビエント・テクノ〜ダウンテンポ方面へのアプローチをさらに深めたアルバム・サイズの作品で、それ以前のシングルとはまた違った側面をみせはじめました。続く2019年のアルバム『Fog FM』も、いやこれも傑作でありまして、初期のハウス路線とその後のリスニング路線のバランスの良い配合のアルバムで、「ダンスもの」のアルバムとして非常にクオリティの高い作品を出してきたなという印象でした。このあたりでサウンド的にも初期のローファイな音質から、クリアでカラフルなサウンド・イメージへの変化も感じるられるものでした。
そしてコロナ禍を挟んでリリースした2021年の『Chameleon』。多くのDJ出身のクリエイターたちがロックダウンな凡庸なアンビエントに埋没してしまった印象にあったあの時期に、キャリアのなかでも初めてとなるドラムやギター、生楽器のサウンドを取り入れたある種のポスト・ロック的な手法でダウンテンポ・アルバムを作り上げ、その色鮮やかな色彩のサウンドも相まってシーンに鮮烈な印象を与えました。同時期には「Club Pez」、2022年にはドイツの老舗重要ハウス・レーベル〈Running Back〉からもシングル「Swerve」をリリースし、こちらでは相変わらず高品質のハウス・トラックもリリースしています。
こうした自身の活動とも併走しながら、〈Proibito〉を閉じた後に写真家でDJでもあるジェニー・スラッタリーと共同で設立した〈Incienso〉の運営においても、たびたびこの欄で作品を紹介していますが、ゴリゴリのクラブ・トラックから、DJパイソンを世に送り出したり、朋友フエアコ・Sのアルバムなどリスニングに主眼を置いた作品まで幅広くリリース、シーンの枠を広げるような多彩かつエポック・メイキングな作品をリリースし続けています。
で、前段が長くなりましたがこうした動きを俯瞰し、これを補助線とすると、全く納得の音楽性を獲得したとも言えるのが本作ではないでしょうか。ボーズ・オブ・カナダを彷彿とさせるチルアウトなブレイクビーツ・ダウンテンポ “Moto Verse” でスタートするわけですが、こうしたダウンテンポ感覚や、例えば “Orb Two” “Gem” “Tito” などでつま弾かれるギターとエレクトロニクスの融合を果たしたサウンドは前作『Chameleon』での成果を感じさせる音楽性です。ただし、クリアな解像度の『Chameleon』に比べて、全体的な音質はわりと今回はローファイですね。そしてわりとフィーリング的に、「ニューエイジ〜バリアリック過ぎない」というのも本作の絶妙なムードを決定している要素で、そのあたりはグローバル・コミュニケーションなど1994年あたりのアンビエント・テクノを参照したようなメランコリックなムードを携えた『Take Me With You』を踏襲する感覚ではないでしょうか。
またアルバムの中盤を締めるマイルドでスローなイーヴン・キック・トラック “Ackee”、“Scars”、そしてアルバムのハイライトとも言える “Strobe” あたりは、絶妙なダブ・ミックス具合も含めて、初期のローファイなハウス感を思い出したかのようなトラックでもあります。アルバム全体に対して、ここにはめ込まれた抑制されたハウス・グルーヴの見事な流れにとにかくハッとさせられるわけです。このセンスの良さ。これまでの作品、そして〈Incienso〉の作品群にも言えることですが、ある種のリスニング向けの作品で実験性の獲得や音楽性の拡張をしながらも、どこかダンス・ミュージック的な快楽性があるというのは彼の重要な立ち位置ではないでしょうか。こうした流れにDJ的な感覚が働いているのはもちろん間違いないでしょう。穏やかなサウンドながら昨年のフエアコ・S『Plonk』と同様に、リスニング・テクノを新たな地平線へと押し出すそんな確かな力強い意志を、その高いクオリティから感じさせる作品です。
去る6月20日、突如オウテカによる最新ミックス音源が公開されている。彼らのルーツであるエレクトロやヒップホップからノイズ、アンビエントまでを横断する2時間強のこの旅は、フランスはレンヌのネット・レーベル、〈Neuvoids〉(neuvoids.bandcamp.com)のためにショーン・ブースがこしらえたものだそうだ。仙台の a0n0、ヒューマノイド、ピンチ、ESG、DJスティングレイ、オト・ヒアックス、〈CPU〉からも出している Cygnus、KMRU、故ピタ、盟友ラッセル・ハズウェル、BJ・ニルセンといったアンダーグラウンドな面々に交じって、ラッパーのウィリー・ザ・キッドや大御所ボブ・ジェイムズ、まさかのストラングラーズまでがプレイされている。下記サウンドクラウドから聴けます。
