「The Men」と一致するもの

変遷する阿部薫のサウンド像について - ele-king

 3月3日にLOFT 9 Shibuyaで伊基公袁(イギー・コーエン)監督のドキュメンタリー映画『阿部薫がいた documentary of Kaoru Abe』がプレミア上映された。30分に満たない短編映画であり、阿部薫本人の映像は登場しないものの、さまざまな立場の人物による証言から稀代のサックス奏者を新鮮な視点で照らし出す、きわめて現代的な作品に仕上がっていた。


阿部薫の実家には遺影が飾られている。
映画『阿部薫がいた documentary of Kaoru Abe』より。

 映画は軋るようなサックス・サウンドを彷彿させる走行音が鳴り響くなか、列車に揺られて阿部薫の墓所へと向かうシーンから幕を開ける。カメラはその後、神奈川県川崎市にある実家を訪ね、住宅の一室で実の母・坂本喜久代が息子との思い出を振り返るシーンを映し出していく。いまやオリジナル盤が70万円もの高額で売買されているというレコード『解体的交感』の元になった同名コンサートに親戚一同で足を運んだ話。あるいはライヴのフライヤーやチケットなどが几帳面にファイリングされている様子など、ここで浮かび上がってくるのはことあるごとに神聖視されてきた伝説のミュージシャンではなく、ごく普通に親の愛情を受けて育った一人の人間の姿だ。一方、映画の節々には2015年に新宿ピットインで開催された阿部薫トリビュート・イベントの記録映像が挿入されており、大谷能生、大友良英、纐纈雅代、竹田賢一、吉田隆一らさまざまな世代の5名のミュージシャンによるトークとライヴがモノクロームの映像でテンポよく流される。阿部薫とは同時代を生きた存在であり、あるいは多大なる影響をもたらした先達であり、あるいは音楽的な分析対象でもあるといったふうに、それぞれの立場によって異なる人物像が形成されていく。映画の終盤では阿部薫のサックスの音源が繰り返しループされたあと、サンプリング・コラージュの様相を呈しつつ、突如として小さな子供が玩具のサックスを吹きながら遊ぶシーンへと移り変わって幕を閉じる。映画内で吉田隆一は阿部薫について「自分のやりたいことに特化して、そのための技術を身につけた人」と評していたが、ジャズをはじめとした既存の音楽語法を習得することだけが「技術」ではないことを考えれば、たしかに阿部薫は、彼にしか出すことができない音のために完璧な表現手段を身につけた、きわめて技巧的なミュージシャンだったと言える。だが同時にそのサウンドは、あたかも列車が軋む走行音=環境音や、子供が無邪気に遊びながら玩具のサックスを吹く音と、ほとんど等しい美しさを湛えているようにも聴こえはしないだろうか。あるがままの響きと原初的な音の歓びが、研ぎ澄まされた技術の果てにある極北のサウンドと重なり合うこと。


千歳飴を手に持つ幼少期の阿部薫のポートレート。
映画『阿部薫がいた documentary of Kaoru Abe』より。

 LOFT 9 Shibuyaでは、上映前に竹田賢一と吉田隆一が短いトークをおこない、上映終了後にはライターの大坪ケムタを司会に吉田隆一、柳樂光隆、沼田順、伊基公袁らによるトーク・セッションがおこなわれた。興味深いのは、阿部薫の音楽がマーク・ターナーやジョシュア・レッドマンら現代ジャズのサックス奏者によるミニマルで抑制された音色と比べられるかと思えば、ジャンルとしてのノイズ・ミュージックを聴く耳で体験する快楽が引き合いに出され、あるいはクラシック音楽のサックス奏者であるマルセル・ミュールとの類似が指摘されるなど、ジャンルを異にするさまざまなミュージシャンが議論の俎上に載せられたことだった。1970年代に活躍した阿部薫は、いまや日本のフリー・ジャズのコンテクストのみならず、多種多様な音楽を横に並べて聴きどころを探ることができるのだ。とりわけ昨年は、論集『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』が文遊社から刊行されたほか、未発表音源『STATION '70』、『LIVE AT JAZZBED』、『19770916@AYLER. SAPPORO』が立て続けにリリースされるなど、阿部薫はここにきてあらためて注目を集めることになったミュージシャンの一人でもある。パンデミックによって音楽状況が激変したニーゼロ年代に、彼の音は、あるいはその生き方は、どのように捉え直すことができるのだろうか。そのことを考えるためにも、このタイミングで彼の音楽を振り返っておくことは有意義だろう。以下のテキストは、阿部薫が音楽活動を始めてから没後半世紀が経過した現在に至るまでにリリースされてきたほぼすべてのアルバムを、発表された順に辿り直すことによって、時代ごとにどのようなサウンド像が形成されてきたのかを素描する試みである。あくまでも素描であり、証言や資料を交えたより一層精緻な検証と考察が必要であることは論を俟たないが、少なくとも、時代ごとに異なるコンテクストで魅力を放ってきたその音/音楽に潜在する可能性は、いまだ汲み尽くされることなく未来へと開かれていると言うことはできるだろう。

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前提──録音物によって再構成されるミュージシャンの軌跡

 1949年5月3日、神奈川県川崎市出身。本名・坂本薫。68年に地元のジャズ・スポット「オレオ」でデビュー。アルト・サックス奏者として形式をもたない自由即興演奏に取り組み、都内のライヴ会場を拠点に全国各地への楽旅も敢行。73年には作家の鈴木いづみと出会い、結婚。74年冬ごろから翌75年夏にかけて一時的に表舞台から姿を消し、その前後で演奏内容も大きく変化している。70年代前半はスピード感あふれるパッセージと矢継ぎ早に繰り出される洪水のような音の奔流を得意としていたものの、音楽活動を再開してからは沈黙と間の比重が増し表現的かつ即物的な音の実験へと向かうようになる。サックスやバス・クラリネット、ハーモニカといった吹奏楽器のほか、とりわけ晩年はピアノ、ドラムス、ギター、シンセサイザーなど多種多様な楽器を積極的に使用。また生涯を通じて既存の楽曲の旋律を即興演奏のなかで繰り返し取り上げ、そのバリエーションは歌謡曲 “アカシアの雨がやむとき” や童謡 “花嫁人形” からボブ・ディランの名曲 “風に吹かれて”、さらに “チム・チム・チェリー” “恋人よ我に帰れ” “暗い日曜日” “レフト・アローン” “ロンリー・ウーマン” といったジャズ・スタンダードとしても知られる作品まで多岐にわたる。1978年9月9日、前日に睡眠薬ブロバリンを98錠服用したことによる急性胃穿孔で死去──云々。

 いま現在わたしたちが阿部薫を聴くということは、粗雑に描いても以上のような情報に加えて時代状況をめぐるコンテクストを念頭におきながら彼の音楽に接することを少なからず意味している。わたしたちはいまや、発掘録音や特典盤を含め50枚以上のアルバム、あるいは同時代を生きた関係者の証言、批評家が残したテキスト、ファンのエッセー、さらには幼少期から晩年までを断片的に写し取った写真や演奏する姿をありありと観察することのできる映像まで、膨大な情報を参照することによって、それなりの精度で阿部薫という一人のミュージシャンの足跡を辿り直すことができる。データ化された彼の情報を縫合することによって、あたかも同時代を生きているかのようにリアルな感触をともないながら彼の音楽を再構成してみせることができる。なかには稲葉真弓の小説そして同書を原作にした若松孝二監督の映画『エンドレス・ワルツ』のように、虚構を織り交ぜた物語として劇的な生涯を知ることもできるかもしれない──むろん死を分割払いしていく破滅的な思想を阿部薫の音と足跡にそのまま当て嵌めてしまうこともまた現実に回収し得ない一種の虚構的振る舞いであると言えるものの。いずれにしてもそのような情報が増えれば増えるほど、阿部薫というミュージシャンの「本当の姿」すなわちその音楽の「真実」に近づくことができるように見える。

 だがしかし、このように全体像をイメージしたうえで阿部薫の音楽に接するということ自体が、彼の死後半世紀近く経過し、数多くの資料に容易にアクセスできるようになった現在であればこそ経験できる出来事であるということには留意しなければならない。いまやわたしたちは阿部薫の名前が冠された録音作品について、それが最盛期か否か、晩年か否か、同時期に私生活ではどのような変化があったのかを知ることができるものの、少なくとも同時代にあっては、いかに彼の音楽が死の匂いを濃厚に漂わせていようとも、死の直前の演奏だとはつゆ知らずに「晩年」の音楽を聴いていただろうし、ある録音物を10年という短い活動期間の時間軸上に配置するパースペクティヴも得ようがなかったはずである。新たな情報が客観的事実の正確性をより一層高めることはあったとしても、新たな録音物が日の目を見ることは阿部薫の音楽の「真実」に近づくのではなく、むしろそのサウンド像にこれまでとは異なる視点を設けることを可能とする出来事であるに他ならない。以上のことを踏まえ、本稿ではこれまでリリースされてきた音源を彼の人生に沿ってクロノロジカルに並べるのではなく、むしろ録音物がリリースされることでどのようなサウンド像がその都度形成されてきたのかを素描するべく、三つの時代に分けて音盤を見ていくこととする。三つの時代とは、作者が存命中あるいは没後数年間を含む1970年代〜80年代前半、再評価の機運が高まった1980年代後半〜ゼロ年代前半、そして阿部薫をインターネット上に浮遊する音声ファイルの一つとして聴くことが容易に可能となったゼロ年代後半以降である*。

(註)
* なお本稿は阿部薫の完全なディスコグラフィーを目指す性格のテキストではないため、特典盤やリイシュー盤など言及していない作品もあることをここに付記しておく。また個人史ではなく録音受容史をテーマに据えているため、アルバムには録音年ではなくリリース年を年号として付している。

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同時代の響き──1970年代〜80年代前半

 阿部薫が存命中にリリースされたアルバムは数えるほどしかない。サックス奏者の高木元輝率いるトリオに飛び入り参加したトラックが収録されている『幻野』(1971年)と海賊盤の『WINTER 1972』(1974年頃)を、本人の名義が記されていないため除くのであれば、代表的なアルバムとしては音楽批評家の間章プロデュースによる『解体的交感』(1970年)と『なしくずしの死』(1976年)の2枚を挙げることができる。前者はギター奏者の高柳昌行と結成したデュオ「ニュー・ディレクション」による約1時間のセッションであり、新宿厚生年金会館小ホールで1970年に開催された同名コンサートを収録したものである。ノイジーだがフリー・ジャズ的な快楽とは異なる起承転結のない演奏が延々と続き、途中で阿部はハーモニカに持ち替え一瞬静寂が辺りを包むものの、基本的には激しい音のエネルギーが放射され続けていく。ルイ=フェルディナン・セリーヌの代表的な小説『夜の果てへの旅』の一節を朗読するミシェル・シモンの声から幕を開ける後者は、セリーヌのもう一つの代表作『なしくずしの死』のタイトルにあやかった1975年の同名コンサートと、その二日前のリハーサルを兼ねたレコーディング・セッションを収録した2枚組の大作である。音楽的な性質を帯びる前にフレーズを切断していく円熟期の阿部の演奏を捉えた貴重な記録であり、聴き返すたびに快楽のポイントが変異していくような、彼が残した作品のなかでもっとも既存の価値基準の彼岸をいくサウンドとでもいうべき、アルト・サックスとソプラニーノを用いたソロ・インプロヴィゼーションのまさに極北をいく作品である。


『なしくずしの死』

 『なしくずしの死』がリリースされた翌年の1977年から78年にかけて、やはり間章プロデュースによる海外のミュージシャンを迎えたスタジオ・セッションが録音されている。米国のドラマーであるミルフォード・グレイヴスとともにセッションをおこなった『メディテイション・アマング・アス』(1977年)は、阿部のほか近藤等則(トランペット)、高木元輝(テナー・サックス)、土取利行(パーカッション)が参加した作品だ。力強いドラミングを中心にクインテット編成で祝祭的な演奏をおこない、ミルフォードによるピアノおよびヴォイスの使用がスピリチュアルな雰囲気を醸し出すセッションのなかで、阿部はあくまでも全体のアンサンブルの一員としての役割を担っている。英国のギター奏者デレク・ベイリーが初来日した78年に録音された『デュオ&トリオ・インプロヴィゼイション』(1978年)は、ミルフォードを歓待した国内メンバーに吉沢元治(コントラバス)を加えた計六人が参加し、ベイリーとともにデュオまたはトリオでのセッションをおこなっている。阿部はベイリー、高木とのトリオ・セッションに参加しており、同じサックス奏者である高木の演奏と比較することで阿部に独自の音の鋭さと切り込みの速さがより一層際立って響いてくることだろう。なお2003年に復刻された際、全メンバーが参加したセクステット編成での集団即興がボーナストラックとして付されることになったのだが、阿部が残した音源のなかで最も多人数であろうこの演奏でも彼のサックスの鋭さと独立独歩の精神は際立っている。


のちに音盤化された1975年のコンサート「なしくずしの死」の半券。
映画『阿部薫がいた documentary of Kaoru Abe』より。

 1978年に阿部が急逝すると、ドラマーの豊住芳三郎とのデュオ「オーヴァーハング・パーティー」のセッションを収録した『オーヴァーハング・パーティー』が翌79年に追悼盤としてリリースされた。ここで阿部はサックスのほかクラリネットやハーモニカ、ギター、ピアノ、マリンバなども演奏しており、まるで音遊びするかのような愉しさと、サックスだけでは決して到達し得ない音の領域を開拓する実験性を聴くことができる。81年にはデュオ作品として吉沢元治とのセッションを収めた『北〈NORD〉』がリリースされている。内容は『なしくずしの死』と同じ二種類の会場でおこなわれた演奏の記録である。静謐さのなかに一触即発の雰囲気を湛えたすこぶる緊張感あふれる音楽だ。一方で同年にリリースされた『彗星パルティータ』はソロ・アルバムで、阿部と親交の深かった劇作家で劇団駒場の主宰者・芥正彦プロデュースによる1973年の録音。70年代前半の阿部が到達した超絶的なテクニックをあますところなく収めており、高域の特殊な音響や地鳴りのような低域のノイズ、そしてフレージングの速度と、どれを取ってもきわめてレベルの高い内容となっている。さらにライヴ録音ではなく芥の自室兼劇団駒場のスタジオで録音されたということもあり、演奏がクリアな音質でダイレクトに耳に届くところも印象的だ。最後に付け加えておくと、評伝集『阿部薫1949 - 1978』(文遊社、1994年)で複数の人物が証言しているように、阿部が生きた時代にはライヴへと足を運んだ観客の一部が私的にカセットで演奏を録音し知人友人らとシェアしていた。それもまた録音物としての阿部の受容形態の一つであり、なかにはのちに発掘音源として音盤化された作品もある。

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再評価の機運──1980年代後半~ゼロ年代前半

 およそ8年の空白を経た1989年、阿部のあらたなアルバムとして、死の約二週間前の演奏を捉えた未発表音源『Last Date 8.28, 1978』がリリースされた。同時に、阿部と同時代を生きた人々の証言や資料などを収集した『阿部薫覚書』(ランダムスケッチ、1989年)も刊行。これを契機に再評価の機運が高まっていった。『Last Date 8.28, 1978』にはサックス、ギター、ハーモニカの三つの演奏が収められており、なかでも死の間際とは思えない闊達自在なサックス演奏と、タンギングを駆使した独創的なハーモニカ演奏が特筆に価する。同作品をリリースしたディスクユニオンのレーベル〈DIW〉は続けて阿部が70年代後半に頻繁にライヴをおこなっていた東京・初台のライヴ・スペース「騒」での演奏を収録した『ソロ・ライヴ・アット・騒』シリーズを1990年から91年にかけて計10作品リリース。晩年の貴重な記録であるとともに、70年代前半とは異なる沈黙と間を取り入れた減算の美学とでもいうべき姿勢を聴き取ることができる。こうした傾向は『スタジオ・セッション 1976.3.12』(1992年)にも刻まれているが、特定のスペースにおける演奏を辿り直すことができる録音としては、福島のジャズ喫茶「パスタン」でおこなわれた演奏の記録が全12枚の『Live At Passe-Tamps』(1998年)シリーズとして発表されている。同シリーズには阿部がシンセサイザーやエフェクトをかけたハーモニカ、ギター・フィードバックを駆使したライヴなど、電子音楽あるいはミュジーク・コンクレートの音像にも近い実験的色合いの濃い演奏も記録されており、サックス奏者とは異なる彼の即物的な音響現象に注目していた側面を垣間見ることができる。


『Last Date 8.28, 1978』

 〈DIW〉に加えて阿部薫再評価に貢献したもう一つの特筆すべきレーベルが、明大前モダーンミュージック店主でもあった生悦住英夫が主宰する〈PSFレコード〉である。同レーベルでは「J.I. COLLECTION」シリーズとして阿部薫をはじめとした日本のフリー・ジャズ黎明期の発掘録音を多数発表しており、『またの日の夢物語』(1994年)や『光輝く忍耐』(1994年)、『木曜日の夜』(1995年)といった70年代前半の切れ味鋭い阿部のソロ・インプロヴィゼーションの記録から、最初期の録音でありピアノとドラムスを率いたリーダー・トリオの音源『1970年3月、新宿』(1995年)、そしてかつて高柳昌行とともに「ニュー・ディレクション」として活動していたドラマーの山崎弘(現・比呂志)とのデュオを収めた『Jazz Bed』(1995年)などがリリースされている。また、やや時間をおいて2012年には「マイ・フーリッシュ・ハート」や「いそしぎ」など録音としてはあまり残っていないスタンダード・ナンバーを演奏に取り入れた『遥かな旅路』も発表。阿部は即興演奏のなかで繰り返し叙情的な旋律の歌謡曲やジャズ・スタンダード、あるいはポピュラー・ソングなどを取り上げ、あるときは原型がわからなくなるほどの解体と再構築を施し、あるときは演奏語彙のストックとしてサンプリングのように引用しているのだが、そうした彼の側面を見事に捉えた3枚のアルバムとして、1997年に徳間ジャパンのパンク/オルタナティヴ専門レーベル〈WAX〉から世に出されたドラマー佐藤康和(YAS-KAZ)とのデュオ作『アカシアの雨がやむとき』およびソロ作『風に吹かれて』『暗い日曜日』を挙げることができるだろう。

 世紀転換後の2001年には〈DIW〉から高柳昌行と阿部薫のデュオ「ニュー・ディレクション」による音源『集団投射』『漸次投射』の2枚が発表された。『解体的交感』から数日後の演奏であるものの録音状態が大きく異なり、空間に迸るノイズをリアルに刻印したサウンドは一聴するだけでも圧倒される内容となっている。この時期、評伝集『阿部薫1949 - 1978』の増補改訂版が刊行されたほか、既発音源のリイシューなども盛んにおこなわれている。あらたな音源としてはさらに〈DIW〉から『Last Date 8.28, 1978』の翌日に録音された最晩年の作品である『The Last Recording』(2003年)がリリース。「騒」のシリーズをはじめ主に70年代後半の演奏を数多く世に出した〈DIW〉と、70年代前半の録音を立て続けに発表した〈PSFレコード〉の活動は、阿部薫の音楽性の変容を音響として明らかにし、約10年という短い活動期間に一つのパースペクティヴを与えることに資しただろう。なお90年代からゼロ年代にかけては海外のレーベルからも2枚のアルバムがリリースされている。デレク・ベイリー来日時のセッションを記録した『Aida's Call』(1999年)は音質が悪いものの資料的価値はあり、終盤では間章の声も聴くことができる。一方、豊住芳三郎とのデュオ「オーヴァーハング・パーティー」の演奏を記録した『Overhang Party / Senzei』(2004年)は、国内でリリースされた作品と同年のセッションだが内容は大きく異なり、アルト・サックスに徹した阿部が豊住の激しいドラムスと白熱したデュオを繰り広げる様子を聴き取ることができる。

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ポスト・インターネット時代──ゼロ年代後半以降

 レコードやCDとしてリリースされた音盤は、すでにこの世を去った阿部薫の音楽を聴覚によって検証可能としたものの、数年経つと廃盤となることもあり、一般的なリスナーにとってはアクセスすることが難しい作品が多かった。しかしインターネットの普及はこうした状況を大きく変えていく。たとえば以前、とある海外のミュージシャンと会話した際、阿部薫の話題に花が咲いたことがある。その人物はアルバムをほとんどすべて聴いたことがあるというものの、聞けば自宅の近くに日本のマイナーな音盤を置いているレコード店はなく、フィジカルで所有することなくインターネットを通じて阿部薫の音源を聴き込んだらしい。たしかに骨董品として不当な高値で取引されている音盤は、マニアならいざ知らず、端的に阿部の音を聴きたいという異国の地で暮らすミュージシャンにとって、手の届く距離にあるものではないだろう。そしてそうした時代にあって阿部の音楽は否応なく音声ファイルの一つとして、伝説や物語から切り離された音響として、古今東西の音と等しくアクセス可能なものとしてインターネット上を浮遊しているのである──むろんそこにステレオタイプな日本趣味の眼差しを向けられることが皆無だとは言い切れないものの。いずれにせよかつて阿部が求めたような、既存のジャンルやイメージとしての音楽ではなく端的に音そのものであることは、いまや聴取環境の条件の一つとなっており、あらゆるしがらみから遠く離れて彼が残した音楽を聴き、演奏技術として模倣し、あるいは音響現象として検証することが可能な時代を迎えている**。


トリオ時代のニュー・ディレクションの音源は昨年『LIVE AT JAZZBED』として発掘リリースされた。
映画『阿部薫がいた documentary of Kaoru Abe』より。

 とはいえ一方ではゼロ年代後半以降も阿部の未発表音源は続々とリリースされている。東京・八王子のジャズ喫茶「アローン」が閉店するに際してサックス奏者の井上敬三、ドラマーの中村達也とトリオでセッションした約20分間の音源が収録されている『Live at 八王子アローン Sep.3.1977』(2015年)は、つねに独立独歩の精神を貫いていた阿部の共演者とのコミュニケーションが垣間見える記録だ。たしかに相手の音に露骨に反応することはないものの、共演者と無関係に音を出しているわけではなく、互いにソロ回しをしたり相手が演奏できる間を用意したりしていることがわかる。また豊住芳三郎とのデュオ・アルバム『MANNYOKA』(2018年)は海外からリリースされた作品で、『Overhang Party / Senzei』と同じくフリー・ジャズ的な熱狂が刻印されている。そして2020年前半には3枚の発掘音源が日の目を見ることとなる。『解体的交感』直前の高柳昌行とのデュオを収めた『STATION '70』は、とりわけ1曲目 “漸次投射” の繊細な音のありようがデュオの新たな価値を照らし出している。さらにこの二人にドラマーの山崎弘を加えた編成での録音が『LIVE AT JAZZBED』で、2012年に『未発表音源+初期音源』として出された劣悪な音源の一部で聴くことのできた幻のトリオを存分に堪能できるようになった。さらに『19770916@AYLER. SAPPORO』は札幌のジャズ喫茶「アイラー」での演奏を録音したものであり、スピード感あふれるパッセージやノイジーな特殊音響、間を重視したアプローチ、あるいは既存の楽曲を引用した聴き手の記憶をまさぐるような叙情性など、サックス奏者としての阿部の魅力が凝縮されて詰め込まれた稀有な作品となっている。


『19770916@AYLER. SAPPORO』(※録音年月日は正しくは1977年9月18日)

 復刻盤を含めて阿部薫のアルバムは今後もリリースされ続けることだろう。まだ世に出ていないものの録音されているという証言が残された音源や、音盤化されることなくインターネット上で流通している未発表音源もある。だがその一方で彼の演奏を記録した音源はあくまでも有限であり、いずれはすべての録音が出尽くしてしまう日が来るはずだ。しかしたとえ阿部薫の生涯を記録したすべての音がアクセス可能となったとしても、それはそのまま彼の「本当の姿」に迫ることを必ずしも意味するわけではない。むろん事実としてより正しい情報に塗り替えられることはあるにせよ、わたしたちは聴き手としての有限な経験のうちで阿部薫の音楽を恣意的に切り取ることによってはじめて全体像を仮構することができるのであって、あらたなアルバムのリリースはサウンド像の完全性に向かうのではなく、むしろこうした切断の契機に多様性を担保するものであるに他ならない。そして彼の個人史はわずか29年間という短い尺度のなかに収めることができるのだとしても、この意味でわたしたちはこれからも録音物と阿部薫の音楽を異なるやり方で紐付けることによって連綿と受容史を紡いでいくこととなるに違いない。それは彼の音楽から価値を見出すためのあらたな基準を設定し、あるいは現在とは別種の聴き方を生み出し、さらには彼の演奏の録音を立脚点とするあらたなミュージシャンの試みを創出することへと向かい続けるだろう。

(註)
** ところで阿部薫の音楽がときに難解なものとして一般的なリスナーを遠ざけてしまうことには、少なくとも「価値基準の複数性」と「神秘化」という二種類の要因があるように思われる。前者はたとえば運指の速度やアタックの強度、ノイジーな音色など高度な演奏技術の快楽的側面に加えて、ノスタルジーを喚起させる旋律の引用や間を重視した表現主義的なアプローチ、あるいはどんな快楽にも寄り添うことのない非イディオム的な即興演奏、さらにアルト・サックスを用いた圧倒的な個性とは真反対をいくような匿名的な多楽器主義など、一つの評価軸には回収することのできない、場合によっては矛盾し得る複数の価値が彼の音楽には同居しているのである。後者については阿部薫存命中に代表作をプロデュースした間章による晦渋なテキストはもとより、80年代後半以降の再評価時代に一部の支持者が実際にライヴを経験しない限り検証不可能な現象を説明抜きで称揚したことも挙げることができる。たとえば1991年に放送された深夜番組『PRE STAGE・異形の天才シリーズ①〜阿部薫とその時代〜』で議論された「演奏していないにもかかわらず、音が出ている」というあたかも耳音響放射のような体験を「わかる人にはわかる」と片付けてしまうことは、その真偽を検証することのできない後続の世代には知り得ない「神秘」を否応なく呼び込んでしまう。そして以上のような「価値基準の複数性」および「神秘化」のいずれにおいても、一般的なリスナーが聴くことを楽しもうとするや否や「阿部薫の魅力はそんなところにはない」というエリート主義的な文言が壁のように立ちはだかってきたのである。しかし本稿で主張しているように阿部薫のサウンド像に「真の姿」などというものは存在せず、どのような価値基準の側面であっても、あるいはたとえ録音物であっても、それぞれのリスナーがそれぞれの視点から魅力を感じ取ることができるはずだ──むしろそのように非エリート主義的な開かれた音楽である点が阿部薫の最大の魅力だと言えるのではないだろうか。

現代における「プログレッシヴ」とは何か?

ジャンル誕生から半世紀を経て、いまやオルタナティヴ/ポスト・ロック等あらゆる音楽性をも吸収し、かつてなく広大で多岐に渡る百花繚乱さを誇る現在のプログレッシヴ・ロック、そしてプログレッシヴ・メタル。

現代シーンに大きな影響を与えたスティーヴン・ウィルソン/PORCUPINE TREEや、DREAM THEATER、クラシックなプログの精神を継承し続けるTHE FLOWER KINGSやSPOCK‘S BEARD/ニール・モース、そしてMARILLIONからANATHEMAに至るまで、現代プログの全容を、2000年代以降の作品を中心とした500枚以上に及ぶディスクガイドとして包括的に紹介。

マイク・ポートノイ、スティーヴン・ウィルソンのほか、OPETHやDEVIN TOWNSENDの敏腕マネージャーとして知られるNorthern Music Co.社長アンディ・ファローといった、プログ界キーパーソンの独占インタビューも収録。

その他レビュー掲載アーティスト: BETWEEN THE BURIED AND ME、CIRCUS MAXIMUS、LEPROUS、HAKEN、THE MARS VOLTA、MESHUGGAH、TOOL、ULVER …and so on!

監修・ディスク選: 高橋祐希 with Prog Project(櫻井敬子/楯 弥生/井戸川和泉)

執筆陣(50音順): 井戸川淳一/大越よしはる/奥村裕司/川辺敬祐/渋谷一彦/鈴木喜之/清家咲乃/関口竜太/長坂理史/中島俊也/夏目進平/西廣智一/平野和祥/高橋祐希/櫻井敬子/楯 弥生/井戸川和泉

[目次]

Introduction
DREAM THEATER
 Interview: Mike Portnoy
 DREAM THEATER 解説: 高橋祐希
 Disc Review DREAM THEATERと関連作品
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コラム: '80年代メタルに継承され変異を遂げたプログ・ロック独特の物語性と異端性 by 平野和祥
STEVEN WILSON
 Interview: Steven Wilson
 Steven Wilson 解説: 櫻井敬子
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MARILLION
 MARILLION 解説: 高橋祐希
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THE FLOWER KINGS
 THE FLOWER KINGS 解説: 長坂理史
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ANATHEMA
 ANATHEMA 解説: 井戸川淳一
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Interview: Andy Farrow
掲載アーティストIndex

[監修者プロフィール]

高橋祐希
音楽ライター。『ヘドバン』『EURO-ROCK PRESS』誌でコラム連載中。AERIAL名義で即興ノイズ/アンビエント音楽も演奏。https://twitter.com/yuki_sixx

櫻井敬子
1999~2009年『EURO-ROCK PRESS』編集部に在籍後、3年間のデザイン留学のため渡英、現地のプログ・シーンを肌で感じて帰国。本書では主に企画・編集を担当。

楯 弥生
ライヴが生き甲斐で、何度も欧州遠征するうちに、いつか日本で『Be Prog!』のようなフェスを開催したいという野望を抱き始め、あれこれ画策中。本業はデジタルマーケター。

井戸川和泉
QUEENSRŸCHEの「Empire」のアートワークに衝撃を受け、デザイナーになることを決意したグラフィック・デザイナー。デヴィン・タウンゼンド教信者日本代表。

Prog Project Twitter
https://twitter.com/prog_project

お詫びと訂正

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Riddim Chango Records - ele-king

 東京の〈Riddim Chango〉レーベルが新作をドロップする。UKのエレクトロ・ファンクのプロデューサー、Lord Tuskによるサンズ・オブ・シメオン名義のDub作品。今回も売り切れ必至なので、ダブ頭でダビーなハートのダブ戦士たちは急がねばです。 

Label : Riddim Chango Records
artist : Sons of Simeon
title : Goliath Brothers

仕様/品番/バーコード
10"インチ・アナログ盤 / デジタル配信 (Bandcamp先行配信) / RCEP-007 / 4580211858257
発売日:2021年3月26日(金)

Side A
01 - Goliath Brothers Verse 1
Side B
01 - Goliath Brothers Verse 7
02 - Goliath Brothers Verse 36
Produced & mixed by Sons of Simeon
Lacquer cut by Jason Goz (Transition Studio)

プレオーダー
https://riddimchango.bandcamp.com/album/goliath-brothers?fbclid=IwAR1IiwKZp3lk786tYVJwWVl51adBvt5eDd5_WLxdCUhrOJ-gzLB3uvP8Usg

 Funkin Evenの〈Apron〉レーベルやJohn Rustの〈Levels〉レーベルでのハウス/テクノ寄りのリリースや、USのレジェンドMCであるMos Defとのアルバム制作、Sun Runners名義でVaporwave寄りのアルバムの発表など多方面で活躍するLord Tuskは大のサウンドシステム・ファンとしても知られている。幅広い音楽性を生かしたLord TuskならではのキラーなDub/StepperをDMZ等との仕事で知られているTransitionスタジオでマスタリング。サウンドシステムの鳴りは安定保証!

A Tribute To Andrew Weatherall - ele-king

 アンドリュー・ウェザオールの死から最初のアニヴァーサリーにあたる2月17日、〈Rotters Golf Club〉より「In A Lonely Place (A Tribute To Andrew Weatherall)」と題されたEPがリリースされている。送り出したのはアンドリューの兄弟イアンとダンカン・グレイ(イニシャルをつなげた IWDG 名義)。
 表題曲はニュー・オーダーの同名曲のリワークで、デヴィッド・ホルムズ、TLSにおけるアンドリューの相棒だったキース・テニスウッド、そしてハードウェイ・ブラザーズのショーン・ジョンストンによるリミックスも収録。
 すべての収益はアンドリューのパートナーおよび血栓症の慈善団体へと寄付される。


https://soundcloud.com/rotters_golf_club/sets/iwdg-in-a-lonely-place-clips

IWDG
In A Lonely Place (A Tribute To Andrew Weatherall)
Rotters Golf Club

1. In A Lonely Place
2. In A Lonely Place (David Holmes Rework)
3. In A Lonely Place (Keith Tenniswood Remix)
4. In A Lonely Place (Hardway Bros Axis Dub)

Bowler Room R4 - ele-king

 ボウリングとエレクトロニック・ミュージックを組み合わせた異色のイベントが、3年ぶりに開催される。
 渡英後国内では1年以上ぶりのプレイとなる CHANGSIE や、まもなく新作を送り出す Mars89 による初のライヴ・セット、D.A.N. の Daigo Sakuragi と Kishiohno によるテクノ・ユニット Unmoutin やベテランの COMPUMA、ビート・プロデューサー Miii によるソフィーのトリビュート・セットなど、注目の出演が盛りだくさん。さらに玉名ラーメン、okadada、E.O.U、noripi、ykah と、計10組が入り乱れます。
 感染対策に気を配りつつ、ふだんは味わうことのできないボウリングとパーティを楽しみましょう。

Bowler Room R4

ボウリングとエレクトロニック・ミュージックが織りなす異色のパーティBowler Roomが3年ぶりにカムバック! ハイパーポップ含む20年代のエレクトロニック・ダンス・ミュージックへ切り込む、渾身のレイヴ・クラッシュ!!

第4回は時間が20時から朝までに拡張され、サウンドシステムが幡ヶ谷Forestlimitによりパワーアップ。渡英後国内では1年以上ぶりのプレイとなるCHANGSIE、〈Bokeh Versions〉からリリースのアルバムを下地にしたMars89の初ライブ・セット、主宰の1人Daigo Sakuragi (D.A.N.)とKishiohnoによるテクノ・ユニットUnmountin、竹久圏とのアルバムをリリースしたベテランCOMPUMA (悪魔の沼)、静なるハイパーポップな玉名ラーメン、オール・ミックスを体現し、様々なフィールドで活躍を続けるokadada、京都からゲトーなテイストもあるエレクトロニクスで新しいテキスチャを醸し出すE.O.U、〈Maltine〉でも馴染み深い、レーベルの新しいコンピにも収録のビート・プロデューサーMiiiによる故SOPHIEのトリビュート・セット、新旧入り乱れるレイヴ・クラッシャーnoripi、ダブステップを軸としながらサイケな質感もみせるykah、計10人がラインナップ。VJにForestlimitの名物パーティKato Massacreを起点にVRやAR等を駆使した作品や配信で3D表現を模索するJACKSON Kaki、アートワークに"ハイパー"な新世代を象徴する新興コレクティブ〈ether〉のsudden starが参加します。

ダブ/テクノ、ダブステップ/ダンスホール、 ハイパーポップ/ディコンストラクティッド、ブレイクコア/レイヴ、ハウス/ベース等の様々な文脈がビジュアルと相交わり波となり、地層となっては、また波となり、ゆっくりと流動しながら更新されるエレクトロニック・ダンス・ミュージックの新たなる交流へと踏み出す2021年のファースト・ステップ・パーティ!

Bowler Room R4

2021/03/13 sat at Sasazuka Bowl
20:00 - 05:00 powered by Forestlimit
Early Bird/早割 ¥2,500@RA *LTD50
1GAME+shoes ¥700

CHANGSIE
Mars89 - New Dawn Live set -
okadada
COMPUMA
Unmountin
Miii - SOPHIE Tribute set -
noripi
玉名ラーメン
E.O.U - Hybrid set -
ykah

VJ: JACKSON kaki
artwork: sudden star [ether]

※本イベントが3/13に再延期となったため、残念ながらセーラーかんな子は都合が合わずキャンセルとなりました。楽しみにされていた方申し訳ございません。

前売リンク:https://jp.residentadvisor.net/events/1434740

Bowler Roomとは?

投げるもよし、踊るもよし、しゃべるもよし、飲むもよし、まずはみんなでボウリング! 何故なら貴方の投げるボウルによって倒れるピンの音が本イベントにおける一番の参加なのです。そしてその高揚感とダンス・ミュージックを通じて、踊ることだけでなく、空間として、状況として、体験として、新しい “音の楽しみ方” を試みるアートであり、ボウリングとクラブを掛け合わせた楽しいパーティーであり、また音響、照明、装飾にも拘り、ボウリング場の環境音とミニマルなダンス・ミュージックのビートを混ぜ合わせた空間的な実験音楽への試みでもある、Bowler Roomはこの3つのレイヤーによって構成された新感覚のクラブ・イベントです。melting botとDaigo Sakuragi (D.A.N.)が主宰となって笹塚ボウルにて過去3回開催され、これまでにSeiho、食品まつり、Kazumichi Komatsu、YPY、MOODMAN、ERICA等が出演。

https://meltingbot.net/event/bowler-room-r1/
https://meltingbot.net/event/bowler-room-r2/
https://meltingbot.net/event/bowler-room-r3/

- 注意書 / NOTE

※200人限定。入場を確保されたい方は必ず前売り券をお買い求め下さい。
Limited to 200 people. ADV ticket is available for those wanting to ensure the admission.

※ボウリングの際には無料の専用シューズを必ず着用して下さい。
Please put bowling shoes on when you do bowling. The shoes are available for free at reception.

※ボウリングはマストではありませんが、本イベントの主旨でもありますので、1ゲームでもご参加下さい。
Bowling is not must to do but that’s the point of this event so please take part in even one game.

- 下記会場の新型コロナウィルス感染拡大予防対策に必ず従うよう、皆様のご協力よろしくお願い致します。
Please follow the bellow COVID-19 protocol at the venue

・体調がすぐれない方はご来店をお控えください。
・咳が出る場合はご来店をお控えください。
・来店時は手洗い、アルコール消毒をお願いいたします。
・マスクを着用の上ご来店ください。
・ご来店時の検温と健康チェックシートへのご記入をお願いいたします。
・状況に応じて入場制限する場合がございますので、ご了承ください。

- プロフィール

CHANGSIE

1988年千葉県銚子市生まれ。2010年頃にDubstepにハマり、本格的にDJ活動を開始。UKのベースミュージックをメインにHouseやTechnoを織り交ぜプレイ。2020年よりロンドンに拠点を移し活動中。NTS Radioでマンスリー番組を担当している。
https://soundcloud.com/changsie

Mars89

Mars89は現在東京を拠点に活動しているDJ/Composerである。 2018年にBokeh Versionsからリリースされた12インチ“End Of The Death”は、主要メディアで高く評価され、あらゆるラジオで繰り返しプレイされた。翌年にはUNDERCOVER 2019A/WのShowの音楽を手がけ、同年末その音源とThom YorkeらによるRemixをコンパイルし、UNDERCOVER RECORDSより12インチでリリース。田名網敬一のドキュメンタリーフィルム、Louis VuittonやAdidasの広告映像、豊田利晃監督の映画『破壊の日』の楽曲を手がける。 Bristol拠点のラジオ局Noods Radioではレジデントをつとめている。
https://soundcloud.com/mars89

okadada

DJ/producer。東京、関西に限らず全国各地、多岐にわたるパーティーでDJとして出演し、ネットレーベル「maltine records」やbandcampで楽曲をリリース。大規模な都内のクラブや「lost decade」「LESS」「AUDIO TWO」「now romantic」といったレギュラーパーティーから、大小、場所問わず野外フェスからコアなパーティーへの出演等、前例に無い幅広さで活動し各所に存在。2018年末には代官山UNITでの単独ロングセットを成功に収め、19年にはFUJIROCK FESTIVALにも出演。その他各種コンピレーションやRed Bullへの楽曲提供、各種のRemixワーク、雑誌ユースカへの執筆、スペシャの番組でカラオケ等、様々に活動。
https://soundcloud.com/okadada

COMPUMA

ADS(アステロイド・デザート・ソングス)、スマーフ男組での活動を経て、DJとしては国内外の数多くのアーチストDJ達との共演やサポートを経ながら、日本全国の個性溢れる様々な場所で日々フレッシュでユニークなジャンルを横断したイマジナリーな音楽世界を探求している。自身のプロジェクトSOMETHING ABOUTよりMIXCDの新たな提案を試みたサウンドスケープなミックス「SOMETHING IN THE AIR」シリーズ、悪魔の沼での活動などDJミックスを中心にオリジナル楽曲、リミックスなど意欲作も多数。一方で、長年にわたるレコードCDバイヤーとして培った経験から、BGMをテーマにした選曲コンピレーションCD「Soup Stock Tokyoの音楽」など、ショップBGM、フェス、ショーの選曲等、アート・ファッション、音と音楽にまつわる様々な空間で幅広く活動している。Berlin Atonal 2017、Meakusma Festival 2018への出演、ヨーロッパ海外ラジオ局へのミックス提供など、近年は国内外でも精力的に活動の幅を広げている。2020年には、OGRE YOU ASSHOLE「朝(悪魔の沼 remix)」、YPY「Cool Do!(COMPUMA remix)」を手掛け、5年ぶりの新作アルバム、COMPUMA & 竹久圏「Reflection」をリリースした。
https://compuma.blogspot.jp

Unmountin

2020年8月に結成。Daigo SakuragiとKishiohnoによるテクノユニット。様々なハードウェアを操り、チャラ渋いを探求する。
https://soundcloud.com/user-333547485-611565896

Miii

東京を拠点に活動するサウンドアーティスト・DJ。日本のネットレーベルの黎明期から活動を続け、Maltine Records、Murder Channelなどから作品集を多数リリース。2018年1月には長編アルバム『Plateau』、同年8月にはベースミュージックに接近したEP『Mythology』を発表、以後も精力的に活動を続けている。
https://soundcloud.com/miii

noripi

https://soundcloud.com/no_repeat1993

玉名ラーメン / Tamanaramen

2001年生まれのプロデューサー/アーティスト。 トラップからアンビエント、ハウスまでをも内包したアブストラクトなトラックにポエ ティックなつぶやきが融合したオリジナルな音楽性はUK名門レーベルからの注目も集め る。 様々なジャンルやシーンを超えてボーダレスに自然と混ざり合う今の感性を全面に感じる 楽曲を制作している。
https://youtu.be/QSBfXU_mCiw
https://soundcloud.com/user-tamanaramen

E.O.U

2000年愛知県岡崎市生まれ。空間のためのミュージックを楽曲、DJ、Live Setを通して表現する。京都市在住。
https://soundcloud.com/eoumuse

ykah

2020年4月、SoundCloudにMixをアップしたところから活動開始。Dubを中心に潜るサウンドを追求している。
https://soundcloud.com/hkcrlive/tragic-rave-w-ykah-08022021

JACKSON kaki

DJ / アーティスト。 3DCGを用いたVR/AR/映像表現を行う。 学部生時代は社会学を専攻し、また自身の音楽活動によって培われた経験が、表象の根幹を なしている。主な展覧会に「P.O.N.D.」(PARCO MUSEUM TOKYO、2020年) / DIO C'E' (Ultra Studio, PESCARA、2020年)
https://soundcloud.com/user-562335903/20191210new

Mika Vainio - ele-king

 パンソニックはノイズ=音響を変えた。テクノや電子音楽とノイズを結びつけたのだ。ノイズとテクノの拡張でもあった。90年代末期はテクノイズ系、グリッチもしくは接触不良音楽などと呼ばれたが、それらの音響的な交錯の果てに現在の「エクスペリメンタル・ミュージック」があると私は考える。つまり10年代以降のエクスペリメンタル・ミュージックは、パンソニック、そしてアルヴァ・ノト、ピタ、ファマーズ・マニュアル、池田亮司などのグリッチ・電子音響派第一世代を継承しているのだ。
 たとえばノイズとエレクトロニック・ミュージックを交錯させて、10年代以降のエクスペリメンタル・ミュージックの立役者になったベルリンのレーベル〈PAN〉のような存在は、かつてパンソニックらグリッチ・電子音響派第一世代が切り開いた領域の延長線上にあると考えてみるとどうだろうか。
 じっさい、現行エクスペリメンタル・ミュージックの世界において「電子音響派第一世代」の影響は世代を超えて今なお健在に思える。だからこそパンソニックのひとりであるミカ・ヴァイニオが2017年に亡くなったとき、多くのアーティストやレーベルが深い哀しみと敬意と追悼の念を示したのだろう。そう今や「ミカ・ヴァイニオ」の名はエクスペリメンタル・ミュージックの世界において神話的ともいえる響きを放っている。じじつ彼の未発表音源は死後もなお多くリリースされた。

 2021年、故ミカ・ヴァイニオの「新作」アルバム『Last Live』がリリースされた。没後4年。今なお電子音響音楽の世界に多大な影響を与え続ける巨星の知られざる音源が聴ける。それだけでも僥倖といえる。
 同時にこの『Last Live』は没後にリリースされた『Lydspor One & Two』(2018)、『Psychopomp For Mika Tapio Vainio (M.T.V. 15.05.63 ~ 12.04.2017)』(2020)、Mika Vainio + Ryoji Ikeda + Alva Noto『 Live 2002』(2018)、Mika Vainio & Franck Vigroux『Ignis』(2018)、Joséphine Michel/Mika Vainio『The Heat Equation』(2019)、Charlemagne Palestine, Mika Vainio, Eric Thielemans『P V T』(2020)などいくつもの作品がリリースされているが、そのどれとも趣が違っている。まず共作でもないし、そしてアーカイヴ音源でもない。 このアルバムには2017年2月2日にスイスのジュネーブにある「Cave12」において披露されたミカ・ヴァイニオの最後のライヴ演奏が収録されているのだ。ミカは2017年4月12日に亡くなったので、まさに彼がこの世を去る直前の演奏の記録である。つまり亡くなる2カ月前のミカのサウンドを聴くことができるわけである。
 この事実をもって本作を彼の「遺作」ということは可能だろうか?元はライヴ演奏でもあるので、そう断言して良いのかは分からない面もある。はたしてミカが存命ならばこの演奏をリリースしたのだろうか。
 だがである。『Last Live』を虚心に聴いてみるとミカ・ヴァイニオが至った音響的な境地がはっきりと分かってくることも事実だ。まるで透明な電子音=ノイズが、それらを超えた新しい音響体に結晶していくようなノイズ・サウンドが展開されているのだ。この美しいノイズの奔流には本当にため息すら出てしまいそうなほどだ。
 死後にリリースされた音楽ののなかでも『Last Live』は群を抜いて素晴らしいサウンドを展開している。なぜか。ここには「2017年2月」における彼の現在進行形のサウンドが横溢しているからだ。逆にいえばこのアルバムが「ライヴ録音」である事実は、彼の音響=音楽=ノイズが、このような領域にまで至っていたことの証左になる。

 リリースは〈Edition Mego〉と〈Cave12〉だ。リリース・レーベルは2020年6月にミカとコラボレ-ターでもあったダンサーのシンディ・コラボレーションと本公演の音源を聴き、そのリリースの必要性を確信したという。残された音源を編集しアルバムに仕上げたのは、スティーブン・オマリーとカール・マイケル・ハウスヴォルフの二人の音響巨人だ。そして彼らが編集を行ったのはストックホルムの名門EMSスタジオ。しかもマスタリングを描けたのはベテランのデニス・ブラックハムなのである。まさに最良かつ最強の布陣で制作されたアルバムといえよう。私見では本作こそ〈Editions Mego〉からミカ・ヴァイニオへの「追悼」でないかと思ってしまった。そのリリースに足掛け4年の歳月が必要だったことに強く心を揺さぶられてしまう。いずれにせよ『Last Live』は、間違いなく特別なアルバムだ。

 アルバムは“Movement 1”から“Movement 4”まで全4トラックに分かれている。ノン・コンピュータでミニマムなモジュラー・シンセのシステムで演奏されたサウンドにはどこか崇高ともいえるノイズ・サウンドスケープが横溢していた。激しいノイズと細やかなミニマリズムが、どこか秘めやかな音響的持続の中で交錯し、まるで一筆書きの文字のように自然に、しかし大胆に変化を遂げているのだ。思わずパンソニックからソロまで含めて彼の最良の音響がここに結晶していると言いたくもなってくるほどである。
 まず“Movement 1”は無色透明な電子音がノイジーなサウンドへと変化していくさまが鳴らされる。繊細かつ大胆なサウンド・コントロールは「圧巻」のひとこと。続く“Movement 2”は細やかなリズムと持続音によるインダストリアルなサウンドで幕を開ける。それもすぐにノンビートのノイズへと変化し、やがて暴発するような強烈な電子音が炸裂する。
 アルバム後半の“Movement 3”と“Movement 4”では電子ノイズ・サウンドが断続的に接続し安易な反復を拒むようなノイズの奔流が生まれている。特に“Movement 4”の終わり近くに放たれる咆哮のようなノイズには、どこか徹底的な孤独さを感じもした。
 これら4トラックを聴くと強烈なノイズ、リズム/ビートと静謐な持続音が交錯する構成になっていたことに気が付くだろう。持続と接続の断片的なコンポジションは、まさにミカ・ヴァイニオのサウンドだ。同時にかつての彼のソロ作品と比べて非反復的な断片性が希薄になり(特に前半2曲にその傾向がある)、永遠に続くかのような持続性が増していた。そのせいかどこかミカのもうひとつの名義「Ø」と共通するような「静謐さの気配」をサウンドの隅々から感じ取れたのだ。本作で展開されるノイズ/サウンドは孤独と隣り合わせの音響のように鳴っているのである。Øの透明かつ静謐な音響と同じく、たったひとりでフィンランドの満天の星空を見上げるような感覚があるとでもいうべきか。

 2017年2月の段階でミカ・ヴァイニオの音響は、そのような境地へと至っていた。孤独の、孤高の、個のノイズ音響。その生成と炸裂と消失は、まるで星空のノイズのようである。私は『Last Live』とØ『Konstellaatio』をこれからもずっと聴き続けるだろう。不安定と永遠。持続と断片。永遠と有限。音響と瞬き。ここには電子音響音楽の過去と未来が内包されている。私にはそう思えてならないのだ。

Floating Points × Pharoah Sanders - ele-king

 驚くなかれ。いや、むしろ大いに驚きたまえ。フローティング・ポインツファラオ・サンダースによる共作が3月26日にリリースされる。
 かたや2010年代エレクトロニック・ミュージックのキイパーソンのひとり、かたやスピリチュアル・ジャズの生ける伝説──レーベルがデヴィッド・バーン主宰の〈Luaka Bop〉というのもさらなる驚きで、演奏にはイギリスを代表するオーケストラ、ロンドン交響楽団も参加。いったいどんな音楽が生み出されているのやら……。2020年前半の目玉となりそうな大型コラボ、心して待とう。

驚愕としか言いようがない最高の顔合わせ!! エレクトロニック・ミュージック・シーンのトップに君臨する FLOATING POINTS とスピリチュアル・ジャズ界の生ける伝説 PHAROAH SANDERS が相見えた注目のアルバム『Promises』が3/26(金)にリリース決定!

自ら立ち上げた〈Eglo Records〉、〈Pluto〉や〈Ninja Tune〉、〈Planet Mu〉といった名門レーベルからのリリースでもその名を轟かせるプロデューサーのフローティング・ポインツことサム・シェパード。前作『Crush』が英誌ピッチフォークで Best New Music を獲得、さらに神経科学の博士号までをも持つエレクトロニック・ミュージック・シーンにおける天才アーティストが、なんとジョン・コルトレーンの後継者にしてスピリチュアル・ジャズ界を代表するサックス奏者ファラオ・サンダースと共に作り上げた噂のニュー・アルバムが、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが主宰する〈Luaka Bop〉から遂に登場! ロンドン交響楽団による美しい演奏に、フローティング・ポインツによる繊細な電子音、そしてファラオ・サンダースによる深いサックスの音色が交錯する、全9曲、46分にも及ぶ壮大な組曲が展開された圧巻の内容! さらにアートワークは米タイム誌による「世界で最も影響力のある100人」にも2020年に選出されたエチオピア出身の現代アーティスト、ジュリー・メレツが手掛けた全てにおいてこだわり抜かれた芸術的極上盤!

Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra – Promises (Album Teaser)
https://youtu.be/iqFwIxkhT4s

【アルバム詳細】
FLOATING POINTS, PHAROAH SANDERS & THE LONDON SYMPHONY ORCHESTRA
『Promises』

フローティング・ポインツ、ファラオ・サンダース&ザ・ロンドン・シンフォニー・オーケストラ
『プロミセス』

発売日:3月26日(金)
価格:¥2,400+税
品番:PCD-94026

【Track List】
1. Movement 1
2. Movement 2
3. Movement 3
4. Movement 4
5. Movement 5
6. Movement 6
7. Movement 7
8. Movement 8
9. Movement 9

IR::Indigenous Resistance Sankara Future Dub Resurgence - ele-king

 自分はつくづくアナキストじゃないなよなと思うのは自転車に乗っているときである。サイクリストにとって日本の道路は極めてアナーキーだ。いや、もう、左を走っていれば対向からがしがし来るし、歩道を電動自転車がひゅーっと走っていく。こうしたことは、しかも子供を乗せながら日常化しているし、警察だって複数で歩道を走っている。アナキストになれない自分は、秩序を守らない自転車と遭遇する度に苛ついてしまうのだ。休日の、車両一方通行の商店街とかとんでもないことになっている。ま、かくいうぼくも臨機応変にズルはしますがね。ただ、踏切で待っているあいだ、自信満々に右側で待機するのは止めて欲しいよなぁ。
 
 “アナキスト・アフリカ”とは、最新のダブ・ポエトリーであり、ダブとアフロ・エレクトロニカの結合であり、アフリカ史には反王族/反中央集権的な人びとも存在したことを説き、アフリカを再定義しようとするウガンダのアンダーグラウンドから届いたメッセージだ。サンカラ・フューチャー・ダブ・リソージェンスなる当地のミュージシャンによる録音で、『Anarchist Africa』は昨年10月、そして最新作の『Rising Up For The Dub World Within』はこの2月にリリースされたばかり。
 アフリカ大陸の中央にどかっとAマークの入ったヴィジュアルの『Anarchist Africa』は、Bandcampの説明を読むと、昼間は整備士や溶接工が仕事で使っている防音などないガレージにて、午前4時から録音したという。マイクはなく、ドラムループとヴォーカルの録音には携帯電話が使用されている(だが、音の空間は素晴らしく、決してローファイではない)。そして、冷たいウガンダの夜の空気の音や日常生活の気配もそこには含まれているという。うん、たしかにそんなヴァイブレーションを感じる。

 じつを言うとこの“アナキスト・アフリカ”は、remix編集長時代に同じ釜のメシを食った春日正信なる男から教えてもらったばかりで、ぼくもすべて把握しているわけではないのだが、とりあえず、いまわかっていることを記しておこう。
 アーティスト名の最初に記されている〈IR〉とは「indigenous resistance(先住民レジスタンス)」のことで、エレキングの別冊『ブラック・パワーに捧ぐ』に掲載したURのマイク・バンクスとコーネリアス・ハリスの取材のなかで、今日のポジティヴな動きのひとつとしてふたりが話している。事実として、URとIRとの繋がりはいまにはじまった話ではなく、その関係は10年以上前に遡ることができる。とはいえ、IRの音楽のキーワードはテクノではなく“ダブ”で、IRはそれを「アフリカと先住民の連合創造への美的および音楽的感性、哲学的志向、活動家の参加を指す包括的で拡大された言葉」として解釈し、用いている。
 〈Dub Reality〉なるレーベルはジャマイカ生まれでカナダに住んでいたPatrick Andradeなる人物が主宰している。彼は90年代から音楽活動をしているようだが、IRとしての活動は00年代後半からはじまっている。2010年に『Dubversive』というアルバムを出しており、ここにはマイク・バンクスほか、なんとエイドリアン・シャーウッド、Fun-Da-Mental、エイジアン・ダブ・ファウンデーションらも参加している。音楽的にみてIRのユニークなところはアフロ・パーカッションとダブとテクノを混合させている点にあるが、それは彼らのネットワークにも表れていると言えよう。

 今回取り上げている2枚のアルバムは、IRクルーのなかのウガンダのサンカラ・フューチャー・ダブ・リソージェンス(SFDR)による作品になる。ぼくはSFDRが何者で、何人から成るプロジェクトなのかまったく知らない。ぼくには彼らの素性に関する情報らしい情報がない。だが、こんなにも狂った情報時代だ、これはこれで有り難い話かもしれない。それよりも音とメッセージを受け取ってくれと、そういうことなのだろう。ちなみに2枚のアルバムの冒頭は、同じ曲“アナキスト・アフリカ”である(そう、2回聴けと!)。
 手がかりはある。ぼくにはまず、デトロイトのURが30年前からやってきたことが、いまこうしてアフリカと繫がっていることが嬉しい驚きだった。しかもダブという音楽/スタイル/発想が、こんな形で更新されたことにも興味をそそられる。先住民レジスタンスは、ADFやON-Uともリンクしているぐらいだ、マイノリティの反乱ということがそのすべてではないだろう。BLMと同じように、この世界の根底にあるものを覆そうとしているのかもしれない。まあ、とにかく、ノイズやドローンでさえグルーヴィーにうねる、テクノ譲りのフリーケンシー、そして凄まじい低音を有したベーシック・チャンネルのアフロ・ヴァージョンのごとき彼らの音をまずは聴いてみてください。いまウガンダのアンダーグラウンドでは何かがはじまっている。

 UKのレーベル、〈BBE〉がプロデューサー/DJを主役にして立ち上げたアルバム・シリーズ「The Beat Generation」。Madlib による『WLIB AM: King Of The Wigflip』まで通算11作がリリースされたこの人気シリーズの第一弾を飾ったのが、2001年に Jay Dee aka J Dilla 名義で発表された『Welcome 2 Detroit』であり、数々のヒップホップ・クラシックを残してきた故 J Dilla にとって初のソロ・アルバムとなった作品だ。そんな歴史的アルバムである『Welcome 2 Detroit』の20周年を祝ってリリースされたのが、本作『Welcome 2 Detroit - The 20th Anniversary Edition』である。

 90年代半ばから2000年前後にかけて Jay Dee 時代の彼は実に様々なプロジェクトに参加していた。Pharcyde や De La Soul など様々なアーティストのプロデュースを手がけ、その後、Q-Tip、Ali Shaheed と結成したプロダクション・チーム「The Ummah」や、The Roots の Questlove を中心としたヒップホップ/ソウル・コレクティヴ「Soulquarians」の一員としても活動。さらに自らのグループである Slum Village としてもアルバムをリリースしている。そんな多忙な状況の中、〈BBE〉の指名を受けて制作したのがこの『Welcome 2 Detroit』だ。タイトルが示している通り、彼の地元であるデトロイトのヒップホップ・シーンおよびデトロイト・サウンドのショウケースであり、J Dilla 自身のルーツを辿る作品でもある。


J-Dilla exclusive pictures by Paul Hampartsoumian

 Slum Village ではプロデューサー兼MCとして活動していた J Dilla だが、本作では自身のラップに加えて仲間であるデトロイトのラッパーを多数フィーチャー。J Dilla の脱退と同タイミングで Slum Village のメンバーとなる Elzhi など、世間的にはまだまだ知名度の低かった彼らの存在をヒップホップ・シーンに知らしめた。バウンシーなトラックに乗った Frank-N-Dank によるデトロイト賛歌 “Pause” や、シンプルなビートの質感が最高に気持ち良い “It's Like That” での Hodge Podge (Big Tone)と Lacks (のちの Ta'Raah)によるマイクリレーなど、J Dilla とデトロイトMCたちとの相性の良さは本当に素晴らしく、様々なタイプのトラックとラップの掛け算を堪能できる。タイトル通り Phat Kat の紹介曲である “Feat. Phat Kat” の印象的なサンプル・フレーズは、のちに Q-Tip が “Renaissance Rap” で再利用したり、本作にも参加している Karriem Riggins が自らの曲 “J Dilla the Greatest” で引用するなど、このアルバムの裏クラシック的な一曲と言えよう。

 本作には非ラップ曲やインスト曲もいくつか含まれており、それらが前述した「J Dilla 自身のルーツを辿る」曲だ。中でも至極の一曲と言えるのが、Donald Byrd の同名曲をカヴァーした “Think Twice” だろう。幼い頃からジャズを聞いて育ったという J Dilla だが、ここでは Mizell ブラザーズがプロデュースしたダンサブルなジャズ・チューンの原曲をジャズ+R&Bのテイストでアレンジし、ヴォーカルも自ら担当している。驚くのは、この曲がほぼ生楽器による演奏でレコーディングされているということだ。キーボードとトランペットを担当した Dwele と共に、この曲で J Dilla はドラム、ベース、ピアノ、パーカッションなどを演奏している。サンプリングの達人というイメージの強い J Dilla が、一方で楽器も使って曲作りをしていたことはいまでは広く知られているが、おそらく本作でもサンプリングに生楽器を重ねる手法が多数用いられている。そういった手法でトラックを作っていたヒップホップ・プロデューサーは、このアルバムがリリースされた2001年の時点では非常に稀だったはずで、そういう意味で本作は非常に前衛的な作品であった。『The 20th Anniversary Edition』収録の “Think Twice (DJ Muro’s KG Mix)” は、そんな J Dilla に対するリスペクト溢れるリミックスで、聞き手の心に深く染み込んでくる素晴らしい仕上がりだ。

 “Brazilian Groove (EWF)”も同様に生楽器を主体に作られているが、タイトルが示す通り Earth, Wind & Fire からインスパイアされ、名曲 “Brazilian Rhyme” のコーラスが引用されている。これは、J Dilla のルーツのひとつに70年代のソウル/R&Bがあることの証だ。そして、生楽器の使用と言う意味ではジャズボッサ曲 “Rico Suave Bossa Nova” も “Think Twice” と並ぶ最重要曲のひとつ。この曲は一部、既存の曲からフレーズの引用はあるものの、ほぼ J Dilla のオリジナル曲と言って差し支えないだろう。Pharcyde “Runnnin'” を筆頭に、早くからブラジル音楽をサンプリング・ネタとして取り入れてきたことでも知られる J Dilla であるが、自らの演奏でこれほど完成度の高い曲を作り上げることには恐れ入る。さらに、今回の『The 20th Anniversary Edition』には、ブラジル音楽の本家 Azymuth によるこの曲のカヴァーが収録されており、ブラジル音楽とヒップホップを強く結びつける非常に意義深い一曲だ。ちなみにこのカヴァー・ヴァージョンには、ドキュメンタリー映画『Brasilintime』を手がけたフォトグラファーの B+ と Eric Coleman がプロデューサーとしてクレジットされており、彼らがカヴァーを企画したと思われる。

 もうひとつ、最後に取り上げたいのが、Kraftwerk “Trans Europe Express” の J Dilla 流カヴァーとも言える “B.B.E. (Big Booty Express)” で、様々なシンセサイザーの電子音が飛び交う曲調は本作の中でも非常に異色である。ここで表現されているのはデトロイト・テクノからの影響だ。タイトルはストリップ・クラブの常連であった J Dilla らしいノリで付けられているが、遅めのBPMで、デトロイト・テクノにヒップホップのフレイヴァを加えたハイブリッドな仕上がりは実に中毒性が高い。非常に特殊な一曲ではあるものの、これもまたこの時代の J Dilla だからこそ作り上げることのできた一曲だろう。

 J Dilla は本作がリリースされた5年後に亡くなっている。その後も『Donuts』をはじめ様々な作品がリリースされているが、本作のように様々な要素が入り混じった作品はひとつも作られていない。もし、いまも彼が生きていて『Welcome 2 Detroit』の第二弾を作ったらどんな作品になっていただろうか? そんなことを想像しながら、この『The 20th Anniversary Edition』をさらに聴き込んでみたい。

文:大前至

アーティスト名: J DILLA
タイトル: WELCOME 2 DETROIT - THE 20TH ANNIVERSARY EDITION [7INCH × 12枚組 BOXSET]

バスタ・ライムスが名付けたという J・ディラ名義でリリースされた本作、彼の出身地デトロイトをリプリゼントすべくゲスト・ラッパー陣は全て地元のアーティストで固めており、フランクンダンクからエルジー、ファット・キャットが参加し、J・ディラがデトロイトで聴いて育ったクラフトワーク、アフリカン、ジャズ・ファンク/ボサノヴァ、そしてもちろんブーム・バップに至るあらゆる音楽をディラ流に仕上げたクラシックがズラリ……! 全てデジタル・リマスタリングを施し、さらにこのアルバムのセッション中にJ・ディラのプライベート・テープに残された未発表音源やアウト・テイクを追加収録、そして日本が誇るキング・オブ・ディギン、Muro による “Think Twice” のリミックス、クラシック “Rico Suave Bossa Nova” のアジムスによるカヴァーなどを収めた全46曲の脅威のヴォリュームで送るボックスセット! アンプ・フィドラーやマ・デュークスなど参加アーティストのインタビューなどを収録したブックレット(英語)も付属。

label: BBE
genre: HIPHOP
format: 7INCH × 12枚組 BOXSET
cat no.: BBEBG001SLP
barcode: 0195497389094
発売日: 2021.2.5
税抜卸価格: (オープン価格)

Tracklist:

Disc 01
A1. Y’all Ain’t Ready
A2. Think Twice (faded)
B1. Y’all Ain’t Ready (Instrumental)
B2. Think Twice (Instrumental ? faded)

Disc 02
C1. The Clapper feat. Blu
C2. Shake It Down
D1. The Clapper (Instrumental)
D2. Shake It Down (Instrumental)

Disc 03
E1. Come Get It feat. Elzhi (edit)
F1. Come Get It (Instrumental ? edit)

Disc 04
G1. Pause feat Frank ‘n’ Dank
G2. B.B.E. ? Big Booty Express
H1. Pause (Instrumental)
H2. B.B.E. ? Big Booty Express (Instrumental)

Disc 05
I1. Beej-N-Dem Pt.2 feat. Beej
J1. Beej-N-Dem Pt.2 (Instrumental)

Disc 06
K1. Brazilian Groove
K2. It’s Like That (Edit) feat. Hodge Podge, Lacks
L1. Brazilian Groove EWF (Instrumental)
L2. It’s Like That (Instrumental)

Disc 07
M1. Give It Up
N1. Give It Up (Instrumental)

Disc 08
O1. Rico Suave Bossa Nova
P1. Azymuth ? Rico Suave Bossa Nova (Vinyl Edit) ? Azymuth

Disc 09
Q1. Feat. Phat Kat
R1. Feat. Phat Kat (Instrumental)

Disc 10
S1. African Rhythms
S2. One
T1. African Rhythms (Instrumental)
T2. One (Instrumental)

Disc 11
U1. It’s Like That (Alternate Version)
U2. Beej-N-Dem (og) feat. Beej

Disc 12
V1. African Rhythms (No Drums)
V2. Brazilian Groove EWF (No Drums, No Vocal)
V3. Give It Up (Acapella)
W1. Think Twice (DJ Muro’s KG Mix)
X1. Think Twice (DJ Muro’s KG Mix Instrumental)

shotahirama - ele-king

 2019年末にリリースされた『Rough House』で突如ヒップホップに目覚めたグリッチ・プロデューサーの平間翔太。同作は配信限定だったけれど、ひさびさにCDアルバムの登場だ。前回が『Maybe Baby』なので、ほぼ4年ぶりということになる。レーベルは京都の〈SHRINE.JP〉。トラックリストを眺めると、程よい尺の曲が10曲並んでいる。『Rough House』に続き、今回もアルバムらしいアルバムに仕上がっているようだ(そして、プレヴュー音源を聴く限り、今回もヒップホップ作品の模様)。現在、収録曲 “FIRE IN WHICH YOU BURN” のかっこいいMVが公開中です。これを見ながら発売を待ちましょう。


ノイズ・グリッチプロデューサーからビートメイカーへと生まれ変わったshotahiramaが4年ぶりのCDアルバム!

2010年代に自身が主宰するレーベル〈SIGNAL DADA〉より『Nice Doll To Talk』、『Post Punk』など先鋭的な作品を立て続けに発表してきたshotahiramaが、2017年の『Maybe Baby』以来となるCD作品をリリース! 本作『GET A LOAD OF ME』は彼が近年試みている(ターンテーブルを楽器として用いる発想に端を発した)サンプリング・ビート集の最新版といった仕上がりだ。加えて本作では新たな試みとして、全てのトラックがElektron社のドラムシンセ/シーケンサーであるMACHINEDRUMによる一発録音のライブレコーディングによって制作されている。このタイトな制作手法により『GET A LOAD OF ME』には彼の作品が常に携えていたラフで身軽な佇まいが、新たな魅力として顕在化している。

アーティスト:shotahirama
タイトル:GET A LOAD OF ME
発売日:2021年3月19日
品番:SRSW-491
フォーマット:CD
レーベル:SHRINE.JP

トラックリスト:
01. THE WHOLE NINE YARDS (3:03)
02. GET A LOAD OF ME (4:03)
03. FIRE IN WHICH YOU BURN (4:14)
04. SKINZ (3:45)
05. FEEL THE HIGH (3:38)
06. TEARS (5:37)
07. KIDS (4:26)
08. KEEP IT IN THE STREET (3:16)
09. FRIGHT NIGHTS (5:06)
10. TIME TO SHINE (4:12)

https://studiowarp.jp/shrine/srsw-491-shotahirama%E3%80%8Eget-a-load-of-me%E3%80%8F/

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Tower Records
HMV


プロフィール

ニューヨーク出身の音楽家、shotahirama(平間翔太)。中原昌也、evalaといった音楽家がコメントを寄せる。畠中実(ICC主任学芸員)による記事「デジタルのダダイスト、パンク以後の電子音楽」をはじめ、VICEマガジンや音楽ライターの三田格などによって多くのメディアで紹介される。Oval、Kangding Ray、Mark Fell等のジャパンツアーに出演。代表作にCDアルバム『post punk』や4枚組CDボックス『Surf』などがある。

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