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IR::Indigenous Resistance Sankara Future Dub Resurgence

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野田努   Feb 16,2021 UP

 自分はつくづくアナキストじゃないなよなと思うのは自転車に乗っているときである。サイクリストにとって日本の道路は極めてアナーキーだ。いや、もう、左を走っていれば対向からがしがし来るし、歩道を電動自転車がひゅーっと走っていく。こうしたことは、しかも子供を乗せながら日常化しているし、警察だって複数で歩道を走っている。アナキストになれない自分は、秩序を守らない自転車と遭遇する度に苛ついてしまうのだ。休日の、車両一方通行の商店街とかとんでもないことになっている。ま、かくいうぼくも臨機応変にズルはしますがね。ただ、踏切で待っているあいだ、自信満々に右側で待機するのは止めて欲しいよなぁ。
 
 “アナキスト・アフリカ”とは、最新のダブ・ポエトリーであり、ダブとアフロ・エレクトロニカの結合であり、アフリカ史には反王族/反中央集権的な人びとも存在したことを説き、アフリカを再定義しようとするウガンダのアンダーグラウンドから届いたメッセージだ。サンカラ・フューチャー・ダブ・リソージェンスなる当地のミュージシャンによる録音で、『Anarchist Africa』は昨年10月、そして最新作の『Rising Up For The Dub World Within』はこの2月にリリースされたばかり。
 アフリカ大陸の中央にどかっとAマークの入ったヴィジュアルの『Anarchist Africa』は、Bandcampの説明を読むと、昼間は整備士や溶接工が仕事で使っている防音などないガレージにて、午前4時から録音したという。マイクはなく、ドラムループとヴォーカルの録音には携帯電話が使用されている(だが、音の空間は素晴らしく、決してローファイではない)。そして、冷たいウガンダの夜の空気の音や日常生活の気配もそこには含まれているという。うん、たしかにそんなヴァイブレーションを感じる。

 じつを言うとこの“アナキスト・アフリカ”は、remix編集長時代に同じ釜のメシを食った春日正信なる男から教えてもらったばかりで、ぼくもすべて把握しているわけではないのだが、とりあえず、いまわかっていることを記しておこう。
 アーティスト名の最初に記されている〈IR〉とは「indigenous resistance(先住民レジスタンス)」のことで、エレキングの別冊『ブラック・パワーに捧ぐ』に掲載したURのマイク・バンクスとコーネリアス・ハリスの取材のなかで、今日のポジティヴな動きのひとつとしてふたりが話している。事実として、URとIRとの繋がりはいまにはじまった話ではなく、その関係は10年以上前に遡ることができる。とはいえ、IRの音楽のキーワードはテクノではなく“ダブ”で、IRはそれを「アフリカと先住民の連合創造への美的および音楽的感性、哲学的志向、活動家の参加を指す包括的で拡大された言葉」として解釈し、用いている。
 〈Dub Reality〉なるレーベルはジャマイカ生まれでカナダに住んでいたPatrick Andradeなる人物が主宰している。彼は90年代から音楽活動をしているようだが、IRとしての活動は00年代後半からはじまっている。2010年に『Dubversive』というアルバムを出しており、ここにはマイク・バンクスほか、なんとエイドリアン・シャーウッド、Fun-Da-Mental、エイジアン・ダブ・ファウンデーションらも参加している。音楽的にみてIRのユニークなところはアフロ・パーカッションとダブとテクノを混合させている点にあるが、それは彼らのネットワークにも表れていると言えよう。

 今回取り上げている2枚のアルバムは、IRクルーのなかのウガンダのサンカラ・フューチャー・ダブ・リソージェンス(SFDR)による作品になる。ぼくはSFDRが何者で、何人から成るプロジェクトなのかまったく知らない。ぼくには彼らの素性に関する情報らしい情報がない。だが、こんなにも狂った情報時代だ、これはこれで有り難い話かもしれない。それよりも音とメッセージを受け取ってくれと、そういうことなのだろう。ちなみに2枚のアルバムの冒頭は、同じ曲“アナキスト・アフリカ”である(そう、2回聴けと!)。
 手がかりはある。ぼくにはまず、デトロイトのURが30年前からやってきたことが、いまこうしてアフリカと繫がっていることが嬉しい驚きだった。しかもダブという音楽/スタイル/発想が、こんな形で更新されたことにも興味をそそられる。先住民レジスタンスは、ADFやON-Uともリンクしているぐらいだ、マイノリティの反乱ということがそのすべてではないだろう。BLMと同じように、この世界の根底にあるものを覆そうとしているのかもしれない。まあ、とにかく、ノイズやドローンでさえグルーヴィーにうねる、テクノ譲りのフリーケンシー、そして凄まじい低音を有したベーシック・チャンネルのアフロ・ヴァージョンのごとき彼らの音をまずは聴いてみてください。いまウガンダのアンダーグラウンドでは何かがはじまっている。

野田努