「S」と一致するもの

Jam City - ele-king

 ジャム・シティことジャック・ラザムが帰ってきた。2015年の『Dream A Garden』から5年、ついに新たなアルバムが送り出される。タイトルは『Pillowland』、発売は来週11月13日で、今回は〈Night Slugs〉ではなく自身のレーベル〈Earthly〉からのリリースとなっている。
 プレスリリースによれば、疑念と痛みと混乱と変化に満ちた自らの生活に向きあった結果、アンフェタミン漬けで甘~いポップの夢景色のなかに逃避した内容になっているらしい。ふむ。楽しみに来週を待とう。

Jam City
Pillowland

Earthly

01. Pillowland (2:28)
02. Sweetjoy (2:50)
03. Cartwheel (3:38)
04. Actor (2:01)
05. They Eat The Young (2:30)
06. Baby Desert Nobody (1:32)
07. Climb Back Down (3:26)
08. Cruel Joke (4:50)
09. I Don't Wanna Dream About It Anymore (5:05)
10. Cherry (4:05)

Written & Produced by Jam City
Mixed by Liam Howe and Jam City
Mastered by Precise
All artwork by Jakob Haglof
All photography by Sylwia Wozniak

https://pillowland.org/

Virtual Dreams - ele-king

 よう、俺と同世代人たち、ついにこんなコンピレーションが出る時代になっちまった。アムステルダムのレーベル〈Music From Memory〉から、90年代アンビエントのコンピレーション、題して『仮想の夢:ハウス・テクノ時代のアンビエント探求1993-1997』。原題は『Virtual Dreams: Ambient Explorations In The House & Techno Age, 1993-1997」。 LFOやBedouin Ascent、MLO、La Synthesis、Sun Electricやんなか全17曲が収録されるらしい。詳しいリストはココ

 俺より若い世代へ。これがベストな選曲かどうかは議論の余地はあるかもしれないけれど、聴いてみる価値はあると思う。そこで、君がさらに完璧な現実逃避を望むなら、年末号の紙エレキングをチェックして欲しい。まさに90年代の「エレクトリック・リスニング・ミュージック」を大特集しているから。自分で言うのもなんだけど、タイムリーな特集だし。君のコレクションに一助になると思う。ヨロシクね。

Various Artists
Virtual Dreams: Ambient Explorations In The House & Techno Age 1993-1997
Music From Memory
2020年 12月11日発売

Andrew Weatherall tribute book - ele-king

 まったく……残念ながら今年2月に亡くなってしまったアンドリュー・ウェザオールだが(いまこれだけ人々が分断された時代だからこそいて欲しかった、本当にそう思う)、彼のトリビュート・ブックがイギリスで刊行されることになった。企画したのは、93年から04年まで発刊されていたUKのダンス・ミュージック系音楽誌の『ジョッキー・スラット』。題して『Andrew Weatherall: A Jockey Slut Tribute』。
 かつて同誌に掲載されたすべてのウェザオールのインタヴューをはじめ(この頃、ウェザオールは滅多に取材を受けない人でも有名だった)、80年代半ばから2020年までの彼のキャリアにかんする多くの記事を掲載。新たにボビー・ギレスピーやダニー・ランプリング、キース・テニスウッドらによる1万ワード(日本語に訳すとおそらく3万字くらい)のオーラル・ヒストリー(証言集)も収録されるとのこと。全160ページ。
 なお、同書のすべての収益はウェザオールが支援していたアムネスティ・インターナショナルなどの慈善団体へと寄付される。詳細はこちらから。

BES & I-DeA - ele-king

 日本のブーンバップ・ヒップホップを代表するラッパー BES による人気ミックス・シリーズ最新作は、おなじく SCARS勢の I-DeA とがっつりタッグを組んだ注目の1枚。キモを押さえた選曲に加え、エクスクルーシヴな新曲も4曲収録されている。現在そのなかから D.D.S & MULBE を迎えた “SWS”(プロデュースは DJ SCRATCH NICE)が先行配信中なので、チェックしておこう。

SWANKY SWIPE / SCARS のメンバーとして知られるシーン最高峰のラッパー、BES による人気ミックス・シリーズ『BES ILL LOUNGE』の最新版は盟友 I-DeA とのジョイント! 新録音源として B.D.、BIM、MEGA-G らとの各コラボ曲を収録し、D.D.S と MULBE が参加した “SWS” が本日より先行配信開始!

◆ SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られ、SCARS『THE ALBUM』(06年)、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』(06年)、ファースト・ソロ・アルバム『REBUILD』(08年)といった日本語ラップ・クラシックな作品を次々とリリース。2007年には ULTIMATE MC BATTLE - GRAND CHAMPIONSHIP に出場して準優勝を果たし、その実力をシーン内外に強くアピールして人気/評価を不動のものに。少しのブランクを経て2012年には自身のかかわった楽曲に新曲/フリースタイルを加えたミックス・シリーズ『BES ILL LOUNGE: THE MIX』をリリースして完全復活を果たし、以降は自己名義の作品のリリースのみならず ISSUGI とのコラボレーションでも『VIRIDIAN SHOOT』、『Purple Ability』と2枚のアルバムをリリース。さらに近年では SCARS としても再始動するなど、活発な活動を続けているシーン最高峰のラッパー、BES(ベス)。

◆ 故D.L(DEV LARGE)のもとで D.L や〈EL DORADO RECORDS〉作品などの制作を手掛け、SEEDA や BES を始めとする SCARS勢、NORIKIYO や BRON-K ら SD JUNKSTA 周辺、さらには MSC や JUSWANNA など00年代中期以降の日本語ラップ・シーンにおける重要アーティスト/作品にことごとく関与しており、そのプロデュース/ディレクションの凄まじさは「I-DeA塾」とも称されるほど多くのアーティスト/関係者から畏敬の念を抱かれ、一方、SCARS のメンバーとして、またソロとしても自己名義で作品をリリースするなど多岐に渡ってディープ・エリアで活動してきたシーンを代表するプロデューサー/エンジニア、I-DeA(アイデア)。

◆ これまでにも前述の SCARS『THE ALBUM』や BES『REBUILD』など随所でリンクしてきた BES と I-DeA が再びガッチリと手を組むのは、BES のミックス・シリーズの最新となる第3弾『BES ILL LOUNGE Part 3』! BES がこれまでに関わってきた膨大な楽曲の中から I-DeA らしい切り口でチョイスされており、BES~SWANKY SWIPE 楽曲だけでなく JUSWANNA~メシア THE FLY、MEGA-G の楽曲、さらには TEK of SMIF-N-WESSUN とのコラボ曲など渋いラインもセレクション!

◆ そして! 本シリーズのキモとも言えるエクスクルーシヴな新録音源では、サシで楽曲を制作するのは初となる B.D. や同じく初顔合わせな BIM、D.D.S & MULBE、MEGA-G との各コラボ曲を収録! プロデュースは DJ SCRATCH NICE が2曲、そしてK.E.M、BES & I-DeA が担当。さらには SCARS の名曲 “MY BLOCK” の BES によるリミックスも収録!

◆ 11/18(水)のリリースを前に、新録音源の中から D.D.S & MULBE をフィーチャーした DJ SCRATCH NICEのプロデュースによる “SWS” の先行配信が本日より開始!


アーティスト: BES
タイトル: BES ILL LOUNGE Part 3 - Mixed by I-DeA
レーベル: P-VINE, Inc.
仕様: CD/デジタル
発売日: 2020年11月18日(水)
CD品番: PCD-24994
CD税抜販売価格: 2,400円

[トラックリスト]
01. BES / BES ILL LOUNGE Pt'3 Intro
02. BES / SWS feat. D.D.S & MULBE *新曲
 Prod by DJ SCRATCH NICE
03. GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE / DAYS feat. BES & ISSUGI
04. MEGA-G / HOW HOW HIGH PART.2 feat. BES (REMIX)
05. HIMUKI / G.E.N.S.E feat. BES
06. BES / 美学、こだわり feat. MEGA-G *新曲
 Prod by BES & I-DeA
07. BES / MY BLOCK REMIX *EXCLUSIVE
08. SWANKY SWIPE / Feel My Mind feat. メシア The Fly & 漢
09. SWANKY SWIPE / Breathe In Breathe Out
10. BES / 勘ぐりと瞑想と困惑
11. SWANKY SWIPE / 東京時刻
12. dubby bunny / Narcos feat. A-THUG & BES
13. BES & ISSUGI / BOOM BAP
14. BES / Make so happy feat. BIM *新曲
 Prod by K.E.M
15. ONE-LAW / I DON'T CARE feat. BES
16. メシア THE FLY / No More Comics feat. BES (MASS-HOLE REMIX)
17. BES & ISSUGI / HIGHEST feat. MR.PUG, 仙人掌
18. owls (GREEN ASSASSIN DOLLAR & rkemishi) / Lonely feat. BES & MEGA-G
19. DJ FUMIRATCH / 刻一刻 feat. BES & 紅桜
20. 鬼 / 僕も中毒者 feat. BES
21. TEK of SMIF-N-WESSUN / Cold World feat. BES (SO COLD REMIX)
22. BES / 表裏一体 feat. B.D. *新曲
 Prod by DJ SCRATCH NICE
23. JUSWANNA / Entrance feat. BES & 仙人掌
24. SHIZOO / たしかに feat. BES
 Mixed by I-DeA for Flashsounds

[BES / PROFILE]
SWANKY SWIPE / SCARS としての活動でも知られるラッパー。SCARS『THE ALBUM』(06年)、SWANKY SWIPE『Bunks Marmalade』(06年)、ファースト・ソロ・アルバム『REBUILD』(08年)といったクラシック作品をリリースして人気/評価を不動のものとし、近年はソロだけでなく ISSUGI とのジョイントでの BES & ISSUGI として、また復活した SCARS として活発に活動している。

[I-DeA / PROFILE]
故D.L(DEV LARGE)のもとで D.L や〈EL DORADO RECORDS〉作品などの制作を手掛け、SEEDA や BES を始めとする SCARS勢、NORIKIYO や BRON-K ら SDJUNKSTA 周辺、さらには MSC や JUSWANNA など00年代中期以降の日本語ラップ・シーンにおける重要アーティスト/作品にことごとく関与しており、そのプロデュース/ディレクションの凄まじさは「I-DeA塾」とも称されるほど多くのアーティスト/関係者から畏敬の念を抱かれている。一方、SCARS のメンバーとして、またソロとしても自己名義で作品をリリースするなど多岐に渡ってディープ・エリアで活動してきたシーンを代表するプロデューサー/エンジニア。

Sun Ra - ele-king

 つい先日サン・ラー・アーケストラが21年ぶりの(すばらしい)スタジオ・アルバムをリリースしたばかりだけれど(近々レヴューをぶち上げます)、ここへきてさらなる朗報だ。1993年に土星へと還ったサン・ラー本人が脚本・音楽・主演を務めた映画『Space Is The Place』(1974年)が、日本で初めて公開される。しかも、64分に編集されていたVHSとは異なり、オリジナルの81分のフル・ヴァージョンだ。邦題は『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』。2021年1月29日より、アップリンク吉祥寺・新宿シネマカリテほかにて公開。これは絶対に観逃せない。アフロフューチャリズムの原点を、その目で体感すべし。

世界が終わっているとまだ気づいていないあなたへ。

地球よ、さらば。

1969年頃に地球から姿を消していた大宇宙議会・銀河間領域の大使サン・ラーは音楽を燃料に大宇宙を航行するなか、遂に地球と異なる理想の惑星を発見した。さっそく地球に戻り〈宇宙雇用機関〉を開設、ジャズのソウル・パワーによる同位体瞬間移動で米国にいる黒人のブラザーたちの移送計画を立てるが、その技術を盗もうとアメリカ航空宇宙局(NASA)の魔の手が迫る……。

太陽神の姿で出現した土星からの使者、超現実的宇宙音楽王サン・ラーが、地球人に鳴らす警鐘。

1960年代後半から70年代初頭にかけて、カリフォルニア大学バークレー校で「宇宙の黒人」という講義を行っていた土星人サン・ラーの存在が、サンフランシスコでアヴァンギャルド・アートを展開していた〈DILEXI〉のプロデューサー、ジム・ニューマンの目に留まり実現した、革新的・暗黒SF映画。サン・ラーの音楽を地球を超えた新しい未来へ人々を導く原動力とし、宇宙探査とその音楽を通して黒人文化の救済を描く。発表したフリー・ジャズの音源があまりにも膨大なため誰も全貌を把握できない土星から降臨した太陽神、超現実的宇宙音楽の創造者サン・ラーが脚本、音楽、主演をつとめたため、本作はどこにも存在しないまったく新しい映画となった。約半世紀を経た今でも類似作品は存在しない。ミュージカル、SFオペラ、社会評論の要素を組み合わせた本作を、一部にはクエンティン・タランティーノ等に影響を与えたブラックスプロイテーション映画群の重要作と呼ぶ人もいる。だが本作はジャンルの慣習に準拠しない。サン・ラーの鋭い精神状態を視覚的に表したもので、〈音楽〉は当時の政治的希望、つまり人種的抑圧からの解放を反映した銀河間の兵器として使われる。これは映画的で哲学的な創造の根源であり、いつの時代においても重要な意味を放ち続ける、時空を超えた傑作である。その奇妙でビザールな内容でありながら唯一無二の黒光りする存在感は同時代に出現した『未来惑星ザルドス』(74)と無理やり比較してもいいかもしれない。また海外ではロジェ・バディム監督『バーバレラ』(68)やニコラス・ローグ監督『パフォーマンス』(70)を例に本作を語る者もいる。

この度上映されるのは地球上に残されていた唯一の35mmプリントからスキャン、史上初めてオリジナルの画面サイズであるスタンダードサイズ(1:1.33)で作られたデジタル素材である。オリジナルのフィルムの状態を最大限再現するため、一切レストアはされていない。海外では過去に約64分の〈サン・ラー編集版〉と呼ばれるバージョンがVHSで出回っていたが、本上映はオリジナルの81分のバージョンである。

地球は音楽なしでは動けない。
地球は一定のリズム、サウンド、旋律で動く。
音楽が止まれば、地球も止まり、
地球上にあるものはすべて死ぬ。
──サン・ラー

『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』
監督:ジョン・コニー
脚本:ジョシュア・スミス、サン・ラー
製作:ジム・ニューマン
撮影:セス・ヒル、パット・ライリー
音楽:サン・ラー
音:ロバート・グレイヴノア、デヴィッド・マクミラン、アーサー・ロチェスター、ケン・ヘラー
編集:バーバラ・ポクラス、フランク・ナメイ
出演:サン・ラー、レイ・ジョンソン、クリストファー・ブルックス、バーバラ・デロニー、エリカ・レダー、ジョン・ベイリー、クラレンス・ブリュワー
1974年│アメリカ映画│81分│スタンダードサイズ│モノラル│北アメリカ恒星系プロダクション作品│原題:SPACE IS
THE PLACE(宇宙こそ我が故郷)
キングレコード提供
ビーズインターナショナル配給
© A North American Star System Production / Rapid Eye Movies

2021年1月29日(金)より、アップリンク吉祥寺・新宿シネマカリテほか順次公開

Oneohtrix Point Never - ele-king

 本作『MAGIC ONEOHTRIX POINT NEVER』は、この10年余りの間様々な作品をリリースしてきた主要プロジェクト名(OPN)がセルフ・タイトルとして冠されている通り、自己言及的で、かつ内省的な作品だ。この間のコロナ禍において、ニューヨーク在住のダニエル・ロパティンは、日に日に深刻化する感染状況に怯えながら、多くの人びとと同じように長引く自粛期間中ひたすら自宅へこもり、しばらく無為の時間を過ごしていたらしい(そのあたり、先んじて公開された本人へのインタヴューでも語られている)。好きな映画を観るのもままならず(登場人物たちが物理的に触れ合ったり、モブが登場する場面を観る気になれなかったという)、かといってもちろんオーディエンスを前にしたパフォーマンスを行なえるわけでもない。こうした期間において彼の心身を癒やしたのがネット・ラジオだった。本作は、そこで受けたインスピレーションを元に制作されているようで、実際、「架空のラジオ局から送り出される一日の放送」というコンセプトが据えられている。

 幼い頃ラジオ・エア・チェックによるミックス・テープ作りに勤しんだ経験もあり、自然とこのコンセプトは彼のアーティスト活動の原点を掘り返すような意味合いも含み持つことになっていったようだ。そもそもからして、のちのヴェイパーウェイヴ発展の起点となった(とされる)Eccojams なるスタイルの先駆者とされているロパティンのこと、ラジオ放送を模して様々な音の断片をセルフ・サンプリングするように一個の作品を作り上げるという手法を用いることは、当然彼自身の原点のひとつへ回帰することでもあったろう。前作『Age Of』(2018年)での強く思弁的な作風や、このところの映画スコア仕事などで聞かせる電子音楽家としての多彩なキャラクターに鑑みると、かなり「素直」な転回であるともいえる。
 かつて世に出た、「文化の遺構」としてのチージーなニューエイジ音楽やジングルめいたコラージュがぶつ切りに漏れ出してくるような本作の感覚は、確かに『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』(2010年)とも近しいとは思う。そしてその後、主に諧謔性の部分が外科的に取り出されて前景化していくことになったのが後のヴェイパーウェイヴだったという見方もできるであろうが、そのヴェイパーウェイヴにおいては、あくまでニューエイジなどの「ジャンク」は、「ジャンク」としての性格を増幅されながらハックされ、流用され、(本来消費主義を揶揄する目的もあったとはいえ)逆説的な消費を被るという光景も観察された。
 しかしながら、(ヴェイパーウェイヴの文化と自分は本質的に無関係であると嘯く)ロパティンはここで、その「ジャンク性」に対していまもう一度だけプライマルな態度を取り直してみようとしているかのようだ。それは、ニューエイジ的陳腐に対しての極限化された冷徹さと、その一方でニューエイジ音楽が持つ(主に電子音楽的)快楽を切り分けながら、その両面を自らの内において鋭く自覚し直そうとする目論見にも思える。ニューエイジからの安易な快楽主義的呼び声を彼本来の批評性をもって退けながら、「いったいこの音のどこに、なぜ惹かれてしまうのか」について、粘り強い思考を放棄しようとしない。
 上述のインタヴューでは、「そうした類い(筆者注:ニューエイジなど)のテープを利用すること、それらをサンプリングするのって、自分からすればほとんどもうアメリカの質感(テクスチャー)を使うことに近い」とも言っている。これは、素直に解釈すれば、「あの時代のバックグラウンド・ミュージック」たるそうした音楽が、いまもなおそのバックグラウンド性を延命しているということなのかもしれないが、むしろここで彼は、「テクスチャーとなり果てたニューエイジ」それ自体を通して現在のアメリカ社会との接続面を確保しているようにも思えるのだ。

 一方で、架空のラジオ局というコンセプトの通り、様々な音楽要素が(バックグラウンド的に)寄せては消えるこのアルバムは、その実、ニューエイジに限らない豊富な音楽語彙が投入されていることもすぐわかる。特に、ザ・ウィークエンド、アルカ、キャロライン・ポラチェック、NOLANBEROLLIN、ネイト・ボイスというゲスト陣が参加した各曲において、かなり「現代的」かつポップな表現が行なわれていることが象徴的だが、いびつなヴォーカル変調や飽きっぽい子供のようにコロコロと音楽を展開していく断続感などから、これらのポップネスも実は「現代のアメリカというテクスチャー」を現すために配備されているにすぎないような気がしてくる。要は、ほとんどにおいて「〇〇調」と形容可能な、感情や内面を重視するような表現主義的欲動の欠乏した表徴が人工のさざ波のように寄せ、返し、消えていくのだ。
 このように論じてくると、有り体には、この作品でロパティンはすべてが断片化してしまった先にある歴史観の終末を描いているとみるのが、もっともインスタントに導き出される理解となるのだろう。しかし、それはおそらく前作『Age Of』で試されていた世界把握の仕方であって、むしろ本作では、ジャンクの氾濫とそれが呼び寄せる「テクスチャー化」の現象に、「終末の引き伸ばし」というべき狙いが注入されているように感じる。そもそもからしてごく思慮深い(語義のもっとも豊かな意味での「ナード」である)彼は、一創作家が歴史に対して随時終焉を宣告し続けることの不遜に気づいていないはずはないだろう。それなぞは結局、歴史を診断するふりをして終末を恣意的に措定し、結果チャイルディッシュに現在の拒絶を続けてきたようなある種の反動(それはまさに加速主義等の「思想」も含まれるだろうし、ニューエイジ復権への安直な没入なども射程に収めることが可能だろう)へ回収されてしまうということに、彼はいまかつてないほど敏感になっているのかもしれぬ。「ジャンク」の波状攻撃によって終末を引き伸ばすことで、逃避から逃避し、「どうしていまこうなのか?」を問おうとする……。

 「ジャンク」と戯れ「ジャンク」を再解釈する行き方は、ある種のシニシズムとすぐさま蜜月を結びたがるものだ。しかしいま、ロパティンは内なるシニシズムをひとまずはより包括的なシニシズムで抑え込もうとしているようにも見えるし、一方で、シニシズムのプライマルな対象化を究めることで、内破的にそれと決別しようとしているようにもみえる。そして、その究明の後、彼の眼前に現れてくるであろう剥き出しの生/実存へ、自らを投げ込んでいくのかどうか……。「ジャンク」と戯れ尽くし、そこに自らも統御しえない輝きを思いがけず見出すことで、どうやらいまロパティンは自らを投企する心構えを整えはじめたのかもしれない。少なくとも、歴史の再開は深い内省からはじまるということを彼は知っているようだ。
 彼はもちろんシンガーでも、狭義の意味でのソングライターでもないが、このアルバムは、きわめてシンガー・ソングライター的である。まことに2020年的で、真摯な作品だ。

第5回 ハラキリを選ばない生き方 - ele-king

 ハッピーハロウィン。あなたがこのコラムを読んでいる頃にはもう、ハロウィンは終わっているだろう。思い立ってdocsに文章ファイルを作成した今日は10月30日。思い立っただけで書きたいことはまだ抽象的で、その抽象的な要素どうしが脳内で4次元構造を作りながら漂っているような状態だ。書き終わる頃にはクリスマスが見えているかもしれないし、一応メリークリスマスとも書いておこうか。

 ハロウィンは明日に迫っているが、世間の浮き足立った空気は今年は感じない。ここ数年の渋谷での激しい盛り上がりが嘘のようだ。去年の今頃、初めての Protest Rave を渋谷で行なった。あの熱気が遠い過去のように感じられる。世界は変わってしまったのだ。ハロウィンといえば年に一度唯一ゴスやダークな世界観のものが表の世界でフィーチャーされる、あるいは表の世界の住人に利用される日だが、そのダークな側の世界は私が日常的に接している世界でもある。そしてそのことを思っていると、なぜ私はダークな力に惹かれ、いつから私はそのダークな力に惹かれはじめたのだろうかと、思いがけず自分の人生を振り返ってしまっていた。おそらく私のコラムを読む人の大半もまたその魅力を知っている側の人だろうと思う。昼/夜、明/暗、陽/陰、天使/悪魔、ライトサイド/ダークサイド、地上/地下などと、世界はしばしば二分される。その二分された世界で私は後者に自分の居場所を見出した。

 私はクリスチャンの家庭で育った。夕食の前には神に祈り、日曜日は礼拝と教会学校に行って聖書を学んだ。自身で選択するまで洗礼は受けなくて良いという親の方針のおかげで私はクリスチャンではない。無神論者のいま、その方針には感謝している。念のために記しておくが、私は神を信じないが、宗教や他者が神を信じることを否定しない。聖書を学ぶ中で天使/悪魔という概念をまず得ることになった。その頃はビートルズが好きでよく聴いていた。
 小学校3年生のときに転校をした。二つ下の弟と両親の四人で住むには木造のアパートは狭すぎたため、郊外に引っ越すことになった。転校後に仲良くなった友人の証言によると、私は転校初日から挨拶もろくにせずにノートにずっと絵を描いていたらしい。よく覚えていない。その学校では “先生のお気に入り”(嘘つき)と喧嘩をして理不尽に怒られたことが何度かあったことを覚えている。神様は全てを見ておられます。なら証言台にも立ってくれ。その頃は KISS が好きだった。血を吐いたり火を吹いたりするのに憧れていた。他のクラスメイトはモーニング娘。を聴いていた。サンタクロースはいなかった。
 その後、順調に反抗期を迎えた私の反抗心は生物学上の親ではなく、宗教上の父=神に、そしてその宗教に向いた。悪魔という存在は、神に対する忠誠心の強化のために排他的で二元論的な価値観が生み出した存在だと私は主張していた。正統派の絵に描いたような中二病に正しい時期に罹患して良かったと思う。その頃よく聴いていたのは Dr Dre と Sean Paul、あと Marilyn Manson や Sum 41。不良の先輩の影響で Cyber Trance も少し。制服の下にバンドTや ALBA ROSA のTシャツを着て、ボタンを開けた制服のシャツの隙間から見えるTシャツの色や、背中に透かして見えるTシャツの柄で精一杯の自己主張をしていた。

 こうしてローティーンまでの人生を過ごし、中二病的な症状が治ったあともいろいろなものと何度も衝突し、そうして自我が成長していくに従い、はじめに書いた後者の世界に自分の居場所を見出していくことになった。
 良い子じゃいられなくなったとき、良い信徒になれなかったとき、お手本に忠実になれなかったとき、その決まり切った価値観から否定されたとき、そこにまた別の世界/生き方/可能性/未来が選択可能だということを示してくれたのがダークサイドのものたちだった。

 「罪を告白せよ」「神はいつも正しい」と言われ、ペニー・ランボーとスティーヴ・イグノラントは「SO WHAT!」と叫んだ。「要するに良い事ー悪い事、ホンモノーニセモノっていう二律背反で物事を考えていくと、どんどん視野が狭くなっていくのさ」と江戸アケミは諭した。彼は幼いときに洗礼を受けたクリスチャンだったが、後に棄教した。坂口安吾は『堕落論』の中で「日本は負け、そして武士道は滅びたが、堕落という真実の母胎によって始めて人間が誕生したのだ。生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道がありうるだろうか。私はハラキリを好まない」と記した。二律背反で物事を考えていくと世界は非常にシンプルになる。神の側、あるいは良い事の側、正当な手順の側、ハラキリの側、文頭に書いた前者の側は二律背反で物事を考え、それに反するものを罪/悪魔/悪いこと/ニセモノ/堕落とカテゴライズしてきた。しかし、世界はより複雑であり、前者の側は無数にある選択肢のひとつに過ぎず、そしてその集合以外の場所にも無限の選択肢が存在する。選択肢は生き方であり可能性であり、無限の選択肢は無限の未来を生む。そして無限の未来は必ず希望を内包する。坂口安吾はその「正当」と「堕落」の間に存在する人間性に対する態度の差を指摘した。前者は人間らしさを恐れるあまり規律や戒律によって、あるいは力によってそれを制限しようとする。私もハラキリを好まない。彼は続けて「堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない」と記した。私はダークな力を借りて、そのハラキリを選ばない生き方の中に自身を見出した。二律背反的な思考で大きなものに寄り掛かり、そこに自身のアイデンティティを同化させて依存していては、真に人間らしい自分らしさを発見することができないどころか、その二律背反的な思考で寄り掛かった大きなものに反する人に対しては、その存在をも攻撃し、否定するようになる。規律や戒律によって、あるいは力によって人間らしさや自分らしさが否定されるとき、私たちはそれに向かって「SO WHAT!」と叫ばなければいけない。私は私のやり方で「SO WHAT!」と叫ぶ。君は君のやり方で「SO WHAT!」と叫ぶ。「SO WHAT!」と叫んだ先にこそ二律背反から解放された自由があり、そこでのみ真に自分自身を発見し、救われることができる。江戸アケミは「救われたいんだよ。けど、宗教は嫌なんだよ。だから、何に救われたいかって言ったらリズムで救われたいんだよ」と言っていた。その救いとはまさにこの、自分自身を発見した先にある救いなのではないだろうか。「SO WHAT!」と叫んだ先には無限の可能性や未来があり、その中には必ず希望があり、救いがある。もう一度言う。規律や戒律によって、あるいは力によって人間らしさや自分らしさが否定されるとき、私たちはそれに向かって「SO WHAT!」と叫ばなければいけない。

 ゲイやレズビアンのカップルは子供が産めません。SO WHAT!
 ピンクは女の子の色です。ブルーは男の子の色です。SO WHAT!
 大麻は違法です。SO WHAT!
 日本人らしくありません。SO WHAT!
 言葉遣いが良くないです。SO WHAT!
 そんなんじゃお嫁にいけません。SO WHAT!
 タトゥーは悪の象徴です。SO WHAT!
 あなたの言動は政府の方針に反します。SO WHAT!
 So what, so what, so what, so what, so what, so what, so what, SO WHAT!!!

SPARKLE DIVISION - ele-king

 ピアノでの作曲は両腕を使って旋律を考えなきゃいけなかったから、自分には向いていなかったと、アンビエント界のスター、ウィリアム・バシンスキは英紙「WIRE」2020年11月号の巻頭インタヴューで答えている。テキサスはヒューストンに生まれたバシンスキは、クラリネットのクラシック教育を受けた。音大ではジャズ・サックスと作曲も学んだが、作曲家ではなくデヴィッド・ボウイになりたかった彼は、正統派の道からはそそくさとドロップ・アウトし、80年代のブルックリンへと引っ越し、そこから90年代にかけてニューヨークの様々なバンドをテナーとアルトで吹き渡った。
 アンビエント・シーンの巨大な分水嶺になった『The Disintegration Loops』(02)や『Melancholia』(03)といったバシンスキによるアンビエント/ポスト・クラシカル一連の代表作からは、そういった作家個人の楽器特性はあまり見えてこない。いや、むしろ彼の楽器との関係性が見えてこないからこそ、ライヒイーノ由来のテープ・ループ奏法による作曲手法は、「楽音」発生装置の使用そのものに意味を発生させ、聴き手の思弁を誘発させるワームホールを作り上げてきた(ちなみに、先のインタヴューからは、批評は自分の仕事じゃないからと、自らの作品に投じられた多くの言葉から距離をとる彼の姿を知ることもできる)。
 現在、バシンスキが居を構えるのはロサンジェルスだ。電子音楽プロデューサーのプレストン・ウェンデルと彼が組んだプロジェクトがこのスパークル・ディヴィジョンであり、結成から4年を経て発表されたのが『To Feel Embraced』である。LAでウェンデルがバイトしていたコンビニに、バシンスキがコーヒーを飲みにふらっと立ち寄ったのがすべてのはじまりだった。バシンスキのファンだったことがきっかけとなり、ウェンデルは彼のスタジオ・アシスタントとして雇われ、さらにバシンスキが、ウェンデルが取り組んでいたヒップホップやジュークに興味をもち、ふたりは楽曲制作に乗り出していった。
 スパークル・ディヴィジョン──「悦楽局(ジョイ・ディヴィジョン)」ならぬ「輝き局」である。今作には他にも数名がクレジットされており、ジャケット裏側に表記されているパーソネルは以下の通りだ:

ウィリアム・バシンスキ(エグゼキュティヴ・プロデューサー):サキソフォン、シンセ・ストリングス、ループ
プレストン・ウェンデル(プロデューサー):その他全てのシンセサイザー、ビート、グルーヴ、ループ、エンジニアリング
セリ・グラナ:声と歌詞(“To Feel Embraced”)
ヘンリー・グライムス、巨匠:アップライト・ベースとヴァイオリン(“Oh Henry!”)
ミセス・レノーラ・ルッソ、ウィリアムズバーグの女王:声(“Queenie Got Her Blues”)

 レコードの針を落とすと、60年代のアクション映画をサンプリングしたようなビート・ループからアルバムはスタートする。手法やサンプリング対象、「記憶」の観点から、バシンスキの比較対象としても参照されるザ・ケアテイカーのクラシック・ジャズのループにも通じるものがあるかもしれないが、スパークル・ディヴィジョンのそれはひときわグルーヴィである。ウェンデルが作ったビートに、バシンスキが音色の追加や組み合わせを指示する形で制作は進行していったという。そのフィーリングは昨今のLAにおけるコズミックなビート・プロダクションに限りなく近い。
 そして、バシンスキがサックスを吹いている。“For Gato”のトラック名にあるように、彼のスタイルにはアルゼンチンとニューヨークを生きたテナーの巨人、ガトー・バルビエリ(1932‐2016)のような灼熱の旋律と咆哮するフリークトーンによる破壊性が共存している。
 また、そのサックス・リードがウェンデルのダブの手法を通し非現実性を帯びる。ベルリンのミニマルなそれとは強度が異なり、ここにはLAの華やかなサイケデリアが広がっている。A面最後の二曲で展開される、2016年に星になったボウイへと捧げられているであろう “To the Stars Major Tom” から 、ラウンジ・ジャズ的な “Oh No You Did Not!” にいたる、テナーとそれを取り巻く電子的マジックによるナラティヴの変化に脱帽である。
 前半のリード・トラック “Oh Henry!” のリズムはフットワークであり、なんと伝説的前衛ベーシスト、ヘンリー・グライムスが参加している。今年の四月に新型コロナウイルスによって彼が他界したのは非常に残念な出来事だった。60年代に〈ESP Disks〉からのリーダー作『The Call』(1966)や、アルバート・アイラー・クインテット『Spirits Rejoice』(1965)への参加など、グライムスはジャズから飛翔し、自由を求め、歴史を分岐させたひとりだ。近年では2012年にマーク・リボー・トリオに参加し、『Live at the Village Vanguard』という非常に素晴らしい録音を残している(作風はパンク・ミーツ・アイラー!)。
 “Oh Henry!” の主役はもちろんベースだ。ドラムを飲み込まんとする勢いのグライムスの荒ぶるダブル・ベースが、ときに憤怒のチャールズ・ミンガスが憑依したかのごとく熱情的かつ官能的に空間をバウンドし、電子的ハイハットと三連キックとともに鼓膜をノックしまくる。ニ度目の脱帽である。
 レコードをひっくり返すと、異なる宇宙が待っている点も、メディア特性を利用した粋な演出といえる。階層化された電子音とドローンの海 “To Feel” から、今作の表題曲である “To Feel Embraced” への流れ。イギリスのヴィーカリスト、セリ・グラナダが朗誦する「抱擁を感じるために(To Feel Embraced)」というリリックとともに創発するアブストラクトなビートが、このアルバムに様々な形で登場するグライムスからボウイにいたる死者たちを壮大に弔っているかのようだ。
 そこからバシンスキは再びサックスを手にし、前半の楽曲の曲調が続いたのち、突如挿入される “Queenie Got Her Blues” ではクラックル・ノイズ混じりのジャズとともに、女性の肉声が再生される。その声の主はジャケットに映る、ブルックリンのウィリアムズバーグに住んでいたレノーラ・ルッソという人物だ。クレジットにもあるように、彼女の通称は「ウィリアムズバーグの女王」であり、常にドレスアップして通りのベンチに腰掛け、道ゆく人に声をかけるそのアイコニックなキャラクターは、地元の人々に愛された存在だったという。地元のコミュニティの慈善活動にも長年従事していたそうだ。2016年に91歳で亡くなっており、地元のメディアには彼女を称える記事が書かれている(この写真を撮ったアンナ・ジアンフレイトのホームページにミセス・ルッソの写真と紹介文がある:https://www.annagianfrate.com/index.php?/ongoing/leonora-russo/)。ブルックリンに長きに渡って拠点を置いていたバシンスキにとっても彼女は特別な存在だったのだろう。
 そこに続く “Sparkle On Sad Sister Mother Queen” は楽曲からして、同じくミセス・ルッソに捧げられているは確かだ。多くの死者が登場する今作の終曲名は “No Exit”。ここに出口、つまり終わりはなく、スパークル・ディヴィジョンはその魂たちを永遠に輝かせようとしている。
 2020年11 月13日にはソロ名義での新作リリースもバシンスキは控えている。『A Shadow in Time』(2017)、『On Time Out Of Time』(2019)に続くタイトルは『Lamentation』、「哀歌」である。それとは対照的になる形で、『To Feel Embraced』には人間たちへの愛が満ち溢れている。今作はフットワークやコズミック・ビートの単なる器用な再生産で終わっていない。ここには死者を幸福に現在に留めておく手段としての音楽のモードが安らかに、グルーヴィに描かれている。2020年、誰にとってもそのことが大きな意味を持ちうることは言うまでもない。最後に、グライムスとミセス・ルッソに捧げられたジャケットの裏側のメッセージを訳出する:

彼らが楽園で輝かんことを! さあ、 ケツが上がるうちに、みんなでカクテルを仰ごう!

interview with Yoh Ohyama - ele-king

 ゲーム音楽に対する風向きが変わった。あるいは、ゲーム音楽が現在一線で活躍する様々なミュージシャンたちのルーツになっていることが、多くの人びとに理解されはじめた。そのきっかけのひとつを作ったのが、2014年のドキュメンタリ作品「Diggin' In The Carts」だったことは間違いないだろう。同ドキュメンタリのディレクターであるニック・ドワイヤーは2017年、〈Hyperdub〉主宰コード9と共同で「Diggin'~」のレトロゲーム音楽コンピレーションを制作する。このとき ele-king はニックへの取材を通してゲーム音楽研究家 hally こと田中治久の存在を知り、そこから『ゲーム音楽ディスクガイド』の刊行へと歩みを進めるのである。
 同書はゲーム音楽を「ゲームプレイの追体験装置」ではなく、ゲームを知らなくても楽しみうる「一個の音楽」として捉え直し、40年に及ぶ歴史のなかから950枚の名盤を選びぬいた。ありがたいことにこの試みは高く評価され、本年には続刊を実現するとともに、〈Pヴァイン〉もゲーム音盤の復刻を手掛けるようになった。
 その第一弾となったのが、名だたるレア盤のひとつ「ガデュリン」(スーパーファミコン)のサウンドトラックである。大山曜氏はそのBGMの生みの親のひとり。ゲーム音楽家であると同時にプログレ・バンド、アストゥーリアスでの活動でも高名だが、その人物像には謎も多い。ふたつのシーンをまたいで活動してきた大山氏の歩みを、この機に改めて追いかけてみよう。

「ドラゴンクエスト」しか聴いていなかったんですよ。参考にしつつも、似たようには作れないと思いました。そこに自分の色が出たのが「ガデュリン」をはじめとする当時の音だったのではないかなと。

まずは、「ガデュリン」サントラ再発、おめでとうございます。

大山:古いサントラにまた光を当てていただいて、ありがとうございます。聴いて喜んでくださる方、思い出に思ってくださっている方がいらっしゃるなんて夢にも思いませんでした。実は「ガデュリン」のサントラが当時出ていたことを、ほとんど覚えていなかったんですよ。正直なところ、作ったまま埋もれているものだと思っていました。

当時のゲームサントラはアーティストではなくゲームメーカー主導で作られることも多かったので、そのせいかもしれませんね。

大山:そもそも実際にゲーム中で鳴っている音を聴いたことがなかったんですよ。僕たちは作曲だけで、データ化は別の方々がやっていたんですね。今回のリイシューにあたって初めて聴かせていただいたんですが、自分でも十何年ぶりに聴いて、面白いなと思いました。まだ「ゲーム音楽はこう作る」みたいなセオリーを持っていなかったので、戦闘シーンひとつとっても、作り方にいろいろな工夫がされていて、頑張ってるなと。むしろ、こういう尖った感じをいまやっていることに活かしたいなと思いました。

いまのご自身の作風とはだいぶ違っていると思われますか?

大山:いえ、基本は一緒だと思うんですよ。ただ、いまのゲーム音楽はまず発注があって、「なんとか風にしてくれ」と言われることが多いですが、当時はそういった依頼がなくて、何もないところから形にしていっているのが面白いなと思いました。プログレが大好きなので、出てくる音はやっぱりプログレのエッセンスがどこかに詰まっているのだと思います。変なところで変拍子が使われていたりとか、ホールトーンの音階が使われていたりとか(笑)。

旧サントラの未収録曲も、今回ご自身のアレンジという形で収録しました。

大山:ゲームの音がすごく素朴な印象だったので、それに近づけたものを今回5曲作らせていただきました。やっぱり同じCDに入る以上、あまり音質的に差が付いちゃいけないなと思ったので、チープな感じも出しつつ、いま聴いても面白いかなと思えるギリギリの線でやってみました。どうやったら当時の音源に近づくか、色々試しながら作りました。

データ化は別の方々だったとのことですが、そのあたりをもう少し。

大山:当時手掛けたゲーム音楽は、すべてそうですね。ゲーム会社さんのほうに耳コピーでデータ作成するチームがあったんです。僕らはカモンミュージック(MIDIソフト)を使っていて、作った楽曲はそのデータをお渡ししたり、あるいはテープに録音してお渡ししたりしていました。音色などもデータ作成の方々に作っていただいています。ドラムのなかった曲に、後からスネアっぽい音を足してもらったりもしましたね。

そういう意味では、アレンジャー的な役割も担ってもらっていたわけですね。

大山:ただそんな流れだったので、実は耳コピーが間違えていたのか、僕が作った曲とは音符が違ってしまっているところがあったりもします。和音が変わって、逆に面白い感じになっている曲もありましたね。あとは仕様の関係か本来16分音符のリズムが8分音符になっていたりもしました。いずれにしても、もうその音で世に出たわけだし、ゲームをプレイした皆さんはむしろその音に馴染んでいらっしゃるわけだし、そのままでいいかなと思っています。

データ作成の人と顔を合わせることは、あまりなかったのでしょうか?

大山:そうなんです。「ディガンの魔石」(1988)のデータ作成が崎元仁さんだったことなども、だいぶ後になってから知りました。もう崎元さんがすっかり有名になった後にお会いする機会があって、そのときに「実は僕がやっていました」と教えていただいたんです。

ちなみに、当時のテープがいまも残っていたりは……。

大山:今回探してみたら見つかったんですが、いや、ひどいものです(笑)。YAMAHA DX-7 などで作っていますが、いま聴かせるのはお恥ずかしいところがあります。リメイクであれば喜んでやらせていただきます(笑)。「シルヴァ・サーガ」(1992)の頃まではそういうやり方でした。Performer とかを使いだしたのは少し後で、ZIZZ STUDIO の時代になってから Cubase に乗り換えて、以降ずっと Cubase ですね。

「ガデュリン」は「ディガンの魔石」と世界観が繋がっていて、楽曲も半分ほどは「ディガンの魔石」からのリメイクになっています。やはり音楽制作にあたっても「ディガンの魔石」と関連付けてほしいというオーダーがあったのでしょうか。

大山:確かあったと思います。スーパーファミコンで出すにあたって足りない部分を補った感じだったのかなと。仕様が変わって作り替えた部分もあるかもしれません。発注の流れは同じでしたね。

リメイクとあわせて、同時に「ガデュリン」のための新曲を書き下ろして、みたいな。

大山:そういうことだったと思います。たしか「こういうシーンにこういう曲を書いて欲しい」というクライアントとの打ち合わせがあったと思うんですよ。津田(治彦、当時のフォノジェニック・スタジオの責任者)さんは全然覚えてないとおっしゃっていましたけど。ともあれ、全体の流れはプロデューサーである津田さんが把握しておられて、僕は「こういう音楽を」という指示を受けて作っていたというのが正しいと思います。

「湖のシーンです」というような文章が三つぐらいあるだけで、それを見て曲をどんどん作っていく。ゲームとほぼ同時進行で作っているので、制作途中にゲーム画面を見ることはほとんどありません。

大山さんといえば、やはりルーツであるプログレについてお聴きしないわけにはいきません。まずはプログレッシヴ・ロックとの出会いについてお教えください。

大山:14歳、中学二年生のときに『クリムゾン・キングの宮殿』と出会ったのが最初です。それからマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』。この二枚をほとんど同時期に聴いて、それまでポップスばかり聴いていたので非常に衝撃を受けたのをおぼえています。それからいろいろと漁り初めて。

エグベルト・ジスモンチにも傾倒されていたそうですね。そのあたりもアストゥーリアスのアルバムには反映されていますよね。

大山:はい。だいぶ影響を受けたと思います。

プログレ以前はミッシェル・ポルナレフにハマっておられたとか。

大山:プログレに行く少し前ですね。ポップスも色々好きだったなかで、ポルナレフがいちばん気に入っていました。アメリカンなロックよりもヨーロッパの香りのほうが好きな性分だったみたいで、それでプログレに見事にハマってしまったという感じですね。

中学生時代からバンド活動をされていたそうですが、当時はハードロックやフュージョンなどを?

大山:そうですね。友達が好きなバンドとかを。でも、四人囃子もやっていましたね。中学生のときに初めてやったバンドで。ファースト・アルバムの曲などをカヴァーしていました。四人囃子はリアルタイムで聴いていたんですが、1976~77年ぐらいからですね。『Printed Jelly』以降なので、森園(勝敏)さんが抜けた後ですね。

その少し後に、マルチカセットレコーダーで多重録音の実験をはじめられたと。

大山:18~19歳の頃ですね。高校時代はバンド活動ばかりやっていました。この頃はスペース・サーカスが好きでしたね。当時はちょうどフュージョン・ブームで、テクニカルなベーシストにあこがれたころもありました。

そこからフォノジェニック・スタジオ入社に至ったのは?

大山:23歳のときに脱サラをしまして、音楽関係の仕事を探していたところ、津田さんの会社の張り紙が石橋楽器にあったんです。レコーディングとシンセサイザー・マニュピレートの両方をやっているということで、話をうかがいに行ったら「じゃあ、来なよ」ということになって、そこで働きはじめたんです。津田さんから「実は僕もプログレ・バンドをやっていたんだ」という話を聞いたのは、その後なんです。新月の名前は知っていましたけど、門を叩いたのは本当に偶然だったんです。そこでプログレ好きに改めて火がついたという。普通のジャンルの方だともう少し違う生き方になっていたんじゃないかなといま思います。

ご入社が1985年ですね。しばらくはマニュピレータ業務が主だったのでしょうか?

大山:そうですね。特にカモンミュージックでの打ち込みが多かったです。あの頃はスタジオに呼ばれて行って、譜面を渡されて「一時間後にみんな来るからそれまでに全部打ち込んでおいて」というのが多かったです。バンド・メンバーがいるときだと大変でしたね。こっちのせいで遅れてはいけないので、必死でした。いろんな現場に行って、おかげ様でだいぶ鍛えられました。猛スピードで入力していると、見ている皆さん圧倒されて驚かれるんですよ。それで場の雰囲気が変わったりすることもありましたね。とにかく毎日やっていたので、相当早かったと思います。

マニュピレータ時代には、レベッカのお仕事を多くされていますね。

大山:呼ばれればどこにでも行っていたんですけど、そのなかで、当時とても売れていたレベッカのお仕事を数多くさせていただきました。リーダーの土橋安騎夫さんとはそれ以来の付き合いで、バンドが解散してからもお仕事でご一緒させていただいております。弊スタジオ(ZIZZ STUDIO)代表の磯江(俊道)も、その流れでレベッカと一緒に回っていたことがあったりして。ファミリーのような感じというか、僕らは土橋さんの人脈から派生した子分たちがやっている会社みたいな感じではありますね。最近はご一緒に仕事をすることはなくなっていますけど、最もお世話になったバンドかもしれません。

そうした業務のなかに「ゲーム音楽の制作」が舞い込んでくるようになったのは?

大山:単純に、当時ゲームの音を作る音楽会社が少なかったというのが、まずあると思うんです。最初に「ミネルバトンサーガ」(1987/ファミコン)の音楽をやって、それを気に入っていただけたので、続けてお仕事をいただくようになりました。フォノジェニックで請けていたのは、たぶんアーテックさんの仕事だけだと思います。

発売時期でいえば「獣神ローガス」(1987/PC-9801)が先ですが、制作そのものは「ミネルバトンサーガ」のほうが先だったのですね。

大山:そうだったと記憶しています。ゲームの音楽を作るのはもちろんこのときが初めてでした。セオリーみたいなものがまだない時代だったので、すぎやまこういち先生の作品を参考にして、どうやって三つの音で全部作ればいいのかなど、音の組み立て方を研究したりしましたね。逆にいうと、「ドラゴンクエスト」しか聴いていなかったんですよ。参考にしつつも、似たようには作れないと思いました。そこに自分の色が出たのが「ガデュリン」をはじめとする当時の音だったのではないかなと。FM音源ならもう少し多く音数を使えたと思いますが、効果音で使うから結局3音だけになったりもしましたね(筆者注:たとえば「獣神ローガス」が3音のみ)。

1987年ごろにアストゥーリアスを結成しておられます。80年代に3回ライヴがおこなわれて、第1回のライヴのときに後にバッファロー・ドーターを結成する大野由美子さんが参加しておられました。

大山:大野さんは津田さんの知り合いといいますか、フォノジェニック・スタジオに彼女のバンドがよく出入りしていたんです。それで仲良くさせていただいて。僕の曲はピアノがけっこう大変なので、大野さんにピアノを頼んで、花本(彰。新月メンバー)さんにも割と簡単なところを弾いてもらう形で、当時ライヴをやりました。彼女はピアノもヴァイオリンも弾ける方で、クラシカルな素養があるんです。当時、20歳ぐらいだったんじゃないですかね。大野さんのバンドは津田さんのところに録音に来て、色々学んでいたんだと思います。僕自身も多くを学ばせてもらいました。いい環境の仕事場だったと思います。

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現代のプログレってプログレ・メタルが主流で、いわばドリーム・シアター系列のすごく巧い人たちも数多くいるわけですが、それは真似はできないですし、そういう人たちとは違うなというのをいつも思いますね。

2回目のライヴでは、桜庭統さんの DEJA-VU と対バンをされていますね。

大山:桜庭さんとは、当時はレーベルメイトのような感じで仲良くさせてもらっていました。その後すっかり大物になられて、最近はお会いしていませんが、「竜星のヴァルニール」(2018)では桜庭さんと ZIZZ STUDIO が一緒に音楽をやらせていただいたりもして。

桜庭さんが楽曲を手がけた「アイルロード」(1992/メガCD)という作品では、音楽録音がフォノジェニック・スタジオでした。

大山:ああ、そういうこともあったかもしれません。これは僕がエンジニアをしていますね。桜庭さんがここで録らせて欲しいと相談に来たと思うんです。DEJA-VU をやっていた頃。彼はまだ学生で、フォノジェニックに手伝いにきたこともあったんですよ。

アストゥーリアス結成当時にデモ・テープを制作しておられますね。あれは市販もされたのでしょうか?

大山:そうです。ファースト・ライヴをやったときに一本いくらかで売って。売上はみなさんへのギャラに回したような気がします。音のほうはいま聴くとお恥ずかしいですね。

後の作風にはない、プログレハードっぽい曲もあったりして新鮮でした。

大山:当時作っていた曲を色々入れていたんだと思います。

デモテープには「ミネルバトンサーガ」や「ディガンの魔石」の楽曲、それに、後に「シルヴァ・サーガ」に使われる曲なども入っていますね。順序としては、ゲーム用に作った曲をアストゥーリアスに持ってきたのか、それともその逆か、どちらになりのでしょうか?

大山:まずゲームの音楽として作って、気に入ったものをアストゥーリアスで使わせていただいたという形です。フレーズを使わせていただいたりもしていますね。アストゥーリアスでの作曲とゲームでの作曲は、僕のなかですごく似ているところがあるんです。特にRPGの世界観とは通じるものがあるんですよね。湖のシーンや森のシーン、そういったもののために作るというお題があると、すごくイマジネーションが湧いてきて、自分でもお気に入りのメロディがたくさんできたんです。これはぜひ使わせてほしいと(ゲーム制作サイドに)言って、入れさせていただいたと思います。

ゲームのために作曲する場合、まず何かしら資料が来るわけですよね。

大山:当時はペラ1枚くらいの紙資料しかいただいていなくて。少しは絵もあったと思いますけど、基本的には「湖のシーンです」というような文章が三つぐらいあるだけで、それを見て曲をどんどん作っていくという。これはいまでもそうなんですけど、ゲームとほぼ同時進行で作っているので、制作途中にゲーム画面を見ることはほとんどありません。画面をみるのはほとんど最後ですね。もっとも僕自身はゲームが下手で、「獣神ローガス」も最初の面どまりだったんですけどね。

しっかり画面と合致しているかどうかは、終わってみるまで自分ではわからない。

大山:逆にいえば、こちらの思う通りに作って、それが気に入っていただけたからよかったというところですね。気に入ってもらえると、若かったので調子づいちゃって、じゃあ次はもっと気に入ってもらおうと、楽しく前向きに作らせていただいたのを覚えています。

当時はあまりリテイクなどもない感じだったのでしょうか。

大山:いまと比べるとだいぶ少ないかもしれません(笑)。昔はシーンの指定などもいまほど細かくありませんでしたし、アーテックさんもあまり発注した経験がなく、お互い手探りだったなかででき上がったものを気に入っていただいたので。ただ、「ガデュリン」のサントラはいま聴くとすごく短いなと思いますね。あれっ? もうこれで終わり? みたいな。当時はデータサイズの問題があったのかもしれません。

アーテック作品では「サイコソニック」という名義を使っておられましたが、あれはバンド名か何かでしょうか?

大山:津田さんがフォノジェニック・スタジオを会社登録するときに、音楽スタジオ以外の業務はサイコソニックという株式会社名にしたんです。それでサイコソニックとフォノジェニックを使い分けていたんだと思います。どちらも一緒なんです。

サイコソニックからシリウスAというユニットのアルバムが出たりもしていました。

大山:僕はお手伝いしただけだったのであまり記憶にないのですけど、ありましたね。津田さんが手がけてCDになっていましたね。ああ、そういえば津田さんのバンドで「Phonogenix」というのがありましたね。

1988年に岡野玲子原作コミック『ファンシィダンス』のイメージ・アルバムで『雲遊歌舞』というのが出ているのですが、そこに Phonogenix 名義の楽曲が1曲ありますね。手塚眞さんがプロデュースされていて、メンツがかなり豪華なんですよね。

大山:これ面白いですよね。サエキけんぞうさんとかも入っていて。ライヴをやった記憶もありますね。

Phonogenix の活動はどのような感じだったのでしょうか。

大山:津田さんと花本(彰。新月メンバー)さんが中心で、バンドとしてレコードを出していた他に、手塚眞さんと仲が良かったこともあって、そちらからお仕事をいただいたりとかしていましたね。そんなにしょっちゅうライヴをやったり制作をしたりということはなかったかと思います。依頼があればチームでやっていました。

アストゥーリアスで3枚のアルバムを発表しておられますが、その後しばらく休眠期間に入っておられます。

大山:アルバムがあまり売れなくて、〈キングレコード〉との契約期間も終わり、それでいじけて9年間休んでいたというところです。

1996年ごろに、Soul Bossa Trio のアルバムに参加しておられましたね。

大山:はい。(東京パノラマ)マンボボーイズの方ですよね。マニュピレートで参加させていただきました。スタジワーク中心で。この頃は呼ばれればどこへでも行って、ということが多かったですね。ゲーム音楽を再び作るようになったのは、ZIZZ STUDIO がはじまったあたりからですね。色々と依頼をいただいて再び作るようになりました。

ZIZZ STUDIO が初参加したニトロプラス作品「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」が2000年ですね。大山さんが ZIZZ STUDIO に参加することになった経緯は?

大山:僕は1994年ごろにフォノジェニック・スタジオを辞めていて、磯江くんもその後に辞めているんですが、彼がゲーム音楽業界を開拓していって、ニトロプラスさんとお付き合いができて、それで手伝ってくれないかみたいな話が来たのが「Phantom」あたりからだったと思います。いまは社員ですが、当時はお手伝いだけだったんです。磯江くんがいなければゲーム音楽の世界とは交流がなかったですね。ZIZZ STUDIO と出会えたことを感謝しています。

ニトロプラスさんという先鋭的なメーカーとのタッグで、ZIZZ STUDIO の存在感はより強まったように思います。

大山:そうみたいですね。当時新進メーカーだったニトロさんは、すごく音楽に力を入れている会社で、とことんやってくれと言われて。BGMを打ち込みだけで済ませてしまうところも多かったなかで、とにかく全部に生楽器を入れてくれと。そんなに予算がなかったので、自宅でギターやベースを弾いたりして。それでニトロさんやお客さんに喜んでいただいたのが、いまにつながっている感じがします。

とても低予算とは思わせない、高密度な音だったと思います。

大山:実際のところは、採算度外視でやっていたようです(笑)。弊スタジオが現在の場所に移転したのは7~8年前なんですけど、それ以前は磯江くんの自宅でした。いまこの場所で使っている2畳の防音ブースが、当時は古ぼけた一軒家にありまして、そこで何でも録っていましたね。いまは下の階にフォーリズムを録れる広いスタジオがあって、このブースではたまに歌を録ったりするくらいですが、2000年ごろはこれがフル稼働していました。何かというとこれで録って、生楽器を使っているぞというのを売りにして、ZIZZ STUDIO は頑張っていたのだと思います。

アコースティック・アストゥーリアスの結成もその流れですよね。生楽器のアコースティック編成でのバンドというのが、素晴らしいなと思いました。

大山:ZIZZ の仕事で、ヴァイオリン、クラリネット、ピアノの方々と知り合いまして、それでチームを組んだんです。最初はお願いしてやってもらっていたんですけど、やがてうまく息が合ってきたという感じですね。とにかく生楽器を売りにしている会社ですので、ここにいると色んなミュージシャンとの出会いがあります。

1980年代のアストゥーリアス結成時のプログレ観と、2000年以降のエレクトリック・アストゥーリアスの結成以後とでは、プログレ観は変わりましたか?

大山:だいぶ変わったと思います。多重録音でもやってはいますけど、基本的に4~5人編成の生演奏ですから、それだけしかパートがないという構造的な違いもありますし、実際にライヴでやると緊張感もありますし。海外にもけっこう行かせていただきまして、反応を見るにつけ、変わったバンドなんだなというのは実感しますね。現代では「ロック・バンドの人たちによるプログレ」が多いと思いますが、うちのメンバーはそうじゃないので、そこも変わっていますね。そういう人たちが作る音というのが出てくるんだろうなと思います。

アコースティック・アストゥーリアスも他にない感じですよね。

大山:ああいう形でプログレをやろうとはなかなか思わないですよね(笑)。海外のお客さんはビックリしていましたね。なんだこれはという感じで。現代のプログレってプログレ・メタルが主流で、いわばドリーム・シアター系列のすごく巧い人たちも数多くいるわけですが、それは真似はできないですし、そういう人たちとは違うなというのをいつも思いますね。

いまはなんでもヴァーチャルで出せるようになりましたが、やっぱりアナログ・シンセが使っていて楽しいですね。

ゲーム音楽のなかでプログレをやるということについてはどう思っておられますでしょうか? ゲーム業界には隠れプログレ・ファンが多いような気がします。

大山:ゲーム音楽はそれを避けては通れない感じがありますね。

そのなかでもキース・エマーソンの影響はかなり大きいのではないかと思います。大山さんもその影響を受けたものを作られていますよね。

大山:はい。もちろん僕も大好きですね。いまやゲーム音楽だけじゃなく、NHK大河ドラマの「平清盛」に “タルカス” が使われたりもして、昔だと考えられない状況ですよね。いま思えば90年代は冬の時代で、これは裏話ですけど、当時は仕事のときに「普段プログレをやっています」とは言いにくい空気もすごくあったんですよ。2000年代からは、ゲームとのつながりでプログレが認められてきたというところもありますよね。

ゲーム音楽ってジャンル的になんでもありというところがあるので、それで受け入れる人も増えてきているのではないかと思います。

大山:クラシックとかジャズとか、いろんな素養が必要になってくるので、普通のロック・バンドの人ではちょっと対応できないのがゲーム音楽というか。プログレあがりの人がみんなこっちに流れてきますね(笑)。

近年は、プログレ・フェス《PROG FLIGHT》にも携わっておられますよね。

大山:主催の栗原務さん(Lu7)に頼まれて、企画のお手伝いをさせていただいている感じですね。栗原さんと僕とで好きなプログレが違うので、互いの意見をすり合わせて出演バンドを決めたりしています。今年はちょっとできないですけど。

空港のなかにある会場もいいですよね。

大山:ありがとうございます。250人のキャパですけど、第1回(2017年)をやるときに「お客さんを満員にできるかな?」という相談を受けて、難波弘之さんを呼んだりしたんですよ。満員になってよかったです。あの規模で席が埋まるのは素晴らしいですね。90年代には考えられなかったです。老若男女、若い人も増えていますね。

ゲーム音楽経由でプログレを知る若い人は増えていると思います。最後に、お好きなシンセサイザーはなんでしょうか?

大山:一通り使っていましたけど、Roland の SUPER JUPITER とか、あれはいまでも持っていますね。いまはなんでもヴァーチャルで出せるようになりましたが、やっぱりアナログ・シンセが使っていて楽しいですね。

ありがとうございました!

Today’s Latin Project - ele-king

 昨今は「和モノ」がひとつのブームである。「和モノ」と言っても「和ジャズ」から歌謡曲にニュー・ミュージック、アニソンなど幅広いが、ここのところは1980年代のシティ・ポップやAOR系にはじまり、アンビエントやニューエイジ系などにも注目が集まっている。このあたりの作品は日本国内でも中古盤市場で人気となっているが、さらに海外からも注目され、モノによっては海外レーベルからリイシューされることもある。細野晴臣、井上鑑冨田勲、久石譲などは以前から評価の高い音楽家であるが、こうした「和モノ」の視点で再び作品が脚光を集めている。「和モノ」の中古レコードが人気となるにつれてディスクガイド本もいろいろ出てきているのだが、昨年に松本章太郎氏監修のもと『和レアリック・ディクガイド』という本が出ている。
 「和レアリック」とはバレアリックと「和モノ」をかけた造語だが、デジタル化が進んだ1980年代のフュージョンやニューエイジ系サウンドには、いまでいうところのバレアリックなムードと通じるものがあったということだ。『和レアリック・ディクガイド』は本から派生してレコードのリイシューも行なっており、第一弾の井上鑑の『カルサヴィーナ』に続き、1983年にリリースされたトゥデイズ・ラテン・プロジェクトのアルバムがCDにて復刻された(1983年当時はレコードのみのリリースで、今回が初のCD化でもある)。

 ラテン音楽はもともと日本発祥の音楽ではないがゆえ、「和モノ」の中でも異色の存在ではあるが、そうした中で1949年の東京キューバン・ボーイズ結成以降、日本におけるラテンの第一人者として牽引してきた見砂直照を中心としたプロジェクトがトゥデイズ・ラテン・プロジェクトである。
 ラテン音楽が日本でブームとなったのは1950年代から1960年代頃で、そもそもダンス音楽として広まっていった。ルンバやマンボなど当時のダンス・ミュージックの主流はラテンであり、歌謡曲、流行歌、ジャズにもラテンは多く取り入れられた。ただし1970年代以降はロックやファンク、ソウルやディスコなどに押されて若者の聴く音楽ではなくなっていた。そうした中で若い人たちにいま一度ラテン音楽の魅力を伝えようと、トゥデイズ・ラテン・プロジェクトは生まれた。取り上げる作品は “エル・クンバチェロ” や “シボネイ” などラテン音楽の古典が多いのだが、ただそれを伝統的に演奏するのではなく、1983年当時の最先端のアレンジによって新しいラテン音楽として提示していくというのがこのプロジェクトのテーマである。
 楽曲によってアレンジャーがつき、元東京キューバン・ボーイズのピアニストの植原路雄のほか、新しいサウンドの担い手として選ばれたのが大谷和夫と清水靖晃である。大谷和夫もメンバーだったショーグンは松田優作の『探偵物語』や沖雅也らの『俺たちは天使だ!』の音楽でも知られる和製ロック・バンド。一方、清水靖晃は自身のバンドのマライヤでの活動が知られるジャズ・サックス奏者で、坂本龍一も在籍した渡辺香津美のKYLYNバンドや佐藤允彦のメディカル・シュガー・バンクなどにも参加して日本のフュージョン界を牽引したひとり。当時のジャズ~フュージョン界はデジタル化が顕著で、トゥデイズ・ラテン・プロジェクトはそうしたデジタル・アプローチによるアルバムとなった。参加ミュージシャンも納見義徳のようなラテン出身者がいる一方、向井滋春、ボブ斉藤、古城マサミなどジャズ、ロック、フュージョン、ポップス、ニュー・ミュージックと幅広い分野のメンバーが集まった。

 いわゆるラテン・フュージョン的な “ジャングル・ドラム” にはじまり、メロウなイージー・リスニングの “グリーン・アイズ” はいかにも1980年代らしいキラキラしたトロピカルな風景が浮かんでくる。“シボネイ” の透明感に満ちたキーボードも80年代らしいもので、クリア過ぎるがゆえのどこか作り物的な薄っぺらさがある。本物ではないイミテーションというか、そうした疑似ラテン的な世界がトゥデイズ・ラテン・プロジェクトである。マーティン・デニーやアーサー・ライマンなどのエキゾティック・サウンドにも共通するが、ラテン音楽は日本人にとってはあくまで外の世界の音楽であり、そうした未知なるものへの興味や憧れを具現化した音楽が疑似ラテンとなっている。
 “ヒンドゥ” や “ダンサ・ミルク” はニューエイジ的な要素も持つ楽曲で、和製バレアリック・サウンドと再評価できる楽曲だ。たとえば現在のデジタル・クンビアとかトロピカル・ベースなどと比較して聴いてみると、トゥデイズ・ラテン・プロジェクトのサウンドがいかに先を行っていたのかわかるだろう。これらバレアリック系の作品のアレンジは清水靖晃が行なっているのだが、本アルバム中の唯一オリジナル曲となる “ピグミー・ランド” も彼の作曲で、ラテン風味のニューウェイヴ・ディスコとでもいうような作品となっている。当時はUKのファンカポリタンやピッグバッグ、USのキッド・クレオール&ザ・ココナッツやコンクなど、アフロやラテン・ジャズと結びついたオルタナティヴ・ディスコやエレクトロ、ポストパンク~ニューウェイヴ・ディスコの中でも特にパーカッシヴでトライバルなサウンド、あるいはファンクとラテンが結びついたファンカラティーナなどが世界に広がっていたのだが、トゥデイズ・ラテン・プロジェクトはそうした切り口からも再評価できるのではないだろうか。

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