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Jam City

ElectronicNo Dream PopNo Hypnagogic PopPost Riot PopSynth-pop

Jam City

Dream A Garden

Night Slugs/ビート

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野田努 Mar 30,2015 UP
E王

「雑草は、静かにその庭に乱入するのだ」
ジャック・ラザム

 彼らがあらかじめ悲観的だったことを君がまだわからないと言うのなら、僕は君の首根っこをつかまえて、目の前にOPNの『レプリカ』のジャケを叩きつけてあげよう。終わりなき複製空間のなかで君が手にした鏡に映る骸骨こそ、そう、君自身の姿だ。2012年にジャック・ラザムがジャム・シティ名義で発表した『Classical Curve』を思い出して欲しい。君はあのとき、J.G.バラードの小説の主人公のように、都会の夜の、大企業のビルの巨大なエントランスのぶ厚いガラスにバイクごと突っ込んだ。中庭の植物が暗闇のなかの不気味な生き物のように見える。ジャンクメール、ジャンクフード、ジャンクワールド、ジャンク・ミュージック……カーテンを閉めて無料のオンライン・ポルノ動画を見ている、ピンク色の空の下……

 エレキングのvol.16の巻頭ページに、僕はどうしてもジャック・ラザムの最新写真を載せなければならなかった。トレンチコートを着て、彼は墓場の真ん中につっ立っている。いわばゴスだ。コートには、彼自身の手製のパッチワークが見える。腕には「 LOVE IS RESISTANCE(愛は抵抗)」という言葉が巻かれている。胸には「PROTEST & SURVIVE(抗議して生き残れ)」と書かれている。僕は思わず笑ってしまった。
 笑って、そして押し黙ったまま、ジャム・シティのセカンド・アルバムを聴き続けた。タイトルは『庭を夢見る』。ヒプナゴジックなイントロダクションを経て、ノイズとビートとシンセ音と、アンビエントとベースと、さまざまなものが混じり合い、やがてラザムの物憂げな歌が入って来る。

 この世界には狼が入り込んでいて
 その牙を午後の布団カバーに食い込ませてる
 でもこれは彼には初めてのことじゃない 
“A Walk Down Chapel”

 チルウェイヴと呼ばれるものもインダストリアルと呼ばれるものも、逃避主義であることに変わりはない。ダーク・サウンドもまた然り。EDMも、テクノも、ハウスも、ダブステップも、ダンスを通じてエクスタシーを得るという体験においては同じものであるように。
 もともとポップ・ミュージックそれ自体が夢の劇場だ。過酷な現実から逃れたいがために人は音楽を聴く。それを政治的無関心と括るのは乱暴だろう。
 『庭を夢見る』は、そういう意味で掟破りの1枚だ。ここには、逃避でも快楽でもなく、「ステイトメント」がある。それはパンク・アティチュードと呼ばれうるものかもしれない。『Classical Curve』は音響/ビートの作品だったが、ラザムは今作においてそこに言葉と歌を加えている。
 それが望まれたものだったのかどうかはわからない。バイクごと突っ込まれて粉々になったガラスのように、衝突して、砕け散ったUKガラージの、インダストリアル・シンセ・ファンクを期待していたかもしれない。『庭を夢見る』はクラブ・フレンドリーなアルバムとは言えない。
 しかし、ここには望みはしなかったが逃れがたい感動があるのだ。



 歌のなかでラザムは「僕らはアンハッピー(不幸)なのか?」と繰り返す。vol.16のインタヴューで、「これはファレル・ウィリアムスの“ハッピー”への回答なのか」という問いに対して、「そうではない」と彼は答えた。そう捉えてもかまわないけど、僕はファレルが大好きだとラザムは語っている(このインタヴュー記事はぜひ読んでいただきたい。階級社会について、ブレイディみかこと同じ意見を彼は述べている)。
 アルバムは、しかしアンハッピーではない。僕の大きな間違いは、ビートインクからコメントを急かされたとき、深く聴き込みもせずに、これを「メランコリー」などと表現してしまったことだ。

 少し前まで僕はコンピュータを操る子供だった
“Today”

 ハイパー大量消費社会がディストピアにしか見えなくなったとき、ドリーム・ポップと政治的抗議は、不可分になりうるのだろうか。チルウェイヴと路上での直接行動は適合しうるのだろうか。部屋のカーテンに火をともせと彼は歌う。矛盾を受け入れろ。アルバムの言葉は彼と同世代、つまり若者に向けられている。“Crisis”は、おそらく4年前の暴動に関する歌だ。

 君はマイ・ガール
 君を破壊者と呼ぶ人もいるだろう
 だけど悲しみだけじゃ君は満足できないんだ
“Crisis”

 シニシズムというものがここにはない。望みはしなかったが逃れがたい感動と僕は先述したが、アホみたいな言葉に言い換えれば、それは彼の純真さである。僕がぼんやりとしている間に、こうして君は、空からひとつそしてまたひとつ星が消えていくことを知った。壊されて、砕け散ったコンクリートがジャケットの上に散らかっている。何を取り戻すべきかは、ラザムにはわかっている。庭だ。美しい心が絶え間なく悲鳴を上げている。星々が消えていくのを見るためだけに生きているのではないと、この夢想家は歌っている。このアルバムは新しい商品ではない。論理的なネクストだ。
 庭を夢見る──なんて暗示的なタイトルだろう。

野田努