「ele-king」と一致するもの

Brian Eno & Peter Chilvers - ele-king

 先日、観るたびに内容が変わるドキュメンタリー『ENO』の公開が話題となったブライアン・イーノ。映画にまで「ジェネレイティヴ=自動生成」を導入するその徹底ぶりには脱帽させられるけれど、彼が長年にわたり探求してきたそのアイディアのひとつの到達点が、ピーター・チルヴァースとともに開発した2008年のiOS用アプリ「Bloom」だった。
 基調音と最低限の音素材が流れるなか、ユーザーが画面をタップするとそれに応じて新たにサウンドが加えられていくというインタラクティヴなそれは、2018年にARインスタレーション「Bloom: Open Space」へと発展、同年には10周年記念ヴァージョン「Bloom: 10 Worlds」も発売されている。
 その「Bloom」をスタジオ作品として再構築したのが、去る1月31日に配信開始となった『Bloom: Living World』だ(ちなみに、ややこしいが、同作を5分34病の長さにエディットした曲が “Bloom: Small World” で、ようは先行シングルみたいなものだろう、こちらはすでに昨年10月、Amazon Music Originalsでリリースされていて、今回その他のサーヴィスでも解禁されることになった)。
 まあようするに、二度とおなじ体験ができないサウンドをひとつのかたちに固定した『Bloom: Living World』は、イーノの新しいアンビエント・アルバムとして楽しむこともできますよ、と。いまのところYouTube、Spotify、Apple Music、Amazon Musicなどのサーヴィスで試聴可能、ぜひお試しあれ。

Bloom: Living World (Video Edit)

Bloom: Recorded 4th June 2024

BRIAN ENO

ブライアン・イーノとピーター・チルヴァースが開発したジェネレーティブ・ミュージック・プレーヤー「Bloom」がスタジオ作品『Bloom: Living World』としてすべてのデジタル音楽サービスで配信スタート!

ジェネレイティヴ・ミュージックとアンビエント・ミュージックのパイオニアであるブライアン・イーノは、スマートフォンが新しく登場した時にスマートフォン・アプリがもたらす可能性を即座に見抜いた。2008年、彼はソフトウェア開発者のピーター・チルヴァースと共に、あらゆるスマートデバイスで楽しめるジェネレイティブ・ビジュアル・ミュージック・アプリ「Bloom」を開発。様々な受賞歴もあるこのアプリは、イーノのオリジナルの音楽とビジュアルを活用し、ユーザーは画面をタップするだけで精巧なパターンやメロディーを探求することができる。

発表から16年経っても新鮮さと関連性を保ち続けているアプリはそう多くない。長年にわたり映画やテレビで使用され、新機能が追加されながら進化し、2018年には10周年を記念した拡張版「Bloom: 10 Worlds」が誕生。そして同年には、アムステルダムのThe TransformatorhuisでBloom: Open Spaceが開催された。このインスタレーションは、イーノにとって初となる拡張現実(AR)を用いた試みで、ホロレンズを使用しその場でのジェネレイティブな音楽体験ができるものであった。

Bloom: Living Worldは「Bloom」をスタジオ作品として再構築し、1時間の録音に微妙な音のタッチを加えた楽曲。そして、Bloom: Small Worldは、この体験を5分34秒という簡潔な時間に凝縮している。2024年10月にAmazon Music Originalsとしてリリースされたこの作品は、最初の3ヶ月で1700万ストリーミングを突破し、2025年1月31日にはすべてのデジタル音楽サービスでリリースされる。

音楽に合わせて、同じくアプリから生成されたオリジナル・ビデオ編集が行われ、YouTubeの総再生回数は12万回を超えている。

Brian Eno & Peter Chilvers - Bloom: Recorded 4th June 2024
https://youtu.be/uwfudk4jftI

Brian Eno x Bloom - Bloom: Living World (Video Edit)
https://youtu.be/veLbUg6Uatc

各種リンク
https://linktr.ee/brianeno

ブライアン・イーノは、自身のクリエイティブな人生を描いた新作ドキュメンタリー映画「Eno」の中で、それぞれの楽曲を制作する際のアプローチについて、「新しい世界を創造すること」と考えていると説明している。Bloom: Living Worldでは、このアプローチがエレガントかつシンプルに表現されている。

Meitei - ele-king

 日本アンビエント界の人気者、冥丁の新着情報です。2023年にデジタル配信のみで発表されていた「室礼(しつらひ)」が〈KITCHEN. LABEL〉から12インチとしてリリースされます。“立春” “立夏” “立秋” “立冬” と二十四節気をテーマにした作品で、700枚限定の白のカラー・ヴァイナル、発売は3月7日です。
 またこれを記念し、京都と東京ではライヴも開催されます。3月8日(土)@京都文化博物館別館ホール、3月9日(日)表参道WALL&WALL、後者はなんとジム・オルーク石橋英子とのツーマン! 音源とライヴとでは表情が変わる冥丁、未見の方はこのチャンスにぜひ。

冥丁『室礼』(限定12インチ・ヴァイナル)
3/7(金)リリース

デジタル配信のみで発表していた、「二十四節気」をテーマにした冥丁のミニマル・ピアノ・アンビエント作品『室礼』が限定12インチ・ホワイト・ヴァイナルとしてKITCHEN. LABELよりリリース。日本古来の印象をモチーフにしたサウンドで脚光を浴びる音楽家・冥丁が、古の文化を現代に訳しその概念を届ける”WARA”のために制作した楽曲集。

発売日: 2025年3月7日(金)
アーティスト:冥丁
タイトル:室礼(読み仮名:しつらひ)
フォーマット: 国内流通盤12インチ
本体価格 : 4,400円(税込)
レーベル:KITCHEN. LABEL
流通 : p*dis / Inpartmaint Inc.
*限定700枚プレス
*カラーヴァイナル(ホワイト)
https://www.inpartmaint.com/site/41084/

冥丁 『室礼』 TOUR
3/8(土)京都・京都文化博物館 別館ホール
3/9(日)東京・WALL&WALL

MORE INFO : Inpartmaint Inc.
https://www.inpartmaint.com/site/41061/

失われつつある日本の情緒を再解釈し新たな音の領域を構築する広島在住のアーティスト冥丁が、日本の「二十四節気」をテーマにしたミニマル・アンビエント作品『室礼』の限定12インチ・ヴァイナルの発売を記念した国内ツアーを東京・京都の2都市で開催!

DESIGNED BY RICKS ANG (KITCHEN. LABEL)

【京都公演】
■日時:2025年3月8日(土)開場 17:30 / 開演 18:00
■会場:京都文化博物館 別館ホール(京都市中京区三条高倉)
■料金:前売 ¥5,000 / 当日 ¥5,500 (全席自由/税込)
■出演:冥丁
■チケット販売
LivePocket
https://t.livepocket.jp/e/20250308_meitei
■主催・お問い合わせ:night cruising
https://nightcruising.jp/
E-Mail: info@nightcruising.jp

Tel: 050-3631-2006(平日12:00-18:00)

【東京公演】
冥丁/ジム・オルークx石橋英子 -a part of ”室礼” Tour-
http://wallwall.tokyo/schedule/20250309_meitei_jimorourke_ishibashieiko/

■日時:2025年3月9日(日)開場 17:30 / 開演 18:30
■会場:WALL&WALL(東京都港区南青山3-18-19フェスタ表参道ビルB1)
■料金:
前売 ¥4,000 +1drink ¥700[販売期間:3/8 18:00まで]
当日 ¥5,000 +1drink ¥700[販売期間:3/9 17:30〜]
■出演:冥丁 / ジム・オルーク×石橋英子
■チケット販売
e+(イープラス)
https://eplus.jp/sf/detail/4258470001-P0030001
■主催・お問い合わせ:WALL&WALL
http://wallwall.tokyo/
E-MAIL : info@wallwall.tokyo
TEL:03-6438-9240

Yetsuby - ele-king

 韓国のエレクトロニック・デュオ・Salamandaの一員としても知られるDJ/プロデューサーのYetsuby(イェツビー)が、アルバム『4EVA』を3月26日にイギリスの〈Métron Records〉の新たな姉妹レーベル〈Pink Oyster Records〉よりリリースする。

 サラマンダ自体はベッドルーム的なサウンドスケープにもとづいたアンビエント~エレクトロニカに近接した作品をいくつかリリースしているが、メンバーのUman ThermaとYetsubyはそれぞれがDJとしてもソウルのクラブ・シーンを大いに盛り上げており、Umanはマシンドラムの韓国公演を、Yetsubyはエヴィアン・クライストの韓国公演をサポートするなど、ローカル・プレイヤーとしても支持を得ている(昨年11月にはAlbino SoundとRomy Matsたちによる〈解体新書〉へ、ふたりともDJセットで来日していました)。

 本作『4EVA』はレフトフィールド・ベースやブレイクビーツ、フットワーク、ジャングル、IDMといったジャンルを横断的に織り交ぜたコンテンポラリーなクラブ・ミュージックがヴァラエティ豊かに収録された内容となるようだ。先行シングルとして収録曲〝Aestheti-Q〟も先行公開中。

Teebs - ele-king

 〈Brainfeeder〉のティーブスが約12年ぶりとなる来日を発表している。2月21日(金)に渋谷・WWW Xにて開催されるイベント〈4D with Teebs + Yuma Kishi〉に出演。空間/映像表現にスポットを当てるイベントシリーズ「4D」の特別編として、みずから開発したAIを用いた表現をおこなう現代美術家・岸裕真とのコラボレーションとなるようだ。

 本公演はメイン・フロアの全出演者がオーディオ・ビジュアル・セットでのライヴを披露する特別な内容となり、日本からはDaisuke Tanabe + Reiji Saito、E.O.U + jvnpey、Friday Night Plans + Leo Iizukaが出演し、ヴェテランから新星までが出揃う形となる。また、WWW Xのサブ・フロアとしてしばしば開かれる4階フロアにもさらなる出演者の追加が予定されているとのこと。こちらは後日発表となる。

 前売チケットはすでに発売中。さらなる公演詳細については下記を参照いただきたい。

4D with Teebs + Yuma Kishi

2025/02/21 FRI 17:00 at WWW X
U23 ¥3,000 / ADV ¥3,800 / DOOR ¥4,300 (+1D)
TICKET: https://t.livepocket.jp/e/20250221wwwx

LIVE A/V

Teebs [LA / Brainfeeder] + Yuma Kishi
Daisuke Tanabe + Reiji Saito
E.O.U + jvnpey
Friday Night Plans + Leo Iizuka
(+ 4F FLOOR TBA)

協賛: Cyran

Teebs [LA / Brainfeeder]

 長年にわたりTeebsは完璧なアーティストとしての地位を確立してきた。圧倒的なユニークなスタイルで、彼のアイデアは、エーテルの曇った隠された領域から、媒体を通してキャンバスにまっすぐ流れてくるようだ。プロデューサーとして、また画家としてのスキルを反映した彼のプロジェクトは、完璧な一貫性を持ち、人を彼の創り出す世界に深く引き込む。何層にも重なり、果てしなく瑞々しいTeebsの音楽は、超現実的な方法で心と体に語りかけ、最終的にはリラックスし、好奇心と戸惑いを同時に残す。My Hollow Drumコレクティブ、Dublab、Low End Theoryをルーツに持つTeebsは、ロサンゼルスの音楽界を代表する存在だ。Flying LotusのレーベルBrainfeederのレーベルメイトの協力のもと、彼は間違いなくLA内外から進化し続ける多くの新しいサウンドにインスピレーションを与えてきた。Brainfeederからの2枚のフル・アルバムと1枚のミニ・アルバム、DaedelusやJeremiah Jaeらとの複数のスプリット・アルバムやコラボレーションEP、My Hollow Drumからの2枚の限定CDなど、過去9年間にリリースされた作品には畏敬の念を抱かせている。また、ビートのパイオニアであるPrefuse 73と共にSons of Morningの片割れでもある。

 2010年に絶賛されたデビュー作「Ardour」に続き、Teebsは「Collections」(2011年)、「Estara」(2014年)、そして5年間の活動休止を経て2019年に最新アルバム「Anicca」をPanda Bear (Animal Collective)、Sudan Archives、Ringgo Ancheta aka MNDSGN, Miguel Atwood-Ferguson, Anna Wise等の多くの音楽仲間の協力を得てリリースしている。

https://www.instagram.com/teebs__

aya - ele-king

 aya——2021年年末のデビュー・アルバム『im hole』のインパクトがいまだに忘れられない人も多いでしょう。そこで、嬉しいニュース。待望のayaのセカンド・アルバム『hexed!』が出るのですが、これ、期待にじゅうぶんに応えている。2025年、動き出しています……

 以下、レーベル資料から

 『hexed!』は——ayaのセカンド・アルバムは依存の絶望と崩壊に真正面から向き合う。内面化された恐怖症や抑圧されたトラウマが、かつて2021年の『im hole』でロマンティックに描かれた廊下や“ゴールデンアワー”をさまよう。夜通しのアフター巡りやキー・バッグの輪の中に隠された白昼の悪夢。『hexed!』とは、ayaがその明かりを灯したときに起こるすべてのこ。。
 私たちは早朝からクラブに押し寄せ、最初のシングル「off to the ESSO」をリリースした。ラップの歌詞は、チューブラインやライフラインを包み込む弾力性のあるもので、蛇行するベースの揺れはドラッグ中毒者の欲望の道を切り開く。全盛期のHatebreedがKevin Martinのミキサーにかけられ、ハードダンスフロアへと召喚されたサークルピット。クィアな献身の甘やかな果実——「リンゴを半分に切って / 交互にかじりながら午後を過ごす」——はゆっくりと腐りゆく。互いの“sic(病)”を育みながら、自傷のサイクルに絡み合うカップル。“peach”はBDSMコアであり、マルキ・ド・サド装置としてのayaは、プログラムされた鞭で主人と奴隷の二元論を斜めに叩く。一方で彼女は痰を絡ませながら呟く“navel gazer”。鼻から漏れるephlegmera(痰とエフェメラ)、皮肉たっぷりのワードプレイ、そして過渡期以前の過去が、濃縮されたBASSの魔法釜のなかで煮えたぎる。
 “heat death”は静的/静止の黒ミサで、その熱狂的なパニック発作は崇高なものとの交わりを引き起こす。それは“hexed!”と“The Petard is my Hoister”においてフーガのようなノイズを伴いながらドローンの不協和音として響き渡る————まるでPortalやKralliceを生み出した虚無が吐き出したかのように。パルサーの爆発を呼び寄せ、重厚なブラスを打ち鳴らすayaは、暗黒の玉座にまたがっている。ガシャガシャと鳴る打楽器、錆びついた軋み、闇の中の囁き——“droplets”は、まるで95〜99年のSlipknotを息苦しいTotal Freedomのエディットに押し込めたようなものだ。敗血症を患ったIncubusが巣食うこのニューメタルの物語は、かゆみを伴い、煮えたぎり、膿み、息づいている。ayaが再訪するのはヨークシャーの村で迎えた悲しい11月、あの10代の記憶だ。
 反抗的なDeftonesのメロディが解放へと導く。それは、エンジェルダストの注射のように、彼女の“vaynes”から毒の泥を洗い流していく。引き裂かれる喉が叫ぶ“Time at the Bar”ではBABYMETAL的な「カワイイ」が交差する。(sl)ayaは、郊外の退屈な2.4人家族的均質性に呪いの乾杯を捧げながら、ジェットコースターのようなJoey Jordisonのドラムソロ、SOPHIEのウォータースライド、テク・ガバ・グラインドのドッジム(バンパーカー)の pileup、そしてトリルを響かせるArca-deゲームの中を駆け巡る。彼女は、捨て去られた自分の亡霊たちの首を掲げ、金属的すぎるブラストビート/ブレイクビートの左手の小道へと分岐する——

aya
hexed!

Hyperdub – March 28, 2025
HDBDLP069 – LP / Digital

FKA twigs - ele-king

 00年代前半、サウス・ロンドンから勃興したグライムは警察権力の介入を何度も受けていた。建前は暴力の取締りで、本当のところは人種差別が根底にあったとされている。同時期にシェフィールドではグライムと同じくUKガラージから派生したベースラインが同じ憂き目に合っていた。具体的にはベースラインの中心地だったクラブ、ザ・ニッチ(the Niche)が05年に強制捜査の末に閉鎖され、4年後に再オープンしたものの、19年には完全に閉鎖へと追い込まれている。グライムはパーティやイベントを行う際に主催者の個人情報をすべて警察に提出し、想定される客層の人種も報告しなければならなかったものが、09年までにはそのような規約が表面的には撤廃されると発表されただけで、実際には似たよう措置が続けられたため、「家で聞くグライム」が提唱されたり、USヒップホップと結びつくことで過剰にマッチョ化するなど音楽性に多大な混乱をきたしたのに対し、ベースラインは10年代に入るとハウスの比重を増した音楽として生き残りを図ったことで急速に退屈な音楽になってしまう。ペイルフェイスやビッグ・アング(Big Ang)が生み出した魅惑のチューンは08年を境に雲散霧消し、グライムのように粘りに粘ってナショナル・チャートに届く曲を生み出すどころか立ち消えとなってしまったのである(ちなみにグライムの騎手だったディジー・ラスカルがやはり08年にベースラインのリミックスを含む “Dance Wiv Me” をリリースしたことはちょっとした驚き)。

 流れを変えたのは05年に艶やかな “Rider / Random” というヒット・チューンを出したDJ Qが、ザ・ニッチのクローズする2年前に『Pure Bassline』と題してベースラインの新曲をまとめたミックスCDをリリースしたこと。どん底に落ちていたベースラインはここから徐々に息を吹き返し、21~22年にはパーリス『Soaked in Indigo Moonlight Can You Feel The Sun』、シャイガール『Nymph』、ヴィーガン(Vegyn)『Don't Follow Me Because I'm Lost Too!! 』と、ベースラインを少なからず取り入れたアルバムが立て続けに話題をさらう。さらにトゥー・シェルが同じ22年にビッグ・アング “Bassline Burn” を高速にしたような “Home” をリリースし、これがアンダーグラウンドで大注目を浴びる。あるいは独特の音楽性に落とし込んだクラップ!クラップ!『Liquid Portraits』やイオマック(Eomac)『Cracks』、ハードで高圧的なコード9 “The Jackpot” や誰よりも官能的で豊かな感性を覗かせたジョイ・オービソン “Pinky Ring” と一気にイノヴェーションが進み、昨年はスペシャル・リクエスト『Portal 1』にソウル・マス・トランジット・システムによる “Hectic” のベースライン・リミックスがフィーチャーされるなど他ジャンルへの侵入も止まらなくなっている(トゥー・シェルのデビュー・アルバムも昨年末にリリースされ、ダークな方向性をUKファンキーに示唆した)。

 FKAツイッグスことダリア・バーネットがコロナ禍にリリースしたミックステープ『Caprisongs』(22)は、こうした動きに反応し、あからさまに “Home” を意識した “Pamplemousse” をはじめ、多少のひねりを加えた “Jealousy” や “Darjeeling” でベースラインを取り入れ、これまでのスローな曲調とは異なったモードを展開。シンプルな構成でそれほど多くは音が重ねられていなかった『Caprisongs 』を青写真と捉えるなら、こうしたシフトをアルバムの半分近くまで増大させたものが新作の『Eusexua』で、これはストレートな発展形と捉えることができる。ベースラインに振り切った動機は映画『ザ・クロウ』の撮影のために訪れたプラハで経験したクラブの一夜が素晴らしかったからだと本人はコメントしているけれど、ベースラインに対する興味は『Caprisongs』ですでに始まっていたのであり、プラハでの一夜はこれを確信に変えたということなのだろう。バーネットのダンスはモダン・バレエに基づき、ここ数年、ヴォーグやヴァレンティノのショーで展開してきた体の動かし方を彼女自身が「体は芸術」だとする考え方に具体性を与えるものだったとしたら、プラハでの一夜はおそらくクラブでひたすらダンスに没頭することにあったのではないかと考えられる。最終的にMVに落とし込まれる段階では投影されることはないにしても、モダン・バレエにストリート・ダンスを組み合わせてきた彼女の価値観とは異なる体の動かし方に音楽性も影響を受けて、簡単にいえばいままではあり得なかったテンポに『Eusexua』は染まっているのである(『ザ・クロウ』のリメイク作はちなみに『ゴースト・イン・ザ・シェル(攻殻機動隊)』を撮ったルパート・サンダーズ監督の3作目で、FKAツイッグスがヒロイン役を務めたホラー映画)。

 オープニングからまるでトランスである。『Eusexua』にはアディショナル・プロデューサーとしてトゥー・シェルの名が5曲でクレジットされていてUKガラージのカラーを強めようという意図は明確だけれど、タイトル曲となるオープニングは筆頭プロデューサーとしてアースイーターが起用され、このところエシリアル(エーテル)と形容されることが増えた優美で幽玄な雰囲気を出すことに成功している。バス・ドラムの位置が少しだけずれているのでさすがにトランスとは同じではないものの、スロー・テンポで官能性を際立たせることが多かったバーネットがテンポを加速させてもこれまでと同様に官能性を導き出そうとする姿勢には一貫性というよりもはや業のようなものを感じてしまう。「私は空を飛んでいる、言葉にはできない、私もあなたも孤独ではない」と歌う “Eusexua” は多幸感を意味するEuphoriaにsexを混ぜ合わせた造語だそうで、マイアミの男性ストリッパーたちを描いた映画『マジック・マイク』にマイケル・ジャクソン “Thriller” を掛け合わせたようなMVは彼女の多幸感に対するイメージがそのまま投影されているようで、ちと怖い。

 前述した “Pamplemousse” は少しテンポを落としただけで “Room Of Fools” や “Perfect Stranger” にあっさりと生まれ変わっている。ベースとコーラスがアップテンポのまま同期し続けている感じはベースラインというよりもはやスピード・ガラージまで戻った感もあり、悪くいえば “Home” にバーネットのヴォーカルとブレイクを加えただけの前者にはトゥー・シェルを中心に元ブロウ・モンキーズのモーリス・デ・フリースも参加(デ・フリースはビヨークやU2でキーボードを弾き、ネリー・フーパーと組んでソング・ライターのチームとしても活躍)。後者のプロダクションにはリアーナとのロング・コラボレイターでUSヒップホップとの絡みも多いノルウェーのスターゲイトとカニエ・ウエストの人脈からオジヴォルタ(ojivolta)が参加している(ちなみに週刊誌的な話題としてはカニエ・ウエストとキム・カーダシアンの娘、ノース・ウエストが “Childlike Things” にヘンな日本語ヴォーカルで参加)。デビュー当初から凝りに凝ったプロダクションで攻めてきたバーネットが「あなたが何者でも構わない、気にしない」と簡単なことしか歌わない “Perfect Stranger” のようなシンプルな曲を乱発するわけもなく、 “Keep It, Hold It” では前半と後半で曲調が変わり、早くもベースラインをそのままでは扱わなくなっている。なんというのか、2ステップとアンビエントを交互に配しながらいきなりベースラインで走り出すというイビツな構成で、何回も聴くと慣れてくるけれど、最初はなかなか曲のイメージがつかめない不思議な曲である。それこそこの人は音楽をナラティヴなものとして捉えている時に力を発揮するタイプなのだなと強く思わせるものがあり、このままシンプルなガラージのアルバムをつくる方向には進まないだろうということを確信させる。 “Keep It, Hold It” にはアディショナル・プロデューサーとして『Magdalene』から引き続きニコラス・ジャーが参加。また、同曲はFKAツイッグスのバック・バンドでキーボードを担当するカリ・マローンではなく、なぜかケリー・モーランがピアノを弾いている。

 “Keep It, Hold It” のようなヒネリはやはりバーネットがアルカやOPN、最近だとレヤ(Leya)やメキシコのアヤ・アイルランドといったグロテスクな価値観を担ってきた存在だからこそ生じる表現なのだろう。グロテスクの向こうに美を見るというのが彼女の理想だとしても、『Eusexua』を飾るヴィジュアルやヴィデオにはやはりバッド・テイストが過多で、どこかホラーじみたものさえ漂っている。レイプされた女性たちが破れた衣装のままランウェイを歩くというファッション・ショーで一躍知名度を得たアレキサンダー・マックイーンが生きていたら必ずやコラボレーションが成立しただろうと思ってしまう彼女の美意識は、しかし、もしかしたら現在、シャイア・ラブーフのDVを告発して係争中の裁判からヒントを得ている可能性もなくはない。スピルバーグの秘蔵っ子として知られ、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』ではマッケンロー役を見事に演じたラブーフはアルコール依存症で何度も社会的地位を失いかけ、ダコタ・アクセス・パイプラインの建設運動やトランプへの抗議活動で逮捕されたりと私生活があまりに波乱万丈であり、バーネットと数ヶ月の交際の間にもレイプや虐待があったとして1000万ドルの賠償請求を起こされている(2人のスケジュールがあまりに忙しすぎて一回も公判が開かれていないというニュースを読んでからもだいぶ時間が経っている)。バーネットの訴えにはラブーフから性病を移されたという項目もあり、『Eusexua』のダーティでナスティなヴィジュアルを見ていると、どうしてもそのことが頭をよぎってしまう。むしられたようにしか見えない髪型や奴隷のような出で立ち。支配と非支配の転倒や幸福への違和感。真意はわからないけれど、黒人奴隷を鞭打つ時にどこかSM的な快楽とダブらせて表現するなど政治的なテーマと性的な文脈をわざと混乱させて描くスティーヴ・マックイーンとは妙にイメージが重なり、ここ最近のイギリスが生んだ黒人の才能という意味でFKAツイッグスとスティーヴ・マックイーンには同時代的な感性が共通点として存在していることは間違いない。

 『Caprisongs』からあらかた削ぎ落とされたヒップホップの要素をカヴァーするように『Eusexua』にはまた、イーノのアンビエントを思わせるのイントロの “24hr Dog” や、かつての “Water Me” を大袈裟にしたような “Sticky” など奇妙な変化球もそこかしこに挟まれ、大幅にベースラインを取り入れたアルバムという印象は持たせない。メジャーもアンダーグラウンドもない人選の嵐は続き、長い付き合いとなるメイン・プロデューサーのコアレスとビッグバンのG-ドラゴンが組んだ “Drums of Death” はなかでもかなり異色で……こういうのはなんていうのだろう……わからない……ので省略。オーケストレーションをふんだんに加えた “Striptease” 、カラフルなトリップ・ホップの “Girl Feels Good” 、カントリー・ソウルで締められる “Wanderlust” と、とにかく曲調は多岐に渡り、それでいて支離滅裂ではなく、むしろ統一感はありまくる。何よりも自分の美意識を優先した結果、自然とそうなったとしか思えないし、これまでやってきた音楽性とは正反対ともいえるベースラインを自分の感覚に引きずり込んでしまう力技はやはり大したものである。

Lambrini Girls - ele-king

 ランブリーニ・ガールズという、遊び心と反抗心、快楽とアイロニー、および現代英語圏の若者言葉のセンスが込められた名前(洗練されていない、大衆的で安物アルコールを飲んでいる少女たちといったニュアンスで、いかにも英国風のウィットがある)を名乗るブライトンのパンク・バンドのデビュー・アルバムが英国で話題になっている。最近の流れでいえばニュー・オーリンズのスペシャル・インタレスト、あるいはメルボルンのアミル・アンド・ザ・スニッファーズなんかのパーティのりにも似ている。怒っているが、楽しんでもいるのだ。この享楽性は、世のなかが暗くなると、とかく禁欲的になりがちな日本にはちょうどいいかもしれない。

 とくに目新しいトピックはないものの、ポジティヴなメッセージがアルバムを通底し、「えー、それ言っちゃうの」みたいな言い方や現代の若者スラングが多そうなので、歌詞がわかるとより楽しめるのだろうけれど、バンド(中心はヴォーカル兼ギターのフィービー・ラニーとベーシストのリリー・マシエラ)の気迫およびユーモアはサウンドだけでもじゅうぶんに伝わってくる。とにかくむちゃくちゃ威勢がいい。ライオット・ガールの影響を受けていることは言われなくてもわかるけれど、この、エクレクティックではない一本調子のサウンドがいまは新鮮に聴こえるから不思議だ。

 そしてアルバムを聴きながら、どういうわけかぼくはここで、1990年代の英国にオアシスというバンドがいたことを思い出した。彼らがすごかったことのひとつに、自分たちの主要な影響源をビートルズとピンク・フロイドの『ザ・ウォール』であると堂々と言ったことがある。あの当時の英国インディ・ロック・バンドは、プライマル・スクリームがいい例だが、音楽に詳しかった。ジョン・ライドンが音楽マニアでレゲエやクラウトロックの知識を持っていたように、ジョニー・マーには60年代ポップスの知識があった。トニー・ウィルソンいわく「なぜマンチェスターから良いバンドが出てくるのか知りたければ、彼らのレコード棚を見ればいい」
 この流れにオアシスというのは、いま考えると一周回って面白い。男らしさというか潔さというか、オアシスはポスト・パンクからのひとつの流れ、頭でっかちでナードなところを遮断した。彼らはビートルズの青盤/赤盤しか知らなかったという説もあって、実際にはストーン・ローゼズやセックス・ピストルズの影響も受けているからそれはさすがに都市伝説だろうが、それにしてもベタだ。そして、わずかそれだけの影響であれだけ良い曲を作れたのだから、やはり突出した才能があったのだろう。

 デジタル時代の英国のインディ・ロック・バンドたちは、じつに広く、20世紀の若者にはあり得なかったほど、いろんな過去の音楽をよくご存じだ。マニアックな音楽からメインストリームの音楽、ジャンルを問わず英米以外の音楽も分け隔てなくフラットに聴いている。もう、オアシスのようなバンドが出てくる可能性はだいぶ低いが、こんな状況だから、ぼくは一本調子のサウンドで押し切るバンドに対して奇妙な関心を抱くようになってしまったのである。(*)

 ずいぶんと話が脱線してしまったが、ランブリーニ・ガールズの『Who Let the Dogs Out(こいつらを連れてきたのは誰だ)』は、ひょっとしたら、オアシスのような男性的な男性バンドをおちょくってもいるようにも思われる。が、しかし日本人のぼくは、ここに同じような英国風「やったれ」感を感じてしまう。偏見かもしれないけれど、ぼくはその英国風「やったれ」感が好きなのだ。まあ、だからといって、それをサッカー場やパブなんかでビールを片手に壁を作る労働者階級の男たちを連想させるオアシス的世界のZ世代ヴァージョンとはさすがに言いません。まったくあの感じではない! スリーフォード・モッズのようにここには「泣き」はないし、ウィット重視で、爽快なまでに一本調子のサウンドで走り抜いている。とはいえ、曲のヴァリエーションのなかにエレクトロニックな要素も入っていて、ひょっとしたらこの先ダンス・ミュージックよりの展開を見せるかもしれない。現時点でもアゲアゲで、スピーディーで、パーティな感じ全開だし。

 まあ、なんにしてもトランプ政権が世界に与える文化的影響を思えば、このぐらいの先制パンチは必要だろうと、しかしねぇ……「抗議し、デモをやって、労働組合を結成しろ」とか「グレート・ブリテイン、マジにそう?」とか、「ケイト・モスが私の人生を台無しにした、クソ、炭水化物を食べさせろ」くらいならまだしも、「デカチン・エネルギー、デカチン・エネルギー、ねえ、私から離れてくれる?」「 上司が私をファックしたがっていることを無視して笑おう」──男らしさを罵倒し、富裕層に牙をむくランブリーニ・ガールズだが、たまに出てくるその下品な表現がSNSに散見される罵詈雑言とどこが違うのかぼくの英語力では判別つかない。過去に男性ロッカーが同じようなことをやってきてはいるが、しかしスラヴォイ・ジジェクが言うところの「猥褻なものが公の場に浸透」している現在。「礼儀正しさ」や「誠実さ」が却下され、勝利に酔った下品な笑いがこだまするこんにちにおける口汚い抵抗に、このおいぼれは一抹の危うさを覚えている。それでもいまは、パンク好きのひとりとして、この音楽にほとばしっているエネルギーに一票入れたいと思う。

(*)ちなみに、オアシス以前にパンク以降の若いバンドがその影響源として「ビートルズ」の名前を大々的に出したバンドはおそらくいない(テレヴィジョン・パーソナリティーズがアルバム名で使っているくらいじゃないかな)。みんなビートルズの偉大さは知っているけど、大き過ぎてそれを影響として言うのはちょっと違うかなと思っていたのだろう。


【2月4日追記】
2月1日、ロンドン中心部では「極右を止めろ(STOP THE FAR RIGHT)」デモに約5,000人が集まった。これは、同日おこなわれた「トミー・ロビンソン」(極右活動家)を支持するデモ(こともあろうか、ザ・クラッシュの“ロンドン・コーリング”が演奏されたらしい)に反対するためであり、LGBTおよび人種差別、そしてファシズムへの反対集会だった。ランブリーニ・ガールズは、この集会でスピーチした。

Lifted - ele-king

 アンドリュー・フィールド・ピカリング(マックス・D)とマット・パピッチ(コ・ラ)によるリフテッドの新作『Trellis』(Peak Oil)は、彼らの音楽的探求が成熟に達したことを示すアルバムだ。

 彼らは10年代を象徴する音楽の本質を理解し体現してきた。それを一言で表せば「楽園への/からの逃走」ではないかと私は考える。われわれは「楽園」を失った楽園」という言葉を「過去」や「未来」と置き換えてもいいだろう。
 膨大な情報がノイズのように蔓延し、感情や記憶が生成される間もなく泡となって消え去る時代。その中でノスタルジアや未来への希望は、生まれる前に消滅する運命にあった。それが10年代という時代の特徴だった。奇妙なニヒリズムが社会に蔓延し、人々の脳は数値的な評価や即時的な動員の思想に毒され、一瞬のデータに一喜一憂する。彼らの音楽は、このような時代背景と共にあった。
A
 リフテッドの音楽は、そのような「失われた過去と未来」を収集するかのように構築され、音を通して「心をどのように休めることができるのか」という問いを投げかけていた。彼らの作品は、いわばヴェイパーウェイヴ的なムードに寄り添いながらも、同時にその枠を少しだけ逸脱する個性を持っていた。
 その音楽には、電子音、テクノ、ジャズ、アンビエントといった要素が折り重なり、それらは形式ではなく、むしろ失われた記憶の断片のようなムードとして音楽全体に溶け込んでいた。それは陶酔というより、安息の音響であり、同時にそれは現代の技術で精巧に作られた過去のイミテーションのようであった。だからこそ私たちはそこに失われた未来を聴き取った。
 2015年に〈PAN〉からリリースされた『1』と、2019年にリリースされた『2』は、どちらも当時の音楽的潮流を反映した作品だった。現在、改めて聴き直してみると、ジャズの要素が想像以上に多く含まれていることに気付く。おそらく20世紀のムード音楽とジャズが密接な感性にあるからともいえる。いわば音全体は「フュージョン・アンビエント」とでも呼ぶべき心地よさに満ちており、その一方でその心地よさを一瞬で破壊するような意地悪な仕掛けも存在していた。この相反する要素の交錯こそが、極めて10年代的であり、ヴェイパーウェイヴ的と言えるかもしれない。
 2022年に〈Future〉からリリースされた『3』では、ジャズやフュージョン的な要素がより前面に押し出された。リリース当時はその変化に戸惑いを覚えたが、今になってみると、『3』が示した変化の意味がようやく腑に落ちる。
 本作『Trellis』も『3』までと同様にエレクトロニカとフュージョンの交錯のようなサウンドを構成している。いや、より生楽器が取り入れられているともいえよう。
 まず最初の1曲目“All Right”のギターとドラムのアンサンブルに驚かされた。まるで60年代末期のフリージャズを思わせる大胆な演奏なのだ。エレクトリック・ギターが加わり、どこかサイケデリックなムードを感じさせる。エレクトロニック・ミュージックの要素はほとんど姿を消しており、この音楽が本当にリフテッドの作品かと疑うほどの変化を遂げていた。ジャズとサイケデリック。それがこのアルバムの最大の特徴に思える。
 2曲目“Open Door”はミニマルなピアノを中心とするムーディーな曲だ。その音は深い残響に包まれている。1曲目“All Right”とは異なった音だが、同時にサイケデリックな浮遊感があり、アルバムはそのようなトーンで進行していく。
 アルバム中、実験的な成果が聴かれる曲は4曲目“Warmer Cooler”と6曲目“The Latecomer”だろう。“Warmer Cooler”では、どこかフラジャイルなシンセパッドと微細なノイズによってサウンドのテクスチャーが生成されていく曲だ。“The Latecomer”は、アトモスフィアなブラシ・パーカッションと不安定な電子音と管楽器のソロによるアンビエント・ジャズな曲である。7曲目はクリッキーなリズムが流れる曲だ。アルバム中、もっともエレクトロニカな曲だ。“The Latecomer”の不穏な感覚から、明るさを感じさせるトーンになっている。
 本アルバムは、ギタリストのダスティン・ウォンやドラマーのジェレミー・ハイマン、さらにはマルチインストゥルメンタリストのベンジャミン・ボールトらとともに録音された。また、モーショングラフィックスもピアノで参加している。2021年にメリーランド州のスタジオ「テンポハウス」で録音された。

 アルバム全体を通して、エレクトロニクスとアコースティックの要素が絶妙に絡み合い、聴き手に新たな感覚をもたらす波動を生み出している。しかし、それはかつてのように楽園への逃走を目指す音楽ではないように思える。失われた未来を追い求めるだけでは、最後には虚しさしか残らない。大切なのは「いまここ」で「音楽」をどう突き詰めるかということではないか。
 それは逃避でも、過去や未来への回帰でもない。10年代的なペシミズムはすでに過去のものだ。「いま、ここ」に音楽があることの証明すること。これがリフテッドの「現在地」であり、音楽を通して時代を超えて響く新たな「場所」を示している。

1月のジャズ - ele-king

Emile Londonien
Inwards

Naïve

 本誌ムック本の2023年のジャズ・ベスト・アルバムにも挙げたエミール・ロンドニアン。フランスのストラスブールを拠点とするトリオで、マテュー・ドラゴ(ドラムス)、ミドヴァことニルス・ボイニー(ピアノ)、セオ・トリッチ(ベース)という構成。2021年頃から作品エリリースを始め、2023年のファースト・アルバム『Legacy』ではホーン・セクションやシンガーも配し、ロバート・グラスパー的なジャズとヒップホップを融合したスタイルから、よりエレクトロニックでブロークンビーツなどにも接近したスタイルを見せた。同じトリオ形式のゴーゴー・ペンギンなどに比べてさらにクラブ・ミュージック的なアプローチが強く、またヴォーカル作品などでは極めてソウルフルな要素が際立っていた。『Legacy』にも参加したサックス奏者のレオン・ファルも同系のジャズとクラブ・サウンドが融合したアルバム『Stress Killer』をリリースするなど、現在のサウス・ロンドンに呼応するかのようなシーンをフランスで形成している。

 そして、この度『Legacy』に続くセカンド・アルバム『Inwards』がリリースされた。前作に続いてレオン・ファルのほか、ジョウィ・オミシル、ローラン・バルデンヌとフランス人サックス奏者がホーン・セクションを固めるほか、サウス・ロンドンからアシュリー・ヘンリーやシンガーのチェリス・アダムス・ヴァーネットもゲスト参加。アシュリーは昨年リリースしたアルバム『Who We Are』が同じレーベルなので、そうした関係もあって参加したのかもしれない。ブロークンビーツ調のダイナミックなジャズ・ファンクの “Catch The Light”、ダブの影響を感じさせる “Early Days” や “In Motion”、ドラムンベースのビートを取り入れたコズミックな “Inside”、ポエトリー・リーディングを配したディープな “Shades” など、前作以上にジャズとクラブ・ミュージックの融合が進んだ内容となっている。“Crossing Path” のようにホーン・セクションとエレピが絶妙のマッチングを見せるサウンドは、1970年代のハービー・ハンコックやロニー・リストン・スミスあたりのフュージョンを彷彿とさせるところもある。そして、アシュリー・ヘンリーが歌う “Another Galaxy” はR&B的な要素が強く、UKで比較するならジョー・アーモン・ジョーンズからブルー・ラブ・ビーツなどが思い浮かぶアルバムだ。


Ganavya
Daughter Of A Temple

Leiter

 ガナーヴィヤ・ドライスワミーはニューヨーク生まれ、南インドのタミル・ナードゥ州育ちのシンガー/ダブル・ベース奏者/作曲家。祖母がインドのカナルティック音楽の大家で、幼少期から宗教儀式を通じて音楽を学び、即興演奏家、学者、ダンサー、マルチ・インストゥルメンタリストとしての教育も受けてきた。アメリカに戻って大学では演劇や心理学の学位も取得し、民族音楽からコンテンポラリー・パフォーマンスなど芸術を多角的に学んだ。キューバ人ピアニストの名手アルフレッド・ロドリゲスのアルバム『Tocororo』(2012年)に参加して名前を知られるようになり、2018年にファースト・ソロ・アルバム『Aikyam: One』をリリース。エスペランサ・スプルディングの『Songwrights Apothecary Lab』(2021年)では、南インド音楽の専門家としてヴォーカルなどに携わり、同作がグラミー賞に輝くことにも貢献した。また、演劇や映画に関わる音楽活動も多く、ピーター・セラーズ監督の映画『This Body Is So Impermanent…』(2021年)にサントラの作曲で参加している。

 2023年にブラジル出身のギター/ベース奏者/作曲家のムニール・オッスンと共演作『Sister, Idea』を発表し、2024年春にはシャバカ・ハッチングスら南ロンドンのミュージシャンから、カルロス・ニーニョフローティング・ポインツまで参加した『Like The Sky I’ve Been To Quiet』を発表。より幅広いリスナーから注目を集めたガナーヴィヤが2024年末に発表したアルバムが『Daughter Of A Temple』である。ガナーヴィヤはヴォイス、ダブル・ベース、カリンバを担当し、エスペランサ・スポルディング、ヴィジェイ・アイヤー、シャバカ・ハッチングス、イマニュエル・ウィルキンス、ピーター・セラーズほか、音楽家やそうでない人も含め約30名の人たちが声、ダンス、写真などで参加する。なかには故人のウェイン・ショーターも含まれるが、生前の彼の声などをサンプリング素材で用いているようだ。アリス・コルトレーンの “Journey in Satchidananda”、“Ghana Nila”、“Om Supreme”、ジョン・コルトレーンの “A Love Supreme” を取り上げるなど、全編に渡ってアリス&ジョン・コルトレーンに対する敬意や愛情に包まれたアルバムである。シャバカ・ハッチングスをフィーチャーした “Prema Muditha” は、近年の彼が傾倒するアンビエントな世界が展開される。


Raffi Garabedian
The Crazy Dog

RG Music

 ラフィ・ガラベディアンはアメリカ西海岸のベイアリアを拠点とするサックス奏者/作曲家。ホルヘ・ロッシー、ベン・ストリート、デイナ・スティーヴンス、ジョニー・タルボットなどと共演し、ベイアリアの集団即興演奏集団のインセクト・ライフやフリー・ジャズ・グループのスティックラーフォニックでも活動するほか、最近ではクロノス・カルテットのサン・ラー・トリビュート・アルバムにも参加していた。ラフィの祖先は1915年にオスマン帝国でおこなわれたアルメニア人虐殺の生存者の末裔で、彼の祖父母はアメリカへ難民として逃れ、苦難の生活を続けていったのだが、そうした民族の悲しい歴史はラフィの家族へも代々伝えられてきて、このたびリリースした通算3枚目のソロ・アルバム『The Crazy Dog』は祖国アルメニアや彼の家族の歴史を題材としたものとなっている。

 トリオ編成のファースト・アルバム(2017年)、カルテット編成のセカンド・アルバム『Melodies In Silence』(2021年)に対し、『The Crazy Dog』はヴィブラフォン、クラリネット、トロンボーンなどを交えた7人編成の演奏で、より色彩豊かなアルバムになっている。特に重要な点は初めてヴォーカリストを加えた点で、2015年セロニアス・モンク国際ジャズ・ヴォーカル・コンペティションのセミファイナリストに選ばれたダニエル・ウェルツをフィーチャーしている。本作でのダニエルはジャズ・ヴォーカルというよりもヴォイスに近いもので、クラシックの声楽のような要素を感じさせる。ジャズにアルメニア民謡を取り入れたアーティストとしてはティグラン・ハマシアンが有名だが、音楽的に本作はことさらアルメニア的な要素を前面に出すのではなく、基本は西洋音楽としてのジャズの技法に則ったもの。ただ、変拍子のモーダルな “Escape To Erzurum” のメロディなどにはアルメニア民謡の影響も感じられ、ラフィの遺伝子のなかにあるものが顔を出す場面もある。この “Escape To Erzurum” はじめ、西洋音楽の技法である対位法をテーマとした “Contrapuntal Bewilderment”、ほとんどスキャットのみで綴る神秘的な “The American Question” など、ノーマ・ウィンストンやジェイ・クレイトンあたりを彷彿とさせるダニエル・ウェルツのヴォイス・パフォーマンスが印象的だ。


Rowan Oliver
Quickbeam

Soundweight

 1990年代末から2000年代にかけて活動したゴールドフラップは、ポーティスヘッドの再来と評されたこともある男女ペアのエレクトロニック・ユニットだったが、そのゴールドフラップのサウンドを7年間に渡って支えたドラマーがローワン・オリヴァー。プロデューサーでマルチ・ミュージシャンでもある彼は、ゴールドフラップ以外にもプラッド、ポール・オーケンフォールド、スペーサー、アドゥン・トゥ・エックス、マーラ・カーライル、マリリン・マンソン、マックス・デ・ヴァルデナーらの作品に参加し、〈ソウル・ジャズ〉〈ミュート〉〈ワープ〉〈フリーレンジ〉〈プッシーフット〉といったレーベルで仕事をするなど、長年に渡ってUKの音楽シーンで活動してきている。そんなローワン・オリヴァーが初のソロ・アルバム『Quickbeam』をリリースした。

 基本的にローワンが全ての楽器やプロダクションを担当しているが、一部楽器で兄弟のアーロやジェイコブが演奏し、ファンク・バンドのスピードメーターからサックス奏者のマット・マッケイも参加する。スリリングなストリングスを配した “Burning Boat” に代表されるように、1960年代から1970年代にかけてロータリー・コネクションやドロシー・アシュビーなどの作品プロデュースで活躍したリチャード・エヴァンスや、ヒップホップのサンプリング・ソースとして名高いデヴィッド・アクセルロッドなどの作品群を彷彿とさせる。基本的にはドラマーなので、“Wheeling”“Road Of Dreams” のように、ビート感覚に優れたドラムが軸となるジャズ・ファンク、ジャズ・ロック系の作品が中心となるわけだが、“Onwards & Upwards” におけるダークでミステリアスな感覚はトリップホップやダウンテンポなどを通過してきたUKのミュージシャンらしいと言える。

Leaving - ele-king

 米カリフォルニア州・ロサンゼルスで発生した大規模な山火事による被害はいまも続いている。マッドリブにいたっては自宅が全焼し、自身の半生を費やして築き上げた膨大なレコード・コレクションと制作してきた音源のアーカイヴ、スタジオの機材、そのすべてを失ったという。もちろん、アーティストやDJ、音楽プロデューサーといった人々にかかわらず、数多くの市井の人々が同じく住居や家財の多くを失い、大量の行方不明者や死傷者を出している。まずは心からお悔やみ申し上げます。
 とくに火災の甚大な被害を受けたアルタデナ地区は、その歴史から黒人世帯の住まいとして、またアーティストや労働者階級の暮らす場所として長年繁栄してきた地であるが、LGBTQ+を積極的に受け入れてきたアルタデナ・コミュニティ教会が全焼、神智学協会の膨大なアーカイヴが建物ごと焼失、ダウンタウン地区の大半が焼失するなど壊滅的な状況にあるようだ。

 そんなアルタデナと縁深いマシューデイヴィッド率いるレーベル〈Leaving Records〉が、このたび火災被害の復興支援のためのチャリティ・コンピレーション・アルバム『Staying: Leaving Records Aid to Artists Impacted by the Los Angeles Wildfires』をBandCampにてリリース。収益の全額が被害を受けた個人に直接寄付されるとのこと。その半数がロサンゼルスのアーティストへ可能な限り公平に手作業で配分され、残りの50%は被災した黒人たちの離散家族およびコミュニティに同じく可能な限り公平に割り当てられるそうだ。
 
 「あらゆるジャンルのレコードを残す」というレーベルの精神性と共鳴するかのように、所縁あるアーティストが集い98曲入というヴォリュームになった本コンピレーションには、カマルやアンドレ3000、ジュリア・ホルターやララージといった面々が参加している。
作品の販売ページには、レーベルより以下のようなメッセージも記されている。

─Though we may not even know what “hope” constitutes yet, we know we’ve got it somewhere. We know it’s in solidarity, and we know it’s in the music.
(「希望」がなんなのかはまだわからないかもしれないが、わたしたちはどこかにそれを見出している。それは連帯と音楽のなかにある。)
─Emmett Shoemaker for Leaving Records, January 13, 2025, ~10:30pm

Artist: V.A
Title: Staying: Leaving Records Aid to Artists Impacted by the Los Angeles Wildfires
Label: Staying / Leaving Records
Format: LP / Casette / Digital
Release Date: 2025.01.17

Buy: Bandcamp
Leaving Records

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