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interview with Tommy Guerrero - ele-king

 1991年の5月、ヒースロー空港の税関で、僕は、とにかく執拗な質問攻めにあった。財布の中身や手荷物の中身までぜんぶ開けられた。それはThrasherのキャップなんて被っていたからじゃないかと同行した友人に言われたが、そいつは「acid junkies」と英語で書かれたTシャツを着ていたので、もし原因があったとしたらスマイリーのほうだろう。
 昨年、『Thrasher』マガジンの共同創始者として知られる64歳の男=エリック・スウェンソンは、──一説によれば重たい病の苦しみから逃れたいがためだったというが──、警察署に入ると自らのこめかみに銃を当てて、弾きがねを引いた。
 スウェンソンは、スケートボーディングの歴史における重要人物のひとりだ。1978年にサンフランシスコでスケートボード用のトラックを作る会社を設立した彼は、それから3年後にくだんの『Thrasher』マガジンを創刊している。モットーは「skate and destroy」。スケートボーディング自体は1960年代からあったというが、『Thrasher』はそれをパンクの美学に当てはめた張本人だった。スウェンソンはパンク・ロックが大好きだったのだ。結局、このスタイルは、1980年代以降のストリート・カルチャーの代名詞になった(今日ではオッド・フューチャーもそうだ)。

 トミー・ゲレロは、海外では音楽家というよりもスケートボーダーとしての名声のほうが高い......というよりも、いまでは専門誌から「スケートボーダーのゴッドファーザー」とまで呼ばれている。いまさら言うのも何だが、トミー・ゲレロとはマーク・ゴンザレスやなんかと肩を並べるカリスマ・スケーターである。


Tommy Guerrero
No Mans Land

Rush Prodction/AWDR・LR2/BounDEE by SSNW

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 トミー・ゲレロにとってちょっと気の毒なのは、彼のスケーターとしての名声が大き過ぎるあまり音楽家としての彼が過小評価されていることにある。『ガーディアン』のエリック・スウェンソンの死亡記事においては、彼は「プロフェッショナル・スケートボーダー」として紹介され、コメントを求められている。
 翻って日本では、彼のポスト・ロックめいた控え目さと西海岸の叙情性が混ざった音楽は素直に愛され続けている。僕のまわりでもかれこれ10年以上聴き続けている人間は少なくない。ポスト・ロックと呼ぶほどジャズ寄りではなく、ヒップホップのビートから影響を受けつつ、ロックと呼ぶにはこざっぱりしている彼の音楽──ある種スタイリッシュで、ある種の清潔感をともなっているメロディアスな彼の音楽が、日本の文化土壌にハマったのだろう。

 『ノー・マンズ・ランド』はトミー・ゲレロにとって7枚目のアルバムで、マカロニ・ウェスタン調な響きを特徴としている。シンプルな構成のなかには、長いあいだファンを引き続けてやまない良いメロディとしっかりとしたグルーヴがあるが、今作では、スパニッシュ・ギターの響きを活かしながら、曲によっては一触即発な緊張感あるムードを展開している。乾いた風が吹いて、見知らぬ街のバーに入る......「誰もいない土地」という題名のように、どこか孤独なものを感じさせる作品だが、それはプロ・スケーターとして自分を安売りせず、音楽家としても完全マイペースを守っているトミー・ゲレロの生き様と重なっているように思える。

 ちなみにこの12月には、ドキュメンタリー映画『ボーンズ・ブリゲード』の公開も決まっている。ボーンズ・ブリゲードとは、1980年代のスケートボーディング・シーンに革命を起こしたスター集団でトミー・ゲレロはその主要メンバーのひとり。近いうちに若き日の彼のスキルや情熱を見ることができるだろう。

マカロニ・ウェスタンはとても細かいジャンルではあるけど、すごくユニークなんだ。彼らのサントラ・ミュージックで使用されてる楽器、メロディ、コンポジションが大好きなんだ。音響的、空間的に惹かれるところが多い。

スケーターが年齢とともに失っていくモノと得ていくモノと両方について教えてください。

TG:スケートというのは、身体を酷使するんだ。年をとると、その代償を味わうことになるんだよ。自分の理想通りのスケートができなくなる。心のなかでスケートへの情熱は相変わらず熱いんだけど、昔のようにスケートすることが肉体的に不可能なんだ。スケートをすることから得られたものは、死ぬまでサポートしてくれるコミュニティさ。他の世界にはないものだよ。

あなたの音楽のインスピレーションは昔から変わっていませんか? 計画されたものというより、わりと直感的というか、そのときのひらめきというか。

TG:そう、その瞬間のひらめきで作っているんだ。そのほうが満足感があるんだよ。

『Loose Grooves & Bastard Blues』(1998)でデビューしてから14年が経ったわけですが、ずいぶん長い活動になりましたね。長くやっていると当然、どんな人でもマンネリズムという落とし穴があるわけですが、あなたはそこを意識的に回避しようとつとめていますか?

TG:アプローチを考えすぎないようにしてる。分析的になりすぎると、身動きがとれなくなる。とにかく試してみて、どうなるか様子をみるんだ。俺の音楽は表面的にはシンプルに聴こえるんだよ。

デジタル環境の普及、インターネット文化についてどのように考えていますか? あなたのようなヴィンテージな文化を愛する人からすれば、複雑な気持ちがあるんじゃないでしょうか?

TG:ヴィデオがラジオスターを殺したように、インターネットがレコード業界を殺した。でも、活動の場はより公平になった。消費者は、レコードを作るにはたくさんの血、汗、魂を込めて作っていることを分かってほしいし、レコード制作にはお金もかかるということを覚えておいてほしい。ファンがミュージシャンをサポートしなければ、音楽は存在できなくなる。

1日のうち、インターネットを見ているのはどのくらいの時間ですか?

TG:1時間くらいかな。家ではインターネット・アクセスがないんだ。

最近の若い世代はヴァイナルとカセットを中心に作品をリリースしています。こういうアメリカの新しい動きについてはどう思いますか?

TG:素晴らしいことだよ。アナログのマーケットは決して大きくないけど、ヴァイニルがプレスされていることは嬉しい。

自身のカタログのなかで異色だなと思うのはどの作品ですか??

TG:『Loose Grooves & Bastard Blues』だろうね。純粋で無邪気な作品だからさ。

あなたにとって音楽は、最高の娯楽といったところでしょうか?

TG:音楽は本当にセラピーなんだ。ヒーリング効果があるんだよ。

たとえばひとりのリスナーとしては、ふだんはどんな風に音楽を楽しみますか? 

TG:いつもと変わらず、聴いたことがない刺激的な音楽を聴くと、それを探し出すんだ。でも新譜を買うことは少ないね。昔の音源で素晴らしいものが発掘され続けているし、その焼き直しの新しい音楽が多い。俺の音楽も例外じゃないけどね。

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日本製のフェンダーのほうが全然安いし、アメリカ製のギターより質がいいからさ良いギター・トーンを作ることにまずこだわってる。たくさんのリヴァーブとトレモロを使って、とにかくラウドにプレイするんだ。


Tommy Guerrero
No Mans Land

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新作の『ノー・マンズ・ランド』はマカロニ・ウェスタン風のアルバムになりましたが、エンニオ・モリコーネやヒューゴ・モンテネグロが手掛けたサントラなど、あなたはどんなところが好きなんですか? 

TG:とても細かいジャンルではあるけど、すごくユニークなんだ。彼らのサントラ・ミュージックで使用されてる楽器、メロディ、コンポジションが大好きなんだ。音響的、空間的に惹かれるところが多い。

『ノー・マンズ・ランド』でのギターのスパニッシュな感じはどんなきっかけがあって取り入れたんですか?

TG:自然とそうなったね。

"Hombre Sin Nombre"のようなあなたらしいメロウで、平穏な曲もありますが、『ノー・マンズ・ランド』には"Phantom Rider"や"The Gunslinger"のようなダークな曲もあります。そのダークさは、個人的なものなのでしょうか?

TG:自分でも分からないけど、レコーディングしたときのフィーリングがそのまま反映されているんだ。今回は太陽のように明るい作品を作りたいと思わなかったんだ。

あなたは自分の音楽をスタイリッシュでお洒落だと思いますか?

TG:本当? そんな風に考えたことはなかった。

アートワークを手がけたデイヴ・キンジーについてコメントをください。

TG:彼はスケート界出身のアーティストなんだ。俺の旧友であるアンディ・ハウエルやシェパード・フェアリーとも彼は友だちなんだ。デイヴ・キンジーの最近の作品が好きなんだ。彼の過去の作品よりもアブストラクトで、あまり明解ではないところが好きだよ。

日本では海好きな人たちからもあなたは人気があります。その理由をご自身ではどう理解していますか? 

TG:自分でもわからないよ。おそらく、俺の音楽がグルーヴをベースにした音楽だからだと思う。それに、リスナーが俺と俺の音楽をそうやって捉えているんだと思うよ。

日本人はみんな高いお金をはたいてUS製のフェンダーを買っているのに、あなたはなぜ日本製のフェンダーのほうを好むんですか?

TG:日本製のフェンダーのほうが全然安いし、アメリカ製のギターより質がいいからさ。

ブレイクビーツを使うのは、あなたの音楽にはやはりファンクの要素が欠かせないからなんでしょうか?

TG:俺は古いファンクやソウルのグルーヴに魅了されてるんだ。そういうグルーヴを聴いていると踊りたくなるんだ。

リヴァーブの感じとか、音色や音質にこだわりを感じたのですが、とくに今回録音で凝った点があったら教えてください。

TG:良いギター・トーンを作ることにまずこだわってる。たくさんのリヴァーブとトレモロを使って、とにかくラウドにプレイするんだ。

"Specter City"なんてドリーミーな曲で、ちょっとアンビエントな感じがしますが、アンビエント作品を作りたいとは思わないですか?

TG:つねに作ってみたいと思ってるよ。次のアルバムはまた全然違うアプローチになると思うよ。

ちなみに1曲目の"The Loner(孤独な人)"とは、あなた自身のことでしょうか?

TG:多少はそうだね。俺は基本的にソロで活動しているけど、いつもひとりでやっていると辛いこともある。

なんであなたは、アメリカのインディ・シーンにおいて異端なんでしょうか?

TG:アメリカのシーンは巨大な池なわけで、俺はそのなかにいる小さな魚なんだよ。アメリカの音楽シーンでは、俺はあまり大きな存在感はないんだ。

あなたはいまでもご自身や自分の仲間を「ビューティフル・ルーザー」という言葉にアイデンティファイできると思いますか?

TG:自分のことを"ルーザー"(負け犬)と捉えたことはない。

ありがとうございました。

TG:長年俺のことをサポートしてくれたファンに感謝!

Bones Brigade Teaser

Bones Brigade: An Autobiography - Trailer


■Tommy Guerrero Japan Tour 2012

10/11(Thu) Tokyo@ duo MUSIC EXCHANGE
問い合わせ先:03-5459-8711
詳細:https://www.duomusicexchange.com/
https://t.pia.jp/sp/tommy-guerrero/tommy-guerrero-sp.jsp

2012年10月3日(水)23:00~02:30「TOMMY GUERRERO SPECIAL~ストリートの生ける伝説」緊急配信が決定しました!
LIVE&TALK:TOMMY GUERRERO(from San Francisco)出演:野村訓市
https://www.dommune.com/

「朝霧ジャム」出演も決定!
2012年10月6 (土) 静岡県 富士宮市 朝霧アリーナ
https://smash-jpn.com/asagiri/timetable.html
OKI DUB AINU BAND、GOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTION、
WILKO JOHNSON、そしてLEE PERRY Bandととも出演いたします。

Tommy Guerrero Japan Tour 2012

10/4(Thu) Nagoya@ BOTTOM LINE
問い合わせ先:052-741-1620
詳細: https://www.bottomline.co.jp

10/5(Fri) Kanazawa@ MANIER
問い合わせ先:IMART 076-263-0112 / CASPER 076-232-5293
詳細: https://mairo.com/manier/

10/7(Sun) Shizuoka@ SOUND SHOWER ark
問い合わせ先:WIGWAM 054-250-2221
詳細: https://www.ark-soundshower.jp/

10/8(Mon) Kyoto@ Club METRO
問い合わせ先:075-752-2787
詳細: https://www.metro.ne.jp

10/9(Tue) UMEDA CLUB QUATTRO
問い合わせ先:06-6311-8111
詳細: https://www.club-quattro.com/umeda/
https://t.pia.jp/sp/tommy-guerrero/tommy-guerrero-sp.jsp

10/11(Thu) Tokyo@ duo MUSIC EXCHANGE
問い合わせ先:03-5459-8711
詳細:https://www.duomusicexchange.com/
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DON LETTS JAPAN TOUR 2012 - ele-king

 ドン・レッツといえば、ロンドン・パンクの時代、セックス・ピストルズやザ・クラッシュ、ザ・スリッツといった連中にもっとも影響を与えたレゲエDJである。彼がキング・タビーをかけなければPiLは違った音になったかもしれないし、彼がホレス・アンディをかけなければアリ・アップは違った道に進んだかもしれない。
 時代の生き証人であり、パンキー・レゲエ・スタイルの体現者。迷うくらいなら行ったほうがいいですよ!

DON LETTS (DUB CARTEL SOUND STSTEM, LONDON)
 ジャマイカ移民の一世としてロンドンに生まれる。'76~77年にロンドン・パンクの拠点となった〈ROXY CLUB〉でDJを務め、集まるパンクスを相手にレゲエをかけていたことから脚光を浴び、パンクとレゲエを繋げた。
 リアルタイムで当時の映像を撮り、'79年に初のパンク・ドキュメンタリー映画『PUNK ROCK MOVIE』を制作。またブラック・パンクの先駆バンドBASEMENT 5の結成に携わり、THE SLITSのマネージャーもつとめる。
 '80年代なかばにはTHE CLASHを脱退したMICK JONESのBIG AUDIO DYNAMITEで活動、さらにBADを脱退後の'80年代末にはSCREAMING TARGET(※BIG YOUTHのアルバムより命名)を結成し、"Who Killed King Tuby?"等をヒットさせる。
 音楽活動と平行して、多くの音楽ヴィデオやBOB MARLEY、GIL SCOTT-HERON、SUN RA、GEORGE CLINTON等のドキュメンタリー・フィルムを制作、2003年にTHE CLASHのドキュメンタリー『WESTWAY TO THE WORLD』でグラミー賞を受賞する。
 '05年にはパンクの核心に迫った『PUNK:ATTITUDE』を制作。
 DUB CARTEL SOUND SYSTEMとしてスタジオワーク/DJを続け、SCIENTISTの"Step It Up"、CARL DOUGLASの"Kung Fu Fighting"等のリミックスがあるほか、〈ROXY CLUB〉期のサウンドトラックとなる『DREAD MEETS PUNK ROCKERS UPTOWN』('01年/Heavenly)、名門TROJAN RECORDSの精髄をコンパイルした『DON LETTS PRESENTS THE MIGHTY TROJAN SOUND』('03年/Trojan)、'81-82年に彼が体験したNY、ブロンクスのヒップホップ・シーンを伝える『DREAD MEETS B-BOYS DOWNTOWN』('04年/Heavenly)の各コンパイルCDを発表している。
 '07年には自伝「CULTURE CLASH-DREAD MEETS PUNK ROCKERS」を出版。BBC RADIO 6 Musicにて毎週月曜日レギュラー番組"Culture Clash Radio"を持つ。2008年にコンパイル・アルバム『Don Letts Presents Dread Meets Greensleeves: a West Side Revolution』がリリース。2010年にメタモルフォーゼ、2011年にはB.A.Dの再結成でオリジナルメンバーとしてフジロックフェスティバルに出演。
https://www.bbc.co.uk/6music/shows/don_letts/

●10/5(金) 福岡 @AIR
TIME:22:00~
PRICE:2,500yen+1drink oder
ACT:DON LETTS
LIVE:CUT/ THE EXPLOSIONS/NEO TONE
DJ: YOSHIZUMI/DJ OEC/CHACKIE MITTOO/DJ KAZUO/DJ KAZUYA
RED I SOUND

●10/6(土)東京 @club asia
TIME:23:00 ~ LATE
PRICE:DOOR--- 3,500yen/1d ADV---2500yen(ex 500yen/1d)
ACT:DON LETTS
THE HEAVYMANNERS、O.N.O(THA BLUE HERB)
DJs: myQR 、Shigeki Tanaka 、Daisuke Kitajima、Satoshi Hayashi 、Y$K、Kazuki Kudo 、KEI 、Kazuhito Takasaki 、Gaku Miyata、anzie、jyakuzure 、NAMBU
VJ: SeeMyDimple 、VJ 45 、CHRISHOLIC
Photo: Yoshihiro Yoshikawa

前売りチケット
◆e+にて販売中!!!
[for PC] [for MOBILE]
◆都内近郊diskunion各店頭でも販売中!!!
https://asia.iflyer.jp/venue/home

●10/7(日)静岡/朝霧JAM
SMASH : 03-3444-6751
HOT STUFF PROMOTION : 03-5720-9999

Earth / Mamiffer Japan tour - ele-king

 いま猛烈に疲れている。というのもこのドシャ振りの雨の中、マミファーやアースの連中と一日中外を徘徊していたからだ。
 シアトルの連中は雨を何とも思っていないように見える。というかむしろ好きなんじゃないかというくらいのはしゃぎようだ。
 僕と言えばヒキコモリ・イン・ダ・ハウスを具現化したような毎日。
 しかも先日、LAでの放浪を終えたばかり。まばゆいばかりの太陽と輝く砂塵、七色の煙にまみれ弛緩しきった体にこの湿度と雨、人波。この程度の些細な物事につまづいているゆえ今後の社会復帰が思いやられる。
 という僕がいかに僕ちゃんなのかという話ではなく、これはシアトル→LA→東京をドリフトする怠惰なライヴ・レポである。

 オールド・マン・グルーム(Old Man Gloom)、その名を聞いて震え上がらぬ者はいない。ex-アイシス/マミファーのアーロン・ターナー、ケイヴ・イン/ゾゾブラのケイラブ・スコフィールド、コンヴァージ/ドゥームライダーズのネイト・ニュートン、フォレンシクス/ゾゾブラのサントス・モンターノという泣く子も黙る00年初頭のボストン・エクストリーム・ミュージック・オールスター・バンドだ。
そのOMGが10年振りにライヴをやると聞き、僕は少量の尿を漏らした。行かねば...殺られる...彼らの西海岸ツアー初日を飾るこのエコー(Echo)は個人的にも思い入れのあるハコだ。サンセット通りに面した2階がエコー、グランデール通りに面した1階がエコー・プレックス(Echo Plex)となっており、アーロンが社長を務める〈Hydrahead Records〉でバイトをしていた際、LAで初めて借りた部屋から徒歩3分というのも相まって当時様々なバンドをここで見た。「dublab meets dubclub」等このふたつのフロアを存分にいかしたイベントも魅力的だ。
 マーチテーブルでひとりせっせと社長自ら売り子をするアーロンを横目で見つつ、しかし手伝うということもなくビアを飲みながら弛緩しながらニヤニヤしている恩知らず極まりない僕は、この日の盛況ぶりに驚いた。会場を埋め尽くす汗臭い素人童貞感漂うメタル・デュード、メンヘラ感が否めないロックお姉さんの群れ群れ群、マーチャンダイズを湛然に物色する彼らオーディエンスの熱意の凄いこと凄いこと。OMGは多感な時期の僕のヒーローであり、所詮は過去のモノという概念がやはりどこかにあったのか、〈Hydrahead〉のリリース群のようなエクストリーム・ミュージックがこの地においては絶大なポピュラリティーを得ていることを改めて認識させられた。
 気づけばステージではアイズ・オブ・ジェミナイの演奏が始まっている。そのサウンドはストーナー・ロックの文脈下ではあるが、良質なリフ、ひねくれたグルーヴのドラム、ゴシックな女性ヴォーカルと個々の要素に抜群のセンスを感じられるもので今後のブレイクが期待される......って今ウェブで調べたら彼等のアー写が出て来てウワチャー......これは僕にはちょっとゴス過ぎるなぁ......
 OMGの出番もいつしかおとずれ、マーチテーブルから息つく暇もなくアーロンは袖へ。なにも社長自ら売り子をしなくてもいいのになぁと相変わらず手伝う気がない僕だが、そのいつだって一直線な努力が彼のバンドとレーベルをここまで大きな存在にしたことに間違いはない。
 さすがはオールスター・バンド、見栄えが違う。第一線で活躍する個々のバンドの過密なスケジュールがピッタリ合う周期が10年に一度とゆーことなのだ。そのありがたさたるや何チャラ流星群みたいなものである。当時クソガキだった僕はコヤジ(小オヤジ)となり、アンチャンだった彼らはコッサン(小オッサン)となった。パンク・ハードコア・スピリットを忘れ、腰痛が恐くてモッシュもできず、女の子にフラレても「あ、生理なのね」と動じない迷惑千万な図太いコヤジとなった僕を嘲笑するかのようにOMGのオッサンたちはのっけからブルータルなチューンで畳み掛ける。彼らの新作である『No』はOMG史上最もブルータルなアルバムであるが、このライヴで見せる彼らのポテンシャルはそれ以上のものだ。狂気の沙汰ともいえるアーロン、ネイト、ケイラブが全員がヴォーカルをとるという怒濤の三位一体エネルギーがオーディエンスの血液を逆流させる。個人的にOMGのトレード・マークであるサントスのヘヴィかつダンサブルなドラムがフロントの3人の怒れる漢を後押しする。OMGのバンド名からも伺えるが、このバンドは元々アーロンとサントスのふたりが地元であるニューメキシコで結成したものだ(「Old Man Gloom」および「Zozobra」はニューメキシコはサンタフェでおこなわれるバカデッカい案山子を燃やすお祭りのことだ)。OMGのサウンドは燃え盛る感情の炎が照らし出すインディオとラティーノのミックス・カルチャーが育んだニューメキシコの雄大な土地と歴史を舞台にキューブリックが『2001年宇宙の旅』を撮ったような宇宙スラッジ・コアとでも言っておこう。気づけばモノリスに群がる猿と化した僕はフロアでもみくちゃとなり、満身創痍な状態でライヴは終了。アーロンに礼と別れを言い、東京での再会を約束したのであった。
 そう、それは彼の別プロジェクト、マミファーがあのアースとともに来日することになっていたからである。


Old Man Gloom | Photo by Diona Mavis

 さて、話は少し戻り、紙『エレキング』7号にてインタビューをおこなったアースであるが、実はこのインタヴューに僕はかなり尻込みしていた。だってだってだってあのアースですよ? ふだん僕がインタヴューをおこなっている味系ミュージシャンとはワケが違うワケで......。
 僕はアースにある種の畏敬の念を感じている。9年間のブランクの後に発表された『Hex』のレコードに初めて針を落とした時、そのサウンドのあまりの美しさに涙した。それから現在に至るまでコンスタントにアースが発表してきた比類なき完成度を誇るすばらしい作品群は、ディラン・カールソンという壮絶なる半生を送って来た男にしか奏でることができない叙事詩なのだ。近年はB型肝炎を患っており、医者にはすでに余命宣告もされているという中で制作された最新作『Angels of Darkness / Demons of Light I & II』(レコーディングは同一セッション)、そしてリリースを控えているディランのソロ作品、彼のクリエイティヴィティはさらなる高みを登り続けている。彼が見ている世界はもはや凡人が伺い知ることのできない領域なのだ......。
 ......というワケで、僕の中のディランは神々しい存在なのであった。が、新大久保「earthDOM」でのライヴ前、初めて会うディランは笑顔の絶えない最高の男であった。昨年シアトルで会ったベーシストとして今回のツアーに参加しているドン・マクグリーヴィ(その日のくだりはマスター・ミュージシャンズ・オブ・ブッカケのレヴューを参照)とともに自宅で飼う3匹の猫の可愛さを笑顔で語るディランに僕の緊張はいつしかほぐれていった。僕のくだらない質問にも気さくに答えてくれ、炭坑夫として働いていた彼の叔父の壮絶な話なんかまさしく『Hex』の世界観そのままだ。
 ディランの話を聞いている内にすでに演奏を開始していたマミファーはパーカッショニストとしてジョン・ミューラーが今回のツアーをサポート。実は僕は最初彼がジョン・ミューラーだと知らず(だってアーロンがジョンとしか紹介しなかったからね)、後日カレーを食いながら談笑している際に気づいた。失礼極まりない......彼とジェイムズ・プロトキンによるレコード『Terminal Velocity』はエレキング編集部で最近もっぱら話題の名作である(というか僕と三田さんの間だけの話だが......)。
 マミファーのセットは見るたびに異なる様相を呈している。前回の来日の際との秋田昌美氏とのコラボレーションや近年のリリースを聴く限り、よりオーガニックなノイズ・ミュージックを今回も予想していたが、ジョンとのセットとのことで今回は哲学的な重厚さを漂わせるドローン・ロックを披露していた。フェイスの美しい歌声はもちろんだが、OMGとは別にLAで見たウィリアム・ファウラー・コリンズのコラボレーションでも際立っていたアーロンのヴォーカルの繊細かつ重厚な響きはすばらしい。

 マミファーの演奏後の熱も冷める間もなくアースの出番だ。ディランいわく、今回のアースはパワー・ロック・トリオなのさ、とのこと。セッティングのすばやさもさることながら、まさしく小細工無しの生音スリー・ピース。ホーン/オルガンのオーケストラ・セットでのアースもすばらしいが、ディランがていねいにストリングを拾うことによる芳醇な倍音、アドリアーノの司るすばらしい間、ドンの流れる様なベースライン、シンプルが故に個々が際立っている。濃密なロングセットを披露した。僕は週末の新代田フィーバーでの再会を約束し、この日を後にした。
 ラストの東京公演の日、例のごとく予想よりかなり早い時間にアーロンから着信があり、サウンドチェックも早々に済ましたとのことでこの辺にヴィーガン・レストランはないか、とのこと。合流のためチャリを走らせながら僕はかつて彼が結婚前、アイシスで来日していた頃毎回「日本だー! 焼き肉だー!」と騒いでいたことを思い出していた。日本でのヴィーガン・ライフはまだまだ厳しい。下北にてヴィーガン食をむさぼりながらアーロンとフェイスはジョンと本日のセットについて細かい部分を詰めていた。そのかいあってか、その日のマミファーのセットはDOMでのショウを遥かに凌ぐすばらしいできばえだった。終止途切れることのない集中力、ジョンのドラミングはまさしくスティックがドラムに吸い寄せられているようなライト・スポットを打ち抜き、アーロンのヴォーカルは気合い千万、フェイスの歌声の透明感もさらに増したすばらしいものであった。
 おっと、話が前後してしまうが、この日の東京公演をサポートするのは日本が世界に誇るBoris。しかもアレ? 栗原さんもいるじゃないですか。いまさら栗原ミチオについて僕が語るまでもないが、海外の友人のみなが一様に絶賛する彼こそが日本が誇る世界屈指のギタリストである。Borisは名盤『Flood』と新曲を披露する僕が今まで見たBorisのセットの中で最も短いものであったが、それが逆に新鮮であった。Borisの3人が奏でるヘヴィ・サウンド・スケープの中を縦横無尽に駆け巡る栗原氏の血湧き肉踊るギターに会場にいる誰もが恍惚としたことだろう。常にリスナーの予想を良い意味で裏切る、確信的な活動をおこなってきたBoris、それは孤高の存在と呼んでいいだろう。彼らの常に時代の先をゆく活動は真に才能と努力に裏打ちされた天の邪鬼が為せる奇跡なのではなかろうか。今後も彼等に驚かされるのが今から楽しみである。
 さて、結論から言うとこの日のアースは初日を遥かに凌ぐすばらしいものであった。チケット完売で約300弱のオーディエンス。ヨーロッパ・ツアーでの大きなフェスティバル以来の聴衆だとディランは漏らしていたが、それほど誰もがアースを心待ちにしていたのだ。そんな中を優雅にプレイするのは百戦錬磨の経験に他ならない。かつて見た彼らのドキュメンタリー内でのインタヴューにてディランは興味深いことを言っていたのを思い出した。おもむろに目の前にあるグラスを手に取り、自分の音楽はこのグラスに注がれた水のようなものだ。形を持たないその何かがどこからかやってきて自分という器に注がれ、形を為しているに過ぎないと。ディラン・カールソンはかつて僕らの想像を絶する絶望の淵から幾度も這い上がって来た。そして今現在彼がおかれている状況も決して楽観視できるものではない。この日の彼の演奏を聴いて僕は涙しそうになった。それはまるでこの地球上のあらゆるものの存在の儚さ、しかしすべては永遠であり、形を為している個にはすべてに意味があるのだ、と彼が語りかけているように聴こえたのだ。

 彼らはシアトルへ帰っていった。雄大な自然に囲まれたミュージシャン・コミュニティのあるあの地へ。もしこの僕の駄文を読んで少しでも彼等の音楽に興味を持ってくれた方がいれば、彼らのレコードを手に取って欲しい。非常に残念なことにアーロン・ターナーの〈Hydra Head Records〉は今年の暮れを持って1995年から歩んで来たその偉大な歴史に幕を閉じる。いつだってインディペンデント・レーベルとしてローカル・ネットワークを大切にしてきた彼らのリリースを手にとる機会がもしあれば、それは多いなるサポートへ繋がるだろう。またアースもディラン・カールソンのソロ・プロジェクトを含め多くのリリースを控えている。どちらも90年代から現在に至るまでロック史に大きな足跡を残して来た存在であり、今後のインディ・ミュージックの先を占うものであるだろう。


EARTH | 写真:塩田正幸

Various Artists - ele-king

 ラモーンズは永遠である。クラフトワークがそうであるように、それ自体がひとつのファンタジーなのだ。いつまでも消えることのない。
 13歳のときに初めて聴いた"シーナ・イズ・パンク・ロッカー"や"電撃バップ"は、セックス・ピストルズやザ・クラッシュとともに僕のすべてを狂わせたと言っていい。歓楽街育ちの僕は、いつものように街の繁華街を歩いているときに、何故か知らないけれど唐突にダッシュした。行き交う人びとにボカボカぶつかりながら、猛烈な勢いで街の端から端まで駆け抜けた。どうせならそのまま駿府城のお堀のなかに飛び込めば良かった。ヘイ・ホー・レッツゴーと叫びながら。

 ラモーンズはパンクだったが、僕にオールディーズというものの魅力を教えてくれたバンドでもあった。中学3年生のときに買った4枚目のアルバム『ロード・トゥ・ルーイン』(もっとも評価の低いアルバムのひとつ)のA面の5曲目に収録された"ニードルズ&ピンズ"を僕はどれほど繰り返し聴いたことだろう。いまでもそのレコード盤は家にある。いまでもその細い溝には1年のうちに何回か針がおろされている。ギターでコピーしたし、ジョーイ・ラモーンの胸を焦がすような声をまねながら歌いもした。そして、"ニードルズ&ピンズ"が60年代のイギリスのザ・サーチャーズというバンドのカヴァー曲であることを知った。

 ラモーンズには、思春期を迎えた10代が聴くべきものすべてが詰まっていた。反抗心、暴力衝動、性衝動、馬鹿馬鹿しさ、シニシズム、B級趣味、ジャンク文化から思わず泣き崩れるようなラヴ・ソングまで、それはロックンロールのパンドラの箱だった。ゆえに彼らは多くのカヴァー曲を演奏している。
 本作は、ラモーンズがカヴァーした楽曲のオリジナルを編集したコンピレーションで、サーフ・ロック(ザ・ビーチ・ボーイズ、ジャン&ディーン)、ガールズ・ポップス(ザ・ロネッツ)、サイケデリック・ロック(ラヴ、ザ・シーズ、ジェファーソン・エアプレイン)、ブリティッシュ・ビート(ザ・サーチャーズ)などなど、全24曲が収録されている。『ロケット・トゥ・ロシア』(1977)の"ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス"や『ラモーンズ』(1976)の"レッツ・ダンス"、『エンド・オブ・センチュリー』(1979)の"ベイビー・アイ・ラヴ・ユー"(同アルバムをプロデュースしたフィル・スペクターの曲)......すべての原点がある。ブックレットは4色印刷で、当時のアートワークや詳細なデータも載っている。愛情たっぷりに、丁寧に作られている。
 ローリング・ストーンズも多くのカヴァー曲を演奏しているが、当時としてはマニアックなブルースである。ラモーンズはシックスティーズであり、サイケデリックだ。ザ・ロネッツのリード・シンガーだったヴェロニカ・ベネットのヴォーカリゼーションはその後のポップに多大な影響を与えているが、ジョーイ・ラモーンの感情豊かな歌い方は、どちらかと言えば、イギー・ポップというよりもヴェロニカ・ベネットの側である。

 ラモーンズの来日ライヴには、僕は計3回行った。最後に行ったのは1991年の川崎チッタだった。そのとき僕のレコード棚にはもうエイフェックス・ツインやデリック・メイが並んでいた(ちなみにお馴染みのラモーンズのファッションは、1970年代のゲイ・ディスコからの引用なので、僕のリスナー遍歴もあながち大きく逸れているわけではない)。
 僕がラモーンズを熱心に聴いていたのは『エンド・オブ・センチュリー』までで、ゆえにラモーンズが"キャント・シーン・トゥ・メイク・ユア・マイン"や"サーフ・シティ"、ラヴやジェファーソン・エアプレインなんかをカヴァーした1991年の『アシッド・イーターズ』を知らない。
 UKが生んだ最強のサイケデリック・ハード・ロック・バンド、モーターヘッドがラモーンズに捧げた"ラモーンズ"(1991)という曲も、ラモーンズにとっての最後のアルバムとなった『アディオス・アミーゴス』(1995)のオープニングを飾ったトム・ウェイツの1992年の曲"アイ・ドント・ウォナ・グローイン・アップ(大人になんかなるものか)"のカヴァーも本作『ラモーンズ・クラシックス』で知った。ジョーイ・ラモーンがソロ・アルバム『ドント・ウォーリー・アバウト・ミー』(2002)でルイ・アームストロングの"この素晴らしき世界"とザ・ストゥージズの"1969"をカヴァーしていることも。
 こうした情報は長年聴き続けていた熱心なファンにとっては基本中の基本なのだろうけれど、できる限りいろんな音楽を楽しみたいと思っている僕にとっては嬉しい発見だった。レコードを探す楽しみが増えました。

onzieme presents 花魁WEST vol.2 - ele-king

 渋谷のアート・サロン「しぶや花魁」と心斎橋のゴージャス感溢れるライヴ・ハウス「onzieme」のコラボレーション・イヴェント「花魁WEST」の第2弾が10月5日(金)に開催される。この日はスペシャル・ゲストとしてOL Killerが登場、関西初上陸となる。ヴィーナス・カワムラユキがプロデュースする「しぶや花魁」ならではのサプライズ演出だ。
20~21時はblock.fmのshibuya OIRAN warm up radioにて公開生放送。
菱沼彩子画伯の書き下ろしで、人気ブランド「galaxxxy」より発売となる「花魁WEST」Tシャツも物販ブースにて販売される。

»詳細はこちらから

チケット



onzieme presents
花魁WEST vol.2
supported by block.fm

 前回のvol.1も好評だった花魁WESTがアイランドバーからメインフロアに場所を移してのこの夜だけのスペシャル仕様でvol.2を開催!
今回はスペシャルゲストに、フジロックやTAICO CLUBでのパフォーマンスも話題のDJユニット「OL Killer」が関西に初上陸。
渋谷発のカルチャースポット「しぶや花魁」ならではのサプライズ演出は必見!伝説の夜になること間違いなし!

優先入場eチケットも好評発売中☆
https://oiran-west.peatix.com

2012/10/5(FRI)
at Live&Bar onzieme
19:00~till late
DOOR:2500円1D W/F:1500円1D
21時まで女性は1Dのみ+ピックアップドリンクプレゼント!

special guest:
OL Killer

guest:
Isao a.k.a Lucas from しぶや花魁

resident:
ヴィーナス・カワムラユキ from しぶや花魁
DA☆YANAGI
DJ OMKT
Coconuts Beat Club

supported by
しぶや花魁  https://oiran.asia
block.fm  https://block.fm
onzieme https://www.onzi-eme.com
CULTURE CLUB '75 https://www.facebook.com/CULTURECLUB75

花魁WEST
twitter https://twitter.com/oiran_west
facebook https://facebook.com/oiranwest

block.fm / shibuya OIRAN warm up Radio
https://block.fm/program/oiran.html

more info:
clubberia | iFLYER | facebook

[Vaporwave] - ele-king

 盗用がアートとなって、アンダーグラウンド・ポップのスタイルとして最初に定着したのが、1980年代のヒップホップとハウスである。いまでもよく覚えているのは、80年代末、MTVのBUZZという番組内でマルコム・マクラレンやティモシー・リアリーが、アシッド・ハウスをBGMに「盗め!」と視聴者を煽動する姿だ。「盗め!」、can you dig it? ヒップホップとハウスには、快楽主義としての音楽の延長ばかりではなく、盗用アートとしてのそれが同時にあった。ヴェイパーウェイヴは、インターネットの無限地獄/エントロピーの増大における盗用音楽として始動している。
 いかにもうさんくさいこのジャンルに関しては、すでに議論が活性化している。その一例。「ヴェイパーウェイヴは資本主義に対する批評か降伏か?」、その答えは「どちらでもあり、どちらでもない」

 ヴェイパーウェイヴはネット時代の申し子的な、あだ花的なジャンルで、果てしなくアップロードされ続けている音源(それはYutubeの冒頭に挿入される広告も含まれる)を探索し、再構築して、ある種の世界放送として発信している。新夢会社(New Dreams Ltd)、コンピュータ・ドリームス、情報デスクVIRTUAL、VΞRACOM、メディアファイヤード、そしてインターネット・クラブ、あるいはジャム・シティジェームス・フェラーロといった連中も「反資本主義の皮肉として読める」。こと、ジャム・シティのようなアーティストは、バラ色のデジタル情報社会をディストピアへと挑発的に反転してみせる。

 もうひとつの例。モダン・テクノ・ミュージック・カルチャーにおけるこれは、その音楽の終焉すら予見させる。
 アメリカには、ミューザック(Muzak)という80年以上続いている企業がある。これはさまざまな職場──デパートから工場、レストランからオフィス、スポーツジムから遊園地にいたる──に音楽を供給する会社で、要するに、労働意欲、購買意欲を促進させるための音楽を提供し続けている。問題は、1984年を境に、この会社が音楽アーティストが作った音楽作品とも提携し、供給をはじめていることだ。
 現在、この会社には300万曲以上の音楽がアーカイヴ化され、そして1億人の聴覚が、自らの労働環境に適した音楽をプログラムさせられているという。そのストックのなかには、インディ・ポップ、ミニマル・テクノ、IDM、ラウンジ・ジャズ、ラテン・ラウンジ、とくにエレクトロニック・ミュージックが多数あるらしい。
 これはアンビエントというコンセプトとは真逆の、産業社会を促進するためにサプリメントのような音楽としての利用のされ方である(カラオケやがんばれソングも同じと言えば同じ)。要するに、「もはやミュージック(音楽)とミューザック(ビジネスのための音楽)の境界線はぼやけているのである」
 多くの人は、違法ダウンロードが音楽の経済成長を止めたと思っている。しかし、ヴェイパーウェイヴは、音楽がハイパー資本主義という吸血鬼によって血を吸い取られたがゆにえ衰退したのだと考えている。

 ヴェイパーウェイヴの悪意や反抗心は、そうした産業社会に利用された音楽をふたたび自分たちの元に取り戻そうとする衝動にあるのだろう。ヴェイパーウェイヴは自らが音楽の死、音楽の終焉、音楽の腐敗となっている。そしてこの運動が短命であることも自覚している。盗用アートは、ある種の瞬間芸として成立する。
 「VANISHING VISION」=消えゆく夢。消えゆく理想。廃れていく音楽が夢見た夢。インターネット・クラブはそうした警告めいたタイトルのアルバムをフリーダウンロードで発表した。ゴルフ・クラブの待合室でかかる音楽、教則本にあるようなBGM、ぞっとするようなハイパーモダンなオフィス・ビルディングの受付で流れている音楽をかき集めて、ファッキン清潔なオフィス街の机に並んだPCから高解像度の毒を吐くことができるだろうか。アートワークに使われている風景も日本のアニメから引用されていることも興味深い。ま、どんなものか、とりあえずこれは無料なので聴いてみましょう。

https://internetclubdotcom.angelfire.com/

TRAXMAN - ele-king

 いまもっとも速くて面白くて、そして、くどいダンス・ミュージック、シカゴのフットワーク/ジュークがいよいよやって来る。今年に入って〈プラネット・ミュー〉からアルバムを出したベテランDJ、トラックスマン! しかもダンサーのA.G.とDJ MANNYを引き連れての来日だ。
 日本のジューク・シーンからもD.J. FulltonoやSTRATUSS、PAISLEY PARKSのライヴ・セットなど、かなり濃いメンツになっている。また、インド~ネパールの山岳地帯で生まれたというスタイル、ゴルジェのプロデューサー、HANALIのライヴまである! 
 このとんでもないイヴェントは10月12日(金)。場所は代官山Unitとサルーン。前売り限定190枚は、ジューク価格の1900円と、素晴らしいです!

2012/10/12(FRI)
@代官山UNIT & SALOON
OPEN/START 23:00
ADVANCE TRAXMAN 来日記念SPECIAL JUKE PRICE ¥1,900( 限定190 枚)
DOOR ¥3,000

※20歳未満の方はご入場できません。また入場時に写真付き身分証を提示いただいております。

DAIKANYAMA UNIT EVENT INFORMATION
MORE INFORMATION : UNIT / TEL 03-5459-8630

https://www.unit-tokyo.com/schedule/2012/10/12/121012_traxman.php


TRAXMAN

A.G.

DJ MANNY

UNIT PRESENTS
TRAXMAN with Red Legends footworkers : A.G. & DJ MANN
Y

TRAXMAN
(Planet Mu, Lit City Trax, Ghetto Teknitianz)
A.G.
(Red Legends, Terra Squad, FootworKINGz)
DJ MANNY
(Red Legends, Take Ova Gang, Ghetto Teknitianz, Lit City Trax)
D.J. FULLTONO (BOOTY TUNE)
PAISLEY PARKS (PAN PACIFIC PLAYA) *LIVE
STRATUSS (D.J.G.O., D.J.Kuroki, D.J.April / BOOTY TUNE)
MOODMAN
COMPUMA
PIPI (HELLPECIAN'S)
HANALI *LIVE
AND MUCH MORE!!



 こんにちは、NaBaBaです。本連載も早くも3回目となりました。いよいよ調子が出てきたといったところでしょうか。今回は初回と同じく、再び過去の名作にスポットを当ててみたいと思います。前々回の『Half-Life 2(ハーフ・ライフ2)』よりもさらに時代が遡ること2000年。その名も『Deus Ex(デウスエクス)』を、今回はご紹介したいと思います。

 『Deus Ex』は〈Eidos Interactive(アイドス・インタラクティヴ)〉販売、〈Ion Storm(イオン・ストーム)〉開発のPCゲーム。2000年代初頭の名作のひとつに数えられ、数多くのゲーム・オブ・ザ・イヤーも受賞しています。そして何を隠そう自分にとってははじめて遊んだ洋ゲーでもあるんですね、じつは。その意味で個人的にもすごく思い入れが強い作品であります。

 さて、『Deus Ex』ときくとそれなりにゲームが好きな方はピンとくるかと思います。なんと昨年にこのシリーズの最新作、『Deus Ex: Human Revolution(デウスエクス:ヒューマン・レヴォリューション)』が発売されているんですね。国内ではシリーズ自体のなじみがないからということで、そのまま『Deus Ex』の邦題で発売されましたが、今回ご紹介するのは初代の方の『Deus Ex』です。ややこしいですね。

■多くの分派を擁する、ゲーム業界の巨人の代表作

 いつものようにまず作品の周辺事情からご説明すると、『Deus Ex』シリーズはFPSとRPGのハイブリット作品で、FPSの基本システムのなかにキャラの成長要素や行動選択の自由等と言ったRPGの特徴を有しています。

 近未来の人体改造技術が発達した世界が舞台のサイバー・パンクな作風で、特殊部隊のエージェントとなり世界を股にかけて巨大な陰謀に立ち向かっていくストーリー。こうきくと日本人としては『攻殻機動隊』を連想する方もいらっしゃるかと思いますが、実際のところかなり近いです。

ストーリーも評価が高い。陰謀と数々のイデオロギーの対立の中、主人公は真の秩序を問われる。

この作品はディレクターがゲーム業界の巨人のひとり、Warren Spector(ウォーレン・スペクター)であることも有名です。Warren Spector(ウォーレン・スペクター)は『Ultima Underworld: The Stygian Abyss(ウルティマ・アンダーワールド:ザ・スティジアン・アビス)』や『System Shock(システム・ショック)』等の開発に携わっており、90年代のRPGにてきわめて重要な影響を与えてきた人物。そんな彼のキャリアのなかでも『Deus Ex』はひときわ高く評価されており、当時における彼の集大成の作品と位置づけられています。

後続の作品としては続編でWarren Spectorも直接関わった『Deus Ex: Invisible War(デウスエクス:インヴィジブル・ウォー)』があり、さらにその続編で開発元はかわってしまいましたが、先ほど触れた『Deus Ex: Human Revolution』があります。

それ以外の関連作としては『System Shock 2(システム・ショック2)』もありますね。これは初代『System Shock』の正当続編ながらWarren Spector自身は開発に関わっていません。『Deus Ex』とも発売が近く、いわば異母兄弟的な間柄にあると言えます。

もっと言うとその『System Shock 2』に中心的に関わっていたのがKen Levine(ケン・レヴィン)という現代のゲーム業界におけるキーパーソンのひとりであり、彼は07年には『BioShock(バイオショック)』という『System Shock 2』の後継作をつくり、いまはそのさらなる後継作の『BioShock: Infinity(バイオショック:インフィニティ)』を開発しています。

『Bioshock』アール・デコ調のデザインが特徴的だが、根幹は『Deus Ex』に通じる部分もある。

当のウォーレン・スペクターは、いまはなんとディズニーの元で『Epic Micky(エピック・ミッキー)』シリーズを手がけており、いままでのハードコアなゲームから一転、ファミリー向きの題材を扱っています。しかしここでもなおスペクターの思想哲学は健在のようで、ゲームの根幹は『Deus Ex』と共通する部分が多々あります。

さらにさらに元『Deus Ex』開発スタッフが現在『Dishonerd(ディスオナード)』というやはり精神的な後継作を開発中であり、このように現代においても『Deus Ex』、あるいはWarren Spectorの精神性というのはしっかり引き継がれ進化発展をしつづけています。

しかし一方で初代『Deus Ex』には後続にはない特有の魅力もあるようにも僕は思っており、今回はその点を時代によって求められるゲーム性の変化という点も絡めながら論じていきたいと思います。

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■"何を"するかではなく"どう"するか

『Deus Ex』はありていに言えば自由度が高いゲームです。さまざまなスキルとそれのレベリング、会話中の選択肢による展開の分岐等、もともとRPGが持っていたシステムをFPSという大枠のなかに取り入れている、ということは先ほど軽く説明したとおり。

ですが、FPSとRPGのハイブリットは当時はともかくいまでは珍しいものではないですし、自由度の高さを謳うゲームも然りです。そういう状況にあって『Deus Ex』がいまも昔もユニークでありつづけているのは、プレイヤーに与える自由度の性質が、他の多くの作品とは根本的に異なるからです。

多くのゲームにとっての自由度とは、おもに目的選択の自由とキャラクター・クリエイションを指すことが多いです。たくさんのやれることがあって、そのなかから自由にやりたいことを選ぶ。さらにキャラクター・クリエイション――能力や武器防具を好きにチョイスしたり成長させることで、自分好みのキャラクター像を作ることができる、といった具合です。

しかし『Deus Ex』はそれとはちがって目的はつねに決められており、それに対しての選択権はプレイヤーにはありません。しかしその目的達成のための手段がきわめて多様かつ多層に作られており、言わば“何を”するかではなく“どう”するか、手段の多様性に自由を求めたデザインなのです。

補足がてらに言っておくと、これは一般的なRPGにおけるキャラクター・クリエイションが担っている役割それ自体に焦点をあてていると言うこともできるでしょう。キャラクターを自分好みに成長させていくこととはつまり、目的に対して取り得る手段や有利性を自ら選択していくということですから。

だから他の一般的な自由度の高いゲームと呼ばれているものに“どう”できるかの自由がまったくないわけではありません。しかし『Deus Ex』がそれでもなお異端なのは、キャラクター・クリエイション要素は勿論のこと、それ以外にも多層構造のレベル・デザインや、ひとつの事物に対してとれる行動が必ず複数種類用意されている等といった、文字通りゲームの全要素が手段の多様性を高めること一点に注がれているからです。

RPGの基本システムは踏襲しているが、全てが一貫して手段の多様性に繋がっている。

ここで昨年のRPG超大作、『The Elder Scrolls V: Skyrim(ザ・エルダー・スクロールズV:スカイリム)』(以下『Skyrim』)と比較してみましょう。『Skyrim』はまさに上記の話でいうところの目的選択の自由を突き詰めたRPGの典型です。この作品はタイトルにもなっている広大なスカイリム地方が舞台で、プレイヤーは自由にその世界を歩き回ることができます。ダンジョンに行くのも町に行くのもプレイヤーの気が向くまま。メイン・ストーリーも一応あるにはありますが、完全に無視して他のことに明け暮れてもかまわず、むしろ推奨すらされている節があります。

『Skyrim』は広大な寒冷地を舞台にした、西洋RPGの王道中の王道だ。

対する『Deus Ex』はある場面での行動範囲は限られており、その場における目標も明確に設定されていて、それをしないという選択はとれません。というよりもそれをしないと先に進めない。ストーリーについても同じで、途中お使い程度のわき道にそれることはできても、大筋は一本道で自分の行動でその後のストーリー展開が大きく変わることもない。その意味では『Skyrim』よりもずっと一本道の普通FPSの進行形態に近いと言えるでしょう。

しかし何度も言っているように目標達成までの手段の多さが本作の最大の特徴であり、あらゆる場面で複数のアプローチが取りえます。たとえば鍵のかかった扉をひとつ前にするだけでも、正規の鍵をどこからか見つけてきて正々堂々開けることもできれば、解錠スキルがあればロック・ピックを使ってこじ開けることもできる。電子式ならマルチ・ツールで無効化できるし、近くにコンピュータ端末があればそれをハッキングしてあたり一帯のロックをすべて無効化することもできる。はたまた重火器の扱いに長けていればドアそのものをぶっ壊すということすら可能だし、どれも嫌だというのならそのドアを避けて別のルートを選んでもいいのです。

開錠方法の多彩さには、それまでのゲームの単なる合鍵探しへのアンチテーゼも込められている。

こうした手段の選択肢が多層に積み重なってひとつのエリアを形成しており、プレイヤーはそれらを常に自分の好みやスキル、作戦と照合して選択していくことになります。そのバリエーションはおよそ思いつくすべての可能性を網羅していると言ってもよいでしょう。

このさながら守りの堅い要塞を自分のイマジネーションで攻略していく感覚は、かなり独特なものがあります。ふたたび『Skyrim』を例に挙げると、あの作品は目的選択の自由度はものすごく高くても、いちど選んだ目的自体の解法は限定的なんですね。『Skyrim』でさえそうなのですから、他の一本道のゲームなら言わずもがなでしょう。
それに加えて本作は、数多くの派生作品に恵まれつつも本当の意味での後継がないと僕は思っており、それによりなおさら孤高の存在感を放っているのです。

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■当時のテクノロジーとニーズだからこそ生み出し得た特殊性

ではなぜ本当の意味での後継作がないのか。冒頭でも触れたとおり関連作品はシリーズの正当続編から異母兄弟作まで多岐にわたっている『Deus Ex』でありますが、そのどれもが本作のある重要な特徴をじゅうぶんに引き継いでいないからです。

それは一言で言えばレベル・デザイン。ちなみにレベル・デザインとはステージの構造だったり、どこに敵がいてどこにアイテムがあるとか、要はいろいろな物やイベントを事前に配置しておくことでゲームの展開やおもしろさをデザインしていくことを指す用語です。そして『Deus Ex』の多層に連なる立体的な構造――レベル・デザインは他に類を見ない複雑かつ整合性のとれたもので、これは同時に当時の時代性を色濃く映してもいます。テクノロジーとニーズ、これらふたつの時代的特徴に作り手の才能が組み合わさったことにより、まさに本作は2000年当時でなければ作りえなかったレベル・デザインに結実していると思っています。

このテクノロジーとニーズの時代性について順を追って説明していきましょう。まずテクノロジーについて言うと、本作は“どう”できるかの自由を、その大部分をレベル・デザインのみで実現しています。その極端な比重の大きさこそが当時の技術力を雄弁に語っているとともに、本作を特徴的な存在にしている一因なのです。

先ほどの扉の例を思い出していただくとわかりやすい。鍵がかかった扉に対する複数の解決方法、それらはすべてその扉にあらかじめ仕込まれた設定なのです。このような複数の解決方法が設定された事物が、ステージ上に無数かつ多層に配置されている。それは超複雑なあみだくじと形容してもよく、その選択肢と分岐の量の膨大さゆえに、プレイヤーはあたかも自らの意思とアイディアで活路を創造していると感じることができるでしょう。

これはべつの言い方をすれば、プレイヤーが問題にぶつかったときに取りうるだろう行動を、すべて想定した上で事前に仕込んでいるということです。すみずみまで想定しつくし、さらにどんな行動をとっても先の展開に矛盾が起きないようにも設計されている。まさに総当りの力技。どういうふうに組み合わせても完成するジグソー・パズルを作るに等しい難解さですが、それを本作はみごと達成しています。

時には意外な場所に別ルートがあったりもするが、手がかりはちゃんと提示される。

しかしいまのゲームならレベル・デザインのみですべてに対応しようとはせず、もっとスマートな方法をとるのが定石でしょう。つまりAIに頼るわけです。ゲームにおけるAIは典型的な例では敵キャラクターが人間らしいリアルなふるまいを取る機能であり、より広く捉えるとゲーム側が自立的に状況を分析し、ゲームの展開を自動生成していく機能も含まれます。

ゲームをヴァーチャル・リアリティという側面から見た場合、あたかもそこに実在の世界があるかのような、定型に縛られない有機的な振る舞いを見せることが近年では多くのゲームで追求されています。初代『Deus Ex』はそこが弱点で、膨大な仕込みによって擬似的なヴァーチャル・リアリティを再現してはいましたが、されど想定されたできごと以外は決して起きないしできない、とても静的な世界なのです。また敵AIは当時としてもおバカな部類で有機的な反応は期待するべくもなく、それがなおのことレベル・デザインによる仕込み偏重に拍車を掛けています。

これに対し『Deus Ex』の後継作は、よりAIがゲーム性に強く結びつけられている。もっともわかりやすい例は『BioShock』で、敵は『Deus Ex』よりも賢い、というよりも行動バリエーションが多彩で、プレイヤーの行動に対するリアクションと、そこから誘発される突発的できごとに対応していくのが主要のおもしろみになっています。要はプレイヤーがどんな振る舞いをしてもAIがその場で判断して合理的な反応を返す、結果として自由度が高く感じられるという、『Deus Ex』が仕込みによって実現したこととアプローチは違えど方向性はかなり近しいのです。

同様のアプローチの差異は『Deus Ex: Human Revolution』でもみてとれて、ここにテクノロジーの進化に伴う、ゲーム・デザインの変化を感じるのことができるのです。とは言えそれで『Deus Ex』をローテクだと批判したいわけではなく、むしろ当時のローテクなりに根性で作ってしまったところが強いオリジナリティになっているわけですね。

次にニーズのちがいについて説明すると、近年では『Deus Ex』のような複雑なゲームは求められないという事情が何よりも大きいです。本作は多数の武器に多数のアイテム、そして何より多層構造のレベル・デザインがある。これらの組合せにより多数の問題解決法がとれるのが特徴であることは何度も説明してきましたが、しかし一方でそれは何をやってもいいということではありません。どういう進め方をしたとしてもプレイヤーは基本的に不利な状況に置かれており、その上で豊富な選択肢のなかから生き残れる道を探すという、サヴァイバルの意味合いが強いのです。

中長期的な視野で戦略を立てることを求められる場面も多々あるため、状況を理解し自分なりの結論を導き出していけるようになるにはゲームへのかなりの習熟が必要です。確かにそれはそれでおもしろいのですが、つまりは相応の時間をゲームに投じないとおもしろさが見えてこないということでもあり、当時こそそういうタイプのゲームは多かったものの、なかなかいまでは受け入れられづらいでしょう。

『Deus Ex』が発売された2000年当時とくらべ、いまはゲーム人口も、ゲームにかかる開発費も桁違いに多く、業界はハイコスト・ハイリターンの道を突き進んでいます。必然としてより多くの人に受け入れられるデザインが追及されることになりますが、多くの人とは言い換えればゲームにあまり熱心でない人もターゲットになってくるということです。要はカジュアル・ゲーマーですね。

ゲームにあまり熱心でない人たちもふくめた多くの人に受け入れてもらうためのメソッドはいろいろとありますが、そのうちのひとつがおもしろさがすぐ伝わる、自分の取った行動の結果がすぐわかる、というものです。おもしろさが見えてくるのに時間がかかったり自分の行動が正しいのかそうでないのか判然としない時間がつづくと、プレイヤーは不安になったり飽きてしまうのです。だから『Deus Ex』はいまの基準でいうとおもしろさを理解されないあいだに速攻で投げられてしまいかねない危険性が高い。

かくして今日のゲームはインスタントに味わえるおもしろさを絶え間なく注入しつづける、最大瞬間風速重視の傾向が強まっています。先ほど取り上げた『Deus Ex: Human Revolution』や『BioShock』もその傾向は色濃い。前者はレベル・デザインの複雑さやRPG色は薄くなり、判断が問われるのはその場にいる敵をどう対処するのかという点に集約されていて、先のことや戦闘以外のことを考える必要性も低くなっています。

『Deus Ex: Human Revolution』はRPGというよりステルスアクションの色がずっと濃くなった。

 後者はもっと極端で『Deus Ex』的な複雑さはまったくなく、とくにレベル・デザインは敵と戦闘するときの試合会場的な意味合いしかない。そもそも敵の登場箇所はランダム性が強いし、成長システムにしても自分のステータスはいつでも好きなときに変えることができるので、戦略を立てる意味自体がなく、求められるのは瞬間的なできごとを豊富な手札を使って、いかに好きに対処するかという、刹那の戦術の自由なのです。

 そしてこれら2作はレベル・デザインの複雑さの減退をカバーする意味合いも込めて、AIによる展開の多様性により重きを置いているわけですね。AIのとる行動が毎回ちがうだとかということは、レベル・デザインを複雑にすることよりもよっぽど直接的で伝わりやすい。つまり今日のゲームは複雑難解なレベル・デザインはあまり求められていないし、技術的にもそれに頼る必要性が薄れたと言えます。

 ここまでことさらレベル・デザインのことばかり取り上げましたが、他のスキルや武器やアイテムまわりのシステムはRPGにとって王道なだけに、他に採用している作品も多く、現代にいたっても過去の複雑さをそれなりに継承している作品はないわけではないのです。しかしこと『Deus Ex』のレベル・デザインの特殊性は無二のものがあり、ゆえに継承者もなくそのまま孤高の存在となってしまっているように思えます。

■まとめ

 こうした事情に対する僕の思いは複雑です。何ごともそうだと思うのですが、ゲームの進化もまた単純に要素が増えたり洗練されていくのみではなく、それと同じくらい失っていくものがあるのです。その失ったものを嘆き批判する人も多いですが、それは物事の一面しか見ていない。

 レベル・デザインの重要度が高かった時代も、AIが進化して以降の時代もそれぞれの良さも悪さもある。カジュアル化についても同様で、複雑性がなくなることは、見方を変えれば煩雑だった要素がよりスマートに整理されるということでもあり悪いことばかりではありません。

 ただひとつ惜しむらくは、進化の流れというのは不可逆的なもので、いったんステップを上がったらそれより下に戻ることは容易ではないということでしょう。ときどきいまのこのシステムとむかし流行ったこのシステムを組み合わせたらおもしろいゲームができるのではないか、みたいなことを夢想することがあります。しかしゲームが商業をベースとした作品であるかぎり、いまの時代のニーズに則るしかない場面は多く、どうしても過去に埋没してしまうデザインというものがあるのです。それが少し寂しい。

 『Deus Ex』もそういう作品のひとつです。この作品の功績は大きく、それが現代のゲーム・シーンを彩る数々の作品の道しるべとなったのは間違いありません。しかしそれと同時に前の時代のゲームであることもたしかな事実で、特別むかしのゲームを遊ぶのが好きだ、という人以外にはいまはお勧めしがたい。これだけコアでヘビーなゲームはいまの時代そうそう無いので、やるにはかなりの覚悟が必要でしょう。

 ただ最後にひとつ言うと、ニーズに沿わないゲームは作れないという事情は、最近では少しずつ改善されてきていると言えるかもしれません。現代のゲーム業界はインディーズ・ゲームもかなり盛んになってきており、小規模なプロジェクトならばマスのニーズに沿わないもっとニッチな内容でも作れるようになってきています。

 またキックスターター(Kickstarter)というクラウドファンディング・サービスも今年に入ってからゲーム系の企画が目立つようになり、ターゲットのユーザーにピンポイントに働きかけ、直接融資してもらうことも可能になってきました。もっともこれに関してはまだ完成までに至ったプロジェクトがないので最終的な結論は出せませんが、いまゲーム業界の期待を一身に集めているサービスのひとつだと言ってよいでしょう。

 そういうわけで次回はこれまで紹介してきたゲームとはまったく傾向のちがう、今年発売されたインディーズ・ゲームをご紹介したいと思います。ぜひお楽しみに。



Mirror to Mirror - ele-king

 人類はまた一歩ニュータイプに近づいたのだろうか。"スリープ・スルー・スクール"を聴いたときには、その曲がメデリン・マーキーの"サイレン"と呼びあっているように幻視された。アレックス・トゥオーミーの透き通った裸の上半身が、メデリンの透き通った裸の上半身となにか会話をしている。ざーざー、ぷくぷくぷく、てれてれ、とと......おそらくこの会話はすれ違ってすこし悲しい結末をむかえる。アレックスとメデリンでは見ているものがちがうから。

 声帯をふるわせることはないが、しかし会話である。筆者には彼らの音が言葉であるようにきこえる(メデリンのほうはほんとにそうだけれど)。趣味の悪い筆者は、ためしに、"スリープ~"の1分8秒あたりから、"サイレン"の1分35秒あたりを重ねてみたが、すると30秒後くらいにみごとな山を持ったやりとりが聴かれて、どきどきした。

 メデリンにとって、おそらく音とはノイズのことだ。それはつねに彼女の周囲にあって、彼女の五感を刺激し拡張する。対照的にこのミラー・トゥ・ミラーことアレックスにとって、音とはもっと精製された、人工的なもののようである。明るく夢のような構築物をささえる、しなやかな素材といったところだろうか。〈プリザベーション〉の統一性のあるアート・ワークが印象的な300枚限定リリース・シリーズ、「サーカ」として本作は企画されているが、マーク・ゴウイングのプロダクト・デザイン的なコンセプトと本作の音には、どこか共鳴するところがあるようだ。

 アルバム前半はピアノやチェンバロが暖色系の音を奏でる。こうした楽器の使用を指してか、ポスト・クラシカル的な解釈を受けることもあるようだが、器楽曲というよりは、その音色のみを必要としたサウンド・コラージュという方が近いかもしれない。"ドリーム・トゥ・ハード"というように、かなり粘りのあるアンビエント・トラックをはさみながらも、弦がはつらつと細やかな動きを繰り返す、愛らしくミニマルな展開をみせる。"スリープ・スルー・スクール"は大きな潮の流れを思わせるドローン状の音の層に、泡沫のようにシークエンスされたシンセの細かいアルペジオがのる。そのてらいなく輝く音のひとつひとつに、素直でやさしい世界が映り込んでみえる。この点はジュリアナ・バーウィックと似ている。無知や単純さからそのような世界に短絡するのではない。汚されることではほころびない、根からのやさしさ、頑固な素直さ、悪びれないドリーム感覚、そうしたものをつよく感じさせる。暗く、スローで、リヴァーブも深さを増す後半においてもそれは変わらない。暗いというよりも短調を思いきり楽しむような手つきだ。"バーニング・ライフ"などは天使が戯れに弾くリスト、"ドリフト・アパート"などは叙事詩的でスケール感のあるサウンド・スケープが広げられるが、音にガラスの破片のような光が混じっている。"オール・ピープル・イン・マイ・ハンド"の鈍重なドローンも同様だ。それはなにかきらきらしたものの所業なのである。ロサンゼルスのこの新鋭には、われわれがこの先たどりつくべきヒプナゴジックの向こう側を示してもらいたい。

ALEX FROM TOKYO (Tokyo Black Star, world famous NYC) - ele-king

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9/21 @nublu (NYC)
9/27 Better on Foot @ Red Maple (Baltimore)
10/11-10/22 ヨーロッパ・ツアー
10/30-11/26 日本ツアー

September 2012 indian summer in NYC ecclectic top 10


1
Adrian Sherwood-Survival & resistance LP [On U-Sound]
この夏からずっと家でループで聴いてる素晴らしいダブ・アルバムです!

2
Lindstrom-Ra-ako-st (smalltown supersound)
Lindstromの新アルバムからの久々のダンス・フロアー・キラー!

3
Bing Ji Ling & Alex from Tokyo-Not my day [unreleased]
7月の日本ツアーからずっとプレイしているNYCで一緒に制作したTommy Guerreroバンドの一員でもあるNYC在住のミュージシャンBing Ji Lingとのコラボ作です。

4
Junior Boys- I guess you never been loney (Moody remix) [white label]
Junior BoysとMoodymanによる最強コンビによる不思議でたまらないディ-プな世界です!

5
Hot Chip-How do you do (Todd Terje remix) [domino]
勢いが止まらないTodd Terjeによるまたもやのユーロ・クラブ・アンスムです!

6
Bobby Womack-Love is gonna lift you up (Julio Bashmore remix) [XL]
伝説のソウル・シンガーBobby Womackの黒いヴォーカルをブリストルの話題のUK nu houseの新星Julio Bashmoreがモダンでエレクトロニックにアップリフトしたダンスフロアー・キラーです!

7
Kaoru Inoue-Groundrhythm (The Backwoods remix) [ene records]
日本の野外パーティを思い出してくれる大好きな日本人クリエーターの2人がお届けする最高に気持いいオリエンタルでトリーミーな空間ハウスです!

8
Mitchbal & Larry Williams-Jack the house (Frankie Knuckles remix) [still music]
あのシカゴ・ハウスの名曲のFrankie Knucklesによる幻の未発表リミックスが何と再発として12"カット! これぞHouse Musicです!!

9
Ry & Frank Wiedeman-Howling (Innervisions)
AmeのFrankとLA在住の作曲家&歌手Ryによる今っぽい非常に個性的であるフォーキでロック色の暖かいエレクトロニック・ソウル・ハウス・アンセムです! この間FrankとAmsterdamのクラブTROUWとプレイした時にFrankがライヴのラストで演奏した時にとても盛り上がって鳥肌が立ちました! 次のInnervisionsの新作は何とIan Pooley「Compurhythm」です。

10
Michael Kiwanuka - Tell me a tale (Polydor)
話題のロンドンの若手新世代天才ギタリストーMichael Kiwanukaによる素晴らしい曲です! まさにロンドンを思わせる傑作で、ここ最近の新譜で一番心に来たライヴ演奏曲です。昨日のNYCでの初公演のライヴもとても素晴らしかったです。Jimi Hendrixの"Waterfalls"のカヴァーも感動的でした!
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