「UR」と一致するもの

Sacred Tapestry - ele-king

Vektroid=Polygon WizardVektordrum=LASERDISC VISIONS=MACINTOSH PLUS=情報デスクVIRTUAL=FUJI GRID TV=INITIATION TAPE=ESC不在
 が与えられたとき、
Vektroid=〈NEW DREAMS LTD.
 が成り立つので、
〈NEW DREAMS LTD.〉=New Age-Psychedelic-Chillwave=Vaporwave
 であることより、
Vektroid=Vaporwave
 が言える。

 そう、ヴェイパーウェイヴとは、Vektroidを名乗る、アメリカ在住と思しき謎の人物による自作自演行為である。これが確かであるなら、ヴェイパーウェイヴは同時代の現象とはとても呼べないばかりか、小規模なアンダーグラウンド・コレクティヴでさえない。いわば偽装、詐術である。人がウェブ上に人格を持ちこんで以来、いわゆる「ネカマ」を標榜するユーザーが常に一定数、存在しているが、最初はそのような悪戯心からはじまったのであろうヴェイパーウェイヴも、少しずつ自らの意味付けを重くしていき、おそらくは自然な呼吸ができなくなってしまったのだろうと想像される。電子音楽史的には、ソロ活動者の伝統的な変名活動の一種と見るかもしれないが、この尋常ではないアカウント数は、ちょうどSNS上でサブ・アカウントや裏アカウントを取得し、陰口やエゴ・サーチ(ウェブ上自己検索)に耽る現代人の奇妙な分裂性、そしてそれを生む抑圧の構造に似ている。

 彼(彼女?)への追跡は、いまのところふたつの作品で行き詰まる。ひとつは、今年の5月に本人名義(Vektroid)でリリースされている『Color Ocean Road』で、同作のBandcamp上でのタグが、Vektroid(ヴェイパーウェイヴ)に関するほぼすべてのネタバレになっているが意味深だ。そして、いまさら隠すまでもないのか、最初からVektroid のSacred Tapestry名義であることが明記され、8月にSoundcloud上でのストリーミング・リリースとなった本作『Shader』が、〈NEW DREAMS LTD.〉という擬似レーベルの一応の区切りらしいのである。いわゆる「なかの人」であったVektroidが、このような撤退の素振りを見せている理由はいくつも推測される。悪ふざけでやっていたことが発見され、無視できない規模に広がってしまってビビッてしまったとか、単純に(超ニッチな規模とは言え)有名になってしまってウザくなったとか。もちろん、翻弄される私たちを見て、いまごろベッドの上で笑い転げている可能性もあるが......。

 この音楽に今日まで手を出さなかった人のために最低限のことを確認しておくと、ひと昔前の企業紹介ヴィデオの人畜無害なBGMを悪意でリミックスし、その残滓を無国籍でグロテスクなオフィス・カームとしてグチャグチャに混ぜ合わせたような産物だと思ってもらえばいい。ピッチ操作(スクリュー)された日本語音声や、意味が含まれているのか判断できない漢字の無作為なカット&ペースト、あるいは、使い古されたテレビ・コマーシャルの背景や古いコンピュータの起動音を引用したような痕跡も散見される。本作はその集大成とも言える内容だ。
 冒頭、日本の航空会社(?)のコマーシャル・ナレーションをスクリュー・ループさせた" LD・VHD "からはじまり、本作をヴェイパーウェイヴの作品と認識することが可能になる。だが、以降の曲でVektroid はそこを離れていく。続く"花こう岩 Cosmorama"では、動物の声や環境音などを散りばめつつ、"ドリーミー"以降、"移住"、"新たな夢 Spirited Child"では、最終的にはアンビエントに、互いに曲の区別がつかないくらい抽象的に、テンポ・ダウンしながらドロドロと覚醒していく。いわば前掲したタグのうち、new ageとpsychedelicがひたすら強調されていると言える。本作をヴェイパーウェイヴの終わり、そしてポスト・ヴェイパーウェイヴの始まりとするなら、その先にはさらに際どい世界への接近が待っているのかもしれない。
 ラストとなる"凍傷"は、ヴォイス・サンプルの操作という、一見、ヴェイパーウェイヴ的手法を悪乗りさせただけの音で、しかし私たちはそのような音でどこまでトリップできるのか、試しているようでもある(曲の後半部は凄まじい距離をゆらゆらと飛んでいく)。 かつてのヒッピーが目を付けた東洋の神秘主義と直結するのか、しないのか、分からないが、本作のサイケ趣味は相当の深度を行っていると言える。初期の活動で優先させていた、ある種のリラクゼーション・ミュージックとしての効用は、ここではサイケデリックの快楽主義に逸れているが、ロー・アートとしてのカウンター精神は引き継がれている。

 こうしたネタバレが済んだためか、「ヴェーパーウェイヴは終わった」と『Tiny Mix Tapes』が報じているが、これにはそれなりの根拠がある。2011年の11月以降、Polygon WizardとしてのYouTubeへのアップロードは途絶えているし、これ以降、〈Beer on the Rug〉からの有料配信/フィジカル・リリースが増えている一方で、本当に悪ノリしていたころのZIPファイルの削除がはじまっているのだ。目下、もっとも怪しいのはMEDIAFIREDやMIDNIGHT TELEVISION、COMPUTER DREAMSなどの「いかにも」な名義のアーティストだが、これらがどこまで繋がっているかは分からない。Vektroidの別名義かもしれないし、単なるフォロワーかもしれない。もっとも、ここまでやればどれだけ疑われても仕方がないとも言え、わざわざロシアのSNSであるvkにアカウントを取得した░▒▓マインドCTRL▓▒░が、今年の6月からヴェイパーウェイヴのネタバレ的投稿を続けているのも気にかかる。
 
 すべては気まぐれの愉快犯だったのだろうか? いか、仮にそうだとしても、ごく個人的な自己相対化の体験として、ヴェイパーウェイヴに出会って以降、それまで聴いていた音楽の聴こえ方がまったく違うものになってしまったことは強調しておきたい。ゼロ年代後期に『Pitchfork』が中心となって盛り立てたUSインディの音楽が、オルタナティブと呼ばれつつもどこか形骸化してしまったことを強引に暴き立てるような、問答無用の暴力性をそこに含意として感じたのだ。いわば、旧来の音楽環境が「本当に」荒廃したあと、つまり『Pitchfork』的なインディ音楽でさえも存続が危ぶまれるような季節が到来したときに、どのような音楽が立ち上がるのか、その最悪のシミュレーションを見せられているようなのだ。また、90年代の前半的な価値観に注がれる視線の向こうには、科学がまだギリギリのところで無邪気に、未来への希望として信じられていた頃の記憶を掘り起し、それをあえてディストピア的な反論として突き付け返しているようでもある。
 
 まったく......自分で書いておきながら、本当に妙な時代になったものだ。ヴェイパーウェイヴ----ウェブをシーンの中心に据えた最初の、小さな、そして本格的なこのアンダーグラウンド音楽は、ゼロ年代以降に生じた星の数ほどのマイクロ・ジャンル(音楽の部分的な傾向に依拠した曖昧な細分化カテゴリー)をめぐる2010年代以降の可能性、その示唆を多分に含んだ最初の衝撃(アンダーグラウンド2.0)だったと言える。
 残された〈Beer on the Rug〉を中心としたポスト・ヴェイパーウェイヴはこれからも展開していくにしても、同時代のムーヴメントやそれに代わる何かがどのように提起されるか、私はその一端を見た気がした。つまり、ある新しい音楽が「現象として面白い」という以前に、「本当に現象なのかどうかさえ分からないから面白い」ことがあり得るのだということを!
 もっとも、ヴェイパーウェイヴは多くの音源が2011年に流通し、その起源は音楽的にはJames Ferraroではないかと言われている。そうした文脈を踏まえた上での体系的な研究結果は、斎藤辰也君がいつか発表してくれるだろうが、個人的にはむしろ、本作におけるnew ageとpsychedelicの拡張路線の延長に立つ存在として、〈AMDISCS〉というレーベルに注目しているが、その話はまた今度。いまはただ、この悪趣味なサイケデリック・ミュージックの奥底に沈んでいたい。どこまでも、もっともっと深く。すべての音が溶け、その意味を失くしてしまうまで----。

Four Tet - ele-king

 そろそろ出ると噂されているボーズ・オブ・カナダの新作はどうなっているのだろう。ひょっとして、これまでよりもダンス・オリエンテッドな作風になっていたりするのだろうか。そんなことを今年ふと思ったのは、はじめはローンの『ギャラクシー・ガーデン』を聴いたときで、次がダン・スナイスによるダフニの『ジャオロン』と、フォー・テットによるシングルのコンパイル盤である本作『ピンク』を聴いたときである。エレクトロニック・ミュージックの移り変わりははやいとよく言われるけれど、そうとも思えないことが自分にはときどきある。『ミュージック・ハズ・ライト・トゥ・チルドレン』の醒めた夢の続きが、いまでも反響し続けているような心地がする......ローンやマウント・キンビービビオ、そしてキエラン・ヘブデンが生み出す色彩感覚のなかに。だがそれらが、一様にいまダンスフロアを目指しているのは、ベッドルーム・ミュージックと微妙な距離を取るかのようで興味深い。

 『ゼア・イズ・ラヴ・イン・ユー』は美しいアルバムで、タイトルに示されているようにヘブデンの叙情性を強調するものであった。ビートは4/4を刻んでいるけれども、そこには透き通った光が反射するようなメロディがあり、めくるめくサイケデリアがあり、女性ヴォーカルによる甘い歌があり......それらはダーティなフロアでのダンスよりも、ごくパーソナルな恍惚を思わせた。「愛」はあくまで「あなたのなか」にあるのだ。フォー・テットが『ポーズ』『ラウンズ』で保っていたダンスフロアとの距離を思うとき、そのダンスへの接近の仕方はごく自然な回答だったはずである。
 だが『ピンク』では、ヘブデンのダンスフロアを揺らしたいという欲望がより正直に吐露されているようである。もちろん12インチ・シングルの編集盤だから、ではあるが、ブリアルとの一連の共作と〈ファブリック〉シリーズへの参加を経て、彼のモードがよりそちらの方向へと向かっているように感じられる。ダン・スナイスのように名義を変えてもいない。曲順もじつは配慮されていて、冒頭を飾る"ロックト"は反復するリズムがメロウな旋律と出会う、まさに前作の続きのようなトラックだ。おや、と思うのは続く"ライオン"で、ボトムががっしりとしたミニマル・ハウスとして展開される。やがて得意の鍵盤打楽器を思わせる高音が入ってきて辻褄が合うようにはなっているが、『ポーズ』のフォークトロニカとは身体への響き方がまるで異なっている。

 "ジュピター"のコズミックな感覚もフォー・テットのトラックとしては新鮮だが、なかでも妙なのは声ネタとファンキーなカットアップとハープの繊細なアルペジオが同居する"128ハープス"だ。"ピラミッド"のディープ・ハウスないしはカットアップ・ハウス的展開にしてもそうだが、これまではあまり見せなかった野性味を披露している。ヒップホップからの影響をようやく上手く出せるようになったということかもしれない。それが、これまでじゅうぶん培ってきた清潔な音の煌きとどうにかして肩を寄せようとしている。だから、まだ完成形ではないのではないかとは思うが、彼の挑戦の跡を見るようで頼もしい。
 ブライアン・イーノめいた"ピース・フォー・アース"のチルアウトを経た、本作ではラスト・トラックとなる"ピナックルス"が白眉だ。ダン・スナイスとアーサー・ラッセルの素晴らしさについて日々語り合っているのかは知らない......が、群を抜いてグルーヴィーなディスコ・トラックで、シカゴ・ハウスの猥雑でセクシーなエネルギーがエレクトロニカの音響の冒険と時空を超えて出会うかのようである。曲は反復を繰り返し、時折ピアノの大胆な和音を挟みながら、6分を過ぎた辺りでついにエクスタシーへとリーチする。これは......絶対にフロアで目を閉じて味わいたい。
 かつてフォー・テットはエレクトロニック・ミュージックのもっとも細やかな感性を探り当てようとしていた。それはジェイミーXXらに受け継がれ、ヘブデンはその成果を手放すことはなく、そこに肉体を与えようと試みている。夢の続きはいまダンスフロアにあり、我々はそこでサイケデリアに朦朧としながらもたしかに身体を揺らすことができる。

Mediafired™ - ele-king

Mediafired™ - Pixies

"we had Pepsi™ sponsorship" misssequence(メディアファイアード™本人。上記動画のコメント欄にて)

 違法ダウソしてますか?™
 愉快なコマーシャル映像まで作られたオンライン・ストレージ〈メガアップロード〉は、違法ダウンロードの温床となっていたとされ、現在は閉鎖されている(https://www.megaupload.com/)。いっぽう、おなじく人気だったオンライン・ストレージ〈メディアファイアー〉は存続してはいるが、共有が違法と思われるファイルについては積極的に削除しているようだ。アーティスト名やタイトルとともに「mediafire」を入力してグーグル検索すれば音源ファイルが見つかりますよと友人に教えられたのは3年ほど前。いま同じことをしても、ダウンロードへのリンクは見つけづらい状況だろう。それが道理なのかもしれない。しかし、利用するか否かに関わらず、オンライン文化も全盛だというのに息苦しい出来事だなとも感じる。™

 メディアファイアード™ことジョアン・コスタ・ゴンサルヴェス(Joao Costa Goncalves)もポルトガルでそういった違和感をすこしは抱えているに違いない。今作『ザ・パスウェイ・スルー・ワットエヴァー』はあからさまに他者の著作物をカットアップして作られたものだ。素材となった曲を収録順に並べると、クイーンの“イニュエンドウ”/ヴァン・ヘイレンの“キャント・ストップ・ラヴィン・ユー”/インナー・サークルの“スウェット(アララララロン)”/ケイト・ブッシュの“嵐が丘”/バックストリート・ボーイズの“アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ”と、そうそうたる有名どころばかり――MOR(Middle Of the Road)的である。いずれも古い。商業的にも旬を過ぎたものであって、〈メディアファイアー〉にアップされていたとしてもちょっとイケてないではないか。™

 ビートルズやマイケル・ジャクソンをおなじように剽窃したジョン・オズワルドの『プランダーフォニック』との大きな違いとして、今作には過剰にエコーがかけられていることが挙げられる。これは、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパーティンによる『チャック・パーソンズ・エコージャムズVol.1』の、80年代のアダルト・コンテンポラリー(日本でいうAOR)やソウルの一節をループさせエコーの海に浸した手法「エコージャム」であり、「エコージャム」はタグの一種でもある(ちなみに、同アルバムの楽曲にダニエルがレトロな映像をつけたプロジェクト〈Sunsetcorp〉――斜陽企業がヴェイパーウェイヴの起こりだと思われる)。™

 今作でループさせられている一節一節は、ガンガンにエコーをかけられ、まるで巨大な聖殿に響き渡っているかのように祝祭的ですらある。景色はまるで真っ白で、鳩がパタパタと飛び立っていく画が見えるようだ。しかし、そんな演出とは対照的に、チョップとループのタイミングも展開も聴き手に心地よさを与えるものとはけっして言えないほど荒々しい。ピッチは原曲より低くされたりしながらも、スピードは上げられていたりする。祝祭的な響きをもちながらも、ポップソングがゾンビのように知性のないうめきを上げているようでもある。仕事中などにわけもなくなにかの歌の一節が脳内ループしてしまう体験に等しい。非常にストレスフルである。荒々しいが繊細に編集されている。ジェームス・フェラーロはポップ/ロックがリビングでつけっぱなしのMTVから垂れ流され平坦な環境音となり死んでいる様子を捉えたが、今作ではメディアファイアード™によってポップスがゾンビとして目覚め、リスナーに襲いかかってくる。™

 カセットのB面には「shit's cold / roam as you are」というサブタイトルがついているが、「私、キャシーよ!帰ってきたの。とても寒いから、窓から入れてちょうだい」と歌うケイト・ブッシュと、別れた恋人への未練を歌うバックストリート・ボーイズに対してメディアファイアード™が吐き捨てた言葉なのだろう。それらの曲名は“ピクシーズ”なんてバンド名がもろにつけられていたり、ソニックユースの曲名だったり、ニルヴァーナの“イン・ブルーム”の歌詞(“Spring Is Here”“Tender Age”)が引用されていたりする。俗なポップスに対して自分の趣味――すなわち自分にとっての聖(ノイジーなロック)をぶつけていく幼稚で原初的な対抗意識を演出している。™

 『ザ・パスウェイ・スルー・ワットエヴァー™』が『プランダーフォニック』のようなカルト的な支持を得ることはないだろう。なにしろ元ネタが基本的にcheezyでダサい懐メロからだ。しかし、それらはストレスフルな編集がなされているぶん原曲以上に印象的でもある。繰り返すが、編集は凝っている。最後の曲のアウトロでは飛行機が風を切る音が聞こえるが、これは“アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ”のミュージック・ヴィデオのイントロで挿入されている音だ。そう。つまり、そういうことだろう(I want it that way)。™

[UK Bass Music, Darkwave, etc] - ele-king

Darkstar - Timeaway



 『ノース』への大胆な方向転換の直後に〈ハイパーダブ〉から〈ワープ〉へ移籍したダークスターによる2年ぶりの新曲。ヴァイナルは11月20日に発売される(https://bleep.com/release/39342-darkstar-timeaway)。野田編集長はいまだにデュオだと思っていたみたいだが、『ノース』の時点ですでにヴォーカルにジェームス・バタリーを迎えたトリオになっている。
 プロデューサーにはワイルド・ビースツ/スペクタクルズ/エジプシャン・ヒップ・ホップなども手がけたリチャード・フォーンビーを起用しており、「イギリス北部ペナイン山脈のどこか深いところ」にある「ヴィクトリア調のジェントルの邸宅」を借りて録音されたアルバムは、来たる2013年初頭にリリース予定とのこと。
 この録音場所がなるほどと思えるほど、"タイムアウェイ"の旋律は、荘厳なエコーでメランコリーなイメージを讃えている。ダブステップ期もいまは昔。たださえ意外な方角へ舵をきった『ノース』以上にヴォーカルとハーモニーがフューチャーされ、いくぶんか明るくなった印象もあるが、陰鬱さを讃える美学はよりいっそう磨かれている。

 ダークスターのYouTubeアカウントには、レコーディング中のスローモーション映像にドローン/アンビエント風で静かな音楽を添えたものが"Nowhere"として4つアップされている。

 忘れもしない2011年4月9日、ロンドンはショーディッチにあるヴィレッジ・アンダーグラウンドというヴェニューにて、ダブステップのダも知らなかった僕がダークスターを観た。日本では聴いたことがないほどバカデカいベース音に全身を震わせられたとき、心臓を潰されて死ぬかと本気で思った。おおきな教会を改修したような広い会場。酒で酔っ払い喋りまくる、カルチャーめいたオーディエンス。機材トラブルによる1時間近くの遅延を経て、不穏な空気が拭えないなか、殺気だちながら透き通った目の青年が喉を震わせた。

 日本でのステージが実現することを期待しよう。


Dazed and Confused Live PART 2 with Darkstar & Gang Gang Dance

 これは先述の〈DAZED LIVE〉での映像。ダークスターはもちろん、トリのSBTRKTも凄かった。1時間以上も時間が押した結果、ギャング・ギャング・ダンス終了後には25:30近くなりオーディエンスは続々と帰ってしまった。ガラガラの会場にイラついていたように見えたが、SBTRKTは圧倒的にベスト・アクトだった。

Trimbal - Confidence Boost (Harmonimix)



 ロンドンのグライム系ラッパーであるトリンバル(元ロール・ディープ・クルー、基本的にはトリム名義)と、ジェームス・ブレイクの別名義ハーモニミクスによる作品のミュージック・ヴィデオ。ツイッターを見ていても、発表されると同時に瞬く間に話題となっていた。リリースは〈R&S〉から。撮影は、ザ・トリロジー・テープスの記事でも紹介したロロ・ジャクスンである(と、このようにウィル・バンクヘッドの陰がロンドンの地下水脈では散見される)。
 ミスター"CMYK"がトリムの叩きつける言葉を名義のごとくハモるその後ろでは、ノイズが大胆にブーストしている。

ポーズをとれ。
アイツがどれだけ信頼を寄せていようと知ったこっちゃないなら。
ポーズをとれ。
ガール、自分の服を着て自分がイケてると思ったなら。
ポーズをとれ。
きみが問題を抱えているなら、気にするな、
誰も知ったこっちゃない。
ポーズをとれ。ポーズをとれ。
Strike a pose.

 ポーズをとっているのかはわからないが、時折出てくるジェームス・ブレイクがイケメンであり可愛いことは間違いない。

Eaux - i



 〈ソーシャル・レジストリー〉に在籍していた気高く美しいシアン・アリス・グループ(Sian Alice Group)は解散してしまったが、そのメンバーであったシアン・エイハーンとベン・クルックにステフン・ウォリントンが合流したトリオがオー(EAUX)だ。
 11月に発売される新作EP『i』からタイトル曲が先行公開された。以前にリリースしていた両A面7インチ『Luther / No More Power』はダークなシンセ・ポップで、それこそ女性ヴォーカルの気高いダークスターという印象だったが、今作はほぼインストゥルメンタルである。ドラムがいないため、打ち込みのリズムにベンのギターやステファンのシンセを被せるかたちに落ち着いている。シアンは1音節の語を繰り返し発語する。

i i i i i i i i i
gotten gotten gotten gotten

 ジ・XXの新譜の先行試聴会で思い出したのが、サウンドこそ違うが、似た編成のオーだった。こちらはメランコリーを秘めていながらも甘美な部分を見いださせようとはせず、むしろ厳しさをたずさえる姿勢は、シアン・アリス・グループから通じているものだ。
 これだけではまだなにも分かる気がしないので、EPの発売を待ちたい。

Eaux - Luther

Zomby - Devils

https://twitter.com/ZombyMusic/status/256219187247210496

 ゾンビー(Zomby)が1分半ほどの新曲"Devils"をツイッター上で突如フリーでリリースしている。おそらくアルバムには収録しないということなのだろう。ゾンビーが「5人目のビートルズ」と称える亡き父親を弔った『デディケイション』とはずいぶん違う忙しなさがある。EP「Nothing」にも高速ビーツのトラックはあったが、今作にはより不安を煽るような態度がある。
 ツイッターも相変わらず順調に挑発的でブッ飛ばしているし、次のアルバムはダークで扇動的なものになりそうだ。

 他にもホット・チップのアレクシス・テイラーから、彼がチャールズ・ヘイワード/ジョン・コクソン/パット・トーマスとともに組んでいるアバウト・グループ(About Group)のアルバムが完成したということと、彼のソロEPが12月にドミノからリリースされるという報告を受けました。これは喜ばしい。

 ちなみに、今日ご紹介したアーティストはすべて〈ザ・トリロジー・テープス〉主宰のウィル・バンクヘッドと関わりがある。

Ryoma Takemasa - ele-king

10/17にファース・トアルバム『Catalyst』をUNKNOWN seasonからリリースしました。かなり濃い内容になってますので是非チェックお願いします。また、『Catalyst』のミュージック・クリップをYoutubeで配信中 です。テンポ良くモダンな映像でかなりかっこいい作品に出来上がってますのでこちらも是非宜しくお願いします。
Ryoma Takemasa "Catalyst (Autumn Evening Mix)"

10/26@原宿Lily
DJ : Ryoma Takemasa、TBA
10/27@恵比寿Zubar
Music : Yoshi Horino、Ryoma Takemasa、Kyoko Kamichika
11/24@恵比寿Zubar
Music : Yoshi Horino、Ryoma Takemasa、Kyoko Kamichika
11/30@Loop
DJ : Shinya Okamoto、DJ Nori(Posivision)、Ryoma Takemasa
Live : Cherry、ngt.

Link
soundcloud | facebook | twitter

CHART


1
Ryoma Takemasa "Catalyst" UNKNOWN season

2
Yoshio Ootani "Strange Fruits (Gonno Remix)" Black Smoker

3
Manzel "Manzel2" Manzel

4
Ryoma Takemasa "Deepn'(Gonno Remix)" UNKNOWN season

5
Ryoma Takemasa "Deepn'(The Backwoods Remix)" UNKNOWN season

6
Sutekh DIrty Needles Drop Beat Records

7
Kenlou "The Bounce" MAW

8
Unbalance "Unbalance5" Unbalance

9
Milton Bradley "Reality is Wrong" Prologue

10
Reality Check "Fantasy" Strictly Rhythm

Mala - ele-king

 コーキとのデジタル・ミスティックズ名義でロンドンのダブステップの動きをリードしてきたマーラが、ジャイルス・ピーターソンの招きでキューバを訪れ、ハバナのミュージシャンの演奏を持ち帰って完成させたのがこのアルバムだ。

 ソン、ルンバ、チャチャチャ、マンボなど、多彩なスタイルのリズムで20世紀の世界のポピュラー音楽に影響を与えてきたキューバ音楽は、演奏の約束事がとても多い。約束事が多いということは、そこに他の要素が入りこみにくいということでもある。ライナーによれば、キューバで録音してきた演奏と自分のビートやサウンドの組み合わせ方を探るのが難しくて、マーラは途中で投げ出したくなった。そこでジャイルスに相談したら、プエルトリコで出会ったことのあるシンバッドが送りこまれてきて、そこからようやく作業が好転したのだそうだ。平凡なDJなら自分流のドラムとベースのリズムにキューバの打楽器類を上モノ的に飾って一件落着にしそうだが、マーラとシンバッドは一歩踏みこんだ組み合わせを考えていった。
 たとえば"The Tourist"はリズムの骨格をキューバのミュージシャンにまかせた伝統的なソンのスタイルの、ふだんのマーラならやりそうにない曲だ。弦楽器トレスのように聞こえる音は演奏者のクレジットがないが、サンプリングだろうか、音は加工されているが、フレーズは伝統的。マーラはイントロや途中で合成音を加え、伝統的なソンの新しい音色による再解釈といったおもむきの曲に仕上げている。
 もう1曲キューバ色が強いのは、アフリカ系の宗教サンテリアのお祈りを使った"Como Como"だ。地元では打楽器類の伴奏だけでうたわれるお祈りだが、ここではエレクトリック・ピアノをループして使ったり、ハーモニー感のある女声コーラスを入れたりして、これまた伝統的なものとは次元の異なる編曲をほどこしている。
 それ以外の曲はふだんのマーラ色がもっと発揮されている。冒頭の"Introduction "から"Mulata"にかけては、おしゃべりとコンガのソロからはじまり、ロベルト・フォンセカのピアノとサンプリングのマラカスが加わるところまではキューバ風だが、その後のドラムや背後のかすかな謎めいた音やベース、ピアノの残響をカットする手法などはマーラ風ということになるのだろう。美しい曲で、フルートがのっかっていれば、ぼくなどフランキー・ナックルズの未発表曲だと言われても信じてしまいそうだ(彼のハウスはキューバン/ラテン・リズムを換骨奪胎したものだった)。"Mulata"はアフリカ系とヨーロッパ系の混血女性のことだが、異なる音楽の要素がバランスよくミックスされたこの曲らしい。
 4つ打ちのリズムにピアノや打楽器がのっかる"Tribal"やテクノ系の音楽でアイコン的に使われてきたリズムを強調した"Cuba Electronic"などは、よりロンドン色の強い音楽ということになるのだろうか。ダナイ・スアレスのうたう"Noches Suenos"のようなバラードでさえ、途中で初期のダブステップ的なドラムが出てくる。

 デジタル・ミスティックズ名義の作品からすると、生楽器度が高く、過激な実験が少ないので、ダブステップのファンにはどう受け止められるのかわからないが、キューバ音楽とのフュージョンとしては誠実によく作られたアルバムだと思う。

Meditations 2012.10.15 - ele-king

Chart


1

Jean Dubuffet - Experiences Musicales (II) Rumpsti Pumsti (Musik)
これは事件でしょう...アール・ブリュット提唱者Jean Dubuffetによる61年美術館級音源の未CD再発部分が遂にCDになりました。以前のCDでは聴けなかった激しい演奏ばかりが満載です!

2

Sensations' Fix - Music Is Painting In The Air (1974 - 1977) Rvng Intl.
Spectrum Spoolsの再発で知られるFranco Falsiniが中心である伊プログレバンドの既発、未発&新ミックス盤。黄金色に輝くギターの浮遊感が素晴らしい!

3

Uku Kuut - Estonian Funk Bigtree Records
PPUの編集盤で度肝を抜かされたエストニアのファンク作家による最新作。新曲&リミックスのトレンドからは微妙に外れたハウス/ファンクな音楽性は、今回も多くの音楽好きに爪痕を残します!

4

Ricardo Donoso - Assimilating The Shadow Digitalis Recordings
2LPに渡る壮大な宇宙への旅~ 退廃した近未来世界を思わ暗さを持つコスミッシェ作品。派手な展開はないものの、宇宙地下道をロマンチックに突き進む展開は素晴らしい。影の傑作!

5

Ian Drennan - The Wonderful World Underwater Peoples Records
OESB周辺からこんなものが...!Big Troublesのメンバーによる初ソロ作。ワールド/ニューエイジ臭漂うアンビエントを軸に、破天荒な展開を重ねるポップ/アヴァンの混沌具合...たまりません。

6

Woo - It's Cosy Inside Drag City
Nite Jewelお気に入りのユニットによる89年2ndが再発。現れては消えて行く優しいアンビエンスは唯一無二で、あらゆる人に聴いもらいたい名盤です。今再発されるというのも良いタイミング。

7

M.B. - Neuro Habitat Urashima
言わずと知れたイタリアのノイズ巨匠の82年代表作が再発。ミンチ状に怪音が刻まれ続けるA面に、幻覚から必死に抜け出そうと重くもがき苦しむB面。絶品です...

8

Elg - Mil Pluton Hundebiss Records
Ghedalia Tazartesとの共作でも知られるElgの怪ポップ! 宇宙電子音、コンクレート、EBMにボーカルが絡むという破綻寸前の所でポップに仕上げてます。今年の発狂盤の中でもこれは上位でしょう!

9

Natural Snow Buildings - Night Coercion Into The Company Of Witches Ba Da Bing!
フォークとドローンの間から陰惨な破滅を導き続ける男女ユニット。08年作の再発盤となるここでは、3CDという長尺で最初から最後まで一直線に破滅へと導くノイズ・ドローンを披露。純粋なノイズでは無い分余計にむごいです。

10

Roberto Cacciapaglia - Sei Note In Logica Wah-Wah Records Sound
前作に続いて79年の2ndも再発。児童による演劇を観ているような、危なっかしいハラハラした感覚と素朴な楽しさが心地良い電子音楽/ミニマリズム。蛍が現れては消えていく淡々とした美しさです。

ROOM FULL OF RECORDS - ele-king

 さまざまな配信サイトやデジタル機器の発展のおかげで、我々は世界中の良質な音源をたやすくゲットできるようになった。
 デスクトップ・ミュージックは、一昔前なら高価な機材を揃えなくては実現できなかった表現をパーソナルなモノにしてくれて、アーティストの金銭格差を縮めてくれた。
 これはとても歓迎することではあるのだが、ここ最近日本のアンダーグランド・シーンにわざわざアナログでリリースをする若者が増えて来たことは特筆するように思う。HOLE AND HOLLANDDJ P-RUFFの7インチ、まだ未見だが主に中央線沿線で活動を続けるBlack SheepもカセットテープによってMIX TAPEを新規でリリースしているという具合。
 彼らに共通して私が面白いと感じるのは、私のような昭和生まれのヴァイナル・ノスタルジー世代が「レコードこそ至上」と言うのとは違い、主に20代~30代前半でデジタル技術の恩恵を最大限に享受しながらも、自身の表現の手段としてアナログフォーマットを選択しているところだ。
 今回そんな流れから紹介させて頂くのは、長年CLUB MUSICを発信し続けている「manhattan records」内に設立されたヴァイナル専門のROOM FULL OF RECORDSだ。

 今年に入って着々とリリースを重ね、日本国内はもとより、つい先日東欧のディストリビューターとも契約した。日本発のヴァイナルがいよいよ世界各国へと発信される。一昔前ならこういう話も多々聞かれたことではあるが、前述の通り世界的にデジタル化が進む昨今では賞賛に値することだ。

 このレーベルの陣頭指揮を取っているのが、元CISCO HOUSE店にて長年店長を勤めていた野口裕代嬢。レーベル躍進の理由もうなずけると言えばそうなのだが、そこには並々ならぬ彼女の愛情と熱意が込もっている。
 私が何より嬉しいのは、こう言った先人のノウハウや熱意が若い世代といい具合にリンクしはじめていることだ。このような現象はDJカルチャーに留まらずさまざまな場面で起こっている(例えば宮大工や農業等)。
 ある意味技術革新も飽和状態になりつつある昨今、若者が自らの感性で失われつつある文化を選択している。そしてこういった伝承の精神こそが何でも画一化されて行きやすい今日において素晴らしい文化を守るヒントになっているのだと私は考える。

 随分前置きが長くなってしまったが、今回ご紹介させて頂くレコードはその〈ROOM FULL OF RECORDS〉から第3弾シングルとして発売されたばかりの「The Dubless - JAMKARET」だ。
 グループを率いるRyo of DEXTRAXは小生も関わらせてもらった「20years of Strictly Rhythm" Mixed by DJ NORI & TOHRU TAKAHASHI」でRE-EDITをお願いした彼の新ユニットである。〈Strictly Rhythm〉のときには来るべきデジタル時代を表現すべく「サンプリングスポーツの面白さ」として彼にRE-EDITを依頼したのを覚えている。今作とはまったく真逆の発想でお願いしたのだが、見事なEDIT-WORKを披露してくれたのも記憶に新しい。
 そんな彼が現在の地元である「吉祥寺Cheeky」にて開催されているPARTY「JAMKARET」にてUZNKと出会い結成されたのが、「The Dubless」だ。
 前作は同じく吉祥寺を地元とするLighthouserecordsの増尾氏にオープンリールのMTRを借りて作られたCD-R版のみのミニアルバム。思えばこの時からこのユニットの方向性は定まって居たのかも知れない。せっかくのCDであるのに悪く言えば「こもった音質」だったり、良く言えば「どこか懐かしい音質」を感じる意欲作であり問題作だった。余談だがこの夏の暑さでマスターのテープが少しノビ気味になったらしく「もう2度と同じマスターで違うアプローチが出来なくなった」と本人は嘆いていたが、そんな2度と同じ物が作れないからこそ、その時一瞬の価値が高まるとも僕は感じている。

 末筆だが最近デジタル機器を存分に駆使してる友人のMOODMANが、最近のデジタル音源をその店の出力機器に合わせマスタリングを自ら施し、同じ音源でも3種類は用意して臨んでいると言う話も付け加えておく。
 要は画一化されてると思われやすいモノでもどれだけの手間や愛情を注いだかでフロアでのプレゼンテーションの幅は広がり、その気を感じることもDJとクラウドとの素敵な相関関係としてのCLUBの醍醐味ではないだろうか。それは音質博士のウンチク話とは別次元の話だ。
 この辺の話は小生も熱くなりすぎるので、The Dublessの新作の紹介は彼らとも親交の厚い長谷川賢司にお願いしよう。(五十嵐慎太郎)

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The Dubless
JAMKARET/Blackkite

ROOM FULL OF RECORDS

 ライブ・アクトの出来るアーティストの作品をオリジナル+ダンス・リミックスという形態でヴァイナル化。〈ROOM FULL OF RECORDS〉の第3弾リリースとなる本作、Ryo of DextraxとUZNKからなるユニット、The Dublessの人気曲が遂にアナログ化~!!!
 吉祥寺を拠点に活動するryo of dextraxが、地元のナイスなミュージックバー"bar Cheeky"で仲間たちと開催しているパーティ名をタイトルに冠した "JAMKARET"は大気圏を突破し無重力の宇宙空間まで一気に飛び抜けるかのような強い推進力と高揚感に溢れたバレアリック・チューン。
 スペイシーなエフェクトとウネりまくるベースがやけにカッコイイ"Blackkite"はまさに漆黒のサイケ・ファンク!
 そして、Rondenionによるリミックスはカット&ループとエフェクトがムーディーマンやセオ・パリッシュに通じるデトロイト・ハウス・フィールでよりフロアー仕様!
 彼らのロッキッシュなサイケ・メタル感とUR的なヘヴィー・ファンク感が渾然一体となって聴く者を次元上昇へと誘うフロアーフィラー3チューンを180gのヘヴィー・ヴァイナルに収めた一枚!
 是非、フロアーに向けガンガン鳴らしていただきたい。末筆になるが、ジャケのアートワークも素晴らしい!  (Kenji Hasegawa)

The Dubless リリースPARTY @新世界
https://shinsekai9.jp/2012/10/12/dubless/

Bob Dylan - ele-king

 ボブ・ディランはふたご座の男である。
 ほかにふたご座の男といって思い浮かぶのは、モリッシー、ポール・マッカートニー、太宰治、荒木飛呂彦、プリンスなどがいる。
 モリッシーの陰気な叙情、ポール・マッカートニーの聡明なキャッチーさ、太宰治の決め文句、荒木飛呂彦のナルシシズム、プリンスの天才に基づく詐欺師臭さ。のすべてが『Tempest』にはあると思った。というか、ディランにそのすべてがあるのだ。
 
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 わたしはディランとは不幸な出会い方をした。ガロの『学生街の喫茶店』がいけなかったのである。金髪にブリーチした亀の子だわしのような頭で通学していたパンク娘には、あの世界はどうにもしゃらくさい。だから、多感な時期に彼を聴くことはしなかった。しかも、最初に聴いたのが、ダブリンの中古レコード屋で売られていた『Slow Train Coming』だったと書けば、熱心なファンの方々には「ゴスペルから聴いたのか」と鼻で笑われてもしょうがない。
 とは言え、このアルバムには"Gotta Serve Somebody"が入っていた。この曲にはジョン・レノンのアンサーソング事件というのがあり、いきなりクリスチャンになって「人は誰かに仕えなければ」などと言い出したディランに対し、レノンがぶち切れて"Serve Yourself"(己に仕えろ)という、まるでアコースティック・パンクのようなパロディ曲を書いた。という有名なエピソードがある。(わたしはこの話が個人的に好きで、久しぶりに2曲続けて聴いたらやっぱり爆笑してしまったが、しかしこのServe Yourself問題というのは、現代にも深い影を落としている。というのも、人間がServe Yourselfを貫くというのは実はたいへん険しい道であり、だからこそ人はナショナリズムだの民族主義だのといった仕える対象を探してしまう。この点は、日本でも坂口安吾が「人間は可憐で脆弱で愚かなので、堕ちぬくには弱すぎる」と的確に指摘している)

 『Tempest』は、ジョン・レノンへのトリビュート曲で終わっている。
 列車に揺られている"Duquesne Whistle"ではじまり、タイタニック号が沈んでいる"Tempest"で不気味に幕を閉じたかと思ったら、最後は故人に捧げる歌だった。という構成のためか、これがディランの最終アルバムになるという説も囁かれたが、本人は否定している。
 が、ディランが死を見ているのはたしかだろう。いや、彼は昔から死を意識していたと主張するファンもおられようが、71歳の人間が見ている死はそういうのとは違う。遺作になるかもしれない。という気持ちがふとよぎる年齢の人間は、「これが俺だった」というアルバムを作りたいのが人情だろうし、近年のディランがひたすらプレ・ロック時代のサウンドに安住しているのはそうした心情があるのからなのかと思う。そう考えれば、プレ・ロックなディランの35作目が、彼をロックに向かわせた旧友へのトリビュート曲で終わっているというのは、実に思わせぶりな辻褄の合わせ方だ。
 「己に仕えろ!」と吠えたレノンは、レノンという偶像に仕えていた男に撃たれて死んだ。一方、ディランのクリスチャン期は飽きっぽい彼らしくすぐ終わり、その後も長いソウル・サーチングの旅を続けている。生存者にはギルトのような感情が残ることが多いが、ディランの"Roll On John"には、例えば『The Filth and The Fury』でシド・ヴィシャスを想って泣いたライドンの哀切や、「不良少年とキリスト」で太宰を偲んで慟哭した安吾の痛みはない。それは遺作を意識する年齢になった人間が書くトリビュートだからかもしれないし、これは本当はレノンに捧げた曲ではないからかもしれない。だとすれば、この曲はプレ・ロックの雄、ディランから、死んだと言われて久しいロックという音楽に向けての、「Shine your light. Move it on」というメッセージなのかとも思えてくる。

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 などと、まじめに思索に耽りそうになってしまうが、騙されてはいけないと思う。
 なにしろ彼は、一筋縄では行かないふたご座の男だからだ。
 モリッシーの陰気な叙情、ポール・マッカートニーの聡明なキャッチーさ、太宰治の決め文句、荒木飛呂彦のナルシシズム、プリンスの天才に基づく詐欺師臭さ。のすべてを併せ持つディランは、実に老獪な詩人である。
 個人的には、"Scarlet Town"のような曲の歌詞にその真骨頂を感じる。

 In Scarlet Town, you fight your father's foes
 Up on the hill, a chilly wind blows
 You fight 'em on high and you fight 'em down in
 You fight 'em with whiskey, morphine and gin
 You've got legs that can drive men mad
 A lot of things we didn't do that I wish we had

 死によって結ばれる若い男女の悲劇について歌ったスコットランド民謡の替え歌、ならぬ替え詩の筈が、すっかり酒場でぐだをまいている爺さんの喋りみたいになってしまっているが、聴いた人々は、「Scarlet Townとは米国のことだ」とか「hillとは政府だ」とか眉間に皺を寄せて考え込み、「深遠すぎてわからない」と放心するのである。

 ボブ・ディランは、老齢化ではなく、老獪化している。

Goku Green - ele-king

 今年の3月のことである。写真家の植本一子は「とうとう眉毛を整えたラッパーが出てきたぞ! と石田さん(夫であるECDのこと)が鼻息荒く教えてくれた」とツイートしていた。SALUのことだ。それがひどく印象に残ってしまい、機会あってECDにインタビューした際に、「SALUをはじめとする若手ラッパーについて、どう思いますか?」とたずねてみた。返答は思いがけないものだった。「SALUは作られているといった感じがするんだけれど、北海道のGoku Greenというラッパーは天然で......どちらかというと、僕に近い気がする」。もちろんこれは眉毛の話なんかではなく。

 ECDが1996年の七夕の日に日本語ラップ史に残るイベント「さんピンCAMP」を主催したのは有名な話だが、Goku Greenはそのちょうど1年後に生まれた。音楽好きの両親のもと、スヌープやボブ・マーリーを師と仰ぎながら育ち、高校入学と同時に本格的に音楽制作をはじめる。そして、昨年秋に無料ダウンロードで発表されたミックステープ『ハッパ・スクール』を契機にシーンの注目を集めることになる。ウィズ・カリファやカレンシーといった、いわゆるUSストーナー・ラップ直系のスムースでメロディがかったフローが持ち味で、SALUとはラップ・スタイルが近似しているためによく比較されていた(ともに影響を受けたアーティストとしてボブ・マーリーを挙げている)。しかし、前出のECDの言葉が端的に表しているように、この二者には違いがある。似たようなフローのなかにおいても、アクセントや節回しから90年代~00年代の日本語ラップの潮流を汲んでいるSALUに対して、GOKU GREENは、荒削りな原石としての輝きがある。発声法やトラックへ合わせたデリヴァリーしかり、洗練という意味では、SALUの方が上手かもしれない。だが、必ずしもスキルの優劣が音楽の良し悪しに直結するものではないことを僕らは知っているし、彼はそういうタイプの歌い手でもない。ヴォーカルのかぶせやエディットも最小限の簡素なつくりで、少々危うさもつきまとうボーカルだが、なにより華があるのだ。彼が「生まれながらのMC/ナチュラル・ボーン・ラッパー」と言われるゆえんであり、ECDに「天然」と指摘されもするそんな屈託のなさは、あるいは、かつての5lackの「テキトー」と言いかえてもいいのかもしれない。

 そんな彼のデビュー作は『ハイ・スクール』と題された。それはたんに、彼の日常の大きな比重を占めている場所を指しているのだろうか。大半の曲で歌われる内容は、ショーティー、マネーにウィ―ド......いずれもオーソドックスなヒップホップ・テーマの例に漏れないものばかりだが、「高校」という主題からはおおよそかけ離れているし、自分が高校生ということに言及している詞も少ない。にもかかわらず、こうしたタイトルをつけているのは、全編にただようモラトリアムなムードと、それを許している自身の生活・環境を考えてのことだろう。いわば、想像と夢に耽ることを許された時間。"キャン・ユー・フィール・イット"で聴けるライン「人生の計画は考えないでノリはEasy」なんてすがすがしいほどだ。また、"ネボー・ギャング"なんていう、彼らの仲間内で使われているキュートなスラングのように、ヒップホップ・マナーでもっていかに日々を楽しむかというゲームを行っているようなフシも感じとれる。今作が描き出す彼の日常は、"ドリーム・ライフ"の意味を「夢の日々」、もしくは「夢のような日々」のいずれに解釈するにしろ、現実感に付随する重さをきらい、若さに満ちた確証の持てない希望を、個人的な願望に置きかえて歌っている。ラップ・スタイルとしては、やはり5lackの系譜に連なるとは思うが、ストーナー・ラップの括りでいえば、ファンタジーを織り交ぜて東京という街を描出し、楽観的にも厭世的にもとれる平熱的な語り口を持つ詩人、ERAをも思い出させる。だがGOKU GREENはより初々しく甘酸っぱく、ドリーミーでポップだ。つまり、グリーンはグリーンでも、ストーンというよりはエヴァー・グリーン。思いがけないドラマに導かれた彼に言わせれば、ヒップホップのクリシェ「Life's A Bitch(人生はクソだ)」よりは、「Ma Life Iz Like A Movie」なのである。



 『ハイ・スクール』リリース後、GOKU GREENは8月にフリーのミックステープ『ダーティ・キッズ』を発表。こちらは発表直後から長らくダウンロードできなかったのだが、つい先ごろ2曲追加した形で再度発表された(ダウンロードはコチラ→)。『ダーティ・キッズ』はミックステープらしいつくりで、というのも、いくつかは既存の曲のビート・ジャックもので、フリースタイルでサクッと録ったような印象。だが、前半部を聴くだけでもビート・アプローチが確段にうまくなっていることがわかる。キャッチーなフックとフローのメロディ・センスは健在で、多幸感あふれるクローザー・トラック(その名も"ネボー!!!")まで心地よく聴かせられてしまう。総じて言えることではあるが、非常に軽い聴きざわりで、それが快い。目玉はLil'諭吉プロデュースの"キャンディ・キャンディ!!!!"で、テーマ・パークのメルヘンチックなBGMをサウス寄りのバウンシーなトラックにアレンジしたような好トラックだ。また、ニコラップをフィールドに活躍する気鋭のラッパーRAqやYURIKAといった客演陣は、非常に完成度の高いヴァースを提供しており、こちらも聴きごたえ十分。

 今年に入ってAKLO、LBとOtowaなど、ミックステープを主戦場として活動していたアーティストが有償かつフィジカルでのリリースを果たしている。そんななかでもGOKU GREENはミックステープ『ハッパ・スクール』のみを足がかりに、1年と経たずインディ・ヒップホップ専門の新興レーベル〈BLACK SWAN〉の第1弾アーティストとしてデビューを果たした。このアクションのはやさには「非メインストリームに潜むすばらしい音楽やアーティストを自由に紹介すること」をレーベル・ポリシーとして掲げる〈BLACK SWAN〉の強い思いがあったようだ。それにしても、THE OTOGIBANASHI'Sをはじめ、『REV TAPE』にも収録され話題となっていたdodoや、早くから騒がれていたRIKKIに、12月に〈LOW HIGH WHO?〉からデビューする女子高生ラッパーdaokoなどなど新たな世代の胎動と加速する若年化の波は、けっしてアイドル業界にかぎった話ではない。そんな過渡期ともいえるなか、先鞭をつけるかたちで若干16歳のGOKU GREENがアルバム・リリースを果たしたことの意味は大きい。長い目でみれば、『ハイ・スクール』は、ひとつの指標になり得る作品なのではないか。そう思ってしまうほどに、GOKU GREENはフレッシュで、ヒップホップ・ドリームをふたたび、僕らに夢見させてくれるのだ。

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