「Nothing」と一致するもの

tofubeats - ele-king

 昨年、デジタル社会への疑問符とご機嫌なJ-POPとヒップホップとハウスとヴェイパーウェイヴをまぜこぜにした問題作、『FANTASY CLUB』をリリースした日本のデジタル・ポッピズムのエースが、1年4ヶ月ぶりのオリジナル・アルバムを発表する。レーベルからの情報によれば──9月1日に公開予定の映画『寝ても覚めても』主題歌である「RIVER」や、土曜ドラマ24『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』主題歌「ふめつのこころ」、先行配信が決定しているデジタルシングル「RUN」などの豪華な収録内容になる──とのこと。また、──毎回注目されるアートワークなどの詳細は追って公開予定──とのことで、とにかく、注目ですね。
 また、『FANTASY CLUB』のリミックス&インスト・ヴァージョンが7月27日より配信&ストリーミングで発表される。あのアルバムのトラックはかなり良かったので、こちらもぜひチェックして欲しい。

tofubeats 4th album 「RUN」
WPCL-12943 税抜価格:\2,800
※初回プレス分のみブックレット特殊仕様
※tofubeats本人によるアルバム・ライナーノーツ封入

<デジタル配信>
・デジタルシングル
「RUN」7月27日より配信&ストリーミングスタート

・デジタルアルバム
「FANTASY CLUB REMIXES & INSTRUMENTALS」 7月27日より配信&ストリーミングスタート
昨年、5月24日に約1年半ぶりとなるメジャー3rdアルバム 「FANTASY CLUB」をリリース。 アナログ盤も制作した大人気の「FANTASY CLUB」をリミックスしてバージョンアップ。
今回 デジタルアルバムとしてリリースする「FANTASY CLUB REMIXES & INSTRUMENTALS」はHIPHOPシーンで大注目を浴びた「LONELY NIGHTS」や 「YUUKI」等、全13曲を リミックス&インストゥルメントとして収録。

価格:1,200円
1. LONLEY NIGHTS(TB HOUSE BOOTLEG)
2. SHOPPINGMALL(HOUSE & SCREWED)
3. WHAT YOU GOT(TB DJ DUB)
4. STOP(dj newtown STO REMIX)
5. SHOPPINGMALL(TB REMIX)
6. YUUKI(TB LIVE DUB MIX)
7. YUUKI(dj newtown YUU REMIX)
8. CHANT #1(instrumental)
9. SHOPPINGMALL(instrumental)
10. LONLEY NIGHTS(instrumental)
11. WHAT YOU GOT(instrumental)
12. YUUKI(instrumental)
13. CHANT #2(instrumenta

DJ HOLIDAY - ele-king

 今年アルバムを出したハードコア・バンド、ストラグル・フォー・プライドの今里といえば、ここ1~2年はDJ HOLIDAY名義で、かなり精力的にDJとして活動しています。もっぱらレゲエをよくプレイしているそうですが、そんな彼が、〈アリワ〉音源のミックスCDを出しました。
 〈アリワ〉はUKレゲエにおける重要レーベルのひとつで、その主宰者であるマッド・プロフェッサーは、UKダブにおける重鎮であると同時にラヴァーズ・ロックのプロデューサーの第一人者でもあります。
 で、ラヴァーズ・ロックというのは、UKにおいて生まれ80年代に発展した、文字通りラヴリーでメロウなレゲエのスタイル。恋人とのひとときのための音楽です。日本でもずっと人気ジャンルとして聴かれ続けています。もちろんele-kingも大好きです。
 そんな甘々なジャンルの音源をDJ HOLIDAYが選曲し、ミックスしたのが『ARIWA tunes from my girlfriend’s console stereo』。すごくいいですよ。オススメです!


DJ HOLIDAY
ARIWA's tunes from my girlfriend's console stereo.

ARIWA/OCTAVE-LAB
Amazon

ウインド・リバー - ele-king

 『スリー・ビルボード』を観た人間の評価を分けるのはおそらくラストで示される独特の倫理だと思うのだが、そこに至る大きな前提として「いまのアメリカでは警察が、ひいては法が役に立たない」ということがあるのではないか。とくに田舎町では。娘がレイプされ殺されたというはっきりとした暴力があり、しかし法はそれに対して無力を示すばかり。そのとき個人や特定のコミュニティによる私刑は下されるべきなのか、どうか。そこで問われるのはアメリカ的正義なるものがあるとして、誰の手によって誰のために行使されるのかということだ。
 西部劇は言うに及ばず、アメリカ映画はフロンティアにおけるある種の無法状態を繰り返し取り上げてきた。法治国家たるアメリカのエッジでは必ず法が無効化される場合があり、そこでルールが根本から問い直されるのである。クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』(08)は当然アメリカ的正義を体現してきた人間が己の限界を吐露するものだったろうし、あるいは近年ではデブラ・グラニク『ウィンターズ・ボーン』(10)には目を見張るものがあった。ミズーリの山奥に住むヒルビリーたちの間には警察も手出しできない独自の掟が存在し、コミュニティに属する者たちはそこから外れることが許されない。だが、その掟から否応なく零れ落ちてしまう少女が現れたとき、コミュニティのルールが根幹から問い質されるのである。そこでは「法」でも「掟」でもない倫理が再考されていると言える。

 『ボーダーライン』(15)の脚本で名を挙げたテイラー・シェリダンが、『最後の追跡』(16)の脚本に続く初監督作として撮りあげた『ウインド・リバー』。『ボーダーライン』ではメキシコ国境地帯を、『最後の追跡』ではテキサスの田舎町を舞台にして、無法状態のなかでこそ立ち上がる倫理を探っていたシェリダンは、〈フロンティア3部作〉とする連作のラストとなる本作でもまったくもってその路線を踏襲している。今回の舞台はワイオミング州の極寒地帯であり、ネイティヴ・アメリカンの保留地だ。そこで暴行を受け逃走中に死亡したネイティヴ・アメリカンの少女が発見されるところから物語は始まる。しかも、この保留地では似たような犯罪が繰り返されていることが次第に明らかになってくる。
 体裁としてはクライム・サスペンスになっており、ベテランの白人ハンターであるコリー(ジェレミー・レナー)と若手のFBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)が事件を追っていく過程が中心になるのだが、ここでもFBIという「法」を体現する人物が明らかに経験不足であるものとして描かれる。つまり、この土地ではアメリカ全体のコンセンサスを得た正義など通用するわけがないということで、そしてこの映画においてもまた私刑がどこまで認められるかが重要な問いとして立ち上がってくる。シェリダンはどうも、この3部作で法を超越した裁きの可能性を探っているようなのである。たとえば米墨の境界をモチーフとして取り上げているという点で『ボーダーライン』の横に並べられるであろうドキュメンタリー『カルテル・ランド』(15、キャスリン・ビグローが製作総指揮を務めている)では自警団が過剰に暴力化する様が容赦なく映されていたが、シェリダンも私刑の危険性をもちろん承知だろう。それでもなお、だからと言って「法」が守るべき人間を守れていないではないかという怒りが収まらないようなのだ。(ただしその意味では、ジェーンが曲がりなりも成長していく様が同時に描かれていることからは、「法」にも変わる余地があるとしているようにも思えるが。)

 そもそも、ネイティヴ・アメリカンたちが住む土地としてこのような厳しい土地を与えたこと自体が「アメリカ最大の失敗」だとシェリダンは糾弾している。そして、ひとが住めるような土地ではないところでは「法」は通用しなくなり、若い女性の多くがレイプされるような「掟」が幅をきかせることになる、と。だからこそ西部劇をはじめとするアメリカ映画の伝統を持ちこんで、正義の本質を問いかける。『ウインド・リバー』にはある種のカタルシスがあるが、それは監督の「法」の無能に対する苛立ちの表れであり、素直に受け止めるのが躊躇われるほど重いものだ。そして、ハリウッドが現在「多様性」への取り組みをアピールするために称揚するようなマイノリティではない、本当に弱い立場の人間にこそアメリカの正義があるとする。いま、田舎を舞台にしたアメリカ映画に説得力と重大さが備わっていることを証明する一作である。『ウインド・リバー』の画面を覆い尽くす真っ白な雪を染める血の赤さを、わたしたちはもっとしっかりと見たほうがいいだろう。
 なお音楽を担当しているのは、様々な映画作品で活躍を見せるニック・ケイヴとウォーレン・エリスのコンビ。この厳格な映画にきわめて抑制された叙情をもたらしている。

予告編

Andy Stott - ele-king

 緊急速報です。デムダイク・ステアと並ぶ〈モダン・ラヴ〉の看板アーティスト、10年代のテクノ~インダストリアルの潮流を決定づけた異才、アンディ・ストットが2年半ぶりに来日、一夜限りのライヴ・セットを披露することが決定しました。前回はデムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーとのユニットであるミリー&アンドレアとしての来日でしたので、ソロ名義としては3年半ぶりの来日となります(最新作『Too Many Voices』発表後としては初の来日)。今回はいったいどんなサウンドをぶちかましてくれるのか。ブリストルからは実験的ベース・ミュージックを展開する〈Livity Sound〉のアススが、日本からは Ultrafog と Romy Mats が参加。8月24日はUNITに集結しましょう。

イギリス・マンチェスターを拠点とする超優良レーベル〈Modern Love〉の看板アーティスト、Andy Stott の約2年半振りの来日公演が決定!

伝説の Basic Channel を源流とするミニマル~ダブ・テクノの可能性を拡張させながら、インダストリアル~ドローンの荒野を開拓する唯一無二の存在として、圧倒的なクオリティーとポテンシャルの高いベース・ミュージックでクラブ・ミュージックの枠を越えたファンを獲得している。2012年に発表された『Luxuary Problems』は Pitchfork、Resident Advisor、Fact Magazine、Spin などのレヴューで軒並み高得点を獲得、続く2014年作の『Faith In Strangers』も Resident Advisor の年間ベスト・アルバムのトップに選出されたのを筆頭に、Fact Magazine やミュージック・マガジンでも年間アルバムにチャートイン、世界中で新たなファンを増殖させた。2016年にリリースされた通算4作目となる『Too Many Voices』では、前作で展開されたゴシック~ニューウェイヴ・テイストを継承しながら洗練されたフューチャリスティックな鋭利なグライム・ビートで未開の新境地へと到達している。

常にその特異なサウンドスケイプとプロダクションを進化・深化させながらトレンドをアップデートする稀有なアーティスト、Andy Stott の最新ライヴ・セットをご堪能あれ!

更にイギリス・ブリストル出身でダブステップの興隆と共にシーンに登場、あの〈Livity Sound〉の中核として知られる Asusu がDJとして参戦。〈solitude solutions〉や〈angoisse〉などの新興レーベルからのリリースで知られる音楽家 Ultrafog のライヴ・セット、Asusu、Bartellow、Imre Kiss、S Olbricht などの新鋭を招聘してきたパーティー《解体新書》のレジデントDJである Romy Mats というドープな布陣でカッティング・エッジなエレクトリック・ミュージックを縦横無尽に網羅する一夜になることでしょう!

UNIT / root & branch presets UBIK
8.24 fri @ 代官山 UNIT
live: Andy Stott (Modern Love, UK), Ultrafog
djs: Asusu (Impasse / Livity Sound, UK), Romy Mats (解体新書 / N.O.S.) and More to be announced!!

Open / Start 23:30
¥3,000 (Advance) plus 1 Drink Charged @Door
Ticket Outlets (Now on Sale): PIA (123-868), LAWSON (70299), e+ (eplus.jp), diskunion CLUB MUSIC SHOP (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, JET SET TOKYO, clubberia, RA Japan and UNIT
Information: 03-5459-8630 (UNIT)
www.unit-tokyo.com


■ Andy Stott (Modern Love, UK)

Basic Channel を源流とするミニマル~ダブ・テクノの無限の可能性を現在も拡張させ続けている超優良レーベル〈Modern Love〉を代表する最重要アーティストが Andy Stott である。〈Modern Love〉から2005年に「Ceramics」「Demon In The Attic EP」「Replace EP」の3作品をリリース。ハード・テクノをスクリューしたようなノイジーなドローン、ロウビート、圧倒的な音響感のエクスペリメンタル・ビーツは一躍シーンの寵児として注目された。2006年、ファースト・アルバム『Merciless』をリリース。2008年、これまでリリースされたEPをまとめたコンピレーション・アルバム『Unknown Exception』をリリース。2011年、12インチ2枚組『We Stay Together』『Passed Me By』の2作品をリリース、これら2作品をCDにまとめた『We Stay Together / Passed Me By』もリリース。これらの作品で展開されたオリジナリティーに溢れるアヴァンギャルドかつエクスペリメンタルなダブ・テクノ・サウンドは、数多の Basic Channel のフォロワーを明らかに凌駕する新しいサウンドの斬新さに溢れている。2012年、約1年振りとなるアルバム『Luxury Problems』をリリース。Pitchfork、Resident Advisor、FACT magazine、Rolling Stone、SPIN などレヴューでは軒並み高得点を獲得、現在最もポテンシャルの高いベース・ミュージックを奏でるアーティストとしてクラブ・ミュージックを越えたファンを獲得する事となった。2014年には Demdike Stare の Miles とのプロジェクト、Millie & Andrea 名義でアルバム『Drop The Vowels』をリリース、そして2年ぶりとなるアルバム『Faith In Strangers』を発表、この作品は Resident Advisor の年間アルバム・チャートで首位を獲得、Fact Magazine の年間アルバム・チャート4位、ミュージック・マガジン誌のテクノ/ハウス/ブレイクビーツ部門の年間ベスト・アルバム2位と世界各国で大きな注目を集め、幅広いリスナー層を増殖させ続けている。2016年、通算4作目となる『Too Many Voices』では、前作で展開されたゴシック~ニューウェイヴ・テイストを継承しながら洗練されたフューチャリスティックな鋭利なグライム・ビートで未開の新境地へと到達している。

■ Asusu (Impasse / Livity Sound)

本名、Craig Stennett。ダブステップの興隆とともにシーンに登場して以降、刺激に満ちたダンス・ミュージックの新たな在り方を提案し続けるプロデューサー。UKガラージ、ジャングル、ミニマル・テクノといった要素が混然一体となったカテゴリー不可能なサウンドを武器に、Peverelist と Kowton と共に〈Livity Sound〉の中心的存在として、2010年代のダンス・ミュージックに新たな地平を切り開いた。2011年に発表した「Velez」はスマッシュ・ヒットを記録。タメの効いたミニマルなジャングル・トラックがジャンルの垣根を超えて、多様なDJたちにプレイされることになった。2015年には自身のレーベル〈Impasse〉をスタート。第1弾として発表された「Serra」には、サウンドシステム映えのする強烈な重低音を備えたテクノ・トラックを収録。Asusu の音楽観を見事に体現してみせた。近年も〈Timedance〉や〈Dial〉といった尖ったレーベルにも楽曲を提供するなど、革新的なダンス・ミュージックの可能性を模索し続けている。2017年より東京を拠点に活動中。

■ Ultrafog

Kouhei Fukuzumi によるプロジェクト。
〈Solitude Solutions〉、〈Angoisse〉からカセットを発表。
今年1月に行ったNYCでのツアーでは DJ Python、Patricia、Bookworks などと共演、〈RVNG Intl.〉が運営する Commend でのライブも行った。
今年5月には Huerco S. の来日公演をサポート。

■ Romy Mats (解体新書 / N.O.S.)

1994年、東京生まれ。世界中のアンダーグラウンドから日本へと伝わるダンス・ミュージック/電子音楽を独自の視点で紹介するパーティー《解体新書》を主宰。2018年には東京のレーベル兼レイヴプラットフォーム〈N.O.S.〉の一員としても活動をしている。本名名義の Hiromi Matsubara(松原裕海)でフリーランスのライター/エディターとして活動し、2014年からは、国内では老舗のエレクトロニック・ミュージック・メディア『HigherFrequency』で編集長を務めている。ライターやジャーナリストとしてダンス・ミュージックに接している経験をDJとしてのトラック・セレクトにも活かし、伝統と革新、都市と楽園、調和と混沌などをテーマに、幅広い視野で文脈を超えたミックスに臨んでいる。

Miss Red - ele-king

 ダンスホールっていうのはじつに面白い。まずこの音楽は、置き去りにされた下層民による寄り戻しとして誕生した。それは意識高い系の音楽へのあてこすりのようにも見える。国際的な感性/知性に訴えることができたルーツ・レゲエと違って、80年代に登場したダンスホールはアンチエリートの庶民派だが文化的には保守的で、言うなれば引きこもり的なそれは、周知のように内向きな暴力やゲイ嫌悪を露わにしたことで国際舞台で厳しく叩かれたこともある。
 しかしながらそのスタイルは、どメジャーからアンダーグラウンド、ジェイミーXXからイキノックス、カナダから南アフリカまでと、いまもまったく幅広く愛されているし、進化もしている。その成分はR&BにもUKグライムにも注がれている。そして、こんなにも矛盾をはらみながらも途絶えることなく拡大しているのは、ひとつにはダンスホールの敷居が低さゆえだろう。

 ケヴィン・マーティンはダンスホールの側にいる。近年は主にザ・バグ名義による精力的な活動で知られるマーティンは、彼のもうひとつの主題であるダブの探求の成果をつい先日はBurialとの共作12インチ(Flame 1)によって発表したばかりで、あるいはまた彼のエクスペリメンタルな側面は、たとえば2年前のアース(ドローン/ドゥーム・メタルのバンド)との共作アルバムによって表現されている。そして、彼はいまミス・レッドとともにダンスホールに戻ってきた。リングに上がって、ファイティング・ポーズを取っている。
 ダンスホールは基本的には楽しみの音楽であり、アドレナリンの爆発であり、ユーモアが込められた音楽だ。さばさばしていて、活気があって、エネルギーの塊。ダンスホールにおいて重要なのはマイク一本握って自分をより格好良く見せることだが、モロッコ人とポーランド人の両親を持つイスラエルはテレ・アヴィヴ出身のミス・レッドは、ダンスホールの引きこもり的傾向にまずはパンチを一発、風穴を開けてこのエネルギーを外側へと放出する。
 そして彼女はアルバムを通じて“マネー”というものに何度もパンチをお見舞いする。セコンドには……もちろんケヴィン・マーティンが付いている。まわりくどい表現はない。センチメンタルなメッセージもない。あるのはダンスのリズム、リズムに乗ったシンプルな言葉。トラックは、それこそイキノックスとか、はたまたポルトガルの〈プリンシペ〉なんかとも共振している。

 ケヴィン・マーティンは、たとえばインガ・コープランドグルーパーのような素晴らしいアウトサイダーに声をかけながら、基本、ウォーリア・クイーンやフローダンのような現場で揉まれてきたMCのことを評価し続けている。彼がザ・バグ名義で何人もの強者MCたちと仕事をしていることはdiscogsを見ればわかる。ミス・レッドの『K.O.』は彼女にとってのファースト・アルバムであり、ケヴィン・マーティンのダンスホール愛がもたらした、その最新盤ということでもある。パンク・スピリッツもあるし、まったく見事な一撃。この勢いをもらって、ちょうどいま話題の恥知らずな政治家=杉田議員にも一発と。ちなみにミス・レッドは、いま人気急上昇の日本のBim One Productionとも仕事をしているし、また、今年話題になったサイレント・ポエツの最新作にもフィーチャーされている。

Okzharp & Ribane - ele-king

 ポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』(上映中)はなんともおそろしい映画で、これを最後に俳優業を引退して靴職人になるというダニエル・デイ=ルイスに三流職人の役をやらせただけでなく、三流の証として「他人の立てる音」に我慢できないという性格まで与えている(ダニエル・デイ=ルイスは何をやらされているのかわかっているのだろうか?)。他人といっても、それは妻であり、いわゆる生活音を敵視し、それはそのまま現代人が他人の立てる音を許容できない芸術家気取りのようなものになっているというカリカチュアへと跳ね上がっていく。この作品にスマホは出てこないけれど、スマホと一緒に持ち歩いている個人の空間がどのように他人の空間を侵食し、そのことが周囲に被害者意識を増大させていることか。このことが果てしなく誇張され、他人の領域に入ることの難しさ──それはまるでいまや芸術家同士の付き合いのようだとこの作品はからかい、ダニエル・デイ=ルイスもありふれたモラ夫にしか見えなくなってくる。これを見て自分のことだと思わない人の方が僕には恐ろしいし、ましてや男女の枠組みを描いた作品だと了解してしまう単純さにも呆れ返る。オーケーザープのデビュー・アルバムがどうして『近づいて・離れて(Closer Apart)』というタイトルになったかはわからないけれど、これが人と人との距離感を示すものであるとしたら、それこそ「Closer」と「Apart」を重要なキーワードとして使い分けたジョイ・ディヴィジョンの問題意識とも重ね合わせたくなるし、カーラ・ダル・フォーノなどインターネット時代にそれを試みているミュージシャンはやはりそれなりに注目を集めている時期ではある。“Why U in my Way”などという曲のタイトルはそうした邪推に拍車をかけてくれるというか。

 黒人が自分の顔に黒いインクを塗りたくるというクリス・サンダーズのヴィデオがインパクト大だった“Dear Ribane”(15)は当初、オーケーザープによるソロ名義の「Dumela 113 EP」としてリリースされたものの、ヴォーカルとダンスにフィーチャーされていたマンテ・リバンのイメージが強烈すぎたからか、2016年以降はオーケーザープ&リバン名義で「Tell Your Vision EP」へと続き、デビュー・アルバムもふたりの名義でリリースされることになった。ソウェト出身のマンテ・リバンは南アフリカを拠点とするファッション・モデルで、自身の体をキャンバスに見立てたデザイナー活動やダイ・アントワードのダンサーとして早くから注目を浴び、大胆なアフリカン・カラーをフィーチャーした彼女の衣装はそれこそグレース・ジョーンズやニッキー・ミナージュを思わせる。オーケーザープは元々、アフリカン・リズムとグライムを交錯させたLVから分かれたジェルヴァーズ・ゴードンによるソロ・プロジェクトで、アフリカン・ミュージックに対する興味はリバンと出会ったことで、より本格的になったと考えられる。音数が少ないのは元からで、どんなタイプのサウンドでもスネアがとにかく彼はいい。『クローサー・アパート』はそして、これまでのダンス・シングルに対してどちらかといえばチルアウト的なつくりとなり、冒頭から侘しい展開が続くなど前半はファティマ・アル・ケイディリのアフリカ・ヴァージョンといったものに。それはリバンが成長してジャズやクラシックを聴くようになり、“Maybe This” や“Fede”のように民衆を扇動するような歌詞から自称レディ・サイドと呼ぶ穏やかで幻想的なスタイルに改めたからだという(言葉遊びは前より巧みになっているとのことだけど、そこまではわからず)。中盤からはミドル・テンポが味を出しはじめ、ゴムやクンビアといったリズムがさりげなく入り混じる。“Dear Ribane”や“Teleported”に匹敵する曲がないのはちょっと残念だけど、それらに続編といえる“Dun”では陽気な側面も覗かせる。

 オーケーザープは早くに南アフリカを離れてしまったためにクワイトやゴムといった故郷のサウンドに少し距離を感じ、南アから離れようとしないマンテ・リバンは逆にシャンガーンやクワイトに揺るぎない誇りを持っているという。同じ土地に異なるパースペクティヴで突き刺さったふたりの持つずれがおそらくは南アという土地に向かいあう時に予期しない効果をサウンドに与えるのだろう。無理に離れるわけでもなく、あえて回帰的になるでもなく、ふたりの編み出すサウンドはいわゆるハイブリッドとも違った面白い着地点を見出したと思う。エンディングは意外にもインディー・バンド風のチルアウトだったりで、この先、どこに向かうかもわからない点も含めて期待はまだ続きそう。

Tenderlonious feat. The 22archestra - ele-king

 テンダーロニアスという風変わりな名前から、ジャズ好きな人ならセロニアス・モンクを想像するかもしれない。実際のところその連想は正解だ。エド・コーソーンのアーティスト・ネームであるテンダーロニアスは、音楽仲間のカマール・ウィリアムスが彼のことを「お前のヴァイブってセロニアス・モンクっぽいな、かなり荒削りだし」と評し、ニック・ネームだったテンダー・エドをもじり、そう呼んだのが始まりだそうだ。テンダーロニアスはミュージシャンであると同時に、〈22a〉というレーベルのオウナーでもあり、カマールのヘンリー・ウー名義でのEPもリリースしている。2013年末に発足した〈22a〉は、いまやロンドンのジャズの盛り上がりを象徴するレーベルだが、このレーベル名はテンダーロニアスが住む家番号からとられたものだ。もともとテンダーロニアスはロンドンの出身ではなく、父親が軍隊に所属していたため、少年時代は海外赴任先での生活が長かったのだが、進学のためにロンドンに移り、現在はUKジャズ・シーンのキー・パーソンのひとりである。

 ひと口にロンドンのジャズと言っても、シャバカ・ハッチングスやジョー・アーモン・ジョーンズ、モーゼス・ボイドなどとはまた異なるサークルにテンダーロニアスは属し、カマール・ウィリアムス、ユナイテッド・ヴァイブレーションズなどのグループに分けられる。こちらのグループはカマール・ウィリアムスに代表されるように、よりクラブ・ミュージックとの接点が大きく、ミュージシャンであると同時にプロデューサー/トラックメイカーという人が多い。
 テンダーロニアスもフルート/サックス奏者であると同時にプロデューサーでトラック制作も行う。そもそもハウスDJをやっていて、レイヴ・カルチャーからドラムンベース、グライムなどを通過してきた。そうしたなかでムーディーマンからJディラなどデトロイトのアーティストから、マッドリブなどの影響も述べている。
 その後、ヒップホップなどのサンプリング・ソースを通じてジャズのレコードを集めるようになり、同時に街の楽器屋にあったソプラノ・サックスをレンタル。ジャズ・サックス奏者のパット・クラムリーのレッスンを受けてサックスをマスターし、強く影響を受けたサックス奏者にはコルトレーンやユセフ・ラティーフがいる。とくにマルチ・リード奏者のユセフ・ラティーフのフルート演奏に魅せられ、次第にサックスからフルートへとスイッチしていく。

 こうしてミュージシャンとなったテンダーロニアスは、ポール・ホワイトの『シェイカー・ノーツ』(2014年)のセッションに参加するが、そこにはユナイテッド・ヴァイブレーションズのドラマーのユセフ・デイズもいて、そこから発展して自身のバンドとなるルビー・ラシュトンを2015年に結成。ユセフ・デイズほか、エイダン・シェパード、ニック・ウォルターズというのが結成時のラインナップで、その後ユセフがカマール・ウィリアムスとのユセフ・カマールの活動のために抜けて、ユナイティング・オブ・オポジッツやサンズ・オブ・ケメットにも客演するエディ・ヒック、モー・カラーズことジョセフ・ディーンマモード、ファーガス・アイルランドが参加している。
 ルビー・ラシュトンというグループ名はテンダーロニアスの祖母の名前を由来とするのだが、ジャズやアフリカ音楽にヒップホップやビートダウンなどのセンスを融合したサウンドで、マッドリブがやっていたジャズ・プロジェクトに近い方向性を持っている。『トゥー・フォー・ジョイ』(2015年)などリリースした3枚のアルバムは全て〈22a〉からだが、〈22a〉のカタログにはモー・カラーズとその兄弟であるレジナルド・オマス・マモード4世とジーン・バッサ、そしてアル・ドブソン・ジュニア、デニス・アイラーといったDJ/トラックメイカーの作品があり、テンダーロニアスもミニ・アルバムの『オン・フルート』(2016年)、デニス・アイラーとの共作『8R1CK C17Y(ブリック・シティ)』(2017年)をリリースしている。直近ではジェイムズ“クレオール”トーマスの『オマス・セクステット』(2018年)というアルバムがリリースされたが、これは前述のディーンマモード3兄弟とその従妹であるジェイムズ・トーマスによる6人編成のバンドである。
 このようにルビー・ラシュトンにしろ、オマス・セクステットにしろ、テンダーロニアスと彼の周辺の仲間がそのまま〈22a〉のラインナップと言えるのだが、そうした〈22a〉のオールスター・アルバムと言えるのが本作である。

 テンダーロニアス・フィーチャリング・22aアーケストラという名義だが、このアーケストラはサン・ラー・アーケストラをもじったものだ。また、フルートを吹くテンダーロニアスのアルバム・ジャケットはユセフ・ラティーフの『アザー・サウンズ』(1959年)をイメージさせ、サン・ラーやユセフ・ラティーフからの影響がテンダーロニアスにも色濃く表われていることを物語る。
 参加メンバーはテンダーロニアス(フルート、シンセ)以下、ユセフ・デイズ(ドラムス)、ファーガス・アイルランド(ベース)、ハミッシュ・バルフォア(キーボード)、レジナルド・オマス・マモード4世(パーカッション)、ジーン・バッサ(パーカッション)、コンラッド(パーカッション)。オーケストラではなくスモール・コンボだが、ルビー・ラシュトンとオマス・セクステットを合体させたような面々だ。『ザ・シェイクダウン』はこうしたメンバーがアビー・ロード・スタジオに集まり、生演奏による8時間のセッションの中で作り上げられた。基本的にはルビー・ラシュトンのセッションを拡大していったものと言えるだろう。

 テンダーロニアスのフルートはユセフ・ラティーフのプレイに似て、土着的でミステリアスな匂いが強い。そうした演奏にアフロ・ジャズやスピリチュアル・ジャズ系のサウンドがマッチしており、タイトル曲の“ザ・シェイクダウン”がその代表と言える。ウォーの“フライング・マシーン”を彷彿とさせるディープなラテン・フュージョンの“エクスパンションズ”、エルメート・パスコアルのようなアフロ・ブラジリアンの“マリア”、モーダルなアフロ・キューバン・ジャズの“ユー・ディサイド”などもそうした系統の作品だ。“SVインタルード”と“SVディスコ”のSVとは、スラム・ヴィレッジのことを指しているそうだ。スラム・ヴィレッジやJディラのようなヒップホップ・ビートを咀嚼したジャズ・ファンクとなっており、カマール・ウィリアムスのサウンドとの近似性も見られる。パーカッシヴな“トーゴ”は民族色がひときわ強く、モー・カラーズからオマス・セクステットあたりの色合いが濃い。“ユセフズ・グルーヴ”ではユセフ・デイズの律動的で力強いドラムがフィーチャーされ、“レッド・スカイ・アット・ナイト”のビートからは人力ブロークンビーツ的なニュアンスも受け取れる。基本的に全て生演奏のジャズ・アルバムであるが、カマール・ウィリアムスの『ザ・リターン』同様にクラブ・サウンドから受けた影響やアイデアが持ち込まれており、やはりいまのUKジャズを象徴していると言える。

 もしあなたが音楽好きだというなら、ブラジル音楽を聴かない手はないと思います。フットボール好きでブラジルのフットボールを見ない手はないのと同じように。
 ブラジルが音楽大国であり、その音楽文化もじっさいのところ素晴らしいことはなんとなくわかっていても、素人にはガイドラインとなるものが必要です。90年代は、クラブ世代が『ブラジリアン・ミュージック』や『ムジカ・ロコムンド』のような本を教科書とし、ひとつひとつのレヴューを読みながら自分の好みに目星を付けて、ほんと片っ端から聴いていたものです。長年に渡ってブラジル音楽を紹介している中原仁さん監修の『21世紀ブラジル音楽ガイド』はその現代版です。ブラジル音楽の新世代と現在進行形の決定版が600作以上紹介されています。
 イングランドで生まれたフットボールがブラジルで再定義されたように、音楽においても北半球には類を見ない強烈なる官能と感情、そして実験と伝統、愛と政治が混在しています。その音楽は、フットボールと同じようにあなたを夢中にさせます。ぜひ好きになってください。

【監修】 
中原仁

【執筆陣】
伊藤亮介、江利川侑介、KTa☆brasil、佐々木俊広、宿口豪、高木慶太、橋本徹、花田勝暁、堀内隆志、村田匠

CONTENTS

序文
本書の見方・表記について
ブラジル地図

◆CHAPTER 01
+2とリオのインディー・ポップ

+2(モレーノ、ドメニコ、カシン)
+2ファミリー
Los Hermanos とメンバーのソロ作
Rio-Bahia connection
+2周辺の次世代
+2の弟世代
女性
男性
男性、BAND

[コラム] 音楽の都リオ〜ドメニコ・ランセロッチに見る21世紀のリズムの継承と革新 KTa☆brasil(ケイタブラジル)

◆CHAPTER 02
ノヴォス・コンポジトーレスとサンパウロ・シーン

ダニ・グルジェルと周辺
シンコ・ア・セコとメンバーのソロ
ノヴォス・コンポジトーレス
タチアナ・パーハ
サンパウロ・シーン/女性
サンパウロ・シーン/男性
エクスペリ・サンバ

◆CHAPTER 03
ミナス新世代

アントニオ・ロウレイロ
ハファエル・マルチニ
男性
ヘシークロ・ジェラル世代
グラヴェオーラほか
女性
インストゥルメンタル
新世代の先輩

[コラム] クルビ・ダ・エスキーナ名曲集 中原仁

◆CHAPTER 04
MPB

アナ・カロリーナ
ヴァネッサ・ダ・マタ
マリア・ヒタ
ホベルタ・サー
女性
女性/モニカ・サルマーゾ
女性
男性
セルソ・フォンセカ
ボサノヴァ

[コラム] アントニオ・カルロス・ジョビン作品集 中原仁

◆CHAPTER 05
Samba Soul / Funky Groove / Urban

セウ・ジョルジ
セウ・ジョルジの仲間
リオ・グルーヴ
サンパウロ・グルーヴ
バンド、ユニット(サンパウロ)
バンド(サンパウロ、リオ、ミナス)
女性シンガー
アーバン

◆CHAPTER 06
Hip Hop / Funk / Drum'n Bass / Electro / Reggae / Street Beat

Hip Hop
Funk(ファンキ)
Drum'n Bass & Electronica
Reggae
Street Beat

[コラム] 21世紀のバツカーダに見る“ボサ・ノーヴァ”! KTa☆brasil(ケイタブラジル)

◆CHAPTER 07
Bahia(バイーア)

イヴェッチ・サンガーロ
Axé(アシェー)
Samba & Áfro Bahia
Áfro Bahia
Pagodão(パゴダォン)

[コラム] アフロ・ブラジレイロの新潮流とカエターノ・ヴェローゾ『Livro』の遺伝子 橋本徹

◆CHAPTER 08
Nordeste & Norte
ノルデスチ(北東部)とノルチ(北部)

Nordeste(北東部)
Norte(北部)

◆CHAPTER 09
Rock / Folk & Country

Rock
Folk & Country (Sertanejo)

◆CHAPTER 10
Samba

テレーザ・クチスチーナと Lapa 新世代
Samba Novo
Pagode(パゴーヂ)
Gafieira(ガフィエイラ)

◆CHAPTER 11
Instrumental

アンドレ・メマーリ
アミルトン・ヂ・オランダ
ヤマンドゥ・コスタ
Choro
Jazz
Jazz / New Age
New Age
Large Ensemble

◆CHAPTER 12
90's 世代

90's 世代
Collaboration

[コラム] ブラジル音楽のプロデューサーと、ブラジルで眠りについた2人の外国人 中原仁

◆CHAPTER 13
Maestro, Legend

MPB
Samba
Bahia, Nordeste, Norte
Instrumental etc.
Bossa Nova Age

◆CHAPTER 14
International

Argentina, Uruguay
Argentina, Cuba, USA
USA, Italia
Portugal, Spain
France, UK, Áftica
Nordeste International
Special Project
アート・リンゼイ

[コラム] NYの名門レーベル Adventure Music が示す21世紀ブラジル音楽の“粋” 橋本徹


バンヒロシ特別インタヴュー - ele-king

ミスター知る人ぞ知る、バンヒロシ
20世紀の音盤が狂い咲きのアナログ化

インタヴュー構成・文 安田謙一(ロック漫筆)

 京都が生んだロックンローラー、バンヒロシ。芸能生活42周年を迎える。ロックンローラーと芸能生活。一見、相反するこのふたつを無意識に同居させる男、それがバンヒロシである。小西康陽、クレイジーケンバンドの横山剣など彼の音楽への偏愛を公言するものも少なくない。それとは別に、マーク・ボラン、デヴィッド・ボウイ、荒井由実などと生身で関わった時間が生む伝説の数々も忘れ難い。知る人ぞ知る、という言葉をこれほど見事に体現した男もそうはいない。「ミスター知る人ぞ知る」の称号を与えたい。
 私(安田)自身、ほぼ40年に近いつきあいがあり、その距離感ゆえ、つい、特異な個性を見失ってしまうことがある。もったいない話である。今年リリースされたバンビーノのアルバム『お座敷ロック』が雑誌レヴューされ、「今の時代に“君の瞳に恋してる”を日本語カヴァーしてしまうセンスがすごい」と評された。なるほど、そういう見方もあるわな、と思いつつも、これをモジるなら「どんな時代にもバンヒロシのセンスはすごい」ということなのだ。それを実感してもらう音源が立て続けにアナログ化される。78年のアップルドールズ、83年のスマッシュ・ヒッツがそれぞれ7インチで、そして、20世紀のバンヒロシの作品集がアルバムでリリースされる。
 それぞれの盤が作られた当時のエピソードを中心にバンヒロシ、御本人に語ってもらった。

■アップルドールズ「あの娘になげKISS / グッドナイト・スウィート・ハート」(1978年)

バンヒロシ:高校のときにやってたバンド、京都クールスはクールス、キャロル、ロックンロールのカヴァー・バンドで、そこではヴォーカルとサイドギター。卒業でみな離れ離れになってバンドは解散。で、僕は家業の散髪屋を継ぐということで美容学校に行って、もう音楽は辞めるつもりだった。そしたら美容学校の同級生(ギターの堀家新一とベースの前田雅彦)がバンドやらへんか、と声をかけてきて。じゃあってことで、中学の同級生で大学行ってる、正ちゃん(中村正造)にドラム叩いてもらって。それがアップルドールズ。僕と正ちゃんは18で、あとのふたりは16歳。その美容学校の近くに今でいうパブみたいなんがあって、そこを杉山エンタープライズって音楽事務所がやってて。演歌のいわゆる委託盤をキングとかクラウンから出してた会社やけど、そのころCharとかヤングのサウンドも人気やということでオーディションがあり、5、6バンド出て、中にはめちゃ巧いメタルのバンドみたいなんもあったんやけど、なんか優勝してしまって。歌もので、アイドル系みたいなとこが評価されたんかも。で、「ミックスレコード」で“あの娘になげKISS”を録音して、千枚プレスやったと思う。“あの娘……”はいとこの、のぶちゃん(林信幸)がうちに来て、一緒に作った曲。ジャケは木屋町四条下がったところにあった店の前で、その隣には後に万歳倶楽部になる前のジミー・クラブって店があった場所です。
 そのパブみたいな店で何回かライヴをして。その頃の京都はブルース・ブームがいったん落ち着いて、サザン(オールスターズ)みたいなバンドや、アースシェイカーが磔磔に出てたころやから、僕らはそんなんとまったく関係ないと思ってた。完全な「芸能指向」やから。ナベプロに入って、紅白に出て、かくし芸大会に出るのが夢みたいな。だからライヴハウスにはツテもなくて全然出なくて、営業ばっかりしていた。高島屋や藤井大丸の屋上、ボウリング場とか、河原町のBALの地下にあった村八分が出てたガロってディスコとか、あとレコード屋に幟(のぼり)もって行って「新曲キャンペーン」とかやってた。美容学校卒業して、みんな就職するということでアップルドールズは自然に解散。活動期間は1年半ほどでした。

[レヴュー]
 キャロルを経由したビートルズ愛溢れるポップンロール。発売されたばかりのローランドSH-1の音色が76年(ウイングスの時代)を記録している。甘くて酸っぱいヴォーカルにすべてのジョニー大倉主義者が涙にむせぶだろう。カップリング“グッドナイト・ スウィート・ハート”はポール・マッカートニーを彷彿とさせるど直球のバラード。ほぼ英語詞で、サビが日本語でいうのがいいんです、これがまた。(安田)

■スマッシュ・ヒッツ「テルミー / 恋のハリキリボーイ」(1983年)

バンヒロシ:就職してた兄貴が実家に戻り、僕が家業を継ぐ必要がなくなった。それで昼は家の手伝い、夜はスナックでカラオケの司会なんかしながらお金を貯めて、万歳倶楽部を始めた。それが19の時。バンドへの道はあきらめてたんやけど、店の常連だったニシダさん(福田研)に誘われて、180度これまでの音楽性が違うノイズ・バンド、のいずんづりに入ってギターを弾いた。西部講堂で花火打ち上げたり、めちゃくちゃやってて。バンドはますますノービートになってきて、面白くなくなったんで脱退して、その後でギターを弾いてたのが、らっちゃん(森口邦彦)で、あとハルヲくん(天王寺春夫)もいて。そのふたりが続けてバンドを辞めて、元のいずんづりの三人で万歳倶楽部でグチを言いあってるうちに、当時、出て来たストレイ・キャッツに刺激されて、デヴィッド・ボウイと小林旭を同じようにロカビリーにするみたいなコンセプトではじめたのがスマッシュ・ヒッツ。最初の1年間はふたりの女性コーラスをつけて、レヴィロスを意識したスタイルでライヴやってた。フィフティーズのエイティーズ解釈。そのうちコーラスと初代のドラムが抜けて、さっちゃん(後にバンヒロシのパートナーとなる松永幸子)が加入。そのころ、僕が宝島に連載していた「京都てなもんや通信」を読んだ大門さん(“キッスは目にして!”のヒットを飛ばしたVENUSのプロデューサー、大門俊輔)が声をかけてくれて、レコーディングしよう、と。ドラムスが女の子でカウシルズみたいで可愛いとか言ってくれて。それで、83年、彼が興した〈ダイアモンド・ヘッズ・レコード〉から「テルミー / 恋のハリキリボーイ」をリリース。キングトーンズや、編曲で白井良明、松武秀樹も参加したスリーミンツ、プラネッツのシングルも同時に発売された。“テルミー”はグランド・ファンク・レイルロードの“ハートブレイカー”に影響されて。もともとは「ハートブレイク・ストーリー」ってタイトルやったけど、京都三条にあった散髪屋の屋号「テルミー」から取った。ストーンズじゃなくて(笑)。〈ダイアモンド・ヘッズ〉は原宿のペパーミントがやってるレーベルで、プロダクションみたいにもなってて。東京でライヴやるときはペパーミントの寮に泊まって、お手伝いさんもいて。そこで月に一回は「タモリ倶楽部」とかテレビに出たりとか、そのあと東京にいる一週間は六本木のディスコで営業させられて。一晩、30分8ステージとか。雨の日に全然客がいなくて、ひとりオッサンが彼女かホステスかを連れてきてて。で、僕らが演奏しているときに、店のボーイを呼びよせてメモにリクエスト書いて渡して。それをボーイがステージに持ってきたら「イエスタディ」って書いてて(笑)。ひとりで弾き語りで歌ったよ。終わってからチップで一万円もらう、そんな世界。で、これは違うな、と。ハルヲくんはアメリカに行くと。新しいベースを入れるという案は棄てて、京都に帰ることにした。しばらくサラリーマンしながら、84年に『バンちゃんとロック』を録音して、ソノシートで発売することになった。

[レヴュー]
 “テルミー”はテンプターズ“忘れ得ぬ君”、“神様お願い”あたりから連なる哀愁のGS歌謡。ネオGS・ムーヴメントを数年先駆けている。心象風景を投影する荒涼としたロック風景にすべての松崎由治主義者はすすり泣くだろう。タイトル(だけ)フォーシーズンズから拝借した“恋のハリキリボーイ”は絵に描いたようなネオロカビリー名曲。“テルミー”の良さは別として、スマッシュ・ヒッツ のデビュー曲としてはどう考えてもAB面が反対だろう、と37年前に思ったことを昨日のことのように思い出す。(安田)

■バンヒロシ『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』

バンヒロシ:『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』は1999年までにやった仕事をまとめてみようかなと。(今回再発される)2枚のシングルの曲と、“バンちゃんとロック”と、著作権の関係でソノシートには入れられなかった“十代はゴールデンタイム”のカヴァーもここに入れた。あとスマッシュ・ヒッツの音源とか、ソロで作った宅録音源とか。ジャケットはジャズ漫画という名目で舞台に立っていた木川かえる先生に描いてもらった似顔絵。スマッシュ・ヒッツで京都花月のポケットミュージカルのコーナーでチャーリー浜のバック・バンドやってた最後の日に頼んだもの。完全に私家盤として、CDで24枚しか作ってなくて、それを知り合いだけに配った。で、このCDを聴いた小西くんが昔、ソノシートで愛聴していた「バンちゃんとロック」を思い出して、じゃあ、レディメイドの〈524〉レーベルから再発しよう、というきっかけになった(02年に実現)。その復刻を機に僕のことを知ってくれたJET SETのスタッフがオークションとかで過去の音源を集めていて、24枚しか存在しない非売品のCDも持っていて、それが時を越えて今回、はじめてLPになります。

[レヴュー]
今回復刻される2枚のシングル(「あの娘になげKISS」はA面のみ)に「バンちゃんとロック」のいわば完全版となる5曲、スマッシュ・ヒッツが幻のアルバム『スマッシュ天国』(02年〈love time records〉からCD化)に収録予定だった3曲にライヴ音源、さらにソロ活動として開始していたフォーク・スタイルの音源に宅録テクノ・デモを加えた15曲入り。20世紀のバンヒロシが真空パックされている。なんといっても、木川かえる先生の似顔絵が30センチ四方のサイズで蘇るという事実に打ち震えます。(安田)

 99年春に『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』を作って、その暮れにはこれまでと異なる手法で録音を開始、翌年にはデジタル・ ロカビリー・バンド、バンビーノを結成。01年には4曲入り12インチ・シングル「il bambino ed Rock」を発表。ここに収録された“すっとびヒロシ五十三次”が、横山剣に強い影響を与え、クレイジーケンバンドの楽曲“まっぴらロック”、“京都野郎”に結実する。
 今回、アナログ化される3枚の音盤はそれぞれプレス千枚だったり、私家盤の24枚だったりと極めて希少性が高い。そんなことより! そこに秘められた勢い、色気、アイデア、ユーモア、そして若さをターンテーブルで解放される瞬間を想像して興奮している。20世紀のバンヒロシがダンスフロアに逆襲する。

JET SET presents
バンヒロシ還暦アニバーサリー・スペシャルリリース企画
~ヤァ!ヤァ!ヤァ!バンヒロシがやってくる!~

■第1弾

SMASH HITS
テルミー / 恋のハリキリボーイ (7")

税抜販売価格:1,500円
発売日:2018年11月7日(水)

横山剣氏(クレイジーケンバンド)との出会いのきっかけとなった事でも知られる SMASH HITS 名義での代表曲であり、永遠の名曲「テルミー / 恋のハリキリボーイ」。
早すぎたネオGS、和ロカビリーとして和モノ・ファンにも大人気の市場価格高騰中のレア盤です。

■第2弾

アップルドールズ
あの娘になげKISS / グッドナイト・スウィート・ハート (7")

税抜販売価格:1,500円
発売日:2019年冬発売予定

SMASH HITS 結成前のバンヒロシのデビュー・シングルにして、数々のコレコターから現物にすらお目にかかれない1枚と言われていたアップルドールズ名義での「あの娘に投げキッス / グッドナイトスイートハート」。ファンならずとも見逃せない1枚です。

■第3弾

バンヒロシ
ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ

発売日:2019年春発売予定
CD-Rのみで世界に24枚だけ存在すると言われているメガレアな初期ベスト・アルバムがアナログ盤として遂にリリース決定!

ご予約は下記より。
https://www.jetsetrecords.net/i/816005485719/

D.A.N. - ele-king

 傑作だった2016年のファースト・アルバム『D.A.N.』、それを上回る驚きのクオリティを見せつけた昨年のミニ・アルバム『Tempest』。そこから今回のセカンド・アルバム『Sonatine』までのあいだには、ふたつの魅力的なコラボレーション作品があった。ひとつは元キリンジの堀込泰行の"EYE"で、D.A.N.は楽曲提供と作詞の共作。もうひとつは今年12年ぶりに素晴らしいアルバムをリリースしたサイレント・ポエッツの"Simple"。こちらはヴォーカルの櫻木大悟がゲストとして歌と作詞を担当している。両方とも関わりかたこそ違うものの、質感的にはD.A.N.の音楽の発展形ともいえる堂々とした出来栄えで、かたや日本のポップス、かたや日本のクラブ・ミュージックを牽引してきた重鎮たちの音楽を尊重しつつ、D.A.N.の淡い色に浸して染め上げていたのは見事だった。
 それに加えてアルバムからの先行シングルとしてリリースされた"Chance"と"Replica"の2曲がもたらした新たな感触にすっかり魅了させられたおかげもあって、いままでD.A.N.の曲のなかで存在感を放っていたスティールパンの音色が消え、代わりにシンセを多用してシフトチェンジしたこともさほど違和感なくすんなりと受け入れられた。このアルバムを聴くうえで重要なトピックだったと思う。

 変化と不変の共存のアルバム。初っ端から"Chance"でグイグイと昇り詰めたかと思うと、"Sundance"は初期のハーバートを彷彿させるようなメランコリックなシンセが重なったディープ・ハウスな曲調で、お得意のミニマルなリズムがいわゆる低音のグルーヴはキープのままの状態でじわじわと進んでいき、……これはインスト曲か? と思わせた絶妙なところでファルセットが響く瞬間は、まさにD.A.N.の真骨頂という感じで堪らない。
 続くインスト曲"Cyberphunk"では、歌があってこそだという評価をしてしまったことを取り下げたくなるほど、リズム隊がまるで水を得た魚のように自由に派手に遊んでいてタイトル通り刺激的。暴力的に暗く異彩を放つ中盤の"Pendulum"は、繰り返されるフレーズが渦を巻いておそろしく濃厚なカオスを生み出し、次の"Replica"のインディR&Bに接近した美しく儚い世界をより引き立ているのが素晴らしい。静寂を含んだダウンテンポなリズムに乗せて「呆れるくらい何もない ただそこに流れるBGM 繰り返す夜の狭間で 不意にさみしい」と歌ったフレーズだけで、誰がこの音楽を聴けばいいのかをはっきりと示しているし、今年上半期のナンバーワンに選びたいほどの名曲だと思う。
 そして夜中に聴いたら泣くかもしれないほどドラマチックに浮遊していく"Borderland"でクライマックスに辿り着き、最後の"Orange"で温かくラフに終わりを迎えたあとには、月並みだけれど映画を観終えたような満たされた気分になるとともに、クールに見えた彼らの内側に燃えていた音楽への情熱にいまさらながら気付く。ちなみにソナチネ、と聞くとやはり93年に公開された北野武監督の同タイトルの映画を思い出してしまうのだけれど、思い出したついでに映画で使われていたテーマ曲をあらためて聴いてみると、浮遊感のあるシンセにうねるベースとパーカッションとピアノが絡んだミニマル・ミュージックで、このアルバムに入っていてもおかしくないような雰囲気を醸し出していた。関係があるのかどうかは定かではないが。

 全体的な流れを重視した構成と、主張し合うだけでなくより歌を包み込むように配慮されたサウンドに磨きがかかり、その歌声はよりいっそう官能的に成熟して洗練されている。さらにファースト・アルバムの"Curtain"などでもその才能をほのめかしていたが、D.A.N.の音楽は音ありきでありながら歌詞も非常に面白い。ユーモアの効いた素っ気ない言葉の数々は音に乗ることで妙にロマンチックに変化し、耳に残らずに苦味だけをもたらして、ゆっくりとそのまま消えていく。まるで煙草の煙のように美しく。現行のエレクトロニック・ミュージックとクロスオーヴァーさせながらこんな風にルーツや愛着が透けて見える音を織り込んでバンド・サウンドに変換させ、さらっと自分たちの領域にスマートに落としこんでみせてしまうあたり、正直化け物なんじゃないかと思う。それもひどくいまどきの。これから初めて体験する人たちへの嫉妬心は抑えるとして、いちファンとして全ての音楽好きに聴かせたい作品だと躊躇もなく伝えたい。新しい音楽に出会うことや、好きなものに身を委ねること、それはつまり変化を恐れないことだから。

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