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Andy Stott

IndustrialTechno

Andy Stott

Too Many Voices

Modern Love

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デンシノオト   May 30,2016 UP

 前作『フェイス・イン・ストレンジャーズ』(2014)から2年、アンディ・ストット待望の新作は、アルバム名どおりに、複数の声と深いビートが交錯する作品に仕上がっていた。あの傑作『ラグジュアリー・プロブレムス』(2012)の系譜を継ぐアルバムといえよう。20世紀初頭的なロマンティシズムと、MV“バタフライズ”でも表現されていたストリートの乾いた感覚。それらが同時に活写され、交錯していく。

 とはいえ、先行公開されたMVで予想されたよりは、アルバム全体はロマンティシズムが濃厚な仕上がりではあった。そこに、このレーベルらしい見事なイメージ・コントロールがある。アートワーク、MV、サウンド、それらのイメージをまとめ合わせることで、一枚のアルバムを、煌びやかで、フェティッシュで、アーティな商品(それはまったく悪いことではない)に仕立て上げているのだ。そして、そこには必ずといっていいほど、甘いロマンティシズムの香水が落とされている。

 そんなアンディ・ストット/〈モダンラヴ〉が醸し出すロマンティシズムの芳香の極致が“ニュー・ロマンティック”や“オン・マイ・マインド”であろう。この2曲は本当に素晴らしい。加工されたヴォイスと電子音とビート。リフレインされる甘い旋律。本作はYMOから影響を受けたとアナウンスされているが、たしかに“ニュー・ロマンティック”などは、『BGM』に近い雰囲気も感じる。もしくは同時期の高橋ユキヒロ『ニウロマンティック』か。

 本作に収録されたトラックは、もはや楽曲といってもいいほどに洗練されている。彼の最高傑作なのでないかとも思えるほどに。たが、である。ならばアンディ・ストットの「次=ネクスト」はどうなるのだろうか、と素朴に思ってしまう。あらゆる洗練は一つの到達点である。それゆえ停滞を招く。たとえばレディオヘッドの新作にせよ、ジェイムス・ブレイクの新作にせよ、その過剰なまで洗練さゆえ、どうしても「次」が気になってしまう作品といえる(もしくは「次」があるのだろうか、とも)。この2016年は、話題作・傑作・注目作が次から次へとリリースされる豊穣な年に見せかけて、そのじつ、「ネクスト」を模索するような時期だったといえるかもしれない。アンディ・ストットも同様だ。この過剰なまでの洗練は、たしかに、ひとつの完成形である。その完成の後には、継続か、破壊か、もしくは「第三の道」を見つけ出すかしかないはずだ……。

 私としては、『ラグジュアリー・プロブレム』で、いったん置いてきた『ウィ・ステイ・トゥギャザー』『パスド・ミー・バイ』(2011)の原初的なビート/リズム「以降」のエレガント/野蛮なサウンドを望んでしまうが、それこそ余計なお世話というものだろう。アーティストの行き先はアーティストが決めることであり、そもそも未知の領域を模索するからこそアーティストなのだ。ゆえに先のことなど誰もわからない。聴き手は、ただ「次」を待つことが大切なのである。あえていえば、この「次」を待つ姿勢/思考の所作こそが「批評」である。
 
 しかし同時に、「ネクスト」を感じさせる要素が、そこかしこに散りばめられているのも事実だ。たとえば、1曲め“ウェイテング・フォー・ユー“のドローンの中で唐突に鳴る、どこか鳥の鳴き声を思わせる分断的なシーケンスフレーズに、「ネクスト」の可能性を感じてしまうのだが、いかがだろうか?

 むろん、普通に聴く分には、香水のような芳香を放つモードなインダストリアル/テクノ・アルバムである。私はラスト・モダニスト(!)として過剰な洗練を愛するので、このアルバムは好きな作品だ。しかし、同時に、2010年代前半のインダストリアル/テクノ以降のネクスト・フェーズに移る直前の過渡期的な作品であることも事実だろう。洗練か過渡期か。停滞か更新か。この両極のはざまで、本作は濃厚なロマンティシズムを放っている。まさに孤高のアルバムといえよう。

デンシノオト