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Equiknoxx

DancehallDubJuke

Equiknoxx

Colón Man

DDS

disk union iTunes

野田努   Dec 29,2017 UP
E王

 電子機材で制作されたデジタル・ダンスホールは、ジャマイカ音楽における分水嶺であり、ルーツ&カルチャーにとって困惑の源でもあった。その起点となった80年代半ばの“スレン・テン”と呼ばれるリディムには、〈ON-Uサウンド〉が継承したような、マッシヴ・アタックが流用したような、1970年代に磨かれたダビーなベースラインはない。
 しかしながらそれは、ルーツ&カルチャーでは聞かれなかった、耳障りが良いとは言えない言葉をも表に出した。音楽スタイルの更新とともに、たとえばガントークなる芸風も生れたのだが、まあ、ジャマイカのダンスホールとUSギャングスタ・ラップとの関係性については他に譲ろう。ここで重要なことは、ゲットー・リアリズムに深く起因するダンス・ミュージック──シカゴのハウスやジュークもそうだが、激烈な快楽主義と、ときにはいつ死んでもかまわないというニヒリズムさえ感じるダンス・ミュージックは、サウンド面で言えば、革命的なスタイルだったりする、ということである。
 ジュークがそうであるように、デジタル・ビートはひとつのコーラジュ・アートでもある。ブレイクビーツも、最初はNYのアフリカ系/ラテン系が経済的制約のなかで創出したコラージュだ。欧米化された社会に生きる自分たちが、「アフリカ(という自分たちの居場所)」をでっち上げる/創造する、いわばディアスポリックなパワー。それは、カルチュアラルな土着性をいかにミックスするのかということであり、「お高くとまった文化へのカウンター」となりえる。OPNがAFXになれない大きな要因もここにある。シカゴのゲットー・ハウスを一生懸命にプレイしたリチャード・D・ジェイムスの感性を、むしろ理論的に乗り越えようとしているのは、2017年にジェイリンの『ブラック・オリガミ』を出したマイケル・パラディナスだ。

 2017年にリリースされたベルリンのマーク・エルネストゥスによるイキノックスのリミックス12"も、街一番のレゲエ蒐集家として知られるこのベルリナーが自分のレーベルを通じて紹介してきたのはルーツ&カルチャーのジャマイカだったことを思えば、興味深い1枚だった。もっとも、ダンスホールとルーツという二分法もいまでは古くさく思えるほどレゲエは前進しているという事実は、鈴木孝弥氏の訳で出たばかりの『レゲエ・アンバサダーズ』(DU BOOKS)に詳しいので、早くぜんぶ読まなければと思っているのだが、それとは別のところで起きていること、言葉ではなくサウンドのメッセージ、音によってキングストンの外に開かれていくこと、つまりアンダーグラウンド大衆音楽で起きていること──イキノックスがデムダイク・ステアのレーベルからアルバムをリリースし、レイムがスティーリー&クリーヴィーあたりの曲をミックスしたカセットテープを作り、そしてまた2017年の暮れにもイキノックスがデムダイク・ステアのレーベルから2枚目となるアルバムを出すことは、あまりにも面白い展開なのだ。

 ギャビン・ブレアとヨルダン・チャンを中心としたキングストンのプロデューサー・チーム“イキノックス”は、複雑にプログラミングされたそのリディム、鳥の鳴き声、そしてユニークな音響効果によって、こともあろうかイングランドのゴシック/インダストリアル系実験派たちとコネクトした(深読みすれば、この現象自体がプロテストである)。本作『コロン・マン』は、前作『バード・サウンド・シャワー』による欧州での大絶賛を得てからのアルバム──。
 そして欧州経験の成果は、ダブステップ以降の寒々しい荒野にもリンクする1曲目の“Kareece Put Some Thread In A Zip Lock”からはっきりと聴ける。ベースラインはない。美しいストリングスや瞑想的な音響、あるいは動物の声(?)を支えるジューク&ダンスホールを調合/調整したビート、野性と知性を感じる彼らのビートは、この1年でかなり洗練されている……わけだが、20世紀の初頭にパナマ運河を掘るために駆り出された9万人のジャマイカ人労働者をアルバム・タイトルにしているくらいだから、最先端のこのリディムがジャマイカの歴史とリンクしていることを強く意識して制作したのだろう。
 『コロン・マン』は、ステロタイプ化されたゲットー・ミュージックではない。しかしイキノックスは、ジャマイカが大きな影響力を持つ音楽の実験場であることをよく心得ている。リリースは1か月ほど前だったが、ぼくが2017年12月に最後に買ったアナログ盤はこれだった。ストリーミングでも聴けるんだけど、とくにこういう音楽は“盤”で聴きたいよね。じゃ、2017年のエンディングはアルバムのなかでとりわけオプティミスティックな“Waterfalls In Ocho Rios”で。

野田努