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南ロンドンのLV(当初は3人組だったが、現在はシー・ウィリアムズとウィル・ホロックスのコンビ)といえば、コード9やブリアルに次いで〈ハイパーダブ〉を初期から牽引してきたアーティストだ。他にも〈ヘムロック〉や〈セカンド・ドロップ〉など、ダブステップの名門から作品をリリースしている。UKガラージ、グライムをルーツに持ち、〈キーサウンド〉からリリースされた詩人ジョシュア・アイデンヘンとのコラボ・アルバム『ルーツ』(2011)や、〈ハイパーダブ〉からの単独名義でのファースト・アルバム『スベンザ』(2012)に顕著なように、当初はラッパーやMCをフィーチャーした泥臭くルーツ色の濃いサウンドを得意としていた。『スベンザ』には南アフリカのハウス・ミュージックからの影響もあり、そこからはジューク/フットワークとの結びつきも見出せる。そして、ジョシュアとの2枚目のコラボ作『アイランド』(2014年)では、ダブ、テクノ、エレクトロニカなどさらに多くの要素を融合し、コード9同様にダブステップの進化も担うサウンドとなっていた。つまり、ダブステップの進化・実験性とともに歩んできたのがLVと言える。
そんなLVの通算4枚めのアルバム『アンシエント・メカニズム』は、何と〈ブラウンズウッド〉からのリリース。ジャイルス・ピーターソン主宰のこのクラブ・ジャズ総本山からのリリースということで、いままでとはまた大きくテイストが異なるものとなっている。中でもトピックとなるのが、アルメニア出身のジャズ・ピアニストのティグラン・ハマシアンとの共演だ。ロバート・グラスパーのようなUS勢とは異なる新世代ジャズの異才として注目を集めるハマシアンだが、そんな彼とLVの初コラボは2012年のこと。ジャイルスのラジオ番組「ワールドワイド」でのライヴ・セッションとして実現した。ハマシアンはジャズに現代音楽やポスト・ロック、エレクトロニカ、さらにアルメニア民謡などまでを融合した独自の音楽性を持つピアニストだが、この共演によってLVが新たな方向を摸索しはじめたのは間違いない。それ以来重ねてきたコラボの成果がこの『アンシエント・メカニズム』なのである。
短いインタルードも含めて全12曲を収録するが、その中でハマシアンをフィーチャーするのは5曲。従ってほぼ半分は両者のコラボと言える。ハマシアン抜きの曲も、そのコラボの延長線上にあるものだ。ハマシアンのアコースティック・ピアノが入ることにより、逆にヴォーカルやMCは排除し、ほぼインスト・アルバムとなった点も特徴だ。数少ないヴォーカル曲の「ヤリモ」と「インフィナイト・スプリング」も、そこで聴かれるのはアルメニア民謡調のコーランのようなもの。かつてのグライムの影響下にある荒々しさとは決別し、リリカルで美しいサウンドとなっている。コラボが行われたベルギーの町の名前である「ロイセレデ」など、耽美的という点ではブリアルにも通じるところもあるが、ダークな中にも透明感や清廉さを湛えているのはハマシアンのピアノの為せる技だろう。LVのビートも「ハンマーズ・アンド・ローゼス」「ジャンプ・アンド・リーチ」「トランジション」のようなブロークンビーツ調が目に付き、いままでの作品に比べてジャズ・ピアノとの親和性の高いものへと変化している。「ダー・ソウイリ」はハマシアンとのコラボ曲ではないものの、北アフリカ音楽からの影響も伺える現代音楽的なモチーフのビート作品で、明らかにハマシアンとの共演が影を及ぼしていることが伺える。ボサノヴァを消化したような3拍子の「バランス・スプリング」は、本作と同時期にリリースされるフローティング・ポインツのアルバム『エレーニア』とともにエレクトロニック・ジャズの傑作だ。ジャズとポスト・ダブステップ、ベース・ミュージックとの融合の新たな1ページを書き加えるアルバムであることは間違いない。
小川充