Home > Reviews > Album Reviews > LV feat. Josh Idehen- Routes
ロンドンのアンダーグラウンド・ミュージックは、灰色の空の下の冷たいコンクリートに囲まれた都市生活における陶酔感を表すのがうまい。小学校4年生のとき、友だちと初日の出を見に自転車で海まで行こうと約束したことがあった。午前3時に大通りの交差点で待ち合わせたがいくら待っても友だちは来なかった。その通りにある街灯を見つめながらずいぶん長い時間待っていたら、いつしかその街灯に陶酔していた。それ以来、僕は街灯好きになった。これまでいろんな街灯を見てはうっとりしてきたわけだが、ロンドンのオレンジ色の街灯はとくに好みだ。昨年リリースされたLVのシングル「38」のアートワークには、まさにストリートを照らすそのオレンジの街灯がある。
LVはロンドンの3人組のダブステップ・プロジェクトで、昨年、立て続けに発表した何枚かの12インチ・シングルによって注目を集めている。ジャーナリストのマーティン・クラーク(別名、ブラックダウン)が主宰する〈キーサウンド〉から発表した「38」をはじめ、〈ハイパーダブ〉からはクオルト330との共作、そしてそのファンキー路線が話題となった南アフリカのOkmalumkoolkatとの共作「ブームスラング」の2枚をリリースしている。また、〈ヘムロック〉からはアントールドとの共作「ビーコン」を出している(リミックスはマウント・キンビー)。
本作『ルーツ』は、本国ではおよそ3ヶ月ほど前に〈キーサウンド〉からリリースされている(どういうわけか日本ではあまり見かけない)。ジョシュ・アイデヒン(Josh Idehen)は「38」にもフィーチャーされていたMCだが、『ルーツ』にそのシングルとのダブりはなく、収録された12曲すべてが新曲のようだ。
ダンス・ミュージックにはトレンドがある。UKにおいてそれはビートに表出する。言うまでもなく、ここ3〜4年はブリアル直系の2ステップ・ガラージの発展型(ポスト・ダブステップと呼ばれるもののひとつで、ハウスのBMPで、裏打ちで再現したハウスのようなビート)がトレンドの主流になっている。この心地よさにいちどハマるとなかなか抜けられなくなるもので、個人的にはいまだにその手のビートでなければ快楽を感じられない。パーカッシヴでシャカシャカとした耳障りはデリック・メイの一部の作品とも似ていなくもないが、やはりここは、ジャストなビートではなく裏から追っかけてくるビートによるグルーヴが良いのだ。『ルーツ』を買った理由もそれだ......というかそれだけだ。そして、それだけでも自分には充分な理由となる。ジェームス・ブレイクのアルバムだって、あのベースがなければ好きになれなかった。
『ルーツ』は、ブリアルの『アントゥルー』をやや軽めにした2ステップ・ガラージのビート、それに絡めたチョップド・ヴォイス、それからファンクのベースラインに特徴を持つ。M.I.A.(ないしはディプロ)のエレクトロ・パーカッションともに似たビートもあり、ダブからの影響もあれば、ダウンテンポもある。他人の耳にごり押しするタイプのビートではないが、多彩である。UKらしい雑食性のある音で、ジョシュ・アイデヒンのラップも初期のマッシヴ・アタックのように甘美かつダウナーな雰囲気を出している。そしてインナースリーヴには、地下道の写真と真夜中の裏通りの街灯の写真がある。手短に言えばブリアル・フォロワーだが、街灯好きにはたまらない1枚である。