「S」と一致するもの

1 はじめにドラムありき - ele-king

 ある事情から、ドラムを叩くのではなくて、ドラムのことを書かないといけないことになって、つまりドラムのことを考えないといけなくなったら、少しドラムが上手くなった気がする。
 これは意外なことだった。当たり前と言えば当たり前だけど、僕は書いている最中、つまり考えている最中、ドラムを叩く時間が少なくなっていることと、文章が全くものにならないことへのストレスに苛まれているだけだ、と思っていたのに、ドラムセットの前に座ると不思議と力が抜けて、クリアしたいと思っていたことや、今まで気付かなかったことができるようになっていたりする。時間を置くことによって、知らず知らずのうちについていた変な癖が自然となくなるということもあると思うが、考えること、それから、聴くことがこんなにも影響するのか、わかっていたつもりだが再確認させられた。

 今までは、仮説を立ててそれを実践していくということが多かった。どんな仮説か大雑把に言うと、自分の平坦なリズムも、育った環境から鑑みると致し方ないこととし、ドラムを叩く前にパーカッションを叩きリズムの成り立ちに少しでも触れた後、ドラムに孵化させれば、ワールドワイドなリズムの感覚と、嫌でも付きまとう日本らしさが、ちょうどいいところに落とし込まれて、ちょっと違うドラマーになれるのではないか、と言ったところだ。10代の終わりから20代をフルに使っての実践の成果は当たらずとも遠からずといったところで、結果から言うと、いろんな打楽器をやってきてよかったけど、そんなに固く考えなくてもいいんじゃないか、というところ。そこまで、やっと来た。それは、これまでの否定ではなくて、段階だ。考えなくても、平坦でありきたりのドラムはもう叩けなくなった。それは嬉しいことだけど、それだけのことだ。これも仮説というか、妄想に近いが、やっと海外かどこかの子供くらいにはなった、といった感じ。J-POPのことなんて忘れ去ってしまいたかった。
 そう思い返してみたものの、やっぱり今までだって聴くことに重きを置いていた。機材と同じ程には……いや、機材なんて学生時代に一生懸命集めたからバンドでもなんとかなったようなもので、レコードばかりに僅かのお金をはたいて来た。レコードはなかなかどうして、いい。アイデアが、逡巡の傷跡が、その時にしかなかったものが、密かに刻まれている。そのことを思ったら、自分なんて音楽に隠れてしまわないといけない。どうせ顔を出すときは出す。

 所謂ドラマーとしての基礎を飛ばしてきてしまったので、少しは迷惑かけないようにしていかないといけないし、そこはそれこそ考えることでクリアしていかないといけないのだが、まだこんなことばかり思っている。最近は、USインディーのドラムが面白い。リズムの間が豊かで平坦ではないことはもちろん、アイデアが詰まっていて、聴いていて面白い。ステラ・モズガワ嬢、ジャスティン・サリヴァン、いいリラックス具合にシンプルに音楽を昇華させるようなアイデア、ジェイ・ベルロウズ、自由自在、断トツな実力を凌駕する湧き出るアイデア、やや、挙げるとキリがないのだが、リズムが大切にされている上でのアイデアという感じで面白い。ジョン・フェイヒーのリズムへの意志が伏流水のように上がってきたかのような浪漫も感じる。フリート・フォクシーズの新譜なんて音楽がドンと提示されまくっていて楽器のことなんて一回聴いただけでは覚えていません(A,B面でお腹いっぱい。長く聴いていくことが出来そう、というか必要……)。ハットがなくて、他の楽器がキープしているような、理に適った形のアレンジも多くて、聴きやすいし、かといって物足りなくない。
 そういう音楽に触れていると創作欲求を刺激される。これからは仮説じゃなくて、実験だ。仮説を元にやったことは考え過ぎなくてよくなったから、考えるウエイトを少しアイデアに移すことができる。岡田のソロ・アルバムがもうすぐ出るはずだが、彼は僕のドラムのことをよく知っている上で、アイデアを投げてきたり、引き出させたりする作業が面白かった。僕には浮かばないこれをやらせたらどうなるかとか、こういう曲では僕はどうやるだろうかとか、「いままでやってきたことを全部忘れて」なんて言われて叩いた曲もあった。「やってやろうじゃないか」と奮闘するも、そこそこのところ以上は意識しても簡単に消えるものでもない。そこもバレていたのかどうか、まぁいいや。

 今までやってきたことを止めるわけではない。まだ「どこかの子供」レベルだ。大分に拠点を移してからは、地元のアフリカンチームの練習に参加して、ジェンベやドゥンドゥンを叩くのが毎週の楽しみになっている。アフリカ帰りの大ちゃんに刺激ビンビン、できないとすごく悔しくて、質問攻めを食らわせるのが毎回だけど、とにかく楽しい。向こうも楽しそうだ。
 忘れるということは、覚えること以上に難しい。やっと、忘れることじゃなくて覚える段階に来たような気がしている。

電気グルーヴ - ele-king

 滅多にないことだけれど、電気グルーヴに興味を持ちはじめた人からどのアルバムがお勧めかを聞かれることが時々あって、嬉しい反面なかなか回答に困る。ライブの定番曲が入っているアレか、ヒット曲が収録されたアレか、ナンセンスな魅力が濃縮されたアレや、聴きやすいベスト盤のアレ、ジャケで選ぶとアレだし、いっそ初期から聴くならアレとか、いやいや企画ものアレこそお家芸じゃないか、とアルバムの数だけこちらも思い入れもあるわけで、どの部分を知ってもらいたいかという手がかりを探しながら、尚且つ誰よりもベストなチョイスをしたいという陳腐な使命感まで出てきて、頭はどんどんこんがらがっていく。

 ならば逆に何を勧めても良いはずで、いまなら一番新しいアルバムの「TROPICAL LOVE」を迷わず差し出すことにする。前作「人間と動物」から4年ぶりとはいえ、その間の状態の良さは1昨年に公開された映画「DENKI GROOVE THE MOVIE?」と、昨年のフジロック・フェスティバルでのクロージングアクト、そして石野卓球のソロでもしっかり確認できているし、トレンドに構わずいっちばん面白い音楽を作るようになってからの電気グルーヴは強い。

 アルバムの蓋を開けると、ピエール瀧の歌唱の裏で無駄にかっこいいkenkenのベースと動物の鳴き声が飛び交う「ど」が付くほど電気グルーヴ感丸出しの“人間大統領”や、ファンにお馴染みのまりんの声がサンプリングされたシュールな“東京チンギスハーン”など、はじまりこそ破壊力のある電気グルーヴのままで進んでいくけれど、聴いていくうちにいつしか新しいエレクトロニックな楽園に迷い込んでいく。それは艶々とした手触りのいいジャケットのようにエキゾチックな感触。清々しいほどリスナーの内面に全く響いてこない歌詞、なのに不思議と口ずさみたくなるようなメロディ。とくにじわじわとアシッドな余韻を残して消えていく4曲目“プエルトリコのひとりっ子”から軽めのブレイクビーツが堪らない“柿の木坂”、ベースラインを活かした“Fallin' Down”、インスト曲の“ユーフォリック”へと続く流れは、その名の通りに違う場所へと導いてくれる。

 そして何と言っても素晴らしいのがタイトル曲の“トロピカル・ラヴ”で、チル・アウトなムードを漂わせたイントロから始まる南国テクノ・ポップのマイルドな中毒性に、脳がじわじわ蝕まれるよう。とある雑誌のアルバム発売時の特集で、グアムの海で満面の笑みを浮かべた水着姿の半裸の中年男性こと電気グルーヴの2人のはしゃいだ写真の上に

「GOサイン NOサイン 曖昧なサイン 始まりの気配? トロピカル・ラヴ…」

 と、歌詞の一部が添えられたページがあって、それを見たとき、わ、これこそ電気グルーヴがやろうとしていることそのものなのではないだろうかと感心してしまった。一見触れただけではわからない、冗談と本気の境目をなくした、ポップで特殊なもの。スチャダラパーのBOSEは“今夜はブギーバック”の制作について「クオリティと契約の両方の責任を取った」と話していたけれど、電気グルーヴも“シャングリラ”で同じことをやり遂げたはずで、その後も大衆性を失わず、20年後のいまもこんなにフラットで心地よい曲に謎のエッセンスを注入して、カラオケ文化の廃れない日本にまだ落とし続けていることを思うと、さらに心を打たれる。

 アルバムの終盤には夏木マリのヴォーカルとスパニッシュ・ギターが効いた大人っぽいハウスを披露し、そのまま美しくフェードアウトするのかと思いきや、最後に何とも不気味な曲をじんわり置いていく。「トラックは良いけど……」という気休めが通用しないほど言葉と音が密着して背後にこびりつき、なぜいま自分はエフェクトのかかったガマガエルの歌を聴いているのだろうか……? と湧き上がる疑問をどこにぶつけていいのかわからず終い。さっきまでの気持ちのいい流れを無かったことにするかのように終わるのが恐ろしくて、結局また始めからリピートしてしまう。“Stand By You”。齢50にしてこの言語センス。電気はリスナーを突き離さず、むしろ道連れにする。優しいんだか優しくないんだか。

 7月26日には「TROPICAL LOVE」のインスト盤「TROPICAL LOVE LIGHTS」が発売されるとのこと。今年の電気は豊作らしい。ダンス・ミュージックとお茶の間のあいだの何も無かった場所に何年も畑を耕し続け、出来た土壌にいろんな種を蒔き、産地不明の謎の肥料を与えて、そこにたくさん実った奇妙な色の果実を、ここが一番美味いと私達はありがたく食べ続けている。きっともぎたてが一番美味しいはずだから、誰かに少し分けてあげようか。見えないくらい小さな文字で「毒入り注意」と添えて。

路傍に添える - ele-king

反骨と愛。
NORIKIYOのリリックが紙に書きつけても光るのは、骨身を削って刻んだ生身(リアル)な言葉だからだ。 ──後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

メディアの人たちはヒップホップを単純に掻い摘んで見せるのがおもしろいのかもしれないけど、本当に、そこは思ってるよりもっと深い。 (本文より)

「さあBLAZIN立ち上がる時だ/仲間は日本人ラテンにコリアン」(“Do My Thing”)。神奈川・相模のヒップホップ・ポッセ、Sag Down Posse(SDP)のラップ・グループ、SDジャンクスタに所属するノリキヨは、ソロ・デビュー・アルバムでそう高らかに宣言する。これまでの日本語ラップにおいて、“敵”か“他者”として描かれることが圧倒的に多かった外国人に連帯を呼びかける姿に、新世代のBボーイのオープンマインドな感覚を感じた。それは、ライター、ブレイカー、ラッパー、DJという4つのエレメンツを持つSDPというヒップホップ・ポッセの、もっと言えば、地方都市でグローバリゼーションの最前線を生きるBボーイのリアリティなのだろう。ノリキヨはプリミティヴなビートの隙間に、英語、日本語、ローカル・スラング、スパニッシュを交えたリリックを打ち込んでいく。とはいえ、複数の人種から成るコミュニティ意識をロマンチックに語れるほど現実は甘くない。たとえば、在日米軍キャンプが隣接する川沿いの街、相模の殺伐とした風景は次のように描写される。「死んだ商店街 駅前通り/WALKIN粋がるARMY 百姓SHADYツレか?/ケツ振る阿婆擦れポン人 シケたピンサロ呼び込み冴えなぇサンピン/うだつあがらん389のパシリか?/まだまし売人 鶴間のラン人」(“In Da Hood”)。これは紛れもなく現代日本の風景であり、いま、タフなヒップホップが生まれる現場のひとつだ。 ──二木信(『EXIT』レヴューより)

私鉄沿線上の名もない街の風景を描き、その名もなき人生を語り、さまざまな感情、ときには臆することなくポリティクスも述べる。予見的な内容だった2007年の『EXIT』から10年、ヒップホップとの出会いやハスリング、通常歩行が困難となる大怪我、ラッパーとしての活動開始、SD JUNKSTA、 SEEDAやPUNPEEとの出会い……
この10年のあいだ発表してきたNORIKIYOの詩の数々とその回想録。
ここに並んだ言葉の数だけ現実がある!


NORIKIYO
1979年、神奈川県相模原市生まれのラッパー。
1999年、相模原市にて地元の仲間たちとSD JUNKSTAを結成。
2005年、SEEDA & DJ ISSOのMIXCD『CONCRETE GREEN』に参加して注目される。
2006年にSEEDAの『花と雨』に参加(「ガキの戯れ言」)、
翌2007年1stアルバム『EXIT』を発表し、ヒップホップ系メディアで高評価。
以降、『OUTLET BLUES』(2008)、『メランコリック現代 ~秘密~』(2011)、
『花水木』(2013)、『雲と泥と手』(2014)、『如雨露』(2015)、『Bouquet』(2017)
と、現在までに7枚のソロ・アルバムをリリースしている。

〈The Trilogy Tapes〉 - ele-king

 スケシンさんがデザインを手掛けるC.Eといえば、日本のクラバー御用達のブランドですが、ロンドンのWill Bankheadが主催するレーベル〈The Trilogy Tapes〉とも親交が厚く、これまでに何回もパーティを企画しています。その流れでC.Eのショップにはミックステープなども置いてあるわけですが、つい昨日から、「TTT MOUSE T」という名前のロングスリーブTシャツも売られているようです。C.Eのショップだけ((ウェブでの販売はなし)での販売だそうで、好きな人は早めに行かないとすぐに売り切れちゃいますよ~。
問い合わせ:C.E 03-6712-6688 www.cavempt.com

interview with Shingo Nishinari - ele-king


SHINGO★西成
ここから・・・いまから

昭和レコード

Hip-Hop

Amazon

 般若率いる昭和レコードの3本の矢(般若、ZORN)の1矢、SHINGO★西成が『おかげさまです。』以来3年半振りとなる5thアルバム『ここから…いまから』がリリースされた。名の通り大阪・西成、釜ヶ崎は三角公園界隈がフッドの、日本のヒップホップ・シーンでも突出した存在感を放つ屈指のラップスターである。
 もう10年以上前の話だが、SHINGO★西成の取材で初めて西成を訪ねた際に目にした、茶色く錆びた新今宮の鉄路やそのとき食べた100円のモツ煮込みの屋台の光景は、強烈だった。
「なんや、なんかの取材か」
「お兄ちゃん、なにやってるん?」
 カメラマンと共にSHINGO★西成にフッドを案内される道中、屋台の前でコテコテの“釜”のおっちゃんたち(もちろんワンカップ片手)が口々にそんなことを言う中、SHINGO★西成を知っていると思しきおっちゃんの一人が、「あれやろ。黒人の河内音頭やな」とヒップホップを説明したのは、奇妙なヤラレタ感として今も自分に残っている。
 このおっちゃんの一言のように、SHINGO★西成をインタヴューするのは楽しい時間だし、同時に真理を喝破される怖さを感じさせられる時間でもある。それこそが筆者の感じるゲットーの味というものなのだが……。3年半振りのインタヴューだが、もちろんそこには変わらぬSHINGOさんがいた。
 アルバムについて、変わりゆくフッド西成について、ゆっくりと話を聞いた。

毎日怒ってるんちゃう? 毎日怒ってるし、毎日落ち込んでるし……やなぁ。毎日爪噛んでるよ。だから、その取り方も全然間違いじゃない。前より怒ってるかもしれない、前より愛してるかもしれない。

3年以上ぶりのリリースということですが、この間は、どういった3年半でしたか?

SHINGO★西成:現場にはずっとおったし、もちろんアンテナも張ってた。自分が見たり感じたり信頼ある仲間からの情報で、この3年くらい生活してるかな。兄弟分である同じレーベルメイトの般若でありZORNであり、いつも俺のことを気にしてくれるNORIKIYOであり。近くにこういうイケてるやつがおるから、そういう刺激をもらいながら、兄弟や直の仲間がしないことで逆に俺がやりたいと思ったらやったり。“絶句☆ニッポン”……New Jack SwingはZORN作らないでしょ。

そうですね(笑)。“絶句☆ニッポン”は新鮮でした。

SHINGO★西成:誰もやれへん……やろ? ああいうの。

はい。このノリは……と言って良いですかね。僕も今度のアルバムで1、2番目に好きな曲でした。10年前だったらそう思ったかはわからないですが、まさに今こういう気分だぜという感じがしましたね。この前の曲の“鬼ボス”からの流れが、もうイケイケで。

SHINGO★西成:ほんまその通り。俺も、New Jack Swingの時代のラップが逆に今気分的にもバッチリやなと思って、で、客演にTAK-Z&KIRA。近くにおって、いつも刺激くれてるあいつらにやろうや言うて、もうほんまに即答でやってくれた。“鬼ボス”の客演のJ-REXXXもそうやし、あんなにイケてる伸び代が半端ないアーティストがやってくれて、ありがたいよな。

ただ、ここで重要なのはイケイケでノリノリの曲だから、単純に=気分はノリノリでイケイケということではないと思うんですよね。上手く説明するのが難しいのですが、例えば“絶句☆ニッポン”に関して言えばNew Jack Swingのビートの奥にある感情から起ち上がった言葉というんですかね。ただノリをサンプリングしてノリノリになっているわけではないというか、表面をなぞるだけでは本当のパワーは生めないと言えばいいのか。

SHINGO★西成:まぁ知らないままにスッとできた曲なんかはないなぁ。例えばNew Jack Swingのあの格好良さを表現したいなとか、そういう作りたいテーマはあってんけど、1ヴァースできても次のヴァースができないということはあった。逆にこういうのが作りたいというテーマがはっきり決まってるほど、上澄みだけをとったらあかんから。聴きちぎったからな、もうほんまに。その分、言葉のチョイスや構成もしっかりしたって感じかな。

これは最近、割とどのインタビューでも聞いてることなのですが、フリースタイル・バトルのブーム然り、現行のHIP HOPのメインストリームがTRAPを経由したものだったり、表現の即興性が増している気がするのですが。そういったことは、SHINGOさんは……どういう言い方をすればいいんですかね。その、どんな感じですか?

SHINGO★西成:どんな感じ? ……いやなんとなく気を遣ってアバウトにしてくれたのはわかるで(笑)。それはエキサイティングって答えたらあかんの? 俺はエキサイティングなもの、自分の予想を超えている人が好きやから。結局、自分のできないことをできてる人は相変わらず好きになってしまうな。それはより素直に、いいもんはいいって言えるようになった。自分とスタイル違うちゃうからノーじゃない。それはなんかわかるでしょ?

はい、もちろんわかります。

SHINGO★西成:そのなかでちゃっちぃけどキャッチぃ、耳触りのいい、思わず言ってしまうフレーズは、そういうTRAPというかのテイストも入れつつ、こう、古き良きもちゃんと入れたくて、“絶句☆ニッポン”や“あんた”を作った感じかな。

“あんた”は、まさに“古き良き”テイストの曲ですね。このテイストを日本でHIP HOPのアルバムで表現できるのはSHINGOさん以外いないと思います。

SHINGO★西成:こんだけ歌謡曲っていうか演歌っていうか溢れてる街のなかで育って、なんか、まぁまぁ、“にしなりあほじん”……やしきたかじんさんじゃなくて……みたいなんを作りたいというか、ストリーテリングみたいな曲を作りたいと思って作った。夢を追っかけてる男を好きになってしまった、幸の薄い女を演じて自分が書くというか。たかじんさんが死んで、あの人の歌がパッと聞こえてきた時に、すごい……女の人の気持ちを歌ってんねんな。でも、歌っているのはやっぱり男やし、男にとって都合のええこと多いなと思ったり。けど、男ってそういうこと考えがちやなって思って、それを突き詰めたら曲になった。

ここまで少し伺っただけでも色々なヴァリエーションの曲があるのがわかりますが、どうやってできていった曲たちなんですか?

SHINGO★西成:うーん、もうほんま生活から出た言葉、やで。

はい。それはもちろんそうだと思うのですが、すいません、僕の聞き方が悪いですね。3年半の中でコンセプトやテーマがあってそこに向かっていったのか、あるいは自然とできていった曲をアルバムとしてパッケージしたのかというか。

SHINGO★西成:いままでずっとライヴしたり、出会った人から刺激を受けて、こういう曲になったり、言葉のチョイスになったり、行動になったり。とにかく自分の足らないことを出したっていうことやけどな。だから、自然なことなんじゃないの? 

いま仰っていた自分の足りないところを出すということについてもう少し具体的に伺いたいです。

SHINGO★西成:ライヴで失敗したら、こういう失敗したな。だから、こういう曲が欲しいなとか。普段でも、こういう経験して、なんか、こういう時はこうしたいなとか。ライヴ前に聞きたいなとか……“GGGG”とかはそうやな。ちゃんとそのピースが揃ったからアルバムにしたって感じかな。そのピースが足らなかったら出してないかもしらんし。レコーディングすべてを自由にさせてもらってるから。そういうフリーな、その時のヴァイブスを大胆にそのまま使うっていうことは相変わらずしてるけど。刺身で出せる魚は刺身で出すし、片面は焼いときますね、ほぐしてお茶漬けにできるようにしときますねとか。一匹のSHINGO★西成がいろんな味になってる。それが和洋折衷いっぱいあるって感じ? “Fuck you, Thank you ほなさいなら”は黒七味みたいな。そういう風に思ってもらえたら。

  まずはイメージする自分はどうなりたいか?
  すべきことは何か? 未来どうありたいか?
  痛いダルい嫌い言うな気合や気合や
  やるかやられるか要は自分次第や
“GGGG”

  身内だけの馬鹿騒ぎ 他人の粗探しはもうやめた
  楽しく飲んでたのに もう輩とカスが来て酔い冷めた
  なにイキってんねん、なに気取ってんねん、
  なにスカしてんねん おい
  見透かしてんねん バレてんねん 
  おまえ年末までには消えてんねん ポイ
“Fuck you, Thank you ほなさいなら”

SHINGO★西成:だから前のアルバムを出してから作りたいと思っていた、前回のアルバムを出す前から作りたいと思っていたもの、次のアルバムはこういうなんを作りたいっていうものまで含んで、それをこの3年の間に全部考えた曲という感じかな。例えば「KILL西成BLUES」は、もともと「「ILL西成BLUES」(『SPROUT』収録。2007年リリース作品)を作っている時には、もう考えていた曲だから。

それは、リミックスみたいな楽曲を作るということをですか?

SHINGO★西成:いや、ちゃうちゃう。感情として。結局、変わらんやん。いつも文句だけ言うて逃げるやつ。いまだったらTwitterとかの書き込みでも、一方通行でひどいこと言って、嫌な思いしてる人、世のなかいっぱいおるやんか。芸能人は思わず、それをテレビで言ってしまうとか。普通につぶやいて炎上してまうとか。炎上するのがわかってて、なんでそんなとこに行くのとか思ったり、でも感情が止められへんかってんなとか。俺やったら作品にしたらええんやなっていうか。

怒っていますか? アルバム全体で「逆襲」を感じたんですよね。正確ではない表現かもしれませんが。

SHINGO★西成:毎日怒ってるんちゃう? 毎日怒ってるし、毎日落ち込んでるし……やなぁ。毎日爪噛んでるよ。だから、その取り方も全然間違いじゃない。前より怒ってるかもしれない、前より愛してるかもしれない。

愛してるから怒るんですもんね。

SHINGO★西成:それは前提かな。それを踏まえた上で聴いて欲しいって感じ。そうやなかったら言えへんよ。言う価値無いものに対してはもう言えへんよ、うん。だから怒りが多いと言われても、たしかに怒り多いかもなと思ったりするし、すげえ愛に溢れてるなぁって曲は、もっと愛に溢れた、愛100%の曲にもできたし。なんか、ほんまに寄せ集めたっていうんじゃなくて、喜怒哀楽をテーマにしてたら、喜怒哀楽は全部揃ってたらいいなぁとか。それが喜怒哀だったら楽を作らなあかんなとか。“ここから…今から”、“一等賞”があるから、“Fuck you, Thank you ほなさいなら”“KILL西成BLUES”があるという感じかな。

  めぐり合い励まし合い 
  ぶつかり合い見つめ合い笑い合いそれが愛 
  守りたいなあの娘のスマイル 
  繋いでいきたいな色んなスタイル
“ここから…今から”


まぁまぁまぁ、固定せんと相変わらず、一生懸命アホしますから。ドがつくアホで。大がつくバカで、大バカでいきますんで。俺の失敗してるとこも成功してるとこも見てくれたら。で、「ほんまアホやなぁシンゴ!」言うてくれたら最高の褒め言葉やね。

前作のインタヴューをさせてもらったときに聞いたお話で、浮き足立っていたらちょっと待てと一旦足を止めさせて考えさせるもの、また前に行きたいのに行けない時に背中を押すようなもの、その時、SHINGO★西成さんは自分が表現したい音楽についてそういうことを仰っていて、それがとても印象に残っています。今回は、聞いていてそれは変わらず、さらに感情の深掘りをされているのを感じました。

SHINGO★西成:おおきに、やで。その上でよりシンプルに伝えた方がいいなというので、言葉のチョイスをわかりやすくしたり、日々そういう心がけはしてるけど。でも、ここは言うといた方がいいっていう時には、いきなり“ナイフ”みたいな言葉を出すけど。でもその前後を聞いてもらったら、そういう言葉も出るのやろなっていう。

あった方がいい言葉はあった方がいいですよね。現実に“ナイフ”はあるわけで。

SHINGO★西成:あるやんか、やっぱり。信頼ももらった代わりに裏切りももらったし、経験もしたし。なんか色々あったからこそ……じゃあ“おおきに”って言ったり“いらっしゃいませ”って言うにしても、なんかこの人“いらっしゃいませ”というのもちゃんと言ってはるなとか、感情入ってるなとか、そんなんと一緒で。「ありがとう」一言、「おおきに」一言、「すんまへん」一言……言葉一言でもその人が乗り移るじゃないけど。その人の人生観が見えるときがあってもいいなと。そう思うからこそ、表現者としてそういう時はちゃんと出せるようにやろうと。そのまま「おーきに」「やっといてー」とか、そのシチュエーションに応じたやり方というんかな。ほんま感謝してる人には感謝してる思いで、ちゃんと言葉を言おうかなと今回は更に思った。前のアルバムよりそこは増したかな。例えば路上でライヴをしている人が10秒間、20秒間、目の前を通る人になんかをメッセージを残したいからやってるわけやんか。止まってる人前提に歌ってるわけじゃないやん? 俺もそのスタンスは変わってないから。パッと聴いたやつとか、有線でたまたまかかった曲、たまたまお店でかかってた俺の曲のパンチラインとかで、なんやこれ? って。そう言ってもらえるように、色々作ったつもりやけどね。だからアルバム単位で聞いてくれたら嬉しいなと思ってる。

ぜひ、音楽好きな人、悩んでいる人も、楽しいことが好きな人にも、いろんな人に聴いて欲しいです。それでは最後に、これからのSHINGO★西成さんについて伺いたいです。

SHINGO★西成:うーん、どうなるか決めてないからこそのワクワクドキドキ感はあるけど。なんかこうしたいとか、逆に変に固まるの嫌やから。やることやったらなるようになると思ってるし。今はやることやったからなるようになれっていうか。ただ、このアルバムを聴いてくれて、ええなと思ってくれる人が多い土地には行きたいな。まぁまぁまぁ、固定せんと相変わらず、一生懸命アホしますから。ドがつくアホで。大がつくバカで、大バカでいきますんで。俺の失敗してるとこも成功してるとこも見てくれたら。で、「ほんまアホやなぁシンゴ!」言うてくれたら最高の褒め言葉やね。

ありがとうございます。アルバムのインタヴューは以上ですが、最近西成の坂の上の方(天王寺駅周辺)はアベノハルカスもできて風景が激変しました。SHINGOさんの音楽は名前と同様、西成と不可分な表現なので伺いたいのですが、最近の西成の日々は、何か変わりましたか?

SHINGO★西成:暖かくなってきたからようわからんおっちゃんおばちゃんが仰山表に出てきてるわ。虫みたいなおっちゃんおばちゃんもおるし、お花畑みたいなおっちゃんおばちゃんもおるから食物連鎖でいいんちゃう? なんか生きてる。共生してる街やからね。なんていうかな。なんかこう、都会はお互いをわかってるからこそ、あんな人がいる交差点でもぶつからないやん。西成も独特の、なんかあんねんな、会話が。なんかこう、人の心を掴むっていうか、きっかけをちゃんと持つとか。変わってないよ。変われへんと思うよ。根本は。最近はしゃあないと思うようになったのか変化を受け入れざるを得ない感じやね。俺らが西成WAN(西成ウォールアートニッポン。SHINGO★西成を総合プロデューサーとして、アーティストと地域が協力して街へアートを描くことで、西成のイメージアップと、来訪者の増加を目的としたアートプロジェクト)をやったときも、年齢をとればとるほど新しいことって嫌だったりするやん。いまのこの形でいいやんみたいな。相変わらず変わって欲しくないと望んでいる人も多いけど、その町が変わっていかざるを得ない現実をちょっと納得してきてくれるというか。少しずつ受け入れてきてくれているのは感じてるかな。やっとやで。黒人のことクロンボ言うてるからね。クロンボ歩いたって。アカンよソレは言うたら絶対。この間は白人のこと、トム・クルーズ3人歩いてたって言っとったからね。なんや、その会話って。トム・クルーズは1人やって。俺にはミッション・インポッシブルっす。

最高ですね(笑)。ありがとうございました。

Washed Out - ele-king

 2000年代から2010年代に切り替わるころ、音楽シーンにトレンド・ワードとして登場したチルウェイヴ。ネオ・サイケやバレアリック感覚に包まれたドリーム・ポップ~シューゲイズ・サウンドというのがその実態で、トロ・イ・モアやネオン・インディアンなどと共に、筆頭アーティストにウォッシュト・アウトことアーネスト・グリーンがいた。〈メキシカン・サマー〉から発表したデビューEP「ライフ・オブ・レジャー」(2009年)、〈サブ・ポップ〉からのファースト・アルバム『ウィジン&ウィズアウト』(2010年)など、「サマー・オブ・ラヴ」や「セカンド・サマー・オブ・ラヴ」の2010年代版とでも言うようなピースフルでメランコリックなムードのそのサウンドは、当時のチルウェイヴ・ムーヴメントを体感するのにピッタリな、まさに入門書的なアルバムと言えるだろう。〈ワイアード・ワールド〉から発表したセカンド・アルバム『パラコズム』(2013年)は、『ライフ・オブ・レジャー』や『ウィジン&ウィズアウト』の世界をより享楽的で開放的なものへ向かわせ、それまでのベッドルーム・サウンドがフェス向けのダイナミックなものへと進化していた。ところで、この頃になるとチルウェイヴという言葉にかつての勢いはなくなり、ブームは過ぎたという見方をするメディアも少なくなかった(もっとも、勝手に名付けて盛り上げていたのはそのメディアなのだが)。だが、アーネスト・グリーンはそうした周りの反応はどこ吹く風といった具合で、いたってマイペースに自分の音楽を貪欲に広げていった。彼自身は周囲の評判には惑わされないタイプで、当時のインタヴューを読むと、「フランク・オーシャンやプールサイドなどの新しいサウンドも面白いけど、ヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』など昔のレコードから影響されるところも大きいし、メロトロンなど古い時代の楽器や機材を使って『パラコズム』を作った」と述べている。

 チルウェイヴのアーティストたちは季節で言えば夏のイメージで、ウォッシュト・アウトも『ウィジン&ウィズアウト』や『パラコズム』を夏シーズンに合わせてリリースしていた。そして、『パラコズム』から4年ぶりとなるこの夏に、新作の『ミスター・メロウ』を発表した。アルバム・タイトルはウォッシュト・アウトらしいけれど、驚いたのは今回のリリース元が〈ストーンズ・スロウ〉に変わったこと。両者にはこれまで接点らしい接点もなく、〈ストーンズ・スロウ〉もこの手のサウンドに強いイメージがなかったのだが(あえて挙げれば、ステップキッズあたりに共通するムードがあるか)、この新たな結びつきによってウォッシュト・アウトのサウンドはまたひとつ前進したようだ。たとえば、それは制作方法の変化にも表われている。『ライフ・オブ・レジャー』や『ウィジン&ウィズアウト』の頃はサンプリング中心の、まさしくベッドルーム・スタジオで作った宅録サウンドだったが、『パラコズム』では生演奏を中心として、前述のようにメロトロンなど凝った楽器・機材も用いていた。『ミスター・メロウ』はその両者のプロセスの良いところを混ぜたもので、サンプリングした素材を発展させてメロディを構築し、そこに新たな楽器演奏や歌を加えてより高度な作品へと編曲しているところが見受けられる。その好例が“ハード・トゥ・セイ・グッドバイ”で、この曲の下敷きとなっているのはイタリアのジャズ・ミュージシャンで作曲家のアメデオ・トマッシによる1970年のサントラ『トーマス』。最近リイシューされたようだが、よほどのサントラ・マニアでないと知らないような超レア盤で、そんなところからサンプリングしてくるあたり、グリーンが実にたくさんの幅広い昔の音楽を聴いているかがわかる。そして、それをハウス・ビートと結び付けて発展させているわけだが、『ミスター・メロウ』はいつも以上にダンス性や享楽性が前面に出てきている。ラウンジ・ジャズをスペイシーで多幸感に満ちたハウス・サウンドへと変換した“ゲット・ロスト”がその典型で、こうした方向性はジェイミー・エックス・エックスの『イン・カラー』やザ・エックス・エックスの『アイ・シー・ユー』と同じベクトルを持つ。レイドバックしたメロウ・ファンクの“バーン・アウト・ブルース”、セルジオ・メンデス&ブラジル66のようなボサ・ロックを取り入れた“フローティング・バイ”では、レトロな音楽や楽器演奏を意図的に素材にしているわけだが、そうした点で一旦は生演奏に傾倒した後、改めてサンプリング・ミュージックの面白さや可能性に気がついたアルバムではないだろうか。

Mount Kimbie - ele-king

 ポスト・ダブステップの臨界点を突破した『Crooks & Lovers』から7年、〈Warp〉へと移籍してポスト・ポスト・ダブステップを探究した『Cold Spring Fault Less Youth』から4年……ようやくである。ドミニク・メイカーとカイ・カンポスからなるデュオ、マウント・キンビーが3枚めのアルバムをリリースする。その新作には、かつてマウント・キンビーのライヴ・メンバーであったジェイムス・ブレイクも参加している。00年代末期、マウント・キンビーもジェイムス・ブレイクもそれぞれに固有の方法で、それまでのダブステップを過去のものにしてしまったわけだが、ときの流れは恐ろしいもので、それからもう8年の月日が過ぎ去っている。それはつまり、かつて彼らの音楽に衝撃を受けたティーンネイジャーたちが、新しい音楽の作り手へと成長を遂げているということだ。そんな“いま”マウント・キンビーは、いったいどんなサウンドを届けてくれるのか。リリースは9月8日。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Mount Kimbie
title: Love What Survives

release date: 2017/09/08 ON SALE
BRC-553 ¥2,200(+税)
国内盤特典:ボーナス・トラック追加収録/解説・歌詞対訳付き

label: BEAT RECORDS
artist: yahyel
title: Iron

release date: 2017.06.23 FRI ON SALE

WWWβ - ele-king

 昨年オープンしたWWW Xに続き、新たな「場」が誕生する。クラブPAのワールドスタンダードであるファンクション・ワンを導入し、完全リニューアルしたB1FのWWWラウンジが、「WWWβ(ダブリューダブリューダブリューベータ)」に改称、深夜のクラブ・イベントを軸に新たなプログラムを発信していく。RP・ブー、ボク・ボク、エリシア・クランプトン、インガ・コープランド、インフラ、と、すでに決定している8月のラインナップもじつにアンダーグラウンドかつ豪華な顔ぶれだ。「テスト版」を意味する「β(ベータ)」をコンセプトに、今後もコンテンポラリーでカッティング・エッジなエレクトロニック/ダンス・ミュージック/ヒップホップが展開される「拡張の場」を目指していくとのこと。これは楽しみ!

WWW最深部!

新スピーカーの導入によって完全リニューアルしたWWWラウンジがWWWβ(ベータ)に呼び名を改められ、現代の多様なサウンドを紡ぐ“クラブ・オルタナティブ”をテーマに8月より新装スタート。各イベントの詳細は後日発表。

WWW Lounge completing the renewal with new speakers will be renamed “β” and launch in Aug on the theme “Club Alternative” as the deepest part of WWW spinning a variety of the contemporary sounds. The detail of each event will follow later.

WWWβ | Place to βe in Shibuya

WWWβは渋谷のライブ・スペースWWW / WWW Xにてコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージック/ヒップホップを軸にプログラムされ、“クラブ・オルタナティブ”をテーマに多様なサウンドを紡ぐ、“拡張”の場です。

WWWβ is an extended place programing mainly contemporary Electronic / Dance Music / Hip Hop at WWW and WWW X, Live / Club venues in Shibuya Tokyo, spinning a variety of the sounds on the theme “Club Alternative”.

AUG17’

8.04 fri RP Boo - Local 3 World -
8.10 thu Bok Bok w/ Friends - a2z - *before holidays
8.12 sat Elysia Crampton - Local 4 World -
8.23 wed Inga "Lolina" Copeland - TBA - *daytime event
8.26 sat インフラ INFRA


Lee Gamble - ele-king

 これはちょっとした事件かもしれない。これまで〈Pan〉から『Dutch Tvashar Plumes』『Koch』といった尖った作品を発表し、また自身の主宰する〈UIQ〉から独創的なアーティストの数々を送り出してきたリー・ギャンブルが、なんと〈Hyperdub〉に移籍する。9月15日には新作『Mnestic Pressure』のリリースも決定しており、先行して新曲“Istian”が公開されている。やはり〈Hyperdub〉は目の付け所がいいというか、これはちょっとした事件かもしれない。


 中古レコードショップじゃないところからこういう作品を探し出したかったという密かな希望は満たされた。久し振りに音楽のための音楽を聴いている気分にさせられるようなユーモアが、アルバムをしてベタつかせていない。だからといってただ軽いわけでもなく、ユーモアと不可分のバリエーションが耳を飽きさせない。キャリアからもよく伺えるブラジル音楽を基調とした音楽的説得力に裏付けされた圧倒的ユーモアと、それの独特なコミュニティでの共有によって作り上げられた作品は痛快そのものだ。

 永い間、痛快ということは、民族音楽と言われるものやブルースの専売特許だと思っていた。いい意味での狭さの中の深さが誰しもをスカッとさせるような。『オルガンス山脈』を聴いてそれは古い考えだと気が付いた。
 自国ブラジル音楽への尊敬は、ショーン・オヘイガンがプロデューサーとして参加しても、すでに言われているようにポスト・ロック的実験要素が加わっても、ブラジルらしさを損なっていないことからも伺えるが、リズムに目を向けると、ザ・ブラジルのリズムと言われているビートではない曲、例えば#2のUSインディーにあってもおかしくないようなビートでも、#3のショーン・オヘイガンらしいシンプルなビートでも、#8のカンドンブレのリズムにドラムが入っていても、#10のカシンらしいディスコ調のビートでも、ブラジル音楽から得たリズムの普遍性みたいなものを纏っていて、実に空間豊かである。そこに痛快さが残る余白があるし、ユーモアに説得力を与える一因にもなっている。
 音の柔らかさや、圧倒的なユーモアという点では、ソフト・ロック的だと言えるかもしれないが、60年代後半のソフト・ロックがここまで全体を見渡せていたようには思えない。当たり前にあった自分たちの音楽が土台になってはいるが、その先は、偶然の産物みたいな曲やアレンジで、アルバムに1曲か2曲キラー・チューンがあって、他は退屈な曲で埋め尽くされている作品がほとんどだ(その1曲か2曲を探すのがエキサイティングなのではありますが)。
 一方、『オルガンス山脈』は、必然の賜物だ。2006年にロンドンでの「ドメニコ+2」のショーで出会ったというショーン・オヘイガンのアレンジは、ドメニコのオーガニックなサウンドと相性抜群で、時にショーンの曲にドメニコがアレンジしたかのようにも思えてしまう(それがほんとに行われた時どうなるのかも楽しみだ)。実際、#13はショーンが歌詞、歌、演奏をすべて手掛けていて、ハイ・ラマズの新曲と聴き間違えるというか、そういっても過言ではない。2人の邂逅自体必然だろう。中原氏が指摘している「美しさの中にさりげない実験精神と遊び心と刺激がひそんでいる」という点も、作品をして飽きさせないバリエーションに繋がっている。そして、そのアイデアとセンスの共有の完成度たるや! 誰かが何か言い出して、誰かがそれに返して点とか、創作現場を想像するだけでも胸が躍る。そして、この作品のリズムの豊かさとユーモアに実際に踊る。

 保守でもないけど、土台は必要だし、というか気持ちいい方がいいし、進歩でもないけど、土台を元に新しいものと出会う、と。そんな意志というか柔らかさみたいなものをドメニコからは感じる。
 この機会に、カエターノの子供たちと言われているコミュニティの作品を色々聴き直してみたが、僕は、この作品が一番面白いと言いたい。確かに、ハイ・ラマズのファンということを差し引いているとは言えないが、まぁ差し引く必要もなく、2人の邂逅を素直に喜びつつ、ショーン・オヘイガン本人も言っている、彼らの「good vibes」に浸りたい。

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