ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  3. 橋元優歩
  4. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  5. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  6. CAN ——お次はバンドの後期、1977年のライヴをパッケージ!
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  9. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  10. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  11. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  12. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  15. Jlin - Akoma | ジェイリン
  16. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  17. 『成功したオタク』 -
  18. interview with agraph その“グラフ”は、ミニマル・ミュージックをひらいていく  | アグラフ、牛尾憲輔、電気グルーヴ
  19. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  20. ソルトバーン -

Home >  Regulars >  打楽器逍遙 > 1 はじめにドラムありき

打楽器逍遙

打楽器逍遙

1 はじめにドラムありき

増村和彦 Jul 18,2017 UP

 ある事情から、ドラムを叩くのではなくて、ドラムのことを書かないといけないことになって、つまりドラムのことを考えないといけなくなったら、少しドラムが上手くなった気がする。
 これは意外なことだった。当たり前と言えば当たり前だけど、僕は書いている最中、つまり考えている最中、ドラムを叩く時間が少なくなっていることと、文章が全くものにならないことへのストレスに苛まれているだけだ、と思っていたのに、ドラムセットの前に座ると不思議と力が抜けて、クリアしたいと思っていたことや、今まで気付かなかったことができるようになっていたりする。時間を置くことによって、知らず知らずのうちについていた変な癖が自然となくなるということもあると思うが、考えること、それから、聴くことがこんなにも影響するのか、わかっていたつもりだが再確認させられた。

 今までは、仮説を立ててそれを実践していくということが多かった。どんな仮説か大雑把に言うと、自分の平坦なリズムも、育った環境から鑑みると致し方ないこととし、ドラムを叩く前にパーカッションを叩きリズムの成り立ちに少しでも触れた後、ドラムに孵化させれば、ワールドワイドなリズムの感覚と、嫌でも付きまとう日本らしさが、ちょうどいいところに落とし込まれて、ちょっと違うドラマーになれるのではないか、と言ったところだ。10代の終わりから20代をフルに使っての実践の成果は当たらずとも遠からずといったところで、結果から言うと、いろんな打楽器をやってきてよかったけど、そんなに固く考えなくてもいいんじゃないか、というところ。そこまで、やっと来た。それは、これまでの否定ではなくて、段階だ。考えなくても、平坦でありきたりのドラムはもう叩けなくなった。それは嬉しいことだけど、それだけのことだ。これも仮説というか、妄想に近いが、やっと海外かどこかの子供くらいにはなった、といった感じ。J-POPのことなんて忘れ去ってしまいたかった。
 そう思い返してみたものの、やっぱり今までだって聴くことに重きを置いていた。機材と同じ程には……いや、機材なんて学生時代に一生懸命集めたからバンドでもなんとかなったようなもので、レコードばかりに僅かのお金をはたいて来た。レコードはなかなかどうして、いい。アイデアが、逡巡の傷跡が、その時にしかなかったものが、密かに刻まれている。そのことを思ったら、自分なんて音楽に隠れてしまわないといけない。どうせ顔を出すときは出す。

 所謂ドラマーとしての基礎を飛ばしてきてしまったので、少しは迷惑かけないようにしていかないといけないし、そこはそれこそ考えることでクリアしていかないといけないのだが、まだこんなことばかり思っている。最近は、USインディーのドラムが面白い。リズムの間が豊かで平坦ではないことはもちろん、アイデアが詰まっていて、聴いていて面白い。ステラ・モズガワ嬢、ジャスティン・サリヴァン、いいリラックス具合にシンプルに音楽を昇華させるようなアイデア、ジェイ・ベルロウズ、自由自在、断トツな実力を凌駕する湧き出るアイデア、やや、挙げるとキリがないのだが、リズムが大切にされている上でのアイデアという感じで面白い。ジョン・フェイヒーのリズムへの意志が伏流水のように上がってきたかのような浪漫も感じる。フリート・フォクシーズの新譜なんて音楽がドンと提示されまくっていて楽器のことなんて一回聴いただけでは覚えていません(A,B面でお腹いっぱい。長く聴いていくことが出来そう、というか必要……)。ハットがなくて、他の楽器がキープしているような、理に適った形のアレンジも多くて、聴きやすいし、かといって物足りなくない。
 そういう音楽に触れていると創作欲求を刺激される。これからは仮説じゃなくて、実験だ。仮説を元にやったことは考え過ぎなくてよくなったから、考えるウエイトを少しアイデアに移すことができる。岡田のソロ・アルバムがもうすぐ出るはずだが、彼は僕のドラムのことをよく知っている上で、アイデアを投げてきたり、引き出させたりする作業が面白かった。僕には浮かばないこれをやらせたらどうなるかとか、こういう曲では僕はどうやるだろうかとか、「いままでやってきたことを全部忘れて」なんて言われて叩いた曲もあった。「やってやろうじゃないか」と奮闘するも、そこそこのところ以上は意識しても簡単に消えるものでもない。そこもバレていたのかどうか、まぁいいや。

 今までやってきたことを止めるわけではない。まだ「どこかの子供」レベルだ。大分に拠点を移してからは、地元のアフリカンチームの練習に参加して、ジェンベやドゥンドゥンを叩くのが毎週の楽しみになっている。アフリカ帰りの大ちゃんに刺激ビンビン、できないとすごく悔しくて、質問攻めを食らわせるのが毎回だけど、とにかく楽しい。向こうも楽しそうだ。
 忘れるということは、覚えること以上に難しい。やっと、忘れることじゃなくて覚える段階に来たような気がしている。

Profile

増村和彦 増村和彦/Kazuhiko Masumura
大分県佐伯市出身。ドラマー、パーカッショニスト。2012年からバンド「森は生きている」のメンバーとしてドラムと作詞を担当。アルバム『森は生きている』、『グッド・ナイト』をリリース。バンド解散後は、GONNO x MASUMURA、Okada Takuro、ツチヤニボンド、ダニエル・クオン、水面トリオ、影山朋子など様々なレコーディングやライブに参加。

COLUMNS