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打楽器逍遙

打楽器逍遙

4 ノスタルジア

増村和彦 Nov 21,2017 UP

 『グッド・ナイト』を作った後、度々僕の前に現れていた消息みたいなものが、はたと やんだ。それを歌詞にしたのに。あるはずもない記憶のようなものは、ある時期に属した らもう取り戻せないものなのだろうか。それともそもそもどこにも属してもいなかったの だろうか。その間いくら本を読んでみても、一瞬の消息の去来には勝らない。だからどう だということもないし、そういう時期の過ごし方もまた大切だろうと無理矢理説得させつ つも、どこに行っちゃったのかなぁ、という意識はずっとあったし、今もある。その間に、 岡田拓郎は『ノスタルジア』を完成させた。全くクレイジーだ。

 何か見えている世界、また見えた気になっていただけかもしれない世界を表現するとい うような堕落的発想はこのアルバムにはない。それは見えていないというのではなくて、 見えかかっているその瞬間がそのまま形をなしているということだ。その点稀有な作品だ。 だから制作のプロセスもやはり紆余曲折していく。というか、プロセスを重ねることによ って、プロセスが形をなしていったような印象を受ける。

 僕はアルバムの全行程には参加していない。ただ、よく途中経過を送ってもらってよく 聴いた。はっきり言って、これからさらに編集してどうなるのか楽しみなものばかりであった。だけど、ele-king のインタヴューで語ってもいる通りそれを平気で壊す。その都度主にリズム的な僕にも多少のアイデアがあるこ とは伝えるのだが、それはそのままは絶対に入らない。僕以外にしてもそうだと思うのだが、あいつがあっちのこと言うならなるほどこっちをしてみよう、というようなフィルタ ーが噛んで、独特なバランスで制作が進んでいく。ハプニングをバランスさせていくとい うようなところだろうか。そこが、彼の最も面白いところだ。レコーディング中の各々のプレイはもちろん、第三者の意見、エンジニアのふと漏らす印象、自家発掘レコード、制 作中に発売される新譜、帰り道のひらめき、すべてがその材料なんだと思う。

 僕が、参加させてもらった曲のドラムは、このコラム第1、2回で書いたような USインディーに影響を受けていて、それを聴くきっかけはアルバム制作に関わらず岡田から届 くレコメンド付きの新譜紹介メールによるものに他ならないが、リズム解釈はアフロ癖の 自分のフィルターを通した随分勝手なものだ。多少いなたくなってしまうところも恐らく 岡田には始めからばれていたに違いない。「ここは、増村の増村で、ここは、あの感じで、 ここは、今までやってきたこと全部忘れて叩いて。」...いやはや、よくばれている。参照 音源も面白くて、平気で4/4の曲に3拍子の参考音源が届いたりする。その度もみほぐ されるような気分がする。しかし、”ブレイド”の石若氏のドラムは素晴らしい。とても じゃないけど、僕には叩けない。そういうところはソロ作品ならではじゃないか。

 そして、ついに完成したアルバムを聴いたとき、壊しては作り、また壊しては作るその 過程がすべてなくなっているのではなくて、寧ろ刻まれているような印象を受けた。歌詞 に目をやると、「こぼれ落ちていくような感覚、これはなんだろう」とそのままにせず希 求する精神、「ただの霧さ」と言ってみても、そうだと認めたくないような雰囲気を感じ る。答えが出ない見つからない時にこそ、実は何かがスパークしている瞬間だと僕は思う。 それがそのまま形をなしている。僕のここで言いたいプロセスとはこのことだ。複層的な意味をもつ「ノスタルジア」のひとつはその瞬間に見えかかっているものではないだろうか。 そして、それを上回る、ポップス性!「ただの霧さ」と音に乗ったとき、ここまで書いた ことに意味はなくなる。プロセス、プロセス言っといてなんですが、やはりそれを甘美に 仕上げたところに一番のこのアルバムの意味があるような気がしてならない。

 1曲久しぶりに岡田の曲に歌詞を書かせてもらった(ラストトラックの“遠い街角”)。 「もう忘れてた 昨日の切れ端」は、冒頭に書いた「どこに行っちゃったのかなぁ」その ものだ。僕は、この詞を書いた時、あのものを、僕のノスタルジアを、確かに取り戻して いた。それは、『ノスタルジア』の影響に他ならない。

増村和彦 増村和彦/Kazuhiko Masumura
大分県佐伯市出身。2012年からバンド「森は生きている」のメンバーとしてドラムと作詞を担当。2015年バンド解散後は、ドラマー、パーカッショニストとしてダニエル・クオン、ツチヤニボンドなどの作品やライブに参加。2016年より大分県佐伯市に拠点を移す。

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