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増村和彦   Aug 02,2017 UP
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 個人的な話ですが、最近Gracyというメーカーのドラムセットを買った。60年代のジャパニーズ・ヴィンテージで、推測するにラディックやグレッチがまだ日本において高価で貴重だった時代に作られたコピーモデルである。悪い言い方をしたらパチモンだけど、やはり楽器が50年も経っていると何とも言えない音がする。ホンマモンヴィンテージのように、叩いた瞬間「これこれ」とか「レコードで聴いたことある音だ」という感じは薄いけど、「なんかいいね」といった感じ。当時の職人の顔が浮かぶような。
 ドラムセットとアルバムを比較するのもどうかと思うが、ミニマリスタことタレス・シルヴァのセカンド・アルバム『Banzo』には、何か過ぎない魅力がある。

 「that was the ideia, to mix old and new sounds」
 インタヴューとまでは言えないが、今作のプロデュースを手掛けているレオナルド・マルケスに下手な英語で「よかったよ」とメールをしてみたらこんな返事がきた。
 今作が録音されたベロオリゾンテから少し離れたところにあるらしいマルケス所有のスタジオ(www.ilhadocorvo.com)の写真を見ると、オープンリールやヴィンテージ楽器、マイクなどが目を引く。そして、もちろんDAWも写りこんでいる。サウンドを聴きながら、写真を眺めていると、ヴィンテージの質感だけに拘っているわけでもなく、音をいじりとおしているわけでもなく、マルケスの言葉通りの質感を得ていることが伝わってくる。なんていうか、素直。インディのよさが詰まっている。ルサンチマン以上に、僕たちから素直さを取ったら困るのは僕たち自身だろう。
 #1“O Peso (feat. Gui Amabis)”は、ブラジリアン・サイケらしいファズのリフから幕を開ける。うるさくないのは、ムタンチスやオス・ブラゾンェスの反省を内包していると言ったら言い過ぎだろうか(どちらも好きです……)。歌、ギター、チェロ、ドラムという編成は名前通りか。曲構成に合わせて最小限でのビルドアップもいいが、1:55で、すっと抑えるところが気持ちいい。#2“Fogo no Rabo”は、勝手な印象だが、パルチード・アルトぽいリズムを、インディ・フォーク風に、という趣がいい。リズムギターは、ドラムと呼応するようで、ドラマーは不必要にはハットを刻まなくてよくなる。#3“Grito Rouco (feat. Teago Oliveira)”は、アルバム中最高のアンサンブル。隙間を抜き合う楽器の上を、ドライでもなく熱くもない歌がいく。
 ここまで聴いただけでも、ブラジルらしさと、マルケス・プロデュースらしいインディ・フォークの潮流のミックスがいいのだが、そこには、よく知っているものはさりげなく、新しいものを取り入れるというよりはいいものはミックスする、というようなライトな奥ゆかしさみたいなものが通底していることに気付く。音にも、歌にも、リズムにも、効果音にも、編集にも。地味と言えばそうかもしれないが、そこがよくて、かっこいいとか、おしゃれとか、すごいとかいうことを、全然浮かばせないところにこの作品の魅力がある気がする。……「気持ちいい」はいいじゃないですか、ブラジルだし。

 余談になるが、今作のドラムの音もラディックとも少し違う味わいがあったので、聞いてみたら、Pinguimというブラジリアン・ヴィンテージのセットを使ったらしく、やはりそれもラディックのコピーモデルらしい(スネアはラディックを使用とのこと)。Gracyとまったく同じで少し嬉しくなった。購入した時、舞い上がってSNSに写真を載せたところ真っ先にコメントをくれたのは、マルケスだった。
 CDの作りが凝っているのもいいのだが、願わくはいつかアナログで聴きたい。そして、『クルビ・ダ・エスキーナ』を聴きたくなった。

増村和彦