「Nothing」と一致するもの

heykazma - ele-king

 ミレニアル世代、Z世代が音楽文化を一変させていったのがここ十数年のこと。次はいよいよ、10年代生まれのアルファ世代が華々しいデビューを飾る時代を迎えたようだ。

 ele-kingでもレギュラー・コラム(https://www.ele-king.net/columns/regulars/heykazma/)を連載中の2010年生まれ、アルファ世代の新星DJ・ヘイカズマがデビューEP『15』を〈U/M/A/A〉からリリース。以下、作品詳細と、北村蕗、食品まつり、山辺圭司(LOS APSON?)などによる関係者コメント。期待の新星の今後に注目だ。

Artist: heykazma
Title: 15
Label: U/M/A/A
Format: Digital
Release Date: 2026.2.2
Buy / Stream : https://lnk.to/heykazma_15

Tracklist:
1. 15
2. Pre Pariiiiiiiiiiiiiiin
3. Pariiiiiiiiiiiiiiin
4. Cat Power
5. Acid Noise

Credit:
Maiya Toyama(illiomote) - Bass(Track 1)
Case Wang - Mix&Mastering
ALi(anttkc)- MV Director
Yuki Kawamura - Produce

写真:飯田エリカ
デザイン:Manami Masuda
hair&make:hitomi andoh
Costume cooperation:miku moritake, Chiiika., chichiiiiichichi, ALIGHT
from 「Eternal Girl Meets Mermaid」


「heykazmaと書いて未来と読む」

3歳で音楽やカルチャーに開眼、幼少期より自発的に親同伴のもと震災や風営法摘発以降に増加した未成年入場可のデイイベントやパーティに通い詰め、15歳で音楽系の高校入学と共に仙台から上京。その後は学業の傍ら、都内を中心に東北各地や北海道までジャンルの枠を飛び越えて、カルチャー愛に溢れる現場でのDJを展開!エレクトロニックミュージックの中でもテクノを中心に、ノイズからフットワークまでをミックスアップする自由な感性と、類まれなファッションセンスが、既に各地のリスナーや関係者の間で話題を呼んでいる。

2026年2月に16歳の誕生日を迎えるZ世代の次「アルファ世代の新星DJ」が、満を持して5曲入りデビューEPを配信リリース。エクスペリメンタルからジュークまで豊富な音楽経験値を活かした一筋縄ではいかないオリジナルのダンスミュージック!自身によるポエムコアやラップをフィーチャーした新しい世代の幕開けを宣言するかのような「15」に始まり、DTMを覚えたての中学生の頃に作った楽曲を再構築した「Cat Power」では幼少期より共に育った愛猫への想いをビートに乗せて。アーティストのシシヤマザキのお絵かき教室に参加していた経緯から、アトリエを訪ねる際に立ち寄った益子焼の工房での皿が割れる音の鮮やかさに着眼し、15年間の思い出が弾ける瞬間の音に準えた「Pariiiiiiiiiiiiiiin」、目を瞑って聴けばドープすぎて作者の年齢とか関係なくなるほどに衝撃的なノイズトラック「Acid Noise」など、未来への希望とディストピアの存在が混在する2025年らしい作品に仕上がっている。

タイトルの「15 EP」とは、heykazma自身が育ってきた15年を総括した音楽たちを此処に刻むという意味を込めて付けられた。すべてのトラックは自身で作成し、ミックスはレーベルメイトであるWang OneのCase Wang氏が担当。荒削りながらも確固たる生命力を感じる作品たちは、先ず先入観を取っ払って一聴をおすすめする。

コメント:

EPリリースおめでとう!!
DJ、パーティーオーガナイザー、コラムニストなど、様々な視点からカルチャーを俯瞰している。その中で自由な泳ぎ方を見せている。決して誰かを強制したり、価値観を押しつけているわけではなく、私はあくまでこうあり続けるという一つの個として音楽を表現しているように感じる。その異色でありながら、色彩を選び抜く力というものは、オーガナイザーとしても培った、出会うことを知らない引力を、引き合わせる力を持ち合わせているからこそ生まれてくるものだと思う。 これからまだ見ぬ化学反応を起こしてくれることでしょう。
それを目撃し続けたいです。(北村蕗)
ビートのバリエーションの豊富さ、サウンドもトライバル感ありつつ、フィールドレコーディング的なサウンドも織り交ぜて音響的にもめちゃくちゃヤバいepです (食品まつり a.k.a FOODMAN)
ここにエレクトロニック・ミュージック界の新星、耳を澄ませ! (野田努 / ele-king 編集長)
最初の輝きはいつまでも色あせない――期待の原石がついに転がりはじめた (小林拓音 / ele-king 編集部)
衝撃の15歳!!! 1st EPリリースおめでとうございます!!!
この年齢で、ここまで自分の世界観と音を持っているなんて、可能性しか感じません!!!
これからどんな景色を見せてくれるのか、どんな進化をしていくのか、今から楽しみすぎます!!!
心からのリスペクトと応援を込めて。🔥🎶
(もりたみどり / WAIFU)
ついにこの時が来た!!!hey様の、踊りながら飛び出してくるような立体的な躍動エネルギーを、世界が、浴びたがっている!!!!
(ShiShi Yamazaki)
高円寺のあれこれレコードショップLOS APSON?周辺にて勃興するイベント、DDMメンバーとしても登場してもらっている高一エクスペリメンタル妖怪系クリエイター!?heykazmaが、新しいEPをリリースするというので聴いてみたっ!!! 現代のテンポ感で刻まれる鳴りの良いフレッシュダンサブルサウンドと、ライトなコラージュ感覚で、ポジティブなバイブスを無限に放っています!
(山辺圭司 / LOS APSON?)
heyちゃんの楽曲でベースを弾きました!
オファーをもらった時にえ、ベース!?
となったんですがheykazmaの頼み断るわけがない!みんなを新しい世界に引き込んでしまうようなheyちゃんにいつもパワーをもらっているし、こうした形で大きなスタートに関われて嬉しいです。ありがとう。
未来でしかない!EPリリース本当におめでとう。
(Maiya Toyama / illiomote)
素晴らしいスタートライン!ポップなフットワークビートも、エクスペリメンタルなノイズも、heykazmaの血肉となって通過した痕跡を残し、めちゃくちゃエネルギッシュ!heykazmaが本格的にプロデューサーとして活動を始めたことは、これからのテクノの希望でしかない˚. ✦
(壱タカシ )

interview with Autechre - ele-king

 真っ暗闇が最高の照明であるという逆説は、何回体験しても心地よいものだ。贅沢な闇に包まれながら、オウテカのマシン・ミュージックにおけるその驚異的な乱雑さ、マキシマリズム的特性には、懐古的な匂いはなく、たしかに現代的かもしれない、と思った。これは孤立したサウンドではないのだ。ソフィーやイグルーゴースト、フットワークやジャージー・クラブといった今世紀のエレクトロニック・ミュージックとどこかで共鳴しているモノを感じたし、その解放感がぼくの考え方を拡張しくれたこともわかっている。長いあいだオウテカのような音楽は、禁欲的で、男性的で、パートナーがいないときに男がひとりで没入する、肉体不在の前衛音楽だと考えられてきたとしたら……しかしながらいまぼくが挙げた例には、多かれ少なかれエロティシズムがある。時代は変わっているのだ。会場には多くの男性以外の姿があった。
 今回の取材、場所はZepp DiverCityの楽屋、ときは2月4日の夕方、ライヴの本番前に時間をもらった。楽屋に入ってお互い挨拶しながら、そして質問に入るわけだが、何度も取材しているので、はっきりと言えることがある。オウテカはつねにリスナーと真摯に向き合っている、ということだ。ショーンとロブから、有名人にありがちな傲慢さを感じたことはいちどもない。
 また、以下の話を読んでいただければわかることだが、彼らの大衆文化を尊重する態度も一貫している。面白いのは、これだけ実験的な音楽をやっていながら、なぜか彼らは、人間的な温かさを高潔な思想ないしは実験性という虚勢や、自分たちは●●とかよりも優れているという盲目的な確信で隠そうとなどは決してしない。抽象的なサウンドかもしれないが、オウテカのどこかにエロティックなファンタジーを感じるとしたら、その音楽の出自には、ボディ・ソニックなダンス・カルチャーがあるからだろう(なにせその出発点はマントロニクスなのだからね!)。
 さて、能書きはここまでにしよう。我らがオウテカ──30年以上もエレクトロニック・ミュージックと向き合ってきた人たちの奥行きのある言葉をお楽しみください。

昨夜は眠れましたか?

ロブ(以下、R):いや、ぼくたち2人とも眠れなかったんだ。

昨日はオフだったんですよね?

R:一応はね。でも身体は休息が取れていない状態だったね。

ショーン(以下、S):その前の日は飛行機で3時間くらい寝て、夜6時間くらい寝られたんだけど、昨夜は全然眠れなくてね。少しはウトウトしたのかもしれないけど、頭が全然休まらなくて。

R:食事も取れないし、体内時計がめちゃくちゃになっちゃって。昨夜は11時頃に遅い食事を取ったんだけど、食欲もあまりないし、食後にベッドに入って休んでみたものの、2時間半くらいで起きちゃって、それからは全然眠れなかった。いまが今日なのか何なのか、ずっとフラストレーションが溜まっている感じだよ。

S:でもまあ、今夜プレイできるくらいには生きているから大丈夫(笑)。

それは良かった。とにかく、久しぶりに会えて嬉しいです。最後に直接会って話したのは、2018年だったかな……。

R:ぼくも会えて嬉しいよ。

ただ、歳を取るとどんどん時間の感覚もわからなくなってきて、5年前っていつだっけとか(笑)。

R:ぼくもつい最近来たような気がしていたよ。時々、続けざまに来ることもあれば、かなり長い期間が空いてから来ることもあるからね。前回の取材は何年だっけ? 

2020年、『Sign』をリリースしたあとぐらいにもやっているんですけど、そのときは坂本麻里子さん通しての取材で(『ele-king vol.26』に掲載)、直接会って話すのは2018年以来ですかね。

R:そうかそうか。

カラオケでは、ぼくは前回モーターヘッド。(ロブ)
ぼくはストーン・ローゼズの“Fools Gold”を歌ったね。(ショーン)

日本に来たときの楽しみってあるんですか?

S:今回は1日オフがあるんだけど。いや、2日か。正確には昨日はオフだったけど、体調を整える日という感じだったからね。このあともう1日オフがあるけど、とくに何も予定はないよ。たぶんショッピングにでも行くかな。つまらない答えだけど、いつもだいたいショッピングして終わる感じだからね。イギリスでは手に入らないものがたくさんあるし、しかも安い。ぼくはパートナーからカメラのレンズを入手するように言われてるから、それを探しに行こうと思って。他にはとくに予定はないかな。

R:ぼくに関して言えば、日本に来たことのある友人や、しばらく滞在したことのある親戚から「これをやるといいよ」っていうおすすめをたくさん聞いて来たよ。どれも面白そうなことばかりで。でも、今回のようなライヴの前後は、何週間も準備期間があって、そのあと移動があって、さらに公演の前後に少しオフがある、みたいな流れになるよね。そういう状況だと、「せっかくだから特別なことをしなくちゃ」と無理に駆け足で何かをやろうとする感じになる。でもそれって、あまり意味がないと思う。むしろ、いつかまた改めて日本に来て、1週間くらいがっつり滞在して、きちんと時間をかけて楽しむ方がいいんじゃないかな。

S:さっきも話してたんだけど、次に来るときは、東京の中心じゃなくて郊外か、いっそ東京の外にホテルを取って、1週間くらい滞在する方がいいんじゃないかと思って。そうすれば、まず時差ボケの問題を解消出来るし、それに普段はあまり見ることのない日本の違った一面も見られるかもしれないしね。もちろん東京にいるとはいえ、渋谷とか、今回のこのエリアにいるだけだと、東京という街の中でも本当にごく一部をかすめているに過ぎないし、ましてや日本全体を象徴するようなエリアでもないと思うから。以前にもう少し遠出をして日本を廻ったこともあるんだけど、少なくともぼくにとっては、東京の外に出た途端にすごく面白くなるんだよね。

R:うん、北海道にも行ってみたいし、南のビーチも見てみたいね。いままでとは全然違うタイプの日本を体験してみたい。でも、そうするにはやっぱり時間がかかるし、本来は面白くて、しかもゆったり出来る旅になるはずなのに、これまで一度もそこまでの時間が取れたことがないんだ。結局いつも、サッと来てサッと何かを済ませるだけ、みたいな感じになってしまって。それだと上手くいかないんだよね。だから、また別の機会を狙うよ。

カラオケとか行ったりしないんですか?

S:今回は行ってないけど、前回来たときに何回か行ったよ。小さなバーが何軒もずらっと並んでいるエリアがあるでしょ。東京のどこだったかな。思い出せないんだけど……とにか、小さなバーがものすごくたくさん並んでる通り。

通訳:新宿のゴールデン街ですかね?

S:いや、渋谷だ。渋谷駅の近くだったよ。小さな通りで、すごくちっちゃなバーが並んでいて。

R:3人か4人入れば満員になってしまうような小さなバーで、カラオケが置いてあって。そこに何度か行ったね。まあ、カラオケを歌うにはめちゃめちゃ酔っ払っている必要があるんだけど(笑)。

何を歌うんですか?

R:ぼくは前回モーターヘッドの“Ace of Spades”を歌ったよ(笑)。

(笑)

R:悪くないでしょ(笑)。

S:ぼくはストーン・ローゼズの“Fools Gold”を歌ったね。

数年前にソニックマニアに出演したんだけど、あれは実質ポップ寄りのフェスだよね? 正直、ちょっと驚きだったよ。出番前は少し緊張してたんだ。自分たちの客層とは違う、いわゆるポップ寄りの観客が多いだろうと思っていたから。

ハハハハ。ところで、いまここに来るとき、すでにお客さんが階段に並んでましたね。チケットもすぐにソールドアウトになったし、相変わらず人気あるなと思いました。これまでにとくに思い出に残っているライヴというと何になりますか。

S:日本でのライヴは、いつでもとても良い体験になっていると思う。曖昧な意味で言っているわけではなくて、本当にそう感じているよ。ぼくはつねに観客の反応を気にかけているけど、日本のオーディエンスは基本的にすごく静かで礼儀正しくて、ぼくたちの音楽に対するリスペクトがある。でも、最後には大きな歓声をくれるし、ちゃんと届いているように感じられるんだ。
数年前にソニックマニアに出演したんだけど、あれは実質ポップ寄りのフェスだよね? 正直、ちょっと驚きだったよ。出番前は少し緊張してたんだ。自分たちの客層とは違う、いわゆるポップ寄りの観客が多いだろうと思っていたから。ぼくたちの後には違うタイプのGrimesも出ていたし、正直このイベントに自分たちが合っているのかな? という感覚もあった。でも、その観客に向けてやってみたいと思って出演したら、結果的にすごく上手い具合にいったんだ。だから、日本の観客に対してがっかりしたことは一度もないよ。もちろん、リキッド・ルームみたいな会場だとやりやすいよね。ある程度、自分たちのことを知っている人たちが足を運んでいることがわかっているから。

R:リキッド・ルームでも何度かやったし、初期の頃はもっと大きなヴェニューでやったりもしたから、いろいろだね。

S:とにかく、カルチャー的にはリキッド・ルームのようなヴェニューはすごく安心するというか。タイコクラブとかエレクトラグライドみたいなフェスだと、観客は基本的にテクノ寄りの人たちが多いんだけど、日本ではそれなりに作品も聴かれていたから、大体どんなことをやるのかわかって来てくれていることが多いんだ。少なくとも何が起こるのかわからない、という感じにはならない。でも、あのソニックマニアは驚きだったし、すごく嬉しい経験でもあったね。いわゆるポップ系の観客と自分たちがちゃんと繋がれた、というのは不思議な感覚だったよ。
どこでもあっても、そういうことが起こると毎回ちょっと信じられない感じはするんだけど。最近だと、ヘルシンキでも同じようなことがあって。フロー・フェスティバルに出演したんだけど、そこもかなりポップ寄りの観客が多かったんだ。出演者の多くはポップ系で、少なくともぼくたちよりずっと知名度のある人たちばかりだったしね。

R:それに、かなり商業的だったよね。

S:そうそう。そういう場でも、ぼくたちはいつも通りのセットをそのままやる。わざわざポップな音楽に寄せて、観客に合わせる必要はないと思っているんだよ。変な風に聞こえないといいんだけど、ここ最近は音楽シーン全体が、少しずつぼくたちに近づいてきている部分もあるんじゃないかと思うんだ。たとえばSOPHIEとかCharli XCXみたいなアーティストが出てきたりしてね。もちろん、ぼくたちの音楽が彼女たちに似ているわけではまったくないんだけど、どこかに影響を感じさせる細い糸のようなものがあって、それを通してぼくたちの音楽と繋がる人がいるのかもしれない。そういう変化みたいなものは、ぼくたちにとってもとても良いことだと思うんだよね。

R:日本は、ぼくたちにとって常にiTunesでの最大市場のひとつなんだ。実際、記憶にある限りずっと、日本はニューヨークやロンドンと並ぶ最強の都市のひとつで、東京はほぼいつもトップクラスに入っている。うん、日本ではよりアンダーグラウンドというか、マニアックなアーティストのほうが、むしろしっかり紹介されているように感じるよね。

S:日本は、海外のものを受け入れる際にとても選別的だ、という感覚がずっとあるよ。というのも、シーン全体がそのまま入ってくるわけではなくて、すべてが紹介されるわけじゃない。でも、たとえばジェフ・ミルズのような存在はちゃんと入ってきているよね。つまり、あらゆるテクノやエレクトロニック・ミュージックが紹介されているわけではないけれど、選ばれているもののセンスがとてもいい。ちゃんと良いものを見極めている感じがするんだ。そういう意味で、ぼくらの感覚や美意識は、日本のオーディエンスの感性とかなり合っていると思う。自惚れに聞こえたら申し訳ないけど(笑)、少なくともある程度は本当だと思っているよ。

R:ひとつ補足しておくと、ぼくがiTunesと言っているのは、実際には彼らが教えてくれる Shazamのヒット数のことなんだ。Shazamは流れている音楽を認識するアプリなんだけど、東京では、そのShazamの数値がいつも非常に高い。ロンドンやニューヨークが1位を争うこともあるけど、東京はほぼ常にトップにいるんだ(笑)。iTunesではアーティストごとの統計データが見られるし、Shazamは東京の状況をすごくわかりやすく示してくれる指標だよ。それで、Shazamのデータを見ると、少なくとも2つ、もしかしたら3つのことがわかる。ひとつは、人びとがサンプリングされたものを耳にして、「これは何だろう?」と調べた結果。もうひとつは、そもそもぼくたちの楽曲がどこかで流れている、という事実だね。お店やラジオ、あるいは街中のどこかで流れていなければ、Shazamされることはない。だから、どういう経路で広がっているのかを正確に把握するのは難しいけれど、確実に起きている、ということだけははっきり見えるんだ。

クラブでもDJがかける曲をShazamでチェックしてる人が多いかもしれない(笑)。

R:街中にもビルボードがたくさんあるから、3〜4曲同時にチェックしてる人もいるかもしれないね(笑)。

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松永コーヘイはすばらしいアーティストだね!

今回の来日でひとつ嬉しかったのは、Kohei Mastunagaをブッキングしてくれたことだったんですね。彼は非常に良いアーティストなんですけど、日本では不当な評価を受けているアーティストのひとりなんです。本当にこのライヴにブッキングしてくれてありがとうと言いたいです。

S:それが今回彼をブッキングした理由なんだけど、もうかれこれ20〜25年くらいになるかな、とにかく長い付き合いなんだ。2000年代初頭のことをいまでもよく覚えているけど、当時から彼の作品が本当に大好きだった。彼はとにかく驚異的なアーティストだと思う。ものすごく多作だし、しかもクオリティがつねに異常なほど高い。とても短いトラックをたくさん作るんだけど、そのひとつひとつに込められているアイデアやグルーヴが、本当に息をのむほど素晴らしいんだ。ぼくにとっては、間違いなく最高峰のアーティストのひとりだし、これまでにも何度か、さまざまな形で一緒にコラボレーションしてきたんだよ。人としてもすごく気が合うし、純粋に彼の音楽が大好きだから、今回のブッキングは僕らにとってはごく自然で、迷いのない選択だった。それに、日本でもっと多くの人に彼の音楽が届くきっかけになれば、それは素晴らしいことだと思っている。日本での彼のオーディエンスがどんな規模なのかは正直わからないけれど、ただ、彼にその機会を提供したかったんだ。もちろん、彼はぼくらの助けなんて本当は必要ないくらいの存在だけどね。それでも、ぼくたちにできることがあるなら、それをやるだけさ。

R:彼は、ぼくらのより広い音楽的嗜好をそのまま体現してくれる存在でもあって、その点でも本当に素晴らしい例だと思う。だから、今回こうして同じ場所で一緒にプレイできるというのは、ぼくらにとってはある種の贅沢なんだ。これまでにも、ベルリンやイギリスで彼のプレイを観てきたけれど、実は最初に一緒に演奏したのは大阪だった。そのときぼくらを引き合わせてくれたのが、Russell Haswellだったんだ。その後、たしか彼はかなり早い段階でドイツに拠点を移して、そこからずっとヨーロッパで活動してきたんだよね。だから今回、ぼくらがこうして来日するタイミングで、また彼と日本で再会できたのは、本当に嬉しいことだよ。

同世代の友人たちは「このハイパーポップってやつ、変だよね」って言う。でも、ぼくたちは「いや、すごく良いからちゃんと聴いてみて」って感じなんだ。

ちょっと話が変わりますが、チャーリーXCXがブリット・アワードを受賞したとき、スピーチで自分の影響源を、ソフィー(SOPHIE) 、エイフェックス・ツイン、オウテカと言っているんですよ。そのことは当然ご存知ですよね?

S:正直に言うと、知らなかったんだ。でも、発言があった直後にすぐ周りから「見た?」ってメールがたくさん来たよ。ぼくらがああいう文脈で名前を挙げられることって、かなり珍しいんだよね。
 ただ、プロデューサーのA.G. Cookについては、彼がぼくらのファンだということはかなり前から知っていた。〈PC Music〉を運営している人物とぼくが知り合いだったという縁もあってね。たしか、彼らの存在を最初に耳にしたのは2014年頃だったと思う。それ以来、AGやソフィーがぼくらの大ファンだということは聞いていたんだ。
 とくにソフィーの作品については、音を聴けばなるほどと思えるような影響が感じられて、ぼくにとってはわりとわかりやすかった。一方で、A.G. Cookの方はもう少し人工的というか、すごくクリーンなポップ・ミュージックの方向性で、影響の出方は少し違うように感じていたよ。ただ、彼の作品のテクスチャーには、個人的にかなり惹かれるものがあるんだ。
 いずれにしても、今回こうして言及してもらえたのは素直に嬉しいし、こちらからもその賛辞を返したい気持ちがあるよ。彼らは本当に優れたポップ・ミュージックを作っていると思うし、正直に言って、ぼくらが彼らに影響を与えていることが一目瞭然だとは思っていない。それでも、彼らのやっていることは本当に良いと思う。何かしら共鳴するものがあるんだよね。ただ、それが具体的に何なのかを言葉で説明するのは少し難しいな。結局のところ、ある種の感覚や好みの問題だと思うから。

R:あの場で彼女がああいう発言をしたのは、本当に大きな驚きだったよ。若い娘がいる友人たちがちょうどブリット・アワードを生で観ていて、いっせいに20件くらいメッセージが届いたんだ。「あれって、パパの友だちなんだよ」って子どもに言ったら、「じゃあ結構いい感じの人たちなんだね」みたいな反応があったみたいで(笑)。それに、家族ぐるみで付き合いのある友人の子どもたちとか、個人的に知り合いの若い世代の人たちからの反応もあった。
 ショーンがA.G. Cookについて解説してくれたけど、背景やソフィーの影響力や活動の規模まで含めて、あそこまで広い文脈で説明する必要は彼女にはなかったかもしれない。それでも、あの場でオウテカの名前を口にしたというのは、彼女にとっても大きな一歩だったのかもしれないね。

S:そもそも、ヴォーカリストがああいった場所で、あのような発言をすること自体がかなり異例なんだよね。とても驚いたよ。

R:本当にそうだよね。

彼女に代表されるハイパーポップと呼ばれる新ジャンルがありますよね。あのスタイルに、オウテカの影響があると感じますか?

S:かなり繊細でかすかな影響は見て取れると思う。それは音の選び方、サウンドの感覚みたいなところに関わっているんじゃないかな。もちろん、音楽の形式としては完全に“ポップ”だと思うし、K-POPや日本のポップ・ミュージックからの影響もとても大きいと思う。コードの感覚や、使われているメロディやハーモニーにも、独特の感触があるよね。一方で、プロダクション自体は少しだけラディカルなんだ。本当にちょうどいいところを突いている感じ。やり過ぎるとポップじゃなくなってしまうからね。
 とくにSOPHIEが素晴らしかったのは、僕たちだけではなく、同世代のいろいろなアーティストから受け取ったサウンドの嗜好性や音のパレットを……かなり大雑把に言えばだけど、理解した上で、それがポップの文脈でも使える、と示した点にあると思う。それは、正直に言ってぼくたちだったら様々な理由から絶対にやらないことだから。でも、彼女たちはそれを本当に見事にやってのけたんだ。気が付いたら、ぼくは完全なファンになっていたよ。
 それってすごく不思議なことでもあるけどね。同世代の友人たちのなかには「このハイパーポップってやつ、変だよね」って言う人もいる。でも、僕たちは「いや、すごく良いからちゃんと聴いてみて」って感じなんだ。単純に、ものすごく美しく作られているからね。
 ぼくは基本的に、ポップとアンダーグラウンド・ミュージックを区別して聴いたりはしない。ただ、良く出来ている音楽が好きなだけで。そういう意味では、彼らは本当に素晴らしいものを作っていたと思う。しかも、それは明確にメインストリーム向けに作られていて、その文脈のなかでしっかり成功も収めている。だから、彼らが成し遂げたことは本当に見事だったと思うんだ。アンダーグラウンドのアーティストが、自分たちの音楽がメインストリームに吸収された、と感じることはよくあるけれど、このケースはそれとは少し違っていたと思う。彼らは、ある意味で“外部の人間”としてポップ・ミュージックを捉えていた。もぼくがポップを創るとしたら、きっと同じ立ち位置を取ると思うけど、ぼく自身は一度もそういうことをやろうとしたことはない。彼らは、それを見事にやり遂げたし、だからこそ、ぼくはおそらく今後もポップを作ることはないだろうね。彼らがそこまでやってしまったから。そういったアイデアをあそこまで押し進めたことに、心から敬意を払っているよ。

R:ぼくたちが子どもの頃からスタジオでトラックを作ってきたなかで、時々すごくポップというか、とてもキャッチーな音が自然に生まれる瞬間があるんだ。短いフレーズやセクションがふっと立ち上がって、そこからいっきに展開していく。理論的には、そういう瞬間を切り取って、それを核にポップ・トラックを組み立てることも十分可能だろうね。実際、そうしたアイデアの断片を組み合わせれば、ポップは作れる。でも、ぼくたちはそれをしない。というのも、ぼくらは変化していくことや、別の場所へと向かう旅の方を選びたいからなんだ。ひとつの要素を何度も反復して強調することには、あまり興味がない。だからこそ、彼らの音楽のなかに、ぼくたちとの繋がりを感じる瞬間があるのも理解できるんだ。そういうリンクみたいなものは、何度も、いろいろな面で垣間見えると思うよ。

S:ある意味で、自由の種類が違うんだろうね。ぼくたちにとっての自由は、ただ自分たちが自分たちであり続ける、という自由なんだ。彼らも、基本的には同じことをしていると思う。ただ、ぼくたちよりずっと若いし、さっき言ったように、K-POPをはじめとする東洋の音楽からの影響も多大に受けているよね。そうした要素をどんどん貼り合わせるように音楽を作っていったんじゃないかな。でも、それはぼくたちが辿ることのない道だし、追いかけようとも思わない旅なんだ。ぼくたちには、ぼくたち自身のアイデアがあるからね。もちろん、制作の途中でこの瞬間を切り取ったら、別の文脈ではすごく良かったかもしれない、と思うことはあるよ。でも、ぼくたちはそこに落ち着こうとはしない。ぼくたちはポップ・ミュージックが好きで育ってきたし、デペッシュ・モードやヒップホップ、ラップも聴いてきた。だから、そういう音楽を作る能力がないわけではないと思う。ただ、それを自分たちの仕事にしたいかと言われると、やっぱり違うんだよね。それはぼくたちの興味の向かう先ではないし、彼らのように上手くやれるとも思ってないから。

R:思っているほど簡単なことじゃないと思うよ。

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『Untilted』は、たくさんのハードウェアを使ってはいるものの意図的にシーケンスされた作品なんだ。96〜97年頃からはじまった、構成をどんどん緻密にしていく長い章の、いわば最後の部分だった。『Quaristice』は、そこから再び自由さへと戻っていく動きを反映した作品だった。それはいまのぼくたちにも繋がっているよ。

昨年、『Untilted』と『Quaristice』というアルバムがリイシューされました。どちらも2000年代の力作なんですけれど、あらためて現在の視点から、これら二作にどういった感想をお持ちでしょうか。

S:かなり違う感じの2枚だよね。『Untilted』を作った頃は、個人的にかなりつらい時期だったんだ。父が亡くなった直後でね。その頃は、ものすごく細部まで作り込むタイプの制作をしていて、ドラムマシンを大量に使っている時期だった。ちょうどElektronのドラムマシンを使いはじめた頃で、そうしたハードウェアをどう使うか、いろいろな方法を探っていた。ぼくは、感情的にかなり厳しい時期にいるときほど、すごくテクニカルな作業に没頭する傾向があって、それが自分にとっては救いになるんだよね。注意を別のところに向けるという、ある種の対処法みたいなものなんじゃないかな。だから、『Untilted』にはそうした要素が詰め込まれていると思う。
 一方で、『Quaristice』は、全然違うレコードになった。あれだけ長い時間を掛けて、ああいった制作をしたことへの反動のような作品だと思うんだ。それに加えて、ぼく自身の生活にもいろいろな変化があった。引っ越しをして、新しい場所でしばらくぶりに一人で暮らすようになって。ちゃんとしたスタジオも持っていなかったから、ライヴ用の機材をそのままテーブルの上に並べて、ライヴでやっているのと同じやり方でトラックを作っていったんだ。実は、そこがいまのぼくたちに繋がる起点になったと思う。その時点で、ぼくたちがライヴでやっていたことが、少なくともレコードとしてリリースしてきた作品と同じくらいには完成度が高い、という点に気付いたんだ。それで、『Quaristice』ではその境界線を意図的に曖昧にしたいと思ったんだよね。2008年にアルバムに合わせて制作したライヴセットをツアーに持ち出したとき、観客から「アルバムよりライヴの方がいいね」と言われてしまって。それが、ぼくたちが自分たちのやり方を少し違った角度から考えはじめるきっかけになった。ある意味で、『Quaristice』は、1990年代前半から1996年くらいまでぼくたちがやっていたことへの回帰でもある。当時は、すべてがライヴで、一発録りだったからね。マシンのなかにパターンを入れて、それをライヴで走らせて、パターンの切り替えもミックスも音の微調整も、すべてリアルタイムでやっていたんだ。これはDAWのようなデジタル・オーディオ・ワークステーションが登場する前の話だね。だから、その場で一発で録音するしかなかった。『Quaristice』は、かなりそのやり方に寄せた作品なんだ。もちろん編集はしているけれど、ライヴ的な作業が非常に多い作品だったよ。


『Untilted』


『Quaristice』

S: それに対して『Untilted』は、たくさんのハードウェアを使ってはいるものの、非常に意図的にシーケンスされた作品なんだ。だから、『Untilted』は、’96〜’97年頃からはじまった、構成をどんどん緻密にしていく長い章の、いわば最後の部分だったと言えるんじゃないかな。『Quaristice』は、そこから再び自由さへと戻っていく動きを反映した作品だった。それは、いまのぼくたちにも繋がっているよ。
 いまでも僕たちは、何がライヴで何がリアルタイムで、何が自発的な即興なのか、その境界が曖昧な領域を探り続けている。現代のテクノロジーによって生まれる、そうした不思議な“どこでもない空間”にとても興味があるよ。作曲と即興が同時に成立するような状態にね。
 最近ようやく理解しはじめたのは、作曲というものには明確な始点があるわけじゃない、ということなんだ。多くの場合、最初は即興的なアイデアからはじまるよね。たとえ紙に音符を書くとしても、そこには必ず即興性が含まれている。それを認識することが、ぼくたちにとっては本当に大きいことだったんだ。以前から薄々はわかっていたけれど、初期の頃は技術的な選択肢がなかったから、敢えて問い直すこともしなかった。でも、いまはDAWが普及して、極端に意図的な制作方法が当たり前になっている。だからこそぼくは、ラフさや即興性、未加工の生々しさにより強く惹かれるようになったんだ。物事があるがままに起こる感じ、そのことにとても興味があるよ。コンピュータというのは、どうしても人を意図的な思考へと導いてしまう。
 ぼくたちが自分たちでソフトウェアを作っている理由もそれだ。DAWをまったく使わないわけではないけれど、ぼくが本当に興味があるのは瞬間を捉えることだから。瞬間というのは、とても貴重なものだ。それが年齢のせいかどうかはわからないけどね。昔の作品を聴き返すと、ああした一回限りの、風変わりな選択の瞬間が聴こえてくる。ほとんど再現不可能な出来事がたまたま起きて、それを記録出来た感じだよ。そのことは、本当に価値のあることだと思っている。『Quaristice』は、そうした瞬間を、技術的な制約にとらわれず、意図的に選んでやった作品なんだ。その後のアルバムほど成功したとは言えないかもしれないけれど、間違いなく正しい方向へ進む第一歩だったと思うね。

R:うんうん。実質的には“ランタイム無制限”みたいなものだよね。面白いのは、タイトルがほとんど同じに見えることなんだ。トラック同士も、ちょっと似たような感じがあるし。だから、誰かがどのヴァージョンの話をしているのか、聞き間違えたり読み間違えたりして、混乱することもあると思う。でも、それで良いというか、むしろそういう状態を楽しんでいるんだよね。たとえば、一箇所を聴いていて、「あれ? こっちは9分あるけど、自分のは4分しかないぞ」って気付いたりする。すると、ところどころは正確にわかるんだけど、「ああ、こう来るのか、なるほど」みたいな。そういう聴き方やその感覚自体を、ぼくたちは面白がっているんだよ。

S:その頃、ぼくはアート・オブ・ノイズのことを考えていたんだ。’80年代にすごく好きだったし、彼らがやっていたこと……とくにトレヴァー・ホーンがグループに関わっていた時期の作品には、かなり影響を受けていると思うんだよね。後期の作品にも言えることだけど、とくにその時期のアート・オブ・ノイズのトラックには、ものすごくたくさんのオーバーラップするヴァージョンがあったんだ。たとえば“Moments in Love“”なんて、合計したら90分くらいの別ヴァージョンがあるんじゃないかな。あまりに数が多いから、いま自分が聴いているのがどのヴァージョンなのか、正確に判断するのが難しいくらい。違いはほんの些細な部分だけ、という場合も多くて。
 でも、ぼくはそういう状況がとても好きなんだ。聴き手が少し混乱する感じ。いまどの地点にいるのか、どの展開に入ったのかがはっきりわからないような感覚。聴き手が次はこう進むはずだ、と思っていた方向とは、ほんの少し違う展開をする。そういうことが起こるのが、ぼくは面白いんじゃないかと思っているんだ。物事が反復的で、しかも決定版が存在しない、という考え方が好きだから。ひとつの正解のヴァージョンがあるわけじゃなくて、ただたくさんの異なるヴァリエーションがある。それは、たとえば同じ出来事を目撃した複数の人が、それぞれ違う証言をすることに少し似ているね。みんなが、自分なりのヴァージョンを持っている、という感じかな。

AIに欠けている要素というのは、思いついたことを試して、すぐに録音することで生まれる生々しさだよ。

AIの問題をどうお考えですか? BandcampがAI作品を排除することを公表しましたが、あなた方は現時点でAIというものをどう考えているのか教えてください。

S:えっと、あとどれくらい時間残ってる(笑)? 

(笑)

S:かなり壮大な話題だからね(笑)。えー、まず、当然だけど、盗用は良くない。テック系の連中が、他人の作品を片っ端から盗用しているようなケースは明らかに問題だし、それについてはわざわざ言うまでもないね。Bandcampがああいう判断を下した理由も、そこにあると思う。ただ、それだけではなくて、もっと深い議題がいくつもあると思うんだ。ぼくにとって、AIに関する最大の問題は、既存の作品を学習データにしているという点だ。つまり、AIは探索的ではなく、参照的なんだよね。それ以上のことはしていない。その意味で、正直あまり面白いものじゃないと思う。
 とはいえ、誤解して欲しくないのは、機械学習(マシーン・ラーニング)やそれに近い技術の使い方には、いまテック野郎たちがやっていることとはまったく異なる、正当で創造的な道筋もあるということだよ。そうした使い方のなかには、将来的に実りのあるものも存在すると思う。実際、ぼくたち自身もこの15年くらい、文脈は違うけれど断続的に機械学習を使ってきた。いま主流になっているTransformerモデルが登場する前から、コンピュータ・ミュージックの世界には、機械学習を使う幾つかの方法が存在していたんだ。でも、いまみたいにどこかにログインして「こんな感じのトラックが欲しい」と入力したら、他人の音楽の寄せ集めみたいなトラックが返ってくる——そういうものには、僕はまったく興味がないね。
 それからもうひとつ重要なのは、AIが多くのアーティストの生計を脅かしているという点だ。これは決して軽い気持ちで言っているわけじゃなくて、非常に大きな問題だと思っているよ。ただ、ぼくたち自身に関して言えば、恐らくそこまで深刻な問題にはならないと思っているんだ。僕たちの仕事は、基本的に探求的で、これまでに聴いたことのないものを試してみて、それを自分たちが好きかどうか判断する、というところにある。その好みや判断の要素が、Transformerモデルには完全に欠けているんだ。だから、ぼくたちは今後も、これまでと同じようにやっていけると思う。但し、影響が出るとすれば、誰かがぼくたちの音楽に辿り着く可能性の方だろうね。とにかく大量の音楽が溢れかえることになるから、それは誰にとっても問題になるだろう。
 皮肉なことに、AIに欠けている要素というのは、まさにこの10年……15年、いや20年くらい、ぼくたちが意識的に取り組んで来たことなんだよね。それは粗さや即興性、思いついたことを試して、すぐに録音することで生まれる生々しさのことだよ。そういう、制作のダイナミクスは、僕たちが自然に辿り着いたものだけれど、結果的にそれは、大規模な言語モデルが音楽を作るやり方とはほぼ真逆に位置している。だから、ある意味では、ぼくたちはかなり運が良い立場にいるとも言えるね。ただ、AIという言葉は、あまりにも広域過ぎる。Transformerモデルの話に限るなら、あれ自体に本当に問題が多いし、ひどく参照的で、聴く気にもならない音楽を大量に生み出すことになる。そういうものがストリーミング・サービスや、ヨガ用のプレイリストなんかを占拠することになるだろう。でも、そこはぼくvの居場所じゃない。そういう世界が存在していることは理解しているけどね。だからまあ、ぼくたちはヨガのプレイリストのリスナーを多少は失うことになるかもしれないけど(笑)、正直、そう言う人たちは音楽そのものを気にしているわけじゃないだろうから。結局のところ、ぼくたちのやっていることにほとんど影響はないだろうね。
 一方で、もっと広い意味では、AIは有用なツールにもなり得ると思っているんだ。特定の用途に於いてはね。データのなかのパターンや類似性を見つけることには向いているし、音のカタログ化や、DJミックスの中で相性の良いトラックを見つける、といった使い方も出来るよね。あるいは、大量の音楽を学習させて、ひとつのトラックのなかからレイヤーを分離するなんていう用途もあって、実際にそうした使い方はすでに増えている。慎重に使えば、機械学習はとても強力なツールになり得るんだ。でも、いまの億万長者のテック連中は、全然慎重な使い方をしていない。考え得る限り、いちばん雑で無責任な使い方をしているよ。結局のところ、問題は技術そのものじゃなくて、それを使っている人間と、その使い方なんだ。

『Confield』は、いまでは発売当時ほど過激な作品ではなくなっているけれど、それでも音楽でここまでやれる、という可能性を垣間見せてくれるアルバムだと思う。


『Confield』

では、最後の質問です。前回インタヴューしたときに、「15歳の若者にオウテカのアルバムをプレゼントするとしたら何にしますか?」という質問をしました。そのときの答えは、ファースト・アルバムの『Incunabula』と当時の最新アルバムの『Sign』でした。いま、同じ質問をしたらどれになりますか?

S:良い質問だね。いまだったら、そうだな……正直、前回とは同じ答えにはならないかもしれないね。う〜ん……『Confield』かな。15歳くらいの若者には、もう少し背伸びしてもらってもいいんじゃないかと思うんだ。『Confield』は、いまではぼくたちにとっての転換点として語られることが多いアルバムだけど、当時の僕たち自身は、そこまで意識して作っていたわけじゃなかった。でも、なぜいまそういう語られ方をしているのかは理解できるよ。いまのメインストリーム文化も、たしかにいろいろな刺激や挑戦を提供してはいるけれど、必ずしも正しい種類の挑戦ばかりではないと思うんだ。だからこそ、『Confield』は、彼らのとっての良い入り口になるかもしれない。発表から十分に時間が経ったいまでは、当時ほど過激な作品ではなくなっているけれど、それでも音楽でここまでやれる、という可能性を垣間見せてくれるアルバムだと思う。25年前に作られた作品だということを考えると、さおさらだね。あのアルバムは本当に、まったく異なる時代の産物だったんだ。

R:うん、それでいいと思う。ぼくもその意見に賛成だね。仮にあのアルバムがひとつの転換点だとするなら、過去を振り返りながら同時に未来を見渡すのに、これ以上相応しい作品はないんじゃないかな。

S:そうそう、ちょうど蝶番みたいなものだね。

R:そう、ちょうどその言葉を使おうと思っていたんだ。でも、当時はそういう瞬間だなんて気付かないものなんだよね。

クロスロードの旅へと誘う
ブルース探究書の決定版

世界中の、あらゆる世代の
音楽ファンを魅了する
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ブラック・ミュージック──
その深き魂、その背後に広がる
重みある歴史と社会をたずねながら、
ここに伝説のすべてが蘇る。

Pヴァイン設立50周年記念出版

日本随一のブルース研究家が
心血を注ぎ尽くした名著、改題による復刊。

解説:濱田廣也(『ブルース&ソウル・レコーズ』)

「アメリカ黒人社会およびそのコミュニティの文化や風習を理解することなしにブルースを語ることはできないという日暮の姿勢はその生涯を通じて一貫したものであった。(略)ブルースを成立させる黒人コミュニティとその背景にあるアメリカ社会を常に意識すること、この姿勢こそが日暮泰文のブルース論に確かな説得力と奥行きを与えている。ブルースをどう聴き、その詩をどう読み解くかを自らのテーマとして課し、読者にも問うてきた日暮にとって、ロバート・ジョンスンのブルースに向き合うことはライフワークそのものだった」(本書解説より)

四六判/504ページ

[著者プロフィール]
日暮泰文(ひぐらし やすふみ)
1948年10月東京生まれ、神奈川県育ち。ブルースを始めとするブラック・ミュージック逍遥に生きる。慶應義塾大学卒。在学中の1969年『ニューミュージック・マガジン』創刊と同時にレコード批評等の執筆活動開始。1970年、日本初の黒人音楽専門誌『ザ・ブルース』を創刊。1975年ブルース・インターアクションズ(Pヴァイン・レコード)を髙地明とともに創業、2004年まで代表取締役、2007年M&Aによりリタイア。以後も執筆活動のかたわら、ブルース/ソウルの原盤制作にも携わる。著書に『のめりこみ音楽起業』(同友館)、『ブルース百歌一望』(Pヴァイン)、共編著に『ニッポン人のブルース受容史』(Pヴァイン)、訳書に『ブルースと話し込む』、『ブルースの歴史』(ともにポール・オリヴァー著、土曜社)など。2024年5月永眠。

Intro
Ⅰ デルタの細道
Ⅱ 悪魔を魅入った男
Ⅲ 土曜の夜のデルタ・ブギ
Ⅳ 生きのびたロバートの幻を追う
Ⅴ 29曲全訳
Ⅵ 29曲を聴く
Ⅶ デルタ・デイズ~RLの生きた時代
Ⅷ ブルースに追われ続けた男
Outro

Me and Mr. Johnson──RLにまつわる証言
RLランブリン・マップ
解説 濱田廣也(ブルース&ソウル・レコーズ)

人名・曲名索引

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Flying Lotus - ele-king

 フライング・ロータスが新たなEP「BIG MAMA」を送り出す。今回はなんと自身が設立した〈Brainfeeder〉からのリリースで、同レーベルからフライング・ロータス名義の作品が発表されるのは初めて。EPとしては(ハウスに挑戦した “Ajhussi” と “Ingo Swann” を含む)2024年の「Spirit Box」以来の作品となるが、ティーザーを聴くかぎりこたびもまた新たな方向性にチャレンジしているようで、目が離せない。

FLYING LOTUS

自らが主宰する〈Brainfeeder〉からフライング・ロータス名義として
正式リリースとなる記念すべき第一弾作品
待望の最新EP『BIG MAMA』を発表!
3月6日リリース!

コルトレーン一族の末裔であり、2000年代後半にその独創的なビートで世界をリードしたビート・ミュージック・シーン最重要アーティスト、今では電子音楽界を代表する鬼才、フライング・ロータスが最新EP『BIG MAMA』を3月6日にリリースすることを発表した。本作は、フライング・ロータスことスティーヴ・エリソンが、自ら設立したロサンゼルス拠点のレーベル〈Brainfeeder〉から発表する初の正式リリース作品となる。〈Brainfeeder〉は約20年前にエリソンが設立し、これまでにサンダーキャット、カマシ・ワシントン、ルイス・コール、ハイエイタス・カイヨーテなど、数多くの名だたるアーティストの作品を世に送り出してきた重要レーベルだ。

『BIG MAMA』は、フライング・ロータスが衝動と勢いに突き動かされた瞬間を捉えた作品だ。無数のサウンド、リズム、エフェクトが高密度に詰め込まれた本作は、彼自身の言葉を借りれば「実験的で、マキシマリストで、超高速なエレクトロニック・エネルギーの爆発」。全7曲はひと続きの構成として展開され、一切のループを用いず、すべての小節が異なるという大胆なアプローチが取られている。

大砲から撃ち出されたみたいな感覚にしたかった。
ただただ爆発的で、予測不能なエネルギー。
完全にバグったコンピューターみたいな、正気を失った機械のような感じだね。
- Flying Lotus

Flying Lotus - BIG MAMA
予約リンク https://flyinglotus.lnk.to/bigmama

本作は、最新長編映画『Ash』の監督・作曲を務めた後の、ある種の“隔離期間”を経て制作された。ニュージーランドで、ラップトップとコントローラーだけを使い、ほぼ一人で映画音楽を完成させるという原始的な制作環境が、彼を原点回帰へと導いた。

ひとりで丸ごとサウンドトラックを作るという、大げさに拡張された時間感覚の中にいた感じだった。その反動で、直前にやっていたこととはまったく違うことがしたくなった。このプロジェクトを始めて、内側に溜まっていたカオスを吐き出せる場所を見つけたような解放感があった
- Flying Lotus

制作期間は約2か月。従来の“曲単位”の制作ではなく、まず金属的で複雑な音色や、変化し続ける音の質感を探求するソフトウェア・シンセや、中古のドラムマシンを駆使し、音そのもののアイデアを書き留めるスケッチブックを作ることからスタートした。その後、1日に10~15秒分の音楽を丹念に積み重ね、最終的に13分に及ぶ、テンポやジャンルに縛られない意識の奔流のような作品へと結実させている。

自由で、生きている感じにしたかった。サウンドデザインとして考えて、予測不能で圧倒的な密度を持つものを作りたかったんだ。音楽がどんどん“完璧”で無菌的になっていく中で、電子音楽における“人間らしさ”をどう残すか、それを考え続けたい
- Flying Lotus

アートワークは、イラストレーターのクリストファー・イアン・マクファーレンが担当。フライング・ロータスは、幼少期に親しんだカートゥーンへの共通の愛を通じて彼と意気投合したという。

『レンとスティンピー』とか、サタデー・ナイト・ニコロデオン(SNICK)みたいな感じ。
俺と同世代なら分かるはず(笑)。とにかく才能ある人で、ずっと一緒に仕事したかったんだ。
- Flying Lotus

このいたずら心に満ちたカートゥーン的美学は、フライング・ロータス自身が敬愛する『ザ・シンプソンズ』の影響とも共鳴し、『BIG MAMA』を2010年作『Pattern+Grid World EP』の精神的続編とも言える作品へと位置づけている。ブレイクコアとIDMを自在に横断する、フライング・ロータスならではのダンサブルで遊び心あふれる側面が前面に押し出された一作だ。

さらに本作『BIG MAMA』は、フライング・ロータス名義として初めて〈Brainfeeder〉からフルリリースされる記念碑的作品でもある。

自分が作ったレーベルと、もっと近い距離で一緒にやるタイミングだと思った。
グラミーにも何度も行ったし、大きな作品とも肩を並べてきた。
いい環境を築けたと思うし、もう十分その時が来たんじゃないかな
- Flying Lotus

『BIG MAMA』は、3月6日(金)に12inch(ブルー・ヴァイナル)、デジタル配信で発売。12inchは数量限定・日本語帯付き仕様でも展開される。

フライング・ロータス|Flying Lotus
ロサンゼルス出身のスティーヴ・エリソンことフライング・ロータス(別名キャプテン・マーフィー)は、この20年にわたり21世紀音楽の形を決定づけてきた重要人物の一人だ。アリス・コルトレーンやマリリン・マクロードといった音楽的レジェンドを家族に持ち、ビートメイキングからアニメまで幅広い影響を受けながら育った。
2000年代後半には、ジャズ、ヒップホップ、未来的サウンドを融合させた独自の表現でLAの【Low End Theory】を中心に注目を集め、〈Warp Records〉からリリースされたアルバムにはケンドリック・ラマーやデヴィッド・リンチ、サンダーキャット、エリカ・バドゥら錚々たる面々が参加。ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』へのプロデュース参加など、現代音楽史に残る作品を数多く手がけてきた。
音楽のみならず映像表現にも強いこだわりを持ち、立体映像やアヴァンギャルドな照明を用いたライブ演出でも高い評価を獲得。近年は映画・アニメ分野へも活動を拡張し、『V/H/S 99』への参加や、主演アーロン・ポール、エイザ・ゴンザレス出演の映画『Ash』では監督・作曲を兼任。Netflixアニメ『Yasuke』やのNBAのレジェンド、マジック・ジョンソンのドキュメンタリー「マジックと呼ばれる男(原題:They Call Me Magic)の音楽も手がけている。
2024年秋には、ドーン・リチャードとシッド・スリラムを迎えたハウス寄りのEP『Spirit Box』を発表。ジャンルや表現手法に縛られない、予測不能な創作姿勢は今なお進化を続けている。

label : BEAT RECORDS / Brainfeeder
artist : Flying Lotus
title : BIG MAMA
release:2026.3.6
TRACKLISTING:
01. BIG MAMA
02. CAPTAIN KERNEL
03. ANTELOPE ONIGIRI
04. IN THE FOREST - DAY
05. BROBOBASHER
06. HORSE NUKE
07. PINK DREAM
商品ページ: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15637
配信: https://flyinglotus.lnk.to/bigmama

12inch(ブルー・ヴァイナル/片面スクリーンプリント)

Shintaro Sakamoto - ele-king

 ニュー・アルバム『ヤッホー』が話題の坂本慎太郎、今年最初の国内ツアー、『坂本慎太郎 LIVE 2026 "Yoo-hoo" ツアー』の開催が決定した。今回のツアーは、初の仙台公演を含む、神奈川、東京、名古屋、大阪、福岡、沖縄の全国7都市で開催です。


坂本慎太郎 LIVE 2026 “Yoo-hoo”ツアー

5月5日(火/祝)神奈川県立音楽堂(横浜) 
開場: 16:30 / 開演: 18:00 / チケット: 5,500円 (全席指定)
お問い合わせ先: TONIKAK info@tonikak.com

5月14日(木)Rensa(仙台)
開場: 18:00 / 開演: 19:00 / チケット: 4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: WESS info@wess.co.jp

5月26日(火)ダイアモンドホール(名古屋) 
開場: 18:00 / 開演19:00 / チケット:4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: JAILHOUSE https://www.jailhouse.jp/

5月27日(水)なんばHatch(大阪)
開場: 18:00 / 開演: 19:00 / チケット: 4,800円 ( 1F: スタンディング / 2F指定)
お問い合わせ先: GREENS https://www.greens-corp.co.jp

6月9日(火)昭和女子大学 人見記念講堂(東京) 
開場: 17:30 / 開演: 18:30 / チケット: 6,000円 (全席指定)
お問い合わせ先: SMASH https://smash-jpn.com

6月19日(金)桜坂セントラル(沖縄) 
開場: 18:00 / 開演: 19:00 / チケット: 4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: 桜坂セントラル http://www.nahacentral.com

6月21日(日)Drum Logos(福岡) 
開場: 17:00 / 開演: 18:00 / チケット: 4,800円 (スタンディング)
お問い合わせ先: BEA https://www.bea-net.com/


●オフィシャル抽選先行特設サイト
先行受付URL: https://eplus.jp/ss-yoo-hoo/

- オフィシャル先行予約→ 2月5日(木) 20:00 ~ 2月11日(水/祝) 23:59
- 一般発売: 2月28日(土)10:00  

※仙台、名古屋、大阪、福岡、沖縄公演は別途ドリンク代が必要となります。
※枚数制限 / お一人様2枚まで
※年齢制限: 未就学児入場不可、6歳以上チケットが必要

〜私にとっては、サブスクで日々大量に聴いている音楽が街ですれ違う人々だとしたら、レコードは友人や大切な人のような存在です〜

「VINYLVERSEユーザーのリアルな声を聞きたい」そんな思いからスタートしたこの連載も、第4弾を迎えました。
今回お話を伺ったのは、都内でDJとしても活動している kanako__714 さんこと、KANAKO さんです。
SoulやR&Bを軸に、和モノ、ラヴァーズロック、Houseまでジャンルレスに音楽を掘り下げ、DJとしても独自の選曲で現在急成長中。そんなKANAKOさんのVINYLVERSEギャラリーは、あえて邦楽にフォーカスしたセレクトとなっています(2026年1月現在)。
ギャラリーのジャケットを一覧で眺めていると、今、聴くべき音楽を自然体で選んだようなレコードの並びが印象に残ります。主張しすぎるわけではないのに、なぜか気になるその感覚の奥に見えてくるのは、KANAKOさんならではのパーソナルなセンスかもしれません。

今回のインタビューを通して見えてきたのは、「どんな音に惹かれ、どのようにレコードと付き合ってきたのか」という、多くの音楽ファンに共通する問いでした。
DJとしての視点、そして一人のリスナーとしての視点。その両方から語られるレコードの魅力を紐解いていきます。


---まず、VINYLVERSEをどんなふうに使っていますか?

KANAKO(以下K):今は自分が持っているレコードの中から、和モノに絞って投稿しています。ジャケットを一覧で一気に見られるので、DJの選盤を考えるときにもすごく助かっていますね。

---アプリの使い方はすぐに理解できましたか?

K: 特に迷うことなくできました。

---操作で迷った点、不便に感じた点はありますか?

K: 検索してもなかなか出てこないアーティスト、アルバムなどがあり少し苦戦しました。

---使っていて「これは良いな」と感じた機能はありますか?

K: お気に入り登録や、「欲しいもの」をギャラリーに追加できるところです。今持っているものと、これから欲しいものを同じ感覚で管理できるのがいいなと思いました。

---他のコレクターと交流する機能についてはどうでしょう?

K: コメント機能などはあってもいいかなと思います。ただ、正直SNSがあまり得意ではないので、無理に交流しなくてもいいのかなと思いました(笑)。

---今後欲しい機能はありますか?

K: ギャラリーの順番を自由に動かせたり、Instagramのように気に入っているレコードを一番上にピン留めできるような機能があればいいなと思いました。

---VINYLVERSEの一番の魅力は何だと思いますか?また、どんな人にこのサービスをおすすめしたいですか?

K: 自分の持っているレコードとあらためて向き合い、自分はこういう音楽が好きなのだと再発見することができるアプリだと思いました。また、他の人のレコード棚を覗いているような気持ちになれるのも楽しいです。レコードが好きな方ならみんな楽しめるアプリだと思います。

---そもそもレコードを集め始めたきっかけは? 最初に買った1枚も教えてください。

K: 4年ほど前、渋谷のRECORD SHOP & DJ BAR「BLOW UP」に行ったのがきっかけです。Black Musicやレコードに興味を持って、最初はクラブやミュージックバーでレコードを聴く側でしたが、その後自分でも集めるようになりました。DJを始めた時期とレコード収集を始めた時期がほぼ同じで、最初は一気にたくさん買っていたので少し記憶が曖昧なのですが……たぶん、ミニー・リパートンの『LOVE LIVES FOREVER』が最初に買った1枚です。

---主にどんなジャンルを集めていますか?

K: あえて言うならSoulですが、和モノ、R&B、ラヴァーズロック、Houseなど、ジャンルはさまざまです。

---特に思い入れのある1枚を教えてください。

K: ORCHIDSの『LIFE IS SCIENCE』です。去年の夏、池尻のJuly treeというギャラリーで90年代クラブイベントのフライヤーの展示を見に行ったとき、会場でこの曲がかかっていて。ギャラリーの方に教えていただき、すぐに買いました。そこからMAJOR FORCEの音楽にどっぷりハマって、今も少しずつ集めています。

---今、個人的に一番欲しいレコードは?

K: Sly, Slick & Wickedの『Sho’ Nuff』の7インチです。ずっと欲しいと思いながら高くて手が出せなくて……気づいたらさらに高騰していて、早く買えばよかったと後悔しています。

---あなたにとって「レコードの魅力」とは何でしょう?

K:音質の良さはもちろんですが、それ以上に「音楽が物質としてそこにある」ことに魅力や安心感を感じます。私は根本的にモノが好きな人間で、音楽だけでなく、雑誌や漫画も本当に気に入ったものは物理的に手元に置いておきたい。ライナーノーツやジャケットを眺めて楽しめるのも、レコードならではだと思います。

---レコードで聴く音楽と、他のメディアで聴く音楽の違いについて、どう感じていますか?

K: 音質の違いはもちろんあると思います。特にクラブやミュージックバーでレコードを聴くことは、立体感やひとつひとつの楽器の音をクリアに感じることができる、特別な体験だと思います。ただ、サブスクでたくさんの音楽に出会えることも素敵な体験であることは確かで、サブスクで出会った曲をレコードで購入し、思い入れのある曲になるということも頻繁にあります。私にとっては、サブスクで日々大量に聴いている音楽が街ですれ違う人々だとしたら、レコードは友人や大切な人のような存在です。

---音楽以外で好きなカルチャーはありますか?

K: 90年代のカルチャーが好きです。日本のドラマや映画、古着、雑誌だと『relax』とか。

---VINYLVERSEのギャラリーを「誰かに見せたい」と思うことはありますか?

K: 正直私は自分のことを人に話したりとか、自分のパーソナルなところを人に知られるのがあまり好きではなくて。自分のことを言葉で説明するのがすごく苦手なんです。でも、ギャラリーを一覧で見てもらえたら、「この人、こういう音楽が好きなんだ」って自然に伝わる。それは逆にいいなと思いました。人からDJのスタイルやジャンルについてもよく聞かれるのですが、例えば「和モノ」と言うと、シティポップや歌謡曲を想像されがちで。でも実際は、そのどちらもそこまでレコードを持っているわけではなくて、自分でも「和モノの中のどういう音楽が好きなのか」を言葉で説明するのが難しかったんです。
でも、ギャラリーを見てもらえれば、自分で説明するよりも分かりやすいかもしれないな、と思いました。

---VINYLVERSEギャラリーのセレクトを和モノにフォーカスした理由はどうしてですか?

K: 今、毎月第一金曜日にアマランスラウンジというお店の和モノのイベントでDJをやらせてもらっていて、その流れもあって毎月コンスタントに邦楽レコードを買うようになったんです。そうすると、だんだん自分でも何を持っているのか分からなくなってきて(笑)。
頭の整理という意味でも、一度「自分がどんな和モノを持っているのか」をまとめてみたいと思って、一旦和モノに絞りました。

---邦楽と洋楽の捉え方に違いはありますか?

K: あまりないですね。いわゆる和モノってジャンルというより、その中にSoulっぽかったり、R&Bとかシティポップ、四つ打ちなどがある、という感覚で。私は和モノだから集めているというより、「好きな音」に反応して集めているので邦楽も洋楽も関係なく聴いています。

---家ではどんなふうに音楽を聴いていますか?

K: 家ではレコードも聴くし、ラジオも聴くし、サブスクも使います。常に何かしらの手段で音楽が流れている感じですね。
DJの練習としてかけることもあれば、ただゆっくり聴くこともあります。DJをするようになってからは、「この曲をどう繋ぐか」「次に何をかけるか」を考えながら聴くようになりました。途中でブレイクが入ると使いやすそうだなとか。でも、ただ聴いていて良い音楽と、DJで使いたい曲っていうのはまた違う気もしますね。

---DJでは使わないけど、欲しくて買うレコードもありますか?

K: あります。例えばMitsukiの『Land Is Inhospitable And So Are We』は、私がDJ中にかけることはありませんが、寝る前に聴きたくなるような音楽ですごく好きなので買いました。

---レコードを買う場所についてのこだわりはありますか?

K: ディスクユニオン、BLOW UP、地方のレコードショップのオンラインストアなどで買います。ごくたまにDiscogsも使いますね。メルカリやヤフオクは、基本的にはあまり使いません。もちろんレコードが本当に好きな人が売っている場合もあるとは思うのですが、レコードをよく知らない人や、あまり好きじゃない人が売っていることも多そうで、そういう人からは買いたくないんです。気分が乗らないというか。ただ、単に気持ちの問題だけではなく、盤質の基準も人によってバラバラだし、品質面で不安があるのも理由のひとつです。

---VINYLVERSEも「レコードが好きな人から、レコードが好きな人へ渡る」という感覚を大事にしたく思っています。それがどういうアプリにしたらそうなるのかは今でも試行錯誤中ですが、VINYLVERSEが、そういう人から人へ、レコードを気持ちよくバトンタッチできる場所になったらいいな、と思っています。
ちなみに手に入れたとき一番嬉しかったレコードって何ですか?

K: 一番嬉しかったのはセルジオ・メンデスの『Brasileiro』ですね。とあるDJの方がかけていて知って、それからレコードを探し始めて、1年半くらい探して見つかりました。でも結局買えたのはメルカリなんですが(笑)。一度、ヤフオクで見つけて入札したのですが、4万円以上までいってしまって。途中で無理だなと思って諦めました。その後メルカリに、それよりはだいぶ安く出ていたので買いました。

---DJは主にどのような場所でプレイされているのでしょうか?

K: 主に夜帯の時間で、お酒を飲む場所、BARやクラブが多いです。

---こういうところでDJしたいという場所はありますか?

K: 先日、ラテンミュージックと社交ダンスのイベントがあって行ってきたのですが、DJがラテンミュージックをかけて、間にラテンダンスのパフォーマンスを挟むという感じだったのですが、雰囲気がとてもハッピーで、場所もオープンなスペースだったので通りすがりのお客さんも見ていて。そういうオープンな場所で自分のこと全然知らない人に聴いてもらえる機会があったら、すごく楽しいだろうなと思いました。

---昔から変わらず好きな音楽の傾向って何かありますか?

K: 全体的にアフロっぽいパーカッションが入ってたり、途中で長めのブレイクがある曲はめちゃくちゃ好きです。ファミリー・ツリーの「Family Tree(Norman Cook Disco Edit)」とか、ワンネス・オブ・ジュジュの「African Rhythms」とかですかね。

---とてもヒップホップ的ですね(笑)。ある視点から言えば、ヒップホップって「このブレイクをずっと聴いて踊っていたい」という衝動から生まれたものですからね。DJに向いているのかもしれません。ところで楽器経験はあるのですか?

K: ピアノとトランペットをやっていました。

---それはDJをすることに何か役に立っていますか?

K: 拍とか小節の感覚は役立っていると思いますが、私がやっていた楽器の演奏とDJをすることは全然違いますね。私はジャズをやっていたわけではないので、ピアノは譜面通り、トランペットも先生の指示通り。でもDJの場合、どんな展開にするのか、どこで繋ぐのかはすべて自分次第。そこが一番違うと思います。

---では最後に、これからレコードを買いたい、DJを始めたいというビギナーへアドバイスがあればお願いします。

K: 機材を揃えたり、レコードが増えると場所を取ったりとサブスクに比べて少しハードルが高い部分はあるかもしれませんが、その分音楽との向き合い方は変わるような気がします。まずは好きなアーティストのレコードを手に取ってみていただきたいです。DJに関しては、この曲が流行ってるからとかではなく、自分が本当に好きな曲をみんなに知ってもらう。この曲、本当にいい曲なんだよっていうのが人に伝わるような曲の順番とか、音のバランスやボリュームとかを気にしながら、プレイする。どうすればこの自分の好きな曲が一番いい状態で相手に聞いてもらえるかみたいなことを大事にしたいと思っています。


KANAKOさんのギャラリーはこちら
https://vinylversemusic.io/gallery/kanako___714


VINYLVERSE アプリ

Nightmares On Wax × Adrian Sherwood - ele-king

 ナイトメアズ・オン・ワックスの曲のなかでもダントツの再生数を誇る “You Wish”、あるいは “Flip Ya Lid” のようなヒット曲を含むアルバムが2006年の『In A Space Outta Sound』だ。その20周年を記念し、なんとエイドリアン・シャーウッドが同作を再構築したアルバム『In A Space Outta Dub』がリリースされることになった。発売は4月3日、同時に『In A Space Outta Sound』の20周年記念盤も登場。じつに強力なコラボレイション企画、これは聴き逃せない。

Nightmares On Wax x Adrian Sherwood

NOWの不朽の名作『In A Space Outta Sound』の20周年記念企画として
UKダブの総帥エイドリアン・シャーウッドがリワークした
『In A Space Outta Dub』のリリースが決定!
新曲「You Bliss」が解禁!
オリジナルの2枚組LPに『In A Space Outta Dub』を
加えた3枚組仕様のデラックス盤も発売!
発売は4月3日

〈Warp〉は、ナイトメアズ・オン・ワックスによる不朽の名作アルバム『In A Space Outta Sound』のリリース20周年を記念したアニバーサリー企画を発表。この20年、時代の空気に静かに寄り添ってきたサウンドを、あらためて現在の文脈へと引き寄せるべく、UKダブの総帥エイドリアン・シャーウッドがリワークを手がけた『In A Space Outta Dub』が、4月3日にリリースされる。さらに、オリジナルの2枚組LPに本作を加えた3枚組仕様のデラックス盤もあわせて発売。今回の発表にあわせ、「You Wish」をダブ・ヴァージョンとして再構築した「You Bliss」が公開されている。

Nightmares On Wax x Adrian Sherwood - ‘You Bliss’
YouTube https://youtu.be/OthUTv4KO-4
配信リンク https://n-o-w.ffm.to/in-a-space-outta-dub

『In A Space Outta Sound』は、ナイトメアズ・オン・ワックスことジョージ・エヴリンのキャリアにおいて、「原点」と「現在」の両方を映し出す作品である。2005年に発表されたオリジナル・アルバムは、彼がウェスト・ヨークシャーで育つ中で親しんだレゲエ・カルチャーへのオマージュとして制作された。その原体験は、昨年末にリリースされたミックステープ『Echo45 Sound System』においても掘り下げられている。両作に通底するのは、ジャマイカ由来のサウンドを軸に、ソウル、ジャズ、ヒップホップを自在に融合させ、サンプルを一瞬で耳に残るフックへと昇華させる、ジョージ・エヴリンの比類なき手腕であり、感性だ。

「You Wish」や「Flip Ya Lid」といった楽曲は世界的なヒットを記録し、数え切れないほどのシーンで鳴り響いてきた。それらは人々の意識に自然と染み込み、ナイトメアズ・オン・ワックス最大のグローバル・ヒット作として広く認識されている。最も商業的に成功した作品であると同時に、その影響力はアーティスト名を超え、カルチャーそのものに溶け込んできた。ソウルフルなヴァイブレーションを宿したこれらの楽曲は、多くの人々の日常に寄り添うサウンドトラックとして、長く愛され続けている。
アルバムの核を成すベースの鼓動は、伝説的ダブ・マスターであるエイドリアン・シャーウッドによる新たなダブ・ワークを通して、より際立ったものとなっている。ジョージ・エヴリンの招きにより、オリジナル・アルバム収録曲の一部を解体・再構築するという挑戦に臨んだ〈On-U Sound〉主宰のシャーウッドは、その期待に見事に応えた。代名詞とも言えるエフェクト操作でリズムを大胆に削ぎ落とす一方、サイラス・リチャード(ホレス・アンディ/ダブ・アサンテ・バンド)やダグ・ウィンビッシュ(タックヘッド/リヴィング・カラー)といった重要なプレイヤーたちと新たなオーバーダブも録音している。

こうして完成した8曲入りの『In A Space Outta Dub』は、マッド・プロフェッサーがマッシヴ・アタックの『Protection』を素材に再構築した『No Protection』をはじめとする名盤ダブ作品の系譜に連なる一作である。同時に、プライマル・スクリームやパンダ・ベア&ソニック・ブーム、スプーンといったアーティストの作品を再解釈してきたシャーウッド自身のリワーク作品群とも響き合い、格式ある歴史の一端を担う存在となっている。

今回の企画では、『In A Space Outta Dub』がCD、LP、デジタル配信でリリースされるほか、オリジナルの2枚組LPに『In A Space Outta Dub』を加えた、3枚組仕様のデラックス・ボックスセットも登場する。アートワークは、ゴリラズ、ラン・ザ・ジュエルズ、マック・ミラーらを手がけてきたラフマーシーとのコラボレーションによるもので、オリジナル・スリーヴの再構築に加え、蓄光プリントやスピーカーボックス型のカットアウト、ステッカーシートなど、細部にまでこだわった統一感のあるデザインが施されている。

また『Smokers Delight』の30周年とあわせ、この節目を祝して3月12日には、ロンドンの名門ロイヤル・アルバート・ホールにてソールドアウト公演が行われることも発表されている。この特別なステージでジョージ・エヴリンは、フル・ライヴ・バンド、弦楽四重奏、合唱団、ゲスト・ヴォーカリスト、そしてサプライズ・コラボレーターを迎え、2つの記念碑的アルバムが新たな解釈のもとで披露される予定だ。圧倒的な映像とサウンド演出により、時代を象徴する名作群が新たな命を吹き込まれる。

『In A Space Outta Sound』は今なお生き続けるアーティファクトであり、今回のリイシューは、20年にわたりこの作品と向き合ってきたリスナーに向けた再発見の機会でもある。人生を肯定する楽曲群、ジャンルを横断するサウンド、革新的なコラボレーション──本作は、私たちの日常における「内なる空間(インナー・スペース)」を今も形作り続ける決定的な一枚だ。

〈Warp〉で最も長く在籍する古参アーティストとして、ジョージ・エヴリンは30年以上にわたりエレクトロニック/ソウル・ミュージックの最前線を走り続けてきた。本アニバーサリー企画は、その歩みとともに、世代を超えて響き続けるその影響力と、時代を超越した作品の価値をあらためて証明するものである。

ナイトメアズ・オン・ワックスの不朽の名作『In A Space Outta Sound』をエイドリアン・シャーウッドがリワークした『In A Space Outta Dub』は、4月3日 (金) にCD、LP、デジタル配信で世界同時リリース。LPはライト・ローズ・ヴァイナルとなり、日本語帯付き盤も発売される。国内盤CDと日本語帯付き限定盤には解説書が封入される。

label:BEAT RECORDS / Warp Records
artist:Nightmares on Wax X Adrian Sherwood
title:In A Space Outta Dub
release: 2026.04.03
商品ページ
配信リンク

tracklist:
01. You Bliss
02. On Purpose
03. Flippin’ Eck
04. Positive Touch
05. On The Seven Seas Dub
06. Looking At You Dub
07. Sweeter Still
08. Nyabinghi Dub


CD


LP

label:BEAT RECORDS / Warp Records
artist:Nightmares on Wax
title:In A Space Outta Sound [20th Anniversary Edition]
release: 2026.04.03
tracklist:
Nightmares On Wax - In A Space Outta Sound (Re-Imagined Sleeve Edition)
A1. Passion
A2. The Sweetest
B1. Flip Ya Lid
B2. Pudpots
B3. Damn
C1. You Wish
C2. Deep Down
C3. Chime Out
C4. Me!
D1. I Am You
D2. Soul Purpose
D3. African Pirates
Nightmares On Wax X Adrian Sherwood - In A Space Outta Dub
A1. You Bliss
A2. Passion
A3. The Sweetest
A4. Flip Ya Lid
B1. Pudpots
B2. Damn
B3. You Wish
B4. Deep Down


輸入盤BOX SET

CoH & Wladimir Schall - ele-king

 コー(CoH)とウラジミール・シャール(Wladimir Schall)による本作『COVERS』は、静謐なピアノの響きと、硬質で冷ややかな電子音/ノイズが交錯し、美しくも深淵なサウンドスケープを展開するアルバムである。
 旋律は断片化され、ピアノの残響は電子処理によって引き延ばされる。もしくは削ぎ落とされる。その結果、本作は「ピアノ作品集」でも「電子音楽作品」でもなく、両者が拮抗しながら共存する不安定かつ精緻な音響空間を生成している。まずは、このアルバムがそうした音の在り方を徹底的に追求した作品であることを明確にしておきたい。リリースはスイスの実験音楽レーベル〈Hallow Ground〉から。

 まず、『COVERS』は一般的に想像される「カヴァー・アルバム」とは大きく異なる作品である点も指摘しておきたい。本作でおこなわれているのは、原曲をそのまま演奏し直したり、わかりやすく現代的にアレンジしたりすることではない。そうではなく、楽曲の内部に含まれている構造や時間の流れ、そして聴き手の記憶に残る感触を丁寧に取り出し、それらを一度解体したうえで、まったく別のかたちに再構築する試みが行われているのである。『COVERS』というタイトルは、その意味で意図的に挑発的だ。本作は「カヴァーとは何か」を問い直すところからはじまっているからだ。

 アルバムについて語る前にまず最初に、コーことイワン・パヴロフ(Ivan Pavlov)の経歴を簡単に振り返っておきたい。彼は1990年代後半から国際的に活動してきた電子音楽家である。ロシア出身で、旧ソ連崩壊後の混乱期を背景にキャリアをスタートさせ、活動初期からノイズ、インダストリアル、ドローンといった領域に関心を向けてきた。
 2000年代以降は、〈Raster-Noton〉、〈Editions Mego〉といった実験音楽/電子音楽の重要レーベルからも作品を発表した。現在はストックホルムを拠点に、電子音楽の境界を横断する制作を続けている。
 コーは多彩なレーベルから楽曲をリリースしているが、重要なのは〈Raster-Noton〉と〈Editions Mego〉からのリリース作品であろう。〈Raster-Noton〉の作品では、『Mask Of Birth』(2000・のちに〈Mego〉からも再リリース)も重要だが、特に2007年にリリースされた『Strings』(2007)が決定的なアルバムであった。ストリングスの音を電子的に解体し、クリック・ノイズやデジタル・グリッドを基盤とした厳格なミニマリズムを実践しているのだ。音は空間に配置される抽象的な「構造体」として扱われていたように思える。彼の作品のなかでもシリアスな作風といえよう。その現代音楽的な音響は、『COVERS』に通じている。
 その一方、〈Editions Mego〉からの作品群はよりヴァラエティに富んでいる。グリッチ以降のインダストリアル・サウンドの傑作『0397POST-POP』(2005・これは〈Mego〉時のリリース)、ギター・ノイズの粗さや歪みを強調したメタ・メタリックな『IIRON』(2011)、リズミックなビートやヴォーカル(ヴォイス)入りのポップな『Retro-2038』(2013)、『TO BEAT』(2014)など、よりヴァラエティに富んでいる。そして2016年リリースの『MUSIC VOL.』では不安定なノイズと静謐な音響空間が交錯するサウンドを構築する。続く2017年の『COHGS』では多彩なゲストを召喚し、不安定なノイズからリズミックなトラック、ヴォーカル導入まで、〈Editions Mego〉期の集大成ともいうべきアルバムに仕上がっていた。このひとつのスタイルや音響に留まらない姿勢こそ、コーの音楽が単なるミニマリズムにとどまらない理由でもある。
 また、コーのサウンドを理解するうえで、コイルのピーター・クリストファーソンとの関係も決定的である。クリストファーソンと共に活動した Soisong は、コーのキャリアにおける重要な転機となった。音楽を完成された作品ではなく、環境や儀式、経験と結びついた出来事として捉えるピーター・クリストファーソンの思想は、コーに強い影響を与えた。音の不完全さや偶発性、聴取状況によって意味が変化するという考え方は、Soisong 以降のコー作品において重要な軸となった。音楽を「機能する装置」として捉える視点をより明確なものにしていったのである。
 本作の共作者ウラジミール・シャールは、パリを拠点とする作曲家で、クラシック音楽および実験音楽の文脈を背景に持つ。音そのものの質感や沈黙、反復によって生まれる感覚のズレに強い関心を持ち、2020年にはエリック・サティの “Vexations” を無限にループさせるカセット作品を発表している。既存の楽曲を「完成された作品」として固定するのではなく、聴かれ続ける過程で意味が変容していくものとして捉える姿勢が、シャールの制作のコアにある。
 このふたりは「音」そのものに対する思想的な共通点を持ちながらも、明確に共同名義で制作された作品は本作が初めてであった。本作『COVERS』は、コーとシャールが本格的にタッグを組み、それぞれの考え方や手法を一つの作品世界の中で結びつけた最初の成果と言える。その意味で本作は、単なる企画的な共作ではなく、両者の関心が自然に交差した結果として生まれた作品でもある。
 本作をリリースした〈Hallow Ground〉というレーベルの存在も、『COVERS』を理解するうえで重要だ。〈Hallow Ground〉は、現代音楽、実験音楽、サウンドアートを横断しながら、ジャンルよりも聴取のあり方そのものを問い続けてきたレーベルである。静けさ、持続、反復、微細な変化に耳を澄ませる態度を要請する点で、〈Hallow Ground〉のカタログは一貫して能動的な聴取を前提としている。ピアノと電子音、記憶とノイズの関係を再構築する『COVERS』は、その美学と強く共鳴する作品だ。

 『COVERS』は全7曲から構成されており、そこには明確な戦略がある。ピアノによる既存曲を出発点としながら、電子処理とデジタル操作によって、聴き慣れた旋律や和声の内部から「異物」を浮かび上がらせること。これらの楽曲は「音楽の機械装置を、欠陥も含めて誠実に露出させる」ための一連の装置として構想されている。楽器や楽曲の不完全さを補正するのではなく、その脆さをそのまま提示する態度が、アルバム全体を貫いている。
 1曲目 “MERRY XMAS MR ERIK” は、坂本龍一の “Merry Christmas Mr. Lawrence” とエリック・サティを重ね合わせることで、本作の核心を明示する楽曲だ。あの有名な旋律は、完全な形で現れることなく、響きと電子子ノイズの間を漂う。そうすることで坂本とサティが同じ「響き」を持っていることをあぶり出す。
 6曲目 “GNOSSIENNE À RYUICHI” でも、坂本龍一とエリック・サティというふたりの「静かな急進性」が結びつけられる。フランス近代音楽が切り開いた機能和声から解放された音色と余韻の美学は、直接的な引用ではなく、音の扱い方として継承され、電子的操作によって再び解体されていく。ちなみ坂本龍一は、コーの『To Beat Or Not To Beat』に坂本がリミックスの提供などをしている。
 1978年のソ連アニメ短編『Контакт』や『Ну, погоди!』シリーズに着想を得たという2曲目 “KOHTAK”、少ない音階の旋律を音色を変換しつつ展開する3曲目 “OKOLO KOLOKOLA” などは、音楽的記憶が歪み、変化を遂げていく過程をトレースしているかのようだ。アルバム中でももっとも静謐な印象を残す楽曲だ。
 4曲目 “SOII BLANC” では、コー自身の過去曲 “Soii Noir” (2011年リリースのアルバム『IIRON』に収録)をモートン・フェルドマン的な静謐なミニマム感覚を媒介に再構築し、自作すらも「他者の作品」として扱う姿勢を明確にする。そして5曲目 “SNOWFLAKES” は、存在しない原曲をカヴァーするという逆説的な試みであり、ノスタルジアという感覚の不確かさを露わにした。そして、アルバム最後に置かれた7曲目 “STAROST NE RADOST” では、喜びと悲しみ、親しみと疎外の境界が曖昧に揺らぎ続ける。

 『COVERS』はコーの単独作とも明確に異なる位置にあるアルバムだ。何しろ本作は「すでに存在する音楽の記憶」そのものが素材として扱われているからだ。構造を構築する存在から、記憶と聴取のズレを媒介する存在へ。この視点の転換こそが、『COVERS』をコーのディスコグラフィの中でも特異な作品へと位置づけている要因といえよう。
 要するに過去の名曲を懐かしむための作品ではない。音楽の記憶がどのように現在に作用し、変わり続けていくのかを静かに示すアルバムなのだ。耳を澄ませることで、知っているはずの音楽がまったく異なる表情を見せる。その体験こそが、本作最大の魅力といえよう。

Meitei - ele-king

 昨年はアンビエント・アルバム『泉涌』を発表した冥丁が、4月18日、彼にとっての思い出の地、京都、その市内にあるかの有名な清水寺にて「奉納演奏」する。「ライヴ演奏」とは言わず「奉納演奏」だそうで。
 ちなみに「奉納」とは、神事・仏事を意味するわけですが、まあ、たとえば、写真家の小原泰広がずっと撮り続けているハードコアな無形文化財の花祭(表層的なオリエンタリズムでしか日本を見れない人には見えない、ヴァナキュラーな精霊文化およびスピリチュアルなレイヴ文化)とか、有名どころではねぶた祭りとか熊野参りとかね、さもなければほのぼのした盆踊りとかね、考えてみればいろいろありますわなぁ。
 ああ、そうそう、失われた日本に関しては昔、「アイアンキング」というロボット戦闘モノの子ども番組がありましてね、ありゃあ、コンセプトそのものがラディカルだったスよ。日本に滅ぼされたオルタナな日本(とは呼ばないでしょう)があったとはね。そもそも日本とはなんぞやという定義からはじめなきゃならないという意味でも勉強になったです。
 ぜんぜん関係ないけど、昨年末、KATAにて開催されたBlack Smoker展における志人の作品は、マヒトゥ・ザ・ピーポーも驚愕するほどすごかった。あれこそ、失われた日本のもっとも過剰なエネルギーそのもの……あ、すいません。音楽のことを考えたいのに「日本」「日本」言うのは、このクソ忌々しい選挙のまっただなか、よからぬ政治的な意味をもたらしかねませんな。ご無礼の段、ご容赦いただけましたら幸いに存じます。
 てなわけで、すっかり脱線3しましたが、お知らせするのは冥丁の「奉納演奏」でした。以下、プレスリリースより抜粋。ファンの皆様、どうぞ参考にしてください。

「2026年4月18日、日本を代表するエレクトロニック・ミュージックのアーティストとして世界的な評価を集め ている冥丁は、世界遺産に登録されている音羽山 清水寺の本堂舞台において、彼の活動の集大成として奉納演 奏を行うこととなりました。
音羽山 清水寺において冥丁が奉納する音楽は、20代の頃より京都で見つめ続けてきた「日本の姿」そのもので す。自転車で町を巡り、寺社仏閣だけでなく、夜の嵯峨野の池に浮かぶ赤い月、路地の暗がりの奥に垣間見え る人々の暮らしの色彩、彼は夜な夜な京都を彷徨いながら、「日本とは何か」を自分の目で見つめ直し、町に 潜む“音”を探し続けてきました。そこで出会った風景や記憶は、やがて冥丁独自の音楽性を見いだし表現へと 昇華されていきます。それらすべてが生まれた場所こそ、⻑きにわたり音楽修行を重ねてきた京都でした。そ して着想を得た音楽を「失日本」と名付け、日本文化から失われつつある印象や記憶を、現代的な感性で再構 築してきました。その後、日本・欧州・アジアを巡る単独公演やツアーも実施。ライブハウスや野外フェスティ バルだけでなく、寺院や文化財、歴史的建造物などで、演奏を重ねながら、自身の表現を深め続けてきました。 そうして積み重ねてきた作品と、京都への想いのすベてを捧げる場として、世界遺産であり、古来より芸能奉納の場でもあった清水寺にて、奉納演奏を開催する運びとなりました。 冥丁は今回の奉納演奏に際しこのように語ります。
 『私は音楽活動を通じて、「失日本」という解釈を現代に掲げ、日本に古くから現存する自明でありながらも 幽微な世界に焦点を当てた独自の音楽を創造してきました。20代、京都に籠りながら人知れず時代を見つめ、 たった一人で音楽修行を重ねてきた経験を持つ私にとって京都は自分自身の礎となりました。そして、過去から現在まで続く数多の常識を自分自身の心の目で捉え表現を行い、音楽を通じて表現者として活動を行うことができる立場に至りました。このような人生を歩んできた現在の私の集大成を表現する奉納演奏となります。』
 本公演のキービジュアルの原画は、京都・⻄陣の唐紙工房「かみ添」が制作。京唐紙とは、版木を用いて和紙 に文様を写し取る、京都に古くから伝わる装飾技法によって生み出される紙の表現です。平安時代より、貴族 の邸宅や寺社仏閣、町家の襖や屏風を彩り、日本の美意識と暮らしに寄り添いながら受け継がれてきました。「かみ添」は、こうした京唐紙の歴史と技法を現代の感性で捉え直し、新たな表現として再構築する制作を続 けています。冥丁もまた「失日本」という視点から日本的な感性を再解釈し、音楽として現代に新しい表現として提示してきました。「かみ添」が描く京の意匠と、冥丁が表現する独自の方向づけが交差し、新しい世界 観が紡がれています。

 なお、チケット発売は、2026年2月14日(金)正午より。 
 詳しくは以下をご覧ください。
 冥丁 Instagram. :https://www.instagram.com/meitei.japan
 主催:しばし Website. sibasi.jp/


Photo by 琴音

■奉納演奏詳細
会場:音羽山 清水寺 本堂舞台 (京都市東山区清水1-294)
日程:2026年4月18日(土)
開場:19時30分
開演:20時30分
主催:しばし
協力:
音羽山 清水寺「Feel Kiyomizudera」プロジェクトチーム
KITCHEN.LABEL
Inpartmaint Inc. / p*dis
チケット料金:
本堂舞台 着席席 8,000円
本堂舞台 スタンディング 5,000円
奥の院 着席席:4,000円

チケット発売日時:2026年2月14日(土)正午
チケット発売サイト: meitei.peatix.com

お問い合わせ先:
メール info@sibasi.jp
電話 080 4189 3396(電話の受付時間:13時〜19時)
※音羽山 清水寺へのお問い合わせはご遠慮ください。

チケット
一般チケット(オンライン販売のみ)
チケット発売サイト: meitei.peatix.com ※発売開始日時より有効となります。

特別チケット(実券)
「奉納公演鑑賞記念符」
「しばし」店頭で販売
〒606-8335京都市左京区岡崎天王町76-16
営業時間:12時-19時(月曜定休)/ 12時-22時(土日のみ)
sibasi.jp/
instagram.com/sibasikyoto/
※一般チケットと特別チケットの料金は同額です。


©︎discovery go

KEIHIN - ele-king

 2000年代から、長らく東京周辺のアンダーグラウンドで活動を続けてきたDJ、KEIHINがこのたびファースト・アルバムをリリースした。ライフステージの変化とともにDJとしての活動を2度ほど休止しながらも、育児や家事、仕事という日常生活の合間をぬって制作、このパラノイックとも言えるドープな本作を完成させたそうだ。その制作意志にまずは感服するばかりだ。

 そのDJとしての本格的なキャリアは2000年代初頭、peechboy、CMT、MutronらとのDIYパーティ・ポッセ、DOEL SOUND FORCEに遡るが、2000年代後半には、東高円寺〈GRASSROOTS〉、関西の〈FLOWER OF LIFE〉、千葉の〈FUTURE TERROR〉といったクラブ、パーティ周辺人脈──いわゆる〈RAW LIFE〉前後に勃興したアンダーグラウンドなDJシーンで活躍していくことになる。しかし、サウンドとして本作につながる起点としてはやはりパーティ〈ALMADELLA〉だろう。現在では上海のエッジーなレーベル〈SVBKVLT〉からのリリースでも知られる、現在は京都を拠点とするRILLAとともに主宰していたパーティ。2008~2013年の開催で早くもミニマル・テクノとダブステップ(それだけではないが)のミックスがおこなわれていた。そうしたスタイルは、2010年代初頭のポスト・ダブステップの流れ以降、現在ではもはや珍しいことではなくなったが、パーティ・スタート当初は、そのわずか1~2年前に、やっとダブステップのレコードが国内でも買うことができるようになり、ましてやインターネットでの情報も限られ、ファイルでのDJがまだ敬遠されていた時代と言えばその先鋭性が少しはわかるかもしれない(ちなみにDVSの登場もそうだが、さらにDJプレイのファイル化の転機となったCDJ-2000 は2009年11月/CDJ-2000nexusは2012年9月のリリース)。そこで招聘したアーティストたち──スキューバシャックルトンアップルブリムペヴァリストといったラインナップを見ても、その方向性がわかるだろう。本作のサウンドの素地がそうした活動にあることはなんとなくはわかるのではないだろうか。またミックスCDレーベルでもあり、主宰のふたりの他に、現在大阪のレコード店〈Naminohana〉を運営するINBEのミックスも出している。

 2016年にDJ活動を一端休止。本格的なアーティスト活動の開始は、2018年末で自身のレーベル〈Prowler〉を立ち上げてリリースしたシングル「Esoteric Communication」となる。決して早くはないデビューといえるが、しかしその響きは、音楽表現への不退転の信念というか執念を感じずにはいられないそんな作品で(そもそも自主でレコード・プレスまでしている)。本作へと続く、ダンスフロアに根ざしたポスト・ダブステップとテクノの汽水域から立ち現れたインダストリアルなブロークン・テクノを展開していた。そして再度の2020年のDJ活動休止後、やはり日々の生活の合間をぬって完成させたのが本アルバムだという(DJ活動は近日再開予定とのこと)。

 「生と死、そして転生(進化あるいは継承)」というテーマの元に『Chaos and Order』と名付けられた本作は、あえてここでは引用しないが(CDを手に取った方がいい)、おそらく自身の長らくのオブセッションに強く由来するであろう、レイヴとサイケデリック・カルチャーをひとつの起点にした、いわば生成変化の、フリーキーな着想のSFストーリーとシンクロしたものだという。CDには各曲にそのストーリーに連なったイメージがブックレットとして編み込まれ、ひとつの作品を作り上げている(それは帯裏にも及ぶ)。いわば視覚的なイメージも含めて、ひとつのアート・ピースとして構成されている。

 地鳴りのようなベース音とノイズによってその出発を知らせる “Wormhole” から一転してヘヴィーなブロークン・テクノ “Gate” によって、アルバムは本当のはじまりをつげる。強迫観念を煽り立てるようなボイス・サンプルとグリッジなピープ音の “Room” から一転、パーカッシヴなダブ・テクノ “Ayahuasca” でアルバムは、徐々にそのグルーヴで聴く者の妄想を加速させる。グッと重心を落としたブレイクビーツ・テクノ “Overload”。淀んだ井戸の水の底から星空を眺めているかのようなダブ・アンビエント “Cogitation” をはさんでアルバムは後半にかけてさらに加速していく。モノトーンのブロークン・ビート~ハーフステップ的な “Resist”、またホワイト・ノイズとともに覚醒を促すハード・テクノ “Singularity” から、ビリビリと痙攣するハードなミニマル・テクノ “Transition”。この後半の流れを聴いているだけでも、いつしか白目をむいて、意識は身体の存在を振り切り拡散していくようだ。そして最後に訪れるのは仄暗い福音をもたらすアンビエント・テクノ “Sign” で終幕する。

 もちろん本作の楽曲は現状のベース~ブロークン・テクノなどのダンスフロアの要素に根ざしたものではある。しかし、単なるダンストラックの集積ではなく、アルバムというフォーマットがもたらすストーリー・テリングを強烈に意識したであろうことは伝わってくる構成だ。ダークかつインダストリアルなメタリック感、ダブのヘヴィーネスと浮遊感といった音のテクスチャーで、アルバムを通じて強烈な妄想を具現化するかのような広大なるコスモロジーを描き出している。また前日譚としてのアンビエントDJミックスも用意されていて、このビート感や構成とともに、まさにDJという体験を下敷きに、そこから電子音楽を作るということに強烈なるパッションを見出していることをビンビンに感じる作品でもある(最近ではロンドン在住のTORUの『Rescue at SW4』にも同じ執念を感じた)。

 多忙な日常生活をぬって作られた、その日常に表裏一体で頭に渦巻く「狂」の一文字、それを表現として肯定する、その強烈な執念を感じさせ、妄想をも具現化=脳内のイマジネーションのグルーヴを覚醒させる、まさにブレイン・ダンス(IDMという意味ではない)のテクノ・アルバムと言えるだろう。

 また作品性そのものとは関係はないが、ライフステージの変化でダンスフロアから離れながらも、またこうした強度の作品を作りあげるという部分で、つきることない音楽という表現への深い愛情に支えられた、年齢に左右されないある種のオルタナティヴなアーティストのキャリア、それを含めた人生のあり方を肯定する。そんなメッセージもそこには感じてしまう、そんな作品でもある。

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