「PAN」と一致するもの

Aaron Cupples - ele-king

 本年2021年初頭に、ベルリンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈PAN〉からリリースされたアルバムを紹介したい。ロンドンのプロデューサー/映画音楽作曲家アーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』という作品である。
 このアルバムはその名のとおり同名映画作品のサウンドトラックだが、いわゆる「映画音楽を収録したアルバム」とは趣が異なっている作品に仕上がっている。いわばドローン、環境音、そしてノイズなどが混然一体となった「映画音響作品」とでもいうべき作品なのである。「音による映画」とでもいうべきか。
 とはいえ映画の「音響そのものをサウンドトラックとしたアルバム」というものはこれまでもいくつかの作品がリリースされていた。音楽だけではなく環境音、俳優の声、ノイズなどを収めている、文字通り映画のサウンドのトラックである。この『Island of the Hungry Ghosts (OST)』はその系譜に連なる作品といえる。

 例えばデレク・ジャーマン監督の遺作である青画面だけの映画『BLUE』のサウンドトラック・アルバムを思い出しておきたい。この映画はスクリーンにイヴ・クラインの青のような色だけが映し出され、そこにサイモン・フィッシャー・ターナーによる多層的な音響が重ねられていく。イメージを欠いた映画は、その音響の豊穣さによって、観客の聴覚を通して無のイメージを生成する。1994年にリリースされた同作のCD版にはサイモン・フィッシャー・ターナーが手掛けた音響が丸ごと収録されていたのだ。「青画面に覆われたイメージを欠いた映画」を、さらに音だけで聴取することによって研ぎ澄まされた音響体験が可能になる。ちなみにブライアン・イーノやモーマスも参加していたことも記しておきたい。
 そして1997年に〈ECM〉からリリースされたジャン=リュック・ゴダール監督、アラン・ドロン主演の映画『ヌーベルヴァーグ』(1990)のサウンドトラックもそのような「音響映画」とでもいうべきアルバムである。音業技師フランソワ・ミュジーが手掛けた『ヌーベルヴァーグ』の音響トラックすべてをCD2枚に収録し、ゴダールとミュジーの「ソニマージュ」を音だけで鑑賞できるアルバムである。同じくECMから2000年にリリースされたゴダール『映画史』のサウンドトラックCDもゴダール自身が手掛けた全8章に及ぶ『映画史』の音響トラックすべてをCD5枚に収録した豪華なボックスセットだった。
 近年では(映画全編ではないが)、〈Sub Rosa〉からリリースされたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督のサウンドトラック『Metaphors』もアピチャッポンの映画に用いられた音響と音楽が収録され、さながら映画の音を用いたアピチャッポンのインスタレーション作品のようなアルバムに仕上がっていた。ありがたいことに日本盤が〈HEADZ〉からリリースされている。

 ここで紹介するアーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』もまたこれら映画音響作品と同様にガブリエル・ブレイディー監督による同名ドキュメンタリー映画作品の音響的サウンドトラック・アルバムである。環境音と音楽の境界線を無化させるようなトラックを収録しているのだ。このアルバムを聴くことで「イメージを持たない映画」が、われわれ聴き手のなかに生成されていくことになる。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』はオーストラリアのクリスマス島のセラピスト、ポーリンリーが、島にある亡命者収容所に収容されている亡命希望者たちと会話し、その活動を支援していくさまに加えて、島の自然や儀式も同時に写し取っていくというドキュメンタリー映画である。レーベルは同作を「自然界、人間界、精神界の間を移動するハイブリッド・ドキュメンタリー」と表現している。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』は、2018年にトライベッカ映画祭で初公開され、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなどの高評価を得た。アーロンによるサウンドトラックも「超自然的なオーラ」「異世界的で実験的な」と高く評価され、英国のインディペンデント映画賞で「ベスト・ミュージック」にノミネートされた。

 映画『Island of the Hungry Ghosts』のサウンドトラックはガブリエル監督とアーロンによって「島」自体を主人公として音響化していくコンセプトで設計された。まずアーロンたちは13フィートに及ぶ自作の弦楽器を自作し、それが発するワイヤー・ドローンと、フィールド・レコーディングされた環境音によって、音とノイズの境界線を溶かすようなサウンドを生み出した。
 ちなみにフィールド・レコーディングを手掛けているのはサウンド・デザイナーのレオ・ドルガンだ(彼は本作におけるアーロンの共作者に近い存在である)。レオ・ドルガンの仕事は完璧に近く、島の自然が発する音を見事に捉え、さながら森林の交響楽のような音を実現している。あのフランシスコ・ロペス的なフィールド・レコーディングのハードコアとでもいうべき録音だ。
 環境音とドローンの豊穣かつ深遠な交錯。『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のサウンドにはそのようなミュージック/ノイズの領域が越境していくような感覚が横溢している。その意味では坂本龍一の名作『async』(2017)に近い作品かもしれない。『async』はサウンドトラックではないが、音(ノイズ)と音楽が交錯し、存在しない「映画」の「音響」のようなアルバムであった。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のノイズや環境音もまた同様である。ここでは環境音が音楽の中に融解し、音楽が環境音の中に溶け合っている。アルバム冒頭の1曲目 “Night” では島の自然が奏でる(発する)環境音のシンフォニーのような音響が、まるでオーケストラのアダージョのようにしっとりと鳴り響く。続く2曲目 “The Understorey” でやわらかいワイヤー・ドローンがレイヤーされ、環境音と持続が互いにゆっくりと浸透する。私見ではこの1曲目と2曲目に「間」に起きる変化こそが、『Island of the Hungry Ghosts』特有の「音の霊性」のようなものを象徴する瞬間ではないかと思う。
 3曲目 “Blowholes” では雨や波の音のような音が鳴り、対して4曲目 “The Long Walk” では世界から不意に解離した人の心の中のようなワイヤー・ドローンが鳴る。静謐な持続音がまるでオーケストレーションされるように音量を増していくだろう。このコンポジションはアーロンの作曲家としての力量を示しているように感じられた。音が浮遊するような緊張感に満ちている。
 5曲目 “Trapped Air” では儀式の始まりを告げるような鐘の音を収録している。その背後には透明な音の霧のように鳴っていることにも注意したい。6曲目 “The Hungry Ghost” では微細な鐘と響くような鐘の音が折り重なり、儀式それじたいの音響のように音響空間を支配する。アルバムのクライマックスのひとつともいえよう(アナログ盤ではここでA面が終わる)。
 7曲目 “Fire & Jungle” では文字通り火を燃やす音から始まり、島の森林に鳴る大自然の音(虫の音の大合唱!)へと変化を遂げていく。8曲目 “The Protester” ではその森林の音響が次第に消え、再びやわらかな絹のようなドローンが生成する。
 9曲目 “Ocean & Prayers” では海の音(波)が鳴り、やがて人の声(祈りか朗読のような)へと変化する。そしてアルバム最終曲10曲目 “Sand Return” ではドローンの折り重なりからオーケストラの序曲のような音の積み重ねを聴かせることで、アルバムは終わりを告げる。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』の全10曲を通して聴くと、ノイズとドローンの反復によって、映画の重要なテーマである「セラピー」と「儀式」の問題を音から浮かび上がらせてくれるかのようだ。まるで心身に浸透する「儀式的音響」のようにも聴こえてくるのである。
 映像から音響へ。音響から環境へ。環境から身体へ。そして身体から心理へ。心身に「効く」音の織物がここにある。そう、『Island of the Hungry Ghosts (OST)』は、稀有な音響設計を誇るサウンドトラックであり、繊細にして豊穣な音響空間を誇る見事な音響作品なのである。

Seefeel - ele-king

 1993年に〈Too Pure〉からデビューを果たし、インディ・ロック・バンドでありながらエレクトロニカとの接続に成功した嚆矢、「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとエイフェックス・ツインの溝を埋めるバンド」と謳われた特異なグループ、シーフィールのリイシュー・プロジェクトが始動する。
 混乱しないように整理しておこう。
 
 ●その三。〈Warp〉からの最初の作品となった1994年のEP「Starethrough Ep」とそれにつづく「Fracture / Tied」の2枚の全曲を収録し、2003年に発表されたオウテカのリミックスともう1曲を加えたLP2枚組の『St / Fr / Sp』。
 ●その一。1995年のセカンド・アルバム『Succour』に12曲ものボーナストラック(「Succour+」)を加えたLP3枚組の『Succour (Redux)』。
 ●その二。1996年に〈Rephlex〉から出たサード・アルバム『(Ch-Vox)』にボーナストラック6曲を加えたLP2枚組の『(Ch-Vox) Redux』。
 ●その四。それらアナログ盤3タイトルの全収録曲を網羅し、さらに2019年にデジタルで公開された2曲を追加したCDボックスセットの『Rupt & Flex (1994 - 96)』。

 以上の4タイトルが5月14日に同時発売される。
 正直、ぜんぶ欲しい。財布とネゴシエイト。

Seefeel
完全未発表楽曲を含む22曲ものボーナストラックを収録した超豪華4枚組CDボックスセット『RUPT & FLEX 1994 - 96』を含む再発企画を発表!
5月14日に4タイトル一挙リリース!
名曲 “Spangle” のオウテカ・リミックスが公開!

「ポスト・ロック」の誕生にも大きな影響を与えた電子音響系バンドのパイオニア、シーフィールが、90年代半ばに〈Warp〉と〈Rephlex〉からリリースされた音源を網羅する再発キャンペーンを発表! 長らく入手困難となっていたスタジオ・アルバム『Succour』と『(Ch-Vox)』が、ボーナストラックを収録した拡大盤、EP集『St / Fr / Sp』、そして94年~96年の音源をまとめた4枚組CDボックスセット『Rupt & Flex』が5月14日に一挙リリース! 発表に合わせて、『Rupt & Flex』収録の “Spangle (Autechre Remix)” が公開!

Spangle (Autechre Remix)
https://youtu.be/iyC0kLVDh-M

また、今回の再発のトレーラー映像も公開!

Rupt & Flex 1994 - 96 out 14 May
https://youtu.be/aELqEiic1J4

すべての作品に、これまで未発表のボーナス音源が含まれており、すべての楽曲は、音響系テクノの鬼才 Pole こと Stefan Betke がオリジナルのDATテープからリマスタリングしている。また The Designers Republic による最新アートワーク(『Succour』はアップデート版)、シーフィールのメンバー、マーク・クリフォードとサラ・ピーコックによるライナーノーツが付く。

〈Too Pure〉からのデビュー・アルバム『Quique』によって注目を集めた彼らは、1994年に〈Warp〉と契約。当初は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライド、スロウダイヴを筆頭とするシューゲイザー・サウンドと関連づけて評されていたが、エレクトロニック・サウンドへの傾倒と、サンプラーを駆使するスタイルにより、勢いのあったIDMサウンドとの関連性も語られるようになる。シーフィールの大ファンを公言していたエイフェックス・ツインが、初期のトラック “Time To Find Me” のリミックスを提供し、自身のレーベル〈Rephlex〉とも契約を結んだことで、そのイメージはさらに強まった。

〈Warp〉の設立者、スティーヴ・ベケットは、1stアルバム『Quique』の成功をきっかけに〈Warp〉と契約に至った経緯について、次のように語っている。「シーフィールは〈Warp〉が契約した最初のギター・バンドだった……。彼らは(〈Warp〉という)家族の中では歳が上だったし、純粋なダンス・レーベルであるべき、という(それまでの)不文律を破って非難を浴びたから、我々と契約するのは勇気がいることだったんだ」

シーフィールの最初のEPを聴いたロビン・ガスリーは、マーク・クリフォードをコクトー・ツインズのスタジオに招待し、その後すぐにシーフィールをコクトー・ツインズのツアーに同行させた。マークは、後にコクトー・ツインズのために4曲をリミックスし(EP作品「Otherness」に収録)、彼らの音楽を新たなリスナーに届けるのに貢献している。

1995年3月、〈Warp〉からリリースされた2ndアルバム『Succour』は、1stアルバムのメロディックでギター主導のサウンドから離れ、よりリズミカルで準インダストリアルなテクスチャーを追求したもので、前年にリリースされた2枚のEP作品「Starethrough」と「Fracture / Tied」に続いてリリースされた。1996年に〈Rephlex〉からリリースされた6曲入りのミニ・アルバム『(Ch-Vox)』は、さらに実験的な方向性を示しており、ほとんどの楽曲がマーク・クリフォードが単独で制作したものとなっている。またこの作品は、彼が後に Woodenspoon や Disjecta の名義で〈Warp〉からリリースをするきっかけにもなっている。

バンドは1997年に活動を停止したが、〈Warp〉の設立20周年を祝った Warp20 でのライヴ・パフォーマンス(DJ Scotch Egg と元 Boredoms のドラマー Kazuhisa Iida を加えた新しいラインアップ)をきっかけに、2010年に〈Warp〉からセルフタイトルのアルバムを再びリリースしている。

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: Succour (Redux)
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤3枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11800

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: (Ch-Vox) Redux
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤2枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11802

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: St / Fr / Sp
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤2枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11803

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: Rupt & Flex (1994 - 96)
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤4枚組CDボックスセット商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11804

VIVA x Young Marble Giants - ele-king

 奥沢駅近くの線路沿いにある妖しいお店、〈VIVA Strange Boutique〉、少し前にテレヴィジョン・パーソナリティーズをデザインした服を紹介したばかりですが、今日(4/2)から新たにヤング・マーブル・ジャイアンツのラインが加わりました。
 これがまたマニアックというか、遊び心というか、デザインのネタがYMGのあまり有名ではない7インチ・シングル「Testcard E.P.」のアートワークとか、当時の日本盤『COLOSSAL YOUTH』の歌詞カードとか、80年にスチュアート・モックスハムと当時の恋人ウェンディが共作したジンとか、かなりの変化球で攻めています。今回もメンバー(スチュアート)と連絡を取りながらのバンド認定のデザインで、本人たちも企画にノリノリだったようです。
 また、お店のなかもだいぶ賑やかにいろんなグッズ(缶バッヂ、レコード、古雑誌、などなど)が揃ってきています。見ているだけでも面白いので、70年代末から80年代初頭のポストパンク系がお好きな方は一度は足を運んでみましょう。(いまなら『COLOSSAL YOUTH』のアナログ盤も売っています)


VIVA X Young Marble Giants


“Colossal Youth“ Logo Embroidered Jacket + Badge (税込25,300円)


“Colossal Youth(Japanese Edition)” Long-Sleeve(税込9,900円)


“Testcard E.P” Long-Sleeve(税込9,900円)


“Words and Pictures / Colossal Youth” T-shirt(税込7,480円)


“Words and Pictures / Colossal Youth” Tote Bag(税込3,520円)

Masahiro Takahashi & UNKNOWN ME - ele-king

 サン・アロウポカホーンティッドピーキング・ライツなどのリリースで知られるLAのレーベル〈Not Not Fun〉から、日本人アーティスト2組の新作がリリースされる。
 1組目はカナダ在住の Masahiro Takahashi によるカセット作品。さまざまな音楽や映画などからインスパイアされたアンビエント・ポップが奏でられている。
 もう1組は、やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI、大澤悠太からなるアンビエント・メディテーション・プロジェクト、UNKNOWN ME の初のLPで、食品まつりやジム・オルークも参加している。
 どちらもチェックしておきましょう。

アメリカの〈Not Not Fun Records〉から4月30日に同時発売される、日本人アーティスト2組

◆Masahiro Takahashi / Flowering Tree, Distant Moon

カナダ在住のマルチインストゥルメンタリスト Masahiro Takahashi が、パンデミック中のトロントで1人で制作した作品『Flowering Tree, Distant Moon』を、USの老舗〈Not Not Fun レコード〉からカセットでリリース。

窓から見える花ひらく林檎の木、雅楽、移民のノスタルジア、郷愁、ジョナス・メカス『リトアニアへの旅の追憶』、アンソニー・ムーア、小泉文夫、多和田葉子などからインスパイアされた、静かでみずみずしいアンビエント・ポップ。ソフトウェアシンセサイザー、グラニュラーサンプラー、プラグインエフェクター、iPad、MIDIコントローラーとシュルティ・ボックスにより制作。空想と子守唄の間で、音楽は揺れ、輝く弧を描いて解きはなたれる。枯れた林檎の木が白く開花するまでの時間。「部屋の外の世界を夢想し、記憶の中のメロディーをたどりました」。

Japanese multi-instrumentalist Masahiro Takahashi's latest album is a meditation on seasons and distance, recorded in isolation at his temporary home studio in Toronto. Following “the coldest winter I have ever experienced,” he began crafting hushed, lush vignettes of color wheel electronics with an array of software synthesizers, granular samplers,plug-in FX, MIDI controllers, and a shruti box.

The songs sway, shimmer, and unspool in sparkling arcs, between reverie and lullaby, inspired variously by blooming apple trees, gagaku music, the “nostalgia of immigrants,” and longing for home. Flowering Tree, Distant Moon moves from soothing to surreal, a swirl of quiet melody and imagined landscapes, as transportive for its listeners as its maker: “I dreamt of places outside my room and traced the music from my memories.”

Title: Flowering Tree, Distant Moon
Artist:Masahiro Takahashi
Label: Not Not Fun
Format : Cassette Tape
Catalogue No.: NNF371
Release Date: 2021/4/30

Masahiro Takahashi マサヒロ・タカハシ

マルチインストゥルメンタリスト。ギターや鍵盤、ソフトウェアを使い、音響的なアプローチと、メロディのある音楽をつくる。2021年、アメリカのテープシーンを牽引してきた〈Not Not Fun Records〉からカセットアルバム『Flowering Tree, Distant Moon』をリリース。これまでにベルギーの〈Jj Funhouse〉をはじめ、カナダやドイツ、UK、ロシアなど海外のインディーレーベルにて作品を発表している。2019年には Takao (エムレコード)のライブメンバーとして、ララージの東京公演オープニングをつとめた。カナダ在住。
https://masahirotakahashi.bandcamp.com/


◆UNKNOWN ME / BISHINTAI

やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI の作曲担当3人と、グラフィック・デザインおよび映像担当の大澤悠大によって構成される4人組アンビエント・ユニット「UNKNOWN ME」が、4作目となる待望の1st LP『BISHINTAI』を、米LAの老舗インディー・レーベル〈Not Not Fun〉からリリース。

都市生活者のための環境音楽であり、心と体の未知の美しさを探求する、多彩な曲調のアンビエント・メディテーション。食品まつり、ジム・オルーク、MC.sirafu、中川理沙、がゲスト参加。

The inaugural LP by Tokyo Metropolis electronica entity UNKNOWN ME, Bishintai, is a sublime synthetic suite of cosmic wellness transmissions exploring “the unknown beauty of your mind and body,” appropriately named for a kanji compound meaning “beauty, mind, body.” Crafted with software,synthesizer, steel drum, rhythm boxes, and robotic voice by the core quartet of Yakenohara, P-RUFF, H. Takahashi, and Osawa Yudai, the album unfolds like a holographic guided meditation, soothing but cybernetic,framed by subways and sky malls. Latticework electronics flicker with texture, glitch, wobble, and mirage, themed around sensory perception and body parts.

A diverse cast of collaborators assist in actualizing the collection's uniquely urban expression of new age ambient, from psychedelic footwork riddler foodman to multi-instrumentalist institution Jim O'Rourke to Japanese underground shape-shifters MC.Sirafu and Lisa Nakagawa. Although the group cites a therapeutic muse (“made for the maintenance of the minds of city dwellers”), Bishintai shimmers with an alien strangeness, too, like decentralized relaxation systems obeying sentient circuits. This is music of utopia and nowhere, channeling worlds within worlds, birthed from a sonic ethos as simple as it is sacred: “in pursuit of beautiful tones.”

Title:BISHINTAI
Artist:UNKNOWN ME
Label: Not Not Fun
Format : Record, Digital & Streaming
Catalogue No.: NNF360
Release Date: 2021/4/30

UNKNOWN ME

やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHIの作曲担当3人と、グラフィック・デザインおよび映像担当の大澤悠太によって構成される4人組アンビエント・ユニット。“誰でもない誰かの心象風景を建築する” をコンセプトに、イマジネーションを使って時間や場所を自在に行き来しながら、アンビエント、ニューエイジ、バレアリックといった音楽性で様々な感情や情景を描き出す。2016年7月にデビュー・カセット「SUNDAY VOID」をリリース。2016年11月には、7インチ「AWA EP」を、2017年2月には米LAの老舗インディー・レーベル〈Not Not Fun〉より亜熱帯をテーマにした「subtropics」を、2018年12月には同じく〈Not Not Fun〉より20世紀の宇宙事業をテーマにした「ASTRONAUTS」をリリース。「subtropics」は、英国「FACT Magazine」の注目作に選ばれ、アンビエント・リバイバルのキー・パーソン「ジジ・マシン」の来日公演や、電子音楽×デジタルアートの世界的な祭典「MUTEK」などでライブを行った。2021年4月、都市生活者のための環境音楽であり、心と体の未知の美しさをテーマにした待望の1st LP『BISHINTAI』をリリース。

black midi - ele-king

 いまUKでは若手のインディ・ロック勢が活気づいている。『WIRE』が「近年において最もエキサイティングなギター・バンドのひとつ」と評した〈4AD〉のドライ・クリーニング、『ガーディアン』が「2021年のベスト・アルバム」と讃辞を贈った〈Ninja Tune〉のブラック・カントリー・ニュー・ロード、ワイアーのオープニング・アクトを務めた〈Warp〉のスクイッド、などなど。なかでも頭ひとつ抜き出ている感があるのが、〈Rough Trade〉のブラック・ミディだ。
 2019年の前作の時点ですでに圧倒的なサウンドを轟かせていた彼らが、きたる5月28日、セカンド・アルバム『Cavalcade』をリリースする。ロックダウン中に制作が進められたという新作は、彼らの特徴でもあった「即興の神話から離れ」てつくられたそうで、新たな次元に到達している模様。これは楽しみです。

black midi
無尽蔵の音楽隊列が戦慄の速度で駆け抜ける。
ブラック・ミディ衝撃のセカンド・アルバム完成。

Cavalcadeの制作中に、曲を配列する時に意識 していたのは、 とにかくドラマチックでエキサイティングな音楽を作ることだった。 ──ジョーディ・グリープ(black midi)

プログレ、ポスト・パンク大国であるUKロック・シーンにおいて、 デビュー・アルバム1枚でその最前線へと躍り出たウィンドミルの怪物にして次世代のカリスマ、ブラック・ミ ディが待望のセカンド・アルバム『Cavalcade』を2021年5月28日(金)に世界同時リリースすることを発表した。同作より、まるで『Discipline』期のキング・クリムゾンを彷彿とさせる衝撃の先行シングル「John L」が解禁。ギャスパー・ノエの映画『Climax クライマックス』やリアーナ「Sledgehammer」で有名なコレオグラファー、ニナ・マクリーニーが監督を務めたMVも同時公開された。

Black midi - John L
https://youtu.be/GT0nSp8lUws

「2019年最もエキサイティングなバンド」と評され、世界各国で 年間ベスト・アルバムに軒並みリスティング、マーキュリー・プライズにもノミネートされたデビュー・アルバム『Schlagenheim』リリース後にも次々と曲が生まれ、その年の秋には今回の作品の楽曲の原型がほぼ出来上がっていたという本作。しかし、バンドはここから従来のジャム・セッションで練り上げる作曲方法ではなく、ロックダウン期間中にメンバーそれぞれが自宅で作曲を行い、レコーディングのタイミングで素材を持ち寄ることで即興の神話から離れ、セッションでは上手くいかなかったアイデアの可能性を追求して行った。また既報の通り、オリジナル・メンバーであるギタリスト/ヴォーカリストのマット・ケルヴィンが精神衛生のケアを理由に、一時的にバンドから離れたことでツアー・メンバーであったサックス奏者カイディ・アキンニビとキーボード奏者のセス・エヴァンスをレコーディング・メンバーに加え、さらにバンドの表現を増幅させることに成功。ロックやジャズに留まらず、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、クラシック、アンビエント、プログレ、エクスペリメンタルなど無尽蔵の音楽遺伝子の「隊列=Cavalcade」は戦慄の速度で駆け抜け、既に収めた初期からの高尚な実績を基盤に上昇し伸び続け、美しくも新たな高みに到達している。

2021年5月28日(金)に世界同時発売される本作の日本盤CDおよびTシャツ付限定盤には解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラック「Despair」 「Cruising」を追加収録。日本のみアナログ盤はアルバム・アートワークを手がけたデヴィッド・ラドニックによる特殊帯がついた初回生産限定盤に加え、数量限定のピクチャー・ディスク、 Beatink.com限定でTシャツ付アナログ盤が同時リリース。また、日本盤CD購入者先着特典として メンバーによるミックス音源(CDR)、LP購入者先着特典として世界中のファンによって投票が行われるブラック・ミディによるカバー曲が収録されるソノシートがプレゼントされる。


label: BEAT RECORDS / ROUGH TRADE
artist: black midi
title: Cavalcade
release date: 2021/05/28 FRI ON SALE

CD 国内盤
RT0212CDJP(特典Mix CDR付)
¥2,200+tax

CD 輸入盤
RT0212CD
¥1,850+tax

LP 限定盤
RT0212LPE(Picture Disc/特典ソノシート付)
¥2,850+tax

LP輸入盤
RT0212LP(初回帯付仕様/特典ソノシート付)
¥2,460+tax
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11766

各種Tシャツ・LPセット
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11767


Tシャツ・バンドル


ピクチャー・ヴァイナル


LP購入者先着特典・ソノシート


日本盤CD購入者先着特典・ミックス音源(CDR)

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インディ・ゲーム名作選 - ele-king

まだ見ぬ世界が、ここにある。

史上初! インディ・ゲームの決定版ガイドブック
これだけはプレイしておきたい名作250タイトルを精選

「Untitled Goose Game ~いたずらガチョウがやって来た!~」「Firewatch」「Among Us」「Getting Over It」「Doki Doki Literature Club!」「Undertale」「Hotline Miami」「Minecraft」「Super Meat Boy」「東方Project」……

アクション、シューティング、アドベンチャー、RPG、ストラテジー、パズルなどなど、目移りするほど多くの注目作のなかから、“ハズさない” 250タイトルを紹介

初心者はもちろん、コアなファンにとっても新たな発見のある一大図鑑!!

執筆陣:
田中 “hally” 治久、今井晋、千葉芳樹、徳岡正肇、野村光、古嶋誉幸、洋ナシ、木津毅

表紙イラスト:沖真秀

A5判・176ページ

目次

序文
S1 3D Action 3Dアクション
S2 3D Shooter 3Dシューティング
S3 2D Action 2Dアクション
S4 2D Shooter 2Dシューティング
COLUMN 1 インディゲーム入門:
  あなたはスマホ派? ゲーム機派? それともPC 派? (田中 “hally” 治久)
S5 Adventure アドベンチャー
S6 Adventure (walking simulator) アドベンチャー(ウォーキングシミュレーター)
COLUMN 2 一本のインディゲームが、社会を変えた:
  ポーランドの場合 (徳岡正肇)
S7 Adventure (point and click) アドベンチャー(ポイント&クリック)
S8 Puzzle パズル
S9 Role-playing ロールプレイング
COLUMN 3 インディの自由:
  ゲームにおける性的マイノリティの描写について (木津毅)
COLUMN 4 そもそもインディゲームとは何か?
  その歴史を振り返る(1) (今井晋)
S10 Strategy ストラテジー
S11 Others その他
COLUMN 5 そもそもインディゲームとは何か?
  その歴史を振り返る(2) (今井晋)
索引

[サンプル]

[執筆者紹介]

田中 “hally” 治久
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。作編曲家。主著/監修に『チップチューンのすべて』『ゲーム音楽ディスクガイド』。ゲーム音楽では『ブラスターマスターゼロ』等に参加。レトロ好きなのにノスタルジー嫌いという面倒くさいインディ者。

今井 晋
IGN JAPAN副編集長。2010年頃からゲームジャーナリスト、パブリッシャー、リサーチャーとして活動。世界各国のインディーゲームの取材・インタビュー・イベントの審査員を務める。

千葉 芳樹
IGN JAPAN編集者。もとは個人ブログでインディーゲームのレビューやインタビューを行っており、これがきっかけでメディアに身を置くことになった。そういう意味では「インディーゲームに育てられた」とも言えるのかも。

徳岡 正肇
アトリエサード所属のゲームジャーナリスト・シナリオライター。東欧・中欧・北欧を中心としたヨーロッパのゲーム技術カンファレンス・ゲームショウに招待され、取材や技術講演を行う。モバイル及びインディゲームにシナリオを提供。

野村 光
ゲームレビューに特化した兼業ゲームライター。2014年から商業誌で活動し、2020年時点でレビュー記事を130本執筆する。好きなジャンルは宇宙ストラテジーと格ゲー。オールタイムインベストは『ニュースペースオーダー』。

古嶋 誉幸
一日を変え、一生を変える一本を! ゲーム好きの現場監督から無職のバックパッカーを経てフリーランスライターとなる。さまざまな国を回った結果、花粉症から逃れられる国はなさそうだと悟る。

洋ナシ
フリーライター。IGN JAPAN、Game SparkなどのWebメディアで執筆。ゲームの情報同人誌を発行していたところスカウトされ、ライターとしてのキャリアをスタートした。ひんぱんに自分は女子高生だと主張している。

木津 毅
ライター。1984年生まれ。2011年にele-kingにて活動を始め、以降、音楽、映画、ゲイ/クィア・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎の語り下ろし『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン)。

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お詫びと訂正

interview with Tune-Yards - ele-king

E王
Tune-Yards
sketchy

4AD/ビート
※日本盤には歌詞対訳あり。

Indie RockElectronicPolitical PopSoul

 どうしたらこの社会はよくなるのだろう。こんな身も蓋もない言葉の前には、いつだってシニシズムが現れる。関係ねー、そう思ったほうが楽だろう。だが、好むと好まざるとに関わらず、ステージ上でドラムを叩きながらダンスし歌うことで知られるチューン・ヤーズのメリル・ガーバスは、そんなことを真面目に考えているインディ系のミュージシャンとして知られている。しかもその音楽はこの10年、いろんな国のメディアやリスナーから支持され続けている。チューン・ヤーズのような音楽があること自体、我々にとって幸福なことなのだから。
 チューン・ヤーズの主題は、白人至上主義、人種差別、気候変動、フェミニズム、資本主義の欠陥や都市の再開発などであって、恋愛やドラッグの話ではない。そして彼女の明瞭なオピニオンと思考の痕跡は、たいていの場合リズム主導のダンサブルな音楽とともにある。5枚目のアルバムとなる本作『sketchy』も例外ではない。前作以上に内省的な一面があるとはいえ、それでもパワフルだし、聡明で、知的で、喜ばしくもあり、ときにはアジってもいる。

 さて、メディアや芸能界、あるいはポップ音楽やアニメの世界には、おうおうにして男社会が望むであろう女が描かれている。こうした女性像、お決まりのジェンダーを破壊したのが、パンク〜ポスト・パンクの女性たちだった。ぼくの思春期は、彼女たちに教育されたと言っていいだろう(出来は悪いが、アイドルに熱をあげることもなかった)。チューン・ヤーズのメリル・ガーバスもそうした、世界が押しつける性から解放されている女性のひとりで、この話はじつはBLMにも繫がっている。

 BLMを紐解けば、その発端には奴隷貿易があり、その背後には植民地主義がある。植民地主義とは人種差別だけの問題ではない。子供から大人になる過程の青年期における教育と深く関わっている。ヨーロッパから教育を輸入した日本も同じで、それは、男はこうあるべきで女はこうあるべきだという設定のことでもある。本来ロックとはその設定を破壊する音楽であり、じっさいその役目を果たしてきた。だから過去に戻りたい人がいるいっぽうで、チューン・ヤーズのように内面化された設定を破壊して未来に進みたい人はいまもいる。

 チューン・ヤーズはしかも、軽やかなスリーヴデザインや彼らの明るい写真とは裏腹に、深い。政治をテーマにしつつ、正しいと思っていることの背後に自分を隠さない。例えば白人の特権についての考察など困難なテーマにも、真摯に向き合っている。そのことは以下のインタヴューを読んでもらえればわかるだろう。
 もうひとつ重要なのは、チューン・ヤーズは言うなれば左翼で、一貫して“ポリティカル”ではあるが、その音楽はじつにポップでもあるということだ。もう少しサウンドについて訊けば良かったと思わないわけではないが、やはりこの人たちには、BLMやトランプ、あるいはアリエル・ピンクついて訊かないわけにはいかなかった。そしてチューン・ヤーズを構成するふたり、メリル・ガーバスと彼女のパートナーのネイト・ブレナーは、彼らの葛藤もふくめ、しっかりと質問に答えてくれた。

わたしたちは「自分の近辺にトランプ支持者はいない、彼らからはかけ離れている」、そう思っているわけだけど、じつはトランプは多くの意味で真実を語っているんじゃないかと。
もちろん、ここで言うのは注意書きつきの「真実」だけどね、彼は嘘八百だし。

今日はお時間いただきありがとうございます。

メリル・ガーバス&ネイト・ブレナー:こちらこそ!

さて──(カウチに並んで座っているふたりの膝の上にペットの子犬が割り込んできてじゃれる)お、こんにちは! あなたは誰? 男の子かな、女の子かな?

メリル・ガーバス(以下メリル):(笑)女の子。

めちゃくちゃ可愛いですねー。

メリル:フフフッ!

以前にも増してパワフルな作品で、しかもより強いメッセージがあるアルバムになりましたね。アルバムの最後が叫び声で終わっているのはなぜですか? やりたいことをやった後に自然と出てしまった叫びなのかと受け止めましたが。

メリル:いや、あれはじつはわたしの妹(ルース・ガーバス)の声。彼女は素晴らしいシンガーでね。とにかく彼女のやったことを気に入ったんだ、音程を合わせる云々を気にせずに生(き)のまま、少しリヴァーブをかけた程度の彼女のヴォイスが。すごくクールな響きだと思ったし──あっ、あれにリヴァーブはかけていないっけ。純粋に彼女の声だけだ。で、あれが自分にはとても強烈に響いたし、素晴らしいと思った。あっ!(子犬が急にクッション相手に猛烈にじゃれはじめたのをあきれて眺めつつ)あー、この子、ちょっと興奮気味。クックックックックックッ!

ネイト・ブレナー(以下ネイト):(苦笑)

メリル:(ひとしきり笑いこける)……えーと、うん。とにかくあの声をちょっとフィーチャーしたいと思ったし、これといった意味/概念を持たせるつもりは自分にはなかった。それよりもっと、あの叫びの音響としての要素のほうが重要だったし、ばっちりだと思えた。(ネイトに向かって)彼も使うのがいいと確信させてくれたし。

ネイト:フフフッ!

アルバムの歌詞には直球なアジテーションが多いように思います。それというのも、やはりいまの時代状況という背景があると思います。社会的にも動乱の多い時期ですし。

メリル:うん。

アルバム・タイトルの『sketchy』は時代をスケッチする、そんな時代状況を描くということですよね?

メリル:フム。物事にひとつに限らず違った意味がいろいろある、というのはいいなと思うんだよね。で、「sketchy」という言葉だけど、いまというのはわたしからすれば、しっかり揺るぎないものとは思えないことが多い、不安定な時期であって。だから、物事は鉛筆で輪郭をざっと描いたスケッチ(素描)程度に思えるし、それだけにいまのわたしたちは未来をあまり遠くまで見通すことができずにいる、というのが背景にあるアイディア。
それもあるし、「sketchy」という言葉の使い方には「あんまり信用できない」というのもあって(sketchy=不完全な、不十分な、漠然とした等の意味もあり)。だから、「things are kinda sketchy(なんか胡散臭いなあ)」なんてたまに言うでしょ?

ああ、はい。

メリル:あんまり真剣に捉えるべきじゃないとか、眉唾ななにか、怪しいから疑ってかかれ、という。その意味合いも、このアルバムでわたしたちが取り上げた様々な事柄の多くにとてもぴったりだと思う──付け加えると、あの言葉はわたし自身にも当てはまるんだろうな!(笑)

(笑)へえ、それはなぜ?

メリル:いやだから、聴き手も疑問を抱くべきだろう、みたいな発想から来てる。歌詞はわたしの書いたものだけれども、じゃあそれを書いている主体、このわたしはどんな人間なんだ? と。その面も考慮に入れて欲しいってこと。

covid-19のパニックがはじまって1年が経ちますが、この1年は本当にいろんなことが起きました。BLMもあったし、アメリカではトランプにQアノンなどいろいろ。日本ではこの1年政府の汚職や不祥事が続き、オリンピック問題や女性差別問題もいま持ち上がっています。ほかにも香港やミュンマーの民主化を求めるデモとか、世界の北半球だけでもいろんなことが起きていますよね。全地球で言えば気候変動問題もあります。

メリル&ネイト:(うなずきながら聞いている)

こうした諸問題は、じつはひとつに繫がっているという見方もあるわけですが、いろいろあるなかで、今作がこの激動の時代とどのように絡んでいるのかを教えて下さい。

メリル:そうだな、多くの意味で願っているのは……このアルバムを書いたのはパンデミックが起きる以前のことで。アルバムを仕上げ、ミキシング・エンジニアに音源を送ろうとしていた、まさにその矢先にこっちでパンデミックがはじまった。というわけで楽曲のテーマの多く、たとえば“hold yourself”(※本作のクライマックスであるこの曲の解説は後述されています)などは、わたしにとってあれは間違いなく──もう42歳になりつつある、れっきとした大人である自分が過去を振り返るのはどういうことか、という曲で。
わたしは1979年生まれだけど、ということはあの時点でわたしたちは温室効果ガスの存在を知っていて、それが気象変動に影響する可能性も知っていた。ところが当時の権力側はそれに対してなにもしなかったわけ。それにもちろん、現在のわたしたちが未来のために進んで払うべき犠牲や変化のために下せる様々な決断、それらが起きていない点にも目を向けている。いくつかの歌はよりはっきりとジェントリフィケーション(都市の再開発)について、あるいは心の準備について歌っているし、収録曲の多くが……たとえばいま言った“hold yourself”は明確に「これ」と言う事柄について歌っている曲とはいえ、それでもなお、音楽そのものも含めて、いま現在と繫がっていて意義のあるものであって欲しいな、と。

いろんな問題やトラブルのうちのなにかひとつにフォーカスしたというよりも、あなたに興味のあるいくつかの問題やテーマ、それに対するあなたの反応が組合わさったアルバム?

メリル:(うなずきつつ)うん、それもあるし、たとえ人びとが「この問題」、「あの問題」なんて具合に箇条書きにするとしても──この国(アメリカ)では、「気象変動問題」、「人種差別による不平等」といった具合に、物事を分けて考える傾向があるんだよね。けれども、それらのじつに多くは、完全に相関関係にあって。

ですよね、こんな風に(と、両手の指を絡ませ合うジェスチャー)。

メリル:(笑)そう。

ネイト:(笑顔でうなずく)

メリル:だから気象変動ひとつを取り上げるとしても、と同時にそれは有色人(people of color)や貧しい人びとにそれがもたらすインパクトについて話すということであって。あるいは避難民、暮らしてきた土地から移動させられた人びとについて、気象変動によっていろんな社会にのしかかる重圧について考えることでもある。正直言って、そこまで含めて問題が語られるのを耳にすることはあまりない。だけどこの、「パンデミックが起きている」ということ自体、気象変動ととても密接に関わっているわけで。なのにわたしたちは、どうして我々はこうなってしまったのか、なぜここに行き着いてしまったのか? すら語り合っていないという(苦笑)。もちろん、いずれそれについて語り合わざるを得なくなると思う。でも、言い換えればそれは……好むと好まざるとに関わらず、こうした状況は何年も、というかもう数ディケイドにもわたって準備され、互いに関わり合ってきたものだ、と。で、それはこれからも続くだろう、そう思ってる。

誰だって、臭いものにはフタをして、現状や自分たちのライフスタイルを維持する方が楽ですしね。でも、変化のときなんだと思います。

メリル&ネイト:そう。

1曲目の“nowhere, man”、2曲目の“make it right.”は男性社会への怒りと女性への激励のような展開ですが、いきなりどうしてこのような出だしになったのでしょうか?

メリル:必ずしも、曲のテーマゆえにああいう出だしにしたとは思わないな。わたしたちがアルバムの曲順を決めるときに決め手になるのは、大抵はとにかく……

ネイト:……歌詞の内容よりむしろ、その曲のテンポや曲の持つエネルギーを重視する。

メリル:ある意味、理にかなっているのかも……

ネイト:そうだよ。音楽的に強烈なフィーリングのある曲は歌詞の面でもパンチがあるわけで。だから“nowhere, man”みたいな曲が最初に来る、と。

メリル:なるほど。(ネイトと分析し合うノリになっていたので、取材者に説明する姿勢に切り替えて)さて、うん、あの2曲のどちらにも、たしかにエネルギーが宿ってる。リズム面でのエネルギーがね。だから、たぶんあの2曲をオープニングに持ってきたのは、歌詞の内容云々よりも音楽的な選択だった、わたしたちはそう思ってる。

冒頭から聴き手のアテンションをがっちりつかもうとした?

メリル:そういうこと。

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言い換えれば、内在化した女性蔑視を抱えているのは、なにも男性ばかりとは限らない、ということ。
自分のなかのミソジニーの正体を見極め、それを変えていくのは難しい。

質問者(=野田)もよく妻を怒らせているので偉そうなことを言える立場ではないのですが──

ネイト:ハハハッ!

日本が男女同権に関して後進国なのは知ってますか?

メリル&ネイト:(首を横に振って)いいや。

たとえばつい最近も、オリンピック会長の女性蔑視発言が問題になりました。彼によれば「女性は喋り過ぎる」んだそうで。

メリル:ひぇーっ??(目を丸くする)

ネイト:あいたた!(驚いた表情でメリルと顔を見合わせる)

ほかにも育児休暇もほとんどの企業で認められず夫婦別姓も実現しそうにない等々、いろいろあります。

メリル:なるほど。

日本での女性に対する姿勢等については、あまりご存知ないようですね。

メリル:いいえ、知らない。知らなかったな、それは。っていうか、あなたみたいな人に教えてもらうまで、わたしたちには知りようがないし。ノー、知らなかった。

BLMにおける民衆の蜂起には並々ならぬ思いがあったと思います。というのも、あなたは、2011年の『WHOKILL』の時点で、オークランドの地下鉄で丸腰の黒人が警官に射殺された事件を問題視していましたから(※“Doorstep”でオスカー・グラント射殺事件を取り上げた)。また、今作の“silence”という曲ではGrace Lee Boggsという、ブラック・パワーとフェミニズムにも関与していた女性活動家の言葉も絡んでいるようですね。

メリル:ええ。

まずはあなたがBLMをどう捉えているのかを教えて下さい。ポジティヴな変化が起きている?

メリル:イエス! そう。猛烈にポジティヴなことだし、だからこそ、この国でじつに多くの白人がBLMに反撃し激しい巻き返しも起きているんだと思う。というのも、BLMは本当に、ものすごくパワフルで、義心から起きている運動だから。希望に満ちあふれたムーヴメントだし、真の意味での前進を達成させる方法や実際に物事を前に進めるための知恵を備えた国内のオーガナイザーや活動家たちがたくさん参加している。

なぜGrace Lee Boggsの言葉を歌詞に引用したかについてもお聞かせ下さい。残念ながら彼女のことを当方はあまり知らないので、ぜひ。

メリル:グレイス・リー・ボグスは、中国系アメリカ人の活動家。デトロイト出身、というか生涯の大半をデトロイトで過ごした人だった(※グレイス・リー・ボグス/1915−2015。中国移民二世の社会活動家/哲学者/フェミニストで、C.L.R.ジェームズやラーヤ・ドゥエナフスカヤといった社会主義理論家と活動と共にした後、同じく活動家である夫ジェイムス・ボグスと1953年にデトロイトに転居し社会運動や執筆活動をおこなった)。
 少し前に亡くなったはずで、それで彼女の作品や活動に興味を抱く人がいま増えている。でも、注目されているのは、彼女は人びとに対して相手を強く非難・糾弾する姿勢をとらないように、わたしたちの思考回路や「物事はこう変化すべきだ」という考え方に関してあまり強硬にならないようにと諭したからであって。むしろ、わたしたちが自分自身に向かって「自分がこの世界に求める変化を実現するために、自分はどう変化する必要があるだろう?」と問う行為を彼女は求めた。
 で、それはきっと、その手の「相手をやりこめる」型の非難調の政治をわたしたちは長いこと、これまでの人生ずっと目にしてきたからなんだと思う。この国では民主党と共和党がいがみ合い、二党間で意見がえんえん行ったり来たりするばかりで、実際はなんにも前に進んでいない気がする。
 で、少なくともわたしにとっては、彼女の哲学がとても魅力的なものと映るのは、「自分はどう変わればいいのか」という考え方なら、それはわたし自身の手に負える範疇だし、自分自身の変容であれば自分にもコントロールできるし、変容に自主的に集中できる。そうやって、この決して楽ではない自己改革の過程のなかにあっても、強さ、パワー、クリエイティヴィティを見つけ出していこう、と。
 それもあるし、「信じる」ってことだと思う──これは実際にわたし自身感じていることだけど、信じることがわたしたちみんなを繋げているというのかな──だから、誰もがなにかを信じて常にそれを実践していれば、もしかしてたぶん、世界も実際に変化するんじゃないか? と。そのパワーを、たとえば権力者や政党の手に委ねるのではなくて。

変化はわたしたちのなかにある。対立する意見を持つ人びとを非難するのではなく、わたしたち自身のなかから変化を作り出していこう、と。

メリル:(うなずきながら)それは“nowhere, man”みたいな曲にも当てはまる。たしかにあの曲は、誰かを非難しているように聞こえるかもしれない。でも、と同時にわたしはあの曲で自問してもいる。要するに、「女とはなんであるか」という問いに答えきれない、そんな自分のなかにあるのはなんなんだろう? という疑問(苦笑)。

(苦笑)

メリル:(笑)言い換えれば、内在化した女性蔑視を抱えているのは、なにも男性ばかりとは限らない、ということ。

そこはいまだに自分(=通訳)も葛藤します。れっきとしたフェミニストではありませんが、そんな自分でも「なんでこうなるの?」という疑問に出くわしてきました。ただ、よく考えると、女性である自分のなかにもたしかに女性蔑視は巣食っていて。

メリル:うん。

自分の考え方は生まれ育った文化や社会に形作られたものでもあるし、家族他を見て「これが当たり前だ」と思って育った面もあって、難しいです。

メリル:うん。自分のなかのミソジニーの正体を見極め、それを変えていくのは難しい。それは、わたしも同じ。

誰もがなにかを信じてそれを実践していれば、もしかして世界も変化するんじゃないか? と。
そのパワーを、権力者や政党の手に委ねるのではなくて。

E王
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※日本盤には歌詞対訳あり。

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“silence”という曲、これはパート1は“when we say <we>”の副題があり、パート2は“who is <we>”ですが、歌詞にある主体のweとは、誰のことでしょう?

メリル:あの曲で発したかった疑問は……わたしたちがよく使う「we(我々)」という言葉、そこに込められた意味は何なのかを問いたかった。別の言い方をすれば……自分にもよく分からなくて(苦笑)。だから、自分の速度をゆるめてじっくり考えない限り、「自分が言う<we>は、実際は誰を指しているんだろう?」というのは曖昧で。自分の想像力のなかで、自分の考えている主体とは誰なのか。あるいは、そこに自分が含めていないのは誰だろう、という点に関してね。たとえばこっちでラジオを聞いていたとして──ラジオの提供するニュースに関してわたしたちも満足しているし、報道ももっと先進的で、「少なくとも、自分たちはフォックス・ニュースを聞いてはいないし」と。

ハハハ!

メリル:(苦笑)うん。ところが、それでもやっぱり含みはあるわけで。だから、自分たちの聞いているラジオ局で誰かが「我々(we)」という主語を発すると、いまの自分はつい耳をそばだてて「フム。ここでラジオの言っているこの<we>って、誰を指すのかな?」と考えてしまう。「we」という言葉/主体を使っているけど、それを使っているのはそれにふさわしい人だろうか? ここで彼らの言っていることは誰もを含めたインクルーシヴな意見? それとも仮定としての「we」なんだろうか? と考える。たぶん仮定の「we」のほうが多いと思うし、ということは、その「我々(we)」に含まれない人びととの間にある壁を叩き壊すことにはならない。だから、この曲の疑問を発するのは自分には重要なことに思える。とりわけいまのように、わたしたちが地球の未来を決めつつある段階ではね。誰について、そして誰のために発言しているのか、それを常に自覚する必要がわたしたちにはあるんじゃないか、と。

“hold yourself”の歌詞の根底にあるのは、白人文化の過去に対する批判、もしくはあなたの親の世代による一種の裏切りに対する眼差しですよね? この曲で言いたかったことを説明してもらえますか。

メリル:そうした思いは、間違いなくあの曲に含まれてる(苦笑)。ただ、話しにくいテーマなんだよね、わたしは両親を心から愛しているし、べつに親に「裏切られた」と思ってはいないから。でも……たぶん、自分たち自身も──わたしたちに子供はいないけど、なろうと思えば親になっていてもおかしくない、そういう年代に自分たちも達した。で、おそらく人生のそういう一時期に入ったことで、「親だって子供」という概念を理解できるようになったんじゃないかと。この歳になっても、この世界について知らないことがまだ山ほどあると感じる自分がいるんだし(苦笑)、それを思えば自分の親だってわかっていなくて当然。自分に子供がいたとしたら、子供はわたしを見て「親だから、わかってやっているんだろう」とお手本にするだろうけど、じつはそんなわたしにもまだ理解しきれちゃいない、という。

(苦笑)ですよね。

メリル:フッフッフッフッフッ! というわけで……その意味では正直、少し悲しみも混じる。だから、あの曲で歌っているフィーリングの大半、わたしからすればそれは、悲嘆ってことになる。それくらい、「もう取り返しがつかない、手遅れだ」と感じるものがたくさんあるってことだから。そう感じるくらい、わたしたちはいろんなものを壊滅してきてしまったんだ、という。(苦笑)ぶっちゃけ、そうでしょ。それに、無力感もあると思う。自分たちに子供はいないけど、普段からキッズとたくさん接しているし、子持ちの友人も多い。だから、感覚としてはこう……なにかが起きつつある場面をスローモーションで眺めている感じ。大災害が起こりつつあるのを低速で見ている。

ネイト:うんうん。

メリル:夢のなかで悲劇がゆったり展開していくのをただ眺めている、みたいな。でも、夢だから自分には手の出しようがない、悲劇が起こるのを食い止めることはできない。そういう感覚があの曲にはある。

ほんと悲しいですね、それは。

メリル:うん、ほんとそう。

でも、これまでもそうした無力さを感じて悩んだひとはいたと思います。それに、たとえばBLMを見ていると、若い世代に限っていえば、そうした社会的な意識はそうとう更新されているように思いました。報道を見ていると、若い白人のキッズが多くBLMに参加していて、旧世代よりも団結心がありそうで。そこに希望が持てます。

メリル&ネイト::うん(うなずく)。

去年の10月のアメリカ人ライターのラリー・フィッツモーリスとの取材で、あなたの政治意識が若い頃から芽生えたことや、ブレヒトの人生に関する本を読んでいること、マルクス主義や共産主義について話している記事を読みました。

メリル:うん。

では、音楽の分野において、あなたが政治的に信頼を寄せているミュージシャンに誰がいますか?

メリル:ああ……その質問は楽じゃないな(と考えつつ)。たくさんい過ぎて「このひと」と特定しにくいから。わたしたちの音楽仲間のじつに多くが同じような思いを共有しているし、この世界で正義と平等とが実現するのを求めていて、気象変動問題にも対応している。うん、だから……(苦笑)たぶん、アメリカってこうなんだろうな。要するに、自分の生活する狭い範囲、その範疇ではほとんどの人間が自分と同じように考えている、と。となるとそこで生じる問題は、では、自分と同じ考え方をもたない人びとと会話を交わし、彼らと相互交流するにはどうすればいいのか?ということで。そうは言っても、もちろん、オークランド(※メリルとネイトが暮らす米西海岸の都市)もすごく多様だけどね。たとえば、そのなかでも非常に「進んでいる」とされるエリアですら、やっぱりトランプ支持者はいるし、彼らはいまどう感じているのやら、想像もつかない(苦笑)

(笑)

メリル:(笑)でも、いわゆる「先進的なムーヴメント」のなかですら──それはそうよね、異なるアプローチや視点があるんだし。ただ、そんなわたしたちは白人的過ぎる。大卒の学歴があり、アート系のキャリアを築いている、そういう人が多いし……だから、わたしたち(=高学歴の白人)こそ多くの人びとにとって問題だ、という(苦笑)。

いや、必ずしも問題ばかりだとは思いませんが。

メリル:うん、もちろん。ただ、わたしたち自身、自分たちのいま暮らしているこの地域のジェントリフィケーション(都市の再開発)の一端を担っているわけで。その責任を、わたしたちは問われるべきだと思う。

ロンドンからこのZOOM通話に参加していますが──

メリル:えっ、そうなんだ?!

はい。たとえばわたしの暮らす南ロンドンも、以前は荒っぽいとされていましたが、ジェントリフィケーションが進んで小じゃれたコーヒー店やクラフト・ビールのお店等々が増えて中流階級の住民が流入しています。

メリル:なるほど。

おかげで、治安はよくなったかもしれません。ただ、主に貧しい人びとが住んでいたエリアとそのコミュニティが乗っ取られたという感覚はありますし、そんなことを言っている自分もジェントリフィケーションの一因かもしれませんし。

メリル:日本でも起きている?

日本でもジェントリフィケーションは起きているでしょうね。というか、世界的な現象なんじゃないでしょうか?

メリル:ああ、そうよね。

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チューン・ヤーズをはじめた当時、わたしはアフリカ音楽ばっかり聴いていたのが大きい。
自分が内面化していたのはアフリカ音楽とそのリズムだった。
たとえば“Bizness”は明らかにフェラ・クティとトニー・アレンに多くを負っている。

ちなみに、パンク・ロックからの影響は? あなたたちのバックグラウンドはパンクやインディペンデントなDIYカルチャーにあると思っています。パンクやその周辺のDIYコミュニティは先進的な思想を掲げ、人びとを啓蒙しようとし、社会における不平等とも闘ってきました。あなたたちも強く影響されましたか?

メリル:……たぶん、ネイトはこう答えるんじゃないかな──

ネイト:(苦笑)

メリル:(笑)──パンクから、音楽的にはべつに影響されてない、って。ただ、精神性という意味ではイエス、影響された。パンク・ロックはそれほどがっつり聴いているわけじゃないんだ。ふたりとも、正直そんなに聴かないし……いや、そうは言ってもラモーンズの曲は聴いたことがあるし、ザ・クラッシュの音楽はよく聴く。ただ、それだって自分にとっては、クラッシュを聴くのは彼らがレゲエを取り入れていたからであって。

ネイト:そうだね。

メリル:彼らはそうやって、ほかの音楽伝統の数々を自らの音楽に含めていたし。だから、パンク・ロックおよびそのDIYな精神については、たしかに自分も影響を受けたと思う。そうは言っても、アメリカのパンク・シーンの多くは白人が圧倒的に大多数を占めることが多く、ゆえにそれぞれ問題を抱えていた、そこは承知しているんだけどね。ただ、あの「パワーは自分たちの側にある」というパンクの気風とか、巨大な力を持つ大企業に支配されずにリリースされた唯一の音楽だったこと、そして金銭目当てではなくたってポピュラーな音楽を作ることはできると教えてくれた、そういった意味では、うん、パンクは確実に、わたしの信条システムのなかに大きな位置を占めている。

なるほど。はじめてチューン・ヤーズを聴いたときはザ・スリッツを重ねてしまったので、ポスト・パンクに影響されたのかな? と思ったんです。

メリル:うんうん。わたしの耳を通過してきた音楽はたくさんあるし、きっとそのなかにスリッツも混ざっているんだろうな。それもあるし、単に「美しい」だとか、「天使のような歌声」と形容される以外の女性の声を耳にするのって……それが誰であれ、「女性の声はこういうもの」と普通思われているものとは違う歌い方をする女性シンガー、大声で張りさけぶひとたちは(笑)、わたしにはとても大切な存在。

アフリカのリズムを取り入れるきっかけはなんだったんでしょうか? またどうして自分の音楽にパーカッシヴな律動を取り入れたいと思ったのですか? 

メリル:べつに「そうしよう」と決めてやったことではなくて……いまあれをやろうと思ったら、たぶん二の足を踏むだろうな。それくらい、(アフリカン・リズムを白人が取り入れるのは)問題をたくさん引っ張り出す行為だから(苦笑)。
でも、それよりむしろ──チューン・ヤーズをはじめた当時、わたしはアフリカ音楽ばっかり聴いていたのが大きい。自分が消化し内面化していたのはアフリカ音楽とそのリズムだった。たとえば“Bizness”(『whokill』収録)は明らかにフェラ・クティとトニー・アレンに多くを負っているし、ほかにもいろいろある。ああ、もちろん『Nikki Nack』(2014)も。あのアルバムはとくにそうだな、実際にハイチに行ってハイチ音楽とダンスを習った上で、現地の音楽を学んだことで生まれたレコードだから。でも、意図して取り入れたのではなく、良くも悪くも、わたし自身が心から反応した音楽がアフリカ音楽だった。
それもあるし、アフリカ音楽へのアクセス路もあったから。要は、大学を卒業した頃にインターネットが存在するようになった、と(笑)。子供の頃からアフリカ音楽をいくつか聴いて育った面もあるとはいえ、目覚めたきっかけの多くはやっぱり、インターネットの登場以来もっと多くの音楽に触れることができるようになった、そこだろうな。でも──うん、さらに付け加えれば、わたしたちのどちらも、主にアフリカン・ディアスポラによる音楽を聴きながら育ったわけで。それはニューオーリンズ産の音楽かもしれないし、ジャズかもしれない。マリやナイジェリアの音楽、ジャマイカの音楽等々にハマっていったし……。うん、そういった音楽にわたしはとにかく、常に惹き付けられてきた。本当に、ごく若い頃からね。

それはもしかして、あなたはダンスが好きだからでは?

メリル:ああ、たぶんそう! アッハッハッハッハッ! たしかに、踊るのはずっと好きだから(笑)。

アメリカのことで、今回あなたに訊きたかったことがひとつあります。1月のトランプ騒動(議会乱入事件)の際にアリエル・ピンクもワシントンに出向き、トランプ応援を表明しましたよね。

メリル&ネイト:ああ……(顔をしかめる)。

音楽コミュニティ、とくにインディ音楽シーンの住人はまず反トランプ派だろうと思っていたのであれはかなりショッキングだったんですが、なぜ彼のような人がトランピストになるのか、あなたの意見を聞かせて下さい。

メリル:……(フ〜〜〜ッと大きく息をついて考え込み、ネイトと顔を見合わせる)

ネイト:……ぼくにもさっぱりわからない。不思議に思う、っていうか、同じ質問を自分自身に「なんで?」と尋ねているくらいで。

メリル:(苦笑)

ネイト:(苦笑)

メリル:答えるのは難しいな。ほかの誰かさんの頭のなかがどうなっているかを勝手に憶測したくはないし。ただ、ひとつ思うのは、わたしたちは……フム、これはどう言ったらちゃんと伝わるかな?(と軽く考え込んで)……うん、だから、わたしたちは「自分の近辺にトランプ支持者はいない、彼らからはかけ離れている」、そう思っているわけだけど、じつはトランプは多くの意味で真実を語っているんじゃないかと。彼は形式張らずに言いたい放題で、この、一種の──いや、もちろん、ここで言うのは注意書きつきの「真実」だけどね、彼は嘘八百だし。けれども彼は……

ネイト:……彼はそれこそ、もうひとつのリアリティを作り出してしまったって感じがする。だから、彼の支持者になると、その人間は彼の言う何もかもを鵜吞みにするようになり、メディアの報道は一切信じなくなる。大統領選で彼は破れたわけだけど、そのオルタナティヴなリアリティのなかでは勝ったことになっている、と。深くハマっていけばハマっていくほど、人びとは彼の言葉に心酔しのめり込み、完全に彼を支持するようになる、みたいなことだと思う。彼らの見方だと、実際のリアリティ/現実がちゃんとあるのに、彼らにとってそれはぜんぶ嘘だ、ということになって……(首を横に振りながら)いや、ぼくにもさっぱりわからないんだけどさ!

メリル:(吹き出す)クハハハハハッ!

ネイト:ただまあ、そんな風にいったんワームホールにものすごく深く、深く落ち込んでしまうと、突如として別の場所に抜ける、みたいなことじゃないかと。そこでは真実は何なのか、リアリティは何なのかがもはやわからなくなる。上昇が下降になり、下降しているつもりが上昇していたり、いわばあべこべの世界という。

メリル:(話し出そうとして)ごめん、発言を中断させた?

ネイト:いいよ、気にしないで。

メリル:いや、わたしにもひとつ言わせて。考えるんだけど……というか、つい思ってしまうんだよね……真実やなにかを想像し責任を負うことって、とりわけ白人男性にとっては、難し過ぎてやれないことなのかな? って──(「白人男性」に含まれるネイトに向かって)いや、あなたは除くから安心して。

(笑)

メリル:ただ、白人男性はいまや様々な批判にさらされているわけで。たとえば“nowhere, man”でわたしが取っ組み合っている疑問は、あなたはどんな風に──というか、自分を例にとって言うと、白人としてのこのわたしは、自分の生きるこの社会、そのすべてが自分(=白人)のために築かれたものであるという現実、それをどう受け止めるか? ということで。で、トランプが白人男性に対して──もちろん白人男性以外にもたくさんいるけど、彼がとくに白人男性層に向けて言っているのは「現実は悲惨過ぎる。事態がこんなにひどいなんてあり得ない、嘘に違いない。だからわたしの言うことを信じなさい」みたいなことで。
で、そういうひとたちが考えるのは……自分の環境を支配すること、そこなんだと思う。いまは生きているのがおっかない、本当におそろしい時代だし、だからこそ自分自身の引き起こしてきたいろんな破滅・破壊や苦痛の数々を自覚し脅威を感じるよりも、むしろ自分なりのこの世界の理解・把握にしがみつくことを選ぶ、そういう人びとが一部に出て来るんだろうな。

E王
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最後の質問というかお願いですが、“be not afraid.”に込めたあなたの思いについて話してもらえますか?

メリル:あれは……(ネイトに向かって)音楽的なフィーリングでなにを表現したかったか、覚えてる?

ネイト:(おどけた表情で「思い出せない」という仕草)

メリル:フッフッフッ!……あの曲のヘヴィなドラム・ループが本当に気に入ったんだ。どこかしらこう、地に足の着いた感覚を抱くし、たくさんの人間があのループに合わせて行進できそうな、そんな気がした(笑)。歌詞の面で言えば、あれはわたしからのお願い、でしょうね。あの曲で、わたしは自分をもっと責任を問われるポジションに置いていて、進んで責任を問われたがっている。自分の周囲にいる愛する人たち、彼らに、これまでわたしがどんな風に彼らを傷つけてきたか、それをわたしに教えてもらいたいと思ってる。
それにあの曲の多くには、いままさに大きくなっている子供たちに向けたもの、というフィーリングもあって。彼らに対して「いいよ、はっきり言ってくれて大丈夫。わたしは批判を受け止められるから」と呼びかけている、みたいな。これまで自分が数多くの害と破壊を引き起こしてきたことは自覚しているし、あなたたちの未来をより困難にしているもの、自分がその一端を担ってきたのはわたしも承知しているから、と。
だからあの曲は、そういう決して楽ではないことをやろうという誘いだし、耳に痛い言葉を聞かせてちょうだい、と招いている。どうかあなたの言葉を聞かせて、我慢して内にため込んだりしないで欲しいし、わたしに直球でぶつけてくれていいんだよ、と。

質問は以上です。今日はお時間いただき、どうもありがとうございます!

メリル&ネイト:こちらこそ、ありがとう!

新作をわたしもとても気に入っていますし──

メリル:ありがとう。

──あなたたちが再びツアーできる日が来るのを祈っています。

メリル:同感〜〜〜っ! ほんとそう! ともあれ、起きて取材に付き合ってくれて本当にありがとう。ロンドンでしょ? そっちはいま何時?

えーと、午前1時45分です。

メリル&ネイト:(仰天した表情で口々に叫ぶ)えええぇーっ!? まさか!

(苦笑)

メリル:そうなんだ? なんてこと……(とひたすら申し訳ない表情)

いや、よくあることなんで。あんまり気にしないでください。

メリル:本当に、本当にありがとう。
(子犬がまたもふたりの膝に飛び乗って画面に割り込み、大あくびする)

(笑)遊んでもらいたいみたいですね。じゃあこのへんで。

メリル:(子犬を愛おしげに眺めて笑顔)クックックックッ!

さようなら、お元気で!

メリル&ネイト:ありがとう! おやすみなさーい!

Lightnin' Hopkins - ele-king

 ブルースはいまも若い世代に受け継がれているが、ここ10年では、とくに60年代のブルース・アルバムへの関心が高まっているようだ。アナログ中古市場では、かつてはジャンク扱いだったレコードの値付けがとんでもなく高騰した。キーワードはサイケデリック。レア・グルーヴ発掘の関心増大も背景にあるのだろう。
 たとえば、60年代後半にリリースされた2枚のアルバム、マディ・ウォーターズの『エレクトリック・マッド』とハウリン・ウルフの『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』がある。これらの作品では、のちにマイルス・デイヴィスのグループに参加して日本ライヴ『アガルタ』等で知られるようになるピート・コージーが、そのノイジーなギターでメタメタにブルースをぶち壊しているが、これらは少なくとも30年以上はぼくを含めたブルース・ファンが忌み嫌った作品である。それが近年は若いファンの間で名盤となっているから、なんとも面白いではないか。時代を反映した音楽として、ブルースが苦闘しながらも活きていた、との印象を持つ人もいるかもしれない。
 この2作以外にも、当時のロック・ファンの嗜好に商機を見出そうと、ブルースの大御所たちにとって初体験となる企画が決行されている。有名なところで、B.B.キングが時流の頂点にあったアトランティック・レコード等で活躍するニューヨークの先鋭リズム隊との対決セッションに挑んだ『コンプリートリー・ウェル』、ジョン・リー・フッカーが時のファンキー・ドラマー・ナンバー・ワンとなるバーナード・パーディと対峙した『シンプリー・ザ・トゥルース』なんて、それまでのブルースの常識からすればとんでもない規格外ジャケット・コンセプト、ワリファナの煙とフラワー・ピープル万歳! で登場した。
 巨人ライトニン・ホプキンスも例外ではなかった。いかにもサイケデリックなパッケージ・デザインを打ち出し、そのヴィジュアルの人気も相まって高値が付いている『フリー・フォーム・パターンズ』がある。同州人となるテキサスの人気サイケデリック・ロック・バンド、13thフロア・エレヴェーターズのメンバーがベース&ドラムスで参加した同作は、アートワークも同グループ専属デザイナーによるサイケ図版。アルバム・タイトルからすると実験的なブルースともとれるが、しかし内容は個性全開のライトニンのブルース作品に仕上がった佳作である。時には幻想的な拡がりを見せるド派手かつ深遠なヴォーカルとギターの妙味を13thはちゃんと分かっていたからこそ、「ライトニンの音楽こそがまさにサイケデリックの奥義」とその素晴らしさを未体験の同胞ロック・ファンに聴かせたかったのではないか。いい仕事、だ。
 そう、ライトニンのブルースは伝統の流儀に則りながらも因習に囚われない自由奔放さ丸出しで、それが彼の突き詰めたブルースの魅力となっている。60年近くも昔にこの日本に初めてライトニンの存在を紹介した音楽評論家中村とうようは、不世出の洋画家として著名な岸田劉生が使った「デロリとした美」という形容をライトニンのブルースに当てはめたことがある。グロテスクで怪奇、ではなく、強烈な匂いを発する輝き、だ。ライトニンの音楽には黒人社会の底辺で生まれたブルースを娯楽とする人々が集い生活する場の匂いが充満しているが、と同時に、時代の最先端のビートに乗った、創造性に溢れた音楽表現でもあったのだ。
 ライトニンという名はもちろん芸名で、これは文字通り稲妻の如く鋭く突き刺すギターと天を切り裂くかのようなドスが効いたヴォーカルが張り裂ける様の喩えだ。最初で最後の1978年日本公演ステージでは、芸名ライトニンを実践するかのように、スポットライトをエレキ・ギターのボディに逆反射させて観客に浴びせていた、なんてことも懐かしく思い出す。
 1912年生まれ、82年没。生涯を故郷テキサス州ヒューストンで過ごし、47年にプロ・ミュージシャンとして初録音を行ない、そのキャリアの中では100余枚のシングル盤と編集コンピレーションを加えると優に200種を超すアルバムが作られている。かつてのレコード店のブルース・コーナーには溢れんばかりの品揃えがあったものだが、敢えてライトニンの極まった作品を選ぶとすると、今回Pヴァインがアナログでオリジナル通りに復刻発売する2枚のアルバムにぼくは行き着く。1954年録音のヘラルド・レコードから発表されたシングル盤のベスト選曲集『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と、60年にファイア・レコードによってアルバム録音制作された『モージョ・ハンド』だ。そのLP解説文を任されて、初代Pヴァイン・ブルース制作現場作業担当者として、調子に乗って以下のように書いてしまった。
 まず、『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』。


LIGHTNIN' HOPKINS
Lightnin' And The Blues

Pヴァイン

ライトニン・ホプキンス
ライトニン・アンド・ザ・ブルース
フォーマット:LP
発売日:2021年3月31日(水)
解説/歌詞付
完全限定生産
180g重量盤
逆貼り&コーティング・オリジナル・ジャケット仕様

 さあ、まるで手にするジャケットそのもの、おどろおどろしくも美しい稲妻の閃光だ! まず1曲目、ライトニンのギター・イントロを待つまでの、針を下してから数秒の盤が擦れる音が興奮を高める。ヴィンテージ・ブルースと接する場合の正式儀式だからこその瞬間である。怨念で唸るかのようなヴォーカル、そしてデロデロな汚さが美となるエレキ・ギターの強烈な音色と響きも、アナログで突きつけられてこそ魅力倍増、なんて勝手に盛り上がってくる。何よりもヘラルド・レコード原盤の本アルバムこそが最高水準ライトニンの凝縮であり、それは”Mojo Hand”でも敵わないとぼくは本気で思っている。

 アルバムが発売されたのは、原盤となるシングル盤発売から6年経った1960年のことで、こう書いておく必要もあった。

 しかし当時、この素晴らしきライトニンのアルバムはブルースにピュアな民俗音楽的嗜好を求める白人の評論家たちからは否定的な反応が出て、彼らがここで初めて聞く黒人街でガンガン鳴らされたそのシングル盤作品を、「エレキ・ギターにベースとドラムスまで付く露骨なジュークボックス・サウンド」と称して嫌った批評があったというのも、その後だいぶ時を経てライトニンを知ることになる我々日本のファンからすればなんとも面白い話だ。


LIGHTNIN' HOPKINS
Mojo Hand

Pヴァイン

ライトニン・ホプキンス
モージョ・ハンド
フォーマット:LP
発売日:2021年3月31日(水)
解説/歌詞付
完全限定生産
180g重量盤
逆貼りオリジナル・ジャケット仕様

 もう1枚は『モージョ・ハンド』で、そうした世論に異を唱えた黒人プロデューサー、ボビー・ロビンスンによって制作されたものだ。ロビンスンは、ラップ/ヒップホップの発火点として知られる、79/80年に発表されたグランドマスター・フラッシュ&ザ・フュリアス・ファイヴ、ザ・トリチャラス・スリーらの12インチ・シングルを世に送り出した人物で、生涯を時代のヒット・チャートでの勝負にかけたニューヨーク~ハーレムの敏腕仕掛け人である。
 1960年当時の、これからソウル・ミュージックの時代を迎えようとしていた黒人音楽業界では、ライトニンのブルースはヒット・チャートを狙うサウンドとしては時代遅れの田舎御用達のご当地歌謡とみなされていた。が、若きボブ・ディランをはじめとする白人主導のフォーク・ソング・ブームの中では、「アコースティック・ギターを一人爪弾き歌うライトニン」が大きな支持を集めることになる。
 こうした状況に対するプロデューサーの想いを、ぼくはこう断言して書いてしまった。絶対に間違ってはいない。

 黒人聴衆のスターであった時代からライトニンのシングル作品を聞いてきたロビンスンにとっては、いま売れるレコードを作らないで何の意味があるのか、との考えしかなかった。ベース/ドラムスを従えたいまの時代だからこそのサウンド、ビートに乗ったライトニンを楽しまないでどうする、ということだ。その黒人聴衆が求めるライトニンにこだわったのが本アルバムである。真正ライトニン・サウンド『モージョ・ハンド』だ。ジャケットの拳は、白人社会のライトニン像をぶち壊す頑固で強靭な想い、これぞライトニン! なのだ。

 ライトニン・ホプキンス最重要アルバムの2作である。まだそれほどブルースを聴いていない方には、とくに『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』にあるインスト「ライトニン・スペシャル」からお試しいただきたい。エレキ・ギターの音色からしてサイケデリックで最高、ファンクの気迫に満ちたエレキ・ギターの音色だけでも体験していただきたい。湧き上がるブギのグルーヴで気が躍ること、保証します!

interview with Gilles Peterson (STR4TA) - ele-king

いろんなDJセットを聴いていると、ブリティッシュ・ファンクがたくさん使われていることに気づいて、「ファッション」になりはじめている気がした。だから、その流れにのったレコードを作ろうということになったんだ。

 1970年代後半から1980年代前半にかけ、イギリスから多くのファンクやジャズ・ファンク、フュージョン・バンドが生まれた。シャカタクやレヴェル42を筆頭に、モリシー=ミューレン、セントラル・ライン、ハイ・テンション、ライト・オブ・ザ・ワールド、アトモスフィア、フリーズなどで、彼らの多くは俗にブリット・ファンクやブリット・ジャズ・ファンクと呼ばれていた。当時はポストパンクからニューウェイヴを経て、カルチャー・クラブやデュラン・デュランに代表されるニュー・ロマンティックがムーヴメントとなっていた時期で、イギリス音楽界の世界的進出(第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン)の一角も担っていたのがブリット・ファンクだった。
 ライト・オブ・ザ・ワールドから派生したインコグニートもそうしたアーティストのひとつで、そのリーダーでギタリストがブルーイことジャン・ポール・マウニックである。インコグニートはその後1991年、DJのジャイルス・ピーターソンが主宰する〈トーキン・ラウド〉から再始動し、アシッド・ジャズの人気アーティストへと登りつめた。ブリット・ファンクの時代からアシッド・ジャズ期、そして現在までトップ・ミュージシャンとして走り続けるブルーイだが、久しぶりにジャイルスと手を組んで新たなプロジェクトを立ち上げた。

 STR4TA(ストラータ)というこのバンドは、ブリット・ファンクやアシッド・ジャズの世界で活躍してきた辣腕ミュージシャンたちが参加し、ブルーイの指揮のもとでジャイルス・ピーターソンのアイデアを具現化していくものである。先行シングルの「アスペクツ」が話題を呼び、いよいよアルバム『アスペクツ』で全貌を明らかにするストラータだが、ジャイルスのアイデアとはズバリ、ブリット・ファンクである。
 ブリット・ファンクはかれこれ40年ほど昔の音楽ムーヴメントで、いまとなってはジョーイ・ネグロ(2020年のジョージ・フロイド事件以降はデイヴ・リー名義で活動)のコンピ『バックストリート・ブリット・ファンク』などで耳にする程度しかできないが、過去から現在に至る音楽シーンに与えた影響は多大であり、そうした影響を口にするアーティストも出はじめている。ここ数年、そんなブリット・ファンク・リヴァイヴァルの予兆を感じてきたジャイルスだが、彼にとってブリット・ファンクは若き日に夢中になった音楽でもある。ストラータのアルバム・リリースを控えたジャイルスに、かつての思い出なども振り返りつつ、どのようにストラータは生まれ、そしていまの時代にあってどこを目指していくのかなどを尋ねた。

金よりも最高の音楽を生み出すことを考えているアーティストがブルーイ。だから彼のことは心から尊敬しているし、そんな彼と再び作業ができて本当に光栄だったよ。

ストラータはどのようにしてスタートしたのですか? ブルーイとの会話などから生まれたのでしょうか?

ジャイルス・ピーターソン(以下、GP):レコードを作りはじめたのは大体一年前、そうロック・ダウンがはじまるちょうど前だね。そのとき持っていたアイデアは、40年来の友人、ブルーイと一緒に何か作品を作ることだった。僕たちは一緒にレコードを作ろうとずっと話していたんだが、2~3年前にやっと本格的に話をはじめたんだ。最初は日本でレコードを作ろうという話をしていた。僕らは二人とも頻繁に日本に行くし、日本の1970年代のジャズ・ファンクやフュージョンに影響を受けているからね。だから、その時代の日本のレジェンドたちをフィーチャーしたレコードを日本で作ったら最高だろうな、と話していたんだ。それが数年前に思いついたアイデアだった。で、その話が少し後回しになってしまっていたんだが、ブリティッシュ・ファンクがリヴァイヴァルしてきているなと感じたことをきっかけに、1年前にまたブルーイと話しはじめたんだ。いろんなDJセットを聴いていると、ブリティッシュ・ファンクがたくさん使われていることに気づいて、「ファッション」になりはじめている気がした。だから、その流れにのったレコードを作ろうということになったんだ。でも、僕がちゃんとプロデュースをして、サウンドがクリーンになりすぎることを避けることは絶対だった。DIYっぽいレコードを作りたくてね。結果として、それっぽい作品を作ることができた。レコーディングの期間は短くて、多分2週間くらいだったと思う。そのあとロック・ダウンに入り、ミックス作業をはじめたんだ。ブルーイは彼のスタジオ、僕は自分のスタジオに入って、毎日リモートで作業したんだよ。

あなたが〈トーキン・ラウド〉を興したアシッド・ジャズの頃からブルーイとは長い付き合いですが、実は一緒に仕事をするのは10年以上ぶりとのことです。久しぶりにジョイントしてみていかがでしたか?

GP:ブルーイは僕が出会ったなかでももっともマジカルな存在のひとりだね。イギリスのなかでもっとも音楽的に影響を受けたアーティストのひとりなんだ。黒人のイギリス人ミュージシャンとして先頭を歩き、彼以降の若い黒人のイギリス人たちの世代にメンタル的にも大きな影響を与えてきた。だから、彼はイギリスの音楽の発展において大きな役割を果たしてきたんだ。彼はまたハードワーカーとしても知られていて、彼が演奏してきた全てのグループに全身全霊を捧げて貢献してきた。金よりも最高の音楽を生み出すことを考えているアーティストがブルーイ。だから彼のことは心から尊敬しているし、そんな彼と再び作業ができて本当に光栄だったよ。

ストラータは1970年代後半から1980年代初頭におけるブリット・ファンクにインスパイアされているそうですね。ブルーイのインコグニート及びその前身であるライト・オブ・ザ・ワールドもそうしたブリット・ファンクの代表格だったわけですが、やはりそんなブルーイがあってこそのストラータとうわけでしょうか?

GP:そうだね、そういった音楽を作りたいとはずっと思っていた。僕が実現したいサウンドを彼がプレイできることはわかっていたし、彼と一緒にそれを実現させることは前からずっとやりたいと思っていた。そしてストラータで最初に12インチを出して、レコードへの良いリアクションにふたりとも驚いているんだ。ここまでの良い評価が得られるとは思っていなかったからね。すごく嬉しく思っているよ。

ジョーイ・ネグロ(現デイヴ・リー)は『バックストリート・ブリット・ファンク』というコンピ・シリーズを出していて、まさにブリット・ファンクのDJを聴いて育った世代だと思うのですが、あなたもそんなひとりですよね?

GP:もちろん。僕は当時16~17歳だった。その時期に聴いていた音楽、見にいっていたDJのほとんどがブリット・ファンクのDJたちだったね。バンドとDJの両方が盛り上がっていた時期だったから、僕はラッキーだったと思う。あれが僕にとってリスナーやファンとしての音楽の世界への入り口だったとも言える。ギグを見にいったり、バンドをフォローしたり、プロモ盤をプレイしているDJを追っかけたり、音楽にそこまでハマりはじめたのはその頃。ジョーイ・ネグロは多分僕よりも深くそういった音楽にもっとハマっていたと思う(笑)。今回のアルバムのなかに “アフター・ザ・レイン” というトラックがあるんだが、あのトラックのリエディットを彼がやってくれたんだ。それももうじきリリースされる予定だ。

当時のあなたはDJをする前夜でしたが、こうしたブリット・ファンクで好きだったバンド、影響を受けたアーティストがいたら教えてください。

GP:レヴェル42はつねに観にいってたな。僕は彼らの大ファンだったんだ。レコードにサインをもらうために出待ちまでしていたくらいさ(笑)。それくらいスーパー・ファンだったんだ。18歳になるまでに多分10回はライヴを見たと思う。彼らを見るために南ロンドンを回ってた。3、4年前にBBCでラジオ番組をやっていたんだが、僕の番組の前のショウがリズ・カーショウの番組で、ある日そのゲストがレヴェル 42のマーク・キングだったんだ。それで「僕の長年音信不通だった兄弟がここにいる!」と思って、彼がスタジオを出てくるのを待ってハグしたんだ(笑)。彼は僕のラジオ番組を気に入っていると言ってくれて、あれはすごく嬉しかった。レヴェル42の他はハイ・テンション、ライト・オブ・ザ・ワールド、アトモスフィアが僕のお気に入りのグループだったね。

当時のブリット・ファンクをプレイしていたDJではどんな人から影響を受けましたか? たとえばボブ・ジョーンズ、クリス・ヒル、コリン・カーティスとか。当時のクラブやラジオではどんな感じでブリット・ファンクはプレイされていたのでしょうか?

GP:ラジオからは海賊放送も含めたくさん影響を受けた。ボブ・ジョーンズやクリス・ヒルもそうだし、ラジオ・インヴィクタのスティーヴ・デヴォン、BBCのロビー・ヴィンセント、キャピタル・ラジオのグレッグ・エドワーズも好きだったよ。当時は女性DJはゼロで、見事に全員が男性だった(笑)。その頃ラジオでブリット・ファンクが流れていたのはほとんどが夜だったね。昼間に流れることはあまりなかったな。スペシャリストたちのラジオ番組でだけ流れてた。あとは、パブでもクラブでも流れてたし、僕は16とか17歳だったけど聴きにいっていたよ(笑)。角に座って隠れながら、皆がそれに合わせて踊っているのをずっと見てた。僕は童顔で、一際幼く見えて未成年ということがバレバレだったからね(笑)。ノートを持ってクラブやパブに言って、DJに曲名を聞いたりしていた。当時はシャザムなんてなかったから(笑)。

2014年に発表したブラジリアン・プロジェクトのソンゼイラの『ブラジル・バン・バン・バン』というアルバムでは、フリーズの代表曲 “サザン・フリーズ” をカヴァーしていましたね。フリーズもブリット・ファンクのアーティストのひとつで、“サザン・フリーズ” はほかのコンピやDJミックスでも取り上げたりするなどあなたにとっても重要な曲のひとつかと思いますが、そうしたインスピレイションもストラータに繋がってきているのですか?

GP:もちろん。まず、フリーズは『サザン・フリーズ』というベスト・レコードを作った。あれ僕のお気に入り。あのレコードはパンクっぽい姿勢をもっていて、アートワークもパンクっぽくて、イギリスのDIY感がすごく出ているところが好きなんだ。あとブルーイはあのバンドの初期メンバーのひとりだから、そこでも繋がっている。“サザン・フリーズ” という曲は、あのムーヴメントのなかでも特に重要な作品だと思っているんだ。ソンゼイラのアルバムをブラジルでレコーディングしているとき、あの曲のソフトなサンバ・ヴァージョンみたいなカヴァーを作ったら面白いと思った。それであの作品をカヴァーすることにしたのさ。

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このレコードでのカギは、僕がいかに自分の頭のなかにあるサウンドをブルーイに演奏させるかだった。だから、ニューウェイヴやパンクも関わっていて、僕はそれを全てとりあげた音楽を作りたかったんだ。同時にDJがプレイしたいと思うような音楽を作りたくもあった。

ストラータは具体的にブリット・ファンクのどのような音楽性を参照していて、そうした中からどのような部分で現代性を表現していると言えるでしょうか?

GP:現代性が今風という意味なら、それはほとんどといっていいほどない(笑)。僕はこのプロジェクトをライヴ・プロジェクトにして、短い期間でレコーディングしたかったんだ。スリリングで緊張感をもった作品にしたかった。たとえミスが起こっても、それを全て受け入れたかったんだ。だから、もしベース・プレイヤーの演奏がいけてないパートができたとしても、僕はそれをそのままにした。それは熟練のミュージシャンたちにとっては慣れないことだったけどね。誰でも自分が失敗した箇所なんて使いたくないだろうから(笑)。でも僕はその失敗がむしろ好きなんだ。このレコードのアイデアはミスを受け入れることだった。それが僕の役割だったんだよ。プロデューサーとして、僕はこのレコードを滑らかでクリーンなものにはしたくなかった。派手に着飾るのでなく、できるだけありのままの生の状態で保つことが僕にとっては大切だったんだ。

ブリット・ファンクと言ってもいろいろなタイプのアーティストがいたわけですが、たとえば先行シングル・カットされた “アスペクツ” はアトモスフィアあたりを連想させる曲です。アトモスフィアはニューウェイヴやディスコ、ダブなどとも結びついていたグループですが、ストラータは全体的にそうしたポストパンク~ニューウェイヴ的なベクトルも内包しているのではと感じます。そのあたりの方向性についていかがでしょうか?

GP:そういったジャンルの音楽を参照にはしているよ。とても興味深いムーヴメントだったし、あのムーヴメントにはパンク、ニューウェイヴ、ニュー・ロマンティックス全てが存在していた。このレコードでのカギは、僕がいかに自分の頭のなかにあるサウンドをブルーイに演奏させるかだった。だから、ニューウェイヴやパンクも関わっていて、僕はそれを全てとりあげた音楽を作りたかったんだ。同時にDJがプレイしたいと思うような音楽を作りたくもあった。“アスペクツ” のような曲はもちろんライヴ演奏だけれども、DJたちがミックスしたりクラブでかけられる曲でもある。だからストラータも、ディスコやハウス、ジャズ・ファンクが織り混ざっているんだよ。

いまおっしゃったように、レコーディングについて、あまり洗練され過ぎたサウンドにならないように、できるだけラフにということを心がけたと聞きます。これは1980年代であればシャカタクのようなメジャーなサウンド、そしてある意味で現在のインコグニートのスムースなプロダクションとは真逆のアプローチであり、アトモスフィアやフリーズのようなアンダーグラウンドなバンドが持っていた初期衝動やニューウェイヴ的感覚に近いものではないかと思いますが、いかがでしょう?

GP:そうだね。僕が目指していたサウンドの方向は同じだからね。それがちゃんと実現できたかどうかは実際のところわからない(笑)。うまくはできたと思うけど(笑)。次のレコードも作る予定だから、それまでにはよりよくなるんじゃないかな(笑)。どう進化するか僕自身楽しみだし、ショウでも音は変わっていくと思う。多分最初のショウはロンドンで8月に開催される音楽フェスティヴァルになると思うんだが、そのときまでにバンド・メンバーを集めて、彼らの演奏を僕がステージ上でミックスして少しエフェクトを加える、という形のショウにしたいと思っているんだ。だから、そこでモダンな質感が入ってくることになるかもしれない。アレンジだったり、エフェクトやギミックを入れる程度によって、いろいろ変化が加わることになると思うから。でも基本はライヴ・バンドの演奏。ヴォーカルはもちろんブルーイ。

“ギヴ・イン・トゥ・ワット・イズ・リアル” や “リズム・イン・ユア・マインド” は比較的ストレートなブギー・ファンクで、ライト・オブ・ザ・ワールドやそこから枝分かれしたベガー・アンド・カンパニーあたりのラインのナンバーと言えます。彼らのようなサウンドは現在のブギーやディスコ・リヴァイヴァルにも繋がるところがあるわけですが、いかがでしょうか?

GP:僕にとってはブラン・ニュー・ヘヴィーズも思い起こさせる。つまりはアシッド・ジャズ。ブリット・ファンクとアシッド・ジャズ、ブギーやディスコの間には線があるけど、繋がってもいる。それらの音楽の間にはコンビネイションが見えてくるんだ。あの時代に活躍していたブルーイはそれらを繋げるのが得意で、そこにイギリスの質感を落とし込むんだ。

“ヴィジョン・ナイン” はアルバムのなかでは異色のブラジリアン・フュージョン調のナンバーで、アイアート、エルメート・パスコアル、ルイス・エサなどに通じるところもあります。さきほど話をしたソンゼイラにも繋がりますが、この曲を収録した意図は何ですか?

GP:僕が聴いていたころのブリット・ファンクは、アフリカ音楽の要素やラテン音楽の要素、ブラジル音楽の要素なんかが入っていた。僕にとっては、それがブリット・ファンクだったんだ。そういった要素の音楽を初めて聴いたのは、全てブリット・ファンクを通してだったんだよね。“ヴィジョン・ナイン” にはそのヴァイブがあり、終盤にかけて少しラテンっぽくなっていく。それを表現したもうひとつのトラックが “キンシャサ・FC”。あれはもっとアフリカ音楽っぽくて、マヌ・ディバンゴやそういったアーティストたちの音楽、1970年代のアフロ・ファンクやアフロ・ディスコに影響を受けている。このレコードには、僕が昔ブリット・ファンクのなかで聴いていたアフリカやラテン音楽の要素も取り入れたかったんだ。

セックス・ピストルズ、ゲイリー・ニューマン、ザ・フォール、ジョイ・ディヴィジョンについての記事はそこら中にあるし、彼らがレジェンドたちであることもわかっているけれど、ライト・オブ・ザ・ワールドやインコグニートについて書かれた記事はほとんどない。僕にとってそれは行方不明の歴史なんだ。

“キンシャサ・FC” はコンゴのフットボール・チームを指しているかと思いますが、これは実在のチームですか? どうしてこのタイトルを付けたのでしょうか?

GP:いや、あれは想像のチーム。ははは(笑)。とにかくアフリカっぽいタイトルにしたくて(笑)。サッカー・チームの名前っぽくしたら面白いと思ったし、全く深い意味はないんだよ(笑)。

先に名を挙げたアトモスフィアでいくと、当時のキーボード奏者だったピーター・ハインズがストラータでも演奏しています。彼はほかにもライト・オブ・ザ・ワールドやそこから枝分かれしたインコグニート、ブルーイが一時結成していたザ・ウォリアーズでも演奏していました。ブルーイと非常に近いところにいたミュージシャンですが、今回は彼のアイデアで参加したのですか?

GP:あれは僕のアイデアだったけど、彼の電話番号を持っていたのはブルーイだった(笑)。このプロジェクトには数名のレジェンドに参加してほしいと思ったんだ。レジェンドというのは、僕自身が大好きで何度も曲を聴いていたアーティストたちのこと。ピーターのローズ・ピアノのうまさは知っていたし、彼に参加してもらうことになったんだ。スタジオに来てもらって、アルバムに収録されている2曲をレコーディングした。あともうひとり紹介したいのは、ベースのランディ・ホープ・テイラー。彼も昔コングレスという素晴らしいブリット・ファンク・バンドにいたんだ。そのふたりは僕にとってレジェンドだね。あとは若いミュージシャンたちに参加してもらった。音楽やリズムにはエネルギーも必要だからね。

ピーター・ハインズは最近も〈エクスパンション〉によるザ・ブリット・ファンク・アソシエイションというリヴァイヴァル的なプロジェクトに参加していますが、あちらとストラータを比べた場合、ストラータの方がよりカッティング・エッジで、インスト演奏などジャズ的インプロヴィゼイションにも重きを置いているなと思います。ピーター自身はそうしたプロジェクトの違いなど意識はしているのでしょうか?

GP:それは僕にはわからない。ピーターがスタジオに来たとき、曲はタイトルさえ決まっていなかったし、自分たちも明確なアイデアは持っていなかった。でも、彼は何をすべきかわかっていたんじゃないかな。ザ・ブリット・ファンク・アソシエイションは昔の曲を演奏するプロジェクトだけど、ストラータは全て新しく作られた曲のプロジェクト。だから、新しいフィーリングをもたらすということは意識していたかもしれないね。

ほかのメンバーもマット・クーパー、スキ・オークンフル、フランセスコ・メンドリア、リチャード・ブルなどインコグニートに関わってきた人が集まっています。特にアウトサイドのマット、Kクリエイティヴのスキが集まっているのは、アシッド・ジャズ時代からのファンとしても相当嬉しいのではないかと思います。今回のミュージシャンの人選はどのようにおこないましたか?

GP:とにかく演奏がうまいアーティストたちを集めた。去年、ブルーイを祝福するために僕の家の地下室でインコグニートとセッションをやったんだが、そのためにブルーイがミュージシャンたちを連れて僕の家にきたんだ。そのなかにはマット・クーパーやフランシス・ハイルトンといったミュージシャンたちがいた。彼らのことは僕もよく知っていたし、彼らも僕が何を求めているかをしっかりと理解していた。彼ら、僕の美意識を普段から理解してくれているからね。だから彼らとセッションをしたら心地よくて楽しいに違いないと思って、それが自然とバンドになったんだ。

“アスペクツ” の12インチはモーゼス・ボイドやフランソワ・Kなど様々なDJやアーティストの間でも話題となりました。フランソワはリアル・タイムでブリット・ファンクを体験してプレイしてきたDJですが、そうした人から認められるのはストラータがより本物のブリット・ファンクを表わしていると言えませんか?

GP:そう呼ばれるよう努力はしている(笑)。僕はあの時代、1970年代後半から1980年代前半のまだきちんと取り上げられていないUKのムーヴメントを祝福したいんだ。僕にとってあの時代は多様性に満ちて、当時のUKの全ての世代のミュージシャンたちに勇気を与えたという面ですごく重要だ。ところがメディア、新聞、ラジオはこのムーヴメントに対してすごく否定的だったと思う。セックス・ピストルズ、ゲイリー・ニューマン、ザ・フォール、ジョイ・ディヴィジョンについての記事はそこら中にあるし、彼らがレジェンドたちであることもわかっているけれど、ライト・オブ・ザ・ワールドやインコグニートについて書かれた記事はほとんどない。僕にとってそれは行方不明の歴史なんだ。だからこのプロジェクトを通して、多様性を備えた、素晴らしく重要な音楽が存在していたこと、軽視されていたことを伝えたい。彼らの音楽を祝福するのは、僕にとって非常に大切なことなんだ。

以前サンダーキャットにインタヴューした際に、レヴェル42のマイク・リンダップからの影響を述べていましたし、タイラー・ザ・クリエイターは2020年のブリット・アワードの受賞式で、1980年代のブリティッシュ・ファンクから影響を受けたとスピーチしました。このようにイギリス人ではないアメリカ人、しかもリアル・タイムではブリット・ファンク全盛期を知らないアーティストがこうした発言をしているのをどう思いますか? それを踏まえてストラータがこうしたアルバムを作った意味について教えてください。

GP:最初に言い忘れたけど、このプロジェクトをはじめようと思ったもうひとつの理由は、そしてそれをいまやろうと思った理由は、タイラー・ザ・クリエイターのそのスピーチを見たからなんだ。彼はミュージシャンとしてもっとも影響を受けているのはブリット・ファンクだと言っていた。そのとき、ついにイギリス国外の重要なミュージシャンのひとりがブリット・ファンクの魅力に気づいてくれた! と思って、「レコードを作ろうぜ!」とブルーイに言ったんだ。実はタイラーにもコンタクトをとっていて、次のレコードで歌ってもらいたいと思っている。サンダーキャットは僕の友人だから、彼も参加してくれることを願っている。あともちろん、日本のミュージシャンにもね! 普段だったら年に二度は日本に行くんだけど、いまはこんな状況だからね。前回は京都の伊根という街にいったんだけど、すごくよかった。日本が恋しいよ。早く来日したい。ではまた!

Overmono - ele-king

 2013年の「Hackney Parrot」や「Nancy’s Pantry」で大きなインパクトを残し、近年は〈Whities〉(現在は〈AD 93〉に改名)からもリリースしているテッセラ(Tessela)ことエド・ラッセル。
 その彼と、トラス(Truss)名義で活動するトム・ラッセルから成る兄弟デュオがオーヴァーモノだ。昨秋のEP「Everything You Need」も良かった彼らだが、去る3月24日に最新シングル “Pieces Of 8” がリリースされている。

 どうです、かっこいいでしょう。これまで彼らのライヴで披露されてきたこの曲は、4月9日に発売される12インチ「Pieces Of 8 / Echo Rush」のA面に収録予定。B面も楽しみだ。

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