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Columns

Lightnin' Hopkins

Lightnin' Hopkins

アナログ盤でリイシューされる、ブルースの巨星、ライトニン・ホプキンスの名作

高地明 Mar 29,2021 UP

 ブルースはいまも若い世代に受け継がれているが、ここ10年では、とくに60年代のブルース・アルバムへの関心が高まっているようだ。アナログ中古市場では、かつてはジャンク扱いだったレコードの値付けがとんでもなく高騰した。キーワードはサイケデリック。レア・グルーヴ発掘の関心増大も背景にあるのだろう。
 たとえば、60年代後半にリリースされた2枚のアルバム、マディ・ウォーターズの『エレクトリック・マッド』とハウリン・ウルフの『ザ・ハウリン・ウルフ・アルバム』がある。これらの作品では、のちにマイルス・デイヴィスのグループに参加して日本ライヴ『アガルタ』等で知られるようになるピート・コージーが、そのノイジーなギターでメタメタにブルースをぶち壊しているが、これらは少なくとも30年以上はぼくを含めたブルース・ファンが忌み嫌った作品である。それが近年は若いファンの間で名盤となっているから、なんとも面白いではないか。時代を反映した音楽として、ブルースが苦闘しながらも活きていた、との印象を持つ人もいるかもしれない。
 この2作以外にも、当時のロック・ファンの嗜好に商機を見出そうと、ブルースの大御所たちにとって初体験となる企画が決行されている。有名なところで、B.B.キングが時流の頂点にあったアトランティック・レコード等で活躍するニューヨークの先鋭リズム隊との対決セッションに挑んだ『コンプリートリー・ウェル』、ジョン・リー・フッカーが時のファンキー・ドラマー・ナンバー・ワンとなるバーナード・パーディと対峙した『シンプリー・ザ・トゥルース』なんて、それまでのブルースの常識からすればとんでもない規格外ジャケット・コンセプト、ワリファナの煙とフラワー・ピープル万歳! で登場した。
 巨人ライトニン・ホプキンスも例外ではなかった。いかにもサイケデリックなパッケージ・デザインを打ち出し、そのヴィジュアルの人気も相まって高値が付いている『フリー・フォーム・パターンズ』がある。同州人となるテキサスの人気サイケデリック・ロック・バンド、13thフロア・エレヴェーターズのメンバーがベース&ドラムスで参加した同作は、アートワークも同グループ専属デザイナーによるサイケ図版。アルバム・タイトルからすると実験的なブルースともとれるが、しかし内容は個性全開のライトニンのブルース作品に仕上がった佳作である。時には幻想的な拡がりを見せるド派手かつ深遠なヴォーカルとギターの妙味を13thはちゃんと分かっていたからこそ、「ライトニンの音楽こそがまさにサイケデリックの奥義」とその素晴らしさを未体験の同胞ロック・ファンに聴かせたかったのではないか。いい仕事、だ。
 そう、ライトニンのブルースは伝統の流儀に則りながらも因習に囚われない自由奔放さ丸出しで、それが彼の突き詰めたブルースの魅力となっている。60年近くも昔にこの日本に初めてライトニンの存在を紹介した音楽評論家中村とうようは、不世出の洋画家として著名な岸田劉生が使った「デロリとした美」という形容をライトニンのブルースに当てはめたことがある。グロテスクで怪奇、ではなく、強烈な匂いを発する輝き、だ。ライトニンの音楽には黒人社会の底辺で生まれたブルースを娯楽とする人々が集い生活する場の匂いが充満しているが、と同時に、時代の最先端のビートに乗った、創造性に溢れた音楽表現でもあったのだ。
 ライトニンという名はもちろん芸名で、これは文字通り稲妻の如く鋭く突き刺すギターと天を切り裂くかのようなドスが効いたヴォーカルが張り裂ける様の喩えだ。最初で最後の1978年日本公演ステージでは、芸名ライトニンを実践するかのように、スポットライトをエレキ・ギターのボディに逆反射させて観客に浴びせていた、なんてことも懐かしく思い出す。
 1912年生まれ、82年没。生涯を故郷テキサス州ヒューストンで過ごし、47年にプロ・ミュージシャンとして初録音を行ない、そのキャリアの中では100余枚のシングル盤と編集コンピレーションを加えると優に200種を超すアルバムが作られている。かつてのレコード店のブルース・コーナーには溢れんばかりの品揃えがあったものだが、敢えてライトニンの極まった作品を選ぶとすると、今回Pヴァインがアナログでオリジナル通りに復刻発売する2枚のアルバムにぼくは行き着く。1954年録音のヘラルド・レコードから発表されたシングル盤のベスト選曲集『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』と、60年にファイア・レコードによってアルバム録音制作された『モージョ・ハンド』だ。そのLP解説文を任されて、初代Pヴァイン・ブルース制作現場作業担当者として、調子に乗って以下のように書いてしまった。
 まず、『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』。


LIGHTNIN' HOPKINS
Lightnin' And The Blues

Pヴァイン

ライトニン・ホプキンス
ライトニン・アンド・ザ・ブルース
フォーマット:LP
発売日:2021年3月31日(水)
解説/歌詞付
完全限定生産
180g重量盤
逆貼り&コーティング・オリジナル・ジャケット仕様

 さあ、まるで手にするジャケットそのもの、おどろおどろしくも美しい稲妻の閃光だ! まず1曲目、ライトニンのギター・イントロを待つまでの、針を下してから数秒の盤が擦れる音が興奮を高める。ヴィンテージ・ブルースと接する場合の正式儀式だからこその瞬間である。怨念で唸るかのようなヴォーカル、そしてデロデロな汚さが美となるエレキ・ギターの強烈な音色と響きも、アナログで突きつけられてこそ魅力倍増、なんて勝手に盛り上がってくる。何よりもヘラルド・レコード原盤の本アルバムこそが最高水準ライトニンの凝縮であり、それは”Mojo Hand”でも敵わないとぼくは本気で思っている。

 アルバムが発売されたのは、原盤となるシングル盤発売から6年経った1960年のことで、こう書いておく必要もあった。

 しかし当時、この素晴らしきライトニンのアルバムはブルースにピュアな民俗音楽的嗜好を求める白人の評論家たちからは否定的な反応が出て、彼らがここで初めて聞く黒人街でガンガン鳴らされたそのシングル盤作品を、「エレキ・ギターにベースとドラムスまで付く露骨なジュークボックス・サウンド」と称して嫌った批評があったというのも、その後だいぶ時を経てライトニンを知ることになる我々日本のファンからすればなんとも面白い話だ。


LIGHTNIN' HOPKINS
Mojo Hand

Pヴァイン

ライトニン・ホプキンス
モージョ・ハンド
フォーマット:LP
発売日:2021年3月31日(水)
解説/歌詞付
完全限定生産
180g重量盤
逆貼りオリジナル・ジャケット仕様

 もう1枚は『モージョ・ハンド』で、そうした世論に異を唱えた黒人プロデューサー、ボビー・ロビンスンによって制作されたものだ。ロビンスンは、ラップ/ヒップホップの発火点として知られる、79/80年に発表されたグランドマスター・フラッシュ&ザ・フュリアス・ファイヴ、ザ・トリチャラス・スリーらの12インチ・シングルを世に送り出した人物で、生涯を時代のヒット・チャートでの勝負にかけたニューヨーク~ハーレムの敏腕仕掛け人である。
 1960年当時の、これからソウル・ミュージックの時代を迎えようとしていた黒人音楽業界では、ライトニンのブルースはヒット・チャートを狙うサウンドとしては時代遅れの田舎御用達のご当地歌謡とみなされていた。が、若きボブ・ディランをはじめとする白人主導のフォーク・ソング・ブームの中では、「アコースティック・ギターを一人爪弾き歌うライトニン」が大きな支持を集めることになる。
 こうした状況に対するプロデューサーの想いを、ぼくはこう断言して書いてしまった。絶対に間違ってはいない。

 黒人聴衆のスターであった時代からライトニンのシングル作品を聞いてきたロビンスンにとっては、いま売れるレコードを作らないで何の意味があるのか、との考えしかなかった。ベース/ドラムスを従えたいまの時代だからこそのサウンド、ビートに乗ったライトニンを楽しまないでどうする、ということだ。その黒人聴衆が求めるライトニンにこだわったのが本アルバムである。真正ライトニン・サウンド『モージョ・ハンド』だ。ジャケットの拳は、白人社会のライトニン像をぶち壊す頑固で強靭な想い、これぞライトニン! なのだ。

 ライトニン・ホプキンス最重要アルバムの2作である。まだそれほどブルースを聴いていない方には、とくに『ライトニン・アンド・ザ・ブルース』にあるインスト「ライトニン・スペシャル」からお試しいただきたい。エレキ・ギターの音色からしてサイケデリックで最高、ファンクの気迫に満ちたエレキ・ギターの音色だけでも体験していただきたい。湧き上がるブギのグルーヴで気が躍ること、保証します!

Profile

kochi_akira 高地明/Akira Kochi
元Pヴァイン・レコード・ブルース制作現場責任者。1955年生まれ。もともとPヴァインは過去に遺されたブルース音源の復刻から始まっているが、仕事を続けるうちに「現在形ブルース」制作への興味が大きくなり、十数年前に社を去った後は地味ながらも、よりその関りを深くしている(つもり)。

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