Home > Columns > 共作者Kazuki IsogaiとSuchmosのTAIKINGが語るedbl(エドブラック)の魅力- 談:Kazuki Isogai、TAIKING(Suchmos)
構成・序文:小渕 晃(シティ・ソウル) Oct 31,2022 UP
サウス・ロンドンを拠点とするギタリストであり、現在はビート・メイカー/プロデューサーとしても世界中で高い人気を誇る edbl。デビュー・シングルを発表した2019~2021年の作品をまとめた日本独自の編集盤『サウス・ロンドン・サウンズ』と、続く『ブロックウェル・ミックステープ』でここ日本でもブレイク。今年9月には、SANABAGUN. への加入も大きな話題を呼んだ注目のギタリスト、Kazuki Isogai との共作『The edbl × Kazuki Sessions』を。そして10月には、イギリスの新進シティ・ソウル・バンド、Yakul のヴォーカリストであるジェームズ・バークリーをフィーチャーした『edbl & Friend James Berkeley』をリリースと絶好調、勢いが止まらない。そこで今回、アルバム1枚を通しての初の共作者となった Kazuki Isogai と、彼とは同い歳で、お互いに注目する間柄だという Suchmos のギタリスト、TAIKING のふたりに、edbl の魅力について、そして現在の音楽シーンについて、ギタリストの視点から語ってもらった。
1曲目の “Worldwide” と、最後の “Left To Say”。ギターうめぇと思いながら聴いてました。
(TAIKING)
■edbl がつくるビートの良さ、おもしろさはどういったところですか?
Kazuki Isogai:サウンドがすごくカラッとしているというか。昔のヒップホップはもう少し重みがあった。edbl のサウンドは、まさにサウス・ロンドンっぽい、カラッとしていて、いい意味でボトム(低音域)が少ない感じ。でも、もの足りなさはなくて、その乾いた軽さがが心地いい。
TAIKING:同じ感想ですね。Kazuki くんとやってる『The edbl × Kazuki Sessions』、すごくいいね。特に1曲目の “Worldwide” と、最後の “Left To Say”。ギターうめぇと思いながら聴いてました。このカラッとした感じは、どうやって出してるんだろう? 自分の作品でも狙ってやってみるんだけど、全然カラッとならないんだよね。
Kazuki Isogai:edbl と話してると、ヒップホップとかR&Bがすごく好きで、やっぱりヒップホップがベースになっているビートではあるんだけど。サンプルパック(注:ドラムスやベースなどの音素材集)を使っても、イコライザーのかけ方がウマいんだと思う。僕がつくったトラックを渡して、戻ってくるときには、全部 edbl のサウンドになってるから。
TAIKING:特にカラッとした音、「デッドなサウンド」はアメリカ発の作品にも感じるけど、同じようにつくれない。難しい。
Kazuki Isogai:でもリヴァーブ(残響音を加え空間的な広がり感を出すエフェクト)はかかってるんだよ。けっこうウェットなんだよね。だからやっぱりサンプルの使い方がウマいんだと思う。まあ生音のレコーディングの話をすると、海外は全然違う。スタジオの天井の高さとか。
■edbl がもともとはギタリストであることは、ビート・メイクにどういう影響を与えていると思いますか?
Kazuki Isogai:僕も最近ビートつくるんですけど、「ギタリストが感じるビートの気持ちよさ」っていうものが、共通してあると思っていて。edbl も、頭の中で描いてるビートのイメージがあって、それをそのまま表現してるだけだと思うんです。やっぱり、彼がいるサウス・ロンドンのシーンからの影響が大きいんじゃないかな。
TAIKING:シーンからの影響、それがやっぱり大きいだろうね。
Kazuki Isogai:僕と TAIKING くんも、違うタイプのギタリストだけど、同じようなシーンにいるから、似たような感性になるし。edbl はサウス・ロンドンに住んでて、周りにはトム・ミッシュとかいるわけだから、自然とそのシーンのスタイルが身についてくる。だから僕らがマネしようと思っても、そこにいないから、その場の空気感を知らないから、なかなか難しい。ギタリストって、ロサンゼルスに行ったら、やっぱり少しLAっぽいスタイルになるもんね。
共演するきっかけになった “Nostalgia” って曲があるんですけど。edbl が弾くギターが、ちょっと思いつかないフレーズというか。どうやって弾いてるんだろうって。(Kazuki Isogai)
■いま、名前が出たトム・ミッシュが、いまの時代のギター・ヒーローと思えるのですが。
TAIKING:彼はなんか絶妙ですよね。ビート・メイカーでもあるけど、曲がちゃんと「立って」いる。そこが日本人にも聞きやすいのかなと。普通にメロディが素晴らしくて、やっぱり edbl と少し似てる。メロウなんだけどカラッとしてる。ふたりに共通して思うのは、ドラムの、ビートのサウンドの良さなんだよね。
Kazuki Isogai:そうだよね。ビートが良かったり、ドラムの音がいいと、それだけで曲が成り立つ気がしてて。ドラムの音が良くないと、あちこち音を重ねたくなったりとか、ドラムではじまる曲にできないとかあるから。
■先ほど出た、ギタリストならではのビート感の話ですけど、他の楽器奏者と話が合わないという場面もありますか?
TAIKING:好き嫌いの話だから、しょうがないという感じではあるけど。僕が気持ちいいのは、カッティングだったり、ペンタトニック(・スケール。ギターの基本となる音階)を弾いているときが多いんですけど、カッティングのときに、スネア・ドラムで締めて欲しいというのはある。
Kazuki Isogai:ポケット(気持ちいいリズムのタイミング)にハマるドラムはいいよね。僕は、めちゃくちゃリズムにストイックだった時期があって、PCで音の波形を見ながら、合わせてギターを弾くというのををやってた。1弦なのか、6弦まで当たった瞬間をジャストとするのか、そんなところまで考えながら。ソウライヴのギタリスト、エリック・クラズノーがライヴでユル~く弾いている曲がかっこよくて、それを波形で分析したりもしてね。そうやって研究してきていまは、リズムが「円」であるとしたら、自分も一緒になって回るんじゃなくて、引いたところからその円を見る感じでリズムを捉えてる。そうすると前ノリでも、後ノリでもいけるっていう。
TAIKING:その感じわかる。リズムに入り込んじゃったらダメで。客感的に捉えてないと、ウマく弾けないところがあるよね。
■edbl のビート、リズムの捉え方もおふたりに近いから、彼の音楽を気持ちよく感じるんでしょうね。
Kazuki Isogai:それこそ SANABAGUN. のドラマー、一平に近いかな。彼もヒップホップ・ベースのドラマーなんで、edbl に似ている。やっぱりヒップホップをルーツに持っている人のビートが好きなのかなって。
TAIKING:最近はでも、(ロックの基本となる)8ビートを求められることも増えてきてね。
■近年は16ビートの流行りが続いていますが、8ビートを弾く方がいま、難しくなっているということはありますか?
TAIKING:それは、いちギタリストとしての視点なのか、音楽シーンの一員としての視点なのかによって、話し方が変わるなと思ってるんです。ちなみに僕は最近、8ビート派になってきてて。16ビートからはちょっと離れようかなと。
Kazuki Isogai:8ビートってめちゃくちゃ難しいよね。ロックの人がやる8ビートと、僕のような違う畑の人がやる8ビートは全然違う。
TAIKING:それが最近、畑の違うギタリストが交わるようになってきてて、そこがまたおもしろいなって思ってる。