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Tyler, The Creator

Hip HopR&B

Tyler, The Creator

IGOR

Columbia

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大前至   Jun 06,2019 UP

 前作『Flower Boy』から2年ぶりにリリースされた、タイラー・ザ・クリエイターにとって初となるビルボードの総合アルバムチャート(Billboard 200)1位に輝いたニュー・アルバム『IGOR』。このチャート1位という結果は、彼自身がいまのアメリカの音楽シーンを代表する存在という証(あかし)でもあるが、一方で他のメインストリームのヒップホップとは一線を画するように、彼自身の音楽性はより独自な方向を突き進み、本作によってひとつ頂点を極めている。

 タイラー自身が全曲プロデュースを手がけるトラックは、イントロ曲の“IGOR'S THEME”や、続く先行シングル曲“EARFQUAKE”に象徴されるように、シンセサイザーを多用したメロディアスで重厚なサウンドが軸となっており、さらにラップよりも歌やコーラスにウェートが置かれているのも大きな特徴でもある。タイラー本人以外には曲ごとにフィーチャリングのクレジットは一切ないものの、リル・ウージー・ヴァート、プレイボーイ・カルティ、ソランジュ、サンティゴールド、カニエ・ウェスト、シーロ・グリーン、ファレル・ウィリアムといった錚々たるメンツがラップ、ヴォーカル、コーラスなど様々な形で参加しており、エフェクトを駆使しながら、まるで楽器のひとつかのように彼らの声を自在に操り、見事に自らのサウンドの中へ取り込んでいる。

 恋人との別れや三角関係がアルバムのテーマになっており、ある意味ヘビーな部分もありながら、同時にタイラーならではのユーモアも存分に盛り込まれているのは言うまでもない。全部で40分未満とコンパクトなサイズの中で、しっかりとコンセプトとストーリーが組まれており、それがアルバム全体の完成度を高めている大きな要因にもなっている。

 いまやラッパーが歌うのは当たり前であるし、ヒップホップとR&Bの境目が非常に曖昧な時代でもある。しかし、このアルバムの奥底に存在しているのは、完全にヒップホップだ。それはアルバム前半でやたらと強調されているアナログ盤のプチプチと鳴っているノイズであったり、“WHAT'S GOOD”にて響き渡るストレートなBボーイブレイクにも感じるし、あるいは本作のリリース時に話題となった“GONE, GONE / THANK YOU”の後半部分での山下達郎“Fragile”の引用(サンプリングではなく、山下達郎の歌詞とメロディをアレンジして歌い直している)という手法にもヒップホップ・アーティストならではセンスが伺える。しかし、それらはあくまでも表面的なわかりやすいヒップホップ感でしかない。それ以上に重要なのが、決して音楽としての美しさや格好良さだけを追求しているのではなく、何らかの歪(いびつ)さがサウンドやヴォーカルの中に盛り込まれ、結果的にそれらの要素が作品の魅力を別のベクトルへと導き、ヒップホップとしても完結させているように思う。

 タイラー・ザ・クリエイターというひとりのアーティストだけなく、ヒップホップ・シーンが今後、どのように進んでいくべきかの指針にもなるようなアルバムであり、ぜひ、頭から最後までじっくりと通して聴いてもらいたい作品です。

大前至