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フランス出身、ドイツを活動拠点とするエレクトロニック・アーティストのカンディング・レイ(ダヴィッド・ルテリエ)が、自ら主宰するレーベル〈ara〉から興味深い新作アルバム『ULTRACHROMA』をリリースした。
カンディング・レイといえば、00年代後半から10年代半ばまで、かの電子音響レーベル〈Raster-Noton〉からのリリースしたアルバムを思い出す方も多いだろう。2006年の『Stabil』から2015年の『Cory Arcane』まで、どれもグリッチ/エレクトロニクス以降のエレクトロニクス・ミュージックをを代表する緻密で大胆な電子音響アルバムばかりである。
加えて2017年にルーシーが主宰する〈Stroboscopic Artefacts〉からリリースした『Hyper Opal Mantis』もダークなムードによる硬質な音響空間が、知的なレーベル・カラーと冷たいエレクトロニクスとビートとサウンドが実にマッチした秀作だった。これらレーベルの違いはあれどもカンディング・レイのアルバムのには、どこかニューウェイブ的な翳りと(ジョイ・ディヴィジョンを遠く祖とするような?)、高精度/高音質なエレクトロニック・サウンドが見事に同居しているのだ。
代表作を一枚あげるとすれば、2011年に〈Raster-Noton〉より発表された『Or』だろうか。このアルバムは彼のニューウェイブ的な要素とハイファイな電子音響が見事に融合した傑作であった。
その『Or』からほぼ11年後に、自身のレーベルから送り出されたアルバムが新作『ULTRACHROMA』である。『ULTRACHROMAは、彼の新たな出発を祝うかのような高揚感に満ちたアルバムだ。
〈ara〉からは2019年の『Predawn Qualia EP』、2020年の『61 Mirrors / Music For SKALAR』に次いで3作目のリリースである。カンディング・レイ史上もっともフロア・ライクなダンス・トラックを多く収録したアルバムでもある。自分としては、〈
ara〉から出た音源には〈Raster-Noton〉時代の影を追いかけていたせいか、なかなか判断に迷うところがあったのだが、このアルバムで彼がやりたいことが明確に伝わってきたように思えた。精密な音響彫刻のようなダンス・トラックを目指すということ、ではないか。精密な音響と、ハードでミニマルなサウンドと、微かに暗いムードが見事に交錯しているのだ。
アルバムには全10曲収録されている。細やかにエディットされたビートからバキバキに鳴り響く四つうちのキックまでリズムは多彩だが、どの曲も高揚感を煽るようなシンセサイザーのアルペジオが交錯するサウンドになっている。
アルバムの象徴ともいえる曲は1曲目“Mauve Deepens”か。オリエンタルなムードのシーケンスから、細やかにエディットされたジャングル的ビートへと変化するこの曲は、繊細さと推進力が共存するような見事なサウンドだ。そして自然にハード・ミニマルな2曲目“Supraverde”へと連なり、まるでエレクトロニック・ミュージックの回廊をめぐるようにアルバムは展開していく。
個人的にはミディアム・テンポのなかアンビエント的ムードと性急さの残像を鳴らすような6曲目“Pearls & Lichens”にも惹かれた。このトラックにはアンビエントの先にあるような新しいアンビエント・テクノの残響が微かに鳴っているように思えたのだ。
そんなニュー・アンビエント・テクノ・トラックから、いささか不穏なムードを放つドラムンベース・トラック“Pervinca Lucente”への変化/繋ぎも見事である。そしてリズムの打撃と反復による9曲目“Antiblau”を経た10曲目“Sage Aqua”では透明な光の粒子のようなアンビエンスと細やかなビートを展開する。そしてまるで七色の光に吸い込まれていくようにアルバムは終焉を迎える……。
まさにカンディング・レイの新たな代表作と称したくなるほどの高精度・高密度、高解像度なアルバムだ。なによりアルバム・タイトルが素晴らしい。日本語にすれば「超彩度」か。まさに彼のサウンドそのもののような言葉ではないか!
デンシノオト