ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. DERRICK MAY×KEN ISHII ——デリック・メイが恵比寿リキッドルームに登場
  2. DJが描く日本のヒップホップ、DJ YAS著『ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代——あるDJの証言』刊行のお知らせ
  3. Bullion - Nearly | ブリオン
  4. WWW Xで悪魔の沼ついに沼納め
  5. lilbesh ramko - Ramko Helvetica | リルベッシュ・ラムコ
  6. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  7. Smith & Mighty ——ブリストル・サウンドのオリジネイター、スミス&マイティが久しぶりにアナログ盤をリリース
  8. YOSHIROTTEN ──エレクトロニック・ミュージックと共に宇宙と交信しよう。ヨシロットンの展覧会『彼方との交信 — BEYOND EARTH』が今週末より開催
  9. interview with Wool & The Pants 東京の底から  | 德茂悠(ウール&ザ・パンツ)、インタヴュー
  10. Columns 10月のジャズ Jazz in October 2026
  11. ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代──あるDJの証言
  12. DJ Clent ──ゲットー・ハウス~フットワークの伝説、DJクレントが急遽来日
  13. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  14. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  15. Helen - Linda's Head | ヘレン
  16. Arab Strap - Half-Told Tales | アラブ・ストラップ
  17. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  18. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  19. ゲーセン波乱万丈の100年史
  20. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Ari Up & Vic Ruggiero- Rare Singles and More...

Ari Up & Vic Ruggiero

Ari Up & Vic Ruggiero

Rare Singles and More...

Ska in The World

Amazon

野田 努   May 13,2011 UP

 オド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール(OFWGKTA)は、『ニューヨーク・タイムス』によれば「ヒップホップ文化論争を再燃させるための発火点」だそうで、若干20歳のタイラー・ザ・クリエイターの闇雲な怒りや絶望は、非道徳的な、女性蔑視ないしは同性愛嫌悪の文脈や暴力のファンタジーを誘発しかねないような、『ガーディアン』が言うには「胃にずしりと来るような」、ある意味すれすれの表現として大人たち、とくに良識派と言われる白人インテリ層の歯ぎしりを誘っている。『ガーディアン』のその記事内に記された情報によれば"ヨンカーズ"においてラップされるメンバーのシドとは実際にゲイだという話もあって、だとすれば彼らの表現は2ライヴ・クルーのような単純な構造ではないし、それでもタブーを弄んで大人たちからの憎悪を我が身に招き入れるようなその態度ゆえにオド・フューチャーは"新しいセックス・ピストルズ"と形容されているわけだが(いずれ磯部涼あたりがしっかり書いてくれるでしょう!)、アリ・アップが生きていたら間違いなく彼らを肯定しただろう。彼女はおうおうにしてインテリから批判の対象とされたもの――ラップのうぬぼれた自意識過剰さやジャマイカの保守的な文化(それは僕も同じように批判的にアプローチしたものでもある)――を擁護して、そして彼女に共感するフェミニズムに対しては冷ややかに対応した。それが良いか悪いかという話ではない。僕が見る限り、彼女はとにかくそういう人だった。

 先日、本サイトの「Sound Patrol」で7インチを紹介したように、これはニューヨークのスカ/ロックステディ・バンド、ザ・スラッカーズのメンバー、ビクター・ルジェイロとアリ・アップによる未発表コラボレーション作品集である。全5曲なのでアルバムというにはおよばないが、彼女の声が聴けるだけでも充分に嬉しいリリースだ。もちろんこれはあくまでファン心理であって、この作品を誰かに推薦しようとは思わない。もしアリ・アップがいまも生きていてこの作品を出したら、「何を中途ハンパな作品を出して......」などと文句のひとつでも書いていたかもしれない。それだけ彼女のキャリアを見たらたいしたことのない出来だが、いまは亡き彼女の未発表音源だと知っている身で聴いていると「何て素晴らしいのだろう......」などと思ってしまうのである。誰かにこうした事態をオカルトだと非難されたとしてもうまく言い返せないだろう。
 が、しかし、実を言えば、そうした気持ちになれることを僕は嬉しくもある。国も言語も宗教も主食も何もかもが違う場所に生まれながら、音楽はその伝えたい思いにのみによって人を繋げることがある。よく人から「何をそんなに海外の音楽に思い入れるのだ」と言われるが、僕にしてみればたかが日本人同士というだけで通じ合えるとも思っていないし、海外だから好きだという、そんな単純な理由で音楽を選んでいるわけでもない。このことについて考えると、アリ・アップという人間はアリ・アップ以外にいないという当たり前の現実認識へと結ばれる。そしてセンチなことを言うようだが、30年以上もずっと好きでいられる音楽と出会ったことにあらためて喜びを感じる。15歳のときにアリ・アップを好きになった以上に、彼女について詳しくなったいまのほうがさらに好きになっている。彼女の話を聞くなかで、ほんのわずかだろうが、以前よりも心が広くなったような気になっているからである。

 というわけでザ・スラッカーズのファンの方には本当に申し訳ないが、このCDを買った理由はアリ・アップが歌っているからである。"ベイビー・マザー"に対する"ベイビー・ファダ"は、小さな子供を持ったお父さんに向けて歌っているのだろう。"親"と呼ばれる人たちに向けて「未来のためにしっかりせい」と言っている。日本では子供を産んだ女性ミュージシャンが「子供サイコー!」と興奮したり、スピリチュアルやオーガニックに行くことは多々あっても、あるいはアメリカにはパティ・スミスのような社会派はいても、猥雑さに身をおきながら"親"と呼ばれる人たちに向けてパンクなメッセージを吐ける人はそういない。アリ・アップはそれがなんであれ権威や権力といったものを嫌悪し、ゼロ年代に殺人音楽と罵られたダンスホール・レゲエというスタイルをジョン・レノンのような大きな愛の歌に変換した。これ以上、何か付け足すことはあるのだろうか。

野田 努